
(リオデジャネイロ 2014年3月25日 銃撃戦が日常生活の一部になっているようにも見えるところが怖い・・・ 【6月25日 ロイター】)
【ブラジル経済:四半世紀ぶりの急激なペースで縮小しつつある】
最近はあまり聞かれなくなった感もある“BRICS”(新興5カ国)
G8を追われているロシアは、BRICSによる影響力拡大を狙っているようですが・・・
****BRICS首脳会議が開催、G8外れたロシアが影響力拡大狙い 経済で「新興国」存在感を強調****
ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国(BRICS)首脳会議が9日、ロシア中部ウファで開催された。
5カ国は金融、経済分野での連携強化を盛り込んだ行動計画などを打ち出す。ギリシャの財政危機で欧米主導の金融秩序に揺らぎがみえる中、新興国の存在感を強調する狙いがある。
5カ国は7日、BRICS諸国や途上国のインフラ整備支援などを目的とした「BRICS開発銀行」の第1回総会をモスクワで開催。
あわせて、金融危機の際に資金を融通する基金の発足なども確認しており、行動計画はこれらの枠組みを利用した2020年までの経済協力の実現を目指す内容になる。
BRICSは従来、加盟国の意見交換の場という側面が強かったが、新開発銀行などの機構を整備することで、より組織的な運営を目指す。主要8カ国(G8)から除外されたロシアは、BRICSの機能を拡充し、国際社会での影響力を高めたい思惑がある。(後略)【7月9日 産経】
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「BRICS開発銀行」の完全稼働は2020年とのことのようです。
ただ、制裁に苦しむロシアはもちろん、中国は経済減速が懸念されており、15日発表された4〜6月期の実質国内総生産(GDP、速報値)が7.0%という数字も国際的には信憑性が疑われています。中国株式市場の暴落はなりふり構わぬ国家介入でなんとか下げ止めてはいますが、あらためてその異質性と脆弱さを示してもいます。
インドはあまりにも大きな貧困・社会矛盾を抱えており、南アフリカの影響力はアフリカ南部以外ではまだこれからの感があります。
政治的にも、アメリカとの関係など、統一的な方向性は薄いようにも思われます。
「新興国」の勢い欠けるようなBRICSのなかにあって、南米ブラジルもまた勢いがありません。
日本では2020年の東京五輪がなにかと揉めていますのであまり話題にもなりませんが、来年2016年はリオ五輪です。しかし五輪開催も起爆剤ともなっていないようで、景気後退局面入りが懸念されています。
****ブラジル経済指標が軒並み悪化、5月雇用は過去最大の減少****
ブラジルで19日に発表された一連の経済指標は軒並み悪化した。雇用が月間ベースで最大の落ち込みを記録したほか、経済活動は落ち込み、物価上昇率が跳ね上がった。
国内総生産(GDP)統計ではまだ景気後退局面入りが確認されていないとはいえ、こうした指標はブラジル経済が四半世紀ぶりの急激なペースで縮小しつつあることを浮き彫りにしている。
労働省が発表した5月の雇用者数は差し引き11万5599人の減少で、現行の統計方式が始まった1992年以降で最も大きなマイナスとなった。
4月の経済活動指数は前月比0.84%低下で、市場予想の2倍以上の急激な落ち込み。6月中旬の消費者物価指数の前年比上昇率は8.80%と、政府目標の中心値の4.5%を大きく上回っている。
今年初めから見ると20万人強の雇用が失われ、4月の失業率は4年ぶり高水準の6.4%になった。エコノミストは、雇用減少が今後も続くので、失業率は年後半に8%を超える可能性もあると予想する。
モルガン・スタンレーのエコノミストチームはノートに「明るい材料としては、失業率の急上昇で物価上昇率が悲観論者の想定よりも素早く鈍化する面がある。悪い材料は、失業率の上昇加速が経済成長を阻害し、資産価値の面でさまざまな問題を引き起こす危険性が大きいことだ」と記した。【6月22日 ロイター】
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リオ五輪の方は、中国からの投資に期待する状況とも。
****リオ五輪は中国頼み!?・・・「ブラジルは経済と政治で中国の盟友になる」と独紙報道=中国メディア****
中国メディア・環球網は22日、中国がラテンアメリカとの関係強化に乗り出し、とくにブラジルへの投資を加速させていることからドイツの週刊誌デア・シュピーゲルが21日に「2016年のリオ五輪は中国頼みの運営になる」と報じたことを伝えた。
記事は、これまでの中国からの投資受け入れが同地域のアルゼンチンやエクアドル、ペルーより多くなっているブラジルが、「16年の五輪を控え、さらに多くの投資を見込んでいる」とし、中国から借款や貿易協定といったかたちで530億米ドル(約6兆4400億円)の資金を吸収する計画であることを紹介。先日李克強首相がブラジルを訪問したことで、両国の協力がさらに確固たるものとなったと解説した。(後略)【5月24日 Searchina】
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【深刻な治安状況:一部の紛争地域よりも犠牲者が多い】
経済状況に波があるのは仕方ないことですが、ブラジルで最近話題になるのは治安の悪さです。
****「1日116人死亡」 ブラジル銃犯罪、ユネスコが分析****
ブラジルでは2012年、1日に平均116人が銃によって死亡した――。
銃を使った同国の犯罪状況について、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が、こんな報告書を発表した。分析が終わった1980~2012年の33年間で、計88万386人が命を落としたとしている。
ブラジルでは、警察と麻薬組織の間での銃撃戦が珍しくなく、路上で市民を銃で脅す強盗事件も相次いでいる。一方で、犠牲者数を正確に反映した統計は少なく、13日に発表された報告書は、同国の現状を知る上で貴重な資料となる。
報告書によると、銃による犠牲者は増加傾向にあり、12年が最多となる年間4万2416人だった。1980年の犠牲者は8710人で、12年までに約4・8倍に増加。犠牲者全体の約56%を15~29歳の若者が占めており、貧困層が多い黒人の割合が白人の2・5倍以上に上ることも示された。
また、同国で個人が所有する1500万丁以上の銃のうち、半分以上が未登録の状態にあり、約380万丁を犯罪者が所有していると指摘されている。
報告書は「ブラジルは宗教や人種、領土、政治的対立による紛争がないのに、世界の一部の紛争地域よりも犠牲者が多い」と問題視している。【5月17日 朝日】
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****五輪の地、流れ弾の恐怖 ブラジル・リオ、警察と麻薬組織が銃撃戦****
ブラジル第2の都市リオデジャネイロで、警察と麻薬組織の銃撃戦に巻き込まれ、流れ弾や誤射で市民が死傷する悲劇が後を絶たない。被害は今年だけで数十件に上る。五輪開催を来年に控えた国際観光都市で、何が起きているのか。
■携帯「銃に見え」少年射殺
リオ北部のコンプレクソ・ド・アレマン地区。ファベーラと呼ばれるスラム街のひとつで、丘の斜面に粗末な家が所狭しと立ち並ぶ。エドゥアルド・ジェズス・フェヘイラ君(10)が4月、自宅前で死亡した。
家でテレビを見ていた母親のテレジーニャさん(40)は突然、近くで大きな銃声を聞いた。驚いて外に飛び出すと、玄関の階段の下に息子が大量の血を流して倒れていた。銃弾が頭を貫通し、即死だった。
横に大きな銃を持った7、8人の警官がいた。「あんたたちが撃ったの!」。食ってかかると、警官は銃で威嚇。後で「子どもが持っていた携帯電話が銃に見えた」と弁解した。
報道によると、リオでは今年は1月だけで無関係の市民34人が銃撃戦に巻き込まれ、6人が死亡。4月下旬までに死傷者は50人以上に上った。
■スラム街「命を軽視」
背景には、リオが複数の麻薬組織の地盤になっている現実がある。こうした組織は、周辺諸国から得たコカインや大麻を密売したり、欧州に密輸したりして、1970年代からスラム街で勢力を拡大。警察と衝突し、ライバル組織間の抗争も繰り返してきた。
それでも、警察はなぜ、住民を巻き込むのか。
コンプレクソ・ド・アレマン地区で暮らしてきたクレベル・アラウジョ・サントスさん(39)は「子どもが外で遊んでいても、警察は突然、銃を撃ち始める。貧乏人の命なんて何とも思っていない」と憤る。
地元紙グロボの調査では、ブラジルでは12年までの10年間で、14歳以下の少年82人が警官に殺され、うちリオが50人を占めた。
人権団体アムネスティ・インターナショナルのアチラ・ホキ氏は「犠牲者の多くは貧しい黒人や混血の人たち。警官がファベーラで簡単に発砲する背景には、人種差別と貧しい人の人命軽視がある。中間層以上の多くは無関心で現状を追認している」と問題視する。
被害は1千カ所もあるというスラム街が中心だが、多くは丘の斜面にあり、弾丸が落ちてくることもある。市街地で銃撃戦が起こる例もないわけではない。(中略)
■08~13年に62人死亡
リオ州政府は08年、14年のサッカーワールドカップ(W杯)や16年の五輪を前に麻薬組織の撲滅作戦に着手。警察がスラム街を制圧し、約40カ所に治安維持部隊を配置した。だが、最近は麻薬組織の抵抗が再燃し銃撃戦が頻発している。
リオ州の統計によると、08~13年の6年間で流れ弾による被害は891人に上り、そのうち62人が亡くなった。当初、死傷者数は減少傾向にあったが、12年からは増加に転じた。
麻薬組織は、外国製の最新鋭の機関銃などを持つという。スラム街での暴力に反対するNGO「リオデパス」のアントニオ・カルロス・コスタ氏は「銃撃戦が増え、日常の一部になっている。住民に被害が出ない方が不思議だ」と話す。
五輪を控えて心配はないのか。リオデジャネイロ州立大学のイグナシオ・カノ氏(社会学)は「大きなイベントの期間中は、警察は銃撃戦を控える傾向にあり、市内も警備が強化される。W杯では大きな被害がなかった」と指摘する。
だが、住民の不安は消えそうにない。ブラジルでは市民の銃所持が認められるが、個人が持つ1500万丁以上の銃のうち、半数以上が未登録という。カノ氏は「武力を重視する警察の手法に問題がある。話し合いや銃の規制に力を入れるべきだ」と強調する。【6月17日 朝日】
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****若者殺害、1日28人超=ユニセフ発表、黒人の犠牲突出―ブラジル****
国連児童基金(ユニセフ)は13日、ブラジルで2013年の1年間に殺害された19歳までの若者が約1万500人に上り、約5000人だった1990年の2倍超に増えたと発表した。「1日平均28人超の若者が殺害されている」として、対策強化を訴えている。
ユニセフは、ブラジルでは殺人被害者の4.8%を19歳までの若者が占め、「ナイジェリアに次いで世界で2番目に高い」と指摘。貧困層の割合が高い黒人が被害者となるケースが突出して多く、白人の4倍に上るという。【7月14日 時事】
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「大きなイベントの期間中は、警察は銃撃戦を控える傾向にあり・・・」・・・・そういう問題ではないでしょう。
リオデジャネイロでは初めてJICA=国際協力機構の支援を受けて、日本の交番制度を導入することを決めましたそうですが・・・・。
【蔓延する汚職構造】
政治情勢も波乱含みです。
国営石油会社ペトロブラス(ブラジル石油公社)を舞台とした汚職事件とルセフ大統領の関与については、3月5日ブログ“ブラジル 政権を揺るがす国営石油会社を巡る汚職事件 社会に蔓延する「犯罪者」リンチ”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150305)でも取り上げました。
****野党の辞任要求に屈せず、ブラジル大統領が地元紙に****
ブラジルのルセフ大統領は7日付の地元紙フォリャ・デ・サンパウロとのインタビューで、任期中は財政赤字の削減努力を続けると述べ、野党の辞任要求に屈しない姿勢を強調した。
この中でルセフ氏は「私は決して退陣しない。(辞任要求に屈するのは)あまりに意気地がない。これは政治闘争だ」と語った。
一部野党が大統領に対する弾劾手続きを進めていることについては、「大統領を失職させるには理由を説明しなければならない。(辞職の)根拠は全くない」と強調した。
大統領はまた、財政健全化の新たな措置を検討していると指摘したが、詳細への言及は避けた。【7月8日 ロイター】
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「これは政治闘争だ」・・・もとゲリラ闘士のルセフ大統領ですから“闘争”には強いでしょうが・・・。
ルセフ大統領の後ろ盾となっているルラ前大統領にも汚職疑惑が起きています。
****ブラジルのルラ前大統領、汚職で捜査****
南米ブラジル検察当局は16日、ルラ前大統領が建設大手オデブレヒトの経費で海外に渡航し、同社の受注に有利な取り計らいをした疑いがあるとして、捜査を始めたことを明らかにした。AP通信やブラジル主要メディアが報じた。ルラ氏側は疑惑を全面否定している。
ルラ氏は後継のルセフ大統領の再選にも貢献し、いまだに政界に多大な影響力を持つだけに、捜査の進展次第では、ルセフ政権に大きな打撃を与える可能性がある。
五輪を来年にひかえたルセフ氏にとって、国営石油会社、ペトロブラス汚職事件に続き、さらなるダメージとなるのは必至の情勢だ。
報道によれば検察関係者は、ルラ氏がパナマやベネズエラなどでの建設事業でオデブレヒトが受注できるよう、各国の首脳に働きかけた疑いがもたれていると指摘。渡航滞在費を負担される見返りにロビー活動を展開した疑惑を調べるとしている。
オデブレヒトの前社長は6月、ペトロブラス汚職事件に絡み談合などの疑いで逮捕されており、五輪を前にルセフ大統領や出身母体の労働党に対する批判が増大するとみられる。【7月18日 産経】
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治安の悪さも、こうした政界の汚職構造と共通の土壌から生じているように思われます。
「新興国」のリーダーとしては、あまりに暗い現実です。