
(次期大統領関連で名前があがっている、シュエ・マンUSDP党首(下院議長)とミン・アウン・ライン国軍最高司令官 【7月16日 NHK】)
【「地滑り的勝利」で、総選挙後の主導権を握ることを目指すスー・チー氏】
ミャンマーでは11月8日に総選挙が実施されます。
総選挙に先立ち、議会の軍人枠の縮小や、大統領資格に関する憲法改正が審議され、最大野党、国民民主連盟(NLD)を率いる党首アウン・サン・スー・チー氏は総選挙不参加もちらつかせて改憲を訴えてきました。
結局、予想されたように憲法改正は認められず、仮に総選挙で大勝してもスー・チー氏の大統領就任は不可能となりました。
****スーチー氏、次期大統領になれず 改憲案否決され確定 ミャンマー****
ミャンマー国会は25日、与党が今月提出した憲法改正案のうち、「外国人の家族がいる人物は正副大統領になれない」とする条項の改正案を否決した。野党党首アウンサンスーチー氏が次の大統領になれないことが確定した。
スーチー氏は英国人の夫(故人)と結婚し、2人の息子も英国籍だ。2008年に軍事政権が制定した現憲法には配偶者や子などに外国人がいる人物の正副大統領就任を阻む規定がある。
スーチー氏を狙ったとみられ、与党の改正案でもほぼそのまま残っていた。同氏が率いる野党・国民民主連盟(NLD)は修正を求めていた。
NLDは11月ごろに予定される総選挙で優勢とみられているが、仮に勝利しても国会で選ぶ大統領にスーチー氏を推すことができなくなった。誰を大統領候補とするかが今後の焦点になる。
スーチー氏は総選挙不参加もちらつかせて改憲を訴えてきたが、採決後の記者会見では、「改憲ができなかっただけで総選挙不参加とはならない」とした。大統領候補については「適切な時期に示したい」と述べた。
また、憲法改正に国会で75%超の賛成が必要とする手続きを「70%以上」に緩和する案も否決された。
ミャンマー国会は軍人議員が全議員の25%を占めており、「75%超」という条件は、憲法改正に事実上、軍の同意を必要としている。
国軍は実質的な改憲に反対しており、軍人議員らが反対票を投じたとみられる。【6月26日 朝日】
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スー・チー氏は総選挙参加について「近く正式に決める必要がある」(6月20日)としてきましたが、今月11日、総選挙参加を表明しています。
****スー・チー氏率いるNLD、総選挙参加を表明 11月実施 「地滑り的勝利」で政権交代も****
ミャンマーの最大野党、国民民主連盟(NLD)を率いる党首、アウン・サン・スー・チー氏は11日、首都ネピドーで会見し、任期満了に伴い11月8日に実施される総選挙へNLDが参加することを表明した。
スー・チー氏の人気を背景にNLDの躍進が予想されており、軍系の与党、連邦団結発展党(USDP)から政権が交代する可能性がある。
NLDは、スー・チー氏の大統領就任を禁じた憲法の改正要求が認められないことなどから、軍事政権下の2010年に行われた前回の総選挙に続き、ボイコットも辞さない構えを見せてきた。
だが、11年の民政移管後初となる今回の総選挙は「民主化の試金石」として内外から期待が高い。また、スー・チー氏が下院議員に当選した12年の補選で大勝したNLDは、今回の総選挙でも大躍進が予想され、スー・チー氏は党員に「地滑り的勝利」を指示し、各選挙区での候補者調整も進めてきた。
選挙日程など詳細が決まったことで、正式に参加表明し、本格的な選挙戦に入る。
総選挙を受けた新大統領は、当選議員による間接選挙で来年1月にも選ばれるが、NLDが圧勝したとしても、英国籍の子供がいるスー・チー氏は大統領に就任できない。
NLDは総選挙での勝ちぶりを見極めながら、少数民族政党との連立や、大統領候補者の調整を進めるとみられる。【7月11日 産経】
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なお、ミャンマーの大統領選出方法については、以下のとおり。
****ミャンマーの大統領選出方法****
国会は国軍最高司令官が指名する軍人議員が4分の1、選挙による民選議員が4分の3を占める。
総選挙後、大統領候補として両院の軍人議員が合同で1人、上院と下院で民選議員が各1人ずつの計3人を選ぶ。候補は議員でなくてもよい。
3人の中から全議員の投票で選出する。落選の2人が副大統領になる。
国民民主連盟が総選挙で民選議員の3分の2以上を獲得すれば、単独で大統領職を得ることが可能だ。【7月13日 毎日】
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スー・チー氏自身は大統領には就任できないにしても、総選挙で圧勝すれば、自陣営から大統領を出すことや、自身の議会議長あるいは重要閣僚就任などで、今後の政治をリードできる余地が広がりますので、当然の判断でしょう。
現在、議会では軍政系の与党・連邦団結発展党(USDP)が大きな議席を保有していますが、軍事政権からの民政移管の際に行われた2010年の総選挙をスー・チー氏が自宅軟禁下にあったことなどから野党NLDがボイコットしたことで、与党USDPが大勝したことによるものです。
自由な選挙が行われれば、国民的人気が高いスー・チー氏が率いるNLDが優勢とみられています。
上記記事にもあるように、2012年の補選では圧勝しています。
スー・チー氏は、自由な選挙実現を目指して、有権者リストに不正がないかを確認するよう国民に訴える活動を始めています。
【テイン・セイン大統領の“不出馬誤報”は、大統領の政治的暗殺を意図したもの・・・】
一方の与党側は、テイン・セイン大統領とトゥラ・シュエ・マン党首(下院議長)の確執・内部対立が報じられています。
****<ミャンマー>与党亀裂 NLD総選挙参加、主導権争い対立****
ミャンマーは、アウンサンスーチー議長(70)率いる最大野党「国民民主連盟(NLD)」が11月の総選挙に参加すると表明したことで、選挙モードに突入した。
2011年の民政移管後初の総選挙は民主化改革の行方を占う試金石となる。与党「連邦団結発展党(USDP)」に対しNLDが優勢とみられるなか、政権・与党内は総選挙後の大統領選も視野に主導権争いで亀裂も生じている。少数民族政党の躍進も予測され、波乱含みの展開になりそうだ。
2院制のミャンマー国会(上院224、下院440の計664議席)は、国軍最高司令官が指名する軍人議員が166議席を占め、総選挙では残りの498議席を争う。
NLDは軍政期の前回10年総選挙をボイコット。民政後の12年補欠選挙ではスーチー氏も出馬して圧勝したが、45議席にとどまる。ただ、今回総選挙は過半数を確実視される情勢だ。
一方、USDPは軍人議員団の支持なしに独自に大統領を擁立できる安定多数の336議席を保有する。ただ、NLDのボイコットで得た大量議席だ。軍人の受け皿政党だったイメージが根強く、今回は議席の大幅減は否めない。
さらに、USDPは2大派閥に分かれているとみられる。党議長のテインセイン大統領(70)派と代行のシュエマン下院議長(68)派だ。
大統領は憲法上、党務に携われないので、党議長職は名ばかり。大統領再選への態度を明確にしていないテインセイン氏に対し、党の実権を握り大統領への野心を隠さないシュエマン氏は、選挙戦を取り仕切る委員長ポストを兼務。大統領派の中心人物である2人の大統領府相の党公認要請をはねつけたとうわさされている。
民政移管に際し当時の最高指導者タンシュエ氏は軍政序列3位のシュエマン氏ではなく4位のテインセイン氏を大統領に「指名」した。
タンシュエ氏の信頼が厚いミンアウンフライン国軍最高司令官(59)とテインセイン大統領は連携しており、タンシュエ氏の影響力が残っていれば、シュエマン氏の立場は厳しいかもしれない。
政界事情に詳しいジャーナリストのシードアウンミン氏は「ただ、党の執行部はシュエマン氏が握っており、万が一、党が分裂した場合、テインセイン派が飛び出す可能性がある」と指摘する。
一方、スーチー氏は政界入り以降、憲法改正問題などを巡りテインセイン大統領と次第に溝を深め、シュエマン氏と関係を強めてきた。
NLDが選挙に勝った場合、親族が外国籍で大統領資格を欠くスーチー氏に代わり、シュエマン氏を大統領候補に担ぎ、スーチー氏は下院議長や外相に座るのでは、との観測も流れている。
だがシュエマン派は自身をはじめ側近にも軍政期に財を成した人物が少なくない。NLDの立候補者選定に際し、資産申告を義務付け「汚職撲滅」を目指すスーチー氏の理念とは相いれない。
また、ミンアウンフライン国軍最高司令官が退役し、政界入りするとの情報が取りざたされている。大統領再選を果たしたテインセイン氏が、2期目の途中でミンアウンフライン氏に禅譲、タンシュエ氏の意向に沿って体制の継続性と安定化を目指す、といったシナリオも、政権中枢では語られている。
ただ、多数派民族ビルマ族中心の2大政党USDPとNLDに対し、総選挙では少数民族の各政党の躍進が予測されており、結果次第で連立政権を目指す政党の合従連衡が起きそうだ。【7月13日 毎日】
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かねてより健康面(心臓に持病)に不安を抱えるテイン・セイン大統領については、今季限り・・・との見方もありました。
ロイター通信やミャンマーのメディアは14日までに、大統領府高官の話として、テイン・セイン大統領が健康上の理由で11月8日投票の総選挙に出馬しないことを決めたと報じました。
“報道によると、大統領は与党・連邦団結発展党(USDP)のトゥラ・シュエ・マン党首(下院議長)に書簡を送り、不出馬の意向を伝えた。これを受け、同党首は13日、最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首と一対一で会談したという。”【7月14日 時事】
健康不安のあるテイン・セイン大統領はやはり出ないのか・・・とも思いましたが、この話はシュエ・マン党首サイドから意図的に流された話で、大統領自身はまだ出馬しないとは決めていない・・・ということのようです。
****大統領の不出馬報道を否定=再選に含み―ミャンマー****
ミャンマー大統領府高官のゾー・テイ氏は14日、テイン・セイン大統領が11月の総選挙に出馬しないとの報道を否定するとともに、大統領再選を目指す可能性に含みを持たせた。ロイター通信などが伝えた。
それによると、ゾー・テイ氏は「大統領は、選挙に出馬することも大統領として2期目を目指すことも公には否定していない」と述べ、まだ態度を決めていないと指摘した。大統領は近く態度を公表する見込みという。(後略) 【7月14日 時事】
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テイン・セイン大統領は今月初旬に日本を訪問していますが、そのときのインタビューでは次期大統領について「大統領になることを国民が望むのなら、検討したいと思います。出馬するとは言い切れませんが検討します。Deeply consider」【7月16日 NHK】とも語っています。
軍政時代には“格上”だったシュエ・マン党首(下院議長)には、“本来なら自分が大統領になるはずだった・・・”との思いが強いと思われます。
タンシュエ氏が敢えてシュエ・マン氏をはずしたのも、そうしたシュエ・マン氏の野心の強さを懸念したから・・・とも言われています。
テイン・セイン大統領とトゥラ・シュエ・マン党首(下院議長)の確執から、党分裂の可能性も囁かれています。
****テインセイン氏、与党候補なれず? ミャンマー総選挙、派閥争い****
ミャンマーでテインセイン大統領(70)や閣僚が11月の総選挙に与党候補として出馬できなくなる可能性が出ている。選挙後に国会で決まる新大統領候補をめぐる、与党内の派閥争いが背景にあるとされる。
ミャンマー選挙管理委員会は8日に国会の5年の任期満了に伴う総選挙を11月8日に行うと決めた。軍事政権が2008年に制定した憲法は、正副大統領や閣僚の任期中の政党活動を禁じている。
ただ、連邦政府法で「選管が総選挙の日程を発表した後は、政党活動が認められる」と例外を定めていた。ところが、国会下院は政党活動ができるという例外を削除する改正案を可決。上院は13日、改正は不要と決議したが、今後両院合同の連邦院で審議がなされる見通しだ。
規定の改正でどうなるのかについて、ある与党議員は「大統領らは無所属でしか立候補できなくなる」と説明した。
地元紙ミャンマータイムズ(電子版)は、次の大統領候補をめぐるテインセイン氏と現与党党首のシュエマン下院議長(68)の争いがあると指摘した。【7月14日 朝日】
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****<ミャンマー>大統領「不出馬」騒ぎ…選挙前に内部抗争?****
11月のミャンマー総選挙に向け、政権与党「連邦団結発展党(USDP)」内で主導権争いが激化し、党分裂の可能性さえささやかれている。
14日、「テインセイン大統領は総選挙に出馬しない」との報道が駆け巡り、大統領府が「真実でない」と否定する騒ぎが起きた。ネジンラ前大統領政治顧問(62)は15日、毎日新聞に対し「誤報騒ぎは党内抗争の表れで、大統領の政治的暗殺を意図したものだ」と指摘した。(中略)
2011年の民政移管に伴い大統領になったテインセイン氏は、政財界から「民主化」改革への評価も高く、続投を望む声は強い。だが心臓にペースメーカーを使うなど健康不安もあり、明確な意思表示を避けてきた。
大統領になるには国会議員である必要はないが、大統領府幹部のゾーテイ氏は14日、「テインセイン大統領は(続投について)国民の意思と国家の状況を見て判断すると繰り返し表明している」と反論。
問題の手紙は、そうした趣旨で2年前にシュエマン氏に送られたものだとし、「大統領は進退については自分で発表する」と述べた。
テインセイン大統領は党議長を務めるが、憲法上、党運営に携われないためシュエマン下院議長が党務を取り仕切る。
両者の派閥争いが続いており、今月設立された新党「国民発展党」はUSDPが分裂すれば、テインセイン大統領派が駆け込む「受け皿」になるとうわさされてきた。
その国民発展党の党首で大統領派として知られたネジンラ氏は誤報騒ぎについて「(シュエマン派が)大統領の排除を狙ったものだ」と語り、「USDPが近い将来、分裂する可能性は十分ある」と指摘した。ただテインセイン派の「受け皿」になるかについては「臆測だ」としながらも「大統領が来るなら拒む理由はない」と語った。
ネジンラ氏は新党の目的について「国民は(軍政期に軍人の受け皿だった)USDPに飽き飽きしている」と発言。アウンサンスーチー氏率いる最大野党「国民民主連盟(NLD)」に対して劣勢にあるUSDPでは選挙に勝ち目がないとの見通しも示した。【7月15日 毎日】
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確かに、軍政の流れをくむ現在の与党USDPでは、スー・チー氏のNLDに勝ち目はなさそうに見えます。
テイン・セイン大統領が総選挙出馬を明確にしないのも、そのあたりの選挙情勢を睨んで、新党合流を含めた何らかの方策を検討しているからでしょうか。
いずれにしても、問題は多々残ってはいるものの、スー・チー氏の活動を含め、ミャンマーが軍政時代を考えると信じられないぐらいの民主化を急速に実現できたことの相当部分はテイン・セイン大統領の功績と考えられ、そのテイン・セイン大統領が与党内の確執で埋もれてしまうのは惜しいような気がします。