
【軍事進攻への賛否は表明しない「あいまい戦略」 ただし欧米制裁についてはロシア支援】今回のロシア軍のウクライナ侵攻に関して、国連総会での対ロシア非難決議“棄権”に示されるように中国は対米共闘のパートナーであるロシアに理解を示し、ロシアを支援するという基本的な立場にありますが、中国外交の基本たる「主権の尊重」の観点からはウクライナの主権を蹂躙するロシア軍侵攻を是とはしにくいこと、中国・ウクライナも良好な関係にあること、更にはロシアへの国際批判の高まりに巻き込まれたくないという思い等もあって、対ロシア非難決議に敢えて“反対もしない”ということでウクライナにも一定に配慮し、どっちつかずの“あいまい”な対応のようにも見えます。
****中国、ウクライナ侵攻で苦しい「あいまい戦略」****ロシアのウクライナ侵攻について、中国は支持も非難も表明しない曖昧戦略を続けている。対米共闘で連携を深めるロシアに配慮する一方、中国はウクライナとも友好関係にあり、ロシアに巻き込まれて世界で孤立したくないとの本音が垣間見える。
ウクライナのクレバ外相は1日、中国の王毅国務委員兼外相と電話会談し「中国が停戦実現へ仲裁してくれることを期待する」と述べた。王氏は「ウクライナとロシアが交渉で問題解決の方法を見つけるよう呼び掛けている」などと応じるにとどめた。
北京の外交筋は「中国はロシアとウクライナの間で微妙なバランスをとろうとしている」と指摘する。世界で対露批判が強まっており、中国は対応に苦慮しているようだ。
王氏は2月25日、「ウクライナ問題に関する中国の5つの立場」を発表。①主権と領土保全を尊重②ロシアの安全保障面の正当な訴えを重視③自制を保ち、大規模な人道危機を防ぐ④外交努力を支持⑤国連の軍事措置と制裁に反対−という基本方針を示した。北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に反対するロシアに同調しつつ、ウクライナの領土保全を尊重する姿勢だ。【3月2日 産経】******************
目立つロシア擁護姿勢は避けながらも、対米共闘のパートナーであるロシアを支援するという基本スタンスは習近平国家主席の指示によるものとも報じられています。
****習近平氏、米欧制裁巡り「ロシア支援」指示…軍事侵攻には態度表明せず****ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、中国の習近平シージンピン国家主席が、態度表明は留保しつつも、米欧の制裁についてはロシアを支援するように指示していたことが27日、わかった。中国政府関係者が明らかにした。
習政権は、中長期的に続く米国との対立をにらみ、対露連携を維持するためにロシア寄りの姿勢を強めている。 関係者によると、中国共産党は24日、ウクライナ侵攻を受け、王毅ワンイー国務委員兼外相や国家安全相、商務相、軍幹部らを集めた緊急会合を開いて対応を協議した。習氏は「ロシアは台湾の武力統一に支持を表明したことはないので、(ウクライナへの軍事侵攻については)当面は態度を示さない」との方針を示したうえ、「違法な米英の制裁下にあるロシアを経済・貿易面で支援する」よう指示したという。
また、英国、フランス、ドイツとの関係を維持し、ウクライナで事業展開する中国企業の安全と利益を確保するよう求めた。露軍の軍事作戦の研究も命じた。 習氏は会合翌日の25日、プーチン露大統領と電話で会談し、「各国の合理的な安全に関する懸念を重視、尊重する必要がある」と述べ、ロシアの立場に理解を示した。
王氏も25〜26日に英仏独や欧州連合(EU)の外相らと個別に電話会談し、「ロシアの安全に関する要求の適切な解決」や「武力行使や制裁を可能とする国連憲章7章に基づく決議には一貫して反対」などを強調した。
中国税関総署は23日の公告で、病害などを理由に一部禁止していたロシア産小麦の輸入を全面解禁した。北京で今月4日に行われた中露首脳会談でも、自国通貨での決済拡大や中国への天然ガスの追加供給で合意するなど、ロシアが米欧による制裁の影響を相殺できるように下支えする動きを見せている。 25日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、ロシア軍の侵攻前、米側は複数回にわたって王氏ら中国政府高官に対し、侵攻を思いとどまるようにロシアを説得するよう要請したが、中国側は取り合わなかったという。 在北京の外交筋は「ロシアは中国が反対に回ることはないと確信して侵攻に踏み切った。中国がロシアの背中を押しているようなものだ」と語った。【2月28日 読売】**********************
習近平氏の「ロシアは台湾の武力統一に支持を表明したことはないので・・・」というのは興味深いところ。今後、中国がロシア支援を強める場合は、見返りに中国の台湾武力統一への支持をロシアに求める・・・といった局面もあるのでしょうか。
【中国にロシアへの働きかけを求めるアメリカ】一方アメリカは、中国に対しロシアへの影響力行使を求めています。
****米国務長官「世界が見ている」 中国に対露姿勢変更促す 電話協議****ブリンケン米国務長官は5日、ロシアによるウクライナ侵攻に関して、中国の王毅国務委員兼外相と電話で協議した。ブリンケン氏は王氏に「世界は、どの国が自由や民族自決、主権といった基本的原則のために立ち上がるか注視している」と強調。中国が国連総会で対露非難決議を棄権したことを念頭に、中国にロシア寄りの姿勢を改めるよう暗に求めた。 米国務省によると、ブリンケン氏は電話で、ロシアのウクライナ侵攻への対応で「世界は一致して行動している」と指摘。「ロシアが高い代償を支払うことになるのは確実だ」と述べ、関係国が協力し経済制裁を強化していく考えを伝えた。 中国はロシアによる軍事行動を「侵攻」とは認めておらず、各国の制裁措置にも距離を置いている。一方で、国連総会に先立つ国連安全保障理事会の対露非難決議案では拒否権を行使せず、棄権した。 「民主主義と専制主義の闘い」を掲げているバイデン政権は中露接近を警戒しつつ、中国がウクライナ危機に関しロシアにより批判的な姿勢を示すよう促していく考えだ。【3月6日 毎日】******************
中国への働きかけは、前出【読売】に“ロシア軍の侵攻前、米側は複数回にわたって王氏ら中国政府高官に対し、侵攻を思いとどまるようにロシアを説得するよう要請したが、中国側は取り合わなかったという。”とあるように、侵攻前から行われています。
侵攻前に「アメリカが危機を煽っている」として中国がロシア説得を“取り合わなかった”のは、まさか本当にロシアがウクライナに侵攻するとは中国・習近平主席も思っていなかった・・・という、プーチン大統領の本心を読み違えたことがあると指摘されています。(私も読み違えていましたし、世界の多くの識者も。それだけ今回のプーチン大統領の侵攻は“意外”“不合理”だったということでもあります)
(侵攻直前に欧米諸国がウクライナからの自国民退避を急ぐ中で)ウクライナ国内に約6000人もいる中国人のウクライナからの退避を侵攻前にまったく行わなかったこと、侵攻後の退避策の迷走などにそうした“読み違え”が現れているともされています。
そうした“読み違え”のせいで、侵攻後の中国のロシアに対する姿勢も混乱が見られ、よけい曖昧なものにもなっています。
なお、中国がロシアに対し、北京オリンピック閉幕まで侵攻に踏み切らないよう求めていたとする疑惑も報じられていますが、中国側はこれを否定しています。この疑惑が真実なら、習近平氏はプーチン大統領の決意を知っていたということになりますが・・・。
具体的な侵攻計画を念頭にした要請ではなく、一般論として「五輪閉幕までは面倒を起こさないで・・・」というやり取りは当然にあったとは思いますが、それ以上についてはどうでしょうか?
【ようやく仲裁に乗り出す意向の表明】情勢が悪化する一方のここにきて、中国はようやく仲裁に乗り出す意向を表明しています。
****中国の王毅外相「必要な時に必要な仲裁したい」 ウクライナ情勢巡り****中国の王毅(ワンイー)国務委員兼外相は7日、北京で開催中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)にあわせて記者会見し、ウクライナ情勢に関して「必要な時に国際社会とともに必要な仲裁をしたい」と述べた。ロシアに近い中国の貢献を求める国際社会の声に押された形だが、具体的にどう導くかは言及しなかった。 中国はロシアともウクライナとも良好な関係にあり、ロシアのウクライナ侵攻後、王氏は双方の外相と電話で協議している。 中国は、現在もロシアの行動を「侵攻」とは認めていない。これに関して、王氏は「中国の立場は何度も明らかにしている。我々は公正な態度で問題を判断する」と従来の説明を繰り返した。そのうえで、「問題解決に必要なのは冷静さと理性であり、火に油を注いで食い違いを激化させることではない」と訴えた。 ロシアとウクライナの和平交渉には期待を表明しつつ、「情勢が緊迫するほど和平交渉は必要で、矛盾が大きいほど腰を据えて話さなければならない。中国は建設的な役割を果たしたい」と語った。 市民を避難させる「人道回廊」などの動きについては「人道主義の行動は必ず中立の原則を守り、政治問題にしてはならない。国連が人道支援で役割を果たすことを支持する」とした。 ウクライナからの自国民の退避遅れが指摘されていた問題については、「習近平(シーチンピン)総書記自ら関心を寄せ、安全確保を何度も指示している。現地の大使館などが火中に入り、中国人が避難する道を開いた」と十分な対応をアピールした。
一方、ロシアとの二国間関係については、「互いに最も重要な隣国であり、戦略的パートナーだ。我々の協力は世界の平和と安定にも有益だ」と強調。「国際情勢がいかに危うくなろうとも、中ロ双方は戦略的なコントロールを維持し、新時代の全面的戦略パートナーシップを前進させていく」と述べ、ウクライナ問題は中ロ関係に影響しないとの見方を示した。【3月7日 朝日】*******************
中国の仲介が現実的な形になるのか、あるいは国際批判をかわすために「言ってみただけ」なのかは、今後の話です。ここで「成果」を出せれば、中国外交のとってはアメリカ・ロシア双方に貸しをつくる大きなポイントでしょうが。
【ネット等に横溢するロシア支持の“空気”】「あいまい」戦略とは言うものの、軸足はやはり対米共闘パートナーのロシア支援にありますので、中国国内では「戦争反対」のメッセージや、ロシア軍侵攻の実態を伝える海外メディア報道などは厳しく統制されているようです。
****中国、歴史学者の声明削除 SNSに「戦争、強く反対」 ウクライナ侵攻巡り****ロシア軍によるウクライナへの侵攻を巡り、中国の複数の歴史学者が26日午後、ロシア政府とプーチン大統領に対し戦争の停止を呼びかける声明を、中国のSNSで発表した。
中国政府はロシアの軍事行動を侵攻とは認定しておらず、北大西洋条約機構(NATO)の拡張に反対するロシアの立場にも支持を表明している。政府の姿勢とは一致しない学者らの提言は、まもなく削除され、閲覧不能になった。 「ロシアのウクライナ侵攻と私たちの態度」と題した声明を発表したのは、南京大学の孫江教授ら歴史学者5人。「ロシアがウクライナに対して起こした戦争に強く反対する。ロシアにいくら理由があっても、武力による主権国家への侵攻は既存の国際安全保障システムを破壊するものだ」と批判した。 さらに、孫氏らは「ウクライナ国民の国を守る行動を断固支持する」とし、ロシア政府とプーチン大統領に対し「戦争を停止し、交渉で紛争を解決するよう強く呼びかける」と求めた。 声明は、中国政府の姿勢については論評していないが、「インターネットサービスの管理規定に違反している疑いがある」との理由で間もなく削除された。 孫氏は朝日新聞の取材に対し、「声明は確かに私が起草し、署名者全員が確認したうえで、公表したものだ」と述べた。文章が削除された後も画像として拡散され、賛同の声が広がっている。【2月28日 朝日】**********************
****中国でCNN放送遮断 ウクライナ侵攻のニュースが一部見られず****中国で、ロシアによるウクライナ侵攻を伝えるアメリカ・CNNの放送が遮断される事態が続いている。
中国国内で放送されるCNNがここ数日、何度も突然カラーバーになっている。「信号異常」との字幕が数分間続くが、詳しい説明はない。多くの部分は視聴可能だが、ウクライナ侵攻を伝えるニュースの一部が遮断されている。 中国政府はロシアへの直接的な批判は避け続けていて、中国メディアでも軍事侵攻を続けるロシアの責任を追及する論調は見られない。【3月7日 ABEMA Times】******************
一方で、中国国内にはロシアを支援する“空気”が溢れているようにも。
****中国ネットでロシア製品の売り切れ続出 「人民の購買力見くびるな」****ウクライナの侵攻を理由に欧米日から金融制裁などを受けたロシアに対して、中国のインターネット上でロシア製品を買って同国を応援しようという動きが出ている。中国のロシア大使館公認のオンラインショップではチョコレートや飲料水、ウォッカなどが2日までに次々に売り切れた。 「ロシア国家館」と名付けられたショップは、中国の通販大手京東(JDドットコム)のサイト内にある。昨春に開設され、中国のロシア大使館が公認している唯一のショップだという。お菓子やお茶などといった食品が中心だが、多くがすでに売り切れの状態で買えなくなっている。 ショップのサイト内で流れる動画では、ロシア側の関係者が「複雑で激変する国際情勢の元、我々は中国の友情を目にしている」と話す動画も流れている。 ショップのフォロワーは制裁前の数千人から30万を超えたとの情報もある。ネット上では「ロシアを応援するために買う」「中国人民の購買力を見くびらない方が良い」といった書き込みが続いている。 中国のネット上では、対ロシア制裁への反対姿勢を示す中国政府の意向や、中国メディアの報道の影響から、ロシアを応援したり、ウクライナや欧米を批判したりする書き込みが増えている。 また検閲も強化されているとみられ、中国の複数の歴史学者が2月26日、ロシア政府とプーチン大統領に対し戦争の停止を呼びかける声明を中国のSNSで発表したが、すぐに削除された。【3月3日 朝日】*********************
****在中国カナダ大使館、ウクライナ支持の横断幕掲げるも荒らされる**** 中国の首都北京にあるカナダ大使館は今週初め、ウクライナの国旗の色に合わせ、「我々はウクライナを支持する」と記した少なくとも2枚の横断幕を屋外に掲げた。
同大使館は1日、この横断幕の写真を「ウクライナとともにある」とのキャプションと共にツイートした。
だが北京のCNNプロデューサーが確認したところ、2日夜までに横断幕1枚が、北大西洋条約機構(NATO)に対する罵倒の言葉を用いた落書きで荒らされた。この事案に関連して逮捕者が出たかどうかは分かっていない。【3月3日 CNN】*****************
****駐中国カナダ大使館が「ウクライナ支持」の看板掲げる、中国ネット不満「なぜわざわざ…」****(中略)記事によると、中国のネットユーザーからは不満の声が噴出。「なぜわざわざ中国語で書くのか」「中国語で書くなら『われわれは支持する』ではなく『カナダは支持する』とはっきり書け」「誰を支持するとか、誰に制裁を科すとかは帰ってやれ。なぜわれわれの国土で大騒ぎするのか」などのコメントが並んだ。(中略)
中国政府は双方に対話を呼び掛けているが、中国のメディアやネット上ではロシアを支持する記事やウクライナ側を「ナチス」などと非難する言論が多くを占めている。【3月3日 レコードチャイナ】********************
****「ウクライナ美女歓迎」で批判殺到…SNSの心ない投稿に反発の声 中国****ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、中国のSNSでは一部のユーザーによる“あきれた投稿”が波紋を広げている。
男性「私はウクライナの美女が無事に中国に輸入されるかどうかだけを気にしている」 中国のSNSへの書き込みと思しき投稿(SupChinaから)には、まるでウクライナの女性をモノ扱いするかのような文章が書かれている。 他にも、「未婚のウクライナの女の子を戦争から保護する必要がある」「私はホームレスになったウクライナの10代の少女を引き取ることに前向きです」「ウクライナで多くの男性兵士が殺され、多くの女性が残される。私ももうすぐ独身ではなくなるようです」といった男性の心ない投稿があった。 こうしたウクライナを侮辱するような投稿は中国国内でも大きな反発を引き起こし、1000件以上のアカウントが処分されたという。【3月7日 ABEMA Times】*******************
上記の「ウクライナ美女」云々は、前出の歴史学者の「戦争反対」声明が直ちに削除された一方で、しばらく放置されており、そこらにも中国当局の本音が現れているようにも。
ただ、国際批判が高まり、ウクライナ国内にも伝わり、ウクライナ国内での対中国感情が悪化する一因ともなって、また、中国人退避計画にも悪影響が出ることが懸念される事態ともなって、ようやく当局は削除に乗り出しているようです。
もちろん、上記のようなネットでの声などが中国世論の全てを表している訳ではないでしょうが、中国世論は相当に対米共闘のロシア支持に傾いているようにも想像されます。
プーチン大統領の“力業”が、台湾武力統一ともダブるのでしょうか。