
【イランの核開発が進行 米「時間ほとんど残ってない」】アメリカ・トランプ前大統領が核開発合意から離脱したことを受けて、イランは核合意修復を目指すアメリカとの間接協議を行う一方で、核開発に向けた動きを進めています。
イランの核開発を阻止できるタイムリミットは間近に迫っており、「時間はほとんど残されていない」(米国務省副報道官)とも。
****イランの濃縮ウラン備蓄、3か月で2倍…米「時間ほとんど残ってない」****イランの核開発問題で、同国が備蓄する濃縮度60%の兵器級に近いウランの量が、昨年11月時点と比べほぼ2倍に増えたことが3日、国際原子力機関(IAEA)の報告書で判明した。核合意の立て直しに向けて米国との間接協議を続けながらも核開発を拡大させていることが示された。
報告書が示した2月19日の備蓄量は33・2キロ・グラムだった。昨年11月5日時点では17・7キロ・グラムだった。ロイター通信によると、一般的に核爆弾1個の製造には濃縮度90%のウランが25キロ・グラム必要とされる。イランの備蓄量は、濃縮度90%換算で爆弾製造に必要な量の4分の3に相当するという。
米国が2018年に核合意を離脱し、イランに対する経済制裁を再開したことへの報復として、イランは19年に核開発を再び加速させた。
イランが核兵器開発に踏み切った場合、必要となる濃縮ウランの獲得にかかる時間は核合意の規制下で「約1年」だったのが、「数週間」まで短くなったとされる。60%ウランの備蓄増により、論理上はさらに短縮したことになりそうだ。
米国務省のジャリナ・ポーター副報道官は「時間はほとんど残されていない」と述べ、核合意再建に向けた協議の妥結が急務だと訴えた。【3月5日 読売】*********************
イラン側のこうした動きは、アメリカの合意への復帰について、よりイランに有利な条件を引き出すための圧力でもあるでしょうが、もし合意が近々に成立しなければ核兵器開発を強行するとの姿勢でもあります。
【「大詰め」最終段階」の核合意再建協議】こうした「時間はほとんど残されていない」状況で、アメリカの復帰を目指す核合意再建協議の方も最近「大詰め」とか「最終段階」とかいった言葉が踊る記事が目だっています。
****イラン核合意の協議大詰めか 手続き草案大筋合意とロイター報道****ロイター通信は(2月)17日、イラン核合意の正常化に向けた主要国の協議で、段階的な手続きを定めた草案が大筋でまとまったと報じた。複数の外交筋の話として伝えた。米国とイランが妥結に向けて歩み寄る可能性もあり、協議は大詰めを迎えている模様だ。 米国務省の報道担当者も17日、米・イランの間接協議について「先週に実質的な進展があった」と述べ、「イランが真剣な態度を示せば、近日中に合意が可能」と強調。逆にこの機会を逃せば正常化が「危うくなる」と指摘した。 草案では第1段階として、イランが5%を超えるウラン濃縮活動を停止▽米国の経済制裁の影響で韓国で凍結されているイラン資産の凍結解除▽イランが拘束する欧米人の解放――などを実施すると規定。
米・イラン双方による一連の措置が実施された後、米国がイラン産原油の禁輸を含む制裁解除に着手するという。 核合意は2015年に米英仏独露中の6カ国とイランが結んだ取り決め。イランが核開発を制限する見返りに米欧側が制裁を一部解除する約束だった。
だが18年にトランプ前米政権が合意から一方的に離脱し、制裁を再開。反発したイランは19年以降、合意による制限を超えるウラン濃縮などを進めてきた。昨年4月以降、欧州などの仲介でバイデン政権とイランが正常化に向けた「間接協議」をウィーンで続けている。 協議は大詰めだが、イランが米国に再離脱しないよう保証を求めている点などが課題として残っているという。【2月18日 毎日】*******************
****イラン、一部制裁を容認 米も譲歩、核合意再建の協議****イラン核合意再建に向けウィーンで続く米国とイランの間接協議で、イラン側が強硬に主張してきた制裁の全面解除などの要求を軟化させたことが18日、複数の交渉筋の話で分かった。一部制裁を容認する方針。
米側も譲歩を見せ、イラン政府高官は「妥結に近づいている」と発言。妥結文書の策定は詰めの段階に入ったが、一時戦争直前まで関係が悪化した両国が最終合意に至るかどうかは予断を許さない。 米国のイラン制裁の対象は現在、イラン産原油輸出や銀行取引に加え、反米保守強硬派の牙城、最高指導者ハメネイ師の資金管理組織や革命防衛隊の関係者など広範にわたる。【2月18日 共同】*********************
【ウクライナ紛争で高騰する原油価格 イラン産石油の市場復帰は「最後の切り札」】イラン側も、2月18日ブログ“原油価格動向に見る国際情勢 ウクライナへのロシア軍侵攻 アメリカのイラン核合意復帰協議”でもとりあげた「飛行機の墓場」にも象徴されるように、長期にわたる制裁によって国内的にも国際的にもギリギリの状況に追い詰められています。
アメリカにとっても、イランの核開発阻止という本来の目的以外に、ウクライナ紛争で110ドル超える高値水準にある原油価格、その結果高騰が続くアメリカ国内のガソリン価格という問題があり、原油価格を押し下げるにはイランの原油市場復帰が必要とされる状況にもあります。
****地政学リスクで100ドル超えが確実となった原油価格****(中略)(ウクライナ危機による価格高騰という)自らが招いた原油高に苦しむバイデン政権にとって、残されたカードはイランとの交渉しかないという状況になりつつある。
主要産油国の増産余力が限られる中で、米国の制裁により世界の原油市場から閉め出されているイランのみが日量100万バレル以上の原油の増産が可能だからだ。
そのせいだろうか、バイデン政権は2月に入り、核合意再建に関するイランとの直接協議に前向きな姿勢を示し始めている。ロシアのラブロフ外相が2月14日、「イラン核合意再建に向けた協議に目に見える前進があった」と述べたことで原油価格は一時下落した。 だが、米国とイランとの間で合意が成立する可能性は高いとは言えないだろう。ロシアとの緊張関係に対処することでいっぱいのバイデン政権に、イランとの交渉に真剣に臨むだけの余裕はない。
さらに共和党をはじめ根強い対イラン強硬勢力が米国内に存在しており、国内で求心力を失いつつあるバイデン政権がイランとの妥協を成立させられるだけの政治力があるとは思えないからだ。(後略)【2月18日 藤 和彦氏 JBpress】*********************
今後、ロシア産原油の輸入禁止といったロシアに対する追加制裁も視野に入ってきています。
****原油先物が急上昇、西側の制裁でロシア原油輸出に懸念****米国時間の原油先物は、西側諸国の対ロシア制裁を受け、大きく上昇した。
米国、英国、欧州、カナダは26日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアへの新たな制裁措置の一環として、ロシアの一部銀行を国際銀行間の送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除することで合意。こうした制裁措置でロシアの原油輸出が阻害されるとの懸念から、原油先物が上昇した。(後略)【3月1日 ロイター】
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アメリカ主導で国際エネルギー機関(IEA)加盟各国が備蓄石油6000万バレルの協調放出で合意したものの、ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油供給逼迫懸念を和らげるには至っていません。このまま行くと「原油は1バレル=140ドル台に達する可能性」もあるとも。
原油価格高騰が続けば、当然に日本を含む世界経済は大きなダメージを受けます。
****止まらぬ原油高 協調放出、市場冷ややか****ロシアのウクライナ侵攻で、原油価格が急騰し世界的に株安が進む。国際エネルギー機関(IEA)の呼びかけで日米欧などは石油備蓄の協調放出を決めたが、市場は冷ややかだ。
米国産WTI原油の先物価格は今週急上昇し、2日に一時、1バレル=112ドル台をつけた。経済制裁でロシアの大手銀行が国際決済システム「SWIFT(スイフト)」から排除されることになった。国際的な大手石油会社がロシア事業から撤退する動きもある。世界3位の原油生産国であるロシアからの供給が滞る懸念が高まる。 SMBC日興証券の試算では、ロシアからの資源調達を避けると、石油は世界全体の輸出量の約7%、天然ガスは約21%が失われる可能性があるという。同社の宮前耕也氏は「原油は1バレル=140ドル台に達する可能性があり、資源高は世界経済、日本企業にとって下押し材料になる」と話す。 2日の日経平均株価は前日の終値より451円69銭安い2万6393円03銭で取引を終えた。欧米の株式市場でも1日は売りが優勢で、経済の混乱は深刻化している。
原油の高騰は日本の消費者や企業も直撃する。政府はガソリンなどの値上がりを抑える補助金を出しているが、効果には限界もある。追加の対策をまとめ、週内にも発表する方針だ。(後略)【3月3日 朝日】*******************
こうした原油価格高騰、更に今後の対ロシア追加制裁を考えると、イラン産原油は「最後の切り札」ともなりつつあります。
【核開発疑惑に関しイランがIAEAに協力 核合意再建協議に好影響も期待される】「大詰め」の核合意再建協議に好影響を与えることが期待されるのが、核兵器につながる核開発疑惑に関してイランが国際原子力機関(IAEA)に協力する姿勢を示したことです。
****イラン 核合意立て直しの協議 最終局面 妥結向かうかが焦点***イラン政府はIAEA=国際原子力機関から指摘されていた核開発をめぐる疑惑について、近く文書で回答し、6月までに結論をまとめる方向で合意しました。
イラン核合意の立て直し協議が最終局面を迎える中、イランが協力姿勢を示すことで、協議が妥結に向かうのかが焦点です。
IAEAトップのグロッシ事務局長は、5日、訪問先のイランでエスラミ原子力庁長官と会談しました。
IAEAは、申告されていないイラン国内の複数の場所から核物質が見つかったことについてかねてからイラン側に説明を求めていて、会談でも議題となりました。
会談のあと発表された共同声明によりますと、これについてイラン側が今月20日までに文書で回答し、IAEAによるさらなる調査などを経て、グロッシ事務局長が6月のIAEA理事会までに結論をまとめる方向で合意したということです。
グロッシ事務局長は、記者団に対し「これらの問題が解決しなければ、イランとの協力的な関係を持つことは難しいだろう」と述べ、イランとアメリカなどとの間で交渉が続けられているイラン核合意の立て直しに向けても重要な活動となるという認識を示しました。
イランとアメリカは、核開発制限やアメリカによる制裁の解除をどう進めるかについて、EU=ヨーロッパ連合を介して間接的な協議を続けています。
協議関係者は、交渉は最終局面に入ったとしていて、イランが今回、IAEAとの協力姿勢を示したことで、妥結に向かうのかが焦点です。【3月6日 NHK】*******************
【予断を許さないとの慎重な声も】「大詰め」の核合意再建協議が決着にいたるかどうか・・・慎重な見方もあります。
****イラン核合意再建協議が大詰め、最終決着には慎重な声****2015年のイラン核合意再建に向けた協議は大詰めを迎えたもようだが、関係者の間では最終決着するかどうか予断を許さないとの声が広がっている。
米国務省のポーター副報道官は3日、「われわれは可能な合意に近づいている」と語った。ただ未解決の問題は残っており、イランの核開発進展状況を踏まえると時間との勝負になるとの見方も示した。
ロイターが確認した国際原子力機関(IAEA)の最新報告によると、イランによる濃縮度を60%まで高めたウランの保有量はほぼ倍増して33.2キロとなっている。ある外交関係者によると、これはさらに濃縮度を高めた場合、核兵器製造に必要な量の4分の3前後に達するという。
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに原油価格が高騰しているため、より多くのイラン産原油が市場に供給される道が開かれるという面で、核合意再建への期待も強まっている。
しかしロシアのウリヤノフ在ウィーン国際機関代表は「詰めるべき幾つかの懸案がある。残っている問題は比較的小さいものの、なお決着していない」と指摘した。
ウリヤノフ氏は記者団に、現時点で協議が決裂するとは考えておらず、近く閣僚級会合が開かれる公算が大きいと語ったが、具体的にいつになるかは言えないと付け加えた。
イラン外務省の報道官も、さらに協議が必要になると発言。あるホワイトハウス高官は、今も最も難しい問題をクリアするため全関係者が取り組み続けていると述べた。
協議を仲介している欧州連合(EU)のモラ主席調整官はツイッターに「成功は決して保証されていない。われわれがその地点に到達していないのは間違いない」とくぎを刺した。【3月4日 ロイター】**********************
「時間との勝負」が続いています。
【ロシアが最終段階で混乱要因にも】なお、イラン核合意はイランの核兵器開発を大幅に制限するため、イランと6カ国(米・英・仏・独・ロ・中)が2015年7月に結んだものですが、ロシアも当事国。
そのロシアがここにきて“イラン核合意を人質に欧米に揺さぶりをかけたもの”との対応を示しています。「大詰め」にきて更に混乱要因にもなりそうです。
****ロシア、イラン核合意で制裁除外要求 交渉一段と複雑に****ロシアのラブロフ外相は5日、ウクライナ問題をめぐる対ロ制裁が「イラン核合意でのロシアの権利に影響をあたえないよう文書で保証を求める」と述べ、事実上の制裁適用除外を求めた。
イラン核合意を人質に欧米に揺さぶりをかけたものとみられ、最終段階にあるウィーンの核合意再建交渉にも打撃をおよぼすおそれがある。
ラブロフ氏は、核合意交渉でほとんどの問題が決着したとしたうえで「最近になってロシアの国益に関しての問題がでてきた」と述べた。
ロイター通信によるとイラン当局者は、ラブロフ氏の発言について「建設的でない」と批判した。ロシアはこの要求を2日前になって提示してきたという。
ラブロフ氏はイランとの経済や軍事、技術協力が自国の権利であると強調した。イラン核合意が再建されればイランへの国際制裁の多くが解除される。ロシアは核合意再建のプロセスに参加すると同時に、イランとの取引を国際社会による対ロシア制裁包囲網の抜け穴として利用できると計算している可能性がある。
ロシアはイランに原子力関連の技術を提供し武器も売却してきた。余剰となった低濃縮ウランを引き受ける役割も担うはずだった。【3月6日 日経】**********************
いまひとつ内容がよくわかりませんが、ウクライナ紛争での制裁措置が課されても、ロシアのイランとの取引を認めろ・・・という要求でしょうか。
制裁を課される側が制裁適用範囲に要求を出すというのも奇妙な感がありますが、認められなければ核合意再建に同意しないという話になると・・・。
イラン当局者が批判していることから、ロシア単独の主張のようです。なお、3月3日に国連総会の緊急特別会合で採択された、ロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める決議案には欧米や日本など合わせて141か国が賛成しましたが、イランは中国・インドとともに棄権しています。