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Channel: 孤帆の遠影碧空に尽き
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アルメニアとアゼルバイジャン 平和協定の締結を目指し、協議を行うことで合意 

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(アゼルバイジャン・アクダム 事実上アゼルバイジャンから独立しているナゴルノ・カラバフ共和国との国境地帯の町で、ナゴルノ・カラバフ戦争で最前線だったため、廃墟になっています。“flickr”より By Joseph Ferris III http://www.flickr.com/photos/55510802@N06/8178445822/in/photolist-dsGF1A-dPUurZ-dPWKx8-arfeX9-bZvqpG-dsGF2o-9dKv3f-dsGEZJ-8Udx91-9dKuRf-dEyD95-dEtfMX-dEtfUx-dEtfHv-9Z1cGn-92UtCq-9n4Zgc-9ndRDD-9n4Zg8-9n8a57-9n87VE-9n4Zgv-9n3QHh-9n3QHU-9ndRDv-9ndRDK-9n87VS-9n87VC-9n87VA-9n4Zgr-9n87Vu-9ndRDM-9n4Zgt-9n3QHo-9ndRDx-9n3QHA-9ndRDB-9n3QHN-9n3QHW-9n87VQ-9n4Zgi-dEyCWj-dEtfAR-9mZFDB-9mZFDH-9mZFDT-9mZFDn-9mZFDt-9mZFDx-dEyCU9-eUdiPR)

【ナゴルノ・カラバフ問題】
長年、世界の不安定化の種ともなっているイラン核開発をめぐる協議は、ようやく「第1段階の措置」で「歴史的」合意に至ったというこで、メディアで大きく取り上げられています。

イランの話はまた後日取り上げる機会もあろうかと思いますが、今日取り上げるのはイラン問題に比べると非常にマイナーではありますが、これまた長年もめていたアルメニアとアゼルバイジャンの関係正常化に向けた動きの話です。

アルメニアとアゼルバイジャンはともに旧ソ連を構成していましたが、ソ連崩壊で独立した国家です。
北のロシア、西のトルコ、南のイラン、東のカスピ海に囲まれたコーカサス地方に位置しており、ロシアと戦火を交えたグルジアとも隣接しています。

宗教的には、アルメニアはキリスト教の一派であるアルメニア教会、アゼルバイジャンはシーア派イスラム教が多数を占めています。

この両国が長年対立しているのが、アルメニアの東隣のアゼルバイジャン領内にあるナゴルノ・カラバフ地区をめぐる帰属問題です。

ナゴルノ・カラバフ地区はイスラム国家であるアゼルバイジャンの自治州でしたが、主にアルメニア人が居住しており、ロシア革命の頃からその帰属でもめています。
1992年にナゴルノ・カラバフ側が一方的に「ナゴルノ・カラバフ共和国」として独立を宣言、これをきっかけに紛争が勃発。ナゴルノ・カラバフ側にはアルメニアが軍事介入し、本格的な戦争に発展しました。

その後、ロシアとフランスの仲介で停戦が成立していますが、「ナゴルノ・カラバフ共和国」は国際的には承認されていません。現在はアルメニア人が実効支配しており、アルメニア軍が駐留しています。

一方、アルメニアの軍事介入に反発したトルコ(アルメニアとは、いわゆる“アルメニア人虐殺問題”で対立関係にあります)は、93年にアルメニアとの国境を閉鎖して、現在に至っています。

この紛争により、2〜3万人の死者が発生し、100万人以上の難民が発生したと言われています。

なお、ナゴルノ・カラバフ地区はアゼルバイジャン領内にあるアルメニア支配地域ですが、アルメニアの南西部にはアゼルバイジャンの飛び地であるナヒチェヴァン自治共和国が存在するという、入り組んだ関係にもあります。

(参照)
2009年9月6日ブログ「トルコとアルメニア 「虐殺」問題を乗り越えて、国交樹立へ」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090906
2011年12月23日ブログ「フランス下院 オスマン・トルコによるアルメニア人「虐殺」の否定を禁じる法案可決」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111223


【平和的解決を目指してさらに交渉を重ねることで合意】
****アルメニアとアゼルバイジャン、和平交渉加速で合意 ナゴルノカラバフ問題****
長年対立関係にあるアルメニアとアゼルバイジャンの両首脳は19日、アゼルバイジャンのナゴルノカラバフ(自治州をめぐる紛争を解決する平和協定の締結を目指し、協議を行うことで合意した。

欧州安保協力機構(OSCE)の発表によると、アルメニアのセルジ・サルキシャン大統領とアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領はオーストリアの首都ウィーンで非公開会談を行い、平和的解決を目指してさらに交渉を重ねることで合意した。

2年ぶりとなる今回の首脳会談は、ナゴルノカラバフ紛争の解決を目指すOSCEのミンスクグループが主催した。
今後、両国の外相はミンスクグループ共同議長国のロシア、フランス、米国の大使らと「和平プロセスの加速を目指す」協議を行う。

また、ウクライナの首都キエフで12月5、6日の日程で行われるOSCEの会議と並行し、両国の交渉へ向けた作業部会が行われる他、ミンスクグループ共同議長国の代表が年内にナゴルノカラバフ自治州を訪問する。
さらに数か月以内に再度、アルメニアとアゼルバイジャンの首脳会談が行われるという。

アルメニアとアゼルバイジャンは長年、ナゴルノカラバフ自治州をめぐって対立していた。90年代には同自治州の人口の約8割を占めるアルメニア人が「ナゴルノカラバフ共和国」の樹立を宣言し、これを認めないアゼルバイジャンと戦闘になり、94年の停戦合意までに約3万人が犠牲になった。

同自治州の大部分と周辺地域は現在、アルメニア人の実効支配下にある。停戦後に和平協議が行われてきたものの、和平協定の締結には至っていない。【11月23日 AFP】
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“ミンスクグループ”というのは聞き慣れませんが、欧州安保協力機構(OSCE)が「ナゴルノ・カラバフ問題」解決のために設置したもので、記事にもあるようにロシア、フランス、米国の大使が共同議長を務めています。
イラン問題解決のための6各国グループと似たようなものでしょう。ややミニ版にはなりますが。

【国際社会への働きかけに積極的なアルメニア】
アルメニアは、国家として、また民族としても、世界で最初に公式にキリスト教を受容(西暦301年)した国で、その後ペルシャ、イスラム(サラセン)帝国、オスマントルコなどの強国による支配・影響下にありながらも独自の信仰を保ってきたからもわかるように、よく言えば強固なアイデンティティーを持った、悪く言えば「世界はアルメニアを中心に回っている」的な自意識過剰な国民性との指摘もあるようです。

(参考“不思議な、不思議な「アルメニア共和国」”http://armenia.en-grey.com/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%81%A7%E6%88%91%E6%80%9D%E3%81%B5/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%8B%E3%82%A2%E4%BA%BA%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F)

また、欧米社会で生活する海外生活者ディアスポラが多いこともあって、居住地社会に対するロビー活動的な働きかけも積極的なようです。

アメリカでは下院外交委員会において2010年3月、19世紀末と20世紀初頭にトルコ領内でおきたアルメニア人殺害について、オスマン・トルコ帝国によるアルメニア人「大量虐殺」(ジェノサイド)と認定して非難する決議案を可決しています。

この際、トルコは、駐米大使に「協議のため」帰国するよう命令。抗議のための事実上の大使召還措置と見られています。
ただ、アメリカも、イランやアフガニスタン問題での協力が必要な地域大国トルコを過度に刺激したくないので、本会議では採決していません。

また、フランスでは、サルコジ政権下の2012年1月、オスマン帝国によるアルメニア人ジェノサイド(大虐殺)を否定することを禁じる法案を成立させています。

しかし、法律の違憲審査をする憲法会議は、この法律を、表現の自由などに抵触するとして「違憲」と判断しています。これを受けて、サルコジ大統領は、政府に同趣旨の別法案を作成するよう指示したとの報道がありましたが、その後どうなったかは知りません。

ロシアとの関係で言えば、アルメニアはアゼルバイジャンとともに、EU潜在的加盟候補国が含まれる東方パートナーシップのメンバー国ですが、もともとロシアとの関係が強固で、ロシアの主導する関税同盟への参加を決定しており、サルキシャン大統領はユーラシア経済同盟への参加にも前向きな姿勢を見せています。【9月6日 ノーボスチ・ロシア通信社より】

こうした関係を見ると、ロシア、フランス、米国の大使が共同議長を務める“ミンスクグループ”というのは、アルメニアに好意的なようにも思われます。
実際、アゼルバイジャン側は、かねてより“ミンスクグループ”の調停をアルメニア寄りとして批判しています。

【天然ガス供給で重要なアゼルバイジャン】
一方、イスラム国家アゼルバイジャンは“米露とのバランスを考慮しつつ、伝統的友好国のトルコ、アゼルバイジャン人が多く住むイランとも等距離善隣外交を継続”【日本外務省HP】という基本方針の国ですが、バクー油田を抱える石油・天然ガスが豊富な国です。

最近注目されたのは、ロシア迂回ヨーロッパ向けの天然ガスパイプラインの話題でした。

****欧州に露回避ガスルート エネ供給多様化へ前進 初のパイプライン、2019年実現****
アゼルバイジャンからロシアを通らず欧州に天然ガスを輸送する初のパイプラインのルートが決まった。

欧州連合(EU)が進める計画とは異なるが、ガス輸入をロシアに依存するEUにとり、エネルギー安全保障上の課題である供給源の多様化に向けて前進した格好。2019年には欧州への供給が実現する予定だ。

 ◆カスピ海から輸出
ルートは、アゼルバイジャンからグルジアを抜け、トルコを横断するパイプライン「TANAP」を経由した後、ギリシャ国境からアルバニア、アドリア海を通るパイプライン「TAP」により、イタリア南部に到達するというもの。TAPはノルウェーやスイスの企業が進めている。

アゼルバイジャン側はカスピ海のガス田「シャフ・デニズ2」から年160億立方メートルを輸出。18年からトルコに60億立方メートル、19年から残る100億立方メートルが欧州に向かう予定だ。以前からTANAPへの供給は決まっていたが、その先のルートとしてこのほど、TAPが選ばれた。

実はEU側も、ロシアを回避できるカスピ海や中東のガスを確保するため、トルコからバルカン半島を抜けオーストリアに届くパイプライン「ナブッコ」を推進。
その後、ブルガリアを起点とする「ナブッコ・ウエスト」に規模を縮小し、シャフ・デニズ2のガス獲得を目指してきた。

しかし、採算性などの面でTAPに敗北したようだ。

 ◆「画期的な決定だ」
ただ、ロシアにガス輸入量の約3割を依存するEUにとり、他の供給源を確保したことに変わりはない。
欧州委員会のバローゾ委員長は今回の決定について「欧州にとっても成功であり、エネルギー安全保障の強化のために画期的だ」と歓迎している。

欧州へのロシア産ガス供給に関しては、主要経由地のウクライナとロシアが過去に価格をめぐって対立を激化させ、東欧やバルカン諸国への供給が混乱した経緯がある。ロシア側はウクライナを通らない「北ルート」と「南ルート」の実現に取り組み、EUへの影響力保持を図っていた。

今回の決定に対し、露国営天然ガス企業のガスプロムは「ナブッコは葬り去られた」と指摘する。
だが、アゼルバイジャン側はガス生産が増加した場合、ナブッコを通じた欧州への供給も視野に入れており、EUも2つのルートによる輸入に期待をかけている。【7月30日 産経】
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世界のエネルギー事情は「シェール革命」で大きく変化してきていますが、いずれにしてもロシアに依存しない天然ガスの確保を望む欧州にとっては、アゼルバイジャンは非常に重要な国になっています。

なお、アゼルバイジャン側は、ナゴルノ・カラバフの紛争でアルメニア軍による住民虐殺があったと非難しています。

****「虐殺」20年で追悼行進=大統領ら5万人行進―アゼルバイジャン****
アゼルバイジャンの首都バクーで26日、隣国アルメニアとの係争地ナゴルノカラバフ自治州ホジャリの「虐殺事件」から20年を迎え、犠牲者を追悼し、アルメニアを非難する大行進が行われた。
現地からの報道によると、アリエフ大統領をはじめ約5万人が参加した。

事件ではナゴルノカラバフ紛争が激化していた1992年2月25、26日、アルメニア系が多数派を占める同自治州でアゼルバイジャン系住民613人が殺害された。

アゼルバイジャン側は「アルメニア軍の仕業」と主張しており、行進の参加者はプラカードを掲げ「ホジャリ、(ボスニア・ヘルツェゴビナの)スレブレニツァ、ルワンダ、(シリアの)ホムスで起こった虐殺事件は繰り返してはならない」と国際社会に訴えた。【2012年2月27日 時事】
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今回のアルメニア、アゼルバイジャン両国の合意は、“平和協定の締結を目指し、協議を行うこと”の合意であり、これからの協議結果を保証するものではありません。
それにしても、長年対立を続けてきた両国が関係正常化に向けて1歩踏み出すことは、数少ない喜ばしいニュースのひとつです。

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