
(「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」戦闘員 http://www.liveleak.com/view?i=744_1377386471)
【ISILの勢力拡大 ザワヒリ裁定を拒否】
シリアで政府軍と戦う反体制派には、離反兵士を中心とする自由シリア軍、多くのイスラム系民兵組織、アルカイダ系イスラム過激派、更には独自の立場のクルド人組織など、多様な組織が混在し、自由シリア軍も必ずしも組織的に統一されていないことなどはよく指摘されるところです。
また、最近、こうしたイスラム過激派組織とクルド人組織、イスラム過激派組織と自由シリア軍など、各組織間の反目・戦闘行為が目立つことも報じられています。
こうした反体制派内部の混乱が、政府軍側を利していることは明らかです。
****シリア、クルド人勢力とイスラム武装組織が衝突****
シリアのクルド人勢力とイスラム武装組織が26日、イラクとの国境付近で衝突し、クルド人勢力が国境付近を掌握した。シリア人権監視団が活動家の話として明らかにした。この戦闘で、双方に複数の死者が出た。
シリア人権監視団によると、クルド人勢力は明け方、国際テロ組織アルカイダ系イスラム過激派組織の「イラク・レバント(地中海東岸地域)のイスラム国(ISIL)」、「アルヌスラ戦線」、およびその他の反体制派と衝突した後、イラクとの国境にあるAl-Yaarubiaの国境検問所を掌握したという。
クルド人勢力は、イラク北部にあるようなクルド人自治区をシリア国内にも作ることを目指している。このことが、シリアのバッシャール・アサド大統領の政権とイスラム教スンニ派主導の反体制派との戦いをさらに複雑にしている。
反体制派は数か月前から互いに銃を向けあうケースが増加しており、反体制派が広い範囲を支配下に収めた北部では、イスラム過激派の各勢力がシリア反体制派の主流である「自由シリア軍(FSA)」と戦っている。【10月27日 AFP】
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イスラム過激派組織にも、イラク拠点の「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」と、シリア人中心の「ヌスラ戦線」という異なる組織があり、このふたつの対立も表面化しています。
そこで、“本家”アルカイダの指導者ザワヒリ容疑者が両組織の調停に乗り出しています。
****ザワヒリ容疑者:シリアのアルカイダ系対立解消求める****
中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、国際テロ組織アルカイダの指導者ザワヒリ容疑者は8日までに、内戦状態のシリアで反体制派として参戦しているアルカイダ系組織同士の対立解消を求める声明を発表した。
シリアでは、イラク拠点の「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」と、シリア人中心の「ヌスラ戦線」が対立しており、アルカイダ組織内の混乱が背景にあるとみられる。
ISILは今年4月、ヌスラ戦線との合併を一方的に発表し、組織名にシリアなど地中海東岸地方を意味するレバントを加えて、シリア内戦に本格介入する方針を示した。
これに対して、ヌスラ戦線はISILとの合併を拒否する一方、ザワヒリ容疑者に忠誠を誓う声明を発表し、内戦では反体制派として別々に活動している。
一連の経緯について、ザワヒリ容疑者は「ISILはアルカイダに相談なく改称した。ヌスラ戦線も独断でアルカイダとの関係を公表した」と両組織の行動を非難。その上で、ヌスラ戦線を「シリアで活動するアルカイダ傘下の独立組織」と位置付けた。
ISILには改称前の「イラク・イスラム国」を名乗り、イラクを中心に活動するよう要求。両組織が資金や装備の面で協力するよう求めた。
ただISILは今夏以降、シリア北部や東部で支配地域を拡大し、支配権を巡って他の反体制派との衝突も頻発している。混乱するシリア経由で武器などをイラクに持ち込んでいるとの指摘もあり、ザワヒリ容疑者の指示に従うかは未知数だ。【11月9日 毎日】
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“ザワヒリ容疑者の指示に従うかは未知数”とのことですが、【朝日】報道では、シリアから手を引くように勧告された「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」はザワヒリ裁定を拒否したとされています。
****シリア内戦、アルカイダ系組織確執深まる 調停を拒否****
シリア内戦に参戦する国際テロ組織アルカイダ系のヌスラ戦線と「イラク・シリアイスラム国(ISIS)」の二つの組織の対立が表面化している。
アルカイダ最高指導者のザワヒリ容疑者が調停に入ったが、裁定も拒否され、逆にアルカイダの統一司令部の威信の低下も明らかになっている。(中略)
ISISのアブバクル・バグダディ指導者は「我々は目標を達成するまで戦い続ける」としてザワヒリ裁定を拒否した。ザワヒリ容疑者はビンラディン容疑者の死後、アルカイダ最高指導者についた。
今回の裁定は、シリアの2組織の対立を「アルカイダ統一司令部」の名の下に解決しようとしたもの。
しかし、裁定が拒否されたことでアルカイダ系組織の分裂と、イラクイスラム国の発言力が強まっていることが明らかになっている。【11月10日 朝日】
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「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」と「ヌスラ戦線」がどのように異なるのかは、まったく知りませんが、一般論で言えば、まがりなりにもこれまで宗派間の共存的な生活が存在した地域に、外からの原理主義勢力が入ってくると、地域の旧来の状況を一切考慮しない過酷な処断がなされる懸念があります。
その意味で、イラク拠点のISILはシリアから手を引くように・・・とのザワヒリ裁定は歓迎すべきものかもしれません。ただ、無視されればそれまでですが。
冒頭写真をコピーした動画では、ISILが走行中のトラックを停止させ、運転手がシーア派だと断じると、その場で処刑します。何のためらいもありません。(素人目には、わざとはずして撃っているようにも見え、本当の処刑シーンかどうか、さだかではありません。実際の射殺など見たことがないので)
なお、イスラム過激派組織にとっては、国際ブランドである“アルカイダ”との関係を打ち出すことは、組織の威信を高め、資金調達などにもメリットがあるということから、“自称”を含め各地の組織がアルカイダの“代紋”を求め、アルカイダネットワークが形成されています。
従って、アルカイダ関連組織と言っても、アルカイダの指揮系統下にある訳ではないことが多いようです。
【アルカイダ系組織拡大を警戒して、非アルカイダ系組織は連合組織結成】
一方、アルカイダ系過激派以外のイスラム民兵組織のなかには、現在の混乱状態を改善して、連合組織を形成しようとする動きがあります。
****シリアにイスラム系の連合組織****
内戦が続くシリアでアサド政権と戦う反政府勢力の分裂が際立つなか、イスラム系の7つの有力な武装組織が連合組織を結成したと発表し、劣勢が伝えられる戦況の巻き返しを図るねらいがあるとみられます。
シリアの内戦では、アサド政権の部隊が隣国レバノンのシーア派組織ヒズボラの軍事支援を受けて攻勢を強める一方、反政府勢力の軍事部門はさまざまな勢力が入り乱れて分裂が際立っています。
こうしたなかイスラム系の7つの有力な武装組織が22日、インターネット上に声明を出し、「イスラム戦線」という連合組織を結成したことを明らかにしました。
参加した武装組織の1つがNHKの電話取材に明らかにしたところによりますと、「イスラム戦線」は兵力が少なくとも1万数千人で、反政府勢力の軍事部門では最大勢力となります。
主力だった自由シリア軍とは協力関係にある一方、このところ影響力を増しているアルカイダ系の過激派とは距離を置くということです。
武装組織の報道官は「反政府勢力はこれまでバラバラで戦っていたために劣勢に立たされてきたが、結束することで巻き返しを図りたい」と述べ、今後、ほかの武装組織にも参加を呼びかけてアサド政権の打倒とイスラム国家の樹立を目指すとしています。
アメリカなどは反政府勢力を支援してきましたが、アルカイダ系に加えてイスラム国家の樹立を掲げる勢力も存在感を高めており、対応に苦慮することになりそうです。【11月23日 NHK】
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今回「イスラム戦線」に加わると発表したのは、下記のアラブ人主体の主要なイスラム系民兵組織6つとクルド人主体のイスラム系民兵組織1つです。
拠点とする地域が異なる組織が多いようです。
「タウヒード旅団」
アレッポ拠点「シャームの自由人」
サラフ主義「シャームの隼」
北部イドリブ拠点「真実の旅団」
中部ホムス拠点「シャームの擁護者たち」
北西部ラタキア周辺拠点「イスラーム軍」
ダマスカス拠点「クルド・イスラーム戦線」
今回の統合については、“要するに反政府軍の中の、アルカイダ系ではない勢力が(これで全部か否かは不明)が、イスラム国家とかヌスラ戦線の勢力伸長に脅威を感じて、統合したという性格のものではないかとおもわれ、イスラム軍の統合ではなく、むしろイスラム軍の中の色付けが明確になってきたというところでしょうか?”【11月23日 野口雅昭氏 「中東の窓」】との指摘も。
【シリアのアルカイダ系過激派に関する話題2件】
****シリアのアルカイダ系組織、誤って自派戦闘員に斬首の処刑****
内戦下にあるシリアの反体制派「シリア人権監視機構」は15日、政府軍と戦うアルカイダ系過激派が負傷した自派の戦闘員をアサド政権の支持者と勘違いし、斬首する処刑を行ったと報告した。
過激派の「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)の報道担当者は14日、インターネット上の声明で同組織の戦闘員が処刑に関与したと認めた。
その上で処刑の実行者への許しを乞い、反政府派支持者の自制と信心を求めた。
処刑は今週実行されたもので、同組織の戦闘員2人が北部アレッポで切断した首らしきものを群衆に示す画像もネット上で流れた。処刑された戦闘員はアサド政権軍との戦いで負傷していた。
ISISの声明によると、斬首された戦闘員は負傷して簡易治療所に運ばれた際、イスラム教シーア派の聖人の名前を叫んだことから、政府軍兵士と間違われたとみられる。アサド政権はシーア派系で、反体制派はスンニ派が主流となっている。
反体制派内では最近、過激派とより世俗的な武装組織との戦闘が激化。反体制派の内部結束を弱め、一般住民が戦闘に巻き込まれる被害も出ている。
人権団体や一部の反体制派はISISによる負傷した政府軍兵士に対する残虐な仕打ちを非難。
ISISは神を冒とくしたとして15歳少年に発砲したり、シャリア(イスラム法)に反する振る舞いをした女性に公開むち打ち刑を科すなどの行動を見せている。【11月16日 CNN】
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ISIS(ISILの改称前の組織名)も、一応は反省しているようです。
ただ、“イスラム教シーア派の聖人の名前を叫んだ”というのは、本当でしょうか?
もちろん、間違いにしろ何にしろ、負傷戦闘員の首を切断するというのは言語同断です。
“処刑の実行者への許しを乞い、反政府派支持者の自制と信心を求めた”というのは、間違えたことへの反省でしょうか、首を切ったことへの反省でしょうか?
****シリア内戦に英国人300人参加か、アルカイダ系組織と共闘の4人死亡****
英紙タイムズは21日、内戦下のシリアで国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派組織と共に政府軍と戦っていた英国人4人が死亡したと報じた。
タイムズによると4人は、10人ほどからなる英国人イスラム過激派グループのメンバー。うち3人はロンドン出身とみられ、8月にアレッポ近郊でバッシャール・アサド大統領の政府軍と戦闘中に死亡し、残る1人はその2週間後、大統領派部隊の拠点を奇襲する作戦で死亡したという。
4人が所属していたグループは、別の20人規模の英国人グループと合流し、アルカイダ系イスラム過激派組織「アルヌスラ戦線」と共同戦線を張っていたという。
英国内の治安維持を担う情報局保安部(MI5)は、シリアで戦闘に参加するためにシリアに入国した英国人の若者は200〜300人に上るとみており、こうした過激派が英国内でイスラム教への改宗者を募ったり、英本土でテロ攻撃を行ったりする可能性があるとして懸念を示している。
タイムズが取材した英治安情報筋は、「これらの若者たちのうち、内戦初期に(シリアに)渡った何人かは英国に帰国し、他の若者たちに過激思想を広げては、新たな仲間を従えて再びシリアに向かっている」と指摘している。【11月22日 AFP】
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イスラム系住民が多い欧米にあっては大きな問題ですが、アサド政権が倒れ場合、イスラム過激派の影響力は飛躍的に増大すると思われ、こうした欧米社会へのフィードバックも更に深刻化するでしょう。