
(テレ朝news http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000016684.html)
【双方の不信解消に向けた一歩】
イラン核問題をめぐる「第1段階」措置の合意内容は、以下のように報じられています。
****イラン核、濃縮制限合意 経済制裁一部を緩和****
スイス・ジュネーブで20日から続いていたイラン核問題をめぐる協議で、国連安全保障理事会5常任理事国にドイツを加えた6カ国とイランは24日未明、核問題の包括的解決に向けた「第1段階」の措置で合意した。
イランは軍事転用が懸念されるウランの濃縮活動などを制限する一方、6カ国は同国への経済制裁の一部を緩和する。2006年から続く核協議で本格合意に至ったのは初めて。双方の不信解消に向けた一歩となる。
オバマ米大統領は合意を受け、「初めてイランの核計画の進展を止めた」と意義を強調。イランのロウハニ大統領は「新たな展望を開くものだ」と評価した。
第1段階の実行期間は6カ月。米側発表では、イランは
5%超のウラン濃縮活動を停止
保有する20%の濃縮ウランを軍事転用が困難な形に加工
プルトニウム抽出につながるアラクの研究用重水炉建設を中断
(4)国際原子力機関(IAEA)にナタンツ、フォルドゥの濃縮施設への徹底した査察を容認−する。
一方、6カ国側は、
金・貴金属類や石油化学製品の取引制限を一部停止するほか、イランが石油販売関連収入のうち最大42億ドル(約4200億円)の送金を受けとることを認める。
制裁緩和は総額約70億ドル(約7千億円)相当。イランが合意を順守する限り、6カ月間は追加制裁を科さない。
今回の合意は暫定的なもので、「第1段階」以降の具体的な取り組みについては示されていない。
これまでの協議ではイランがウラン濃縮の権利を主張、核兵器開発を疑う欧米が反対してきた。
米側が発表した今回の合意内容には、イランが求めていたウラン濃縮の権利は明記されていないものの、6カ国側は、5%までの低濃縮ウランの製造は事実上容認した。【11月25日 産経】
*****************
【「核開発はとにかく金がかかる。縮小は一石二鳥だ」】
今回の合意に至った背景に、国連および欧米側の経済制裁によるイラン経済の疲弊があることは周知のとおりです。
****イラン核合意 ロウハニ政権“成果”****
米欧など6カ国との今回の合意でイランのロウハニ大統領は、最低限のウラン濃縮活動を認めさせることで面目を保ちつつ、本格的な制裁緩和に一応の道筋をつけた。
就任から約3カ月半で「外交的成果」を挙げたことは政権基盤の強化につながるとみられるが、米欧を敵視する国内の強硬保守派の反発を抑えながら、今後も合意を積み重ねていけるかは不透明だ。
◆制裁緩和に道筋
「神の恩寵(おんちょう)と国民の支持が協議の成功につながった」。イランのメディアによると、最高指導者ハメネイ師は24日、こう述べて合意内容を歓迎した。
イランに対しては国連安全保障理事会が4度の制裁決議を採択しているほか、米国や欧州連合(EU)が金融や石油産業への制裁を科している。
原油輸出は現在、2012年初めの半分以下に低下、この期間の損失額は800億ドル(約8兆円)超とされる。通貨下落に伴うインフレも深刻だ。
こうした状況が、今年6月の大統領選で、制裁緩和の実現を掲げる穏健保守派のロウハニ師の当選につながった面は大きい。
米国を「敵」とみるハメネイ師が、核交渉ではロウハニ師の対話路線を支持した理由もここにある。
強硬保守派が多数派の議会も、世論の後押しを受けるロウハニ政権の外交政策を見守る姿勢をおおむね維持。
ラリジャニ議長は今月上旬、日本の岸田文雄外相との会談で政権を支える考えを繰り返し強調した。
◆譲歩なら弱腰批判
一方で、核エネルギーの自給自足体制は大国を自任するイランの宿願だ。
一部核施設への日常的な査察受け入れなど、合意で義務づけられた項目に反発が出る可能性もあるほか、今後の交渉で制裁緩和を急いで安易な譲歩をみせれば、議会から「弱腰」との批判を受けることも考えられる。【11月25日 産経】
*****************
単にイラン経済が疲弊しているから制裁解除を・・・という以上に、イランにとって核開発そのものが重荷になっており、開発負担を外国に肩代わりさせる形で開発規模を縮小したい・・・との思惑があるとのことで、興味深いところです。
****イラン譲歩、陰に財政難 前政権の核開発、重荷****
23日、各国外相が集い、最終調整がおこなわれたイランと米英独仏中ロ6カ国の核協議。イランと関係各国が歩み寄る背景には何があるのか。
関係6カ国との核協議でイランが柔軟な譲歩姿勢を見せる背景には、同国の深刻な財政難がある。
イランの歳入は7割以上が原油収入。米国が2011年の制裁で各国に「米国かイランか」の踏み絵を迫ると、大量に原油を買っていた日本や中国も輸入を制限し、輸出量は6割減った。
そんななか、アフマディネジャド前政権は核施設やウラン濃縮活動の拡大を続けた。核関連施設の稼働や維持のコストは増大し、大きな負担になった。
交渉の席で口にはしないが、6カ国から核開発の縮小や中断の要求をされたことは、イランには渡りに船だった。イラン政府関係者は「核開発はとにかく金がかかる。縮小は一石二鳥だ」と打ち明けた。
ロハニ大統領が8月に就任すると、政権内ではすぐに核開発の譲歩案が浮上した。この関係者によると、国際社会との融和を目指すというよりは、ウランの濃縮や燃料棒化など、核開発にかかるコストを他国に負担させるという発想が端緒になったという。
首都テヘランには研究炉があり、医療用アイソトープをつくっている。20%濃縮ウランが必要で、国際原子力機関(IAEA)の11月報告書によると、イランは196キロを貯蔵する。だが、燃料棒の形にしないと使えない。これには膨大な費用が必要だ。
そこで、核開発の監視を名目に、燃料棒化を他国に代替させる案が浮上した。相手国としてロシアを想定。
別に保有する5%以下の低濃縮ウランを20%に濃縮することも肩代わりさせるつもりだったという。
ただしイランは、低濃縮ウランの生産継続には強くこだわる。核技術の向上は国の基本政策で、米欧への融和を嫌悪する国内の強硬派を説得するためにも重要だからだ。(後略)【11月24日 朝日】
******************
【双方が都合よく解釈】
“イランには渡りに船だった”という事情なら、交渉はもっと簡単にまとまってもよさそうにも思えますが、実際のところは“低濃縮ウランの生産継続”をめぐって、かなり緊迫した展開もあったと報じられています。
****核協議 合意背景に1本の電話****
イランの核開発問題を巡るイランと欧米など関係6か国の協議で、最終段階で行き詰まっていた交渉を一気に合意へと動かしたのは、6か国側の外相が対応を協議するなかで、イランの交渉関係者からかかってきた1本の電話であったことが関係者の証言で明らかになりました。
スイスのジュネーブで行われた核開発を巡るイランと欧米など関係6か国との協議は、5日間にわたるマラソン協議の末、24日未明、イランの核開発を制限する見返りに、制裁の一部を緩和する第1段階の措置で合意しました。
しかし、交渉関係者によりますと、23日に6か国の外相が現地入りした時点では、大半の部分では合意がまとまっていたものの、イランが強く主張したウラン濃縮の権利を認めるかどうかなどを巡って溝が埋まらず、協議は最終段階で行き詰まっていました。
そのまま24日未明に入り、EU=ヨーロッパ連合のアシュトン上級代表と、6か国側の外相が集まって対応を協議していたところ、突然、イラン側の交渉関係者から1本の電話があり、この電話によって6か国側は合意できると確信したということです。
電話の内容は明らかにされていませんが、今回の合意文書では第1段階の措置としてはイランにウラン濃縮の権利を認めると明記していない代わりに、包括的な解決策となる最終段階の措置についての部分に条件付きで濃縮活動を認めると記してあり、こうしたぎりぎりの駆け引きが、初めてとなる合意につながったとみられています。【11月25日 NHK】
*******************
この玉虫色の合意については、
“イランが「譲れない一線」として求めたウラン濃縮活動の「権利」は、米側が発表した合意内容には明記されなかったが、5%までのウラン濃縮活動に関しては事実上、保有量を制限した上で“黙認”した。
イランのロウハニ大統領はこれを踏まえ、「権利が認められた」とし、ケリー氏は「権利があるとはしていない」と否定。合意ではあいまいな形で双方が歩み寄ったのが実情だ。その扱いは今後も最大の焦点になるとみられる。”【11月25日 産経】とも。
****米・イラン、重ねた譲歩 核協議、制裁一部緩和で合意 濃縮巡る解釈にずれも****
・・・・争点の一つは、3・5%以下の低濃縮ウランの生産だった。米国はすべてのウラン濃縮活動を6カ月間停止するよう求めたが、民生用核開発を国の基本方針に据えるイランは反発。生産の継続に加え、ウラン濃縮の権利を認める文言を合意文書に盛り込むことにこだわった。
結局、文言は文書の中に入らなかった。
ケリー氏は合意後の会見で「(文書は)イランにウラン濃縮の権利があるとは書いていない。どんな解釈がされようともだ」と強調。
一方、ザリフ氏は「核開発の権利が認められた」とし、文言がない理由を「核不拡散条約(NPT)で認められた権利で、あえて書く必要がない」と説明した。
双方が都合よく解釈できる余地を残したもので、ともに譲歩したことがうかがわれる。
背景に、両国の接近を望まない勢力をともに抱えている事情がある。
米国は議会、サウジアラビアなど湾岸諸国やイスラエルだ。イランはイスラム体制の擁護を任務とする軍事組織・革命防衛隊など強硬派が融和を嫌う。米国もイランも譲歩したのは相手方だと示す必要があったとみられる。(後略)【11月25日 朝日】
********************
衝突する互いの利害の調整が外交交渉ですので、ときにこうした、お互いが都合のいいように解釈する“玉虫色の合意”も必要になります。
そこを明確化せよと迫れば、交渉が破たんし、世界の安定は崖から転落することにもなります。
なお、現段階での合意では“玉虫色”ですが、発表された「共同行動計画」では、最終着地地点について明記されています。
****限定的な濃縮容認=平和目的の証明で―イラン核協議****
米国務省は24日、イランの核開発問題をめぐって欧米など6カ国とイランが合意した「共同行動計画」を公表した。行動計画は、最終的に核開発が平和目的であると証明されれば、同国に限定的なウラン濃縮活動を認め、国連安保理による全ての制裁を解除すると明記している。
行動計画は、核協議の目標について「イランの核開発計画が完全に平和目的であることを証明する包括的な解決を得ること」と規定。包括的な問題解決によって、イランは核拡散防止条約(NPT)の下で「核の平和利用の権利」を享受できるとしている。【11月25日 時事】
******************
【米議会、懸念や批判噴出】
ただ、アメリカ議会のイラン不信は強く、「双方の釣り合いがとれていない合意であり、失望した。イランは制裁が緩和される間だけ核能力を凍結しておけばいいだけだ」(与党・民主党、上院ナンバー3のシューマー上院議員)といった不満・批判が出ています。
****米議会の反発は必至****
「イランがこの機会をつかめば、(米国との)相互不信を取り除くきっかけにすることができる」
協議4日目、約16時間のマラソン交渉で真夜中に合意に達した直後、オバマ米大統領はホワイトハウスで演説し、30年来のイランとの「敵対関係」の改善に一歩かじを切ることへの思いをにじませた。
「我々はすでにルビコン川を渡った」。米政府高官は、オバマ氏が9月末、イランのロハニ大統領と直接対話したことをこう表現していた。
米国が対イラン制裁の一部緩和に踏み込んだ背景には、「欧米側に時間がなかった」(英フィナンシャル・タイムズ)との側面もある。
イランが今のペースでウラン濃縮を続ければ、来年中には核兵器の製造が可能な状態になるとの見方もあった。暫定的な合意ではあっても、ウラン濃縮を止める必要に迫られていた。
イランがひとたび核武装すれば、中東で核開発競争が起きるというのが、米国が恐れる最悪のシナリオだ。地域諸国の勢力均衡が崩れ、サウジアラビアやトルコなども「核クラブ」の仲間入りを目指す、との見方も少なくない。
合意では、イランに対して半年は新たな制裁を追加しないと約束したが、米議会の反発は必至。
米下院外交委員会のロイス委員長(共和党)は合意発表後すぐ「(イランは)核兵器を製造する重要な能力を維持したままだ」と批判。米国や同盟国の安全が守れないとし、ケリー国務長官に直ちに説明を求める考えを示した。
さらに、イランが合意を守らなかった場合の米政権への打撃は計り知れない。このため、米国はイランが求める原油制裁などの解除には慎重にならざるを得ず、イランとの交渉が今後難航する可能性もある。【11月25日 朝日】
*****************
個人的には、大量核保有国であるアメリカの“アメリカの核はよくて、イランの核は悪い”という論理には受入難いものがあります。基本的にはイランの核も、アメリカの核も五十歩百歩に思えます。
もちろん、核バランスへの配慮は現実世界の安定に必要でしょうし、中東での核開発競争の懸念もわかりますから、イランに自制を求めるというのはあるでしょうが、それを核保有国である自分たちが強いることについて、もう少し後ろめたげに、恥ずかしげにやってもらいたいものです。
また、“イランは信用できない。黒白はっきりせろ”というのは、結局、相手を力でねじ伏せないと気が済まない強者の驕りを感じます。
シリアの化学兵器問題やイラン核開発問題では、アメリカ・オバマ大統領の妥協を“弱腰”“アメリカの指導力が失われた”と批判する向きが多々ありますが、力づくではなく交渉でという方向は間違っていないと考えます。
今後に向けて、米議会、イスラエルやサウジアラビア、イラン保守強硬派などの抵抗で、紆余曲折があるであろうことは言うまでもありません。