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“さまよう”アメリカの原子力空母「カール・ビンソン」 「実は北朝鮮に向かっていなかった」

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(空母カール・ビンソン打撃群は先週末、インド洋にいたことが分かった(今月14日に撮影された打撃群)【4月19日 BBC】)

【北朝鮮ミサイル失敗は「意図的」?】
北朝鮮をめぐる情勢は、先制攻撃、斬首作戦、報復攻撃・・・・等々、物騒な話が飛び交う緊張状態にありますが、実際、もし有事となると日本にとっても、在日米軍基地への攻撃、在韓邦人の帰国・救出、混乱拡大による半島からの大量の難民、後方支援する日本への直接報復・・・等々、深刻な事態を惹起します。

そうしたなかで、懸念されていた金日成(キム・イルソン)主席の生誕105年の記念日である4月15日は、軍事パレードで新型ミサイル等を誇示しつつも、ピョンヤンからはことさらのように祝賀ムードが発信され、北朝鮮兵士にも緊張感は見られない状況が報じられています。

翌日の16日にはミサイルが発射されたものの、失敗に終わっており、今までのところはなんとか・・・というところです。今後、核実験が強行されれば、また緊張が高まりますが。

16日のミサイル発射失敗については、発射したことで北朝鮮の“顔もたち”、失敗したことでアメリカも特に行動しない、アメリカが問題視しなければ中国も平静を保つ・・・ということで、結果的には“丸く収まる”形にもなりました。

そうしたことから「意図的な失敗」といった穿った見方もあるようですが、どうでしょうか・・・?

****【北ミサイル】米を過度に刺激しないよう「意図的な失敗」の見方も 新浦から発射は再び不成功****
北朝鮮が今月5日に続き、16日にも同じ咸鏡南道(ハムギョンナムド)新浦(シンポ)付近から弾道ミサイルを発射した。前回は約60キロ飛び日本海に落下。今回は発射直後に爆発し失敗した。(中略)
 
今月の2回の発射失敗について、警戒する米軍がサイバー攻撃で妨害したのではないかなどとの憶測が出ている。一方で、米国を過度に刺激しないように「意図的な失敗」との見方もある。
 
北朝鮮は15日に金日成(キム・イルソン)主席の生誕105年の記念日を迎え、軍事パレードで大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられる新型ミサイルや「北極星2」を誇示した。その直後の失敗は極めて不自然なためだ。
 
また、北東部の咸鏡南道、豊渓里(プンゲリ)では核実験の兆候が見られ、北朝鮮自らが最高指導部(金正恩=ジョンウン=朝鮮労働党委員長)の決断次第で核実験を行うと断言している。しかし北朝鮮は核実験に依然踏み切れていない。
 
背景にうかがえるのは米国による圧力だ。6日にシリアを攻撃した米国は原子力空母を朝鮮半島周辺に向かわせ、核実験を強行した場合の先制攻撃の可能性をちらつかせている。米国の圧力を、金正恩政権は脅威に感じているとみられる。
 
一方で、パレードで軍事力を見せつけ、ペンス米副大統領の訪韓に合わせ米国を牽制(けんせい)するかのようにミサイルを発射した。北朝鮮は言葉やミサイル発射で米国を挑発し、瀬戸際外交を続ける。

米朝間でエスカレートする圧力と挑発の連鎖の中、暴発する可能性もあり中国の動向も注目される。【4月16日 産経】
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もし本当に「意図的な失敗」ということであれば、北朝鮮には随分頭がいい作戦立案者がおり、何よりも、国際社会が注目する中であえて失敗してみせることを金正恩委員長が選択したということであれば、恐るべき卓越した指導者ということにもなります。

逆に言えば、“そんなことはないんじゃないか・・・?”とも思えます。

【朝鮮半島有事に反応する日本・中国 自制を求める韓国】
記事にあるように、アメリカ・トランプ大統領が原子力空母「カール・ビンソン」を朝鮮半島に差し向けたということで、日本を含めた世界の緊張は高まりました。

日本・安倍政権は当然のごとく、朝鮮半島有事に備えた発言を繰り返すにのに対し、“ソウルが火の海になりかねい”とも思われる韓国は、日本の反応に反発するという、ねじれた奇妙な構図ともなっています。

****「安倍首相、誤解を招き得る言及は自制すべきだ」 難民流入の対処策に韓国外務省 メディアは「慰安婦像の腹いせ」****
安倍晋三首相が朝鮮半島有事の際に予想される日本への難民流入の対処策を検討していることを明らかにしたことに対し、韓国外務省報道官は18日の定例会見で「仮想の状況を前提とし、誤解を招き、平和と安定に否定的な影響を及ぼし得る言及は自制すべきだ」と不快感を示した。
 
韓国人記者の質問に答えたもので、韓国メディアからは「外交的に相当な問題発言だと思うが、憂慮や遺憾の表明をしたのか」といった質問も出ていた。
 
韓国では、北朝鮮情勢をめぐり日本が警戒していることに対し、「日本が危機をあおっている」との批判がメディアなどで相次いでいる。18日付の朝鮮日報は社説で「緊張をあおるような低水準の稚拙な言動といわざるを得ない」「慰安婦像に対する感情的な腹いせにしか聞こえない」と曲解し、日本側の危機意識を理解しようとしていない。
 
北朝鮮と直接軍事的に対峙(たいじ)しているはずの韓国では、なぜか現実的な危機感がほとんど感じられない。【4月18日 産経】
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****日本が朝鮮半島有事の自衛隊派遣に言及、韓国やロシアから批判的な声*****
2017年4月19日、環球時報によると、稲田朋美防衛相が朝鮮半島有事の際に自衛隊派遣の可能性に言及したことについて、海外メディアから批判的な声が上がっている。

稲田防衛相は18日の衆議院安全保障委員会で「仮に朝鮮半島で邦人などの退避が必要な事態に至り、民間定期便での出国が困難となった場合は、自衛隊法に基づく在外邦人の保護措置、輸送の実施を検討する」と語った。また、北朝鮮の発射したミサイルが日本の領海内に落下した際、「武力攻撃切迫事態」に認定して自衛隊への防衛出動の発令を可能とすることを日本政府が検討しているという。


記事によると、これについて韓国KBSテレビは「最近、日本政府は朝鮮半島問題において過度に緊張ムードを広めている。日本国内における朝鮮半島問題への関心が高まり続ける中、最新の世論調査では安倍晋三首相の支持率が下げ止まり、回復したことが明らかになった。安倍首相は北朝鮮が長期的な脅威であると強調し続けることで、日本の軍備強化の目的を得るとともに、憲法第9条の改正ムードを作ろうとさえしている」との見方を示しているという。

また、ロシア紙Utro Rossiiも18日、「もし日本が本当に自衛隊を朝鮮半島に派遣するようなことがあれば、第2次世界大戦終結後初の『軍事侵略の発動』になる。朝鮮半島情勢は日本により大きな軍事的欲望をもたらしている。昨年自衛隊の国外での軍事行動を認める法案を可決し、現在また北朝鮮への攻撃の用意があることを明かした。朝鮮半島の緊張が激化するなかで、日本の挙動は非常に危険なシグナルだ」と報じているという。【4月19日 Record China】
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日本の反応、韓国の反応、どちらが・・・という話は今回はパスします。後述のように、別の問題がありますので。

緊張に反応しているのは日本だけではないようです。中国も有事を想定した反応を示したとも報じられています。

****中国、中朝国境で「緊急24時間態勢」 放射性物質など拡散に対応、半島有事を想定か****
北朝鮮の金日成主席生誕105年の記念日(15日)を前に、中国当局が中朝国境に近い東北部で、放射性物質や化学物質の拡散を想定した緊急の24時間即応態勢を敷いていたことがわかった。

6回目の核実験に踏み切る構えをみせる北朝鮮に対して米国が軍事圧力を強める中、朝鮮半島有事への強い危機感を中国側が抱いていた実態が浮かんだ。

北朝鮮と国境を接する遼寧省内の地方政府が14日付で、北朝鮮の核問題に関する「緊急通知」を関係部局に出していた。通知は、北朝鮮で放射性物質や化学物質による「突発事件」が発生した場合に「わが国の環境安全と公衆の健康に影響や損害が生じる可能性がある」と指摘。上級部門の指示により即日、地方政府全体が「緊急待命状態」に入ることが明示された。(後略)【4月17日 産経】
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万一、北朝鮮の核施設や化学兵器施設が米軍に攻撃された場合、その被害は隣接する中国に及びます。(アメリカの軍事行動が制約されるひとつの理由でもあります)

【実際は反対の方向へ向かっていた原子力空母「カール・ビンソン」 伝達ミス? 攪乱戦術?】
上記のように関係国は“万一”の有事に反応したのですが、緊張を高める重要な要因ともなった米海軍の原子力空母「カール・ビンソン」は、実は朝鮮半島には向かっていなかった・・・ということが明らかになっています。

****空母カール・ビンソン北上していなかった。大幅に遅れて朝鮮半島へ****
アメリカ政府当局は4月8日、アメリカの原子力空母「カール・ビンソン」を中心に編成した空母打撃群が北朝鮮付近の海域へ向かっていると説明していたが、実際は反対の方向へ向かっていたことがわかった。ニューヨークタイムズと軍事専門サイト「ディフェンス・ニュース」が報じた。

アメリカと北朝鮮の緊張が高まる中、アメリカ太平洋軍は4月8日「空母カール・ビンソン打撃群は本日シンガポールを出発し、西太平洋北部に向かう」と発表した。その時アメリカ当局はロイター通信に対し、朝鮮半島への空母派遣は金正恩政権に軍事力を誇示するものだと述べた。

その翌日、H・R・マクマスター補佐官(国家安全保障担当)は、「慎重に」軍事力を示すために空母をシンガポールから朝鮮半島に針路変更させたとFOXニュースに語った。

新しい針路を発表してからわずか数日後、ドナルド・トランプ大統領は4月12日、FOXニュースに「我々は非常に強力な艦隊を送り込んでいる。空母よりはるかに強力な潜水艦もある」と強調した。

「我々には世界最強の部隊がいる。そしてこう言おう。『彼は間違っている』」と、トランプ氏は金正恩・朝鮮労働党委員長について言及した。

しかしディフェンス・ニュースは18日、アメリカ海軍が公開した写真から空母は15日に朝鮮半島から3500マイル(5632km)離れたインドネシアのスンダ海峡を通過していたと指摘。空母が朝鮮半島に向かっているとアメリカ当局が発表していた頃、実際には北朝鮮から遠ざかっていたと、ニューヨークタイムズが18日に確認した。

その後空母は針路変更したが、当初の予定よりも大幅に遅れて到着する見込みだ。

CNNのジム・アコスタ氏は、ある政府関係者が通信の行き違いによる混乱を批判したとツイートした。ホワイトハウスはコメントの求めに対し、すぐには応じなかった。【4月19日 The Huffington Post】
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トランプ大統領、マクマスター補佐官(国家安全保障担当)、マティス米国防長官、スパイサー米大統領報道官などが重ねて朝鮮半島に原子力空母「カール・ビンソン」が向かっていることをアピールしていたにもかかわらず、そのとき実際は反対方向に航行していた・・・・「なんのこっちゃ???」という話です。

トランプ大統領の事実に基づかない怪しい発言、朝令暮改する発言は毎度のことではありますが、これは“戦争”にも拘わる重大なことで、周辺国が敏感に反応している問題だけに、事実関係を説明してもらいたいものです。

“BBCのスティーブン・エバンズ特派員は、朝鮮半島に向かっていなかったのは、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長を威嚇するのための意図的な嘘だったのか、それとも計画が変更されたのか、あるいは単純に意思伝達がうまくいかなかったのか、理由は不明だと語った。”【4月19日 BBC】

****米空母「実は北朝鮮に向かっていなかった」判明までの経緯*****
・・・・CNNは、国防総省とホワイトハウスの間に連絡ミスがあったとの見方を伝えている。これだけ緊迫した状況下で本当にミスだったのか。ドナルド・トランプ大統領が得意とする「ディール(交渉)」の一環で流した錯乱情報なのか。日本や韓国の当局者は知らされていたのか――。(中略)

「実際には朝鮮半島に向かっていなかった」と米メディアが報じ始める。カール・ビンソンはインド洋でオーストラリアとの合同演習を終え、現在は「指令どおり、西太平洋に向かっている」と米太平洋軍が説明。

ホワイトハウス当局者はニューヨーク・タイムズに「国防総省からの助言を当てにしてきた」と釈明。太平洋軍によるタイミングの悪い初期の発表や、マティス国防長官による説明ミスなどが積み重なって、朝鮮半島へ向けて航行中との誤ったストーリーが広がったのだという。

謎はまだ多いが、おそらくはトランプ政権内での伝達ミスに、メディアによる過熱報道が加わって、誤まった情報が拡散していったのではないか。ただ問題は、朝鮮半島危機が終わっていないことだ。

今ごろは北朝鮮当局者も「空母がまだ到着していないこと」を知っているはず。これから事態はどう動くのか。カール・ビンソンは今月中には朝鮮半島近海に入るとみられている。【4月19日 Newsweek】
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詳細はわかりませんが、“伝達ミス”だとしたら、こんな重大な問題でとんでもない話です。ありえないことにも思えますが、ミスというのは後から考えれば“ありえない”ことばかりです。

トランプ流の情報攪乱戦術だとしたら、日本政府はどの時点で知らされたのでしょうか?知った上での有事関連発言でしょうか?こんなことを繰り返していたら、“同盟国の国民”もアメリカの言動を信頼できなくなります。

韓国の反応の“鈍さ”あるいは“冷静さ”は、アメリカから知らされていたからでしょうか?

【トランプ大統領「韓国は中国の一部」】
その韓国に関して、トランプ大統領から(韓国にすれば)“ありえない”発言も。

****トランプ氏の「韓国は中国の一部」発言に反発=韓国政府****
トランプ米大統領が中国の習近平国家主席と首脳会談で交わした対話の内容を伝え、「韓国は中国の一部」と発言し、波紋が広がっていることについて、韓国の外交部当局者は「一考の価値もない」と強く反発した。

同当局者は「報道内容が事実かどうかと関係なく、数千年間の韓中関係の歴史で韓国が中国の一部ではなかったことは、国際社会が認める明白な歴史的事実であり、誰も否認できない」と強調した。

トランプ大統領は米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、「習主席が(6〜7日の米中首脳会談で)中国と朝鮮半島の歴史について話した。数千年の歴史と数多くの戦争について。韓国は実は中国の一部だった」と述べた。

習首席が実際に会談でトランプ大統領に述べたのか、トランプ大統領が誤解し、誇張して表現したのか、通訳ミスなのかは確認できていない。【4月19日 ソウル聯合ニュース】
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本来ならば“「一考の価値もない」と強く反発”ぐらいでは済まない問題発言です。

一方、中国・習近平主席に関しては、トランプ大統領は極めて高い評価を示しています。

****トランプ米大統領、中国「為替操作国」見送りは「態度軟化ではない」****
2017年4月19日、米ボイス・オブ・アメリカの中国語ニュースサイトによると、トランプ米大統領はFOXニュースが18日放映したインタビューで、中国を制裁対象となる「為替操作国」に認定しなかったことについて「中国への態度が軟化した」との指摘を否定した。

トランプ大統領は、「習近平(シー・ジンピン)国家主席は北朝鮮の核脅威を大きな問題だと把握し、現在それに対処している。中国が深刻な問題に取り組んでいる最中に、為替操作を持ち出して彼らを殴るとでもいうのか」とし、「ドナルド・トランプが中国に対する姿勢を変えていると言っているのは数だけの偽メディアだ」と語った。

また、中国税関当局が北朝鮮からの石炭貨物を送り返すよう中国国内商社に命じたことについて「習氏はとても入念に取り組んでいる。北朝鮮からの石炭貨物がたくさん送り返された」とし、「中国が米国のためにあれほど前向きな立場を取るのを目にしたのは誰もいない」とも語った。【4月19日 Record China】
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アメリカのためにかつてないほど前向きに取り組んでくれる中国・習近平政権に、中国の一部である韓国および東アジアはまかせる・・・というのが、トランプ大統領の頭の中でしょうか。

ベネズエラ  大規模反政府デモで広がる混乱 強引な延命で国際的孤立を深めるマドゥロ政権

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(ベネズエラ・カラカスで行われたマドゥロ大統領に抗議する大規模な行進(2017年4月19日撮影)【4月20日 AFP】)

【19日デモで2名、4月では7名が犠牲】
南米ベネズエラ・マドゥロ政権の無理な価格統制やバラマキ、そして主要輸出品である原油の価格下落による経済破綻(物価上昇、食料・日用品・医薬品の品不足、通貨下落、財政逼迫)、また、そうした状況への国民不満を押さえつけての強権的な居座りについては、これまでもしばしば取り上げてきたところです。

2016年12月16日“ベネズエラ 崖っぷちのマドゥロ大統領 紙幣切り替えで経済混乱”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161216
2016年9月22日“ベネズエラ  大統領罷免の国民投票を越年し体制延命を画策 マドゥロ政権から距離を置く国際社会”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160922など

民主主義本来のルールからすれば、とっくに政権交代が起きているべき状況ですが、マドゥロ大統領は国民の罷免要求も強引な手法で封じ込めています。

出口をふさがれた国民の不満は大規模反政府デモという形で噴き出していますが、マドゥロ大統領は故チャベス前大統領が1999年に開始した左派の「ボリバル革命」を擁護するよう軍隊に命令を下してデモへの対抗姿勢を明らかにしています。

19日のデモでは、投石するデモ隊に機動隊が催涙弾で応酬するなどの混乱の中で、何者かの発砲により2名が死亡。今月に入ってからでは7名の犠牲者を出す混乱状態に至っています。

****<ベネズエラ>複数の都市で大規模反政府デモ 数万人が参加****
AP通信は南米ベネズエラの複数の都市で19日、数万人が参加する大規模な反政府デモが起きたと報じた。

治安部隊が催涙ガスで鎮圧したが、騒乱に巻き込まれた市民2人が銃撃され死亡した。デモ参加者の死者は今月に入って7人となり、マドゥロ政権の強権化に拍車が掛かっている。
 
政権寄りの最高裁が3月末、野党が過半数を占める議会の機能を停止すると警告したのを契機に、国内では政権の独裁に抗議するデモが散発。19日は独立記念日の祝日で、野党がデモへの参加を国民に呼びかけていた。
 
一方、政府は首都カラカス市街地の地下鉄駅を封鎖し、デモ隊の結集を妨げた。デモ隊は移動した先の高速道路などで治安部隊と衝突し、催涙弾と石が飛び交う事態に発展。死亡した市民2人に誰が発砲したかは明らかになっていない。
 
ベネズエラのメディアによると、マドゥロ大統領はカラカスでの支持者集会で演説し、反政府デモを「テロ行為」と糾弾した。
 
産油国のベネズエラでは近年、原油価格の暴落に伴い外貨収入が激減した影響で、従来輸入に頼ってきた医薬品や食品の不足が深刻化。マドゥロ氏の支持率は20%まで下落し、早期退陣を求める世論が高まっている。
 
延命を図る政権は、与党の敗色が濃厚だった昨年12月の州知事・議会選を延期したうえ、今月7日には次期大統領選の野党有力候補であるカプリレス・ミランダ州知事の立候補資格も剥奪。

こうした強引な手法に周辺国政府は懸念を表明しているが、マドゥロ氏は内政干渉だと突っぱねて態度を硬化させており、混乱が収拾する見通しは立っていない。【4月20日 毎日】
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発砲の状況については、以下のようにも報じられており、治安部隊というより、政府支持者の関与が推測されます。

“目撃者によると、カラカスでは武装した政府支持者が反政府集会に近づき発砲した際、サッカーをしに自宅を出た男子学生(18)が頭部に銃撃を受けた。治安当局者3人はこの学生が搬送先のクリニックで死亡したと述べた。またサン・クリストバルでも、親族や目撃者によると、大学生の女性が射殺された。”【4月20日 ロイター】

また、人権団体によれば、19日のデモで400人以上が拘束されたとのことです。

【議会からの立法権剥奪 野党指導者の政治活動禁止】
政権への国民不満は今に始まった話ではなく、すでに2015年の総選挙では野党連合が与党に圧勝し、マドゥロ大統領は議会は対立を続けてきました。

これに対し、上記記事にもあるように、マドゥロ政権に近い最高裁は3月末、立法権を今後は最高裁が行使するとの判断を示しました。

さすがに、このような民主主義ルールを無視した“無法”は断念を余儀なくされています。

****<ベネズエラ>大統領、進む強権化 「立法権剥奪」は断念****
南米ベネズエラのマドゥロ政権が強権色を強めている。

野党が過半数を占める議会の機能を停止させ、立法権を最高裁に移そうとした動きは周辺国の批判を浴びて断念した。

だが国内には専制を防ぐ手段がほとんど残されておらず、マドゥロ大統領の任期が切れる2019年1月まで現状が続くことを、周辺国は懸念している。
 
「マドゥロはクーデターを謀った。これはまさに独裁だ」。ロイター通信によると、議会のボルヘス議長は3月30日、記者会見で大統領を糾弾すると、その場で最高裁の決定書のコピーを破り捨てた。
最高裁はその前日、議会が反政権的な態度を改めない場合、立法権を剥奪するとしていた。

野党議員の呼びかけに応じて31日には首都カラカスなど数都市で反政府デモが実施されたが、いずれも小規模で治安当局に即座に抑え込まれた。【4月2日 毎日】
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また、野党指導者のエンリケ・カプリレス氏の政治活動を15年間禁止するとの措置も。

****野党指導者の政治活動禁止命令か ベネズエラ****
南米ベネズエラで野党指導者のエンリケ・カプリレス氏は7日、政府から15年間の政治活動を禁止するよう命じられたと発表した。

カプリレス氏は過去2回、左派政権への対抗を訴え大統領選に出馬。2013年の選挙ではマドゥロ大統領に僅差で敗れた。経済が破綻状態にあるベネズエラは政府が野党勢力の締め付けを強めている。
 
カプリレス氏が自身のツイッターで明らかにした。ベネズエラ政府は公式見解を発表していないが、事実であれば18年に予定される大統領選への出馬を防ぐ目的とみられる。
 
マドゥロ大統領は、影響下にある最高裁を通じて野党が多数派を占める議会の機能を制限するなど、独裁色を強めている。カプリレス氏は反政府デモを主催するなど、野党勢力の象徴となっていた。【4月9日 日経】
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今回19日の大規模反政府デモは、こうしたマドゥロ政権な強引な弾圧・居座りへの国民批判として実施されたものです。

【中南米でも孤立 今後のカギとなる中国の支援】
マドゥロ政権の強引な延命には、中南米の周辺国からも強い批判が出ており、ベネズエラは孤立を深めています。

****米州機構、緊急会合でベネズエラに国会権限の完全回復求める****
米国や中南米諸国が加盟する米州機構(OAS)は3日、緊急会合を開いて国会の権限を一時的に停止したベネズエラへの対応を協議し、国会に完全な権限を回復することなどを求める決議を採択した。

民主統治の完全な回復に向け、マドゥロ大統領に対する地域の圧力が強まる中、OASのベネズエラ代表は会議を「クーデター」と非難し、席を蹴って会議場を後にした。

常設理事会の緊急会合は、マドゥロ政権下での民主制崩壊への懸念から、米国を含む20カ国の求めで開催された。

ベネズエラ最高裁は1日、国内外から非難の声が上がる中、野党が多数派を占める国会の権限を事実上停止した決定を取り消した。

OASのアルマグロ事務総長は会合で、ベネズエラをOASから追放するよう求めた。そうなれば、マドゥロ大統領の孤立はさらに深まることになる。

また、OAS加盟国は圧力手段として、ベネズエラに個別に制裁を科すことができる。

3日の会合はいったんキャンセルされたが、マドゥロ大統領に近い議長国ボリビアの反対にもかかわらず、ホンジュラスを議長国として午後に協議を開始した。

ベネズエラ代表は「会合の開催は不法だ。われわれはこれを拒否し、全世界に訴える。OASで起きていることはクーデターだ」と述べた。

会合では、ベネズエラに対し、国会の権限を完全に回復し、憲法に基づく法の支配と民主主義の実践による民主制の回復を求める決議が採択された。【4月4日 ロイター】
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孤立し、経済的苦境にあるベネズエラを支えているのが中国です。

****中国がベネズエラへの支援を続けるワケ****
いずれマドゥーロ政権は交代するので、中国はベネズエラへの支援を止めたほうが賢明であると、ベネズエラEl Nacional紙のダニエル・ロドリゲス氏が、2月15日付ニューヨーク・タイムズ紙で述べています。その要旨は次の通りです。
 
昨年、ベネズエラは、資産売却や輸入削減等、数々の犠牲を払って100億ドルに及ぶ国債等の利払いを行い、デフォルトを回避した。

しかし、それだけでは十分ではなく、中国の資金的支援が不可欠である。マドゥーロの政策が国際的孤立と人道的危機を招きながら、また、中国への石油による債務返済が滞るなかで、なぜ、中国は忍耐強くマドゥーロを支援し続けるのであろうか。
 
ベネズエラは、2001年に中国の「戦略的開発パートナー」となり、2014年には「包括的戦略パートナー」に格上げされた。

それ以来、中国は石油による返済を条件に600億ドルの融資を行い、600件以上の投資プロジェクトに出資している。

その見返りとして、中国企業はベネズエラ市場で優遇され、利益の上がるインフラ投資コンセッションを獲得している。中国からベネズエラへの輸出は、1999年の1億ドルから2014年には57億ドルに増加した。
 
中国がグローバルな役割を拡大しようとした際、ベネズエラとの同盟は、この地域に関与するための重要な足がかりを提供するものであった。

ベネズエラと同国の石油支援に依存する域内国の支援を得て、中国は素早く地域の主要なプレイヤーに成り上がり、米国を排除した金融機関や新たなパートナーシップを急増させ、台湾を制してOASのオブザーバー・ステイタスを獲得した。
 
原油価格の下落を受けて、ベネズエラの寛大な石油政策は過去のものとなったが、2014年に、中国が40億ドルの石油関係借款を供与し、翌年マドゥーロの訪中の際に多くの投資プロジェクトが発表されて以来、中国は、ベネズエラに恒常的に資金協力を行っている。
最近では国有石油会社に22億ドルの融資枠を提供し、食料や医薬品の配給のための数千台の車両を提供した。

反政府指導者は、政権が交代した場合、この借金はいったいどうなるのかとして中国に対し憤慨している。反政府派は、貸付条件が公表されずに承認された融資協定は無効であると主張している。
 
問題は単に債務だけではなく、反政府派が政権を取れば中国はベネズエラ市場やインフラ・プロジェクトから締め出されるリスクがある。それは、中国がカダフィに肩入れしたリビアで実際に起ったことである。ベネズエラでも、昨年12月の略奪騒動では中国人が経営する店がターゲットとなった。
 
今や中国がベネズエラを見捨てる時である。今日、マドゥーロを支持しているのは15%に過ぎないが、中国の支援がある限りマドゥーロ政権は生きながらえ、ベネズエラの苦しみは続く。

これを変えるためには、マドゥーロ支持派と折り合うことが不可能にならないよう、反対派が一致して妥協的なメッセージを送ること、そして、中国が腐敗した無能な政権を見放すことであろう。【3月20日 WEDGE】
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【WEDGE】は、上記ダニエル・ロドリゲス氏の主張に対し、以下のように論評しています。

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記事は、中国にマドゥーロ政権を見捨てるように呼びかけていますが、このままでは、2018年の大統領選挙で果たしてスムーズな政権交代が起こるのかも怪しいです。

トランプがTPPを廃棄し、メキシコと事を構える状況の中で、中南米では、中国は、「棚ぼた」的な勝利者であり、むしろ、この時とばかり同地域における影響力拡大に乗り出しています。

27億ドルの新たな投資案件
ベネズエラについては、石油価格が持ち直せば同国の利用価値は依然として大きく、中国は、つい最近、2月14日のハイレベル協議ではベネズエラ石油用の精油所の建設を含む22件、27億ドルの投資案件を約束しました。(後略)
【同上】
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ただ、昨今の状況を見れば、マドゥロ政権が極めて不安定な状況に追い込まれていることは明らかであり、債権国・中国もそのあたりのリスクを注視していることと思われます。

中国との契約は「借金の返済を原油で支払う」ということになっており、原油価格が下落すると債務返済に当てる原油量が膨らみます。

“インフレ率が800%に達し慢性的なドル不足状態にあるベネズエラ政府は、原油生産を続けるのに必要な契約の一部支払いができなくなっている。これにより原油生産量は過去13年で最低水準に落ち込んでおり、中国政府は「融資の返済としての輸入(未返済金額は約200億ドル)が滞るのではないか」と気が気でない。

このような状況を前にして、中国政府はベネズエラとの戦略的パートナーシップという方針を転換しつつある。(後略)”【12月16日 藤 和彦氏“歴史的減産合意でも産油国を待ち受ける「茨の道」” JB Press】


今後の中国の対応が、マドゥロ政権存続のカギとなっていますが、中国はベネズエラ国内の反政府運動の行方を見極めながら対応していくと思われます。

その国内の反政府運動については、野党側は今日20日にもデモ実施を呼び掛けていましたが、どうなったのでしょうか・・・・。

フランス  23日の大統領選挙直前のテロ事件 ルペン候補のソフト化路線は信用できるのか?

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(接戦の上位を走る中道系独立候補のマクロン前経済相(上)と極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首(下)
【4月21日 ロイター】)

【“異例の展開”で“異例の接戦”】
極右・ルペン候補の高い支持率もあって、今後の欧州・EU、ひいては世界情勢に大きく影響するフランス大統領選挙(あさって23日)が、二大政党候補がいずれも低迷する“異例の展開”、最終盤にきても主要候補が激しくせりあう“異例の接戦”になっていることは、連日の報道のとおりです。

****4候補、異例の接戦=23日第1回投票―仏大統領選****
フランス大統領選の第1回投票が23日、実施される。中道系独立候補のマクロン前経済相(39)と極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首(48)がややリードし、右派野党・共和党のフィヨン元首相(63)と急進左派・左翼党のメランション元共同党首(65)が僅差で追う展開。主要4候補が最終盤まで「異例の接戦」(仏メディア)を続けている。
 
大統領選には計11候補が出馬した。まだ投票先を決めていない有権者は4分の1程度に上るとされ、結果は予断を許さない。第1回投票ではいずれの候補も過半の票を得られない見込みで、上位2人による決選投票が5月7日に実施される公算が大きい。
 
仏BFMテレビが主要6社の世論調査を独自に総合した結果によると、20日時点でマクロン氏が25%の支持を得て首位に立ち、ルペン氏が22%、フィヨン、メランション両氏がいずれも19%となった。別の調査では各候補の差がさらに狭まっているケースもある。【4月21日 時事】 
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独走していたマリーヌ・ルペン氏を、左右の混乱・不振を背景に中道支持を集める形でマクロン前経済相が追い上げ、しばらくはこの“2強”状態でしたが、終盤にきて両者ともやや失速、右派のフィヨン元首相、急進左派のメランション氏がその差をつめる展開となっています。

ただ、あと2,3日を残すだけという段階で、上記のような支持率ということは、ルペン、マクロン両候補がなんとか逃げ切るのでは・・・とも思われますが、選挙はふたを開けてみないと・・・という話もあります。

【市場が懸念する“悪魔のシナリオ”「ボルケーノ(火山)リスク」】
極右ルペン候補が決選投票に進むであろうことは、以前から想定されていましたが、だれが決選投票で相手になるのか・・・が注目されてきました。

父親時代の文字通りの反ユダヤ極右から脱皮したソフトなイメージとともに、反移民・反EUの姿勢をアピールすることで高い支持率を得ているルペン候補ではありますが、やはり排他的“極右”イメージはぬぐい切れず、またEUやユーロからの離脱への不安もありますので、決選投票での勝利は難しい・・・というのが、従前からの一般的見方です。

ただ、そうは言っても、ひょっとするとトランプ現象のようなことがフランスでも起こるかも・・・という懸念(あるいは期待)も、ここ数か月囁かれているところです。

現段階で一番確率が高いのは、“ルペン対マクロン”の決選投票でマクロン氏が圧勝して、39歳の若い大統領誕生・・・というシナリオで、二大政党の基盤をもたないマクロン氏への不安はありますが、そういう結果になれば、ドイツなどの欧州諸国や市場関係者は、「まあこれなら・・・」と安堵するでしょう。

逆に、ドイツや市場関係者が恐れるのは、接戦状態の第1回投票の結果、決選投票でルペン氏とメランション氏が相対するという「悪夢」のシナリオで、市場には「ボルケーノ(火山)リスク」が広がっているとも言われています。

最上位層の所得税率を90%に引き上げることを掲げ、EU離脱にも前向きな考えを示す急進左派メランション氏ですが、市場関係者やエコノミストの間では、「EUやユーロ圏離脱はメランション氏にとって『プランB』だが、ルペン氏には事実上『プランA』だ」とし、やはりルペン氏のリスクが依然最も高いとも見られているようです。【4月21日 ロイター“仏大統領選、市場は極左候補より「ルペンリスク」警戒”より】

もっとも、極右ルペン対極左メランションの決選投票となると、保守層はむしろルペン氏へ親近感を感じるのでは・・・とも思え、“ルペン大統領”誕生の可能性も高まります。

【気が気ではないドイツも異例の干渉】
本来は他国の選挙へは干渉しないのがルールですが、ひとり矢面に立ち形でEUを牽引してきたドイツは、フランスの選挙動向が気が気ではないようです。

****【仏大統領選】「ポピュリスト阻止を」 独で“介入”相次ぐ****
フランス大統領選第1回投票が23日に迫り、ドイツでは極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首ら、反欧州連合(EU)を掲げる大衆迎合主義(ポピュリズム)的な候補の当選阻止を訴える要人の発言が目立ってきた。

大統領選は欧州の将来を左右するだけに、上位4候補の混戦が深まる中、募る危機感が異例の“介入”に走らせている。
 
シュタインマイヤー独大統領は14日、仏独メディアで「偉大なフランスの将来を約束する誘惑に耳を貸すな」と仏国民に訴え、「国家主義的ポピュリスト」の勝利に懸念を表明した。念頭にあるのはルペン氏だ。
 
ショイブレ独財務相はさらに険しい。12日のイベントでは急進左派系候補のメランション氏の支持率急上昇を受け、同氏とルペン氏による決選投票となれば、「フランス共和国の理性はなくなる」と言い切った。(中略)

ショイブレ氏は「私ならマクロン氏に投じる」とも踏み込んだ。身内の架空雇用疑惑を抱えるフィヨン氏が民主主義の根幹であるメディアや司法を批判する姿勢に疑問を持つためだ。メルケル首相の態度は不明だが、フィヨン氏だけでなく3月にはマクロン氏とも会談し、地ならしを始めた。
 
独側としてはこれまで相対的に影響力が突出し、批判の矢面になってきたとの思いも強く、仏側が改革などで国力を回復し、再びEU推進の両輪となることを望む。

ただ、政治経験が日浅いマクロン氏にも「フランスの国内問題を解決できるのか確証が持てない」(独専門家)と不安は根強い。【4月18日 産経】
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【討論番組の生放送中のテロ 影響は?】
そうした選挙戦最終盤にきて発生したパリ・シャンゼリゼでの発砲テロは、大統領選の全11候補が順にインタビューに応じる討論番組の生放送中に発生、各候補の治安対策に改めて注目が集まっており、今後の選挙戦への影響も指摘されています。

****<パリ警官銃撃>仏大統領選にも波紋 2陣営、運動中止****
パリで20日に起きた警察官の射殺事件は、目前に迫るフランス大統領選に備えて敷かれた厳戒態勢下で起きた。事件を受け、21日の選挙運動の中止を決めた候補者もおり、大統領選に影響を与えている。
 
大統領選は23日に第1回投票が行われる。事件を受けて、大統領選に出馬する極右政党・国民戦線のルペン党首と中道・右派候補の共和党のフィヨン元首相は21日に予定していた選挙運動を中止すると発表した。
 
各候補者が掲げる治安対策などに注目が集まり、投票行動に影響する可能性もある。(後略)【4月21日 毎日】
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“各候補はこれまでも、警官の増員や情報当局の再編・強化といった対策を掲げていた。だが首都パリでも随一の繁華街で起きた事件が、より強い対策、より強い大統領を求める動きにつながる可能性がある。”【4月21日 朝日】

テロ発生で一番支持率が高まるのは、反移民を主張してきたルペン候補でしょう。(その主張が正しいというわけではありませんが、テロへの不安感を高める国民感情にアピールしやすい面があります)

****ルペン氏が最後の大規模集会、他候補を強く非難 仏大統領選****
大統領選挙の第1回投票を週末に控えたフランスで19日、極右政党「国民戦線(FN)」のマリーヌ・ルペン党首が選挙戦最後の大規模な集会を行い、イスラム過激思想に影響されたテロから目を背けているなどとして他候補を強く非難した。
 
集会は、前日に襲撃を計画した疑いで男2人が逮捕されたマルセイユで開かれた。支持者およそ5000人を前に演説したルペン氏は、「選挙活動開始以降、一貫してイスラム過激思想に触発された恐ろしいテロリズムを非難してきた」と訴え、「対立候補は誰もこの話題を論じようとしない」と批判した。
 
ルペン氏は、他候補らが「この問題についてだんまりを決め込み、もみ消し、ごみを掃いてカーペットの下に隠すかのように遠ざけようとした」と指摘。

さらに、「他候補らが沈黙するのは恥を感じているからだ。脅威を減らすための措置を講じず、このような災いを悪化させる状況すら生み出した政府の一員もしくは指導者だったことの恥だ」と非難した。(後略)【4月20日 AFP】
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ただ、事件が比較的小規模に終わったことで、選挙情勢をひっくり返すようなところまでは至らないのでは・・・とも思われます。

【ルペン候補の「父も切り捨てた」ソフト化路線 しかし、党指導部には依然として・・・・】
ルペン氏はEU資金の不正流用疑惑の渦中にあって、欧州議員としての免責特権停止を巡る聴聞会が大統領選決選投票の直前に実施される可能性があるとも言われています。

ただ、やはり資金スキャンダルで大きく勢いをそがれたフィヨン前元首相などと違って、アメリカのトランプ大統領同様に、この種のスキャンダルでが支持者にほとんど影響しないという特徴があります。

マリーヌ・ルペン氏がは12011年、父の後継者として2代目党首となって以降、「脱・悪魔化」と呼ばれるイメージ戦略で、“父親をも切り捨てる”形で「異端」政党から大衆政党への脱皮を図るソフト化路線をとってきました。
現在の彼女の高支持率は、そうした路線の成功の証です。

“モヒカン頭でこわもてのネオナチを集会から締め出し、側近に元高級官僚を起用。地方選で候補の半数を女性にした。ユダヤ人団体に「私たちを恐れないで」と訴え、父親を党指導部から追放した。「われわれは右でも左でもない」と訴え、保革二大政党制を打ち破る新勢力だとアピールした。”【4月20日 産経 “国民戦線党首マリーヌ・ルペン 大衆政党へ「父も切り捨てた」”】

しかし、その“体質”というか、彼女を支える党指導部には旧来の“極右”的傾向が残っているとも指摘されています。

****極右ルペンの脱悪魔化は本物か****
<ファシズムとの決別を訴えて支持を拡大してきたルペンの国民戦線だが、党指導部には今も危険な面々が巣くう>

フランスの極右政党・国民戦線の党首で、大統領選候補のマリーヌ・ルペン(48)党首と、同党創設者である父親のジャンマリ。2人は今や言葉も交わさない険悪な仲のはずだった。

だが今年1月、非公開で行われた脱税疑惑をめぐる調停の場に、父娘は一緒に現れた。税務当局は、パリ西郊の高級住宅地モントルトゥーなどに一家が所有する不動産について、資産評価額を過少申告したと主張。これが事実なら、ルペンは巨額の税金の支払いを迫られ、金銭スキャンダルに見舞われるだけでなく、懲役刑を科されることにもなりかねない。

危機に陥ったルペンを擁護したのは、ほかでもないジャンマリだ。2人はモントルトゥーの地所と邸宅を共同で所有。ジャンマリは自身と娘の側の証人として、資産価値は当局の主張よりはるかに低いと述べた。その日、父娘は「礼儀正しく抱擁し合った」という。

国民戦線についてルペンが口にする主張と、激しく食い違う出来事だ。11年に自身が父親から党首の座を引き継いだのを機に、国民戦線は「脱悪魔化」を始めたと、ルペンは好んで語る。世代交代によって、反ユダヤ主義的で親ファシストの政党から生まれ変わった、と。

ところが4月上旬、そのルペンが問題発言をした。第二次大戦中、ナチス占領下のフランスで起きた仏警察によるユダヤ人一斉検挙事件について、「フランスに責任はない」と語ったのだ。つまり、国民戦線は何も変わっていないのではないか?

国民戦線は72年に、ジャンマリと極右ナショナリスト組織「新秩序」のメンバーによって結成された。支持者となったのは旧体制を懐かしむ人々やカトリック原理主義者、白人労働者層やスキンヘッドの人々だ。90年代に入る頃には、極左の反ユダヤ主義者も支持層に加わった。

ジャンマリはホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を否定する発言を繰り返し、人種差別的主張を激化させていったが、当時の支持者にとってはそれも許容範囲内だった。その一方でルペンは側近として、父親の扇動的な言動が支持層の拡大を妨げるさまを目の当たりにしていた。

顧問はヒトラーに心酔
ジャンマリは02年の大統領選第1回投票で予想外の2位につけ、フランス社会に衝撃を与えた。だが決選投票では、得票率82%のジャック・シラクに大差で敗れてしまう。

父親の失敗に学んだルペンは党首就任以来、反ユダヤ主義やネオナチとの決別路線を歩んできた。ユダヤ人差別的な発言をした党関係者を解雇してみせることもあり、15年には問題発言を繰り返した父親の党員資格を停止する大胆な行動に出た。

父親時代の自由市場寄りで小さな政府志向の政策も、10年ほど前からは保護主義的かつポピュリスト的な「経済ナショナリズム」路線に転換させている。イスラム教徒や移民に対しては強硬だが、反ユダヤ的発言はこれまで口にしたことがなく、同性愛者を嫌悪したジャンマリに倣うこともなかった。

こうした努力は実を結んでいるようだ。大統領選では、中道派無所属のエマニュエル・マクロン前経済相と支持率首位を争い、決選投票へ勝ち進むのはほぼ確実とみられている。

しかし4月23日に大統領選第1回投票が迫るなか、国民戦線のもう1つの顔が浮かび上がってきた。党指導部には、ヒトラー崇拝者や極右ナショナリストがひしめき、ルペンが大統領に選ばれた暁には政権幹部となるはずの側近にもそうした面々がいるという。

「ルペンに投票するつもりの有権者は、彼女が『自由の身』でないことを知るべきだ」と語るのは国民戦線の元幹部エメリック・ショプラード。彼は、ジャーナリストのマリーヌ・テュルシとマティアス・デスタルがルペンと国民戦線の内幕を調査した著書『マリーヌは何もかも承知だ』の取材にも応じている。

3月に刊行された同書や最近のメディア報道が注視しているのは、ルペンの古参の顧問フレデリック・シャティヨンだ。

週刊紙カナール・アンシェネの記事によれば、ルペンの大学時代からの友人であるシャティヨンはヒトラーに心酔。アルジェリア戦争記念式典でナチス式の敬礼をしたとして情報当局に目を付けられたことがあり、ヒトラーの誕生日を祝う仮装パーティーも主催している。

シリアのバシャル・アサド大統領周辺と商取引をしていることでも知られる。昨年流出したパナマ文書では、総額31万8000ドル以上のマネーロンダリング(資金洗浄)疑惑に関連する人物として名前が挙がった。

シャティヨンは12年の選挙の際、国民戦線のために不正な資金集めをした容疑で訴追され、党の活動に携わることを禁じられている。だが3月に報じられたところによれば、今もルペンの選挙対策チームの一員として報酬を受け取っているという。

国民戦線の元幹部らによると、シャティヨンはルペンに財務やコミュニケーション、外交政策に関する助言も行っている。シリア問題をめぐって、介入に反対するロシアや中国をルペンが称賛したのは、シャティヨンの見方に従った結果とされる。

シャティヨンは、国民戦線の資金調達の牽引役も担ってきた。とはいえその手法は問題含みで、複数の不正行為の容疑で捜査の対象になっている。

党内の派閥争いの行方は
注目の人物はほかにもいる。国民戦線の外郭団体ジャンヌの財務責任者で、イル・ド・フランス地方議会議員のアクセル・ルストー(彼も不正資金疑惑で起訴された)と、ルペンの最高顧問フィリップ・ペナンクだ。

2人はシャティヨンと同じく、過激な反イスラエル的主張のせいで解散を命じられた極右ナショナリスト団体の出身。ベルギーのファシスト政治家でナチス武装親衛隊員だった故レオン・ドグレルを崇拝し、生前に彼の元を訪れたこともある。

国民戦線内部で力を増す極右主義者の派閥は、比較的穏健派のフロリアン・フィリポ副党首が率いるグループや、ルペンの姪で保守派カトリックのマリオン・マレシャルルペンの一派と勢力争いを繰り広げている。

ショプラードによれば、シャティヨンらが影響力を持つのは「財務を牛耳っているから」。ルペンは彼らをかばい、その言動が党を再び「悪魔化」しているにもかかわらず、手を切ることを拒んでいるという。

ルペンの手腕で国民戦線のイメージは変化してきたかもしれない。だが、実態はどうか。有権者の多くは懐疑的な見方を拭えないと、国民戦線やその支持層の構図に詳しい歴史学者バレリー・イグネは指摘する。

フランス国外のメディアは、グローバリゼーションや主流政党に怒る左派や、就職難にあえぐ若年層が国民戦線支持に転じている点に目を取られがち。だが同党の支持者の大半を占めるのは今も、ジャンマリ時代の主張に共感する人々だ。

有権者の過半数は国民戦線を過激な極右と見なしているためルペンは大統領選で敗北すると、イグネは予測する。「フランス国民は愚かではない」

実際、世論調査によれば、ルペンは決選投票でマクロンに敗れる見込みだ。ただし得票率の差は、父親とシラクが対決したときよりもずっと縮まるだろう。

ルペンに必ず投票すると回答する有権者は、マクロンの場合よりも多い。愚かでないフランス国民の間にも、国民戦線が脱悪魔化したと信じる人はいる。【4月25日号 Newsweek日本語版】
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一方のマクロン候補に関しては、話が長くなるので、もし決選投票進むことになったら、その時点でまた。

インドネシア  宗教攻撃の標的となった華人・キリスト教徒のジャカルタ特別州知事、再選ならず

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(敗戦の弁を述べるアホック氏【4月20日 じゃかるた新聞】)

【シャリア適用のアチェ州での“公開むち打ち刑”】
これまでもときおり取り上げてきたように、インドネシア・スマトラ島北部に位置するアチェ州は、比較的寛容と言われてきたインドネシアのイスラム教のなかにあっては、厳格なイスラムの教えが重視される地域です。

そのアチェ州は、長年の独立運動の鎮静化を目指すインドネシア政府との2001年の合意によって一定の自治権を認められ、シャリア(イスラム法)を導入しています。

そのシャリア、イスラムの教えに反した男女交際の当事者が、刑罰として“公開むち打ち刑”にされるというニュースをしばしば目にします。

日本や欧米的価値観からすると、その罪状も、また“公開むち打ち刑”ということも、違和感を感じるところが多々あり、ニュースにも取り上げられるのでしょう。

最近は特に頻繁に目にしますが、頻度が増えているのでしょうか?単なる偶然でしょうか?

“女性に近接し公開むち打ち刑、執行中に男性卒倒 インドネシア”【2月27日 AFP】
“イスラム法のむち打ち刑、初めて仏教徒に執行 インドネシア”【3月11日 AFP】
“インドネシアでむち打ち刑、配偶者以外と至近距離で時を過ごした罪で”【3月20日 AFP】

上記の“初めて仏教徒に執行”とか、下記記事の“同性愛行為をむち打ち刑の対象にする”“宗教を問わず外国人にも適用される”といったことからすると、シャリア適用の厳格化・範囲拡大が進行しているように見えます。

****同性愛にむち打ち条例 インドネシア・アチェ州 ****
インドネシア・スマトラ島のアチェ州議会は27日、イスラム法(シャリア)に基づいて、同性愛行為をむち打ち刑の対象にする条例を全会一致で可決した。同州内では、宗教を問わず外国人にも適用されるという。
 
アチェ州はインドネシアの中で最も早くイスラム教が普及したとされ、同国で唯一、シャリアの施行が認められている。一部地域では、女性がバイクの後部座席にまたがって乗ることは「シャリアに反する」と禁止する規則が導入されるなど、厳格化の兆しが出ている。
 
条例によると、同性愛行為が確認されれば公開の場で最高100回のむち打ちが科される可能性がある。むち打ちの代わりに、純金を納付する刑や禁錮刑が科されることもあり得るという。【2014年9月28日 日経】
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ただし、“以前はむち打ち刑の対象になるのはイスラム教徒の住人だけだったが、2015年にアチェ州法が見直され、シャリアに違反した非イスラム教徒は、国の法制度とシャリアのどちらの下で裁かれるかを選べるようになった。”【3月11日 AFP】ということで、非イスラム教徒にシャリアが強制されるという訳ではないようです。

“むち打ち刑”というのはどのくらいの痛さなのか?・・・といった、素朴な疑問を感じるところですが、“受刑後に治療が必要になるほど強くは打たない”ということで、肉体的苦痛よりも、公衆の面前で執行される精神的苦痛が重視されているようです。

****婚前のキスは「反イスラム」 大学生ら8人公開むち打ち****
インドネシア北西部バンダアチェで18日、イスラムの教えに反する男女交際をしたとして宗教裁判で有罪になった男女4人ずつが公開むち打ち刑に処され、市民約200人が見物に集まった。人格を無視した処罰には批判も出ている。
 
同国は人口の9割がイスラム教徒で大半は穏健派。だが、バンダアチェのあるアチェ州は同国で唯一、イスラム法に基づく刑罰が条例で2014年に定められ、宗教警察が結婚前の男女交際や女性の服装、同性愛を取り締まっている。
 
公開むち打ち刑について宗教警察関係者は「受刑後に治療が必要になるほど強くは打たない。恥ずかしいことをしたと認識させるのが狙い」と説明する。
 
この日の受刑者は19〜28歳の大学生ら。キスや性交渉をしているところを逮捕されたとされる。モスクの壇上で1人ずつ、押収した下着などの証拠品が示され、細長い竹のむちを各自20〜28回、背中に受けた。
 
受刑者の無職男性(21)は終了後、「相手女性とは元々結婚を決めていた。むちの痛みより、心の苦しみの方が大きい」と話した。【4月18日 朝日】
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【宗教冒瀆罪に問われた華人ジャカルタ知事】
アチェ州に限らず、インドネシア全体でみたとき、宗教間・宗派間の多様性を認めない“宗教的不寛容”が強まっているという話は、2016年11月13日ブログ“インドネシア 華人ジャカルタ知事の発言にイスラム強硬派が大規模抗議デモ 宗教的価値観の差”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20161113でも取り上げました。

そのときも取り上げたように、宗教的不寛容拡大の端的に示す事例が、少数派の中華系キリスト教徒でもあるジャカルタ特別州知事バスキ・チャハヤ・プルナマ氏(通称アホック)が再選を目指す選挙運動中の発言がイスラムを侮辱したとして訴えられた事件です。

イスラム保守派による大規模な抗議デモも行われ、ジョコ大統領が収拾に動く一幕もありました。

アチェ州とは異なり、首都ジャカルタはこれまで宗教的には多様性が認められる寛容な地域とされてきました。

事件は、昨年9月、アホック氏が集会で「ユダヤ教徒とキリスト教徒を仲間としてはならない」とするイスラム教の聖典「コーラン」の一節(第5章第51節)に触れて、「コーランの一節に惑わされているから、あなたたちは私に投票できない」と述べた。これが「コーラン、イスラム教徒を侮辱した」としてイスラム保守派の強い批判と反発を招き、宗教冒瀆罪で訴追されたものです。

この問題は、単に宗教的な問題ではなく、アホック氏がジョコ大統領の盟友であることもあって、ジャカルタ特別州知事選挙の動向、更にはジョコ政権への揺さぶりを意識した政治的動きでもあることは、これまでも取り上げてきました。

【宗教攻撃の標的となり、決選投票で敗北】
そうした宗教的問題、政治的側面の両面から注目されていた知事選挙ですが、アホック氏は第1回投票では首位にたったものの過半数は得られず、決選投票では敗退する結果となりました。やはり、イスラム侮辱問題が大きく響いたようです。

****イスラム「侮辱」のジャカルタ知事、敗北 大統領の盟友****
インドネシアのジャカルタ特別州知事選の決選投票が19日あり、新顔で元教育文化相のアニス・バスウェダン氏(47)が各種調査の集計で当選確実となった。現職のバスキ・チャハヤ・プルナマ氏(50)を盟友とするジョコ大統領の政権運営にも影響が出る可能性が出てきた。
 
少数派の中華系キリスト教徒のバスキ氏は昨年9月にイスラム教を冒瀆(ぼうとく)する発言をしたとして公判中。国民の9割を占めるイスラム教徒の支持を失った形だ。選挙戦を通じてイスラム保守強硬派が発言力を強め、「穏健イスラム」という同国の評判も揺らいでいる。
 
選管の公式発表は5月上旬の見通し。一方で、信頼度が高いとされる複数の民間調査機関によるサンプル集計結果によると、得票率はイスラム教徒のアニス氏が55〜58%、バスキ氏は41〜45%で大差がつき、バスキ氏は記者会見を開いて敗北宣言した。知事選は3人が立候補。2月の1回目投票で過半数の得票者がおらず、上位のバスキ、アニス両氏による決選投票となった。新知事の任期は10月から5年間。
 
敗れたバスキ氏は、前知事だったジョコ氏が2014年10月に大統領に就任したことに伴い、副知事から選挙を経ずに昇格。街路の美化や汚職撲滅などに取り組んで支持は高かったが、イスラム教を侮辱したとも取れる内容の昨年9月の発言が「致命傷」となった。
 
イスラム強硬派は、数十万人規模の抗議集会を相次いで首都中心部で開催。バスキ氏は強硬派団体に宗教冒瀆罪で刑事告発された。選挙戦でも、非イスラム教徒を指導者に選ばないよう訴える声が反バスキ派から高まった。
 
アニス氏の当選はジョコ氏にとっても打撃だ。アニス氏を推したのは、14年の大統領選で接戦の末に敗れた、野党指導者プラボウォ氏。19年の次期大統領選をにらんで、アニス氏が中央政府に反発する動きを見せる可能性もある。

ジョコ氏は19日、「誰が勝っても、結果は受け入れねばならない」と述べた。【4月19日 朝日】
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宗教に選挙・政治が絡むことで、イスラム急進派の宗教攻撃が先鋭化したようです。

****ジャカルタ知事選 宗教か多様性か****
■イスラム急進派の宗教攻撃
現職知事として住宅不足問題、交通渋滞解消、洪水問題などで実績を残してきたアホック知事だが、選挙期間中の不用意な発言が「イスラム教徒を冒涜している」とイスラム急進派が噛みついたことで、圧倒的な優勢が一転した。

イスラム急進派によるインドネシアのそしてジャカルタ特別州の圧倒的多数を占めるイスラム教徒の宗教的琴線に訴える戦略が次第にアニス候補への支持を拡大する事態となった。

「宗教冒涜罪」容疑で裁判の被告となったアホック知事に対し、伝統的なイスラム教徒の衣装で政治活動が禁じられているイスラム教寺院「モスク」を中心に運動を展開したアニス候補。

インドネシアでも最も成熟し、民主主義を理解しているとされるジャカルタっ子も「イスラム教の教えでは非イスラムの指導者には従えない」「非イスラム支持者への攻撃は強要される」「アホック支持者の女性への暴行は許される」などという扇情的、独善的な急進派によると思われる言説が駆け巡り、自らの宗教意識を再認識した有権者がアニス候補に票を投じたといわれている。

事実、アホック知事支持を表明したイスラム教徒の葬儀が地域のモスクに拒否されるという憂慮すべき事態も発生した。

こうした事態を重視したジョコ・ウィドド大統領、ユスフ・カラ副大統領、そして首都の治安を守る治安組織のトップなどが相次いで「宗教を選挙の争点にするべきではない」「候補者の宗教、人種、出身地は選挙とは無関係」などと宗教の選挙争点化の火消しに躍起とならざるをえない事態を招いた。(後略)【4月21日 大塚智彦氏 Japna In-depth】
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裁判の方でも、アホック氏は“禁錮1年(執行猶予2年)”を求刑されています。

****イスラム教「侮辱」のジャカルタ知事に求刑1年****
イスラム教を侮辱した宗教冒涜罪で在宅起訴されたジャカルタ特別州のバスキ知事に対する論告求刑公判が20日、ジャカルタの裁判所であり、検察側は禁錮1年(執行猶予2年)を求刑した。
 
ロイター通信によると、バスキ氏への大規模抗議デモを行ってきたイスラム強硬派数百人は裁判所前で「求刑は十分でない」と批判した。バスキ氏は19日に投開票された知事選で敗北し、10月に知事を退任する。【4月20日 産経】
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【選挙戦での傷を癒す両候補、ジョコ大統領】
アホック、アニス両候補とも選挙後は、選挙戦を通じた宗教的緊張の高まり、社会の分断を収拾する方向での発言を行っています。

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大勢判明後に会見したアニス候補は「選挙期間は終わった、アホック候補とはお互いの違いを強調するのではなく、全州民とともに団結する時が来た」と両候補支持派の協力と和解を訴えた。

一方のアホック知事も「アニス候補当選おめでとう、選挙のことは忘れて同じジャカルタ州の住民として協力しよう。これも神の思し召しによる選択。私は残る半年の任期、課題に取り組みたい」と述べた。

両候補が同じように会見で「選挙期間から脱却して団結、協力を」と訴えた背景には、今回の選挙で示された両陣営の溝の深さ、選挙戦での傷を癒すことの重要性への認識、憂慮があった。【前出4月21日 大塚智彦氏 Japna In-depth】
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ジョコ大統領も同趣旨の発言で、国民統合を求めています。

****インドネシア大統領、国民の統合呼び掛け ジャカルタ決選投票で****
インドネシアのジャカルタ特別州で19日、知事選の決選投票が行われた。キリスト教徒の現職とイスラム教徒の候補の決選投票となり、宗教的な緊張が高まる中、インドネシアのジョコ大統領は国民の統合を呼び掛けた。

決選投票を巡っては、ジャカルタ・ポスト紙が今週、同国史上で「最も汚く、最も分極化して対立した」と表現したが、警察によると、19日午前、投票はスムーズに行われた。

ジョコ氏は、ジャカルタ中心部の投票所で投票した後に声明を発表。「政治的な違いは、私たちの統合を壊すべきではない。誰が選ばれようと、受け入れなければならない」と述べた。(後略)【4月19日 ロイター】
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【政治的には大統領選の代理戦】
政治的には、ジョコ大統領の与党が大統領の盟友アホック氏を支持。一方、2014年の大統領選でジョコ氏に敗れ、次回の大統領選に出馬する可能性もある元軍高官のプラボウォ・スビアント氏はアニス氏を支持しました。

****大統領選の代理戦争の様相****
19日夕方に記者会見したアニス候補の横にはグリンドラ党のプラボウォ党首の姿があり、アニス候補より雄弁に勝利宣言を行った。会場に詰めかけた支援者からは「いよー、プラボウォ次期大統領」との声がかかる一幕も。

プラボウォ党首は1998年に崩壊するまで実に32年間、独裁政権を維持したスハルト元大統領の元女婿で国軍出身のビジネスマン。現職のジョコ・ウィドド大統領とは前回の大統領選を争ったライバルでもある。

アホック知事はジョコ大統領が所属する与党「闘争民主党(PDIP)」の支持を受けており、今回の知事選は前回2014年の大統領選と同じ対立構図であり、さらに2019年の次回大統領選の前哨戦と早くから位置付けられていた。

プラボウォ党首は早い時期から次期大統領選への出馬を匂わせており、今回自らが支援したアニス候補が首都での知事選で勝利をおさめたことを追い風にして大統領選に向けた今後本格的な根回し、運動を展開することが予想される。

一方のジョコ大統領陣営は、PDIPの党首でもあるメガワティ前大統領を中心にジョコ大統領に今回涙を飲んだアホック知事を副大統領候補としてペアを組ませる道を模索することも十分考えられるという。

インドネシアでは過去に女性大統領は誕生しているが、非イスラム教徒の大統領はまだ就任したことがない。
アホック知事は非イスラム、中国系インドネシア人の「代表格」で、地方首長から国レベルの指導者を目指すことでインドネシアが掲げる「多様性の中の統一」「寛容と団結」のシンボルとして今後も台風の目であり続けるだろう。【前出4月21日 大塚智彦氏 Japna In-depth】
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“イスラム侮辱”の批判を浴びているアホック氏を副大統領候補とすることは、政治的には非常に大きなリスクを伴うように思えます。盟友であるジョコ大統領はともかく、メガワティ前大統領など党指導部が敢えてそんな危険なことをするでしょうか?

実現すれば“「多様性の中の統一」「寛容と団結」のシンボル”ともなりますが、どうでしょうか・・・?
実現して、高まる“宗教的不寛容”の歯止めとなることを期待しますが。

ロシア  北朝鮮問題への関与を強め、その存在をアピール

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(ロシア極東主要都市ウラジオストクと北朝鮮北東部の羅先(ラソン)特別市の羅津港を月6回のペースで往復することになる万景峰(マンギョンボン)号【4月19日 日経】)

【平静を強調する北朝鮮 日米合同訓練で圧力 中国は「米韓両軍が38度線を越えれば軍事介入」】
注目の北朝鮮情勢については、北朝鮮を訪問していた韓国系米国人の男性が北朝鮮当局に拘束されたといった話もありますが、金正恩朝鮮労働党委員長が空軍の養豚場を視察したり、核実験施設でのバレーボールの様子を見せたり、ピョンヤンからは綱引きに興じる様子が報じられたリ・・・と、あまり緊張を高めない方向の情報が発信されているように見えます。

****北朝鮮 キム委員長が養豚場視察 兵士の待遇改善アピール****
北朝鮮の国営メディアは、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長が空軍の養豚場を視察したと伝え、25日の朝鮮人民軍の創設記念日を前に、兵士の待遇改善に努めているとアピールしました。

一方、「周辺国でわれわれを威嚇する発言が飛び出している」とも伝え、北朝鮮への制裁を着実に履行する姿勢を示す、中国を暗に非難したものと受け止められています。(後略)【4月23日 NHK】
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また、“故金日成(キムイルソン)国家主席の生誕105周年を祝った15日、朝鮮労働党が平壌で大宴会を催していた。幹部が豪華料理に舌鼓を打ち、米朝間の高まる緊張を感じさせない雰囲気だった”【4月23日 朝日】とも。

こうした平静を強調するかのような姿勢は、全面戦争を避けたい思惑とも考えられますが、“21日のKBS(韓国放送公社)によると、北朝鮮が最近、豊渓里核実験場付近の住民を避難させる状況が観測されたという”【4月22日 中央日報日本語版】といった情報もありますので、25日の朝鮮人民軍の創設記念日に向けて6回目の核実験が行われる可能性も高い・・・とも。

一方のアメリカは、その航路がアメリカ国内外に波紋を広げた空母カール・ビンソンをユルユルと東シナ海に向けて航行させていますが、現在はまだフィリピン沖のようです。

その空母カール・ビンソンに日本の海上自衛隊護衛艦が合流して合同訓練をしながら朝鮮半島方面に向かうようです。

****米空母と護衛艦が合流 共同訓練始まる 東シナ海北上へ****
北朝鮮の軍の創設記念日を25日に控える中、朝鮮半島周辺に向け航行しているアメリカの空母と、海上自衛隊の護衛艦2隻がフィリピン沖の太平洋で合流し、23日から共同訓練を始めました。防衛省関係者によりますと、訓練は数日間の予定で、今後、東シナ海に入り、北上する方向で調整しているということです。(後略)【4月23日 NHK】
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北朝鮮を過度に刺激しないように配慮しつつも、無謀な行為に走らないように強い圧力をかける・・・といったところでしょうか。

中国は、北朝鮮への今年いっぱいの石炭輸出停止などで、金正恩委員長からは“誰かに踊らされて経済制裁に執着”と揶揄されつつも、アメリカ・トランプ大統領の“絶対的な信頼”を得ているようですが、アメリカの軍事行動は強く警戒しています。

****【北朝鮮情勢】中国紙が対北軍事介入論 米韓が軍事侵攻なら 難民流入、親米政権樹立阻止を念頭か****
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は22日付の社説で、「中国は武力によって朝鮮半島の現状を変えることには反対する」と強調、米韓両軍が北朝鮮に軍事進攻した場合は中国も軍事介入すべきだと主張した。
 
同紙は、核・ミサイル開発を継続する北朝鮮に対し、米国が関連施設を空爆するなど「外科手術式攻撃」を選択するような場合には、中国は「外交手段で抵抗すべきで軍事介入する必要はない」と指摘。
 
しかし「米韓両軍が38度線を越えて北朝鮮に侵攻」し北朝鮮の政権転覆を目指す場合は、「中国はすぐに必要な軍事介入を行うべきだ」と主張した。同紙の「軍事介入」が何を意味するかは不明だ。
 
中国では朝鮮半島有事の際、中朝国境に押し寄せる可能性が高い大量の難民対策のため、「国境付近に緩衝地帯を設けて難民の流入をコントロールすべきだ」(軍事評論家の馬鼎盛氏)との意見は多い。
 
また、韓国による朝鮮半島統一や、北朝鮮に親米政権が樹立されるような事態は、中国として避けたいのが本音でもある。最近、中国人民解放軍の元上級大佐が「中国軍部隊を北朝鮮に派遣し、駐留させるべきだ」と論文で主張し、反響を呼んだ。
 
環球時報は今月に入り、北朝鮮が核実験に踏み切れば「原油の輸出規制」を行うよう主張するなど、対北強硬論を唱えてきた。習近平政権内の一部の声を反映しているとの見方もある。【4月22日 産経】
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【かつて北朝鮮建国を主導したロシア ここにきて関与を強める】
こうした、北朝鮮をめぐるアメリカ、中国、日本などの動きのなかにあって、“忘れてもらっては困る”とばかりに最近関与を強めているのが、もうひとつの関係国ロシアです。

ソ連時代からのロシアと北朝鮮の関係については以下のように。

*****プーチン大統領が北朝鮮に接近~米中露の微妙で危険な駆け引き****
ソ連時代には北朝鮮とは密接な軍事協力をしてきた。そもそも朝鮮民主主義人民共和国、つまり北朝鮮の建国はソ連が主導したものだ。

第二次世界大戦の後に、ソ連は朝鮮半島の北半分を占領し、ソ連軍抗日パルチザンの金日成氏を送り込んで、北朝鮮を作り上げた。

朝鮮戦争では朝鮮半島の覇権をめぐってアメリカと戦った。

冷戦時代には、ソ連は北朝鮮と軍事同盟を結び、北朝鮮の兵器の多くはソ連時代の中古品であった。それをベースに北朝鮮の軍事兵器が出来ていると言っていい状態であった。

しかし冷戦の終わりは状況を一変させた。ソ連の後のロシア連邦と大韓民国、つまり韓国は1990年に国交を結び、それからはロシアは北朝鮮からほぼ手を引き、韓国との関係を重視するようになった。

ソ連崩壊後、軍事協力は事実上停止していた。2001年にロシアと北朝鮮は「防衛産業及び軍備分野における協力協定」と「2001年軍事協力協定」の二つの協定を結んだ。それもほぼ実質的なものにはならず、やっと最近になってこの軍事協力が具体化しつつある。

プーチン大統領と金正恩氏との関係は良いとは思えないが、プーチン大統領にとって北朝鮮は対アメリカ関係、対中国関係から重要性を増しつつある。

北朝鮮の核実験やミサイル発射で国連が経済制裁を加える決議をしても、抜け道を作り、北朝鮮を支えてきたのは中国だけでなく、ロシアもだ。国境を超えてロシア領に北朝鮮の労働者が送り込まれ、外貨を稼いできたと言われる。(後略)【4月20日 児玉克哉氏 Yahoo!ニュース】
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ロシア・プーチン政権の北朝鮮支援姿勢を示すのが、万景峰(マンギョンボン)号による北朝鮮との定期航路の新設です。アメリカ主導の北朝鮮制裁網に穴を開ける形にもなっています。

****ロシア、北朝鮮支援公然と 万景峰号で新航路*****
ロシアのプーチン政権が北朝鮮への支援姿勢を強めている。今月には日本への入港が禁止されている貨客船、万景峰(マンギョンボン)号による北朝鮮との定期航路の新設を決定。北朝鮮への制裁網の抜け穴づくりを辞さない方針を示した。米国との外交カードにする思惑も透ける。(中略)
 
朝鮮半島への影響力拡大を狙うプーチン政権は近年、ソ連時代からの友好国である北朝鮮との経済関係を重視してきた。羅先では羅津港の埠頭の長期使用権を獲得。電力などのエネルギー輸出や北朝鮮の鉱山開発の取り組みも進む。
 
ただ、同国の核問題を巡って米朝が緊迫する時期にあえて制裁網に穴を開ける形で経済協力を加速させるのは「米国にロシアの重要性を思い知らせる狙いがある」(欧州外交筋)との見方が多い。

プーチン大統領はシリア問題などでロシアに厳しい姿勢を見せるトランプ米大統領に反発を強める。トランプ氏は核問題の解決に向けた北朝鮮への強い圧力を中国に求めているが、ロシアの協力がなければ制裁網は弱まりかねない。【4月19日 日経】
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国連安保理においても、アメリカ主導の報道機関向け北朝鮮非難声明に関し、ロシアがこれを阻止するという展開も見られました。

****北朝鮮非難声明、ロシアが阻止=核実験停止要求、中国は同意―国連安保理****
国連安全保障理事会は19日、北朝鮮による16日(現地時間)の弾道ミサイル発射を安保理決議への「違反」として強く非難し、さらなる核実験を実施しないよう求める米主導の報道機関向け声明について調整したが、ロシアが発表を阻止した。安保理外交筋が明らかにした。
 
報道機関向け声明の発表には理事国全15カ国の同意が必要で、過去にも中国やロシアの反対で発表が見送られた例がある。今回の声明案は核実験停止を求める文言を新たに追加。中国は内容を容認していた。AFP通信によると、ロシアは対話による解決の必要性を盛り込むことを求めていた。
 
トランプ米政権の発足以降、安保理は北朝鮮によるミサイル発射を非難する報道機関向け声明を4回発表しているが、阻止されたのは今回が初めて。シリア・イドリブ県での化学兵器使用疑惑や米国のシリア攻撃による米ロ関係悪化がロシアの動きに影響を与えた可能性もある。(後略)【4月20日 時事】 
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ロシアの反対は、「対話による解決」という従来の表現がないことが理由でしたが、アメリカがロシア主張どおり修正する形で決着しています。

*****北朝鮮非難声明、安保理が一転発表 ロシア反発に米譲歩****
国連安全保障理事会は20日、北朝鮮による16日のミサイル発射を「強く非難」する報道声明を発表した。
 
声明を作成した米国は19日に「ロシアの反対で発表できなくなった」と説明したが、これにロシアが反発。ロシアのイリチェフ国連大使代理は20日、「米国は我々が阻止したと言ったが、阻止していないと伝えた」と記者団に打ち明けた。

米国は一転、ロシアが求めていた「対話を通じた」北朝鮮問題の解決という表現を盛り込み合意した。
 
報道声明は北朝鮮に「即時に」挑発行為を停止するよう要求し、核実験を「これ以上しないよう求める」と明記、従来より表現を強めた。

米国は北朝鮮の友好国である中国と調整し、早期の発表を目指していた。だがロシアが「対話による解決」という従来の表現がないことを理由に反対。19日に米英はロシア1カ国の反対で発表できないと記者団に説明していた。【4月21日 日経】
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この問題に関しては、ロシアの反対・阻止云々もさることながら、アメリカが「対話による解決」という文言を落とした理由、更に、それを一転して従来同様に戻したことも気になります。

国際的な声明は、その一言一句に至るまで注意が払わわれるものでしょうが、あえて「対話による解決」という文言を落としたということは、素人考え的には「軍事的解決」の可能性を強くアピールしたということになります。
ただ、それをすぐに引っ込めたというのは・・・・。

国連を軽視しているトランプ大統領としては、声明の文言などどうでもいい、どうせやるときは国連の意向にかかわらず、アメリカ独自の判断でやるのだから・・・といった話でしょうか。

あるいは、「軍事的解決」の可能性を出したり引っ込めたりして北朝鮮をけん制するという方針でしょうか?

ロシアの方は、化学兵器使用疑惑でのシリア爆撃で、アメリカ・トランプ大統領に強く警告された形にもなっています。
北朝鮮問題への関与強化は、「このまま黙っていると、この先ずっとアメリカの風下に立つことになってしまう」・・・という懸念でしょうか。

なんだか、ヤクザの抗争のようでもありますが、軍事力をちらつかせる「大国」と、「怖がられてなんぼ」のヤクザは似た者同士でもあります。

日本は今月下旬にロシアで行われる日ロ首脳会談で、ロシアに対し、北朝鮮問題での“責任ある建設的な対応”を求めていく方針とか。【4月23日 NHKより】

【特異な政治家が揃った“かなり危険な状況”】
****プーチン大統領が北朝鮮に接近~米中露の微妙で危険な駆け引き*****
トランプ大統領は、中国に圧力をかけながら、中国ができないならアメリカが軍事力を使ってでも問題を解決すると公言している。

4月13日のトランプ大統領のツイッターだ。「I have great confidence that China will properly deal with North Korea. If they are unable to do so, the U.S., with its allies, will! U.S.A.」(中国が北朝鮮を適切に管理できると信じている。しかしもし中国ができなければ、同盟国とともにアメリカがやる。)

中国を持ち上げているようにみえるが、中国にチャンスを与え、できなければ堂々とアメリカが武力行使をするという脅しだ。アメリカが武力行使をしても中国は文句をいうな、という牽制といえる。

ちなみに同盟国とともに、とあるが、これはまず第一に日本のことだろう。日本は大変な役割を期待されているのだ。

ロシア・プーチン大統領はこうしたアメリカのやり方に真っ向から反対する可能性が高い。状況がさらに緊迫すれば、ロシアは、経済援助だけでなく、軍事援助にも踏み切るかも知れない。

急に朝鮮半島がきな臭くなった。トランプ大統領、プーチン大統領、金正恩最高指導者という特異な政治家が揃った。いざという時、習近平国家主席はトランプ側につくのか、プーチン側につくのか。

泥沼に入って欲しくないが、着地点が見えない。妥協を容易にしないトップが集まった。かなり危険な状況で、注視が必要だ。【前出4月20日 児玉克哉氏 Yahoo!ニュース】
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ロシアに関しては、こうした存在感をアピールする外交政策よりは、去る3月26日にモスクワはじめロシア国内の主要都市で繰り広げられた「反汚職デモ」と、その背景といった国内情勢の方が興味深いものがありますが、長くなるのでまた別機会に。

コンゴ  中央カサイ州で暴力が横行 住民100万人以上が避難 政府高官・大統領の責任

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(コンゴ 国連装甲車両のパトロールを見つめる住民 【3月29日 ISLAM Times】

【政府軍・民兵組織による暴力が横行】
アフリカ中央部に位置する資源大国コンゴ民主共和国(旧ザイール)における、豊富な資源の利権をめぐる紛争が絶えない“資源の呪い”とも言うべき状況については、2月21日ブログ“コンゴ 東部で続く混乱 映画「ランボー」のような政府軍による民間人虐殺?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170221でも取り上げました。

そのときは、絶えない非人道的暴力・殺戮の一例として、ナンデ人の民兵組織がフツ人の村を襲撃し住民25人を殺害したとされる事件、政府軍兵士らが非武装の民間人50~100人を射殺している様子を映したとする動画が公開されたこと・・・・などを紹介しました。

そしてコンゴでは、カビラ大統領が任期切れを過ぎても“居座り”を続けています。

武装組織・政府軍入り乱れての悲惨な暴力に関する報道は、その後も続いています。被害者は国連関係者にも及んでいます。

****コンゴで警察官42人殺害、国連専門家も遺体で発見****
<在任期間を過ぎても大統領の座に居座り続けるカビラと反対勢力の対立は、国連専門家も巻き込む最悪の事態に>

コンゴ(旧ザイール)中部の中央カサイ州で24日、警察官と地方武装勢力が衝突し、警察官42人が斬首された。与野党勢力の衝突が続く現地でも、最悪のケースと見られる。

当局によると、殺された警察官たちは同州の中心都市ツィカパからカサイ州カナンガへ移動していた。今は亡き部族長カムウィナ・ンサプに忠誠を誓う民兵組織が襲撃したとき、命が助かったのは、地元の言語であるツィルバ語を話した6人だけだった。同日、フランソワ・カランバ同州知事の話としてAP通信が伝えた。

コンゴでは、ジョゼフ・カビラ大統領が任期切れを無視して権力の座に居座った昨年末以来、与野党の紛争が激化している。

ンサプは昨年6月に、自らを公式に国家元首として認知させる運動を開始。これに呼応する蜂起が相次ぎ、政府はこの地域から撤退を余儀なくされた。

2カ月後、ンサプが治安部隊に殺害されると、その支持者が警察や対立する組織と衝突。BBCニュースによれば、両組織とも民間人を残虐したと相手を非難している。

国際機関は、今月初めに国連人権理事会のチームが発見した集団墓地から推測し、コンゴ治安部隊によって民間人が約99人殺害されたと報告した。

また、ンサプの民兵組織が、近隣に位置する南東部ロマミ州で子どもを含む、少なくとも30人を処刑したことを非難した。

さらに今月21日、国連の専門家組織のメンバーのアメリカ人とスウェーデン人が現地人通訳とともに拉致され、27日に全員が遺体で見つかった。スウェーデン人のメンバーは首が切断されていたという。【3月30日 Newsweek】
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政府軍と地方武装勢力が、ともに住民を殺しまくっているような状況のように思えますが、混乱が拡大しているカサイ州だけでも100万人以上の住民が避難を余儀なくされています。

****紛争下のコンゴ、中央カサイの避難民100万人以上に 国連****
アフリカ中部コンゴ民主共和国の中央カサイ州で、政府側のコンゴ民主共和国軍(FARDC)と部族勢力側の民兵組織の激しい衝突により、これまでの8か月間で住民100万人以上が避難を余儀なくされている。国連(UN)関係者が21日、明らかにした。
 
同州では昨年8月、ジョゼフ・カビラ大統領に対する武力闘争を続ける部族勢力のカムウィナ・ンサプ首長(別名ジャンピエール・ムパンデ)が政府軍に殺害されたことを機に衝突が始まった。
 
国連人道問題調整室(OCHA)のイボン・エドモウ氏がAFPに語ったところによると、OCHAに登録された中央カサイの避難民数は4月1日時点で109万人に上る。

この他にも北キブ州や南キブ州などの紛争地域でも200万人が避難を強いられているという。
 
国連の報告によれば、カサイ地域では40か所から埋められた多数の遺体が見つかったほか、現地情勢を調査していた外国人の国連専門家2人が拉致されてから16日後に土中から遺体となって発見されている。【4月23日 AFP】
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簡単に“100万人以上”と言いますが、とんでもない数字です。アフリカだから誰も注目しませんが・・・・。

【ICCで裁かれる武装組織幹部 背後の国家・政府高官の責任は?】
コンゴでは、上記のカサイ州の武装勢力だけでなく、多くの武装勢力が活動しています。
やや古い記録にはなりますが、イギリス内務省イギリス国境局が2012年3月に公表している文書(http://www.moj.go.jp/content/000123638.pdf)では、以下のような組織があげられています。

・ルワンダ解放民主軍(FDLR)
・神の抵抗軍 (LRA)
・マイ・マイ・シェカのような市民グループの集団をベースとしたマイ・マイ軍(地域ベースの民兵グループ)
・コンゴの自由と独立のための愛国者同盟 (APCLS)
・コンゴ愛国抵抗連合 (PARECO)
・Allied Democratic Forces/National Army for the Liberation of Uganga (ADF/NALU)
・Forces Réublicaines Fééalistes (FRF)
・Front de Réistance Patriotique d’Ituri (FRPI)
・Front Populaire pour la Justice au Congo (FPJC)
・Mouvement de libéation indéendante des allié (MLIA)

比較的よく名前を目にする“悪名高い”組織もありますが、個人的には知らない組織もたくさんあります。
その後も多くの組織が生まれていると思われます。

上記リストにあげられているFRPI(コンゴ愛国的抵抗戦線 名前だけはりっぱです)の幹部の一人は、国際刑事裁判所(ICC)によって裁かれています。

****ICC、コンゴの武装勢力元幹部に賠償金支払い命令 各被害者に250ドル****
国際刑事裁判所(ICC)は24日、コンゴのイトゥリ地方の村を2003年に襲撃した武装勢力コンゴ愛国的抵抗戦線(FRPI)の元幹部ジェルマン・カタンガ被告に対し、被害者297人に「象徴的な意味合い」として1人につき250ドル(約2万8000円)を支払うよう命じる判決を言い渡した。
 
また同裁判所は個人および集団双方に対する、推計370万ドル(約4億1000万円)に上る物的、および精神面、身体面での被害の推定額のうち、カタンガ被告に100万ドル(約1億1000万円)の賠償責任を認めた。

だが一方で裁判長は、別の裁判のためコンゴの首都キンシャサで収監されているカタンガ被告が、金もなく「困窮」しており、家や財産がないとし、「象徴的な意味合いでカタンガ被告の犠牲者に支払われる250ドルは、犯罪全体を埋め合わせるものではないと認めた。
 
イトゥリ地方にある村ボゴロで2003年2月に起きた襲撃事件により、ICCはカタンガ被告に戦争犯罪および人道に対する罪で有罪判決を下し、2014年に禁錮12年の刑を言い渡していた。
 
カタンガ被告は、約200人が射殺、あるいは鉈(なた)で殺された襲撃事件で、配下の民兵に武器を供給したとされる。【3月24日 AFP】
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細かい話にはなりますが、武器提供による犯罪への「寄与」が有罪とされましたが、FRPI兵士による強姦、性奴隷制、子ども兵士の使用については、カタンガ被告に刑事責任があるとの合理的疑いを超えることは示されていない(つまり、犯罪の「実行」については無罪)と判断されています。

国際刑事裁判所(ICC)については、訴追対象が上記事例のようなアフリカばかりに偏っているとのアフリカ諸国からの批判があります。

また、前出リストにもある「神の抵抗軍」などは、国連主導で指導者の投降寸前まで行きながらも、ICCの訴追があることが障害となって実現しなかった・・・ということもあります。

そうしたことを別にしても、組織指導者・幹部個々人の責任もさることながら、背後で組織に資金・武器を提供してきた国家・政府高官の責任はどうなるのか・・・という問題もあります。

*****国際刑事裁判所:コンゴの反政府勢力指導者に有罪判決*****
・・・・1999年から2005年のイトゥリ紛争では、すべての地元武装勢力が、コンゴ国内や隣国ルワンダ、ウガンダの軍と政府高官から大量の支援を受けていた。

紛争は州内にある金などの鉱山資源の支配権をめぐるものだった。これら軍・政府高官はコンゴの武装勢力に対し、国際人道法違反を広範に行っていることが十分示唆されていたにもかかわらず、支援を行っていた。

地元民兵組織に外部から支援が行われているとの懸念は、コンゴ東部に関し頻繁に持ちあがる。最近では2012年から13年の北キヴ州で、ルワンダ軍高官が反政府武装勢力M23(3月23日運動)への援助を行った事例がある。

ICC検察官事務所は現在までにコンゴでの犯罪について6人に逮捕状を出している。うち4人はイトゥリ州の武装勢力司令官だ。(中略)

「ICC検察官事務所は、コンゴでの捜査と容疑者選択の質を上げる必要がある」と、マティオリ=ゼルトゥネル・ディレクターは述べた。「法による正義が確実になされるために、検察官は、地元民兵に武器と資金を提供したコンゴ、ルワンダ、ウガンダの高官に焦点を絞るべきだ。」(後略)【2014年3月7日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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【“居座る”だけでなく、不正に私腹を肥やすカビラ大統領】
“地元民兵に武器と資金を提供したコンゴ、ルワンダ、ウガンダの高官”の責任という点では、このような事態を招いたコンゴのジョセフ・カビラ大統領の責任も問われるべきですが、任期切れを過ぎても“居座り”を続けていることは、従前ブログでも取り上げてきたところです。

“居座る”だけでなく、不正に私腹を肥やしているとも指摘されています。

****世界一高価で血に濡れたコンゴの「紛争パスポート」****
<先進国よりはるかに高額のパスポート発行手数料の一部は、任期が切れても大統領の座に居座るカビラ大統領の懐を肥やすために使われている可能性がある>

パスポート発行手数料が185ドル(約2万円)――一人当たりの年平均所得が456ドルのコンゴ(旧 ザイール)では手が出ない金額だ。アメリカやイギリスでも100ドル前後のものが、なぜこんなに高いのか。もちろん、そこにはウラがある。

ロイター通信の調査によると、パスポート発行料の大半は、アラブ首長国連邦(UAE)など海外に拠点を構える会社に流れていた。コンゴのジョセフ・カビラ大統領が所有する会社とみられている。

2015年11月、コンゴ政府はベルギーのセムレックス社に生体認証技術を使った新しいパスポートを発注。新しいパスポートの発行手数料は、それまでの100ドルから185ドルに跳ね上がった。世界でも有数の、高価なパスポートだ。

ロイターによれば、185ドルのうちコンゴ政府に納められたのはわずか65ドル。残り120ドルのうち12ドルは首都キンシャサにあるパスポートの管理会社に、48ドルはセムレックスに、60ドルはマキー・マコロ・ワンゴイという人物が所有し、湾岸諸国に拠点を置くLRPSという会社に支払われる。

セムレックス、LRPS、カビラ大統領のいずれも、ロイターの調査に回答せず、セムレックスからは本誌の電話にも返事がない。

企業記録によると、ワンゴイはカビラの親族と共にいくつかの会社の株主になっている。このうち2社でワンゴイはマコロ・ワンガイ・カビラの名前を使っており、2016年12月のブルームバーグの調査で、カビラ大統領の姉妹と判明した。

このことが発覚すると、コンゴの主要野党は、4月7日にカビラが指名したブルーノ・チバラ首相に対し、パスポート代金の使途を明らかにするよう要求した。「チバラはまず身の潔白を証明すべき。話はそれからだ」と、野党連合の指導者、フェリックス・チセケディは言った。

権力の座に居座る大統領
カビラは2016年、憲法が規定する2期の在任制限を迎えたが、予定されていた総選挙の実施を拒否し、政権の座に居座った。以来コンゴでは反政府武装勢力と政府軍の間で衝突や犠牲が相次いでいる。

4月初めにも、コンゴ中部の中央カサイ州で集団墓地が見つかっている。国連幹部の話によると、集団墓地の数は全部で23に及ぶ。中央カサイ州とその周辺では昨年、カビラ大統領に反発する武装勢力が政府軍と衝突し、国連によると400人以上が死亡した。

カビラ政権は有権者登録名簿の更新が終わる2017年末までには選挙を実施するとしているが、準備に進捗がないことから再び与野党の緊張が高まっている。【4月24日 Newsweek】
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【アメリカ・トランプ政権 コンゴPKO縮小要求】
政府軍・武装組織による暴力・レイプ・殺戮は絶えず、大統領は不法に居座っている、選挙も実施されるか怪しい・・・というコンゴの状況ですが、「アメリカ第一」を掲げるトランプ政権はコンゴへの国連の関与を“縮小”するように求めています。

****コンゴPKO縮小=米が規模見直し要求―国連安保理****
国連安全保障理事会は31日、この日任期切れを迎えるコンゴ(旧ザイール)の国連平和維持活動(PKO)部隊について、規模を縮小した上で来年3月末まで活動期間を延長する決議を全会一致で採択した。兵力の定数は1万9815人から1万6215人に削減される。
 
ロイター通信によると、米国は1万5000人に縮小するよう求めていたが、妥協した。コンゴのPKO部隊として現地に展開している兵力は1万7000人を下回っており、実際の削減数は500人程度にとどまる。【4月1日 時事】
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国連PKOが有効に機能していないというのは各地で見られることではありますが、「PKOを縮小して、かわりにどうするのか?」という代替案なしに、単に縮小というのでは、混乱のもとに置かれた現地住民(そういう紛争地では、往々にして政府軍も暴力の原因となっています)は何を頼ればいいのでしょうか?

フランス大統領選挙  「エリート対大衆」の構図に持ち込みたいルペン氏 マクロン氏に求められる“圧勝”

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(仏大統領選、第1回投票における県別の得票率首位の候補者を示した図。【4月25日 AFP】
黄色がマクロン候補が制した県、灰色がルペン候補が制した県 右上の小さな図は前回2012年選挙で、ピンクがオランド氏、水色がサルコジ氏)

【マクロン候補:シナリオどおりの展開に「はしゃぎすぎ」?】
フランス大統領選挙第1回投票は、最近では“珍しい”ほどに事前の世論調査とほぼ等しい結果となりました。
周知のようにEUを重視する中道系独立候補のマクロン前経済相が24%で首位、反EU・反移民の極右政党「国民戦線(FN)」のマリーヌ・ルペンが21.3%で第2位ということで、この両者が勝ち抜けています。

マクロン候補としては、第1回投票を首位でクリアし、国民に根強い抵抗感がある極右ルペン氏を相手に、反極右戦線を展開して2週間後の決選投票に臨むという、狙いどおりのシナリオです。

実際、敗退した右派野党・共和党のフィヨン元首相、左派与党・社会党のアモン前教育相、更にはオランド大統領が「反ルペン」の立場からマクロン支持を表明、経済界もマクロン支持となっています。

仏イプソスが公表した世論調査によると、決選投票に進んだ場合のマクロンの勝率は62%で、ルペンの38%を大きくリードしています。

そんなこんなで、マクロン候補もちょっと気も緩むところがあるのかも。

****マクロン氏が大はしゃぎ? 決選投票決定後に有名店で宴会 「成金候補」と批判****
フランス大統領選で23日に決選投票進出を決めたマクロン前経済相が同日夜、パリの有名レストランで支援者を集めて宴会をしたことから、「はしゃぎすぎ」とひんしゅくを買った。
 
この店は画家のピカソやモディリアニらが集った老舗。赤いビロード張りの椅子が置かれた豪華な内装で観光客にも人気がある。

マクロン氏は23日、投票結果を受けて演説した後、妻と店に向かい、経済学者や芸能人ら支援者約50人と24日未明まで歓談した。

その様子がテレビで生中継され、共に決選投票に進むルペン陣営の幹部から「まるでもう勝ったかのよう」と皮肉を浴びた。決戦投票に向けた世論調査では62%がマクロン氏を支持している。
 
フランスでは、サルコジ前大統領が2007年の大統領選の勝利後、パリの有名レストランで宴会を開いて「成金大統領」と批判を浴びた。

元投資銀行の行員のマクロン氏は「またも成金候補か」とやゆされ、陣営は24日、「そんなに高い店ではない」と沈静化に懸命となった。【4月25日 産経】
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なお、このレストランは“ステーキと付け合わせのポテトの値段は28ユーロ(約3350円)”【4月25日 AFP】だそうで、確かに「そんなに高い店ではない」のかも。

【既成政治への不満を背景に「エリート対大衆」という構図で攻めるルペン候補】
マクロン候補優勢の“楽観論”がある一方で、“独紙フランクフルター・アルゲマイネは第1回投票で左右の極端な候補の得票が計4割超に上ったことを受け、ルペン氏の大統領当選阻止で「仏国民がまとまれるか」と不安視している。”【4月24日 産経】といった慎重論もあります。

特に、19.6%を獲得した急進左派・左翼党のメランション共同党首は、決選投票では支持者各自の判断にゆだねるとしており、反EUという点でも、反既成政治という点でも、また経済政策でも、極右ルペン氏に近いものがある極左メランション支持層がどのような判断をするかは不透明です。

メランション支持層には、アメリカ大統領選挙におけるサンダース候補支持層が示したクリントン候補への抵抗感と似たようなものがあるように思われます。

当然に、保守層の一部もルペン候補に流れますので、メランション支持層の動向如何では、事前予想とは違う数字もでる可能性があります。

第1回投票は、アメリカ大統領選挙でリベラル色の強い東海岸・西海岸の大都市でクリントン候補が圧倒したものの、失業者の多いラストベルトに代表されるような既成政治への不満を抱える大都市以外の広範な地域でトランプ候補が勝利したのと非常に似通った結果を示しています。

****<仏大統領選>高失業率地域ルペン氏支持 大都市マクロン氏****
フランス大統領選で決選投票に進む中道・独立系のエマニュエル・マクロン前経済相(39)と極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン前党首(48)。

第1回投票の得票率の分布からは、失業率の高い北部と南部の一帯を制したルペン氏に対し、マクロン氏はパリなど大票田の大都市を中心に、現与党の社会党が従来強い中部から西部にかけて支持を広げたことが特徴として浮かぶ。
 
仏内務省の発表によると、仏本土の全95県のうちルペン氏の得票率が最も高かったのは北部エーヌ県で約35.6%。次点のマクロン氏をダブルスコアで引き離した。

同県を含む北部の工業地帯は炭鉱業などで栄えたが斜陽化。都市部と比べて移民の割合は必ずしも高くないが、高失業率に直面する地域だ。

ルペン氏は同様に失業率が高い南部の地中海沿いの地域でも支持を広げ、地元メディアによれば高失業率上位10県のうち9県を押さえた。
 
一方、マクロン氏は約34.8%を獲得して首都パリを制したが、ルペン氏のパリでの得票率は5番目で約5%にとどまった。

またマクロン氏は社会党のオランド大統領を選出した前回大統領選(2012年)で同党が制した中部から西部にかけてのほぼ全域を制し、左派の切り崩しに成功したことを裏付けた。
 
今回、共和党のフランソワ・フィヨン元首相(63)が首位を獲得した県は本土で5県にとどまり、社会党のブノワ・アモン前教育相(49)はゼロ。保革2大勢力の衰退が浮き彫りとなった。【4月25日 毎日】
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冒頭に示した地図で見ると、“分断”の様相は一目瞭然です。
前回選挙との比較では、保守層の地盤をルペン氏が、社会党の地盤をマクロン氏が制したことがわかります。

ルペン氏としては、こうした「分断」を背景に、「エリートによる既成政治」批判という線で今後攻めてくると思われ、その戦略は保守層や極左メランション支持層の切り崩しにおいて相当に有効でしょう。

****<仏大統領選>「エリートと対決」ルペン氏、大衆側を強調*****
「フランスを自分の思いのままにしたい高慢なエリートから解放する時がきた。私は大衆の候補者だ」。フランス大統領選で決選投票進出を決めた極右・国民戦線(FN)のルペン党首は23日夜(日本時間24日未明)、地盤の北部エナンボーモンで支持者を前に「勝利宣言」した。

30代で政権中枢入りを果たした中道・独立系のマクロン前経済相との決選投票に向けて、「エリートとの対決」という構図を強調した。(中略)

ギリシャ移民の2世だというブリジット・ベランジェさん(58)は「差別主義者との批判は間違っている。フランスに秩序をもたらすただ一人のクリーンな候補だ」。左派・共産党支持からFN支持に転じたという男性(42)は「これまで国民は左派・右派どちらにも政権を託したが、良い方向に進まなかった。何かを変えることができる候補者はもう彼女しかいない」と語った。
 
またアントワーヌさん(20)は「経済政策が近い急進左派メランション氏の支持者の一部はルペン支持に回る」と述べ、決選投票に期待感を示した。
 
かつて炭鉱の街として栄えたエナンボーモンを含む一帯では1990年代にかけて閉山が相次ぎ経済は低迷。左派市長の汚職を機に2014年の地方選以降、FNが市政を担い、FN幹部も兼任するブリオワ市長は住民税減税や警察官増員を実施し、高い支持率を誇る。

市長は会場で報道陣に「我々は郊外や工業地帯で絶対的な支持を得た。決選投票はエリート対大衆の闘い」だと強調。第1回投票で敗れ、マクロン氏支持を表明した中道右派フィヨン氏の支持層切り崩しの必要性を訴えた。【4月24日 毎日】
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ルペン氏は「私は大衆の候補者だ」ということを、一時的に国民戦線党首を辞任することでアピールする戦略に出ています。

****党首業務を一時休止=「国民全体を結集」―極右ルペン氏・仏大統領選****
フランス大統領選の決選投票に進出した極右政党・国民戦線(FN)のルペン党首(48)は24日の地元テレビで、大統領選に専念するため同党の党首業務を大統領選終了まで一時休止すると発表した。
 
ルペン氏は「今夜から私はFNの党首ではない。国民全体の結集を望む大統領選の候補だ」と述べた。仏メディアによると、この間は別の同党幹部が暫定党首を務めるとみられる。【4月25日 時事】 
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党首の座から決選投票までの2週間降りたからといって、何が変わるものでもありませんが、そこはイメージの問題ということでしょう。

【マクロン候補:「右でも左でもない」新たな政治実現のためには決選投票を圧勝し、議会を掌握することが必要】
マクロン候補は、大統領として改革を実行するためには決選投票を大差で制することが求められていますが、有名レストランではしゃいでいると、こうした「エリートによる既成政治」批判に足をすくわれることにもなりかねません。

****マクロン氏、改革実行へ圧勝必須 下院選への基盤固め鍵に****
・・・・アナリストは、決選投票でマクロン氏の得票率が60%を割り込めば、分断されたフランス社会に対して経済改革を実行できると確信させることは難しいと指摘する。

そうなった場合、6週間後の6月に控える国民議会選で「前進」が過半数を獲得することは困難になる可能性がある。(中略)

調査会社ビアボイスのフランソワ・ミケマルティ氏は「見かけほど単純ではない。新たな選挙戦がスタートする」と述べ、「ルペン氏は、グローバル化時代を行くエリートとしてのマクロン氏と大衆の候補としての自身との対決という枠に当てはめて決選投票を戦うだろう」と指摘。「大当たりになり得る攻撃をルペン氏は用意している」と語った。

「持てる者」と「持たざる者」の分断から、仏労働者の職と権利を守ることができるのはルペン氏だけだという同氏のメッセージへの支持が拡大してきたフランスでは、主要政党からの支持がマクロン氏に不利に働く可能性もある。

ルペン氏は23日、「オランド大統領の後継者から変革が期待できないのは明白だ」と述べ、マクロン氏を衰える権力層の候補だと一蹴した。

ビアボイスのミケマルティ氏は「マクロン氏はより攻撃的なアプローチをとる必要がある」と指摘する。

この点についてマクロン氏は23日の演説でこう述べている。「今夜からの課題は、誰かに対する反対から投票するのではなく、30年以上にわたってフランスの問題に対処できなかったシステムから完全に決別することだ」──。【4月24日 ロイター】
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とにもかくにも、大統領の一歩手前まで上り詰めたマクロン候補の実績・政治姿勢については、以下のようにも。
(高校生のときのフランス語教師だった24歳年上の人妻との結婚・・・というエピソードは、3月13日ブログ“フランス大統領選挙 左右両サイドの偏り・混乱のなかで大きく空いた真ん中を走るマクロン前経済相”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170313で取り上げました)

****マクロン氏、規制緩和と弱者配慮のバランス政策を主張 EU重視で対露では強硬****
政党基盤も選挙経験もない若手候補が左右両派を中心とした政界の構図に独自の戦いを挑み、大統領へあと一歩に迫った。「左右の溝を超える」。マクロン氏が目指すのは経済改革を進めると同時に弱者も配慮する“バランス”型。欧州連合(EU)も重視する。
 
1977年、仏北部生まれ。エリート養成校「国立行政学院」(ENA)を卒業後、投資銀行勤務を経て2012年、大統領府入りした。14年から約2年間の経済相時代に長距離バス路線の自由化、日曜営業拡大など「マクロン法」と呼ばれる規制緩和を断行した。
 
オランド大統領の人気が低迷する中、昨年4月、独自の政治運動「前進」を立ち上げると、8月には政権を離れ、出馬を決めた。
 
「束縛もなく、弱者も守られる社会」を掲げる。経済政策では法人減税や週35時間労働制の運用柔軟化などで企業の競争力向上を図り、公務員12万人削減などによる支出削減で財政再建に努める一方、500億ユーロ(約6兆円)の投資も計画し、セーフティーネットの拡充にもあてる。
 
EUについては「欧州の戦略なしに成功できない」と明確に支持。ユーロ圏予算創設のほか、EUの防衛協力強化、エネルギーなど単一市場創設を掲げる。
 
警官の1万人増員などで治安を強化する一方、社会の「多様性」も重視し、貧困地区住民を雇用する企業への補助も設け、移民の社会統合を促す。外交ではルペン氏と対照的にロシアへの厳しい姿勢を堅持する。【4月24日 産経】
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先走った話にもなりますが、仮にマクロン候補がめでたく大統領に就任できたとしても、目指す「左右の溝を超える」「経済改革を進めると同時に弱者も配慮する“バランス”型」政治を実現できるかに関しては、議会を掌握できるかという、もうひとつの大きな壁があります。

****焦点:マクロン氏、改革実行へ圧勝必須 下院選への基盤固め鍵に****
・・・・アナリストは決選投票でのマクロン氏の勝利を見越し、同氏が政策実行に必要な政治勢力を結集できるかどうかに関心を向けている。

マクロン氏は国民議会選で577の全選挙区で候補者を擁立するとしているが、他党の党員でも見解を共有する者は歓迎する考えを示している。

既に50人程度の社会党議員がマクロン氏の政治運動に加わっており、中には大物議員の名も見受けられるが、決選投票で多くの票を集めれば集めるほど、同調者は増えるだろう。

マクロン氏は連立政権の樹立を避けられない可能性があるが、アナリストや投資家にとっては、形態にかかわらず、マクロン政権が労働関連規制の緩和など国民の反対が必至の政策を実行できるかどうかが問題だ。

JPモルガン・チェースのラファエル・ブルンアケレ氏は、マクロン氏が下院で過半数を確保するのは非常に困難との見方を示し、「一部の改革を軸に党派を超えた連立形成を目指すことが予想される」と述べた。

マクロン氏は、この1年で専門家の予想を覆してきたように、国民議会選でも過半数を獲得すると言明した。【4月24日 ロイター】
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議会で主導権を握るためには、自己のアイデンティティを明確にする必要があります。

****仏大統領選、中道マクロンの「右でも左でもない」苦悩****
・・・・「前進!」は全選挙区に候補者を立てる予定であり、単独で過半数を得られるとマクロンは主張する。だが、そこには大きな課題がある。

世間にとって「前進!」のアイデンティティーは、「何者か」というより「何者ではないか」だ。

「前進!」のアルノー・ルロワ副代表は、「極右ではない」と自分たちを定義する。「(私たちは)フランスの民主主義にとって、ルペンに滅ぼされる前の最後のチャンスだ」

そのような主張は、大統領選の決選投票では「ルペン阻止」の票を集められるかもしれないが、総選挙のメッセージとしては弱い。(後略)【4月24日 Newsweek】
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単に「極右ではない」存在から、「30年以上にわたってフランスの問題に対処できなかったシステムから完全に決別」した「右でも左でもない」新たな政治を主導する存在に脱却できるかが、“マクロン大統領”にとって重要なカギになります。非常に先走った話ではありますが・・・・。

トルコ  大統領制への国民投票で不信感を増幅させる欧州とトルコ 国内には強い“スルタン”を待望する声も

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(国民投票結果を喜ぶエルドアン大統領支持者ら【4月17日 Newsweek】)

【トルコがペシュメルガを空爆 複雑なトルコ・クルド関係】
トルコは3月末、シリア北部の「イスラム国(IS)」及びクルド人勢力(YPG)の排除を目的とした軍事作戦「ユーフラテスの盾」を終了したと発表していますが、同作戦終了後としては初めてのクルド人勢力への越境爆撃を再び実施しています。

****トルコ軍、イラクとシリアで越境空爆 「テロ準備」主張****
トルコ軍は25日、イラク北部とシリア北西部の地域を越境して空爆した。少数民族クルド人の分離独立を求める「クルディスタン労働者党」(PKK)によるトルコ国内のテロが、この地域で準備されていると主張している。

在英のNGO「シリア人権監視団」によると、この空爆により、シリア側で少なくとも18人が死亡した。AP通信などは、イラク側でも5人が死亡したと報じている。
 
トルコ軍によると、空爆は25日午前2時ごろ、イラク北部シンジャル山とシリア北西部の付近で実施された。この一帯が、テロリストや武器、爆薬などをトルコ国内に流入させるために使われているとしている。
 
同監視団によると、この空爆で、トルコがPKKの兄弟組織と認定しているクルド人武装組織「人民防衛隊」(YPG)のメンバー18人が死亡した。

シリア内戦で、米軍などの支援を受けるYPGは、同国北部で過激派組織「イスラム国」(IS)を打倒する作戦の主力になっているが、トルコは強く反発している。

また、AP通信などによると、イラク北部のクルディスタン地域政府の治安部隊ペシュメルガのメンバー5人もこの空爆で死亡した。
 
トルコでは11日に南東部ディヤルバクルで、地下に掘られたトンネルに仕掛けた爆薬で警察署を狙ったテロがあり、警察官を含めた3人が死亡した。このテロではPKKが犯行声明を出している。【4月25日 朝日】
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トルコ・エルドアン政権がシリア北部で勢力を拡大するクルド人勢力YPGをIS以上に敵視していること、そのYPGはアメリカのIS掃討作戦の主力を担っており、トルコとYPGの確執がアメリカに難しい調整を迫っていること(今のところはトルコの反対にもかかわらず、アメリカはYPGによるIS掃討を継続しています)などは、以前から取り上げている話です。

今回の空爆で興味深いのは、イラク北部のクルド自治政府(クルディスタン地域政府)の軍事部門ペシュメルガが攻撃対象となったことです。

同じクルド人勢力ではありますが、イラク北部のクルド自治政府はPKKよりはトルコ政府と良好な関係にあって、クルド側からトルコへの原油の輸出や、イラク北部でISと戦うペシュメルガに対するトルコによる教育訓練や後方支援も行われています。

詳細はわかりませんが、ペシュメルガの一部に、トルコが主張するようなPKKにつながるような動きがあったということでしょうか。組織的には疎遠とはいっても、同じクルド人勢力ですから、それも不思議ではありませんが。

“クルド自治政府は今回の空爆について「受け入れられない」と反発している”【4月25日 時事】とのことですが、ただ、これ以上トルコ政府との間でもめたくもないし、また、ペシュメルガとPKKの関係を認める訳にもいかないし・・・ということで、今回攻撃は“誤爆”であったという線で処理しようとしています。

実際“誤爆”だったのか、先述のようにペシュメルガとPKKの間に関与があったのか・・・そこらわかりませんが、トルコとクルド人勢力の複雑な関係を示す一例として興味がもたれるところです。

【独裁化への批判で、国民投票は予想以上に“苦戦”】
そのトルコでは、今月16日に、注目された大統領権限拡大のための憲法改正案に対する国民投票が実施され、投票前の“接戦ながら賛成がわずかにリード”という世論調査を驚くほど忠実に反映した賛成51.41%、反対48.59%という結果となり、賛成が過半数を超えたために改正がほぼ決定しています。

大統領の新たな行政権限を定めた条項は、2019年に実施予定の大統領選以降に有効となり、議院内閣制から大統領が強い権限を持つ大統領制へ移行します。

エルドアン大統領の強力(強引?)な主導もあって、賛成多数はある程度予想されていたところではありますが、予想以上に苦戦したという評価もあります。

“苦戦”したのは、現在でも強権的との批判があるエルドアン大統領にさらに権限が集中することで、“独裁化”への強い警戒感が存在するためでもあります。特に、イスタンブールなど都市部では、そうした警戒からの反対票が多かったようです。

****民主化の先、独裁リスク トルコ大統領に権力集中****
・・・・エルドアン氏の政治家としての経歴は、国是である厳格な政教分離に基づく世俗主義を担う軍や司法機関との闘いの連続だった。

トルコでは親イスラムの政治勢力が台頭するたび、軍が介入し、民主的に選ばれた政権を交代させたり、親イスラム政党を解党に追い込んだりしてきた。
 
エルドアン氏らが設立した親イスラム政党・公正発展党(AKP)は2002年の総選挙で大勝して政権に就くと、高い経済成長率を実現。低所得者層向けの福祉政策やインフラ整備の充実をはかり、国民の支持をつかんだ。そうした国民の支持を背景に、AKPは軍の影響力をそぐことに取り組み、法改正を進めた。
 
だが、今回AKPが作成した憲法改正案は、議院内閣制を廃し、大統領に行政権を集中する制度設計で、「民主主義の基盤である三権分立を崩壊させ、独裁につながる」と批判される。
 
AKPがそうした批判を乗り越え、国民投票で賛成過半数を獲得した背景には、相次ぐテロ、そして昨夏の軍の一部によるクーデター未遂で、国民が「強い指導者」を欲した事情がある。エルドアン氏がクーデターを失敗に終わらせると、支持率は40%台から60%台に急上昇した。
 
その一方で、エルドアン氏とAKPは批判勢力を徹底的に封じ込めた。クーデターへの関与を疑われて10万人以上が拘束され、大量の軍人や公務員が職を追われた。メディアも100社以上が閉鎖を命じられ、200人以上の記者が逮捕された。締め付けは社会全体を萎縮させた。
 
エルドアン氏やAKPは国民投票のキャンペーンで「改憲に反対するのはテロリスト」とレッテルを貼り、メディアは反対派のキャンペーンをほとんど取り上げなかった。そもそも反対の論陣を張るはずの文化人や知識人の多くは拘束され、批判的なメディアは閉鎖されていた。【4月18日 朝日】
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今回の大統領制への移行は、三権分立とチェック・アンド・バランスよりも、政権転覆を企てる(軍部を含めた)外部勢力への対応のために大統領に権力を集中することを重視した措置と理解できます。

エルドアン大統領による、クーデター未遂事件後の反対派一掃の大規模粛清は現在も続いています。

****1千人を一斉拘束 トルコのクーデター未遂事件****
トルコで昨年7月に発生したクーデター未遂事件に関連し、治安当局は26日、米国に亡命中のイスラム教指導者ギュレン師を信奉する団体と関係のあるとみられる1009人を一斉に拘束した。拘束者の大部分は警察官という。政府はギュレン師をクーデターの「首謀者」とみている。
 
ソイル内相が地元メディアに明らかにした。報道によると、拘束命令の対象は3200人以上にのぼるという。クーデター未遂事件の後に非常事態宣言が出され、現在も続いている。

欧州評議会の報告書によれば、約4万人が拘束され、約15万人の公務員や軍人、裁判官、教師などが職を追われている。【4月26日 朝日】
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実際に7月のクーデター未遂事件に関わったか否かではなく、政権に批判的なギュレン派やクルド人勢力、野党勢力などとの関係が疑われる者はすべて排除するという様相を見せています。

「大統領制」自体は多くの国家が採用している制度ではありますが、こうした反対派の存在を許さないエルドアン大統領にさらに権限を集中させることへの不安・懸念がトルコ国内外に根強く存在します。

【国民投票における「不正」疑惑 選挙委は異議申し立てを却下】
国民投票に関しても、反対派の選挙前の活動が厳しく制約され、政権に有利な形で行われたという問題のほか、怪しげな不正行為があったとの指摘もありました。

****<トルコ国民投票>「不正動画」ネットで拡散 深まる不信感****
トルコで16日に実施された大統領権限拡大のための憲法改正案に対する国民投票で、予備の投票用紙に「不正に公印を押す男性」だとする動画がインターネット上で拡散され、注目を集めている。

最大都市イスタンブールなどでは「不正」を批判する若者らがデモ抗議。全欧安保協力機構(OSCE)などで作る選挙監視団は、反対派に関する「公平な報道がなされなかった」と指摘し、トルコ政府が猛反発するなど投票をめぐり不信感が深まっている。
 
動画は約30秒で、真偽は不明。男性の一人が次々と押印し、「とっとと終わらせて、行こう」との男性の声が入り、撮影者らしい女性の言葉が続く。「議長、私、あなたを撮っていますよ。あなたは押印のない投票用紙にスタンプを押して、有効(な投票用紙)にしようとしている。犯罪ですよ」。だが男性は黙って押印を続ける。
 
地元メディアによると、動画は首都アンカラの投票所で撮影された可能性が高い。投票所には各党の支持者が「監視役」として派遣される。女性の言う「議長」とは、そのトップとみられるという。
 
16日昼ごろにインターネットに投稿され、数十万回は視聴された。最大野党・共和人民党(CHP)は18日、公印を勝手に使い「有効」な投票用紙が作られたとして、高等選挙委員会に国民投票そのものの無効を訴えた。

ロイター通信によると、OSCE監視団メンバーの一人は、最大250万票が不正操作された疑いがあると指摘する。「押印」に絡むものが含まれるかは不明。(中略)

イスタンブールや首都アンカラ、イズミルなど大都市では、16日夜以降、数百人から1000人規模のデモが相次ぎ、一部は治安当局と衝突。イスタンブール中心部でカフェを営むサンジャクさん(38)もデモに参加した。「メディアで取り上げられるのは賛成派の意見ばかりで、反対派の声はほとんど聞かれなかった」と怒る。
 
トルコ政府は、政府に批判的なメディア幹部らを「テロリスト」などとして逮捕。今回の国民投票でも、反対派の主張はほとんど報じられず、欧州連合(EU)はトルコ政府に「透明性ある(事実関係の)調査」を求めた。エルドアン大統領は17日、「投票は西側諸国より民主的だった」と強く反論した。
 
一方、イスタンブールで最も保守的な地域の一つとされるファティ地区の商店街には「賛成票を投じた人は全品2割引き」などの「祝勝」ポスターが目についた。少数民族クルド系で服装店を営むムラト・ギュネシュさん(36)も賛成票を投じた。「若者がデモをやれるぐらい自由な社会ということだ」と語る。
 
治安当局は、政府に批判的なクルド系政党党首や国会議員を「テロリスト」として逮捕しているが、「理由がある。今の政権は交通機関をたくさん作り、生活を便利にしてくれた。クルド系政党は批判ばかりで、何もしてくれない」。
 
別の会社役員、ムスタファ・スナさん(68)は「デモをやっても結果は変わらないし、変えるべきではない。動画は偽造だ。政府がやることは正しい」と語った。【4月19日 毎日】
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動画の真贋はわかりませんが、仮に不正があったとしても、そうした批判にひるむようなエルドアン大統領ではありません。

****選挙委、異議申し立て却下=トルコ国民投票****
トルコの高等選挙委員会は19日、憲法改正への賛否を問う16日の国民投票をめぐり、同委に対して行われた投票無効の申し立てを却下した。トルコのメディアなどが伝えた。委員会メンバー11人のうち10人が無効に反対したという。
 
改憲反対派の中道左派野党・共和人民党やクルド系政党・国民民主主義党は、高等選挙委が投票開始後に公式スタンプの押されていない票も有効とすると規則を変更したことなどを問題視し、投票無効を訴えて異議申し立てをしていた。【4月20日 時事】
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【増幅された欧州とトルコの不信感】
上記【毎日】にもあるように、全欧安保協力機構(OSCE)などで作る選挙監視団が117日、公平な選挙報道がされなかったなどとして「欧州評議会の基準を満たしていない」と批判し、それを受けてEUは公正な選挙がされなかった疑いがあるとして、トルコ政府に「透明性ある調査」を求めています。

こうした欧州からの批判に、エルドアン大統領は選挙前からの欧州批判をさらに強めています。

****<トルコ>監視団「最大250万票操作」 大統領は反論**** 
トルコのエルドアン大統領は17日、首都アンカラでの演説で、欧州批判を展開した。
16日の国民投票に対する欧州側の「不正があった」との批判に対し「身の程を知れ」などと激しく反論。欧州連合(EU)加盟交渉の打ち切りも辞さない構えを示した。(中略)

さらにEU加盟交渉が進まない現状に不満をあらわにし、「EUは我々を玄関先で待たせてきた」と非難。交渉継続の是非を問う国民投票の実施も示唆した。加えてEUが加盟条件としている「死刑制度廃止」についても言及。

トルコは2002年に廃止したが、「復活させる法案が提案されれば承認する。復活の是非を問う国民投票を実施してもいい」と語った。制度が復活すれば、トルコのEU加盟は事実上消滅することになる。
 
トルコと欧州は国民投票前から対立してきた。トルコの閣僚らが欧州在住のトルコ人有権者に向けに「賛成」の支持拡大を図る集会を開こうとしたところ、ドイツやオランダなどの当局が拒否。エルドアン氏が「ナチスの残党」「ファシストの振る舞い」などと各国を非難し、欧州が反発していた。【4月18日 毎日】
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欧州側のトルコ不信も強く、欧州評議会の議員会議は25日、トルコの民主主義の状態について「深刻な懸念」を示し、監視を強化する決議を採択しました。

当然にエルドアン大統領は「決議は完全に政治的なもの」と激しく反発しています。その上で、停滞するEU加盟交渉の打ち切りを問う国民投票を実施する可能性について改めて言及しています。

****EU加盟交渉難航は宗教が一因、断念もあり得る=トルコ大統領****
トルコのエルドアン大統領は25日、ロイターの取材に応じ、トルコの欧州連合(EU)加盟交渉が長引いている背景にはイスラム教への嫌悪感があるとし、加盟を断念する用意もあると語った。

欧州評議会議員会議はこれに先立ち、昨年のクーデター未遂を受けてトルコ政府が反政府勢力を弾圧している状況を巡り、トルコを人権問題の監視対象とした。エルドアン大統領はこの決定を「完全に政治的だ」と批判した。

トルコでは大統領権限を強化する憲法改正の是非を問う国民投票が今月行われ、賛成が過半数を占めた。国民投票の前には、ドイツとオランダがトルコ閣僚による自国での改憲支持集会の開催を阻止したのに対し、エルドアン大統領が両国をナチスになぞらえて批判するなど、トルコとEU加盟国の関係は一段と悪化している。

エルドアン大統領はインタビューで、破壊されたモスクの写真などを見せながら、「欧州では、イスラム嫌いの度合いが極めて深刻になっている。EUはトルコに対する門戸を閉ざしつつあるが、トルコは誰に対しても門戸を閉じようとしていない」と発言。

「EU側が誠意をもって行動しない場合、われわれは出口を見つける必要がある。なぜ、これ以上待たなければならないのか。(トルコが欧州共同体に加盟する意思を示した1963年のアンカラ協定から)54年間協議を続けている」と語った。

大統領はまた、必要な場合は、英国のようにEU加盟の是非を問う国民投票を実施する可能性があると明らかにした。

今週はトルコのEU加盟にとって重要な会議が予定されている。26日にはEU議員による協議、28日には加盟国外相による協議が予定されている。

エルドアン大統領は、協議の行方を注視しているとし、トルコにはなお交渉を継続する意思があると表明。「EU側の要求に応じる用意があるが、トルコはまだ入り口に立たされたままだ」と語った。

大統領はさらに、「EUにはトルコのような異なる信仰を象徴する国が必要だが、EU加盟国はそれを認識していないようだ。彼らはイスラム教徒の国を(EUに)受け入れることがとても難しいと考えている」と述べた。【4月26日 ロイター】
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欧州側に、宗教的にも異質で、政治的にも西欧的価値観からますます遠ざかるトルコをEUに迎え入れる気がないのは事実でしょう。ただ、難民問題でトルコが防波堤になっている現実から、トルコと完全に決別することもできません。

気性が激しいエルドアン大統領が「トルコにはなお交渉を継続する意思がある」としていることの方が不思議なぐらいですが、トルコとしても欧州・EUと完全に決別できない経済的な事情もあるのでしょう。

【国内には強い指導力を持った“スルタン”を求める声も】
エルドアン大統領の“独裁化”への批判・懸念は多方面にありますが、トルコ国内おいて過半数の国民から支持されているのも事実です。

****現代のスルタン求めた トルコ・エルドアン氏、対欧州・低所得者対策に支持****
・・・・改憲反対派は独裁化を警告したが、多様な人々に支持されている。(中略)
 
国民投票で投票者の7割以上が賛成票を投じた中部コンヤ。同地のAKP支部に所属するキャーミル・キルジさん(25)は、「エルドアン氏は誰にも邪魔されずトルコを引っ張っていける。トルコは先進国と張り合える」と語る。
 
キルジさんは、オスマントルコ帝国(1299~1922)に学ぶべきだと訴える。「反イスラムの欧州はトルコを弱い国のままにしようとしている。トルコの大統領はスルタン(オスマントルコ時代の君主)のような強い指導力で対抗すべきだ」
 
トルコでは、05年に始まった欧州連合(EU)への加盟交渉が進展しないことへの不満、欧州への難民・移民流入問題でシリア難民を押しつけられた不満が鬱積(うっせき)している。欧州への対決姿勢を示すエルドアン氏は、そうした不満の受け皿になっている。
 
身近な生活環境の改善からエルドアン氏を支持する人も多い。同氏が生まれ育ったイスタンブール・カスムパシャ地区。地方から出稼ぎに来た貧困層が住み着いた同地区は、AKP政権前はゴミ回収車は来ず、通りはゴミだらけ。公立病院はいつも長蛇の列。だが、同氏が03年から11年間首相を務めたAKP政権下、ゴミ収集車は1日3回巡回するようになり、病院の列も短くなった。
 
長年同地区に住む運転手オルハン・ネシェさん(50)は「エルドアン氏のおかげで、私たち低所得者も人間としての価値を認められた」と感謝する。
 
世俗派を自認する人々にも、AKPの「成果」を肯定的に評価する人がいる。イスタンブールの高校で哲学を教えるディララ・アヤズさん(27)は「AKPは様々な社会階層、民族から支持され、トルコの政治は多元性を増した」。
 
AKPとエルドアン氏が支持される理由について、トルコのシンクタンク、経済外交政策センターのシナン・ユルゲン会長は「エルドアン氏に親近感を感じる人々の多くは、AKP政権前の世俗派政権では疎外されていると感じていた。疎外感を取り払った同氏に感謝している」と分析する。【4月24日 朝日】
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ロシア  「不正蓄財」疑惑の首相への批判収まらず 背景に格差・貧困などの若者の閉塞感

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(ロシアのメドベージェフ首相がイタリア・トスカーナ地方に所有するとされるワイン畑の施設【3月25日 毎日】)

【若者らの不満の背景にある格差・貧困問題、閉塞感】
****対ナチス戦勝72周年、「ベルリンの戦い」を再現 ロシア*****
第2次世界大戦での旧ソ連の対ナチス・ドイツ戦勝72周年に合わせ、ロシア首都モスクワ近郊のクビンカで「ベルリンの戦い」を再現するイベントが行われ、世界10か国から約1200人が参加した。【4月24日 AFP】
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旧ソ連は解体し、現在のロシアとは必ずしも連続していないこともありますが、すでに72年経過し、当時の人々も多くが他界していることから、政権の正統性をアピールし、国民の求心力を高めるうえでは“対ナチス戦勝”はいささか賞味期限切れでしょう。

クリミア併合など欧米と対峙する“強い”姿勢をアピールすることで、原油価格下落・経済制裁・進まない産業構造の転換などで経済的には苦境にありながらも、プーチン大統領は高い国民からの支持を維持してきました。

一方で、政敵、ジャーナリスト、野党指導者など政権にとって“不都合な存在”は“手段を選ばない”やり方で、徹底的に抑えつけてきました。

しかし、そうした盤石とも思えるロシア・プーチン体制にあっても、若者らからの汚職に対する不満(直接にはメドベージェフ首相の不正蓄財を伝える動画情報を契機とする抗議デモ)が噴出しているという話は、4月6日ブログ“ロシア 盤石を誇ってきたプーチン大統領を悩ます憂鬱”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170406で取り上げたところです。

そうした若者らの不満が噴出する国内事情に関して、以下のような格差・貧困問題の存在が指摘されています。

****ロシアを内部から痛めつける格差拡大と貧困問題*****
去る3月26日、モスクワはじめロシア国内の主要都市で「反汚職デモ」が繰り広げられた。クリミア併合後に高い支持率を誇るウラジーミル・プーチン政権での出来事であっただけに、日本のメディアでも「反政府デモ」として大きく取り上げられた。
 
このデモは反政権活動家として有名な弁護士、アレクセイ・ナバリヌイ氏がインターネット上のSNSなどを通じて呼びかけたものだ。
 
これに先立って彼の組織がドミトリー・メドベージェフ首相のビデオを公開した。首相の不正蓄財を暴露したこのビデオがデモのきっかけになったと思われる。
 
筆者も公開直後にユーチューブでそのビデオを見た。ドローンで撮影したと思われるモスクワ郊外の大邸宅、イタリア・トスカーナのワイン畑など、一国の首相・元大統領とはいえ疑念を抱かざるを得ない光景であった。

汚職・不正に対する若者の怒り
ちなみに先頃発表されたロシア政府要人の所得・資産公開によると、メドベージェフ首相の2016年中の年収は858万ルーブル(約1673万円、1ルーブル=1.95円、以下同)である。
 
また同首相はロシア国内に367.8平米のアパートを所有、18.8ヘクタールの土地を49年間リース保有している。
 
なおプーチン大統領は年収が885万ルーブル(約1725万円)、保有資産は土地1500平方メートル、77平米と153平米の2つのアパート、18平米のガレージである。
 
冒頭の暴露ビデオで公開された大邸宅はこの公開資産にはもちろん含まれておらず、疑念は深まるばかりであるが、当のメドベージェフ首相はデモ当日はソチでスキーに興じていたと報道されている。
 
筆者はデモ当日は東京にいたので、現場の雰囲気(もちろんモスクワにいても近づくことはないのだが)を知る由もないが、その翌週にモスクワでロシア人の友人たちの話を聞くと、今回のデモはこれまでの反政府デモとは何かが違うと言う。
 
デモ参加者の多くが10〜20代の若者で、彼らの怒りの矛先がどこに向いているのか分からないと言うのである。
 
もちろん、表向きは汚職で私腹を肥やしたに違いないメドベージェフ首相に向いているのは確かだろう。しかし、メドベージェフ首相が辞任すれば怒りが収まるかというとそういうものでもない。
 
むしろ彼らの怒りはもっと漠然とした、社会全体の閉塞感にあるように感じるという。その閉塞感の根本は何であろうか?
 
筆者はロシア社会に広がりつつある「貧困の拡大」が原因なのではないかと感じている。
 
確かにマクロの景気は2016年第4四半期から前年比プラスに転じ、2017年もロシア政府は+2%程度のプラス成長を見込んでいる。

国民の75%が貧困層以下
ロシア国民の多くはやっと暗いトンネルを通り抜けたと喜んで良さそうなものであるが、景気低迷と高いインフレの中でロシア国民の所得格差は拡大しており、景気回復・拡大の担い手となるべき中間層が大きく傷んでいる可能性が高い。
 
ロシアにおける貧困層の定義は最低月収(1万700ルーブル=2万865円)以下の層を極貧層、最低月収からその2倍以下の層が貧困層とされる。
また中間層は最低月収の4〜6倍(8万3460円〜12万5190円)と定義されている。
 
この定義に従うと、足許、中間層に属する勤労者は12.7%(3年前には15.5%であった)、12%がアッパーミドル以上、そして残り75%が貧困もしくは極貧層となる。
 
勤労者の4分の3が貧困層にとどまるというのは、日本でも話題になった「ワーキング・プア」そのものだ。そしてロシアの場合、貧困者の数の問題以上にロシア固有の問題がある。
 
それは教師や医師、それに科学者、エンジニアといった、西側社会ではエキスパートと呼ばれる職種の勤労者の多くが貧困層に属するという問題である。
 
こうした人々は本来、社会の健全な発展や維持の基盤となることが期待されているはずである。ところが、その彼らが貧困に直面してしまっている。
 
象徴的な記事が4月7日付のモスクワタイムスのウエブに掲載されている。見出しはこうだ。
「ロシアの医師の給与はファーストフード店員以下」
 
同記事が伝えるところでは、米シンクタンクCEPRの調査で、ロシア国内の医師の時給は140ルーブル(273円)、マクドナルドのスーパーバイザーの時給は146ルーブル(284円)となっている。
 
日本をはじめ欧米諸国では考えられない状況だが、ロシアでは医師の90%以上が国家公務員であり公立の病院で勤務している。もちろん医師になるためには欧米諸国と同じレベルの高等教育を受ける必要がある。

若者の真の怒りは経済格差
こうした社会のミドル層の崩壊に直面するロシアの若者が、自分の将来に対してやり場のない怒りをデモで表明するのも無理からぬものがある。
 
そして今回のデモはモスクワにとどまらず、ロシア各地の主要都市でも行われた。そこには大都市と地方の格差に憤る若者の怒りもあったに違いない。
 
大都市と地方にある程度の経済格差が生じることは人口規模、産業構造を考えれば致し方ない。しかしそれが命の格差になるとどうだろうか?
 
4月11日、ソビャーニン・モスクワ市長はモスクワ市の平均寿命が77歳となったことを発表した。ハイテク医療の導入でモスクワ市民の平均寿命は改善を続け、ついにスロバキア、エストニアといった東ヨーロッパ諸国並みになったと称賛した。
 
しかし、ロシア全体の平均寿命は依然71歳にとどまる。ロシア国内で最も寿命が短いのが、トゥヴァ共和国の62歳である。
 
モンゴルと国境を接するこの共和国ではいまだに病気になるとシャーマン(呪術師)に頼ると聞く。モスクワのようなリッチな大都市とは異なり近代的な医療設備へのアクセスが十分ではないことは想像に難くない。
 
最後に貧困と汚職の関係を考えてみたい。

ロシアの世論調査機関レバダセンターが行った調査「あなたやあなたの周りの人が賄賂を払ったケースは何ですか?」が参考になる。

貧困と汚職は表裏一体
トップは「就職の便宜」(29%)、わずかの差で「病院サービス」(26%)、「役所の許認可」(19%)と続く。
 
驚くことに「運転免許」(14%)、おなじみ「交通違反」(14%)、「学校入学の便宜」(12%)、「住宅割当て」(10%)、そして「葬儀手配」(10%)となっている。最後はまさに地獄の沙汰もカネ次第ということだろうか。
 
この結果を見ると、貧困と汚職が表裏一体の関係にあることを改めて認識させられる。つまり、正規の給与では生活できない医師や公務員は国民から賄賂をもらうことで生活を維持している。
 
他方、一般の国民にとって貧困から抜け出すためには良い学校に入学する、良い職場に就職することが近道だが、貧困層には賄賂を払う余裕はなく、結果的に経済格差がさらに拡大する。
 
改めて冒頭の「反汚職デモ」に戻ろう。
ロシアでも若年層の失業問題は深刻である。懸命に勉強して専門知識を身につけても、既述の通り豊かな生活を送れる保証はない。ロシアの若者たちの怒りは汚職に対する道徳問題ではなく、経済問題であることを理解する必要がある。
 
プーチン政権は汚職対策を強化するだけでは問題解決につながらないこと、何よりもロシアの若者が豊かな未来を描ける社会構造改革の必要性を強く認識する必要があろう。【4月7日 大坪 祐介 JB Press】
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【プーチン大統領:現在の「腐敗批判」は「国家転覆を目指す勢力」によるもの】
メドベージェフ首相の不正蓄財疑惑に関して、本人は「でたらめだ」と述べ、“ナワリヌイ氏の名前には言及せずに「この人物はロシア大統領になりたいという利己的な目的のため、違法なデモに若者らを動員している」と厳しく批判した”【4月5日 毎日】とのことです。

プーチン大統領は、こうした抗議活動を“混乱を招いただけの”「アラブの春」になぞらえるなど、抗議を主導するナワリヌイ氏に対する攻撃的な姿勢を示しています。

****<露大統領>「腐敗批判」を非難 「アラブの春」など例に****
ロシアのプーチン大統領は24日、露上下院議員代表との会合で、政府高官らの汚職を追及する「腐敗との戦い」を国家の主要政策に位置づける考えを示した。

その上で「さまざまな山師が『腐敗との戦い』を自分の(政治)目的に利用している」と述べ、反プーチン派の野党勢力による「腐敗批判」を非難した。
 
野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏は3月に「メドベージェフ首相が豪邸や豪華ヨットを持ち、腐敗している」との動画映像を公開し、大規模な反政府デモを国内各地で展開した。動画の視聴回数は約2000万回に上っており、プーチン大統領は国民の間で広がる不満を深刻に受け止めている模様だ。
 
プーチン大統領は、「アラブの春」やウクライナ政変を例に挙げ、「国家転覆を遂行した者たちがどんなスローガンを掲げていたか。腐敗との戦いだ。その結果どうなったか。腐敗が何倍も増大した」と語り、ナワリヌイ氏らを「国家転覆を目指す勢力」として敵視する姿勢を明確にした。
 
メドベージェフ首相は19日、露下院の質疑で共産党議員から「ナワリヌイ氏の攻撃」についての質問を受け、「政治的なろくでなしが作ったまったくウソの商品(動画映像)に特にコメントはしない」と答弁した。【4月25日 毎日】
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【権力者を誘う、国民の関心を外にそらす誘惑】
ただ、自身の政権基盤を揺るがすような若者らの不満がくすぶっていることには、プーチン大統領としても懸念を感じていることでしょう。

とはいえ、経済・社会構造の大転換を図ることは、これまでも出来ませんでしたし、そうした構造をむしろ温存し、その既得権者の上に乗っかる形で現在のプーチン政権は存在しています。

となれば、対応策と考えられるの古今東西の権力者の常套手段でもある、国民の関心を外にそらす・・・という安直な方法です。

おりしもトランプ政権のシリア空爆で、最近の“順調”だった対外政策も腰を折られた形になっており、頼みとしたトランプ政権との“蜜月”も幻に終わりそうな状況です。

ここらで何か情勢を一変させる方法はないか・・・と、プーチン大統領が考えて不思議ではない状況でもあります。

****本当に怖いのはプーチンのパラノイアだ*****
国民の不満をそらすため戦争を仕掛ける誘惑に駆られかねない

クリミア併合を一方的に宣言して、G8から除外されたロシア。
大国間の外交交渉の場から締め出されたにもかかわらず、すぐさま国際政治の主要プレーヤーに返り咲き、今やEU、中東、アメリカの安定を揺さぶりかねない存在になっている。 

ただし、いわゆる「ロシアの脅威」は本当の脅威ではない。(中略)

確かに、ロシアの国営テレビは帝政ロシアやソ連時代の栄光をたたえる番組を盛んに放映し、ロシアは西側との国境地帯で着々と軍備を増強している。 

だがこの1年ほどの間にニューズウィークが接触した複数のロシア高官の話から浮かびあがるのは、領土拡大の野望に燃える大国ではなく、体制崩壊を恐れるパラノイアじみた姿だ。

クリミア併合にしても、ウクライナがすぐにもNATOに加盟すると思い込み、慌てて予を打つたというのが実情らしい。
 
領土拡大よりもはるかに重大なリスクは、ロシアがヨーロッパ各地で反EU・親ロシア派を組織的に支援していることだ。

フランス大統領選の行方も気になるが、ブルガリアでは昨秋の大統領選で親ロシア派の前空軍司令官ルメンーラデフが勝利。ロセンープレブネリェフ前大統領は、「ロシアはヨーロッパを不安定化させようとしている」と危機感をあらわにした。
 
EUが崩壊すれば、ロシアは欧米の経済制裁から解放されると、投資家のジョージ・ソロスは指摘する。「プーチン体制の崩壊を防ぐ最も効果的な方法はEUを先に崩壊させることだ」
 
一方で、ロシアと欧米の問ではひそかにサイバー兵器の軍拡競争が繰り広げられている。ここでも、よく知られている「ロシアの脅威」は最も危険な脅威ではない。

ロシアはハッカー集団を使って昨年の米大統領選に介入したとされるが、ロシアの情報リーグが選挙結果に及ぼした影響はたかが知れている。
 
それよりはるかに深刻な脅威は、ライフラインや政府機関を機能停止に追い込む本格的なサイバー攻撃だ。既にドイツ、ウクライナ、アメリカでは送電網や航空管制システムを狙ったハッキング事件が報告されている。

手垢の付いた手段に頼る
ロシアの脅威の根底には、プーチン政権の姑息な延命策がある。ここ数年経済が失速し、インフレが進むなか、プーチンは国民の不満を欧米に向けることで高い支持率を維持してきた。
 
だが3月末にモスクワなどで起きた反政府デモが示すように、都市部の若者の問では政府の腐敗に怒りが高まっている。このままでは来年の大統領選に向けてガス抜きが必要になり、プーチンは小規模な軍事行動か、ひょっとすると戦争を仕掛ける誘惑に駆られるかもしれない。
 
ロシアの財政赤字は昨年、対GDP比で3・7%を超えた。プーチンはまだまだ安全圏内だと主張しているが、財政状況は厳しく、赤字を補填するために年金基金とインフラ整備の基金である「国民福祉基金」を取り崩すところまで追い込まれている。

財政の悪化は国民生活を直撃し、今秋の議会選挙にも影響を及ぼしかねない。
 
14年に原油価格が急落して以降、プーチンは求心力の低下を防ぐため、シリア介入などで対外的な強さをアピールしてきた。だが、アメリカがシリアの空軍基地を攻撃したことで、シリア紛争の構図は大きく変わった。
 
シリアで米口の軍事衝突が起きる危険性が高まる一方、G7はシリアのアサド政権を支援するロシアに新たな制裁を科すことを検討し始めた。

プーチンにとってそれ以上に大きな誤算は、トランプ政権ドで米口の蜜月時代を迎えるという思惑が吹き飛んだことだ。
 
さらなる制裁で経済が冷え込めば、プーチンは国外に敵をつくって世論の怒りをそらすしかなくなる。悲しいかな、それはポピュリスム政治家の手あかの付いた常套手段だ。【5月2日号 Newsweek日本語版】 
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世論調査でメドベージェフ首相の辞任を求める回答が45%に達するなど【4月27日 時事より】、プーチン政権への逆風が強まっています。

こうした騒動が起こる以前から、経済不振の責任をとらせる形でメドベージェフ首相更迭といった話はありましたが、国民世論に押し切られての人事というのは、プーチン大統領は何としても避けたいところでしょう。

中米「北部三角地帯」のギャングの恐怖から逃れる少年・少女に立ちはだかる“トランプの壁”

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(ギャングの勧誘を恐れて国を逃れた少年の一人。法外な金額を要求し、払えなければ殺すというギャングによる死の恐喝も後をたたない 【UNHCR】)

【“トランプ政権の厳しい移民政策”の留意すべき事項】
****メキシコ国境での不法移民拘束、3月は17年ぶり低水準=米国土安保長官****
米国土安全保障省のケリー長官は5日、上院の委員会で、3月にメキシコ国境で拘束された不法移民が1万7000人を下回り、少なくとも2000年以降で最も少なかったと述べた。
税関国境警備局によると、2月の拘束者は2万3589人。

ケリー長官は、拘束者の減少はトランプ政権の厳しい移民政策の成果と説明した。【4月6日 ロイター】
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“トランプ政権の厳しい移民政策の成果”ということに関しては、若干の留意すべき事項があります。

まず、オバマ前政権は不法移民に関して野放しにしていた、あるいは寛容だった・・・という訳ではなく、逆にオバマ前大統領は「送還司令官」と言う名でヒスパニック系人権団体から批判されていたように、厳しい不法移民送還政策を行っていました。

****トランプとオバマ 移民に厳しいのはどっち?****
移民制度改革を進めた「穏健派」のオバマだが、送還司令官と郷楡された強硬派の側面も

法と秩序の候補者」を自任していたドナルド・トランプは、米大統領選に勝つとすぐに、犯罪歴のある不法移民200万~300万人を即時送還すると宣言した。しかし就任から3ヵ月が過ぎて、新たに発表された統計によれば、公約どおりの「成果」は出ていない。
 
トランプが大統領に就任した1月20日から3月13日までの問、移民税関執行局(ICE)は不法移民2万1362人を逮捕し、5万4741人を送還した。

オバマ政権下の昨年同期比で、不法移民の逮拙者は33%増だが、送還者は1.2%減少している。
 
オバマ政権下では、2期目となる14年の同時期に逮捕された不法移民の数は2万9238人に上る。オバマは民主党大統領としては、不法移民に対してかなりの強硬姿勢を取った。その傾向が特に強かったのは、就任後間もない時期だ。

ヒスパニック系団体の会長は、オバマを「送還司令官」と呼んで非難したものだ。
 
このレッテルは、大統領在職中ずっとオバマに付きまとった。
オバマが在任中に強制送還した不法移民は300万人以上で、主にメキシコ人だった。オバマの前任者であるクリントンやブツシユ政権でも、2期にわたる在任中に強制送還した人数はこれよりはるかに少ない。
 
ヒスパニック系の人権団体からの圧力が高まり、オバマの移民政策はややトーンダウンする。
強制送還した人数が最も多かったのは13年の43万4015人。だが16年には34万4354人にまで減少し、ブッシユ政権時代のピークである08年の35万9795人をやや下回った。【5月2日号 Newsweek日本語版】
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厳しい不法移民送還を行ったオバマ前大統領と、不法移民即時送還を掲げるトランプ大統領の間には相違点もあります。

****送還の対象に例外なし****
オバマは強制送還の対象者を絞り、犯罪歴があり、入国して間もない不法移民に限定するよう指示した。14年11月には対象を3段階に分類。最も優先順位が高いのは「入国して間もない者やギャングの構成員、あるいは有罪判決を受けた重罪歴か攻撃的な犯罪歴がある者」。(中略)

同時にオバマは、米国籍や合法的な滞在資格を持つ子供がいる場合に不法移民の強制送還を免除する措置(DAPA)の大統領今に署名。さらに、このDAPAを拡大し、不法入国した時期にまだ子供だった若年層については退去を免除しようとした。

だが26州の知事が、議会の承認を得ていないとして提訴。16年6月、最高裁判事の意見が同数に分かれたことから、オバマの移民制度改革は阻止される形となった。
 
その5ヵ月後、トランプが大統領選に勝利し、新たな移民政策の準備が始まった。当局は移民法に違反した者なら誰でも逮捕・送還できるようになり、オバマ時代のように免除が適用されるカテゴリーはない。
 
トランプは、簡単な手続きで不法移民を退去できるよう規定を改めることも計画している。
移民局職員の数を増やし、同等の任務を行う権限を地元の警察官に与えるほか、不法移民を保護している「聖域都市」の自治体の予算を削減する意向も示している。
 
実際は、こうした事態には至っていない。だがトランプの移民政策に対して、不法移民やその家族は警戒を強めている。オバマは確かに「送還司令官」だったかもしれないが、今ほど多くの不法移民の安眠を妨げることはなかったはずだ。【同上】
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なお、「聖域都市」に関しては、不法移民の摘発強化に非協力的な自治体への補助金停止を命じた大統領令は違憲として、サンフランシスコ市などが提訴し、サンフランシスコ連邦地裁は4月25日、原告の訴えを認め、大統領令の差し止めを命じる仮処分を出しています。

留意すべき2点目は、厳しい不法移民対策によって不法移民の立場にある者が表に出るのを恐れ、結果的に人身売買などの犠牲になる恐れがあることです。

****トランプ政権の反移民政策、人身売買が急増の恐れ=専門家****
米ジョージタウン大学人類学部長のデニス・ブレナン教授は25日、トムソン・ロイター財団が主催したイベントで基調講演し、米当局に強制送還される恐れがあるため、人身売買による被害を訴えることができないと指摘した。

隠れて働くことを移民に強いる政策は悪徳雇用者を利するとし「移民が搾取や嫌がらせを報告することを恐れる状況では、われわれは人身売買に効果的に対処することができない」と訴えた。

ブレナン教授は反移民政策や移民への侮辱的な発言、暴力が世界中で増えており、特に米国で顕著との見方を示した。その上で「トランプ政権の下で人身売買は急増する。反移民政策が人身売買を可能にする」と述べた。

米国には最大1200万人の不法移民が居住しているとみられる。米当局が集計する人身売買に関する正式な統計はないが、過去10年間で被害者向けの電話相談窓口に約3万2000件の報告が寄せられている。【4月26日 ロイター】
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留意すべき3点目、これが今日の本題ですが、メキシコ国境を越えて流入する不法移民の多くはメキシコ人ではなく、ホンジュラスやグアテマラ、エルサルバドルなど中米の人々であるということです。

メキシコ人について言えば、最近ではアメリカへの流入者より、アメリカからの帰還者の方が多い状況とも言われています。

トランプ大統領は依然として“壁”にご執心で(“壁”の予算計上は結局見送られましたが、トランプ大統領は25日、「すぐに壁の建設を始める。すでに準備はしている。壁はとても重要だ」と改めてその意欲を示しています)、その費用をメキシコに負担させるとしていますが、メキシコからすれば、相当の国境警備も行っており、不法移民は自国民ではなく中米の者であるにも関わらず、費用云々されるのは理不尽だという反応になるのも当然です。

また、アメリカが不法移民対策を厳しくすれば、中米から逃れてきた者はアメリカに行けず、メキシコに難民申請する・・・ということにもなり、メキシコの負担も増加します。

****メキシコ、難民申請者が急増 トランプ氏の大統領選勝利後****
メキシコ難民局(COMAR)によると、トランプ米大統領が選挙戦に勝利した2016年11月以降、今年3月までの難民申請数が5421件となり、2015─16年同期の2148件から150%増加した。

一方、米南西部とメキシコとの国境沿いで同5カ月間に拘束された人の数は、約4%減少した。拘束者の大半はホンジュラスやグアテマラ、エルサルバドルの出身者だったという。

ただ、専門家らは難民申請の増加がトランプ氏の厳しい移民政策の影響と断定するには時期尚早と指摘。COMARのシンシア・ペレス氏は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などと協力して、難民申請が認められる可能性のある人のタイプを特定したことも増加の一因と説明した。

米国土安全保障省のデータによると、米国とメキシコとの国境で止められた中米諸国の親子の数は、3月は1000人超となり、昨年12月から93%減少した。

COMARによると、2015年の難民申請数は3500件以下だったが、2016年には8781件に増加。2017年には、2万2500件以上に達する可能性があるいう。【4月19日 ロイター】
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【ギャングの恐怖から逃れる中米の少年・少女】
さきほど“中米から逃れてきた者”と書きましたが、何から逃れてくるのか?
貧困ということもあるのでしょうが、より直接的にはギャングの恐怖から逃れてくる者が多いようです。

ちなみに、殺人などの治安の悪さをランキングすると、中米諸国が軒並み上位にランクインします。
「世界の殺人発生率 国別ランキング」http://www.globalnote.jp/post-1697.htmlによれば、1位はホンジュラス(10万人あたりの殺人件数は74.55件)、2位がエルサルバドル(同64.19件)、グアテマラも10位(31.21件)となっています。「麻薬戦争」で悪名高いメキシコは25位、治安の悪さが有名なブラジルは15位です。

日本は207位(0.31件)ですから、ホンジュラスの殺人頻度は日本の240倍にもなります。これはもう“戦争”状態です。

****中米の難民危機  なぜ、中米の少年・少女は北を目指すのか****
こうしている今も、エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラなどの中米の国々では、10代の少年・少女が母国を逃れて、子どもだけでアメリカやメキシコを目指しています。

貨物列車に飛び乗り、警察の目をかいくぐりながらの危険な旅です。国境越えの際には、密入国斡旋業者による搾取や人身売買の脅威にもさらされています。

そのような危険を冒してまで、なぜ子どもたちは母国を後にするのでしょう。その答えは、実際に中米から逃れてきた子どもたちの証言のなかにあります。

ギャングから逃げてきたマリツァ(15歳・エルサルバドル)
「ある日叔父から『ここに留まっていては危険だ』と言われました。ギャングが、私をさらう期日を告げに来たからです」。

マリツァはこのような脅迫を受けた何千もの少女のうちの、一人にすぎません。エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラなどの国々では、少女たちがさらわれて性的暴行を受けたのち、無残にも殺されるということが頻繁に起きています。

そのため多くの少女たちは、このような危機から逃れるために母国を後にするのです。

犯罪集団の勧誘を恐れて国を逃れたケビン(17歳・ホンジュラス)
ギャングが裏社会で勢力を増大させ続けている中米の国々では、多くの人が恐怖にさらされながら生活しています。青少年は、暴力犯罪や金品の要求のほか、犯罪集団からの勧誘にも直面しています。

ギャングから勧誘を受けたケビンは、祖母のこの言葉に背中を押されるように、国を離れたといいます。「ギャングに加わらなければおまえが撃たれる。加われば敵方に撃たれるか、警察に撃たれる。もし逃げれば、おまえを撃つ人はいないのだから」。

裏社会に一度足を踏み入れれば、犯罪に手を染めずにいることはできません。犯罪の加害者にならないため、そして自分の命を守るために、子どもたちはすべてを捨てて逃げるのです。

いま、必要とされる子どもたちの国際的な保護
国境を越えて組織的な犯行を行うギャングは、少年・少女を執拗に追いつづけます。国内のどこかに隠れたり、隣国に逃れたからといって安心して暮らせるわけではないため、彼らは中米から、メキシコやアメリカを目指して危険な旅に出るのです。

フォルカー・トゥルク国連難民高等弁務官補(法務)は、ここ数年で難民申請者が3倍にまでに膨れ上がったメキシコを訪れ、少年少女を含む中南米から逃れてきた人たちと言葉を交わしました。そして、現在の状況を“危機的なレベルに近づいている”と語りました。【4月21日 UNHCR】
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****ギャング抗争、学校が「最前線」 中米ホンジュラス****
学校の屋根を突き抜けて飛んできた銃弾に、生徒たちは逃げ回った。生徒4人と教師が負傷した。
 
2月27日、中米ホンジュラスの首都テグシガルパ北部にあるマクシミリアノ・サガストゥメ校が、ギャングたちの抗争の現場となった。
 
こうした暴力沙汰はホンジュラスでは一般的で、すぐに次の国内ニュースに埋もれ、国外で報じられることはほとんどない。
 
ギャングから生徒たちを守るために警察が規制線を張った8日間、学校は閉鎖された。その一味はギャング集団「マラ・サルバトルチャ(MS-13)」の地元組織だった。

「MS-13」と最大のライバルである「バリオ18」、そして他の規模の小さいギャング組織はそれぞれ支配地域をもち、住人たちの自由な往来を禁じ、頻繁に銃撃戦を繰り広げている。
 
こうした様相は、中米の「北部三角地帯」と呼ばれるホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの3か国で共通にみられる。麻薬と武器を密売するギャングたちが法の支配に取って代わり、貧困と暴力にさいなまされている地帯だ。

■手足を切断された双子少女の遺体
国家治安部隊の報道官、マリオ・リべラ中佐はAFPの取材に対し、大量の人員がテグシガルパやその他の都市で学校の警備にあたっていると述べた。
 
生徒300人が通う学校の教師が匿名を条件に語ったところによれば、生徒の中にギャングのメンバーが何人かいて、同級生や教師への脅威となっているためにたびたび、警察による保護が必要とされるという。マクシミリアノ・サガストゥメ校の生徒4人と女性教師は軽傷で済んだが、多くの親が子どもを転校させた。
 
この銃撃事件の後、14歳の双子の姉妹が誘拐され、数日後に切断された遺体が発見されたため、保護者たちの動揺はさらに高まった。警備に立っていた警官は「ここの人々は片目を開けたまま眠る」と語った。

■対立するギャングに挟まれた「戦場」
丘の中腹にあるマクシミリアノ・サガストゥメ校は、高さ3メートルの壁の上に有刺鉄線を張り巡らすなどの安全対策を取っている。
 
学校の北側には、家のない石だらけの丘を挟んで「コンボ」と呼ばれるギャングが支配する地区「ピカチート」があり、南側は「MS-13」の縄張りだ。学校と周辺のコンクリート造りの家々はまさに、この2つのギャングが頻繁に交戦する緩衝地帯に建っている。

「私たちは銃撃戦の真っただ中にいる。夜はまるで戦場だ」。同地区で小さな店を営むナポレオン・スニガさん(70)は言う。「彼らの望みは、この一帯を支配して麻薬を売って稼ぎを巻き上げることだ」
 
ホンジュラス全土の「MS-13」と「バリオ18」のメンバー数について、警察は計2万5000人ほどと推定しているが確かな数字は不明だ。例えば、国連薬物犯罪事務所(UNODC)は1万2000人としている。
 
いずれにせよ、ギャング絡みの事件が殺人発生率に影響していることは明白だ。世界保健機関(WHO)によると、ホンジュラスの殺人発生率は世界平均の10倍に近い。【3月31日 AFP】
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「北部三角地帯」3か国の治安部隊が合同してギャング組織に対抗しようという話も報じられていますが、効果はどうでしょうか・・・支援国アメリカに対するジェスチャーにすぎないとの批判も。

****「北部三角地帯」の反社会的勢力に合同で対抗、中米3国****
ホンジュラスでバスの運転手をしているアルマンドさん(35)は、自分の命の値段が90ドル(約1万300円)だと知っている。その金額が、同国で最も恐れられている反社会的組織の1つ「マラ・サルバトルチャ(MS-13)」に支払う「みかじめ料」の1か月分だからだ。

「毎週の支払いが滞れば、彼らに殺される」──検問所での兵士らによる乗客の検査を横目に、苗字を明かさないことを条件にAFPの取材に応じたアルマンドさんはそう語った。そして、グアテマラとエルサルバドル、ホンジュラスによる合同作戦の枠組みで活動する兵士らを指さしながら「今は彼らのサポートがある」と続けた。
 
先月組織された3か国合同の部隊は、国境地帯で活動を行っている。この地域の反社会的勢力撃退が目的だ。これらの反社会的勢力は、中米3か国を紛争地帯に次ぐ、地球で最も危険な場所に変えてしまった。
 
ホンジュラスでは、エルサルバドルとグアテマラそれぞれの国境沿いに部隊が配備されている。
 
反社会的勢力は、国境を越えて麻薬や武器の密輸や人身売買などを行っており、国家警察の目が行き届かないため、当局者たちは、こうした協力が不可欠と声をそろえる。
 
3か国の合同部隊は、兵士と警察官で構成されており、それぞれが自国を管轄する。常に情報交換を行いながら任務にあたってはいるが、合同でのパトロールはしていない。(中略)
 
一方で、米国はこれら3か国の治安が向上し、国民の好機会が増えることを期待して、総額7億5000万ドル(約860億円)の支援を行っている。米国への移住を思いとどまらせたい思惑もある。
 
エルサルバドルの犯罪学者ホセ・リバス氏は、この合同作戦は、米国に対するエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス3か国からのジェスチャーだと述べる。「反社会的勢力や組織犯罪は、北部三角地帯から数多くの人々が米国を目指す主な理由となっている。(合同作戦は)これに政府レベルで対応しているとのメッセージだ」
 
北部三角地帯の3か国を合わせた殺人事件の数は昨年だけで1万7422件に上り、同地帯の治安の悪さを改めて証明した。犯罪の多くはギャンググループや麻薬カルテルによるもので、こうした犯罪組織に属する構成員の数は7万人に上るとみられている。【2016年12月9日 AFP】
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トランプ大統領も効果が疑問視もされる“壁”に7兆円とも言われる大金を使うよりは、この中米の移民発生源にメスを入れる対策を強化した方が効果的でしょう。もちろん、それは現在の社会・政治の仕組みを変えることでもあり、非常に困難な作業にもなるでしょうが、シリア空爆で見せた“人道主義”と決意をもってすれば・・・・。

台湾  中国との関係で厳しい現実 頼みとするアメリカも・・・・

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(2016年総統選投開票日に蔡氏の勝利を祝福する、独立志向の若者たち=16年1月、台北(NNA撮影)【4月18日 NNA ASIA】しかし、「独立志向」は現在、ここ10年では最低に低下しているそうです)

【中国の圧力を止められない国際社会の現実】
「一つの中国」という(中国側の主張する)原則を受け入れていない台湾・蔡英文政権に対し、中国が圧力をかけていることは蔡政権発足以来のことで、特に目新しいことでもありませんが、台湾は国際機関の会議などからも締め出されつつあり、また、数少ない外交関係を持つ国も失いつつあります。

国際民間航空機関(ICAO)総会、国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)総会に続いて世界保健機関(WHO)総会からも・・・・

****台湾、強まる中国の圧力 WHO総会の招請状届かず****
中国と台湾が「一つの中国」に属するという原則を受け入れていない台湾の蔡英文(ツァイインウェン)政権に対する中国側の圧力が強まっている。

来月ジュネーブで開かれる世界保健機関(WHO)総会の招請状が届いておらず、参加できない恐れが出ている。さらに中国は、台湾と外交関係のある国への「断交圧力」ともとれる動きもみせている。
 
WHO総会を巡っては、日本など加盟国にはすでに案内が届いている。総会は5月22日に開幕するが、同8日が登録締め切りだ。
 
台湾は1971年、中国の国連加盟に伴い、国連機関から脱退。WHO総会にも参加できずにいたが、対中関係改善を図った馬英九(マーインチウ)政権のもと中国が態度を軟化させ、2009年にオブザーバー参加が認められ、以降は毎年出席していた。
 
だが昨年の総統選で蔡英文政権の発足が決まり、状況は一変した。蔡氏は「一つの中国」原則を受け入れておらず、中国側は態度を硬化。

昨年5月20日の就任直後に開かれたWHO総会の招請状は、締め切り直前まで届くのがずれ込み、ただし書きとして「一つの中国」原則に沿った招請であることが明記された。
 
その後、中国側の圧力は強まり、昨年9月の国際民間航空機関(ICAO)総会には出席できなかった。前回はゲスト参加ができた会合だ。続く11月の国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)の総会は、オブザーバー参加を申し込んだものの断られた。
 
今年のWHO総会参加の見通しについて、台湾外交部は25日の会見で「更に困難で複雑だ」(報道担当者)と述べた。米国など友好国に働きかけ、参加を模索している。

台湾を訪問中の米国側窓口機関「米国在台協会」(AIT)のモリアーティ会長は同日出席した会合で「台湾の(オブザーバーとしての)参加継続を期待する」と表明した。
 
これに対し、中国外務省の耿爽副報道局長は25日の定例会見で、WHO総会での台湾の出席を認めるのかとの質問に対し、「我々は、『一つの中国』原則で関連する問題を処理することを堅持する」と述べた。中国は国連安保理の常任理事国であり、国連関係機関への影響力は大きい。

 ■他国に断交働きかけ
中国は台湾と外交関係を持つ国への働きかけも強めている。
 
台湾と現在、外交関係を結ぶ21カ国は、中米やアフリカなどの比較的小規模な国々だ。西アフリカの島国サントメ・プリンシペは、台湾に巨額の財政支援を求めたが、台湾が応じずにいた結果、昨年12月に断交に至った。同国はすかさず中国と国交を回復した。
 
今年1月には、同じく西アフリカのブルキナファソの閣僚が海外メディアの取材に対し、「中国側から500億ドル(5兆円超)の財政支援を条件に台湾と断交するよう働きかけられたが断った」などと語った。こうした「断交圧力」も続いているとみられる。【4月26日 朝日】
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中国・台湾と当事国だけで決まる外交関係については、中国が国民党政権当時のように“手を緩めなければ”、台湾が現状を維持するのは非常に困難でしょう。

ただ、WHOなどの国際会議については、中国の意向がストレートに反映するものでもありません。本来は・・・。

中国が台湾に厳しい対応で臨むこと自体は、良し悪しは別として、中国の立場からすれば、ある意味当然でしょう。
印象的なのは、そういう中国の対応を誰も止めらない国際社会の“現実”です。

台湾が頼りとするアメリカも、友好国である日本も、この問題で深入りすることはありません。
中国にとって“核心的利益”のなかでも最大のものである台湾問題で、台湾を擁護する形で中国と事を構えることは日米にとっても国益にかなうものではなく、結局“見て見ぬふり”というところでしょうか。

それが、国際社会の力関係であり、“現実”です。

【台湾を“取引”カードとして使うトランプ大統領】
アメリカ・トランプ大統領は昨年12月には、アメリカは「1つの中国」政策を必ずしも堅持する必要がないと発言、また、就任直前の1月には、「『一つの中国』政策を含め、すべては交渉次第だ」という「一つの中国」原則には縛られないという趣旨を発言、アメリカが外交方針を大きく転換するのか・・・とも思わせました。

しかし、単に認識不足だったのか、初めから台湾を中国との“取引”のカードとして使うつもりだったのか、中国の主張に沿う形で急速に変化したことは周知のところです。(2月9日の習近平主席との電話会談で、中国と台湾は不可分の領土だとする「一つの中国」原則を尊重することを容認することを確認)

台湾側には、“取引”のカードとして使い捨てされることへの強い警戒感があります。

****「一つの中国」原則で米中に圧殺される台湾****
<中国の軍事圧力とアメリカの気まぐれの狭間で翻弄され、台湾は単なる二大国間の交渉の駒にされてしまうのか>

・・・・「台湾が一番恐れているのは、アメリカと中国の間で交渉の駒にされてしまうことだ」――台北に滞在中の私に、ルーズベルト通りに面した会議室で台湾の政治家がこう語った。

米大統領の名前が冠された通りの名称は、台湾とアメリカの特別な関係を物語っている。1979年にアメリカは一方的に台湾との外交関係を断ち、「赤い北京政府」を中国の正統政権として認めた。

台湾を自国の一部と見なす「一つの中国」原則を北京とワシントンはそれぞれ異なる意味で掲げることで、中国と台湾が対峙する台湾海峡の平和を維持してきた。

揺さぶりか相思相愛か
しかし、今や最大の問題は台湾に住む大半の人々が自分は台湾人であり、「中国人」だと意識しなくなったという事実だ。アメリカだけでなく日本もまた、玉虫色の「一つの中国」原則を国際的な約束事として守ろうとしている。

だが台湾にとって、日米のそのような姿勢は自らの意思が無視された外国からの圧力としか映らない。外交も所詮、自国の利益が最優先される。いつアメリカに裏切られるか、と台湾の政治家たちは日々危惧してやまない。

トランプは米大統領当選後の昨年12月初旬、北京よりも先に台北と電話で会談した。共産主義国家・中国への揺さぶりなのか、自由主義陣営の一員である台湾と相思相愛をアピールしたのか。その意図を誰も判断できないのがじれったい。

トランプにそのような思想的な戦略がどれほどあるのか、アジアの米同盟国も読み切れない。ひょっとしたら、ビジネスマンが得意とする交渉術だったのかもしれない。台湾をカードに、困難な対中折衝を有利に進めようとしているのではないか、と台湾は心配する。

トランプは国内で低迷する支持率を打開するかのように、中国への圧力を強めている。南シナ海における中国の覇権主義的行動、北朝鮮の核・ミサイル開発問題、為替操作や米中不均衡貿易の是正など、多くの懸案を解決しようとするかのようだ。(中略)

「台湾は中国の核心的利益だ」とする習のスローガンは、何よりも台湾の人々の利益と意思を否定している。トランプに自由主義陣営のリーダーの自覚が少しでもあるならば、台湾を中国に売り渡してはならない。【4月18日 楊海英氏 Newsweek】
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最近では、北朝鮮問題を中国に対処させたい思惑で、さかんに中国・習近平主席を褒め上げているトランプ大統領ですが、この状態に水を差すような台湾問題にかかわりあう気持ちは全くないようです。

****台湾総統と再電話否定=「習氏困らせない」と米大統領****
トランプ米大統領は27日、蔡英文・台湾総統と再び電話会談する可能性について「私は今、習近平・中国国家主席が困難に陥ることはしたくない」と述べ、否定した。ロイター通信とのインタビューで語った。
 
蔡総統は昨年12月に就任前のトランプ氏と異例の電話会談を行ったが、27日にはロイター通信のインタビューでトランプ氏に直接電話することを「排除しない」と述べていた。
 
トランプ氏はこれに関し「私は、習主席と良好な個人的関係を築いた。(北朝鮮問題について)彼は私たちを手助けするため、大事な局面で持てる力の全てを駆使している」と説明。「(蔡総統ではなく)習主席と先に話したい」と強調した。
 
トランプ氏は大統領就任前、中国本土と台湾は不可分とする「一つの中国」を経済問題との取引材料にする可能性を公言していた。しかし中国側の猛反発を受け、習主席との2月の初電話会談で「一つの中国」政策を尊重する考えを表明している。【4月28日 時事】
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まあ、正直と言えば正直ですが、このように公言された台湾側には悲しいものもあるのではないでしょうか。
台湾総統府は28日、蔡英文総統とトランプ米大統領の電話会談の予定は「現時点で」ないと表明しています。

【台湾へのアメリカの武器売却】
アメリカ側も、あまりに台湾につれなくするのも・・・というところでしょうか、武器売却で多少のバランスをとろうという話もあるようです。

****米、台湾に新たな武器売却を検討・・・・新型戦闘機も****
米国が、台湾への新たな武器売却を検討していることがわかった。
 
今夏にも売却が行われる方向だ。複数の米台関係筋が明らかにした。歴代政権が認めなかった新型戦闘機などが検討対象に入っており、売却額は最高となる可能性がある。(中略)
 
2月には習氏との電話会談で、中国側が神経をとがらす「一つの中国」政策について、維持することを確認するなど柔軟姿勢も見せた。歴代米政権が関係を維持してきた台湾に対しては、武器売却などにより防衛への関与を強めることで、バランスを取る考えとみられる。【4月2日 読売】
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アメリカはこれまで台湾への武器売却は、中国の反対を押し切って続けてきましたが、その内容については、中国への配慮もあって、最新兵器は含まない形となっています。

そうしたことで、現在の台湾側の防衛力は相当に貧弱なものになっているとの指摘もあります。

****台湾の兵器の現状****
台湾が中国に対して軍事的に劣勢に立たされているのは疑いない。しかも、いかに米国が台湾の後ろに控えているとはいえ、米国にとっても中国との関係は重要だから無用な摩擦は避けたい。結局のところ、米国も台湾の防衛力強化について真剣な対応を取ってきたとは言い難い現実がある。
 
米国は、国際的に孤立した台湾に対して、兵器売却について独占的立場を享受してきた。他の国が中国の反発を恐れて台湾への武器売却から手を引いた結果である。ただし、その米国自身も中国との関係を斟酌し、台湾が望む防衛用の兵器をそのまま売却することはしてこなかった。
 
その結果が、現在の台湾の貧弱な防衛力である。主力戦闘機のF-16A/B型については、オバマ前政権に対し、追加要求してきた能力向上型であるF-16C/D型66機の新規購入は認められず、現状保有する143機の改修による能力向上に抑え込まれた。それでも1機あたり25億円強の費用負担であり、2023年まで今後7年をかけて改修を行うことになる。
 
ただし、いくら能力向上を図ろうとも、F-16は所詮、第4世代機であって、中国が開発・配備を進めるJ-20のようなステルス性を備えた第5世代機に対抗するには役不足である。台湾もそうした観点から、近い将来米国に対し、第5世代機であるF-35ステルス戦闘機の購入を求めていくことになろう。
 
もう1つ、台湾が長年にわたって購入を希望してきたディーゼル潜水艦に至っては、2001年に当時のブッシュ大統領が8隻の供与を提示したものの、当の米国にその建造設備も技術もない「空手形」にすぎず、結局、蔡英文政権になって独自に建造する計画を進めることになった。(後略)【4月27日 阿部 純一氏 JB Press】
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もっとも、上記阿部純一氏によれば、ミサイルについては台湾は独自技術を開発しているそうです。

****中国が台湾を甘く見ていると痛い目に遭う理由****
台湾には独自の国防技術がある
このように、戦闘機や潜水艦などの難関はあるものの、蔡英文政権は防衛力の近代化を自主的に行おうとしている。

ここで看過してはならないのは、台湾の自主的な防衛力の近代化は決して机上の空論ではなく、国防技術の裏付けがあることだ。すなわち、台湾は独自の技術で先進的な戦力を構築してきた実績もあるのだ。
 
端的に言えばミサイル戦力であり、「雄風3」超音速巡航対艦ミサイルや、「天弓3」地対空ミサイル、「天剣2」空対空ミサイルは、国際水準で見ても最先端の性能を持つ。

「雄風3」は、300キロメートル以上の長射程をもち海面スレスレを飛翔するシースキミング・タイプで中国海軍艦船にとって深刻な脅威となり、「天弓3」は米軍のAMRAAM(AIM120)と同等の長射程で、敵戦闘機の対空ミサイルの射程範囲外からの攻撃が可能だ。

「天弓3」は、マッハ6まで敵のミサイル速度に対応する能力があり、限定的とはいえ局地防衛用のミサイル防衛にも使える上、コストはパトリオットPAC-3の5分の1と安価である。ちなみに、PAC-3の対応速度はマッハ5プラスといわれているから、「天弓3」の性能は相当な水準にあることが分かる。(後略)【前出 4月27日 阿部 純一氏 JB Press】
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そうは言っても、“もちろん、中国の巨大な軍事力を前に、台湾の自主的な防衛努力がどの程度の効果を見込めるかを考えると、悲観的にならざるをえない”と、阿部氏も論じています。

【現実的な台湾世論】
こうした台湾と中国の軍事的力関係、中国の国際社会における影響力、中国の台湾経済への影響力等については、台湾自身が一番認識しているところで、独立志向が暴走する状況でもないようです。

****「台湾独立」賛成、この10年で最低に―台湾民間調査****
2017年3月28日、参考消息網によると、台湾の世論調査機関「遠見民調中心」が27日発表した中台関係に関する世論調査結果で、「台湾独立」に賛成と答えた人の割合がこの10年で最低になったことが分かった。

調査は今月初め、台湾在住の20歳以上の市民を対象に実施し、1007人から回答を得た「独立賛成」と答えた人の割合は24.9%で、2008年以降で最も低かった。

最高だった2014年「ひまわり学生運動」当時の28.5%からは5.1ポイント低下し、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統就任後の昨年9月からも1.5ポイント低下している。

20〜29歳の若者世代をみると、台湾総統選で蔡氏が当選してから2カ月後の昨年3月の調査では、「独立賛成」が36.8%だった。だが1年後の今回は26%となり、10.8ポイント急落している。

半数近い48.5%が蔡氏の中台関係処理能力を信頼していないと回答し、台湾の利益と中台の平和的発展の両立は不可能だとの認識を示している。信頼していると答えた人は全体の38.3%だった。

台湾独立色の強い蔡氏は昨年5月の総統就任以降、「一つの中国」原則に基づく「92年合意」の受け入れを拒否し、両岸関係は冷え込んでいる。【3月28日 Record China】
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シリア  化学兵器使用の“非人道性”批判強調が、内戦からの出口を遠ざける懸念

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(ヨルダン・アンマンのリハビリ施設で、いつ終わるとも分からない戦闘への絶望と、自分たちの将来への不安を抱えながら治療を続ける若くして障害を負ってしまった青年たち 【4月29日 鈴木雄介氏 THE PAGE】)

【トランプ大統領:化学兵器使用に対し「アサド政権によるこのような憎むべき行為は受け入れられない」】
周知のように、アメリカ・トランプ大統領は、シリアのイドリブ地方で4月4日に起きた化学兵器を用いた空爆をアサド政権の仕業と断定して、4月6日、シリア中部ホムスのシュアイラート空軍基地をトマホーク巡航ミサイル59発で空爆しました。

マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)を含む複数のアメリカ当局者は、アメリカは必要な場合にさらなる措置を講じる用意があると表明していましたが、その後は、北朝鮮問題と、それに関連した米中関係が大きな関心事となったこともあって、シリア情勢に関してはあまり大きな動きは報じられていません。

シリア空爆を決行したトランプ大統領ですが、もとよりアメリカ・トランプ政権にはシリア問題に関する基本的・総合的な戦略がない・・・ということも、かねてより指摘されています。

化学兵器に関してはシリア政府軍が使用したとの証拠が問題にもなっていましたが、フランスが、シリア政府の関与を裏付ける証拠を入手したと発表しています。

****化学兵器はシリア政権が使用、フランス政府が「証拠」入手****
シリアの反体制派が支配する地域で化学兵器が使われ89人が死亡した問題で、フランス外務省は26日、シリア政府の関与を裏付ける証拠を入手したと発表した。

エロー外相によると、現場から採集したサリンの標本を調べた結果、シリアの研究所で開発された典型的な手順で製造されていたことが判明。「この手順に政権の特徴が表れている」とエロー外相は述べ、それを根拠に、シリア政権が攻撃を行ったとの結論に至ったと説明した。

フランスの研究所には、シリアで過去に化学兵器が使われた現場から採集した標本が保管されているといい、今回の標本はこれと照合して調べた。

フランス外務省はツイッターでも、「サリンが使われたことに疑いはない。シリア政権の責任についても疑いはない」と発表した。

シリアでは2013年に首都ダマスカス郊外で化学兵器が使用され、活動家によれば1400人が死亡したとされる。シリア政府はこの後、化学兵器を廃棄したはずだった。

一方、シリア政府は今回の攻撃への関与を否定。化学兵器を使ったのはテロ組織だったとの見方を示し、シリア政府は化学兵器を持っていないと主張している。

シリア政権を支持するロシアのプーチン大統領は、シリアのアサド政権を陥れようとする「勢力」が攻撃を実行したと語っていた。【4月27日 CNN】
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トランプ大統領が基本的・総合的な戦略がないなかでシリア空爆を決断した背景としては、大統領本人は化学兵器の非人道性を強調しています。

「女性や幼い子供、かわいらしい小さな赤ちゃんまでが命を奪われたことは、あまりに恐ろしかった。彼らの死は人間に対する侮辱だ。アサド政権によるこのような憎むべき行為は受け入れられない」

犠牲になった子供の写真に非常に心を動かされたとか、3人の子供を持つ母親でもある娘のイバンカさんの働きかけがあったのではとも言われています。

トランプ大統領が犠牲者の悲惨さに強く心を動かされたのは事実でしょうが、それだけではなく、このまま何もしなければ、さんざん批判してきたオバマ前大統領と同じ立場になってしまう・・・という懸念もあったと思われます。

更には、ここで軍事行動を起こせば、多くの国際問題で「アメリカは必要な時は動く(あるいは、何をするかわからない)」という思いを相手国に与えることができ、“取引”を有利に運べる・・・という、ビジネスマンの判断もあったのかも。

【問題は兵器の種類・性格ではなく、戦争そのもの】
確かに化学兵器が悲惨な被害をもたらすということは間違いないところですが、化学兵器の“非人道性”という“特殊性”が強調されると、「じゃ、化学兵器ではなく、通常の爆弾で手足をもがれる犠牲者は?銃弾で撃ち抜かれる犠牲者は?」という疑問も感じます。(どんな死に方も同じとは言いません。アフリカの虐殺でよく使用される“なた”で切り刻まれるよりは、銃で撃ち殺される方を望みますが・・・)

“女性や幼い子供、かわいらしい小さな赤ちゃんまで”が毎日、爆弾や銃で死んでいます。

そうした個人的な印象・疑問に比較的近いものが、兵器の種類ではなく、戦争そのものの悲惨さを問題とすべきとする下記記事です。

****真の問題は化学兵器ではない****
アサド政権のサリン空爆に即座に反応したトランプ米大統領 しかし憎むべき相手は兵器ではなく殺戮行為そのものだ

バラク・オバマ前米大統領は12年に、シリアのバシャル・アサド政権による化学兵器の使用は「レッドライン(越えてはならない一線)」であり、それを越えたらアメリカの判断基準も変わると警告した。
 
1年後、シリア政府が市民に神経ガスのサリンを使用した証拠が出た。オバマは軍事介入に踏み切ることはなかったが、「世界のいかなる場所でも、化学兵器の使用は人間の尊厳に対する侮辱であり、人々の安全を脅かす」と非難した。
 
「人間の尊厳に対する侮辱」という点は、ドナルド・トランプ米大統領も賛成のようだ。4月上旬にシリアの反体制派支配地域でサリンを使ったと思われる空爆が起こると、トランプはシリア空軍基地へのミサイル攻撃を指示した。
 
しかし、化学兵器の使用に対して国際規範にのっとり断固とした措置を取るという「信条」は、戦略的に意味がなく、道徳的に短絡過ぎる。
 
戦略的には、アメリカは通常兵器と質的な違いがない兵器の監視に、時間と資源を費やさなければならない。そして道徳的には、アメリカは犠牲者よりも兵器の性質ばかりに目を向けるという姿勢にも取れる。
 
化学兵器は一般に考えられているほど、通常兵器と比較して効率的に人の命を奪えるわけではない。
 
化学兵器は第一次大戦で「殺戮を繰り広げた」とされているが、最大1700万人の戦死者のうち、化学兵器による死者は9万人ともいわれる。さらに十数万人が化学的な被害を受けたが、大半は回復した。
 
では、なぜ化学兵器が特に非難されたのだろうか。まず、当時は兵器として新しく、あまり理解されていなかったため、兵士は当然ながら恐怖を抱いた。さらに、非紳士的で騎士道に反する卑劣な手段と見なされていた。いずれも職業軍人にとっては受け入れ難い。
 
化学兵器のこうした「評判」が、厳しい規制につながったことは間違いない。一方で、第一次大戦における本当「大量破壊兵器」は、まず機関銃であり、次にインフルエンザたった。(中略)

さらに、フセインなど化学兵器を実際に使った人々が気付いたように、兵器としての扱いが難しい。理想的な気象条件という人間の力が及ばない要素に左右されるからだ。

被害映像のインパクト
実際、化学兵器は製造と安全な保管にコストがかかるが、特別に有用でもない。だからこそ、冷戦終結後に主要国はあっさりと全面的に禁止したのだ。
 
ただし、世界中で使用禁止を実行しても、道徳的にはあまり意味がない。使用を容認するべきだと言うのではない。むしろ兵器の種類に関係なく、民間人の殺戮そのものに、はるかに厳しく対処するべきだ。
 
今の米政府の「信条」は、化学兵器さえ使わなければ、独裁者が白国民をいくら殺害しても罰を受けないという意味になりかねない。汚くない紳士的な殺害行為なら、存分にジェノサイド(大量虐殺)をして構わないと言っているようなものだ。
 
紳士的な殺害行為などというものが本当に存在すると思う人は、戦争映画の見過ぎであり、道徳に鈍感なだけだ。ドワイト・アイゼンハワー元米大統領は、「私は戦争が嫌いだ。私は戦争を生き延びた兵士として、その残虐さと無益さと愚かさを知っている」と言った。 

戦争は常に野蛮で不快極まりないものだ。正義の戦いだとしても。
 
私は平和主義者ではない。アフガニスタンで従軍経験があり、武力行使が正しい場面もあると考えている。しかし、紳士的な殺害という代物は、人道的な戦争を支持していると市民に思わせるための滑稽な幻想にすぎない。爆弾であれ、銃弾であれ、なたであれ、人の命を奪う行為は殺害だ。
 
特定の兵器の使用を禁止することは、兵器を使う目的より兵器そのものに道徳的な重要性を与えてしまう。私たちは市民の大量殺戮に対し、殺害の手段に関係なく怒りを覚えるべきだ。
 
1ヵ月で数十人を毒ガスで殺したアサドが怪物なら、過去6年間に樽爆弾と通常の爆弾で50万人以上を殺戮したアサドもまた、怪物だ。人を殺した事実より殺害に使った兵器に怒りをぶつけるのは、あまりに近視眼的ではないか。
 
毒ガスを浴びて死んだシリアの子供たちの姿が、多くの人に衝撃を与えたのは無理もない。(中略)

もっとも、痛ましい写真や映像を見て外交政策を決めるなら、戦略の立案をCNNに、ツイッターに、丸投げするようなものだ。今回トランプは、アメリカの関心を引きたければ、カメラに向かって被害者だと主張すればいいという前例を作った。
 
世界の悲惨な歴史に比べたら、今回のシリアの写真はそこまでむごたらしくはない。アサドに道徳的な怒りが込み上げてきた人は、その余韻が残っているうちに、ネットで「ルワンダ虐殺」「スレブレニツアの大虐殺」「アウシュビッツ」を検索しよう・・・・有害な検索結果のブロック機能をオフにしてから。【5月2日号 Newsweek日本語版】
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【「アサド氏について考えを改めた」ことで、遠ざかる出口】
3月で7年目に入ったシリア内戦では、すでに32万人が犠牲になっていると報告されています。
また、総人口2300万人のうち約4分の1の人々が難民となって、生活の場を奪われています。

どういう殺し方・死に方なら許されず、どいう殺し方・死に方なら仕方がない・・・という話ではなく、この戦争が続いていることこそが問題とすべき点であり、もし“人道”を考えるのであれば、一刻も早く戦争を終わらせることこそが、人道にかなうものと言えます。

アサド政権の存続よりはIS掃討が関心事で、シリア内戦終結のためにはアサド存続もやむなし・・・との判断に傾いていたようにも見えたトランプ大統領ですが、化学兵器、およびそれを使用したアサド政権を非人道的と非難することで、アメリカ・トランプ大統領の対応は、シリア内戦の終結を遅らせる、出口のないものにすることが懸念されます。

****シリア内戦でオバマ前政権と同じジレンマに陥るトランプ大統領 米露衝突は不可避なのか****
シリア内戦をめぐり、ドナルド・トランプ米大統領(70)が、前任者と同じジレンマに陥りつつある。
 
化学兵器を使ったシリア政府軍によるとみられる空爆を受け、トランプ政権は7日、懲罰的なシリア攻撃に踏み切った。2013年に政府軍の化学兵器使用疑惑が浮上した際、「レッドライン(越えてはならない一線)」を越えたとして攻撃姿勢を見せながら方針転換した前政権との違いを見せつけた格好だった。
 
これが世界的な驚きを呼んだのは、トランプ氏が就任前から、バッシャール・アサド大統領(51)やその政権の存在意義を肯定的に評価してきたからだ。

トランプ政権にとり、中東での最優先課題はシリアやイラクで活動する過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討であり、シリアの体制転換(レジーム・チェンジ)ではなかった。
 
しかし、今回の化学兵器使用疑惑を受けてトランプ氏は、「アサド氏について考えを改めた」と発言。ティラーソン国務長官も先進7カ国(G7)外相会合が開かれた伊ルッカで11日、「アサド一族の支配は終焉(しゅうえん)に向かっている」「アサド氏が(シリア和平に向けた)未来の一部とならないことを望む」と述べ、態度を一気に硬化させた。
 
同日から訪露したティラーソン氏は、アサド政権を支えるロシアに、アサド氏を見限るよう求める考えも示した。トランプ政権側の一連の発言は、今後のシリア政策をアサド氏退陣を前提に進めるとの方針転換と受け取れる。
 
だが、それが実際にシリア安定につながるのか。実現性はあるのか。疑問は多い。
 
アサド政権と敵対する反体制派は分裂し、統治能力に欠ける。反体制派には、思想面でISなどに近いジハード(聖戦)主義勢力も多く、外部からの統制は困難だ。

アサド氏が属するイスラム教シーア派の一派とされるアラウィ派が、政権を失うことを恐れて残虐行為をエスカレートさせるとも予想される。

政権崩壊がシリア国家そのものの崩壊につながる可能性は高い。
 
一方でロシアがアサド政権支援を続けるのは、地中海沿岸の北西部ラタキアなどに有する軍事拠点を確保し、シリアを勢力圏として米欧に認めさせるためだ。ロシアにとってアサド政権の排除は大きなリスクであり、米国がそれを強行しようとすれば両大国の緊張が高まるのは必至だ。
 
市民を無差別に殺傷するアサド政権は許し難い。が、力でのアサド氏排除は、さらなる混沌の引き金となる−。バラク・オバマ前政権がシリアへの軍事行動を諦め、アサド氏の退陣を主張しながらも成果の出ない和平協議に固執せざるを得なかったのはこうした事情からだ。

11年に北大西洋条約機構(NATO)の枠組みでリビアへ軍事介入しカダフィ政権を崩壊させたものの、同国がその後、分裂状態となった苦い教訓もある。
 
トランプ氏が、シリア攻撃でオバマ氏と一線を画したのは確かだ。ただ、アサド政権退陣を追求する姿勢を強めることは結局、否定してきたオバマ氏の路線を踏襲し、打つ手のない袋小路に自身を追い込むことを意味する。【4月28日 産経】
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シリア政府軍が軍事的優位性を強めており、反体制派がバラバラになっている現在、力でアサド大統領を引きずり下ろすことは極めて困難な情勢です。実現できたとしても、長い戦争が必要でしょう。

【内戦終結・シリアの安定のためには、悪魔とでもダンスを踊る覚悟も】
仮に、アサド大統領を排除できたとして、それがシリアの安定をもたらすか・・・という点では、上記記事も指摘するようにはなはだ懐疑的にならざるを得ません。むしろ、そこで生まれるのは今以上の混乱でしょう。

そのあたりを予感させるような動きが、昨日も報じられています。

****ダマス近郊でのイスラム勢力同士の衝突****
先ほどご紹介したal qods al arabi net は28日ダマス近郊でイスラム勢力同士が衝突し、31名死亡し、数十名が負傷したと報じています。

記事の要点は次の通りですが、興味深いのはこれらの勢力のうちイスラム軍(jeish al islam )はサウディが支援し、旧ヌスラ戦線のシャム・ファタハ戦線と同盟を組んでいるal rahman 部隊はトルコとカタールが支援しているとしていることです(さすがにアルカイダ系の旧ヌスラ戦線をどこが支援しているかは書いていない?あるとすればどこでしょうかね?)。

このような噂は前にも聞いたことはありますが、このような形でかなり明確に書かれたという記憶はありません。

「シリア人権網によると、28日ダマス近郊の東ゴータで、イスラム勢力間で散発的な衝突があり、31名死亡し、数十名が負傷した、

衝突は28日朝、東ゴータで最有力のイスラム軍(サウディが支援)と、シャム・ファタハ戦線とalrahaman 部隊の連合体(後者はカタールとトルコが支援)の間で生じた由。

人権網によると、衝突はイスラム軍のkafarubatnaとarabeenに対する攻撃で始まったが、原因は不明の由。
死者31名のうち12名がイスラム軍で、19名が他方の連合体の死者で、79名が負傷した由。

イスラム軍は、声明でシャム・ファタハ戦線等が、道路を閉鎖したり、イスラム軍に攻撃しかけたりして、常に敵対的行動をしてきたと非難したが、他方はこれを否定している由。

このうちalrahaman 部隊は、東ゴータで2番目に強力な勢力で、kafarbatnaやzamalka 等を完全に支配している由」
http://www.alquds.co.uk/?p=711358【4月29日 「中東の窓」】
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アサド政権崩壊後のシリアでは、こうしたイスラム勢力の主導権争いが広範囲に起きることが推測されます。

こうした現状を踏まえ、内戦終結こそが最大の人道問題の解決策であると考えるなら、たとえ化学兵器を使用した相手であっても、とにもかくにも内戦終結のための交渉相手とし、必要ならその存続を一定に認めることが求められます。

イラン大統領選挙 争点は核合意評価と「自由」 対抗馬ライシ前検事総長の深い「闇」

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(5月19日の大統領選の立候補登録のため、総務省を訪れたエブラヒム・ライシ氏【4月21日 産経】)

【事前審査で1636人から6人へ 前大統領は失格】
今月19日に投票が行われるイラン大統領選挙については、4月16日ブログ“イラン大統領選挙 再選を目指す穏健派ロウハニ大統領 核合意を嫌うトランプ大統領は?”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170416で取り上げました。

1636人が立候補を届け出ていましたが、前回ブログでも触れたように、イランでは護憲評議会(「監督者評議会」)による事前審査がありますので、実際に立候補が認められたのが6名だけです。

このような“事前審査”の存在、結局のところ政権中枢が容認する者でないと立候補できないという審査基準の不透明さが、制度的には民主的な選挙制度が一応存在するものの、イラン民主主義の実態を疑問視させるところでもあります。(もっとも、1636人全員が立候補したら、とんでもない騒ぎにもなりますが・・・・)

話題となった、最高指導者ハメネイ師の勧告を無視する形で出馬したアフマディネジャド前大統領についても、予想されていたように立候補は認められませんでした。

*****<イラン大統領選>6人の争いに 前大統領は認められず****
イラン内務省は20日夜、大統領選立候補者の資格審査を進めていた「護憲評議会」が登録者1636人のうち6人の立候補を認めたと発表した。

ファルス通信によると、再選を目指す現職の保守穏健派ロウハニ大統領、最高指導者ハメネイ師に近い保守強硬派ライシ前検事総長の2人の立候補は認められたが、返り咲きを狙うアフマディネジャド前大統領は認められなかった。

この結果、5月19日の投票に向けた選挙戦はロウハニ大統領とライシ師の対決となる構図がほぼ固まった。
 
ハメネイ師の影響下にある護憲評議会が認めた6人はこの2人のほか、2013年の前回大統領選で次点だった保守強硬派のガリバフ・テヘラン市長▽ロウハニ大統領に近い保守穏健派のジャハンギリ第1副大統領▽ミルザリム元大統領顧問▽ハシェミタバ元副大統領−−の4人。
 
アフマディネジャド前大統領は在任期間(05〜13年)に病院や学校建設といった公共事業を進め、現在も貧困層に根強い人気があるが、一方で対米関係を極度に悪化させた。ハメネイ師は出馬を断念するよう促したが、前大統領はこれを無視して届け出ていた。
 
今回の選挙戦は、15年に欧米などとの間で核開発を制限する核合意を実現し、対外融和姿勢に踏み出したロウハニ大統領の優位が伝えられている。

だがトランプ米政権はイランによるシリアのアサド政権支援やミサイル開発などを問題視し、今月に入り核合意の見直しに言及。こうした中、反米意識の強い強硬派が勢いづく可能性もある。
 
イランではイスラム教シーア派聖職者の最高指導者(現在はハメネイ師)が国防や外交など国政全般に広範な最終決定権を持ち、大統領はその下で行政府の長として機能する。大統領の任期は4年で、連続3選は禁止されている。【4月21日 毎日】
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さきほどはイラン民主主義の“みせかけ”に言及しましたが、逆の視点から言えば、とかく宗教支配というネガティブな面が強調されるイランですが、とにもかくにも、保守強硬派対穏健派という路線が異なる、国民評価も分かれる候補者の間で選挙が行われるということに関しては、一定に民意が政治に反映される仕組みが機能している・・・というふにも言えるでしょう。そうした民意さえもが無視される絶対王政・独裁制の国はいくらでもあります。

もちろんイランの場合、大統領権限は限定されていて、最終決定権は最高指導者にある・・・といった限界はありますが。

【保守派が批判する核合意での妥協 期待したほど回復しない経済への国民不満も】
今回選挙の争点は核合意に関する賛否・評価が中心となり、今後の対米関係の方向を定める選挙でもあります。ということは、中東情勢、ひいては日本を含む世界全体に大きな影響を持つ選挙でもあります。

****イラン大統領選 候補者決まる 対米関係占う試金石に****
イランで5月19日に行われる大統領選で、穏健派で再選を目指すロウハニ大統領ら6人が候補者に正式に決定した。ロイター通信などが20日、国営メディアの情報として伝えた。

2015年に欧米など6カ国との核合意にこぎ着けたロウハニ師と、保守強硬派のライシ前検事総長の事実上の一騎打ちになる見通しだ。
 
トランプ米政権がイランに対して厳しい姿勢で臨む方針を示す中、今後の両国の関係を占う上でも重要な選挙となる。
 
ライシ前検事総長はイランのイスラム教シーア派最高指導者のハメネイ師が後ろ盾とみられ、両者ともロウハニ大統領の下での経済の低迷を批判している。
 
ロウハニ師をめぐっては「核合意で欧米などに妥協しすぎた」という厳しい見方が保守派から出ているほか、「核合意に達したのに海外からの投資が期待したほど回復しない」といった不満が国民の間で広がっていたとされる。
 
このほかの候補は、前回選でロウハニ師に敗れた保守強硬派のガリバフ・テヘラン市長ら。1600人を超える立候補届け出があったが、ハメネイ師の影響力が強い護憲評議会が候補者を6人に絞り込んだ。【4月21日 産経】
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ロウハニ大統領がアメリカとの間で核合意できたのは、制裁解除による経済回復を重視した最高指導者ハメネイ師の支持・容認があったからであり、保守強硬派ライシ前検事総長を推しているとされる最高指導者ハメネイ師が、今後の核合意をどうしたいのか・・・そこらはよくわかりません。(一番肝心な部分ですが)

核合意、それにともなう制裁解除・経済回復への期待を最大の実績とするロウハニ大統領にとっては、「核合意に達したのに海外からの投資が期待したほど回復しない」といった不満が国民の間に存在するだけに、核合意に不満を漏らすトランプ大統領の言動が足かせとなる可能性もあります。

****ロウハニ師再選に影=トランプ米政権が逆風に―イラン大統領選****
イラン大統領選(5月19日投票)は、現職の保守穏健派ロウハニ師ら6人の候補者が20日に決まったことを受け、本格的な選挙戦に入っていく。

現状では、ロウハニ師が最有力視されているものの、対イラン強硬路線を取るトランプ米政権の存在が逆風となっており、再選に影を落としかねない。
 
2015年に欧米など6カ国との核合意を実現したロウハニ師は14日、正式な出馬表明に際し「合意の維持が重要だ」と強調した。選挙戦では、合意と引き換えに実施された欧米側の対イラン経済制裁の解除を、実績として訴えていく姿勢だ。
 
ところが、米政権の対応がこれに冷や水を浴びせている。トランプ大統領は核合意を「不完全だ」と繰り返し批判。ティラーソン国務長官は18日、合意を再検討すると表明した。

これに対し、ロウハニ政権を支えるザリフ外相は「陳腐な非難だ」と反論、イランは合意を順守していると訴えた。【4月21日 時事】 
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イランと米英仏独中ロ6カ国との核合意は、オバマ前政権が主導し、イランが10年以上にわたり核開発を大幅に制限する代わりに、国際社会による対イラン制裁解除を決めています。

イラン・アメリカの双方に“まとめよう”という意思があって、相反する利害をなんとか“調整”して(双方が自分に都合のいい解釈で)まとめた合意ですから、突っ込みどころはたくさんあるでしょう。(多くの外交的合意というのは、そうした面が多々あります)

イランに保守強硬派、アメリカにトランプ大統領という現行合意に否定的・消極的な組み合わせになると、核合意の前途は非常に厳しくなります。(もっとも、保守強行派が勝利したイラン側が、制裁が再燃する合意破棄に直ちに出るかどうかは、不透明ですが)

****<イラン大統領選>対外融和政策、継続の是非が焦点****
・・・・IMF(国際通貨基金)によると、17年の国内総生産(GDP)は4%以上伸びると予想され、近年では順調だ。ロウハニ師は「経済成長、インフレ抑制、為替安定を実現した」と実績を強調する。だが15〜16年の失業率は約11%で制裁解除前と大きく変わらない。
 
国民は「市民を弾圧せず社会を安定させた」と評価する一方、「生活は苦しい」との不満も聞かれる。穏健派の後ろ盾ラフサンジャニ元大統領が1月に死去し票固めに影響が出るとの観測も出ている。
 
有力対立候補は最高指導者ハメネイ師の「懐刀」で保守強硬派のエブラヒム・ライシ前検事総長(56)だ。反体制派対応の要職を歴任し、高位のイスラム聖職者でもある。
 
政治経験が浅く明確な外交政策は打ち出していないが「イランの問題を解決するのは米国や西側諸国でない」「わが国はより経済発展できる。汚職をなくし強い政府を作る」と訴え、現政権の政策は不十分と主張する。経済成長の「恩恵を受けていない」と考える国民の支持集めがライシ師の目標でもある。
 
イラン政治に詳しいアズハル大学のモハメド・ヌール研究員は「ロウハニ政権の経済改革は道半ばだが、改革派や若年層の大半は現状維持を望み、ロウハニ再選を望んでいる。ただ強硬派は最終的にライシ氏で一本化し、必ず巻き返しはある」と分析する。
 
どの候補も過半数の得票に達しない場合、上位2人による決選投票が実施される予定。
 
米国の出方も選挙戦を左右する。トランプ大統領は今月6日、イランが支援するシリアのアサド政権が自国民に化学兵器を使ったと断定して政権の基地にミサイル攻撃を実施。20日にはイラン核合意を「ひどい合意だ」と改めて非難した。イランによるテロ支援継続などを理由に、合意見直しを検討する考えも示している。
 
行動の予測が困難なトランプ政権と向き合う中、ハメネイ師は「政治経験の浅い者が政権を担うことには不安を覚えている」(中東の衛星テレビ局アルジャジーラ)との見方があり、本音では「ロウハニ続投」を黙認しているともいわれる。
 
中東地域でも、シーア派国家イランは、スンニ派の大国サウジアラビアと昨年1月に断交し、シリアやイエメンの内戦を巡って敵対する。トランプ大統領はサウジへの軍事支援強化の姿勢も見せる。

こうした状況下にイランで強硬派政権が誕生すれば、米・サウジとの対立が深まり、中東の不安定化がさらに拡大する懸念もくすぶっている。【4月21日 毎日】
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【テレビ討論会も行われる“民主主義”】
“現状では、ロウハニ師が最有力視されているものの・・・”【前出 時事】といいますが、別に世論調査が行われた訳でもなく、どういう根拠による判断なのかはわかりません。

ましてや、ハメネイ師が“本音では「ロウハニ続投」を黙認している”【上記 毎日】に至っては、憶測の域を出ないのではないでしょうか。(もちろん、続投を望んでいる可能性は多々ありますが)

アメリカ同様に、候補者によるテレビ討論会も行われています。

****<イラン大統領選>6候補、経済問題で舌戦 テレビ討論会****
5月19日投票のイラン大統領選を前に、候補者6人によるテレビ討論会が28日行われた。

選挙戦は、2015年に欧米などとの間で核合意を実現し、対外融和を重視する保守穏健派のロウハニ大統領の路線が継続されるかが焦点だ。

核合意で経済制裁は解除されたものの、国民はその恩恵を実感できていないとの声も根強く、討論では経済問題を中心に舌戦が繰り広げられた。
 
最高指導者ハメネイ師に近い保守強硬派のライシ前検事総長は「国民の経済格差は拡大している」と指摘。同じく保守強硬派のガリバフ・テヘラン市長も「現政権は富裕層を支援し、貧困層に厳しい」とロウハニ路線を批判した。
 
これに対し、ロウハニ大統領は現政権下で雇用は好転したと主張。国家収入を石油に頼る構造からの脱却も図り、「石油依存度も減らした」と実績を強調した。
 
選挙戦はロウハニ大統領が優勢とみられるが、トランプ米政権がイランへの強硬姿勢を示す中、反米色の強いライシ、ガリバフ両氏のいずれかが当選した場合、米国との関係悪化も予想される。
 
その他の候補者は、ジャハンギリ第1副大統領、ハシェミタバ元副大統領、ミルザリム元大統領顧問の3人。【4月29日 毎日】
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【“暴力と過激思想と圧力の政治は過去のものとなった”か?】
中東メディアによれば、ロウハニ大統領は集会でイラン国民に対して、「今回の選挙で保守派を選んだ場合には、イランはこれまで以上の強権政府に直面することになる」「イラン人にとって最も重要な問題は、自由の問題である」「イランは今回の選挙で、暴力と過激思想と圧力の政治は過去のものとなったことを示すべきである」と訴えているとのことです。【4月30日 「中東の窓」より】

制裁解除による経済回復が鮮明ではないだけに、こうした“自由”を前面に押し出す必要もあるのでしょうが、対抗馬とされる保守強硬派のライシ前検事総長を強く意識した発言でもあります。

前回ブログでも触れたようにライシ氏は、“1988年、でっち上げの容疑で数千の政治犯を処刑した「死の委員会」の一員であった”【2016年10月28日 WEDGE】という反動的な経歴を持つ人物でもあります。

****エブラヒム・ライシ 闇深き「反米」保守強硬派****
「国営メディアの選挙報道があまりにも偏っている」。こんな不平が、野党側からではなく、現職の大統領側からあがるとすると、その国はどうなっているのだろうか。
 
イランのロウハニ大統領は、最高指導者であるハメネイ師の権威に遠く及ばない。大統領を二期務めたアフマディネジャドも、「あの男は国を分裂させる」というハメネイ師の一言で、護憲評議会から「大統領選出馬の資格なし」と判定された。

ロウハ二陣営が圧倒されるほど、最高指導者の寵愛を受け、メディアに紹介されるのが、ライシである。五月十九日投開票の大統領選で、ロウハニ再選に立ちはだかるのがこの強硬保守派だ。
 
一九六〇年十二月生まれ。五歳の時に父が死亡し、十五歳で聖地コムの神学校に入学した。イラン革命前夜の騒然たる時期に、革命の牽引車となった宗教団体で思春期を送った。神学校で抜群の成績を修め、イスラム法の博士号をとったことで、俊才の人生の方向が定まった。

新生のイスラム共和国の検事として、革命の敵を摘発することだ。裏方としての仕事は、深いベールに覆われていた。
 
ところが昨年八月、ライシの闇の一端が世界に知れ渡った。
二〇〇九年に死去した、ホセイン・アリ・モンタゼリ師が生前に残したテープが、同師の息子によってイラン国外で公表された。

同師は革命指導者の一人で、一時はホメイニ師の後継とされたが、一九八九年以降、公式路線の批判者となって権力から遠ざかった。
 
問題のテープは、革命政権が八八年、反政府武装組織「ムジャヒディン・ハルク」や共産主義の「ツデー党」のメバーらを、イランの刑務所で数か月にわたって組織的に大量処刑した事件に関するもの。衝撃を受けたモンタゼリ師が、当局者と話す中で、処刑遂行の責任者四人の一人として「ライシ」の名前を挙げた。他に名指しされた責任者には、現司法相も含まれていた。
 
この事件では、最大三万人が刑務所で拷問された後に処刑されたとされる。大量処刑の遂行中から告発され、長く「革命の汚点」だった。国際人権団体がまとめた各種の証言は、読み進めるのが嫌になるほど陰惨である。
 
この時のライシは、テヘランの次席検事。一四年にはイラン検事総長まで上り詰めた。
 
現在は生まれ故郷である、イラン第二の都市マシュハドで、権威ある慈善団体の最高責任者を務める。妻の父親は、マシュハドの金曜礼拝をつかさどる高位聖職者。体制への揺るがぬ忠誠は、手厚く報われていた。
 
一般国民にはほとんど無名だったライシが駆り出されたのは、米国のトランプ新政権がイランを敵視し、両国間に新たな緊張が高まっていることと無関係ではない。米政府は、オバマ政権時代にまとまった核合意を「悪い合意」「失敗」と決め付け、追加制裁導入にも熱心だ。

ハメネイ師にとって、イラン現政権の唯一の外交的業績が風前の灯になったのなら、国民に物分かりのよさそうな顔を見せる「穏健派」は用済みだろう。
 
ただ、政治的選択肢の乏しいイラン国民は、四年に一度の投票の機会を、体制批判の表明に使う。九七年のハタミ大統領当選はその好例で、0九年の大統領選では、アフマディネジャド再選をめぐって国中が大混乱に陥った。ロウハ二も体制が望む候補ではなかった。
 
加えて宗教界出身で、検察経験者。反体制派処刑でも悪名高いとあっては、トランプ政権にとって願ったりかなったりの「敵役」だ。国民は、その登場がもたらす帰結を決して望んではいない。【「選択」5月号】
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フランスにルペン大統領、イランにライシ大統領、アメリカはトランプ大統領・・・・あまり考えたくない世界です。

アフガニスタン 春期攻勢のタリバン アメリカの増派は? ロシア・イラン・中国の関与は?

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(アフガニスタン・カブールにあるプリソフタ橋の下に集う麻薬中毒者ら=2016年10月(共同)
“アフガンはアヘンやヘロインの材料となる植物ケシの世界最大の産地。麻薬の多くは国外に流れていくが、国内消費量も増加。長引く戦乱のほか、麻薬のまん延も国をむしばんでいる。”【1月16日 共同】)

【現状をコントロールできていないアフガニスタン政府】
最近のアフガニスタンに関する主なニュースとしては、アメリカ・トランプ政権による北朝鮮に向けたデモンストレーションを兼ねた、イスラム国(IS)を対象にした4月13日の大規模爆風爆弾(MOAB)投下と、4月21日に北部マザリシャリフ近郊の陸軍基地がタリバンに襲撃され兵士150人ほどが死亡した事件があります。

大規模爆風爆弾(MOAB)の方については、アフガニスタン軍の報道担当者はISの死者が司令官4人を含む94人に上ったと明らかにしています。

ISは2015年、アフガニスタンとパキスタンに「支部」を設立したと宣言。以来、タリバンと互いに影響し張り合う形で数々のテロを実行しており、3月8日には首都カブールにある軍病院で、男が自爆し、白衣を着た男3人が病院内に侵入して銃を乱射、30人以上が殺害され、50人以上が負傷するという襲撃事件を起こしています。

アフガニスタンにおけるISは、アルカイダとつながるタリバンとの抗争もあって勢力を弱めているとも言われていましたが、この軍病院襲撃について“ISISがアフガニスタンで急速に足場を固めつつある大きな証拠かもしれない”【3月16日 Newsweek】ともの評価もあります。

一方、4月21日のタリバンによる陸軍基地襲撃では、責任をとって国防相と陸軍参謀長が辞任しています。
ISの病院襲撃にしても、タリバンの陸軍基地襲撃にしても、アフガニスタン政府が現状をコントロールできていないことを示す証拠ともなっています。

****アフガン国防相と陸軍参謀長が辞任、100人超死傷のタリバン襲撃受け****
アフガニスタン大統領府は24日、同国のアブドラ・ハビビ国防相とカダム・シャー・シャヒーム陸軍参謀長が辞任したことを明らかにした。
 
大統領府は声明で「アシュラフ・ガニ大統領が国防相と陸軍参謀長の辞任を受け入れた」と述べた。
 
アフガニスタンでは21日、北部マザリシャリフ近郊にある軍事基地が旧支配勢力タリバンの襲撃を受け、100人以上の兵士が死傷したため、国民から怒りの声が上がり、国防相と陸軍参謀長の辞任要求が高まっていた。
 
襲撃事件の正確な死傷者は明らかになっておらず、当局は兵士100人以上が死傷したと発表しているものの、内訳について公表していない。その一方、一部の地元当局者らは死者数だけでも最大130人としている。【4月24日 AFP】 
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【米軍は増派要求 「アメリカ第一」のトランプ大統領は?】
アメリカ報告書によれば、昨年11月時点でアフガニスタン政府が支配・影響下に置いているのは全407地域の57.2%に当たる233地域にとどまっているとされています。(アフガニスタン側は否定していますが)

こうした状況で、米軍幹部はアフガニスタンへの増派の必要性を指摘しています。

****アフガン駐留米軍の増強必要、こう着状態打開目指す=米軍司令官****
米中央軍のボーテル司令官は9日に開かれた上院軍事委員会の公聴会で、アフガニスタン情勢のこう着状態を打開するために新たな戦略を策定していると明らかにし、アフガニスタン駐留米軍の増強が必要との見方を示した。

ボーテル氏は「助言・支援の任務をより効果的に行うには、増派が必要になる」と述べた。ただ、新戦略は策定中だとし、必要とされる増派の規模は明らかにしなかった。

アフガニスタン駐留米軍のジョン・ニコルソン司令官は先月、反政府武装勢力タリバンとの戦いが長引くなか、国際部隊を数千人増強する必要があると指摘していた。

トランプ大統領はこれまでのところ、アフガニスタン駐留米軍の規模を現行の8400人から増加することを認めるかどうかについて、立場を明確にしていない。【3月10日 ロイター】
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「アメリカ第一」を掲げるトランプ大統領としては、いろんないきさつからシリア空爆とか、北朝鮮問題への対応などを迫られてはいますが、基本的にはアメリカの利害に直結しない紛争に関与したくない・・・というのが本音でしょう。アフガニスタンについても、増派は本来の意向とは異なります。

【春期攻勢で強まるタリバンの圧力 ロシア・イランのタリバン支援の動きも】
しかし、アメリカが今まで以上に支えないとアフガニスタン情勢はジリ貧の感もあります。

アフガニスタンでは“恒例の”タリバン春期攻勢が始まっています。

****アフガンに“第2のシリア”の恐れ、タリバンが春期攻勢を宣言****
内戦の泥沼化の様相が深まる中、アフガニスタンの反政府組織タリバンはこのほど政府軍、駐留米軍に対して「春期攻勢」の開始を宣言、戦闘が一段と激化しそうな雲行きだ。

トランプ米政権は増派も含め、アフガン政策を見直し中だが、ロシアやイランの影もちらつき、同国が”第2のシリア”になる恐れも強まってきた。

政府軍死者が2倍に
冬の間、雪に閉ざされるアフガニスタンでは例年、春の到来とともに戦闘の季節が明ける。今年もタリバンが4月28日の声明で、春季攻勢の開始を宣言した。

この宣言の直前の21日、タリバンの武装グループが北部マザリシャリフ近郊の治安部隊司令部を襲撃、礼拝中の新兵ら140人以上を殺害した。
 
一度の襲撃で起きた死傷者では最大の被害者数となり、この責任を取ってハビビ国防相とシャヒム陸軍参謀長が辞任、国軍幹部らも更迭された。

襲撃は、負傷した兵士を運んで来たように装った計画的なもので、実行したのはタリバンの“最凶”組織「ハッカニ・グループ」の選抜隊と見られている。
 
こうした襲撃や交戦などでアフガニスタン軍の死者は毎年拡大する一方で、2016年は一昨年の2倍以上の6700人が犠牲になった。民間人の死傷者も1万1418人と急増した。

タリバンは現在、国土の50%以上を支配、アフガニスタンは米軍の支援と国際的な援助でなんとか国家の体裁を維持しているのが現実だ。
 
アフガンに駐留していた米軍中心の国際治安部隊は最大14万人に上ったが、2015年までに一部米軍を残して大半が撤退した。現在は約8500人の米軍が残留し、政府軍の訓練、助言などとともに、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダに対するテロとの戦いを続けている。
 
米軍はアルカイダの潜伏するパキスタン国境との部族地域に対する無人機空爆作戦を続行する一方で、ISの拠点のある東部ナンガルハル州での掃討作戦を強化。

4月中旬には、「すべての爆弾の母」と呼ばれる通常兵器では最大の大型爆風爆弾を投下し、ISの地下トンネル網を破壊した。しかしその直後の作戦では、米兵2人が死亡するなど被害も出ている。
 
トランプ政権の本音は1日も早いアフガニスタンからの軍撤退だろう。しかし今、米軍が手を引けば、同国がタリバンに取って代わられる可能性が強い。現状のままでも、タリバンが一段と勢力を拡大、ISもテロを活発化させて内戦が泥沼化、“第2のシリア”に陥りかねない。
 
特にISは拠点のあるナンガルハル州から活動範囲を拡大し、3月には首都カブールの国軍病院で自爆テロを実施、49人を殺害した。ISは最盛期の勢力からは弱まっているものの、依然1000人以上の戦闘員がいると見られている。
 
こうした状況の中で、トランプ政権は早急なアフガン政策の見直しを迫られており、4月には、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、マティス国防長官らが相次いで同国を訪問、ガニ大統領らと会談した。

イラン、ロシアの影
とりわけトランプ政権は隣国のイランとロシアがタリバンを支援しているのではないか、との懸念を深めている。

イランとロシアはこれまで、米軍がアフガニスタンから撤退するよう要求してきたが、アフガン駐留米軍のジョン・ニコルソン司令官はこのほど米上院での証言で、両国が米国の取り組みを切り崩そうと図り、タリバン支援で連絡を取り合っている、と非難した。
 
同司令官によると、ロシアはタリバンを公式に正当な組織と認め始めており、イランはタリバンに直接的な支援を行っているという。イラン、ロシアともこの司令官の発言をねつ造と一蹴しているが、両国がタリバンを支援する理由は大いにある。
 
それは両国ともISに対する「防波堤」の役割をタリバンに担わせたいと願っているからだ。スンニ派のISにとってシーア派のイランは不信心者の最大の敵だ。イラクやシリアでは、イラン配下のイラクのシーア派民兵がISと戦っている。アフガニスタンでISが勢力を拡大することは隣国イランの安全保障が脅かされることを意味する。
 
シリアのアサド政権(シーア派系アラウイ派)を支援するため軍事介入し、国内のイスラム過激派対策に悩むロシアにとってもアフガンでのISの勢力拡大は阻止したいところ。ISがシリアでのロシアの空爆への報復を誓っていることもロシアの警戒心を高めている。
 
ロシアのプーチン政権はすでに、イラン、中国、パキスタンなどとアフガニスタンの和平交渉を主導する意欲を見せ、中東で強めている影響力をアフガンにまで広げようと図っている。
 
しかしアフガンの治安回復のため、これまで2400人もの将兵の血を流してきた米国にしてみれば、ロシアの動きは容認し難い。ロシアの動きをけん制するためにも、早急にアフガン政策を策定できるかどうか、トランプ政権の戦略が問われている。【5月2日 WEDGE】
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イラン・ロシアの動きはともかく、タリバン支援云々という話であれば、一番の責任はアメリカの同盟国でもあるパキスタンにほかなりません。

現在のパキスタン国軍・ISI(軍統合情報局)がタリバンにどういう関与をしているかはよく知りませんが、少なくともこれまでの経緯で言えば、パキスタンのタリバン支援(聖域の提供、武器・資金援助)がなければ、アフガニスタンの今の状況はなかったと言えます。

アメリカは、タリバンへの関与でイラン・ロシアに物言うなら、その前にパキスタンに対し明確な対応を迫るべきでしょう。それができないところに、アフガニスタンの混乱が収まらない原因があります。

【ロシア主導の「和平協議の場」】
ロシアについては、アメリカに代わってタリバンとの和平を含む議論で主導権を握る狙いがあるとも。

*****<ロシア>タリバンとアフガン「和平協議の場」創設提案****
アフガニスタンの安定化を話し合うロシア主催の政府高官会議が14日、モスクワで開かれた。ロシアとアフガニスタン、中国、インド、パキスタン、イラン、中央アジア5カ国の計11カ国の外務次官や政府代表が参加。

旧支配勢力タリバンが支配地域を広める中、ロシアが米国に代わってタリバンとの和平を含む議論で主導権を握る狙いがある。
 
露外務省によると、ロシアはこの日の会議で、タリバンとアフガン政府の「和平協議の場」を創設するよう提案し、各国から賛意を得た。
 
ロシアは旧ソ連時代のアフガン侵攻(1979〜89年)以降、アフガンへの影響力を失ったが、近年は日本とも協力して警察官の養成事業を実施するなど関係強化に努めてきた。タリバンとの接触も深めている模様だ。
 
米国はこうしたロシア側の動きを警戒している。アフガン政府とタリバンの和平は米国が過去に繰り返し仲介を試みたが不発に終わった。

ロイター通信によると、マティス米国防長官は3月31日の記者会見で「ロシアが対タリバンの活動を活発化させており、懸念している」と述べた。
 
ラブロフ露外相は12日のティラーソン米国務長官との会談で、今回の会議に米代表が出席するよう打診したが米側は拒否した。【4月15日 毎日】
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和平が実現すらならアメリカ主導でも、ロシア主導でもかまわないのですが、アフガニスタン侵攻の苦い経験があるロシアがアフガニスタンの長期的国家再建に本腰を入れて深入りするようにも思えません。

せいぜいが、アメリカの向こうを張って・・・とか、ロシアの利害のために・・・といったレベルでしょう。

【ウイグル問題から中国も関与を強める】
アフガニスタンでのISの動きを封じ込め、自国への影響が及ばないようにしたい・・・というのは、中国も同じです。

****アフガンへの進出を図る中国****
フィナンシャル・タイムズ紙の3月3日付け社説が、中国が最近アフガニスタン領土に軍隊を派遣したことが注目されたが、米国が期待するような、アフガニスタン情勢安定化に資するものではない、と、述べています。要旨、次の通り。
 
中国は最近アフガニスタン領に初めて軍隊を派遣したが、アフガニスタン領といっても、新彊ウィグル地区に接するワハン回廊(タジキスタンとパキスタンの間に細長く伸びるアフガニスタン領)である。

中国は最近新彊ウィグル地区でのウィグル人と思われる過激派の活動の活発化を懸念している。中国政府はウィグル独立派がパキスタンとアフガニスタンの支援を受け、アフガニスタン領で攻撃を準備し、同領内から攻撃していると憂慮している。

そこで中国は遅まきながら新彊ウィグル地区に接するアフガニスタン領内に、治安維持のため出兵を決めたと思われる。
 
たとえトランプ大統領がアフガニスタン安定の負担の一部を中国軍が負ってほしいと願ったとしても、失望させられるだろう。中国の目的は中国に対するテロ攻撃の脅威を無くすことに限定されているのである。(後略)【4月6日 WEDGE】
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なお、アメリカメディアが国連薬物犯罪事務所(UNODC)関係者の話として、アフガニスタンでアヘン生産が増加したのは中国産の遺伝子組み換えのケシの種が使われていることに起因するなどと報じた件については、中国側は「中国はケシ製品をアフガニスタンに輸出したことも、いわゆる『遺伝子組み換えのケシ』を植えたこともない」と完全否定しています。【4月26日 Record Chinaより】

【女性の地位など、アフガニスタン住民の視点に立った和平協議を】
先ほど“アフガニスタンの長期的国家再建”と書きましたが、重要なポイントのひとつが女性の地位確立です。

****離婚という新たなエンパワーメント、アフガン女性たちの挑戦****
家父長制が根強く、家庭内虐待が日常茶飯事のアフガニスタンで離婚はまれだが、ヘロイン依存症の夫からの暴力行為に耐えかねたナディアさんは夫を捨てた──。これは、多くのアフガニスタン女性には思いもよらない行動だ。
 
この国では今、新たな形でのエンパワーメントとして離婚に踏み切り、自立性を取り戻そうとする女性の数が増加している。このような現象がみられるのは初めてだ。
 
イスラム法でも離婚は許されているが、それでも最悪なパターンと考えられており、夫と別れる女性を許さない文化が形成されている同国では虐待そのものよりもさらに大きなタブーとされている。
 
ナディアさんは2年間、婚姻関係にあった男性について、「彼は薬物とアルコールの依存症だった。これ以上、一緒には暮らせない」と、全身を覆うブルカの奥で静かに涙を流した。部族の長老らは仲裁を試み、よりを戻すようナディアさんをなだめた。だが、ナディアさんは一族の中で離婚を求めた最初の女性となった。
 
ナディアさんは現在、国連開発計画(UNDP)プロジェクトの一環で2014年に創設された「リーガル・エイド・グラント・ファシリティ(LAGF)」の支援を通じて法的に離別する方法を模索している。「神は女性に権利を与えた。離婚はその一つ」とナディアさんは語る。
 
ナディアさんの夫は家を出て行き、その後の所在は不明となっているという。
 
全国的な統計は入手困難だが、アフガニスタン全土でLAGFが手掛けた離婚件数は過去3年間で12%増となり、離婚は増加傾向にある。
 
女性を蔑視する旧支配勢力タリバンが2001年に権力の座を追われて以来、アフガニスタンでは女性の権利を求める動きが活発化しているが、離婚問題は男女平等という目標がいかに実現困難であるかを示す象徴ともなっている。
 
離婚は男性にとっては比較的容易で、多くの場合は、離婚すると男性が妻に口頭で伝えるだけで処理される。だが、女性の場合は裁判を起こす必要があり、しかも夫との離別を要求する際には虐待やネグレクト(扶養の放棄)など具体的な申し立てを行わなければならない。

また、弁護士を雇うのは財力がある個人にとっても難しい。離婚訴訟で女性の弁護人が殺害の脅迫を受けることも珍しくないからだ。(後略)【5月2日 AFP】
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こうした問題は。政治の問題である以前に、社会・文化の問題ですが、女性の外出すら認めないような従来のタリバン支配のもとでは話にもなりません。

現在のタリバンの考えが多少は変わったとしても、タリバン単独支配下では多くは望めないでしょう。

和平協議を受けてのタリバンの政治参加で女性の地位が確保されるなら、それはそれで・・・というところですが、単に大国・周辺国のパワーバランスではなく、アフガニスタン住民の視点に立った協議を進めてくれるなら、ロシアだろうが、イランだろうがかまいません。そんな意思のある国は・・・・どうでしょうか?

タイ  新国王と軍政の関係、タクシン前首相支持勢力の動向など緊張も孕みつつ進む葬儀準備

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(建設が続くプミポン前国王の巨大火葬施設。奥はタイ王宮=バンコクの王宮前広場で2017年4月26日【4月27日 毎日】)

【国王権限強化 「民主主義象徴」プレートが「国王への忠誠」へ】
タイのプミポン前国王の葬儀は、10月26日に執り行われることが正式に発表されています。

****10月の前国王火葬、正式発表=タイ政府****
タイ政府は25日、昨年10月に死去したプミポン前国王の火葬を10月26日に執り行うと正式に発表した。一連の葬儀は同月25〜29日に営まれる。
 
前国王の遺体は、首都バンコクの王宮前広場に建設中の火葬場で荼毘(だび)に付される。政府報道官によると、火葬当日の26日は休日となる。【4月25日 時事】 
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今日、タイの王制・政治体制に関するニュースが2件報じられています。

1件目は、政府管轄下にあった王室関係機関を国王直轄とする新法が、内容を明らかにしないまま非公開審議で制定されたというもの。

****タイ国王の権限強化=王室機関を直轄に*****
昨年12月に即位したタイのワチラロンコン国王(64)の権限を強化する新法が、3日までに施行された。これまで政府などの管轄下にあった王室関係機関が国王の直轄下に置かれた。
 
国王直轄となったのは、王室事務局や国王秘書官長室、近衛局など王室の事務や警護を担当する5機関。

新法は4月20日の立法議会(暫定議会)で可決されたが、軍事政権の要請で審議は非公開で行われ、新法の内容についても「詳細は言えない」(立法議会議長)として公にされず、1日の官報でようやく公表された。
 
地元メディアによると、これらの機関が国王直轄となるのは「1932年の絶対王制終結以来初めて」という。【5月3日 時事】
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2件目は、「タイの民主主義誕生の象徴」とされていたプレートが、国王への忠誠を説く内容の別のプレートにすり替わっていたことに関する公開討論会が軍政の命令で中止となったという件。

*****軍政命令で討論会中止=消えた革命プレートめぐり―タイ****
タイで1932年の立憲革命を記念したプレートが消えた問題をめぐり、タイ外国特派員協会(FCCT)が3日に首都バンコクで開催する予定だった公開討論会が軍事政権当局の命令で中止に追い込まれた。
 
FCCTによると、地元警察がFCCTに送った書簡で、討論会は「国家安全保障にとって脅威」であり、「不実な個人により混乱を引き起こすのに利用される可能性がある」として取りやめるよう要求した。
 
立憲革命でタイは絶対王制から立憲君主制に移行。記念プレートはバンコクの革命ゆかりの場所に80年以上前に設置された。

民主派の間で「タイの民主主義誕生の象徴」と位置付けられてきたが、国王への忠誠を説く内容の別のプレートにすり替わっていたことが4月に発覚。消えたプレートは行方不明のままとなっている。【5月3日 時事】 
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内容を明らかにしないまま非公開審議が行われたとか、公開討論会を軍政当局が阻止したとかは、軍政の非公開性・強権的体質を示すもので、それはそれで問題ですが、今日はそのあたりの話はパスします。

今日取り上げたいのは、軍政が今後どのような統治システムを目指しているのか?という点です。

2件のニュースから受ける単純な印象としては、“国王直轄化”とか、“国王への忠誠”とか、従来の民主主義を一定に制約して、新国王の権限・権威を高めていこう、その国王の権威を軍部が利用する形で支配体制を強化しよう・・・という方向にも見えます。

確かに“大筋”としては、農民・貧困層からの支持を背景としたタクシン前首相の政治で揺らいだ、国王を頂点とする伝統的な支配体制の強化を軍部が目指していることは、常に指摘されるところでもあります。

【新国王と軍政の間の“すきま風”】
ただ、“国王の権威を軍部が利用する形”と言ったとき問題となるのが、4月10日ブログ“タイ 新憲法公布で民政復帰に向けて踏み出すも、権力内部では対立が激化”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170410でも取り上げた、新国王と軍部の間には緊張関係があるのでは・・・という話です。

もともと新国王と軍部はそりが合わなかったこと、軍内部に軍政を主導する主流派と新国王に近い勢力とで権力闘争的な関係があること、新国王はタクシン前首相とは非常に近い関係にあったことなどから、新国王、その周辺の軍勢力、タクシン前首相が結びつく形で、軍政主流派との間で不穏な出来事も起こりうる・・・とも指摘されているとのことでした。

そのような新国王と軍政の間の“すきま風”について、以下のようにも。

****タイ新国王、軍政と「すきま風」 新憲法案に異例の修正要請 *****
2014年5月に起きたクーデターから軍事政権が続いているタイで、新たな恒久憲法が公布・施行された。昨年末に即位したワチラロンコン国王が新憲法案に署名した。
これにより、タイでは来年中にも総選挙が実施され、民政復帰に向けた動きが加速する。

一方で、現政権を担う軍は自らの基盤固めを着実なものとし、選挙後も実質的な支配を継続していく考えだ。これをめぐって新国王と軍政との間では、「すきま風」も聞かれるようになっている。

民主化が後退
(中略)2017年憲法は、民主化の後退がより鮮明となった。選挙で議員が選ばれるのは下院のみとなり、上院議員については軍が任命に関与できる仕組みだ。首相選出についても、近年の憲法で踏襲されてきた下院議員の要件が撤廃され、1980年代まで頻繁に続いた軍人ら非議員による首相就任が可能となった。

さらに注目されるのは、民政復帰後5年間を「移行期間」とし、実質的に軍の支配下で政権が運営されることだ。これにより、14年5月のクーデターから最低でも通算10年間は事実上の軍政が続くことが確実となった。(中略)
 
プラユット軍事政権は、いまなお60%を超える高い支持率を維持するが、1970年代や90年代にあった反軍運動の過去をひと時も忘れてはいない。民政復帰後の権力基盤確保に躍起なのもそのためだ。

具体策の一つを、政府機関への軍人の積極的な配置に見ることができる。内閣は35人の定員の4割近い13人を軍人と系列の警察官僚が占め、省庁への影響力を強めている。最大で19人(議長を含む)の王室を支える枢密院も、史上初めて軍出身者が過半を超え、永続的な政治への関与を確実とした。
 
もう一つが、今回施行された新憲法だ。軍政は当初、首相と上下両院の議長、陸海空軍と警察トップで構成する「改革と和解委員会」を内閣、国会、裁判所の三権の上部に置く構想を描いた。2015年8月に策定した第一次憲法草案に盛り込み、成立を目指す考えだった。

だが、立憲政治をないがしろにしかねないと国内外で強い批判が起こった結果、断念。草案の承認権を持つ国家改革評議会に働きかけ、一次案を自ら否決に導いたという経緯がある。代わって採られた措置が、憲法裁と独立機関に強い権限を持たせて間接的に支配する方法だ。

さらに、歴代憲法に盛り込まれてきた「本憲法に適用する条文がない場合は、国王を元首とする民主主義の統治慣習によって判断しなければならない」とする条文にも、軍の関与を組み込もうと画策した。

最終判断権を憲法裁長官らに持たせるとする規定を新たに設け、人事権を持つ軍が差配できる余地を拡大しようとしたのだった。
 
ところが、署名直前になってこの規定にワチラロンコン国王が待ったをかけた。立憲主義国家における憲法制定作業に国王が関与を求めることは極めて異例なことだ。国王はこのタブーに挑みながらも、軍の影響力拡大に歯止めを掛ける必要があると考えたとみられている。
 
こうして最終的に条文から削除されたのが軍関与の追加規定だった。同条文は憲法上の努力義務と読むのがタイの憲法学では通説であり、最終判断権そのものが意味をなさない。このほか、いくつかの条文でも修正が行われた。
 
新憲法の作成過程で起こった国王による異例の修正要請は、タイのメディアの間では「新国王と軍政の間で吹いたすきま風」と受け止められている。
 
偉大な父、プミポン前国王を継ぎ、山積する難題に立ち向かう新国王と、国王の軍隊として一糸乱れぬ存在のタイ王国軍。新憲法の作成過程で生じた思わぬ「すきま風」が凪(なぎ)に変わるのをタイの国民は静かに待っている。【4月14日 小堀晋一氏 Sankei Biz】
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「本憲法に適用する条文がない場合は・・・」という条項をめぐる修正については、上記のように軍政側が軍が差配できる余地を拡大しようとしたのを新国王側が阻止したという話なのか、もう少し踏み込んで、従来同様にあいまいな表現に据え置くことで新国王側が政治危機に介入する余地を取り戻したというように新国王側のイニシアチブを強調するのか、その解釈には若干のニュアンスの差もあります。

いずれにしても、国王要請による直前修正という事態は、新国王と軍政の間の「すきま風」を感じさせる一件でした。

そういう「すきま風」というか、前回ブログで指摘したような対立・緊張関係があるなかで、国王権限・権威を高めるようなことが軍政にとってどれだけのメリットがあるのか?・・・釈然としない部分もあります。

新国王と軍政の関係は、一部で指摘されているほどの緊張はなく、お互いに“ウイン・ウイン”の関係で利害調整がついている・・・のでしょうか?ワチラロンコン国王なら、それも十分ありうる・・・とは思えますが。

【「首相暗殺計」?】
一方、新国王とは関係が深いとされるタクシン前首相及びその支持者の動きについては、「首相暗殺計画」というショッキングな報道もなされています。

****タイ激震 首相暗殺計画発覚****
■首相暗殺計画発覚
タイのワチラロンコン新国王の下、政権基盤の安定と長期化をもくろむ軍政のトップであるプラユット首相の「暗殺計画」がこのほどタイで発覚、軍政への反発が一部国民の間では「暗殺まで計画していた」として軍政はこれを問題視し、捜査当局に徹底解明を指示した。

さらにその後の捜査の結果、暗殺計画に関わった人物がタクシン・チナワット元首相支持派であることから、タクシン元首相あるいはその妹のインラック・チナワット元首相など軍政と対立する勢力が関与した疑いも払しょくできないとして、捜査当局に慎重に政治的背景の調査を命じた。

タイ国家警察と国軍は3月18日、反軍政の運動家自宅から大量の武器弾薬を発見、これを押収した。警察が捜索したのはタイ中部パトゥンタニ県にあるウッティポン・コチャタマクン(コティー)氏の2階建ての自宅。

事前の情報提供に基づき自宅を家宅捜索した結果、スコープ付きのライフル銃、手榴弾、数千発の弾薬などが発見されこれを押収するとともに同氏の自宅にいた留守番役と称し「武器の存在を知らなかった」とする男性ら9人を武器の不法所持容疑で逮捕した。

警察はコティー氏がタクシン元首相を支持する赤シャツ組織の主要メンバーで「反軍政民主化組織」の指導者として活動、反軍政のラジオ局を運営するなどの活動歴を把握、これまでのインターネットへの書き込みなどから軍政に対する蜂起とプラユット首相の暗殺を準備していた疑いがあると指摘した。

その上で今回の暗殺計画の背後には軍政への批判を強めるタクシン元首相、さらにその妹のインラック元首相らの関与の可能性についてマスコミを通じて指摘した。

タクシン元首相は在職中(2001年〜2006年)の不正問題で有罪判決を受けて現在海外逃亡中。インラック元首相(2011年〜2014年首相在職)も人事問題への不当介入などで首相を解任され、係争中の裁判を抱えた上に公民権が停止されタイ国内に滞在している。

■タクシン元首相反論、複雑な権力構造
こうした軍政の動きに対しタクシン元首相は海外からネットへの書き込みで「プラユット首相ら軍政は自らの延命工作のために(暗殺事件を)でっちあげ、事件の背後に私がいると決めつけているだけだ」と軍政を厳しく批判した。

現在のタイの政治権力構造は、ワチラロンコン新国王と軍政の間で民政復帰のプロセスや国王の権限問題で「静かな対立状態」(地元紙記者)にあるとされ、早期の民政復帰実現を求めるタクシン派と時間をかけて民政復帰を進めたいとする軍政が対立関係にあるという。

問題はワチラロンコン国王とタクシン元首相が親しい関係にあり「反軍政で密かに連携を取っているのではないか」との情報があることで、軍政としても「絶対的存在」である国王の支持を取り付けながらも民政復帰に時間をかけることで軍政を「延命」させる道を模索している。

プラユット首相の軍政は民政復帰のプロセスの中で「軍部による政治介入を防ぐ法的な整備が必要でそれに時間がかかっている」と説明している。

しかし、「軍部による政治介入」つまりクーデターは現軍政が政権を掌握する際に用いた手段であり、タイではたびたび繰り返されてきたいわば軍による「伝家の宝刀」。

それを軍政自身が封じ込める法整備をしたところで「ほとんど意味がなく、軍はいつかまたクーデターで政治介入するだろう」というのが国民の共通理解となっており、軍政の思惑への理解はほとんど得られていないのが実態という。

■真相解明どこまで進む?
今回の「軍政トップの暗殺計画」については活動家の自宅から発見、押収された武器類が新品同様だったことから軍政による「でっちあげ」の可能性がタイの一部メディアからは指摘されていた。

しかし警察は「単に武器などの保管状態が良好だったのが(新品同様の)理由である。マスコミ注視の中で行った捜索であり、でっちあげは不可能」と疑惑を完全に否定している。

その一方で地元紙「ネーション」は4月10日、インラック元首相が中央行政裁判所に請求していた「在職当時の米質入制度に関する不正でインラック元首相に出されていた357億バーツの損害賠償命令の差し止め」が却下されたことを伝えた。インラック元首相の法廷闘争は厳しい局面を迎えつつある。

軍政が依然として北東部ウドンタニ県などの農村地帯での影響力が強いタクシン、インラック両元首相とその支持勢力を窮地に追い込みたいのは事実で、コティー氏自身は2014年5月に自宅から逃走しており、身柄拘束には至っていないこともあり、「暗殺計画」の真相解明はタイ国王を巻き込んで複雑化するタイの権力闘争の中でどこまで進むかタイ国民も注目している。【4月16日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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タクシン前首相を支持する勢力の中には、“有事”に備えて武器を蓄えている過激な勢力がある・・・というのは、以前から指摘されていた話です。

今回事件が、「首相暗殺計画」と言えるような具体的計画を持ったものなのか、上記のような過激勢力を摘発して「首相暗殺計画」があったと強引に判断したのか、はたまた「でっちあげ」なのか・・・上記記事だけでは判然としません。

前回ブログで紹介したように、新国王のタクシン前首相への恩赦を前提に、タクシン前首相がタイに“凱旋”するという、軍政側には容認できない事態も想定されており、そうした状況を背景にした“事件”のようにも思われます。

個人的な些末なことで恐縮ですが、7月末にタイ・バンコク経由でイランへの旅行を予定しています。
乗継時間が長いので、バンコク市内に久しぶりに出てみようか・・・とも考えています。

バンコクが混乱するにしても、その旅行時期は避けてほしい・・・というのは私の身勝手な希望です。

アメリカ・トランプ政権内部の力関係 独裁者好み・国連嫌いの大統領 注目度が上がるヘイリー国連大使

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(4月24日、ヘイリー国連大使(左手前)の企画で行われた、米ホワイトハウスの公式晩餐会室でのトランプ大統領と各国国連大使らとの昼食会 写真中央は中国の劉結一国連大使 画像は【4月26日 WSJ】)

【よく言われる“バノン氏対「五人衆」”】
アメリカ・トランプ政権のホワイトハウス内部の“主導権争い”に関して、差別主義とも批判される一方、「アメリカ第一」の孤立主義のトランプ原則には忠実とも言えるバノン首席戦略官兼上級顧問と、かつては民主党支持者だった現実主義的とも評される(裏を返せば、バノン氏のような確固たる世界観はもっていないとも言えます)大統領の娘婿クシュナー上級顧問の力関係の変化などが、よく取り沙汰されます。(実際のところはよくわかりませんが)

シリア攻撃や北朝鮮への対応なども、かつてのトランプ氏の言動からは変化が見られ、上記のような力関係の影響も指摘されます。

そのあたりの記事は山ほどありますが、とりあえず一つだけ。

****【トランプ政権】政権内で現実主義と孤立主義せめぎ合い 「五人衆」影響力が増大もバノン氏に復権兆し****
トランプ米大統領が北朝鮮の核・ミサイル開発への対処やシリア攻撃によって孤立主義的な政策を転換した背景に現実主義を取る「五人衆」が政権内で影響力を増大させていることがある。

逆に中東・アフリカからの入国一時禁止措置を主導したバノン首席戦略官兼上級顧問の影は薄まっているようにみえるが、権力闘争はなお続いている。
 
「五人衆」はティラーソン国務長官、マティス国防長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、ロス商務長官、大統領の娘婿クシュナー上級顧問。米紙ウォールストリート・ジャーナルのジェラルド・F・セイブ氏は「ビッグ・ファイブ」と呼ぶ。
 
4月にはシリア攻撃を支持するクシュナー氏と、孤立主義の立場からシリア内戦への関与に消極的なバノン氏が対立。ニューヨーク・タイムズ紙によると、バノン氏がクシュナー氏を「おまえは民主党員だ」と罵倒したとされる。
 
結局、トランプ氏はクシュナー氏の意見を採用し、バノン氏は4月5日、NSCの閣僚級委員会の常任メンバーから外された。北朝鮮問題でも、トランプ政権は中国の影響力を重視し、バノン氏やナバロ国家通商会議(NTC)委員長の対中強硬論を抑えた。
 
バノン氏の更迭論も報じられたが、復権の兆しもある。北朝鮮問題で同盟重視を続けていたトランプ氏は米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備の費用を韓国に負担させると発言。ホワイトハウスに通商政策と製造業政策を担当する部署を新設する大統領令に署名し、保護主義的なナバロ氏をトップに充てる。
 
2018年中間選挙や20年大統領選をにらみ、バノン氏らに代表される自らの支持基盤を意識した「原点回帰」の動きとみられる。【5月2日 産経】
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【「大統領は全体主義の外国指導者に、憧れでもあるのか?」】
「五人衆」の影響力がいかほどのものかはわかりませんが、トランプ大統領の政治指導者に関する“好み”は、従来の欧米的価値観とも言うべきものからすれば、かなり偏ったものにも見えます。

****<米国>トランプ大統領は独裁者好き? 独自外交に警戒****
トランプ米大統領が、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と条件が整えば直接会談する用意があると言及した。北朝鮮情勢が緊迫する中での発言だけに、ホワイトハウスのスパイサー報道官はすぐに「現状は明らかに適切な状況ではない」と否定した。

しかし、トランプ氏は各国の独裁的なリーダーに対してこれまでも好意的発言を繰り返しており、国際社会を無視した独自外交を本気でやろうとしているのではと米メディアは警戒している。
 
トランプ氏の発言は、1日のブルームバーグ通信のインタビュー。「政治家の大半はこんなことを言わないだろうが、正しい条件の下であれば彼に会う用意がある」と語った。
 
トランプ氏は先月27日にはロイター通信に北朝鮮との「大きな軍事衝突」が起こる可能性について発言したばかり。しかし、インタビューでは適切な条件の下で直接会談できれば「光栄」とまで表現した。
 
実はトランプ氏、国際的な批判を浴びるリーダーにいち早くラブコールを送り、風当たりを和らげる役割を率先して果たしている。
 
先月17日には、大統領権限を強化する憲法改正の国民投票で勝利したものの、反体制派への弾圧や不正選挙が指摘されているトルコのエルドアン大統領に、電話で祝意を伝えた。

同29日には、裁判手続きを無視した過激な麻薬撲滅作戦で国際的に非難されているフィリピンのドゥテルテ大統領との電話協議で意気投合し、訪米を招請した。
 
トランプ氏は昨年の大統領選期間中からロシアのプーチン大統領への親近感を隠さず、イラクのフセイン元大統領のテロリスト撲滅の姿勢を評価したこともあった。
 
トランプ氏の発言を巡り、ホワイトハウスの記者会見では「大統領は全体主義の外国指導者に、憧れでもあるのか」と真意をただす質問も飛んだ。
 
一方、発言を真正面から受け止めたのは、米朝対話をトランプ氏に促している中国。外務省の耿爽(こうそう)副報道局長は2日の定例会見で「関係国が接触と対話を再開できるよう中国も努力していく」と歓迎する意向を表明。

「米国側から出ている、対話を通じて平和的に核問題を解決したいとの希望に留意している」と期待感をにじませた。【5月2日 毎日】
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記事見出しには“独裁者好き?”と用心深く“?”をつけてありますが、たぶん必要ないでしょう。トランプ大統領が好感を示す指導者は軒並み国際的には強権的・独裁的姿勢が問題視されてきた人物であり、トランプ大統領がそうした政治姿勢に強い共感を有していることは明らかでしょう。

上記のような指導者だけでなく、フランスのルペン氏のような“極右”と評される人物にも強い好感をしめしています。一方で、国連に関しては拠出金削減をかねてより主張しているように、きわめて否定的な対応です。

【大統領も共有するバノン氏の世界観】
****「国粋の枢軸」危うい共鳴****
世界が混迷の時代に入ろうとしている。「米国第一主義」を突き進むトランプ米政権が、平和と成長を支えてきた国際的な協調体制を壊そうとしているからだ。
 
それに欧州の右翼政党が共鳴する。別々に行動しているようにみえる米政権と欧州の極右勢力が寄り添い、「国粋の枢軸」という危ない糸で結ばれつつある。
 
「入国制限どころではない、もっと大きな衝撃が世界に走るだろう」。米政権に通じた複数の外交ブレーンはこう明かす。
 
米政権はいま、国連やその傘下機関への拠出金削減を検討しているという。根っこにあるのは国連への激しい嫌悪感だ。政権中枢からはこんな声が聞かれる。
 
国連では、小国も米国と同じ1票を得て、自己主張を強めている。こんな機関を温存しても、何ら米国の利益にならない――。
 
米国の負担率は全体の約22%で、最大だ。これが減れば、国連は予算の融通に困るだけでなく、権威も揺らぐ。トランプ政権からみれば、一石二鳥というわけだ。
 
トランプ大統領はイスラム諸国などからの入国制限を強行している。それでも「米国第一主義」が内政にとどまっているうちはまだいい。今後は対外政策でも、同じ路線に突き進もうとしている。

その目標は、多国間協調のための外交や通商の枠組みを弱め、米国の国益を優先しやすい秩序につくり変えることだ。
 
そんな野心を本気で実現しようとしているのが、バノン首席戦略官・上級顧問である。大統領の最側近であり、影響力は圧倒的だ。(中略)

では、彼が実現しようとしている世界とは何か。知人の話などによると、次のようなものだ。
 
戦後の世界は、西洋文明の盟主である米国と西欧諸国が仕切ってきた。ところが、グローバル化で国際資本に市場が食い荒らされ、米欧の社会が荒廃した。イスラム文化圏などからの移民の流入でテロの脅威がふくらみ、伝統的な価値観も薄まっている。この流れを止め、米・西欧主導の世界を再建しなければならない……。
 
つまり、グローバル化の流れをせき止め、薄まった米国と西欧諸国のアイデンティティーを取り戻そうというわけだ。そのためには国連や国際機関の弱体化も辞さない。革命にも近い発想だ。
 
トランプ氏もおおむね、バノン氏のこうした思想を共有している。だからこそ、メキシコとの「壁」にこだわり、北米自由貿易協定(NAFTA)や環太平洋経済連携協定(TPP)にも敵意を燃やす。理由はなにも、米国内の失業や貿易赤字だけではないのだ。
 
トランプ政権はいま、世界にも同じ「革命」を輸出しようとしている。当面の目標は欧州連合(EU)の統合を壊すことだ。西欧国家群の土台が統合で食いつぶされているという危機感がある。
 
「英国のEU離脱はとても良かった。あとは(フランスの極右政党・国民戦線の)ルペン党首が今春の大統領選に勝ち、ドイツのメルケル首相が9月の総選挙に負ければ、すばらしい」。英国のEU離脱を主導したジョンソン外相が1月に訪米した際、バノン氏はひそかにこう励ましたという。(後略)【3月10日 秋田浩之氏 日経】
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その後、バノン氏の政治的立場は先述のとおりで、トランプ大統領のRUやNATOに関する発言も現実主義的修正も見られますが、基本的にはトランプ氏自身にバノン氏的発想・世界観があるのは間違いないでしょう。

【国務省は機能マヒ状態】
思い付き的で、首尾一貫しないことも多いトランプ大統領の言動ですが、外交政策でトランプ大統領を支えるべき立場にあるアメリカ国務省はいまだ機能マヒ状態にあると言われています。

****ホワイトハウスの力学の変化****
・・・・こうしたアメリカの対外政策の変化の背景には、ホワイトハウスにおける政策決定の力学の変化があると思われる。

その大きな変化を引き起こしたのは、バノン大統領首席戦略官が国家安全保障会議(NSC)中核メンバーから外れたことと、代わってトランプ大統領の娘婿のクシュナー大統領上級顧問とマクマスター国家安全保障担当大統領補佐官が、政策決定の実権を握ったことに起因すると考えている。

この力学の変化により、トランプ政権の対外政策は軍事的対応の方に優先順位がつき、外交交渉による問題解決の役割が小さくなったように見える。

その大きな要因として、国務省の高官ポストが(これは国務省に限らないが)ほとんど埋まっていない上、各国の大使もオバマ政権で任命された大使は一斉に辞任させられたにもかかわらず、新たな大使がほとんど任命されていないなど、国務省が機能不全に陥っているという状況がある。

また、国務省は意思決定過程から外され、職員の士気は下がっており、具体的な仕事もないため、食堂でコーヒーばかり飲んでいると『アトランティック』紙の記事でも報じられている。

その上、エクソン・モービルのCEOであった、外交経験や政治経験の無いティラーソン国務長官は国務省の職員との関係が全くうまくいっておらず、保守的なメディアからの攻撃を受けると簡単に職員の配置転換や辞職を求めるなど、マネージメントが崩壊しているという状況になっている、と『ポリティコ』紙も報じている。

そのため、トランプ政権においては外交交渉よりも軍事的圧力によって問題を解決するという選択肢が優先されるような状況にあるのだ。【5月4日 鈴木一人氏 JB Press】
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【ヘイリー国連大使:アメリカ外交を他国にも理解出来るような言葉に変えようという努力】
大統領の言動はしばしば“意味不明”であり、ティラーソン国務長官はメディアとうまくいっていない、国務省は機能マヒ・・・ということで、その発言の注目度が高まっているのが、皮肉にもトランプ政権が敵視する国連におけるニッキー・ヘイリー国連大使の言動です。

彼女については、“元サウスカロライナ州知事で、政治的野心に満ちた・・・・”“オープンな場で積極的に発言し、メリハリのあるコメントで知られ、また州知事としての行政経験やメディアとのコミュニケーションにも慣れている・・・・”“元々選挙期間中はトランプ大統領を支持しなかったにもかかわらず、その気っ風の良さを買われ、政権発足早々国連大使に指名されたという異例の扱いを受けた・・・・”などと、前出【5月4日 JB Pres】で評されています。

****トランプ大統領の意思を「忖度」する米国連大使****
「拠出金削減」という大方針
・・・・ヘイリー国連大使はこうした状況の中で、トランプ外交の唯一の窓口と見られているわけだが、政治経験のあるヘイリー大使といえども、国務省のサポートや外交政策全体の流れの中で訓令(インストラクション)を受けて調整する必要がある。

ところが先に述べたように、国務省が正常に機能していないため、ヘイリー大使は適切なサポートや訓令を受けることが出来ていないとみられる。

その結果、ヘイリー大使は大統領の意向を「忖度」せざるを得ない状況にある。彼女が明示的に受けている訓令は、第1に国連拠出金を削減すること、第2に、イスラエルに対する批判や非難に対しては徹底的に戦い、いくつかの国連のフォーラムからの脱退も含めた強い対応をする、というトランプ政権の大方針しかない。

たとえば、安保理の下にあるコンゴ民主共和国制裁のモニタリングを行う、専門家パネルのメンバーが2名殺害された事件が起こった際、ヘイリー大使は、「国連が展開しているPKOの縮小を進めなければ、米国の拠出金を減らす」と脅迫めいた発言を行った。

その根拠として、コンゴ民主共和国のカビラ政権が腐敗しており、PKOを派遣する価値がないことを挙げたが、専門家パネルのメンバーが殺害されたにもかかわらずPKOを縮小するのは、ひとえに拠出金削減という大方針があるからである。そのため、あらゆる機会を捉えて拠出金を減らすための理屈を探しているのだ。(中略)

ホワイトハウスと食い違う大使の発言
しかし、それ以外のイシューについては、おそらく明示的な訓令を受けておらず、相当程度ヘイリー大使が判断をする裁量を持っていると考えられる。

たとえば、シリアのアサド政権が化学兵器を使用する前、ティラーソン国務長官がシリア問題に関して、アサド政権の退陣を最優先課題としないと発言したが(この発言が化学兵器の使用を容認したと受け取られた可能性もある)、ヘイリー大使は当初、ティラーソン長官と平仄を合わせていたのに対し、その後、テレビ出演して、「アサドが政権に就いたままのシリアの将来はない」と発言を修正した。

ところがティラーソン国務長官は発言を明示的には変更せず、世界中が呆気にとられている間に化学兵器が使用され、トランプ大統領はアサド政権が支配する空軍施設をミサイル攻撃する判断をした。結果的にはヘイリー大使の発言が大統領の判断と一致した形になったのである。

ヘイリー大使は、シリアに対するミサイル攻撃後、安保理の場で「さらなる攻撃の用意がある」と発言し、自身が主張するアサド政権の退陣、すなわちレジームチェンジを実現することがアメリカの目的であると表明していた。

だが、マクマスター安保担当大統領補佐官は、「レジームチェンジを望んでいるが、それは米国のシリア政策の目的ではない」と明言し、ここでも議論が食い違っている。

結果的にシリアへのミサイル攻撃以降は、トランプ政権の問題関心は北朝鮮に移り、アサド政権を打倒するための戦闘のエスカレーションも見られない。(中略)

ヘイリー大使はトランプ外交を動かしているのか?
このように明示的な訓令を受けないまま、国連の場でどんどん発言するヘイリー大使を評して、ティラーソン国務長官と同等の力を持ち、今やトランプ政権の外交を引っ張る存在である、との記事が『ウォール・ストリート・ジャーナル』に掲載された。

シリアやイラン、ロシアに関するヘイリー大使の発言が、ティラーソン国務長官やホワイトハウスよりも先で、それに引っ張られて発言の修正や後追いをせざるを得ない状況にある。実際、ホワイトハウスから発せられるメッセージが混乱しているだけに、多くの外交官はヘイリー大使の発言に注目せざるを得ない状況にある、という内容だ。

果たしてヘイリー大使の発言は、トランプ外交を動かしていると言えるのだろうか。

これまで見ている限りでは、ヘイリー大使が限られた情報や訓令の中からトランプ大統領の思考や発想を読み取り、状況に応じてその発言を修正し、なんとかアメリカ外交を他国にも理解出来るような言葉に変えようという努力の跡が見られる。

つまり、ヘイリー大使はトランプ大統領の思考を「忖度」しながら国連外交のみならず、トランプ外交全体を俯瞰しつつ発言しなければならないと自認しているように見えるのである。

故に、自らの発言がしばしばホワイトハウスによって修正されたり、全く異なる形で表現されたりすると、その後適宜修正せざるを得なくなるという状態に陥る。(中略)

ヘイリー国連大使は目下、議長国としての権限を持つ4月の間に、安保理加盟国15カ国の大使をつれてホワイトハウスを訪問し、トランプ大統領や主要な議員と面会することを企画している。(中略)

こうした政治的野心を持ち、トランプ大統領へのアピールを欠かさないヘイリー国連大使だが、その活動が結果として、国連に対してネガティブなイメージしか持たず、国連の役割を小さくしようと試みてきたトランプ大統領の意識を変化させ、国連の役割の重要性を再認識させる結果となっているとの記事が『フォーリン・ポリシー』誌に掲載されている。

これはある種の怪我の功名ではあるが、残念ながら、トランプ大統領の大方針である拠出金の削減を変更するまでには至っていない。【5月4日 鈴木一人氏 JB Press】
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ヘイリー国連大使への注目度は高まってはいますが、“国連本部のあるニューヨークはワシントンDCから離れているため、ホワイトハウスの中で起きている様々な権力闘争や人間関係に関与出来ているわけでもない”【同上】ヘイリー氏の政治的影響力は今のところそんなに大きなものではないでしょう。

それより、“ヘイリー大使が限られた情報や訓令の中からトランプ大統領の思考や発想を読み取り、状況に応じてその発言を修正し、なんとかアメリカ外交を他国にも理解出来るような言葉に変えようという努力の跡が見られる”というアメリカ外交の現状は困ります。

パレスチナ問題 型破りなトランプ米大統領の登場で、自治政府・イスラエル双方に交錯する期待と不安

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(5月3日に会談したトランプ米大統領とアッバス議長 【5月5日 時事】)

【「2国家共存」を否定したわけではなく、判断を留保したトランプ米大統領】
オバマ米前政権時代の2014年4月にイスラエルによる入植活動が壁となりパレスチナ和平交渉が頓挫して以来、イスラエルによる入植活動拡大によって「1国家化」がなし崩し的に進行するという現実の一方で、パレスチナ自治政府及びアメリカを含む国際社会がパレスチナ問題解決の基本的枠組みとしてきた「2国家共存」は殆ど顧みられることはありませんでした。

そうした状況にあって、周知のように、トランプ米大統領は2月15日、「二国家でも一国家でも、当事者同士が満足であれば私はどちらでもいい」と発言、「2国家共存」という基本的枠組みを親イスラエルの立場から放棄するのか・・・とも懸念され、大きな話題ともなりました。

国際的“大反響”もあってか、2月23日には、パレスチナ国家を樹立しイスラエルとの共生を目指す「2国家共存」が好ましいと、その発言を修正しています。ただ、2国家共存を目指すかどうかはイスラエルとパレスチナに委ねるとの考えも示しています。

****中東和平交渉は後退するのか──トランプ発言が意味するもの****
<親イスラエルとみられているトランプ大統領のもと、イスラエル・パレスチナ紛争はイスラエルに有利な方向に向けて、本当に動き出すのか。これまでの流れを踏まえ、考える>

「二国家でも一国家でも、当事者同士が満足であれば私はどちらでもいい」――2月15日の共同記者会見で発表されたネタニヤフ首相の初訪米でのトランプ発言は、予想外の展開として大きな注目を集めた。これまでの歴代アメリカ政権が支持してきた、パレスチナとイスラエルの二国家共存、すなわち二国家解決が、今後は交渉の前提とはされないとの立場が示されたからだ。

他の政策におけるトランプ大統領自身の強硬姿勢とあいまって、この発言はオバマ政権時代からの転換姿勢を示し、中東和平の後退につながるのでは、との懸念が示されている。

親イスラエルとみられているトランプ大統領のもと、イスラエル・パレスチナ紛争はイスラエルに有利な方向に向けて、本当に動き出すのか。これまでの流れを踏まえ、考えてみたい。

規定路線としての「二国家解決」
アメリカのみならず、国際社会もまた二国家解決を中東和平交渉の原則とみなしてきた。

会見の後、国連のグテーレス事務総長は、訪問先のカイロで会見し「パレスチナ人とイスラエル人の状況には二国家解決しかなく、他に代替案はない」と述べた。

エジプトのスィースィー大統領とヨルダンのアブドゥッラー国王もまた、二国家解決が望ましいとの立場を改めて表明している。これらは外交の規定路線が、今後は踏襲されない可能性に対する懸念とみることができるだろう。

だがその心配は、まだ杞憂ともいえるかもしれない。トランプ大統領の発言をよく確認すると、二国家解決を支持するとも支持しないとも、どちらの立場も明確には示されていないからだ。

積極的に二国家解決を否定したとはいえず、入植地問題と同様、判断は留保されたとみるのが妥当だろう。アメリカの中東政策が大きく変化した、とはまだ判断できない。(中略)

重要なのは、この二国家解決を前提とした枠組み自体が、パレスチナ政治の中でファタハ政権の正統性の裏づけとなっているという点だ。

二国家という前提は、イスラエルに対する和平交渉の相手方をパレスチナ側に必要とした。
任期がとうに切れ、ファタハ内部でも支持を失っているアッバース大統領がまだその地位を維持できるのは、オスロ合意でその役割を引き受けたファタハの代表として、国際社会とイスラエルが彼をまだ必要としているからに他ならない。

イスラエルとの対話を拒否するハマースでは、交渉の相手方とならないからだ。

「二国家解決」を否定する動き
しかし現実は、理想とされた二国家解決とは別の方向にすでに進行してしまっている。

パレスチナ自治区の一部を構成するヨルダン川西岸地区内には131箇所の入植地、97箇所の非合法アウトポストが存在し、入植者人口は38万人を超える。これに係争地である東エルサレムの入植者人口を合わせると60万人近いユダヤ人が、イスラエル国家の領土と称してパレスチナ自治区内に住んでいることになる。

イスラエル側が行政権、警察権をともに握る自治区内のC地区は、ヨルダン川西岸地区の59%を占める。出稼ぎや物流を含め、パレスチナ自治区の経済はイスラエル経済に完全に依存した状態にある。

こうした状態を指してPLO事務局長のサーエブ・エリーカートは、1月末のCNNのインタビューで、占領によりパレスチナでは既に「一国家の現実」が存在していると指摘していた。これはパレスチナ側にすでに広く流布した共通認識といえるだろう。

昨年12月にパレスチナ政策研究所(PSR)らが実施した合同世論調査で、二国家解決を支持するパレスチナ人の割合は44%と、既に半数を切っている。

イスラエル側でも、二国家解決を否定する声が強まっている。こちらはむしろ、政策的に積極的な意味で、パレスチナ国家の樹立を拒否する立場からだ。渡米前、ネタニヤフ首相は直前まで、トランプ大統領との会談での協議内容について閣内での議論を続けた。

なかでも右派政党「ユダヤの家」党首ナフタリ・ベネットは強固に「二国家」に反対し、会談で「パレスチナ国家」に言及しないことを求めた。彼は同じ党のアイェレト・シャケッド法相とともに、トランプ当選後は二国家解決路線を終わらせる好機だと捉え、ネタニヤフ首相に対パレスチナ政策の再考を求めてきた。

それまで強硬派とみられてきたアヴィグドール・リーバーマン国防相ですら条件付で二国家解決の受入を表明し始めていたのとは対照的な動きだ。

今回のトランプ・ネタニヤフ会談は、こうしたベネットをはじめとするイスラエル国内右派にとっては意味の大きな展開だったといえよう。

だが今後の具体的な方向性は、まだ示されてはいない。二国家解決というタガが外され、今後の交渉の道筋がオープンエンドになったと捉えるとしても、その将来像は不透明なままだ。

その不安が、今回のトランプ発言に対して敏感な反応を、諸方面で巻き起こしたとみることもできるだろう。【3月9日 錦田愛子氏 Newsweek】
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【改めて「2国家共存」を求める中東諸国】
パレスチナ自治政府や中東関係国に大きな不安をもたらしたトランプ発言ですが、結果的には、シリアやISの問題もあって世界の関心が薄れていたパレスチナ問題及びその解決策としての「2国家共存」という枠組みに対する国際社会の関心を改めて呼び覚ましたという側面もあるように思えます。

イスラエルにとっても、おいしいところだけつまみ食いするような現状ではなく、本格的に「1国家」ということでパレスチナ全土をイスラエルに吸収すると、イスラエル領内のパレスチナ人が増加し、イスラエルは「ユダヤ人国家」であるとするイスラエルの基本的立場を危うくするという矛盾に直面することになります。

保守強硬派とも評されるネタニヤフ首相自身が、なんだかんだ言いつつも、「2国家共存」を前提にした和平交渉に携わってきたのは、そうしたイスラエル側の事情があるからにほかなりません。
(2月23日ブログ“イスラエルに「2国家共存」以外の道があるのか? トランプ大統領の「こだわらない」発言の背景”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170223

中東社会は、トランプ発言を受けて、改めて「2国家共存」を目指す考えを表明しています。パレスチナ問題解決への本気度は疑問ですが。

****アラブ連盟、パレスチナ国家樹立を新たに呼び掛け****
アラブ連盟は29日、ヨルダンの死海沿岸で首脳会議を開き、中東和平の実現に向け、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を目指す考えを再確認した。

会議後に共同声明を発表し、「2国家共存」を前提とした和平協議の再開を呼び掛け、イスラエルにアラブの占領地から撤退し、パレスチナ難民問題の解決を求めた2002年の「和平」提案を新たにした。(後略)【3月30日 ロイター】
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【ハマス:対イスラエル軟化の新方針】
これまでの「2国家共存」を前提とした和平交渉が進まなかった背景には、ユダヤ人入植活動をやめないイスラエルの交渉への消極姿勢(イスラエルにとっては、交渉が本格化するより、和平合意がないなかで都合のいいように現状を蚕食していくという状態が一番望ましいのでしょう)のほか、パレスチナ側には、ファタハが主導する交渉の当事者たるパレスチナ自治政府と、「ユダヤ人殲滅」を掲げてイスラエルの存在を認めない強硬派ハマス(ガザ地区を実効支配)の対立という足並みの乱れがありました。

ハマスはこれまで、イスラエル領を含む「全パレスチナ」の解放を掲げてきました。

イスラエルの圧倒的軍事力の前では、ハマスの主張は現実とはかけ離れたものではありますが、パレスチナ人側にとっての“あるべき論”として一定の支持があり、パレスチナ自治政府・ファタハ批判の根底をなしていました。

5月1日、その強硬派ハマスの指導者マシャル氏がカタールで、イスラエルとの対決姿勢を軟化させ、1967年の第3次中東戦争以前の停戦ラインを「国境」とするパレスチナ国家建国を初めて認めるという、新たな指針を発表しました。

****ハマスが「国境」新指針 対外関係改善狙いか****
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは1日、新たな指針を発表し、1967年の第3次中東戦争以前の停戦ラインを「国境」とするパレスチナ国家建国を初めて認めた。ただし、イスラエルを国家としては承認していない。

新指針は、「ユダヤ人殲滅(せんめつ)」を掲げる1988年の「ハマス憲章」以来のもの。ハマスが闘う相手はユダヤ人ではなく、「占領を続けるシオニストの侵略者」だとしている。ハマスはこれによって、柔軟姿勢をアピールする考えだとみられている。

ハマスのスポークスマン、ファウジ・バルフム氏は、「指針は外の世界とつながる機会を提供する」と述べた。「世界への我々のメッセージは、ハマスは過激でなく、現実的で開明的な運動だということ。我々はユダヤ人を憎んでいない。我々が闘っているのは我々の土地を占領し、我々の人民を殺す者たちだ」。

イスラエルをはじめ、米国や欧州連合(EU)、英国など主要国は、ハマス全体もしくは軍事部門をテロ集団と認定している。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のデイビッド・キーズ報道官は、ハマスが「世界をだまそうとしているが成功しない」と語った。「彼らはテロ目的のトンネルを掘り、数多くのミサイルをイスラエル市民に向けて打ち込んでいる。これが本当のハマスだ」。

「ハマス憲章」とは対照的に新指針では、イスラム主義組織「ムスリム同胞団」を親組織として書いていない。エジプト政府はムスリム同胞団をテロ組織と見なしており、活動を禁止している。

アナリストらは、ハマスが対外関係の改善を狙って新指針を打ち出したと指摘。エジプトだけでなく、同じくムスリム同胞団の活動を禁止する湾岸諸国との関係も良くしようとしているとの見方を示した。

ガザ地区と隣り合うイスラエルとエジプトは、同地区からの戦闘員の流入を止める目的で過去10年にわたって境界線を閉鎖している。

このためガザの経済活動は大きな打撃を受けており、約190万人の住民の生活は困窮している。
今年に入りハマスのナンバー2、イスマイル・ハニヤ氏がエジプトの首都カイロを訪問し、両者の関係は改善し始めている。【5月2日 BBC】
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紛争については、ユダヤ人全体に対する宗教戦争ではなく、パレスチナを占領するユダヤ人との戦いだと規定しています。

ハマスが実効支配するガザ地区は、イスラエルに包囲され、エジプトとの境界も閉鎖され、“天井のない監獄”とも言われ状況で住民生活は困窮しています。

そうした不満が膨らむ中で、いつまでも実現不可能な目標を掲げているだけでは住民支持が得られない・・・・ということで、エジプトなど関係国の関係改善を図り、国際的孤立から抜け出そうという意図でしょうか。

ただ、おそらくハマス内部には、こうした方針転換を快く思わない強硬派も多数存在することが推測されます。

ハマスは新指針が1988年の「ハマス憲章」に取って代わるものではないとしています。この点については、ハマス内部の強硬派の支持を得るためという見方もあるようです。

ハマスと同じようにイスラエルとの対決姿勢をとってきた(実際、イスラエルと戦火を交えています)レバノンのヒズボラは、今回のハマス新方針を厳しく批判しています。

ハマスと対立する形で自治政府を主導してきたファタハは、更に辛辣です。
ファタハの報道官は「ハマスの新方針は、1988年にファタハがとった政策と同じである。ファタハの政策に対し、ハマスは30年間わたり我々ファタハを裏切り者と攻め続け、謝罪を要求してきた。したがって今、ハマスはファタハに謝罪すべきである。」といった趣旨の発言をしています。【5月2日 「THE TIMES OF ISRAEL」より】

ハマスとファタハの関係がこれで改善するのか、和平交渉に向けて足並みがそろうのか・・・よくわかりません。

「世界をだまそうとしている」というイスラエル側の反応は上記記事のとおり。
これまで和平交渉の枠外にあったハマスが、1967年の第3次中東戦争以前の停戦ラインを「国境」とするパレスチナ国家建国を認めるということで、何らかの形で交渉に関与してくることはイスラエルにとっては望ましい話ではないでしょう。

ハマス新方針の公表時期については、“ハマスとライバル関係にあり、ヨルダン川西岸に拠点を置く主要組織ファタハを率いるアッバス・パレスチナ自治政府議長は3日、ワシントンでトランプ米大統領と会談する予定。トランプ氏はイスラエルとパレスチナの和平交渉再開の仲介に意欲を示し、今月中にもイスラエルを訪問する予定と報じられている。ハマスの新政策はこの会談を意識した可能性もある。”【5月2日 朝日】とも指摘されています。

【トランプ米大統領「仲介者に喜んでなる」 当事者に交錯する期待と不安】
アッバス・パレスチナ自治政府議長は、「トランプ米大統領の支援を受けて、イスラエルのネタニヤフ首相とワシントンでいつでも会談する用意がある」との意向を明らかにして、トランプ政権の仲介による中東和平の実現に期待を示していました。【3月29日 朝日より】

5月3日、そのアッバス・パレスチナ自治政府議長とトランプ米大統領の会談が行われました。

****<トランプ大統領>中東和平仲介に意欲 アッバス議長と会談****
トランプ米大統領とパレスチナ自治政府のアッバス議長は3日、ホワイトハウスで初会談した。

その後、発表した共同声明で、トランプ氏はイスラエル、パレスチナの和平交渉の「仲介者に喜んでなる」と強調。交渉は「最も困難」と言われてきたが「それが間違いだと証明できるかやってみよう」と語り、中東和平交渉の仲介に意欲を示した。

アッバス氏は、トランプ氏の「素晴らしい交渉能力のもと、実現できると信じる」と話し、交渉再開に強い期待を示した。
 
一方、両首脳は具体的な交渉日程や方式には言及しなかった。
 
トランプ氏は今月25日にブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席する。イスラエルメディアは、トランプ氏がこの前後のイスラエル訪問を検討していると報じた。実現すれば、2014年春に頓挫した和平交渉の再開につながる可能性もある。
 
イスラエルのネタニヤフ首相は4日「トランプ大統領と和平前進の最善策を協議するのを楽しみにしている」と語った。
 
声明でトランプ氏は、アッバス氏が、1993年にイスラエルとの間で交わされたパレスチナ国家樹立を目指す「パレスチナ暫定自治合意(オスロ合意)」で重要な役割を果たしたと称賛。「最後の最も重要な和平合意」に署名できるよう支援したいと語った。
 
トランプ氏は、中東和平の実現は過激派組織「イスラム国」(IS)などとの「テロとの戦い」にも資すると指摘した。米国は過激派対策などで、ヨルダンやサウジアラビアなど中東和平推進を求めるアラブ諸国との連携が欠かせない。パレスチナも諜報(ちょうほう)活動などで協力しており、トランプ氏は「中東対テロ包囲網」の拡大にも期待感を示した。
 
一方、暴力を扇動するようなパレスチナ指導者の言葉は「和平に反する」として自制を求めた。イスラエルの意向を反映した形だ。
 
アッバス氏は、和平への要件を改めて主張した。具体的には、パレスチナ国家建設によるイスラエルとの2国家共存▽国境線は67年の第3次中東戦争でイスラエルが占領・併合を拡大する前の境界が基準▽首都は東エルサレム−−などを要請した。【5月4日 毎日】
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親イスラエルとされるトランプ政権に対し、パレスチナ自治政府側も入念に下準備・根回しをしての会談でした。

“互いを称賛しつつ、笑顔にはぎこちなさも漂った。テロ対策でアラブ諸国との連携を強化したいが、和平仲介の失敗は避けたいトランプ政権。交渉を再開したいアッバス氏。両者の予想外の接近に焦るイスラエル。それぞれの期待と不安が交錯している。”【5月4日 朝日】

“3月10日、就任から2カ月近くを経てようやくトランプ氏から初めて電話をもらったアッバス氏は、通話中に「3度も(ホワイトハウスに)招かれた」と感激した様子で側近に語ったという。”“アッバス氏は「あなたとなら、希望を持てる」と声明の一部を英語で伝えるなど称賛の言葉を並べた”【同上】

“3月30日に開催した安全保障閣僚会議で入植地拡大の自主規制方針をまとめた。ネタニヤフ氏は席上、トランプ政権は「非常に友好的で、彼の(入植地抑制を求める)要望は考慮しなくてはならない」と強調。イスラエルが米国の和平仲介努力の「妨げ」になっているかのように見られないようにしなければならないと語ったという。オバマ前政権時代には見られなかった抑制的な対応だ。”【同上】

和平交渉に向けての具体策は何も示されてはいませんが、パレスチナ問題にさほどの関心を持っているとも思われていなかった型破りなトランプ大統領の登場で、パレスチナ・イスラエル双方に奇妙なほどに“期待と不安が交錯している”状況です。

北朝鮮問題  アメリカの後押しによる中国の圧力は強まってはいるものの、今後については不透明

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(5日付の労働新聞は、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が、韓国の延坪(ヨンピョン)島を2010年に砲撃した部隊を視察し、新たな攻撃計画を承認したと報じています。【5月5日 Yahoo!ニュース】 それにしても不健康そうな金委員長です。)

【強まる中国の対北朝鮮圧力】
北朝鮮問題に関してはメディアで連日報じられているところで、特段付け加えるような話もないし、誰も(おそらくトランプ大統領も金正恩委員長も)この先の展開がよめない状況ですから、話のしようもないところではありますが、スルーしっぱなしもいかかがなものか・・・ということで、最近の報道を取りまとめてみました。

****米国人の2人に1人、地図上で北朝鮮を見つけられない****
2017年5月2日、米国の調査会社ラスムッセン・レポートの最新の調査で、米国人の2人に1人が、地図上で北朝鮮を見つけることができないと考えていることが分かった。露通信社スプートニクの中国語ニュースサイトが伝えた。

調査は米国の成人1000人を対象に、4月27日から30日まで行われた。それによると、地図上で北朝鮮を見つけることができると考えている人は全米の31%に過ぎず、見つけられない人は50%に上った。「確信を持てない」と回答した人も19%いた。

北朝鮮の核・ミサイル開発により、朝鮮半島情勢はこの数カ月、緊迫の度合いを増している。米国では、北朝鮮に対する軍事攻撃も排除しないとする声がある一方で、経済制裁による圧力強化に集中すべきだとの意見もある。【5月4日 Record China】
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米軍兵士にも5万人前後の死者(いろんな数字があるようですが)を出した朝鮮戦争もすでに過去の話で、全体としてはアメリカ人の国際認識はこんなものでしょう。日本を見つけることができる者がどれだけいるかも怪しいところです。

その程度の認識の国が、朝鮮半島だけでなく、日本を含む東アジア全域に多大な影響を及ぼしかねない動きの中心にあるというのも考えてみると奇妙ではありますが、国際政治と言うのはこんなものでしょう。

そのアメリカ・トランプ政権との経済問題も絡めての(中国が協力するなら、貿易面で譲歩するといった)“取引”によってか、あるいは、“(アメリカ・北朝鮮双方に対する)何をしでかすかわからない”不安に駆られてか、中国もこれまでにない北朝鮮への圧力をかけているようです。

****北朝鮮の3月石炭輸出ゼロ 中国による輸入停止で****
国連安全保障理事会の下に設置されている北朝鮮制裁委員会(1718委員会)のウェブサイトによると、5日時点で、3月に北朝鮮から石炭を輸入したと報告した国はない。中国が2月に北朝鮮からの石炭輸入を停止した後、北朝鮮は石炭を輸出できなくなったとみられる。

安保理は昨年11月、北朝鮮の5回目核実験を受け北朝鮮の石炭輸出に上限を設ける制裁決議を採択した。同決議は、国連加盟国が北朝鮮から輸入した石炭の量と金額を毎月末日から30日以内に北朝鮮制裁委に届け出るよう定めている。

1月と2月には中国と推定される1カ国がそれぞれ144万トンと123万トンの石炭輸入を報告していた。

中国は2月18日、安保理制裁決議に基づく措置として、同月19日から年末まで北朝鮮からの石炭輸入を停止すると発表した。その後に北朝鮮から到着した石炭は送り返したとされる。

一方、北朝鮮制裁委は北朝鮮の石炭輸出が上限を超えないよう、一定水準に到達すると警報を出すことになっている。現在までの輸出量は上限の35.7%程度だ。【5月5日 ソウル聯合ニュース】
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石炭輸入よりはるかに大きな効果があるのは、石油輸出停止(断油)で、すでに供給制限が行われているのか、ピョンヤンのガソリン価格が上がっているとの報道もありますが、北朝鮮が備蓄に努め市場供給を絞っている可能性も。

ティラーソン米国務長官は4月27日、「中国が北朝鮮に対し、『再び核実験を行えば独自制裁を科す』と警告したと、アメリカ側に伝達した」と語っており、その「独自制裁」の最たるものが“断油”になります。

ただ、先の大戦で日本がアメリカの“断油”によって戦争へとなだれ込んだように、致命的な“断油”は政権崩壊あるいは戦争への暴発もありうる措置ですので、金正恩がどうなっても構わないが緩衝地帯としての北朝鮮は残したい、またアメリカとの直接対決とか大量の難民流入といった事態も避けたい中国としては極めて慎重にならざるを得ないでしょう。

“断油”よりは穏やかですが、大きな効果が期待できるのが金融的な締め上げです。

****中国、すべての金融機関に対北朝鮮取引の停止を指示か****
2017年5月5日、中国外交部の耿爽(グン・シュアン)報道官は定例記者会見で、中国政府が国内のすべての金融機関に対し、北朝鮮との取引を停止するよう指示したと韓国メディアが報じたことについて事実確認を求められ、「具体的な状況を把握していない」と回答した。新浪が伝えた。

韓国メディアは、中国の外交消息筋の話として、最近まで北朝鮮への送金が可能であった銀行の従業員が「すべての対北朝鮮外貨業務を中断するよう指示が下りてきた」と話しているとし、「中国の5大銀行はすでに対北朝鮮業務を中断した状態で、さらに中小金融機関まで中断措置が拡大しているものと解釈される」などと伝えていた。

耿報道官は「中国は一貫して安保理の北朝鮮制裁決議を全面的かつ正確、真剣、厳格に履行している」とした上で、韓国メディアの報道については「具体的な状況を把握していない」と述べた。【5月6日 Record China】
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こうした中国の北朝鮮への圧力を“促す”というか“迫る”というか、「今後の取引先は北朝鮮かアメリカか選択を迫らなければならない」と、アメリカ議会下院は対北朝鮮制裁強化法案を可決しています。

***北朝鮮への制裁強化法案 米下院が可決****
アメリカ議会下院は、北朝鮮の核やミサイルの開発資金につながるとして、北朝鮮と取り引きのある外国人や外国企業を対象に、制裁を科すことができる法案を可決し、北朝鮮への圧力強化を目指すトランプ政権を後押ししています。

アメリカ議会下院は4日、北朝鮮に対する制裁を一段と強化する法案を賛成多数で可決しました。

法案は北朝鮮の核やミサイルの開発資金につながるとして、外国人や外国企業が北朝鮮の労働者を雇用して不当に働かせたり、北朝鮮から大量に農産物や天然資源などを輸入したりした場合に、アメリカ政府が制裁を科すことができるとしています。

法案を提出した議会下院のロイス外交委員長は、採決に先立ち2日に演説し、「法案は北朝鮮の核・ミサイル開発計画をやめさせ、国連の制裁決議を順守させるものだ。中国を含めすべての国が制裁に取り組む必要がある」と述べ、北朝鮮と取り引きの多い中国などをけん制しました。

さらに「北朝鮮を支援する中国などの外国の銀行や企業には、今後の取引先は北朝鮮かアメリカか選択を迫らなければならない。それがトランプ新政権の取り組みの重点でもある」と強調し、北朝鮮への圧力強化を目指すトランプ政権を後押しする姿勢を示しました。

法案は今後、議会上院で審議される予定で、トランプ政権としては北朝鮮の後ろ盾となっている中国に対して、中国企業への制裁もちらつかせながら協力を引き出したい狙いです。【5月5日 NHK】
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話が横道にそれますが、この制裁法案採択は“賛成419票、反対1票”でしたが、圧倒的“流れ”に逆らった反対者1名の考え・信念も聞いてみたい気がします。

それはともかく、“対北の金融制裁は、2005年にマカオにある銀行、バンコ・デルタ・アジアが、北の資金洗浄に使われているとして締め上げたことがある。今回、トランプ政権が北と取引のある中国の金融機関に、この「二次的制裁」を発動すれば、北朝鮮の口座を持つ中国金融界が大混乱に陥る。”【5月3日 産経】ということで、中国としても独自対応を余儀なくされているとも思えます。

当然ながら、アメリカの脅し・威嚇に追随・乗っかるような中国の対応に対し、北朝鮮側は強く反発しています。

****北朝鮮、異例の中国名指し批判 米中協調に不快感****
北朝鮮が中国を名指しで批判した。国営メディアの朝鮮中央通信が伝えた。肩書のない個人名の論評を3日付で発表する形をとった。

北朝鮮が中国を直接批判することは極めて異例。論評は、北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐり、中国が米国と歩調を合わせることに強い不快感を示した。
 
中国共産党機関紙「人民日報」と系列の国際情報紙「環球時報」の記事が北朝鮮の核開発を批判したことについて、論評は「不当な口実で朝中関係を丸ごと壊そうとしていることに怒りを禁じ得ない」と非難。「中国は無謀な妄動がもたらす重大な結果について熟考すべきだ」と指摘した。
 
さらに「米国の侵略と脅威から祖国と人民を死守するために核を保有した。その自衛的使命は今後も変わらない」と主張。「朝中友好がいくら大切でも、生命も同然の核と引き換えにしてまで哀願する我々ではない」と強調した。【5月4日 朝日】
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「親善の伝統を抹殺しようとする許しがたい妄動だ」とも言及していますが、“まるで慣用句のように中朝は「血の絆」で結ばれているという大前提で報道されている”ことについて、“朝鮮戦争が始まった1950年に、中朝国境沿いの吉林省延吉市という朝鮮民族の自治州にいて、灯火管制の下で生きてきた”遠藤誉氏は、“中国は朝鮮戦争勃発時点から、北朝鮮とは「本当は」仲が悪く、「血の絆」などでは、一切、結ばれていない”と強調しています。【4月25日 遠藤誉氏 “中朝同盟は「血の絆」ではない――日本の根本的勘違い” Newsweek】

また、文化大革命期における中国における北朝鮮の存在は、「敵国」さながらのものとなり、毛沢東を崇拝する紅衛兵たちが、金日成(キムイルソン)を走資派あるいは逃亡派として血祭りに上げ始めた・・・といった歴史もあるようです。【5月1日 遠藤誉氏 “中国は北にどこまで経済制裁をするか?” Newsweek】

北朝鮮の金正日なども中国を非常に嫌っていたというのはよく言われていましたが、中朝両国の関係は互いの利害によるものであり、利害次第ではいかようにもなるものでしょう。

ただ、建前にすぎないにしても、その建前を崩すためには、それ相応のものが必要にもなります。

中国側にも、すべて中国に押し付けられても困るという思いがあります。
「中国の努力だけでは北朝鮮の核問題は根本的に解決できない。なぜなら、その根源は米朝の対立にあるからだ」「米政府は中国政府に過度の期待を抱くべきではない。中国政府は米国の役割を代わりに担うことはできない。米政府は自らの努力を少しも欠いてはならないという基本的なロジックは変えられない」【5月2日 環球時報】

【進む対北朝鮮包囲網】
アメリカは、中国だけでなく、北朝鮮との関係が深いASEAN諸国への働き掛けも強め、北朝鮮「包囲網」の構築を進めています。

****米、北朝鮮「包囲網」構築へ ASEANに制裁促す****
トランプ米政権は4日、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国との外相会議と、オーストラリアのターンブル首相との首脳会談を相次いで開いた。オバマ前政権が進めたアジア・太平洋地域を重視する政策を継承するとともに、「最重要課題」とする北朝鮮問題で「北朝鮮包囲網」を構築したい考えだ。
 
ティラーソン米国務長官は4日、ワシントンでASEAN加盟10カ国の外相らと会議を開催。終了後、米国務省のマーフィー次官補代理は記者団に「ASEAN各国には北朝鮮の収入源を断ち、外交関係を見直すよう求めた」と述べた。ティラーソン氏は会議で、北朝鮮の外交官が外交特権を利用し、核・ミサイル開発の資金や材料を違法に得ていると指摘したという。
 
米側が神経をとがらせているのは、ASEAN諸国には北朝鮮と政治的、経済的なつながりが深い国が少なくないからだ。北朝鮮にとってタイは第4位、フィリピンは第5位の輸出相手国。シンガポールでは北朝鮮のダミー企業が取引をし、制裁の「抜け穴」となっているとの指摘が出ていた。
 
このため、各国に外交関係の凍結や制限を促しつつ、国連安全保障理事会の制裁決議の履行を徹底させることで、北朝鮮を追い込みたい思惑がある。(中略)

ただ、北朝鮮との外交関係の見直しについて、ASEAN加盟国の政府関係者は「国によってスタンスは違う」と話す。米国の働きかけがどこまで奏功するかは不透明だ。
 
また、トランプ大統領は4日、ニューヨークでターンブル豪首相と会談し、北朝鮮を含む安全保障問題を協議、同盟関係を再確認した。【5月6日 朝日】
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ロシアも、極東ウラジオストクと北朝鮮北東部の羅先経済特区の間に新設される定期航路として、8日に予定されていた貨客船「万景峰号」の第1便の就航を今月後半以降に延期しており、アメリカの対北朝鮮圧力に一定に配慮したものとみられています。

【この先の一手は不透明】
このように、中国を主軸とする圧力・包囲網の形成は進んではいますが、この先どうするのか?ということについては不透明です。

リビア・カダフィ政権の教訓から、北朝鮮も国の命運がかかっている核開発を断念することはありえないとも言われています。

やれ先制攻撃とか斬首作戦、あるいは体制転覆と言っても、現実論としては難しいものがあります。

さりとて、現在のような状況が長引けば、その弊害も大きくなります。
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中国に対北圧力を依存する手法は、合理的ではあるが、長引けばオバマ前政権の「戦略的忍耐」と称した対北政策と変わらず、同盟国の不信を買うだろう。不信のタネはすでにある。台湾の扱いのほかに、中国に対する「為替操作国」の指定を取りやめ、南シナ海で中国の圧力下にある東南アジアの沿岸国を不安にさせている。【5月3日 湯浅博氏 産経】
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トランプ大統領が言及した「金正恩朝鮮労働党委員長と状況次第で会談する」という話も、今のところ可能性は小さいと指摘されています。

****最高指導者就任から5年でも外交経験「ゼロ」 金正恩氏がトランプ氏と会談する日は来るのか?****
トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と状況次第で会談する考えを示した。金委員長は最高指導者就任から5年を超えたが、首脳外交の経験はゼロといわれる。父や祖父もなし得なかった米朝首脳会談の可能性はあるのか。

(中略)北朝鮮外交に詳しい龍谷大の李相哲教授は「先代も成し遂げられなかったことで権威付けになる。対米関係を好転できれば、日本や韓国との交渉も必要ないと考えており、のどから手が出るほど実現したいはずだ」と指摘する。
 
ただ、可能性は「ゼロに近い」ともみる。まず場所だ。安全が保証されないとして訪米は拒否するだろうし、トランプ氏が訪朝すれば「米国が屈した」と宣伝に使われるのがオチだ。中露などが会談場所だけを提供する望みも薄い。
 
最大の壁は、米国が北朝鮮の非核化目標を対話の前提にしている点だ。金委員長は、核・ミサイル開発を政権維持の柱に据えており、2012年2月に米国とウラン濃縮やミサイル実験の凍結に合意しながら半月後には、「衛星打ち上げ」と称して長距離弾道ミサイルの発射を通告し、ほごにした“前歴”がある。
 
「トランプ氏も無理を承知で、全ての選択肢がテーブルにあるとのポーズを示しただけではないか」と李教授は推測する。【5月2日 産経】
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ではどうするのか?

首脳会談は難しくても、それを“模した”ものなら可能かも。

ただ内容は、曖昧で時間稼ぎ的な合意で当面の危機を回避するが、核開発という長期的な火種は残る・・・といった類で終わるようなことも考えられます。(トランプ大統領が批判するイランとの核合意みたいなものでしょうか)

もっとも、圧力が強まれば不測の事態、想定外の行動が飛び出す可能性も大きくなりますので、この先のことは何とも・・・・。

オーストラリア・ニュージーランド 「自国第一」の流れでビザ・永住権取得の厳格化

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(首脳会談前に握手するトランプ米大統領(左)とオーストラリアのターンブル首相【5月5日 AFP】
“騒動”もあった両者には「自国第一」を掲げる共通傾向も)

【ICCに捜査要求が出たオーストラリアの難民政策】
トランプ米大統領は1月にオーストラリアのターンブル首相と電話会談した際、オバマ政権時代に両国間で合意された難民引き受けに関して暴言を発し、一方的に切ったと報じられ大きな話題にもなりました。

合意内容は難民認定を求めオーストラリアへ密航後、国外の施設に収容された人々について、一部をアメリカへ移住させる一時的措置ですが、ターンブル首相が電話会談で、トランプ政権もこの合意を守ることを確認しようとしたところ、トランプ大統領は「これまでで最悪の取引だ」とこき下ろし、1時間を予定していた電話は25分で切り上げられたと報じられています。

ただ、豹変するのはトランプ大統領の得意とするところで、この件についても「大きく誇張」された「偽ニュース」とすることで、両者の“手打ち”が行われています。「米豪の間に鉄の絆が築かれた」(トランプ大統領)とも。
“鉄の絆”というより“鉄の神経”のようにも。

****トランプ大統領、豪首相との関係修復をアピール NYで首脳会談****
ドナルド・トランプ米大統領とオーストラリアのマルコム・ターンブル首相は4日、ニューヨークで首脳会談を行った。今年1月の電話会談では、難民の受け入れ問題で対立が表面化していたが、トランプ氏は「すべて解決した」と述べ、関係修復をアピールした。
 
トランプ氏は、大統領就任直後に行われたターンブル首相との電話会談で怒りをあわらにしたと伝えられてるが、同氏は、これはメディアが「大きく誇張」して報道した「偽ニュース」だったと述べた。
 
1月の電話会談をめぐっては、バラク・オバマ前政権で米国が合意していたオーストラリアからの難民受け入れについて、トランプ氏が不満を述べて怒りをあらわにし、予定を大幅に切り上げて会談を打ち切ったと報じられていた。
 
イントレピッド海上航空宇宙博物館でターンブル首相と初めての首脳会談に臨んだトランプ氏は「われわれは素晴らしい電話会談を行った。君たちがそれを誇張したんだ。大きな誇張だった。われわれは赤ん坊ではない」と述べ、いつものメディア攻撃を展開した。
 
またトランプ氏は「われわれはすごくうまくやっている。素晴らしい関係だ。私はオーストラリアを愛している。いままでもずっとそうだった」と述べた。
 
一方、ターンブル首相は「難民に関する問題は水に流し、前に進もう」と述べた。
 
トランプ大統領とターンブル首相は、第2次世界大戦中に米国とオーストラリアが旧日本軍と戦った「珊瑚海海戦(Battle of the Coral Sea)」から75年となるのに合わせて、ニューヨークにある退役した空母「イントレピッド」を使った同博物館に、いずれもタキシード姿で現れた。
 
アジア太平洋での緊張が高まる中、今回の米豪首脳会談には第2次世界大戦から続く両国の長い同盟関係を演出する狙いがある。【5月5日 AFP】
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オーストラリアが自国で受け入れを拒否した難民をアメリカに押し付けようという内容ですから、難民嫌いのトランプ大統領が“キレる”のも、当然とも言えます。

オーストラリアの難民政策の評判は芳しくありません。

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オーストラリア政府は業者に委託し、難民や移民の上陸を船が領海に入る手前で阻止している。海上で捕まえて、そのまま南太平洋の島国ナウルやパプアニューギニアのマヌス島にある収容所に移送しているのだ。領海手前ならまだ入国前、難民条約で規定された保護の責任は負わなくてもいい、という論法だ。

海外の収容所は表向きは民営だが、実質的にはオーストラリア政府は管理している。施設の維持費を負担し、運営方針を定め、民間業者と契約して運営させている。

人権団体は収容所ではびこる深刻な暴力と虐待を何度も訴えてきた。だがその非人道的な状態を作り出すことこそが、オーストラリア政府の狙いだという。【2月24日 Newsweek】
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そのため、イギリスの人権弁護士らがオーストラリアの難民政策について今年2月、国際刑事裁判所(ICC)に捜査を要求、もし訴追されれば先進国が人道犯罪で国際的に裁かれる最初の例になるかもしれない・・・という話は、2月27日ブログ“オーストラリアの難民収容施設問題 国際刑事裁判所(ICC)の捜査を要求する動きも”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170227で取り上げました。(その後どうなったのかは、情報がありません)

【「移民の国」で強まる「オーストラリア第一主義」 一方で、外国人労働に依存する経済構造も】
オーストラリアは約2300万人の人口のうち、実に4分の1が海外生まれという「移民の国」で、かつての白豪主義を捨て1970年からは多文化主義を目指してきました。

しかし最近では、アメリカや欧州同様に外国人労働力によって雇用が奪われているという反移民・反外国人感情の高まりが見られ、ターンブル首相も「オーストラリア第一主義」を掲げて、移民政策の厳格化に動いています。

「トランプ現象の影響によって、政府が、『オーストラリア人第一主義』というのを公然と掲げること、それに対する抵抗感が薄まったのかなという印象を持ちました。」(青山学院大学 教授 飯笹佐代子氏)【5月1日 NHK】ということで、トランプ大統領とターンブル首相が“鉄の絆”で結ばれることにも一定の背景があるようです。

もっとも、産業界にとっては国際競争力のために優秀な人材の確保が不可欠で、また地方の農業とか建設の現場などでも移民なしでやっていけないということで、『オーストラリア人第一』と掲げながらも、移民に頼らざるをえない現状もありますので(このあたりもアメリカと同じです)、“優秀”で、オスートラリア社会との摩擦を生まない“価値観を共有する”移民に絞って受け入れていこうという選別主義でもあります。

これまでのオーストラリアのビザ制度・永住権(市民権)取得制度については、ブログ「俺的GC観光マップ」【http://gcwalkerjp.com/archives/49899053.html】以下のように説明されています。

****ワーホリ→就職→永住までの一般的な道****
彼らは、ワーホリ(ワーキングホリデービザ)や学生ビザの期間内で自身をスポンサーしてくれる雇用主・就職先を探して回り、運よく見つけたら、そこでワークビザ457を取得し2年以上働きます

そして今までは、そのビザが切れるタイミングまでにIELTSっていう英語のテストで5とか6とか取って、自分が熟練就労移民者としての永住権申請に可能な総合ポイントに達していれば、移民コンサルタントや弁護士を通して手続きを開始し、日本の無犯罪証明発行手続きと健康証明を行い、数カ月待てば晴れて永住ビザを取得する事が出来ました

こうしてオーストラリアに居住している外国出身者を日本人を含め永住権とか、パーマネントとか、PR(パーマネント レジデンシー)とか言います

その後は、雇用期間満期を迎えるか、それを待たずに雇用主と円満の内に退職すれば、その後はこの国で縛りなしで自由に就職をして、オーストラリア人と大して変わらぬ政府からの恩恵のもと生活ができます(中略)

今までは、このビジネス・ビザ(サブクラス457)からの永住権への道は最短4年ぐらいでした

例:ワーホリ(1年)→申請(半年)→就労ビザ期間(2年)→永住権申請(半年)→永住ビザ発行

そうです たったの2年間、ビジネスビザで働くだけで永住権が取れる国、オーストラリアだったんです

他の国とくらべたら超簡単です だからまあ、この方法で永住権を取ろうと働いている外国人が、現在でも豪州に9万5千人居ます  ブログ「俺的GC観光マップ」【http://gcwalkerjp.com/archives/49899053.html】より
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ターンブル首相は上記のビジネス・ビザ(サブクラス457)を利用して2年の就労ビザの後に移民化できる制度を廃止して、新しいTSSビザ Temporary Skills Shortage (TSS) visaを創設。

新しいTSSビザには、「2年:永住権に繋がらない職種を含むShort-term Skilled Occupation List (STSOL)」と「4年:永住権に繋がる可能性ありMedium and Long-term Strategic Skills List (MLTSSL)」があり、永住権取得が認められる職種が限定される形になります。

例えば「コック」では2年のSTSOLしか認められず、永住権につなげるためには「シェフ」として4年のMLTSSLが必要になります。

オーストラリアでは、法律上の最低賃金がシェフ(料理人)とコック(調理人)で異なり、シェフとして雇うと会社の人件費が高くつくということで、現在はコックでビザ取得している人の割合の方が多いそうです。【前出「俺的GC観光マップ」より】

なお、永住権につながる職種については、日本での就職経験(在職証明書)のみで手が届きそうな職種はシェフだけで、他の職種は会計士とか技師とか医者とか看護師とか免許取得が必要な専門職に限定されるとか。

同時に、永住権取得には、必要な居住年数が延長され、「堪能な英語力」、更には「オーストラリア的な価値観」も必要とされます。

****オーストラリア、外国人向け就労ビザを厳格化へ=首相****
オーストラリアのターンブル首相は18日、外国人に人気の「457」一時就労ビザ(査証)を廃止し、より高度な英語力や労働スキルを必要とするビザに置き換える方針を明らかにした。

ターンブル氏は、「オーストラリアの仕事とオーストラリアの価値に焦点を当てた政策変更」になると、フェイスブックに掲載された声明で述べた。

457ビザは、スキルのある労働力不足を補うことを目的としたもので、同ビザの所有者には家族の呼び寄せも許可されていたが、安価な外国人労働者を輸入しようとする雇用主らに悪用されているとの批判も高まっていた。

「457ビザを終わらせる。それは、信頼性を失くした」と、ターンブル氏は首都キャンベラで行われた記者会見で述べた。

現在、約9万5000人の外国人労働者が457ビザを利用している。新しいビザは滞在期間が2年に限定されるほか、対象となる職業も現在の200以上から減る見通し。【4月18日 ロイター】
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****オーストラリアの市民権取得難しく「堪能な英語力」必要に****
アメリカのマイク・ペンス副大統領の訪問を今週末に控えたオーストラリアのマルコム・ターンブル首相は、移民制度の大幅な変更を発表した。

まず、オーストラリアの市民権を取得するために必要な居住期間を1年から4年に延長。試験では、新たに「堪能な英語力」が必要になるほか「オーストラリア的な価値観」を持っているかどうかを確認するため、子供を学校に行かせているか、就労はしているか、などの質問を追加する。

「単純な公民的な試験だけで良いのか。審査の厳格化は、この国の多文化主義と価値観を強化するためのものだ」と、ターンブルは言った。

ターンブルも、母方の祖父母はイングランドからの移民だ。(中略)

近年はヨーロッパやアメリカでも反移民感情が高まりつつあり、オーストラリアも例外ではない。反移民を掲げるワンネーション党のような極右政党や、超保守的なオーストラリア保守党が人気を集めている。(後略)【4月21日 Newsweek】
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なお、オーストラリアで働く外国人若者らの“入口”となっている、ワーキングホリデー ビザ (サブクラス 417)については以前、重税が課されることが検討されましたが、関係者の反対で緩和されています。

この件は、外国人若年労働力に依存しているオーストラリア経済の実態を反映しています。

****「出稼ぎ日本人」も無縁じゃない豪州のひずみ 増税をめぐる混乱の陰でグレーな雇用が横行 ****
「出稼ぎワーホリ」政策に異変?
これに猛反発したのがオーストラリアの農業や観光業界関係者だった。
 
「ワーキングホリデー制度」は、表向き「各々の国・地域が、青少年に文化や一般的な生活様式を理解する機会を提供するため、一定期間の休暇を過ごす活動とその間の滞在費を補うための就労を相互に認める制度」と規定されている。
 
ところが、実際は地方の産業や農業などの働き手不足を補う頼みの綱となっている。特に農業では、野菜や果物の収穫の繁忙期には、ワーホリの若者たちがいなければ成り立たないほど、貴重な労働力として頼っているのが現状だ。労働力全体の約4分の1をワーホリ滞在者に依存しているとするデータもある。
 
ワーホリ税の増税は、オーストラリアのワーホリ滞在者がカナダやニュージーランドなどに流れてしまう懸念を生じさせた。これが関係者からの猛抗議につながったワケだ。(中略)

その後、議会で迷走を続けたワーホリ税をめぐる議論は昨年暮れ、最終的に税率は当初の32.5%から15%に落ち着いた。
 
だが、15%の増税が施行されて以降、すでにオーストラリアを渡航先に選択するワーホリ希望の若者たちの数は減り始めていると、オーストラリア各紙は次々に報じている。

そもそも、オーストラリア政府がワーホリ税の増税に踏み切ったのは財政再建とともに、若年層の失業者保護などの狙いもあったのだが、関係者からの反対で、ワーホリ滞在者に頼ったいびつな産業構造が浮き彫りになる事態となった。(後略)【4月8日 東洋経済オンライン】
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上記の話は、課税を避けて記録が残らないよう、給料が現金手渡しで支給される雇用形態「キャッシュジョブ(またはキャッシュ・ハンド・ジョブ)」の横行という実態につながるのですが、その話は今回はパスします。

【移住先として人気のニュージーランドでも永住権取得は厳格化の方向】
一方、隣国ニュージーランドはオーストラリアよりもビザ取得が容易で、ニュージーランドの市民権を持っていればオーストラリアでも居住、労働可能なため、ニュージーランド移住はオーストラリア移住への「登竜門 」になっている・・・というニュージーランドでも変化がみられるそうです。

****トランプを嫌い、米国からニュージーランドへ大量脱出****
日本人に大人気のニュージーランド移住
日本人永住者の中でも、ニュージーランドは、米国をトップとしてランクインする上位10位中、前年比で最高の約10%増を記録。

アジアで人気のシンガポール(約2400人、前年比約7%増)やマレーシア(約1500人、同約5%増)をはるかに超える「約9700人」を数え、知る人ぞ知る「日本人の大人気永住先」である。
 
しかし、ここ最近、異変が起きている。
米国人の米国離れが加速化し、米国人のニュージーランドへの移住が急増。英語を母国語とし、資金力も潤沢な米国人富裕層の流入で、不動産や家賃の高騰、さらに日本人など非英語圏移住希望者や現地の同出身者に対する雇用環境が厳しくなるとの予測から、移住先を他国に変更したり、日本へ帰国する動きが出てきている。
 
ニュージーランド内務省によると、米国のトランプ政権誕生後のここ100日間の米国人のニュージーランドでの市民権申請数が、前年同期比の約70%増と記録的な拡大となっている。
 
さらに就労ビザ申請も約20%増で、ニュージーランド政府の移民関連公式サイトは、米大統領選後、米国からのアクセスが約10倍増の4000件を超える記録だという。
 
もともとニュージーランドは英語圏からの移住先で大人気の国。(中略)
それではなぜ、外国人はニュージーランドへの移住を目指すのか?
 
それは永住権など各種ビザが他国より取りやすく、特に隣国のオーストラリアでの移住を目指す場合は、それより先にニュージーランドで取得する傾向にある。
 
オーストラリアは経済も堅調で、人口も多く、給与もニュージーランドよりはるかに高く、物価はニュージーランドより安いが、永住権どころか数年の労働ビザ取得もかなり困難だ。
 
しかし、ニュージーランドの市民権を持っていればオーストラリアでも居住、労働可能なため、「急がば回れ」、ニュージーランド移住はオーストラリア移住への「登竜門 」になっている。
 
さらに、ニュージーランドは、オーストラリア、英国、カナダなどと違い、一度、永住権を取得すると更新は一切不要で、居住の滞在日数要件もない。

原発がなく、贈与税・相続税もない
取得後、長年ニュージーランドを離れていても、永住権が失効しないことから、世界でも有数の「永遠の永住権国家」として移住先の人気国だ。
 
また、原発がない豊かな自然が売りで、贈与税や相続税課税もなく、「租税回避」の楽園として英国や米国、さらには日本、中国などからの富裕層に注目され始めている。
 
隣国のオーストラリアへの移民の半数はニュージーランド人だが、そのニュージーランド人の7人に1人が外国出身者と言われるゆえんだ。
 
日本人の中にも、そのため、ニュージーランドを「トランジット(中継地点)移住」の移住先として目指す人が多いが、ここに来て新たな障壁が浮上している。
 
ニュージーランド政府は、4月19日、移民法の改正を発表し、永住権取得の資格条件の大幅変更を決定(8月14日施行)。これにより、外国人の永住権取得は、厳格化されることとなり、永住権を見込む日本人の多くが大きなショックを受けている。(後略)【5月2日 JB Press】
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“ニュージーランドでは、10年間居住すれば、65歳から満額年金を受理することが可能で、ニュージーランド生まれの国民と同じ待遇だ。
高齢者移民急増は、年金支出の拡大要因で、国民から懸念や批判が続出している。こういった状況から、今までとは違い、外国人の永住権取得は今後、さらに難しくなるだろうということだ。”【同上】とも。

世界中で「自国第一」の流れが進んでいます。一見、国民にとってはもっともな主張のようにも見えますが、各国がそうした内向き姿勢を強める結果がどうなるのか? そこらは十分に検討する必要がありますが、また別機会に。

南スーダン 自衛隊は今月末までには撤収完了するも、深刻化する現地の混乱・危機

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(南スーダンのワウに国連が設置した文民保護地区 (PoC)の避難民たち(2016年8月2日撮影)【4月11日 AFP】

【制約が浮き彫りになった日本のPKO活動】
日本政府はことし3月、「一定の区切りがついた」などとして南スーダンのPKO活動に派遣していた陸上自衛隊の撤収を決め、先月帰国した第1陣に続き、5月6日には第2陣115人が帰国しました。今月末までには全員が撤収する予定です。

現地の復興に向けたインフラ整備で大きな功績を残し、これまでのところ全員が無事帰還できることは素晴らしいことではありますが、現地の混乱が収まり、復興も軌道に乗った・・・からではなく、混乱が激しくなったために帰国するという日本PKOの在り方を含めて、今後への課題も大きなものがあります。

****南スーダンPKO、第2陣きょう帰国 最大の実績、注目されず 新たな派遣先、選定難航****
南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた陸上自衛隊部隊の第2陣約110人が6日、帰国する。5月末までに全員が撤収する予定。

5年以上の活動を通じ、インフラ整備で過去最大の実績を残すなど国家建設に貢献した。キール大統領から特別な賛辞が贈られたが、国内では日報の隠蔽問題などに焦点が当てられ、その成果は注目されていない。PKO5原則に基づく制約も置き去りにされたままだ。(中略)

 ◆制約浮き彫り
安全保障関連法に基づき昨年11月から、「駆け付け警護」と宿営地の「共同防護」が新たな任務として付与された。(中略)

しかし、活動地域を限定したこともあり、駆け付け警護は現在まで実施していない。現地住民の保護のため監視や巡回を行う「安全確保業務」も可能になったが、任務付与は見送られた。

これとは対照的に、PKOに参加している中国軍部隊は3月、南スーダン南部で戦闘に巻き込まれそうになった国連職員ら7人をホテルから救出している。
 
治安維持の面では陸自部隊の活動が見劣りすることは否めない。自衛隊は停戦合意の維持などを柱とするPKO参加5原則に縛られているためだ。武力衝突が発生すれば、国会で「5原則違反」の批判にさらされるため、政府は積極的な活動に二の足を踏む。
 
陸自部隊が南スーダンから完全撤収すれば、日本が部隊派遣するPKOはゼロになる。政府高官は「ゼロの期間は極力短くしたい」と語るが、新たな派遣先の選定は難航している。地中海のキプロス平和維持隊など活動環境が安定したPKOは多くの国が希望し、空きがないのだ。
 
陸自部隊第1陣が帰国した4月19日、政府高官は自身に言い聞かせるように、こう語った。「無理に新たな派遣先を見つける必要はない。日本は日本らしい貢献をすればいい」【5月6日 産経】
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【拡大する現地の混乱 国際的な住民保護の必要性は増している】
現地。南スーダンからは、政府軍による住民殺害、NGO職員の被害、PKO拠点への攻撃など、混乱を伝える報道が続いています。

****<南スーダン>政府軍虐殺か、住民16人死亡****
内戦状態が続く南スーダン北西部のワウで10日、地元住民が襲撃され、少なくとも16人が死亡した。AP通信などは住民の証言として、政府軍が民兵集団と民家を一軒ずつ捜索、出身民族を理由に銃撃したり、家を焼き払ったりしたと伝えた。
 
9日に反政府勢力の待ち伏せ攻撃で政府軍兵士が死亡したことに対する報復だったとみられる。
 
国連南スーダン派遣団(UNMISS)は10日の声明で「病院で民間人16人の遺体を確認した」と明らかにした。住民3000人以上が教会や国連施設に避難したという。
 
南スーダンの内戦を巡っては、国連の専門家が何度も「ジェノサイド(民族大虐殺)の危機にある」と警告。住民らは、政府軍を主導し民兵集団もつくる最大民族ディンカ人による他民族の虐殺や襲撃が繰り返されていると証言していた。【4月11日 毎日】
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****<南スーダン>戦闘拡大 NGO職員など人道支援者にも被害****
国連平和維持活動(PKO)に参加している陸上自衛隊が17日に撤収を始める南スーダン各地で、政府軍と反政府勢力の間の戦闘が拡大している。援助関係者に対する襲撃も多発するなど、戦況のさらなる悪化が懸念されている。
 
国連人道問題調整事務所(OCHA)は15日、内戦激化を受けて、東部ジョングレイ州で活動していた人道支援関係者60人が一時退避を余儀なくされたと明らかにした。北西部ワウで14日に世界食糧計画(WFP)の契約スタッフ3人が殺害されるなど、支援活動は「ますます危険かつ困難になっている」と警告している。
 
南スーダンでは、一部地域で飢饉(ききん)が起きるなどかつてない規模で食糧不足が広がっているが、主に政府軍や大統領直属の民兵集団によるとされる援助関係者に対する襲撃や妨害が後を絶たない。
 
この1カ月あまりでも、3月中旬に中部イロル付近で国際移住機関(IOM)の車列が銃撃を受けて5人が死傷したほか、同下旬にも首都ジュバからジョングレイ州へ移動中のNGO職員6人が何者かに殺害された。国連によると、2013年末に内戦が始まって以降、殺害された援助関係者は82人に上る。
 
国連の専門家などからも、政府軍や民兵が特定の民族を標的とした襲撃を行っているほか、反政府勢力の支配地域への食料供給を妨害し「意図的に飢餓状態を作り出している」との批判が出ている。
 
国連南スーダン派遣団(UNMISS)も15日、声明を発表。西部ラガや上ナイル地方でも新たな戦闘が発生しているとして、政府軍と反政府勢力の双方に自制を呼びかけた。【4月17日 毎日】
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****南スーダンのPKO拠点、攻撃受ける 国連部隊が反撃***
国連南スーダン派遣団は4日、南スーダン北部の国連平和維持活動(PKO)の拠点が何者かによって攻撃を受け、国連部隊が反撃したと発表した。
 
現場は同国北部リアーのPKO拠点。3日夜、小型の武器による攻撃を受け、ガーナの国連部隊が反撃したという。同国では政府軍と反政府勢力による戦闘が続いているが、どちらの勢力が攻撃を仕掛けてきたかは不明。攻撃による死傷者は出ていないという。【5月5日 朝日】
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日本政府や国内世論は、自衛隊がこうした混乱に巻き込まれることがなかったことを喜んでいるかと思いますが、政府軍による住民殺害など、国際的な介入によって住民の生命・財産を守ることがこれまで以上に必要とされている時期でもあります。

****住民保護は担えず****
現地情勢に詳しい栗本英世・大阪大大学院教授(文化人類学)の話 

与えられた条件の中で自衛隊は最善を尽くしたと思う。しかし道路補修などは自衛隊でなくてもできる。内戦の激化で最も期待された住民保護の役割は担えなかった。
 
国会での議論も、PKO5原則など内向きのものばかり。日本が南スーダンの人々にどんな貢献ができるかの議論が必要だった。
 
現地は今、和平合意の実施や国民和解の実現、飢えに苦しむ人々への援助をめぐって重要な局面を迎えている。このタイミングでの撤収は決して歓迎されることはない。「一定の区切りがついた」という日本政府の説明は、とても現地の人々を納得させることはできないだろう。【4月20日 朝日】
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【戦闘激化と並行して飢餓進行、難民増大の問題も深刻化】
激しさを増す戦闘・混乱、政府機能のマヒのなかで、600万人の命が危険にさらされる可能性があるとも指摘される飢饉が進行しています。

****南スーダン、「人災」による飢饉で600万人の生命が危機に ****
南アフリカの慈善団体は5日、飢饉(ききん)に見舞われている南スーダンやその周辺国で、年末までに計600万人の命が危険にさらされる可能性があると警告した。

一方で国際社会は、最悪の事態を防ぐために必要とされる44億ドル(約4940億円)の支援金の調達に苦慮している。
 
慈善団体「ストップ・ハンガー・ナウ・南アフリカ」の代表、サイラ・カーン氏は、国際社会が南スーダンに支離滅裂な対応をしているため、数百万人の命が脅かされていると警鐘を鳴らした。
 
カーン氏は「非常に暗たんたる状況だ。多くの非政府組織(NGO)や各国政府には、何をする必要があるかという点について多くの混乱がみられる」と指摘。「その地域は困難に直面しており、われわれが何もしなければ、飢餓によって年末までに600万人を死なせることになる」と述べている。
 
今年2月、南スーダンと国連(UN)は、同国北部のユニティー州を中心とする複数の地域で飢饉が発生していると公式に宣言。国連の担当者らは、避けることもできた「人災だ」と述べていた。
 
2011年にスーダンからの独立を勝ち取った南スーダンは、サルバ・キール(Salva Kiir)大統領とリヤク・マシャール(Riek Machar)前副大統領による権力争いが2013年12月、内戦にまで発展。これまでの死者は数万人に上り、350万人が避難を余儀なくされた。【5月5日 AFP】
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350万人とも言われる避難民・難民への対応も急務と言うか、限界に近づいています。
隣国ウガンダにはすでに83万人が流入しており、数か月足らずで世界最大の難民キャンプが出現するような状況で、現地社会との摩擦も大きくなっています。

****南スーダンからの難民受け入れ、危険水域に ウガンダ****
ウガンダ・ユンベにある難民キャンプで大勢の南スーダン難民が食料の配給を待っている──。そばで客待ちしているバイクタクシー運転手のサディク・アゴトレさんは彼らが客になることはめったにないと不満を漏らす。
 
アゴトレさんは「商売はよくないね。この人たちには金がない」と語り、わずか8か月で低木などが生い茂る森から27万人以上が暮らす世界最大の難民キャンプ「ビディビディ(Bidibidi)」へと様変わりした広大な土地を見やった。
 
ウガンダはこれまで、難民を温かく歓迎していると称賛されてきた。しかし隣国の南スーダンの内戦により1日2000人以上の難民が同国に流入しているなか、地元コミュニティーや支援団体はその重圧に押しつぶされそうになっている。
 
人口50万人のユンベでは、地元で展開されている人道活動が仕事に還元されずにいるため、住民の多くはいらいらを募らせている。しかも、もともとそこまで豊富ではない資源が、この影響でさらに手に入りにくくなっており、状況はより厳しいものになっている。
 
ユンベで小売店を営むナシャール・ドブレ―さんは「これ(難民危機)のせいでここはだいぶ変わった。ストレスの度合が増えた。仕事のストレスがものすごく増えた。食料価格は上がる一方だ。彼らは木を切るから地元の環境にだって良くない」と語る。
 
ビディビディ難民キャンプは昨年8月、南スーダンのサルバ・キール大統領派とリヤク・マシャール前副大統領派の間で結ばれていた停戦協定が崩壊し、2013年に勃発した内戦状態に戻ったことによって生じた難民の大量流入に対処するために設置された。
 
ビディビディはほんの数か月足らずで、主にソマリア難民を受け入れているケニアのダダーブ(Dadaab)難民キャンプを追い越し、世界最大の難民キャンプとなった。
 
しかしこの広さ250平方キロメートルのビディビディでさえ、南スーダン難民を部分的にしか収容できてない。これまでに南スーダンからウガンダに流入した難民は計83万人。国連(UN)の予測によると、今年半ばには100万人を超えるとみられている。
 
国連世界食糧計画(WFP)のウガンダ副代表を務めるシェリル・ハリソン(Cheryl Harrison)氏は、月に1万5000トンの食料を配送するロジスティクスの困難さを指摘している。

■「今はとても不安定な状態」
WFPは南スーダンの和平協定崩壊前、ウガンダに滞在する難民への食料支援として月600万ドル(約6億7700万円)を投じていたが、今では1600万ドル(約18億円)以上にまで膨れ上がっている。WFPの今後半年間の予算は5000万ドル(約56億4000万円)足りない状況だ。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のフィリッポ・グランディ高等弁務官は先月、この状況について「限界にある」と述べた。
 
現地資源の利用をめぐっては、難民と地元住民との間で対立も起きている。最近では、難民の流入はなんの利益も生まないと主張する住民らが、掘削孔へのアクセスを数時間封鎖するという出来事も起きた。
 
地元当局のジェイコブ・バテミエット氏は「建材、木材、燃料などの天然資源の問題は最悪の状況だ。流入した27万2000人の影響は大きい。ここでの失業率はとても高い」とキャンプの状況を説明した。
 
あるNGOのスタッフによると2月には、地元当局の職員9人が支援物資を横領して解雇されたことに不満を持つ100人が、ビディビディ難民キャンプ襲撃を予告するプラカードを掲げてデモを行ったという。
 
ウガンダは長らく、世界で最も進歩的な難民政策を取っている国として称賛されてきた。政府は難民に勤労と国内移動の自由を認めてきたし、北部のコミュニティーでは定住用の土地も提供してきた。
 
難民らは小さな土地を譲り受けて小屋を建て、農作業用の土地開墾に従事することになっている。しかし、ビディビディではまだ行われていない。
 
ビディビディ難民キャンプの責任者、バリャムウェシガ氏は、自分たちの食べるものを生産できない人々が増えていることの危険性を強調し、「(食べものを生産できなくなれば)難民たちは仕方なく盗む。盗みは暴力を呼ぶ。そうなれば難民と受け入れ側のコミュニティーが享受している共存は崩壊してしまうだろう」「今はとても不安定な状態にある」と語った。【5月8日 AFP】
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【とりあえずは“日本ができること”を】
一方、イギリスは南スーダンPKOへ兵士400名(医療・工兵部隊)を派遣することを発表しています。

****英国軍400人、国連南スーダン派遣団に初参加****
英国軍は2日、兵士約400人を南スーダンで平和維持活動(PKO)を行っている国連(UN)部隊に数週間以内に派遣することを明らかにした。同軍の国外配備としては最大規模となる。
 
2011年に発足し、現在1万3000人規模のUNMISSに初めて参加する英国軍は、医療部隊と工兵部隊から編成される。英国軍の南スーダンへの派遣は、デービッド・キャメロン前政権時代に決定していた。(中略)

配備先は、南スーダン北部ベンティウとマラカルで避難を強いられた民間人を収容している国連のキャンプ。

ここで道路や排水溝の整備、治安維持などを支援する。また、80人近い医療要員がベンティウの病院に配属され、民間人に加え同地域で活動している国連PKO要員1800人の治療に当たる。【5月3日 AFP】
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自衛隊の撤収で南スーダンの危機は終わった訳ではなく、むしろ危機は拡大しています。

PKO5原則など、日本のPKO活動の在り方については、今後に向けた議論が必要ですが、国内で飢餓が進行し、国内・隣国に避難民・難民があふれる状況で、さしたりの“日本ができること”に早急に取り組むこと必要です。
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