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ベラルーシ  「ニート罰金法」あるいは「社会寄生虫(パラサイト)駆除法」 勤労は義務か?

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(現在エジプトを旅行中 昨夜、ホテルから“ただ見”した、ピラミッドのライトアップショー)

先日3月24日ブログ“AIロボットが人間に代わって仕事をする社会が機能するためには・・・・”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170324で、AIロボットが普及する「将来」においては、働き場を失った人間の大量失業の危険があるとの疑念や、もし、そうした危機を回避するためにすべての者の一定の所得を保障するベーシックインカムのような分配政策を導入した場合、「ひとは何のため働くのか?」という、労働に関する根源的問題も表面化するかも・・・・といった話題を取り上げました。

一方で、「現在」にあっては、ひとは生きるために働かねばなりませんが、働きたい意欲はあるいものの適当な仕事がなく失業を余儀なくされている者、あるいは、遺産や資産を有しており働く必要もない者などが存在します。

東欧ベラルーシでは、年間の半分について働いていない者に対する罰金課税である「ニート罰金法」あるいは「社会寄生虫(パラサイト)駆除法」とも称される法律が施行され、社会的な反発を招いているとか。


****【ロシア革命100年】ベラルーシでも抗議行動 ソ連崩壊は「未完」だった? ****
今年は1917年のロシア革命から100年の節目。ロシアの一部識者には、91年のソ連崩壊も一種の「革命」ととらえ、それが「未完」だったとする見方がある。

05年の第一次ロシア革命が中途半端に終わり、17年に再燃したのと同様、ソ連崩壊の原動力となった民主主義や民族自決への希求が、時を経て再び表面化する−という視点だ。
 
これを裏付けるように、ロシアの兄弟国ベラルーシでも2月以降、異例の反政権デモが続いている。「欧州最後の独裁者」と称されるルカシェンコ大統領が、貧困層に課税する新法を導入したことへの抗議だ。

25日には首都ミンスクで数千人がデモを行い、700人以上が治安当局に拘束された。「ベラルーシ人」の民族意識や欧州志向が強まり、反政権運動につながっている側面もある。
 
05年の第一次革命は、皇帝への請願を行おうとした群衆に軍が発砲した「血の日曜日事件」が端緒。皇帝は選挙制の国会開設などを約束したものの、情勢が落ち着くと反転に出た。

ロシアでは2000年以降、ソ連崩壊後の混乱や困窮に対する反動から、プーチン大統領の強権統治が支持を得てきた。【3月27日 産経】
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上記記事タイトルの“ベラルーシでも”というのは、反プーチン政権運動の中心的存在でもあるアレクセイ・ナワリヌイ氏の呼びかけでロシア各地で行われたデモ行進や集会などの動きを踏まえてのものです。

ソ連崩壊という「革命」が「未完」だったかどうか、民主主義や民族自決への希求が時を経て再び表面化するのかどうか・・・・という「政治的問題」はさておき、ベラルーシのルカシェンコ大統領が進める貧困層に課税する新法というのが、冒頭の「ニート罰金法」あるいは「社会寄生虫(パラサイト)駆除法」のことでしょう。

****「社会寄生虫駆除法」成立 働かない者は罰金、拘束も****
「プー太郎からは金を絞り上げろ」とばかり、半年以上、働いていない者に罰金を課すトンデモナな法律が旧ソ連のベラルーシで成立し、物議を醸している。

「社会寄生虫駆除法」「ニート罰金法」などの悪名も賜るほどで、最悪の場合、当局に拘束されてしまうという。

欧州最後の独裁者による新法
隣国ロシアの英字紙モスクワタイムスによると、同法は「市民の就労を促すとともに、憲法上の義務である国家財政に寄与してもらう」のが目的。無職で税金を払わずにいる者は社会に甘えており、「けしからん」というわけだ。
 
ベラルーシは、スターリンばりの旧ソ連的強権支配が生き残る国。ルカシェンコ大統領は1994年の就任以来、同職にあり、欧米諸国からは「欧州最後の独裁者」と言われ、ヒトラーの信奉者ともされる。
 
新法は183日以上、仕事をしなかった者に約3万円の罰金を課す。同国ではほぼ平均月収にあたる金額だというから重い。支払えなければ拘束された上、無理矢理、“奉仕活動”に従事させられるそうだ。

労働人口の4分の1が「闇の商売」「脱税」
AP通信は、同国では労働人口の4分の1が正規の就業登録をせず、闇の商売で稼ぎ、脱税していると報じており、これを取り締まる狙いもあるという。

だが、政府の無茶ぶりに市民も黙っていない。英紙ガーディアンによると、同法に異議を申し立てるサイトには2万5千人以上が署名を寄せ、「(働きたくても)まともな仕事がないのに、よくこんな法律を作ったもんだ」などと怒りをぶつけている。

政府は「一時的な法だ」と主張しているが、誰も信じていない。【2015年5月26日 産経WEST】
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当然に働けない事情がある者はいますので、“未成年や障害者、学生、55歳以上の女性と60歳以上の男性は除かれるが、それ以外の無職は対象になるようだ。”【https://news.careerconnection.jp/?p=11341】とのことです。

“闇の商売で稼ぎ、脱税している”という事情はあるにしても、本来なら失業者に仕事を手当てすべき政府が、罰金課税や拘束するは”とんでもない”という話にもなりますが、本来ひとは働かねばならないのか?という根源的な問題にもかかわってきます。

****東欧で「ニート罰金法」が成立 労働はどこまで「義務」なのか?****
旧ソ連の東欧ベラルーシで「ニート罰金法」が成立したと報じられ、ネットで話題となっている。東スポWebによると、半年以上職に就かず納税していない国民に対して、約3万円の罰金を科すのだという。

もちろんこの法律には「強制労働だ」「人権上問題が」などと国際的にも批判が集中しているようだが、ネットユーザーからは「日本も割と真面目に考えた方がよい」など意外な擁護もある。

賛成者「日本社会の負の部分の根本はここ」
この法律では、罰金を支払わなければ拘束され、地域のボランティアをさせられる。未成年や障害者、学生、55歳以上の女性と60歳以上の男性は除かれるが、それ以外の無職は対象になるようだ。

このニュースに対しては、当然「奴隷じゃねーかw」「ニートでもいろいろいるだろうに」と批判する人もいる一方で、「意外に正道な気がするんだが」など、日本にも同じような制度を導入すべきではないかという書きこみがあった。

「無職ニートはかなり日本社会にはマイナスになってきてる。少子化や経済面でもあらゆる日本社会の負の部分の根本はここ」

日々働いた収入の中から、かなりの金額を税金や保険料として月々引かれるサラリーマンからすれば、働かずに社会インフラや社会保障の恩恵を受けている人に不満や不公平感が高まってもムリはない。

憲法を根拠にする人もいる。「納税の義務」や「教育を受けさせる義務」を怠った場合には罰則があるのに、もうひとつの義務に罰則がないのはおかしいというわけだ。

「日本でも勤労の義務が定められているから、別に働かない奴に罰を与えても不思議はない」
現行憲法は「不労所得を否定」するのが趣旨?

しかし「勤労」がなぜ義務なのかと問われれば、明確に説明できない人も多いだろう。識者の間でも、解釈や評価が分かれているようだ。

高崎経済大学教授の八木秀次教授は、産経ニュース「中高生のための国民の憲法講座」の中で、自由主義国が勤労を国民の義務と規定するのは異例とし、現行憲法をこう批判している。

「勤労の義務はスターリン憲法に倣って、国民を総プロレタリアート(労働者)化せよ、という社会主義の発想に基づいたものです。国民の中には先祖や親の財産を相続して地代や家賃、利息などで生活できる人もいます。そのような『不労所得』を否定するのが本来の趣旨なのです」

ネットにも「過去に努力して不労収入がある人もいるからなぁ」という書き込みがある。そういう人も含めて全員働けというのは、この国ではムリがある。罰金が約3万円と比較的安いこともあり、払っておけばいいと嘯く人もいる。

「蓄財して3万の罰金を払い続ければ、無職生活を続けられるということ」
「ブルジョアニートは免罪されるようなものだね」

また、正真正銘のニートなら、罰金も払わずボランティアも放棄して刑務所に入りたがるとして「ニートを舐めちゃいかん」という人もいた。【2015年5月.12日 キャリコネ編集部】
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“勤労の義務はスターリン憲法に倣って、国民を総プロレタリアート(労働者)化せよ、という社会主義の発想に基づいたもの”というのは、「そうなのか・・・・?」とも。
おそらく異論もあるところでしょう。

ベラルーシの「ニート罰金法」あるいは「社会寄生虫(パラサイト)駆除法」は、単なる“とんでもない法律”にとどまらない、労働に関する大問題ともかかわるもののようです。

エジプト  面倒なチップの習慣 中国的対処法は・・・・

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現在エジプトを旅行中です。

今はアスワン(イシス神殿やアスワンハイダム)から、スーダン国境も近いアブシンベル神殿に向けて、砂漠(アスワン付近は岩砂漠ですが、アブシンベルに近づいてきた今は砂砂漠に変わりました)の中を120kmぐらいのスピードで移動中です。

手配当初は、警察官が同乗してコンボイを組んで移動・・・といった、物々しい話も聞いていたのですが、実際のところは、最近はそこまでのことはしないようで(治安が改善したのでしょうか?)普通に専用車で移動しています。

ただ。アスワン郊外の検問所(当然、自動小銃を持った治安要員がいます)で、ドライバーがパーミッション(入域許可書)みたいなものを渡していました。パーミッションなのか何なのかは知りません。

エジプト旅行中、頭(と懐)を悩ますのがチップというかバクシーシ(イスラム的な寄付)です。
普段チップの習慣がない国を旅行することが多いので、この寝れない習慣は煩わしくてこまります。

日本的感覚からすると、「対価は支払っているのに、どうして上乗せして支払う必要があるのか?」という理不尽な感覚を持つのが本音です。

まあ、現地の習慣なので従うことにはしますが、どんな場面で、どのくらい支払えばいいのか迷います。

昨日カイロ空港のトイレを利用した際に、入り口付近に清掃担当みたいな女性が一人、何をするでもなく佇んでいます。

作業中だろうか?チップのためだろうか?・・・と思いながら用をすませ、トイレを出ると3人に増えていました。
その中の一人がチップを求めるようなそぶりを見せたような気もしたのですが、タイミングがずれて渡さずに通り過ぎてしまいました。

そうしたところ男性が中指を立てて「払わニアのか?ケチな野郎だ」みたいなそぶりも見せていたようにも。

あとで確認すると、公共トイレではやはりチップを払うのが習慣のようです。

ただ、指を立てられた不愉快さもあってのことですが、チップをもらうために(特に何をするでもなく)二人も三人も待ち構えているというのは、労働の効率性からみて非常に問題があるようにも思えます。「そんな時間がるなら、他の仕事をしろよ!」

もちろん、彼らにそれを言っても仕方ありません。彼らは、できる範囲でやっているだけでしょうから。
国全体のシステムの問題です。

トイレのチップはせいぜい10円、20円ですむ話ですが、ドライバーやガイドへのチップとなると金額が問題になります。

ネットで日系の現地旅行社のアドバイスなど見ると、10ドル前後の金額が示されています。
ドライバーがいて、ガイドがいて、現地係員がいて・・・1週間ほどの旅行でもチップ代だけで1万円ほどになるような金額です。日本的感覚では“謝礼”の範囲を超えています。

昨夜のホテル(駅前の安宿)代は7ドルぐらい、夕食は2~3ドル(安いときは0.5ドルですませ日も)・・・そんな旅行をしている者が10ドル、20ドルのチップを払うというのもおかしな話です。

グループ旅行なら一人当たりの金額は少なくなりますが、一人旅ですので、全額を負担する形になります。

安全・安心、快適さを求める日系旅行社はすべてが相場の倍ほどの高価格設定ですが、チップも少し高いような気もします。(現地事情はまったくわかりませんが)

カイロからアスワンへの飛行機は、乗客の半分ぐらいが中国系でした。中国人が目立つのはエジプトだけではありません。街を歩いていても、チャイナとか、ニーハオとか声をかけられます。

そんな中国人は、チップについて独自の解決法を見つけたようです。

****中国人のエジプト旅行、チップは「軟こう」で****
タイガーバームの赤い缶、数十個を持参する旅行者も
カルナック遺跡の神殿を訪れた中国人旅行者のイエ・サンシさん(25)は石造りの礼拝堂、塔、支柱の間で道に迷った。エジプト人の案内係が道を教えてくれたので、イエさんは感謝の気持ちを示すため、大きめの硬貨ほどのサイズの赤い丸い缶を案内係に手渡した。
 
中には清涼感のあるメントール入りの軟こうが入っている。これがエジプトを旅行する中国人にとっての「通貨」だ。イエさんは6日間の旅行でチップとして手渡すのに50個を用意してきた。

イエさんは「エジプトに来る前、旅をスムーズにする贈り物として清涼感のある軟こうを持参するよう、旅行代理店に繰り返し言われた。(エジプト人は)中国人旅行者に非常に親切で、彼らはこの小さな贈り物を気に入っている」と話した。イエさんの家族はオンラインで漢方薬を販売している。
 
紅海沿岸のフルガダにあるセレニティー・ビーチで清掃員を務めるユネス・モハメドさん(34)は、「中国人旅行者はよくこれをくれるが、なぜだかは分からない」と話した。頭痛の時に軟こうをこめかみに塗ることはあるが、それ以外の使い道を彼は知らない。「毎日、両手いっぱいになるほどもらう。大半は友人と親戚に配る」

首都カイロ近郊ギザのピラミッドから紅海に至るまで、エジプトを旅する中国人は現金のチップではなく軟こうを手渡す。欧米人の間で「タイガーバーム」ブランドとして知られる商品だ。ホテルのスタッフから小物行商人、税関職員、ライフル「AK-47」を担いだ警官など、旅先で出会った多くの人に配る。
 
エジプト人は時に、親指で額に何かを塗るしぐさをすることで軟こうを要求しているようだ。中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に投稿した中国人旅行者は「なぜエジプト人がひんやりする軟こうを好むのか本当に知りたい」と書いた。この旅行者は72個を用意していったという。
 
エジプト人の中には、外国人旅行者の大半は現金でチップをくれるのに、なぜ中国人が軟こうばかりをくれるのか分からず困惑している人もいる。
 
どのようにして軟こうが2つの古代文明の関係を円滑にするようになったのかは、ちょっとした謎だ。北京に拠点を置く旅行代理店のヘラ・ジさんによると、旅行会社がこうしたトレンドを生み出したわけではないが、トレンドを長続きさせる役割は果たしているという。
 
「当社は旅行客に軟こうを持参するよう促している」とジさんは話す。エジプト人は時々、なぜ(中国の)人々はいつもこれを持ってくるのかと私に尋ねてくる。他のものは持ってこられないのかと」
 
エジプトには中国人旅行者がなだれ込んでいる。5000年の歴史を持つとされる母国の文明よりも古い文明に対する畏敬の念が理由の一つだ。

エジプトでは欧州からの旅行者数の方が圧倒的に多いが、中国国営メディアによると同国からの旅行者数は2015年に13万5000人に達し、前の年からほぼ倍増した。習近平国家主席も1月にエジプトを訪問し、3400年前に建てられたルクソール神殿に立ち寄った。
 
イエさんが参加した6日間のツアーで案内係を務めたエジプト人、モフセン・ルイスさんによると、警官の間ではこんなジョークがある。検問所で中国人旅行者の数を数える時、警官はバスに乗っている人数ではなく「軟こうのパック」の数を数えているのだと。
 
この軟こうはメントール、虫よけに使われる樟脳(しょうのう)、ハッカ油などを原料としている。においが強い。頭痛や虫さされ、吐き気、足のまめなどの症状を和らげるとされる。
 
進取の気性に富む中国の薬売りが1世紀以上前に、恐らく古い治療法を押しのける形でこの軟こうを商業化し始めた。初期の軟こうは1870年代に現在のミャンマーに住んでいた華人の漢方医が開発し、現在はタイガーバームというブランド製品で売られるようになった。

大部分の中国人はこの軟こうを「清涼油」と呼んでいる。中国で最も人気のあるブランドを製造する上海中華薬業はこれを「エッセンシャルバーム(Essential Balm)」と翻訳し、硬貨のような形の赤い缶にこの英訳を付けてある。
 
中国語が話せるエジプト人ガイドのワリード・コリエンさんは、背中の炎症に大量の軟こうを塗り、メントール効果でもだえ苦しんだことがあると話した。ガイドの多くは、硬くなった関節に塗るために両親や祖父母に与。
 
コリエンさんのように豊富な経験を持つエジプト人ガイドらによると、この慣行は1980年代の中国外交使節団までさかのぼる。当時の中国は毛沢東時代の孤立の殻を抜け出したばかりで貧しかったが、中国文化の象徴がえているという贈り物として提供されたという。
 
東北師範大学のエジプト学者、李曉東氏の説によると、当時は中国人旅行者が自分で使うために軟こうを持参したが、やがてエジプト人がそれを気に入っていることが分かった。同氏は「エジプトは非常に暑いので、ひんやりする軟こうを気に入るのは理にかなっている」と説明した。
 
中国人旅行者の中には、現金よりも贈り物を手渡す方が良い気分になると感じる人もいる。「金銭を渡せば、物乞いにお金をあげているように感じる」とイエさんは語った。「エッセンシャルバームなら友人に渡すような感覚が強い」【2016 年 10 月 13 日 WSJ】
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自分たちの行動に疑いを持たないところが中国的とも思えます。
まあ、日本人も以前は海外旅行時はボールペンをたくさん持っていって配った・・・ということもありますので、似たようなものかも。


エジプト南端のアブシンベルは非常にネット環境が悪く、このブログ更新ができたのは忍耐と幸運の賜物です。

エジプト  閑散としたアブシンベル神殿 厳しい観光業の現状

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(アブシンベル神殿のラムセス2世像 エジプト新王国第19王朝のファラオ(在位:紀元前1290 - 紀元前1224年、または紀元前1279 - 紀元前1212年))

エジプト時間の午前9時半、スーダン国境も近いアブシンベルから、北に約280kmはなれたアスワンに向けて車で移動中です。

スーダン国境も近いということで、大量の商品を積んだスーダンに向かう大型トラックが散見されます。

アブシンベルの観光スポットはアブシンベル神殿だけです。

名前は聞いたことがない人も、岩肌に穿たれた巨大なラムセス2世の像が並ぶ光景は、どこかで一度はご覧になったことがあると思います。

かつてアスワンハイダムが建設される際に水没することになるため、ユネスコの国際キャンペーンによって、大規模な移動工事が行われ、現在もその雄姿をとどめることができています。

もちろん世界遺産ですが、“大安売り”状態の世界遺産にあっても、万里の長城とかアンコールワットやピラミッドなどと並ぶ、まさに“人類の遺産”とも言うべきものです。

そんな世界的観光スポットですから、さぞや賑わっているのだろうとも思ったのですが、人影もまばらといった状態でした。

神殿のすぐ近くのホテルに昨夜は宿泊したのですが、私の基準からすると非常にりっぱなホテル(他に適当なホテルが付近になかったため、そこに決めた次第ですが)の広い敷地内に客の姿が見えません。

今朝がた、かろうじて欧米人の4人組がいるのを目にした・・・そんなところです。多分、客よりホテルスタッフの方が多いのでは。

神殿に向かう道も閑散としており、入り口付近の土産物屋も半分ほどは閉店状態。

中に入って誰もおらず、貸し切り状態。神殿に着いて、ようやく数組他の観光客を発見した・・・そんな感じでした。

エジプト観光業がテロの危険性があるということで壊滅的打撃を受けていることは、これまでも何回か取り上げてきましたが、まさにそうした危機的状況を物語るアブシンベル神殿でした。

カイロ・ギザのピラミッドは、さすがにそこそこの観光客はおり、学校の生徒たちが集団で社会見学だか遠足だかに来ている光景もありました。

ただ、エジプトの基幹産業でもある観光を支えるピラミッドが“そこそこ”では困るでしょう。
観光客相手の多くのラクダや馬が暇を持て余しているようでしたし、付近でも閉じた店が散見されました。

アスワンでも、イシス神殿に渡る渡し船の大船団が停泊していましたが、稼働しているのは数隻のみ。

厳しい状態が続いていますし、今後に向けてもテロの動向次第ですが、なかなか・・・といったところです。

最近は、各国の観光スポットで、夜になると“音と光のショー”の類が催されています。

エジプトでも、ギザのピラミッドでも、アブシンベルでも、明日行くルクソールでも行われていますが、昨夜観たアブシンベル神殿でのショーはとても壮大なものでした。

単に神殿の巨像をライトアップするだけでなく、大神殿と小神殿が穿たれた二つの大きな岩肌をスクリーンにして巨大な映像が投影され、見ごたえがあります。

その点、ギザのピラミッドは、ほとんど単なるライトアップで終わっており、やや退屈な感も。(もっとも、ギザでは、会場に入らず、ホテルからのただ見でしたので、迫力がちがうということもあるでしょうが)

ギザのショーでは、途中にイスラムモスクからのアザーンが大音響で始まり、ショーの雰囲気を台無しにする場面も。

外国人観光客相手のショーに構わず流れるイスラムのアザーンというのも、イスラム諸国の現実を示す一端と考えると、それはそれで興味深いものではありますが。

アブシンベルのショーは素晴らしかったのですが、客は私を含めて7名。
申し訳ないような状況ですが、7人中日本人が3人ということで、ショーは日本語で行われました。もちろんイヤホーンでの他言語への翻訳サービスはあります。

今日は昼過ぎにアスワンに戻り、ファルーカと呼ばれる帆かけ船でのナイル川クルーズ、そのあと列車でルクソールへ移動の予定です。

ネット環境が悪く、新しいニュースなどが検索できないため、観光のひまネタで。

エジプト・ルクソール  過去の熱気球事故と古代遺跡でのテロ 最近の宗教間の緊張

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(我先に気球に乗り込む乗客 私を含め、だれも安全性のことなど考えていないようにも。もちろん、気球内で自撮り写真をとろうと数人が同じ場所に固まったりすると注意されたりはします。操縦士も自分の命がかかっていますから)

【熱気球に乗る前に書くリストは?】
26日からエジプトを旅行中で、昨日アスワンから列車で中部拠点都市ルクソールへやってきました。

エジプトもこの時期は比較的気温が下がる冬ですので、カイロなどは日中のピーク時以外は長袖の上着があったほうがいいぐらいの涼しさでした。

一方、スーダン国境が近い、と言うかサハラ砂漠の東端にあたるアブシンベルでは、歩いていると頭がクラクラするような暑さでしたが、乾燥しているので汗はそれほどは出ません。(出ない・・という訳ではありません)

アブシンベルから280kmほど北上したアスワンを出発する列車内に表示されていた外気温は“41.2℃”
もっとも、これが正しい観測値なのかどうかはわかりません。なにぶんエジプトですし、車内に冷房が入り駅を出てしばらく走ると37℃台に“下がり”ましたので。

列車がアスワンに向けて北上するにつれ、温度表示も更に下がり、ルクソールに着く頃には32℃台にまでなりました。ただ、これは夕方になったせいでもあり、ルクソールも暑いのには変わりありません。
平均気温で見ても、ルクソールはカイロより5~7℃高いようです。

今朝は4時前に起きて、早朝の熱気球を楽しんできました。
夜明け前後のまだ涼しい時間帯に上空から眺めるナイル川西岸の遺跡群、砂漠のなかに点在する家々など、素晴らしい景観です。

景観もさることながら、熱気球体験は初めてで、気球に乗ること自体、また、熱気球を飛ばすための一連の作業等が非常に興味深いものでした。

最近はあちこちの観光地で熱気球ツアーが行われていますが、これまで体験してこなかったのは、安全性云々ではなく、単に貧乏で高い費用にしり込みしたというだけの理由です。
でも、老い先も短くなって、そろそろ乗ってみようか・・・というところです。

ところで、このルクソールの熱気球は5年ほど前に、日本人観光客4人を含む19人が死亡する大事故を起こしています。

****ルクソール熱気球墜落事故*****
ルクソール熱気球墜落事故は、2013年2月26日(現地時間)にエジプトのルクソールで熱気球が墜落した事故。中略)熱気球事故として史上最多の死者数を出す事故となった。

事故はエジプト首都カイロから南東へ車で約9時間で到達する有名な観光地ルクソール上空で起きた。現地時間午前6時半ごろ、観光客20人と操縦士1人を乗せた熱気球が遊覧飛行を終えて、高度5m前後の着陸する段階で火災が発生した。

出火とともに気球内の空気が一気に暖められて急上昇を始めると、火だるまのエジプト人操縦士が最初に飛び降り(重傷)、高度10メートル付近でイギリス人2人が後に続いて飛び降りた(内1人死亡、1人重傷)。気球が煙を上げながら、さらに200メートルほど上昇する間にも8人が次々と飛び降りた。

その後、飛び降りることが出来なかった10人を乗せたまま、ゴンドラの重量が軽くなったことで急上昇した後、上空300m付近で気嚢が萎み、カンショ畑に墜落した。

乗員乗客合わせて21人のうちの19人(観光客日本人4人、香港人9人、イギリス人2人、フランス人2人、ハンガリー人1人、添乗員エジプト人1人を含む)が死亡し、2人(観光客イギリス人1人と操縦士エジプト人1人)が怪我をした。事故現場から数キロ離れたルクソールの市街地でも爆発音が聞こえたという。

調査
エジプト政府は独立の調査委員会を設置し、事故原因を調べることになった。マダウィ民間航空相は「再発防止策がとられない限り、気球の運航は再開しない」と述べた【ウィキペディア】
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事故当時と今朝と違う点は、私の乗ったバルーンの乗客21~22人のうち14~15人ほどが中国人で、5~6人がアラブ系(エジプト人でしょうか)、そして私・・・ということで、圧倒的に中国人が多かったことです。

それはともかく、「再発防止策がとられない限り、気球の運航は再開しない」とのことでしたが、一体どんな再発防止策がとられたのでしょうか?

バルーンに乗る前、ナイル川を渡る渡し船の中で、乗客全員があるリストの記入を求められました。
記入項目は“名前”ともうひとつ・・・・何だと思いますか?

国籍? 年齢? 滞在ホテル名?・・・違います。
事故時の連絡先?・・・・それは必要なように思えますが、違いました。
正解は“体重”です。

なるほど・・・・確かに、目の前に座っている肉付きがすこぶるいい中年女性と子供では気球への負荷がまったく異なります。

しかし、そうした各自の体重を計算したうえで、家族・グループが一緒に乗れるようにする振り分け(バルーンは8個ほどありました)は至難の業でしょう。コンピュータ入力して専用ソフトが必要です。

果たして、エジプトでそんな面倒なことをするのだろうか?と思ったのですが、案の定、出発現地についたら、体重なんて一切関係なくワラワラと適当に乗り込みます。(そのように見えました)
そもそも、気球ごとに運用会社が違うようにも。そしたら、振り分けなんて最初からありません。

では、あのリストは何のため?
万一事故が起きたときの“重量オーバーしていない”という弁明資料、あるいは調査資料でしょうか?
わかりません。とにかく楽しい体験でした。

【20年前のテロ現場、ハトシェプスト女王葬祭殿】
熱気球体験の後、いったんホテルに戻って朝食・休憩をとって、ナイル川西岸に点在する古代エジプト文明の遺跡観光へ。

王家の谷とかラムセス3世葬祭殿などがありますが、そのなかの一つがハトシェプスト女王葬祭殿です。
名前には覚えもない方も、日本人観光客10人が射殺された20年前のテロ事件があった場所と言えば思い出す方もいるかも。

****ルクソール事件*****
事件現場となった遺跡
ルクソール事件(ルクソールじけん)とは、エジプトの著名な観光地であるルクソールにおいて、1997年にイスラム原理主義過激派の「イスラム集団」が外国人観光客に対し行った無差別殺傷テロ事件。別名、エジプト外国人観光客襲撃事件。

この事件により日本人10名を含む外国人観光客61名とエジプト人警察官2名の合わせて63名が死亡、85名が負傷した。なお犯人と思われる現場から逃亡した6名は射殺された。

事件の背景
イスラム原理主義勢力は、1981年に当時のエジプトの指導者であったサーダート大統領をイスラエルと国交を結んだ裏切り者として暗殺し、さらに1992年ごろからはエジプト国内で政府の役人や外国人観光客らを標的にしたテロを続発させていた。

観光客を標的にしたのはエジプトの重要な歳入源である観光収入をテロによって激減させ、経済に打撃を与え、それに伴う政府への不満をあおって政府を転覆させ、イスラム原理主義政権を樹立させるという企みからであった。

事実、観光客は激減したため、エジプト政府は1995年から観光地の警備を強化し、武装原理主義者の大規模な取締りを行っていたが、1997年9月18日にはカイロのエジプト考古学博物館の前に止まっていた観光バスが襲撃され、ドイツ人観光客ら10名が死亡し、エジプト人15名が負傷するテロが起きた。

この事件の被疑者に対して10月30日に死刑が宣告されており、この裁判に報復する目的で、1993年の世界貿易センタービル爆破事件の首謀者オマル・アブドッラフマーンが組織したイスラム原理主義テロ集団イスラム集団が計画したのが、ルクソールにおけるテロであった。【ウィキペディア】
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当時から、エジプトの基幹産業である観光はイスラム過激派の恰好の標的となってきました。
今日も西岸地区に入る際、私の乗った車のドライバーと検問所の係員が、何やら書類のことでもめていました。何だったかは知りませんが。

ハトシェプスト女王葬祭殿の事件現場はだだっ広いテラスで、ここで狙われると身を隠す場所がありません。
そんなことなども考えながら、クラクラする暑さのなかで観光してきました。

【少数派キリスト教徒をめぐる緊張】
ところで、最近のエジプト関連のニュースはないかと調べると、規模は小さいながらも、大きな危険性を秘めた事件が、ここルクソールでつい最近あったようです。

*****宗派間の衝突(ルクソール)*****
エジプトでは、とくに南部等のコプトが多く、イスラム教も原理主義が盛んな南部では、宗派間の衝突が懸念されていましたが、ルクソールのalmuhaidat という村で、両宗派の村人の衝突が起きて、警察士官1名、警官10名と、村人7名の11名が負傷する事件が起きた模様です。

これを伝えるal arabiya net は、事件の発端はコプトの少女がイスラムに改宗し、家族から暴行を受けたといううわさが広がり、ムスリムの村人がその家の前に集まり、警官が制止しようとしたが、衝突に発展したとのことのようです。

少女の家族は彼女の改宗等を否定して入る由。
事件の後、内務省南エジプト担当の次官補と、ルクソール治安本部長と治安関係者、ルクソール選出議員、地元の長老たちが集まって、事態の収束と再発防止を誓い、事件の責任者の調査と外部からの働きかけがあったのか否か調査をすることになった由。

とりあえずのところは以上ですが、仮にイスラム過激派(例えば最近キリスト教徒攻撃を唱えているIS-シナイ州等)からの働きかけがあったとすれば、エジプトの今後の治安にも重大な問題かと思います

(おそらく小さな村での負傷者11名程度の事件に、これだけ多数の治安関係者や政治家が集まったのは、その辺を懸念してのことかと思われます)【3月26日 「中東の窓」】
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キリスト教徒(コプト教徒)を標的としたイスラム過激派のテロ等については、3月10日ブログ“エジプト ムバラク無罪確定に見る「アラブの春」終焉 トランプ政権との蜜月 キリスト教徒迫害”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170310でも触れたところです。

キリスト教徒(コプト教徒)対イスラム教徒の緊張に火が付くと、エジプトは悲惨な状況に陥ります。

“負傷者11名程度の事件”という見方自体が、テロに苦しむエジプトの現状を表していますが、もちろんルクソールの街を歩いても、一介の観光客にすぎない私は、そんな緊張感は全く感じません。観光客にうるさくつきまとう、普通の日常生活のように見えます。

ルクソールは観光業で成り立っているような都市でしょうから、最近の観光客減少の影響も大きく、うるさいつきまといも半端ないものがあり、ときに不快感を感じます。

明日は、ナイル川東岸地区の遺跡を観光して、深夜に飛行機でカイロに移動します。

エジプト  トラブル フライト変更 

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(誰もいないルクソール空港)

ルクソール観光を終えて、カイロへ移動するため早めに空港へやってきたのですが、フライトが変更になっているとのこと。

00:15の予定が05:40に変わったとのことで、エジプト航空の話では連絡をとったが、ノーアンサーだったとのこと。

もともと深夜便を空港で待つつもりで早く来たのですが、変更後のフライトまでは8時間もあります。
しかし、今更市内に戻っても行くところもありませんので、このまま空港で待機です。

空港側の計らいで、施設中には入れてもらえ、コーヒーショップの座り心地もいいソファが利用できますので、なんとか・・・といったところです。それにしても8時間は長いです。

“連絡をとったが、ノーアンサーだった”というのは、どういうことでしょうか?
ネットのやり取りを通して、他の依頼と併せて現地旅行会社にチケットの手配は頼んであったのですが、“連絡”はどこになされたのでしょうか?

もし、私のEメールアドレスが登録されていて、メールで連絡がなされたということであれば非常にアンラッキーでした。というのは、数日前からメール設定がおかしくなってしまい、送受信ができない状態になっています。
どうせ、大事な連絡はないだろう・・・と思っていたのですが。

手続きを行った現地旅行会社あて連絡したということなら、なぜその旅行会社から私への連絡がないのか?という話になりますが、今更そのあたりをとやかく言っても仕方ありません。

前倒しの変更で、「もう出てしまったよ」といった事態ではないだけまし・・・・と考えることにしましょう。

今回の件は別にして、アスワンからルクソールへ列車移動した際に、日本とエジプトの感じたことがあります。

日本では新幹線や特急など、車内に電光表示がある列車なら、「次はどこそこ」といった案内が流れますが、エジプトでは電光表示設備はあっても、日時や気温が表示されるだけで、到着駅の案内はありません。

日本の新幹線では、日本語だけでなく英語・中国語・韓国語での案内まで車内放送でありますが、エジプトの列車ではそうした案内は一切ありません。

日本の駅では、駅名が大きくホームに表示されていますが、エジプトの駅ではそうした表示もあまりないようです。(1カ所、表示がある駅がありましたが)

電光表示も、車内放送もなく、駅に着いても駅名も表示されていないということは、不案内な人間には、いったいどこに着いたのかわからないということです。

そろそろ目的地が近いと思ったら、周囲の者に確認するしかありません。(今回は、目的地のルクソールは大都市で、車内の殆どの乗客が降りる駅でしたので迷うようなこともありませんでしたが)

観光を基幹とするのであれば、もう少し外国人旅行者(特に、ガイドなしで旅行する個人旅行者)にも優しさ・配慮があっていいように思います。

そもそも、エジプトでは外国人が使える列車は制限されているとか、一部の観光地以外では外国人の移動自体が制限されているエリアもあるということもあって、観光業が基幹産業であるにもかかわらず、外国人に閉ざされた面もある国です。

イスラム過激派などによる治安状況の悪さが原因でしょう。
街中でもあちこちに自動小銃を持った治安要員が配置されており、観光スポットに入る車も、探知機で車底までチェックされます。

治安の悪さが観光客を減少させ、観光業の悪化が不景気を招き、経済状況の悪化が社会的緊張を高めるという悪循環がエジプトの悩みです。

まだ、フライトまで6時間半あります。
ひと眠りしましょう。ただ、蚊がいるので、ボコボコに刺されそうです。

03:40 ようやくチェックイン

ソファで横になっていたので、時間はそれほどもありませんでしたが、大敵は冷房の寒さでした。
それと、やはり蚊にもあちこちやられました。0">

エジプト  イスラム社会におけるベリーダンス スカーフなどイスラムファッション

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(写りが良くありませんが、アスワンのスークを歩く若い女性たち)

【帰国日 寝過ごして慌てる】
エジプト観光を終えて、日本への帰国の途上、アブダビで乗継便を待っています。
アブダビから成田は、ほんの10時間、ひとっ飛びです・・・・と言えればいいのですが、やはり長いフライトは疲れます。

アブダビをハブにするエティハド航空ですから、機材は最新設備で食事もとてもおいしいのが救いです。

それはそうと、今朝はちょっと慌てました。昨日の行動を含めて旅行中の予約・確認・車の手配などすっかり現地旅行会社に任せたこともあってか、気も緩み、翌朝が帰国日だというのに、昨夜は「まあ、10時ぐらいまでにホテルをチェックアウトすればいいから・・・・」と目覚ましもセットせずに寝てしまいました。

歳のせいもあって、普段は7時ぐらいには目を覚ますのですが、今朝は時計見ると9時を過ぎています。
「嘘だろう!」というか、てっきり100均で買った時計の具合がおかしくなったのだろうと、これまた100均で買った腕時計を確認するやはり9時を過ぎています。

一昨日はフライト変更を知らずにルクソール空港で一夜を過ごすことになって、体は非常に疲れていたのですが、せっかくエジプトに来たのだからと疲れを押して昨夜ディナークルーズに出かけ、戻ってきたのが11時過ぎ、それからPCをいじって・・・ちょっと夜更かししたのと、安宿なので窓もなく真っ暗なせいで寝過ごしてしまったようです。

焦りつつもシャワーだけは浴びて(今日は長旅になるので・・・)バタバタで荷造りして、チェックアウトへ。
なんだかんだで空港送迎もホテル手配の車に任せることになりました。

安心・安全・手軽さをカネで買う形にもなりますが、最後の空港送迎はその価値がありました。
航空券のeチケットではカイロ空港ターミナル1になっていたのですが、ドライバーの話ではエティハド航空はターミナル2に移ったはずだとのことで電話で確認、やはりターミナル2が正しいということでターミナル2に向かいます。

もし、自力で移動していれば最近はほんとど使われていないターミナル1(ターミナル2とは別の場所)に着いて、訳がわからずパニクったところです。

【イスラム的とは思えないセクシーなベリーダンス】
昨夜のエジプト最後のイベント、夜のナイル川のディナークルーズですが、船上でビュッフェ形式の食事を楽しみながら、カイロの夜景と、船内で催されるダンスを鑑賞するというもの。

ダンスのひとつは、いわゆるベリーダンス、もうひとつは男性がクルクル回るスーフィーの旋舞。



中東独特のベリーダンスについては、女性が肌や髪を露出することを禁じるイスラム的な風習に反するもので、「どうして、こうした女性が肌もあらわに人前で踊るダンスが認められているのだろうか?」という疑問は誰しも抱くところでしょう。

ネットでそのあたりを検索すると、いくつかの説明がありました。

****ベリーダンスはどうして許されるのか?*****
・・・・端的に言えば、「男性が見たいと思っているから許されている」なのですが、これではあんまりですので、色々と考えてみました。

イスラームの教えに従うなら、不特定多数の男性の前で肌を見せ、まして踊ってしまうなどということは許される行為ではありません。

イスラーム革命以前のイランにも女性ダンサーはいました。しかし彼女たちは革命後逮捕され、投獄されています。この投獄先が、売春婦や麻薬中毒患者を収容する施設だったことからも、彼女たちがイスラーム的見解から売春婦と同列に扱われていたことが想像できます。

まだイスラーム世界に奴隷制が存在していた頃、金持ちや王侯貴族の館で美しい奴隷娘たちが踊りを見せたり、楽器を演奏して宴会を盛り上げていたことが文献などの資料から分かります。つまり、非ムスリム、あるいはムスリムだったとしても自由な階級よりも一段下の階級に置かれた女性たちの仕事だったのです。

詩の中にも酒場に酌とりの妖艶な女性が登場して男性の心を悩ませていますが、これは文学的な想像力による女性なのか、実際にそういう女性がいたのかどうか確かめられません。
 
もしいたのだとしても、宗教的にまじめな家庭の女性が働いていたとは思えませんので、身分の低い女性だったのではないかと思います。

奴隷制が廃止された後も、宴会を盛り上げるためにこうした女性たちに対する需要があったことは想像に難くありません。そこで今度はお金をもらって踊る女性たちが登場します。

西欧化が進む社会の中で、彼女たちの活動の場は広がっていきました。バレエや民族舞踊や演劇が上演されるなら、自分たちが踊ったっていいじゃないの、需要があるんだから、ということで、彼女たちの活動の場も、家の中から外に広がっていったのです。

イランやサウジアラビアのような国は別として、世俗化した国ではイスラームを理由に彼女たちを取り締まることがありませんので、ベリーダンサーも職業の一つとして存在し得るのです。でもやはり、宗教的にまじめな人たちからの蔑視は受けるようです。(後略)【「イランという国で」 by sarasayajp】
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*****「ベリーダンスの露出はイスラム教的に大丈夫なのか?」などの疑問****
コプト教徒がダンサー説
エジプトのベリーダンサーの多くはコプト教徒だとい説があるようです。ネットで見つけた説なので、どの程度信憑性があるかは分かりませんが。

コプト教というのは、エジプトに古くからあるキリスト教の一派です。時代的には、イスラムができる前から存在しています。

コプト教徒にはイスラムの教えは関係ありませんから、彼らがベリーダンサーになるのは問題が無いはずです。それが、上の説の根拠です。

ちなみに、エジプトのコプト教徒は800万人ともいわれています。小さな国くらいの人口はいるわけです。それだけの人口がいれば、その中からかなりの数のダンサーが生まれても不思議ではありません。
個人的には、説得力がある説だと感じました。

補足:
この説はあまり信憑性が無いようですね。エジプトに留学経験もある日本人のべリーダンサーに聞いたのですが、必ずしもコプトではないという話でした。

彼女の話だと、イスラム教の信仰心には個人差があり、それほど抵抗が無い人も多いということです。そういう信仰心が厚くない人がべリーダンサーには多いということみたいですね。彼女の知り合いのエジプト人のダンサーは、ムスリムであるにもかかわらず、ラマダンはしないという事でした。
ムスリムの信仰心には、人によってかなりの差があるようです

ダンサーの地位は低い?
ところで、予想通りといいますか何といいますか、エジプトでのベリーダンスのダンサーの地位は高くないようです。売春婦のちょっと上という程度なのでしょうか。

実際売春に手を出しているダンサーもいるようで、あたらずとも遠からずという部分もあるようです。まあ、集めたのがネットのうわさ程度の情報なので、信憑性は分かりませんが。

その一方で、世界的に活躍するべりーダンサーもいるようです。こういう人は、人に教えるときも、かなり高い指導料を取ったりしているようですね。【http://www.egypt-shirabetemita.com/357】
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まあ、いろんな事情はあるにしても、「男性が見たいと思っているから許されている」ということに尽きるようにも思われます。

ディナークルーズでの観客男性の盛り上がり様からも、そのあたりが窺われます。
男性だけでなく、女性も”男性の視線を釘付けにする大胆なダンス”にまんざらでもなさそうでした。

戒律の厳しいサウジアラビアからの観光客もいましたが、男性はもちろん、全身黒ずくめの女性たちも結構楽しそうでした。

宗教的な戒律を強制するだけでは社会は回らない、世俗的なもの、欲望を肯定するものがやはり必要ということでしょう。

そのあたりが原理主義者には理解されませんので、社会に軋轢・緊張をもたらします。
ベリーダンスに興じる者など、歌舞音曲を禁じたタリバンが目にしたら全員射殺でしょう。ただ、そのタリバンが撤退したあとには、没収した猥褻なビデオ等を楽しんでいた形跡が・・・というのも現実です。

【スカーフやカラスファッション、二カブ】
ベリーダンスほど極端ではないにしても、宗教的戒律との関係で常に問題となる女性ファッションがスカーフや顔を覆うベールの問題。

これまでも幾度となく取り上げてきた話題でることや、旅行移動中の制約・疲れもありますので、最近目にした話題と、エジプトでの女性ファッションに関する印象だけ。

イスラム女性の目以外を覆う二カブ等のファッションはフランスなど欧州でよく問題となり公共の場でのニガブを禁じる法律が制定されている国もいくつかあります。

一方、トルコでは、これまで公共の場で禁じられていたスカーフ着用が、イスラム主義を進めるエルドアン大統領のもとで解禁される状況となっています。

イスラムファッションに神経質となっているのは、こうした国だけでなく、イスラム教徒ウイグル族との軋轢が絶えない中国も同様です。

****中国政府、新疆で顎ひげやベール禁止に 4月1日から*****
中国の新疆ウイグル自治区で4月1日から、宗教的な過激主義に対する取り締まり強化を目的に、「普通ではない」顎ひげや公共の場でのベール着用、国営テレビの視聴拒否などを禁止する新たな法律が施行される。

従来の規則を拡大した法案が、新疆の議会で29日に採択され、同地域の公式ホームページに公表された。

新法では、駅や空港など公共の場所で働く労働者は、顔のベールを含め体を覆った人の立ち入りを「阻止」し、その人物について警察に報告することが求められる。

また、「テレビやラジオ、その他の公共のサービスの拒否」や宗教的な手続きに従った結婚、子供たちを普通の学校に通わせないことなども禁止される見通し。【3月30日 ロイター】
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「普通ではない」顎ひげ・・・・・日本なら“普通ではない”とはどういうことか?という議論になりますが、中国ですから当局の判断次第です。

現在、10時間フライトを何とか終えて、成田から羽田へバス移動中です。
まだこれから、ANAで鹿児島へ移動し、鹿児島空港から自宅へ・・・・ということで、帰宅は7時間後ぐらいでしょうか。

それで、イスラムファッションの話ですが、エジプトの街で見かける女性はほぼ皆スカーフを着用しています。コプト教徒も1割程度いるはずですが・・・

中年以上女性は、頭からつま先まで黒ずくめのカラスファッションが多いようです。
一方、若い女性はカラスファッションはほとんどみられず、ジーンズなどの細身のパンツにシャツ・チュニックを合わせるようなファッションです。

顔を覆って目だけをだすニガブは、いないことはありませんが、かなり少数です。サウジアラビアからの旅行者には多いようですが。

足元は、若い女性でもスニーカーや部屋履きに毛の生えたような靴が多く、ヒールがあるような靴はほとんどみません。カラスファッションになってしまうと足元まで覆いますので、何をはいていてもあまりかまわないということもあるのか、あまり足元には気を使わないようにも見えます。

もっとも、“カラスファッション”とは言っても、いろんなデザインのものがあるよで、街中のショーウィンドーには、いろんな装飾もされた“カラス”が並んでいます。

また、カラスの下は意外と派手なこともあるようで、びっくりするぐらい派手でセクシーな下着類があけっぴろげに売られています。

スカーフについては、イスラム国を観光するときにいつも思うのですが、宗教的なものというよりは、“女性”を象徴するファッションアイテムとしてごく普通に着用されているようにも見えます。

ひと昔前の“女性だったらスカートをはくのが当たり前”というのと似たような感覚でしょうか。
従って、女性らしさをアピールする性的な側面ももったファッションアイテムにもなるのでしょう。

当然に、スカーフの色、デザイン、被り方などは様々で、そのファッションを楽しんでいるようにも。

“女性権利の制約”の象徴といった欧米的とらえ方をしている現地女性は多くないようにも思えます。
もちろん、女性らに訊いた訳でもありませんので、勝手な想像です。

いずれにしても、“スカーフを着用しないといけない”といった原理主義的発想も、“スカーフはイスラムの象徴で公共の場にはふさわしくない”といった発想も、両方ともウザイ感があります。

被りたければ被るし、被りたくなければ被らない・・・そういったファッションのひとつであるべきでしょう。

ただし、顔を隠してしまう二カブ・ブルカについては、市民社会の根底をなす市民相互のコミュニケーションを阻害するようにも思え、公共の場での着用には否定的に感じています。

ところで、現地でお世話になったカイロのホテル兼旅行手配会社のフロントには、片言の日本語を話すとてもきれいな女性がいました。

スカーフは被っていないかったので、コプト教徒の方なのか尋ねたところムスリムだそうで、必ずしもイスラム女性全員がスカーフを着用している訳でもなく、各人の考え方や好みなどもあるようです。

温暖化対策に背を向けるトランプ大統領 代わって中国が主導権 世界的潮流を重視する経済界は反対

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(【3月30日WEB RONZA】再生可能エネルギーの急拡大、それに伴うコスト低下は、環境問題抜きにしても、再生可能エネルギーに向かう流れを生み出しています。)

【地球温暖化の研究は税金の無駄?】
かねてより想定されていたように、アメリカ・トランプ大統領が温暖化規制の見直しに着手しています。

****オバマ温暖化規制を見直し、トランプ氏が大統領令に署名 「パリ協定」実現遠のく****
トランプ米大統領は28日、オバマ前政権時代に導入された地球温暖化対策に向けた規制を見直す大統領令に署名した。

米国の温暖化対策の後退は必至で、パリ協定で目標とした二酸化炭素(CO2)排出量の削減も困難になる見通し。トランプ氏は署名に際し「米国の雇用を奪う規制をやめる歴史的な一歩だ」と訴えた。
 
見直しを指示した規制の中には火力発電所のCO2排出を抑える「クリーン・パワー・プラン」も含まれる。地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」で米国が示したCO2などの温室効果ガス削減目標を達成する中核的な政策で、大幅に見直せば実現が遠のくことになる。
 
CO2排出量が中国に次ぐ世界2位で、これまで世界の温暖化対策をリードしてきた米国の方針転換は、協定に参加する他国の意欲をそぐなど悪影響を及ぼすことが懸念される。

ただし今回の大統領令はパリ協定の取り扱いに触れていない。政権内では協定からの離脱をめぐって主要メンバーの意見が割れているとされる。
 
大幅な見直しは環境団体による訴追に発展する可能性が高く、施策に反映させるまで曲折もあり得る。パリ協定で米国は国内の温室効果ガス排出量を2025年までに05年比で26~28%削減する目標を提出。クリーン・パワー・プランは火力発電所からのCO2排出量を30年までに05年比で32%削減するとしていた。
 
大統領令はこのほか、オバマ前政権が温暖化対策で凍結した国有地での石炭採掘の新規認可も認めた。国内で石油や天然ガスの探鉱や開発も促進するよう指示した。また、前政権下で推進された、炭素を排出することによって生じる社会的な費用・影響の計算もやめる。【3月30日 SankeiBiz】
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トランプ政権の温暖化対策への否定的な見解は、大統領令に先立って、すでに明らかにされていました。
米環境保護局を繰り返し提訴してきたプルイット氏を米環境保護局長官に据えるというのは、その最たるものです。

****米環境長官、温暖化とCO2の関連を疑問視 科学者ら猛反発****
米環境保護局(EPA)の新長官に就任したスコット・プルイット氏は9日、二酸化炭素(CO2)は地球温暖化の主な原因ではないとの見方を示した。気候変動をめぐる科学界の合意と真っ向から対立する見解だ。
 
化石燃料擁護派として知られるプルイット氏は、オクラホマ州司法長官時代に繰り返しEPAを提訴しており、EPAトップへの起用は大きな論争を巻き起こしていた。
 
プルイット氏は米経済専門局CNBCに対し、「人間の活動が気候に与える影響を正確に測定するのは非常に困難であり、影響の規模に関しては意見が大きく分かれる。私は、それ(CO2)がわれわれの目にする地球温暖化の主な原因だとする考えに賛同しない」「議論を継続し、見直しと分析を繰り返していく必要がある」と述べた。
 
この発言を受け、科学界は即座に猛反発。一部の科学者からは、プルイット氏の辞任を求める声も上がっている。米国立大気研究センター(NCAR)のケビン・トレンバース氏は「CO2の増加が地球温暖化の主な要因であることは疑いがない」とし、プルイット氏にはEPA長官を務める資質がないと批判した。【3月10日 AFP】
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温暖化に関する研究は“税金の無駄”とも。

****温暖化研究「税金の無駄」・・・・米政権が方針強調****
米国のマルバニー行政管理予算局長は16日の記者会見で「(地球温暖化の研究に)もうお金は使わない。税金の無駄だ」と述べた。
トランプ米政権が温暖化対策を後退させる方針を改めて強調した。(後略)【3月17日 読売】
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【CO2濃度が主因かどうかについては異論もあるものの・・・】
温暖化が進行しているのはほぼ事実でしょう。

****地球温暖化、これまでの予測を13%上回るペースで進行―米メディア****
世界的な温暖化に、新たな証拠が加わった。 米オープンアクセスジャーナル「Science Advances」が掲載した、中国と米国の科学者が行った共同研究の成果によると、世界的な温暖化のペースはこれまでの予測を13%上回るという。科技日報が伝えた。

論文の筆頭著者、中国科学院大気物理研究所副研究員の成里京氏は、記者の取材に応じた際に「温室効果ガスの排出により、地球には多くの熱が留められることになり、その温暖化を直接促す作用を及ぼしている。これらのエネルギーの9割以上が海の中に留められている。そのため海洋の熱含量の変化は、気候変動の重要な指標だ」と指摘した。(後略)【3月17日 Record China】
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大気中のCO2も確実に上昇しています。

****大気中のCO2濃度、16年に史上最高 今年も上昇中 米海洋大気局****
米海洋大気局(NOAA)は10日、大気中の二酸化炭素(CO2)の濃度が2016年に観測史上最高を記録し、今年1~2月にも上昇を続けているとの報告書を発表した。(後略)【3月11日 AFP】
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問題は、進行する温暖化がCO2などの温室効果ガスの増加によってもたらされているかどうかの判断です。
この点に関しては、必ずしも自明ではないとの指摘もあるようです。

****米政権交代で弾み? 「温暖化CO2主因説」の再検証****
二酸化炭素(CO2)による地球温暖化を否定するトランプ米大統領が、火力発電所に対するCO2排出規制の撤廃に踏み出した。去年の大統領選以降、米科学界はトランプ氏の姿勢について「科学の軽視は許されない」と猛反発しているが、人為的なCO2の排出を気候変動の主因とする温暖化論はいまだ仮説の域を出ていない。CO2以外の気候変動のさまざまな要因を検証する研究が進められており、異論も出ている。

■大きな自然変動要因
3月18日、都内で開かれた北極域の研究報告会で、国立極地研究所国際北極環境研究センター長の榎本浩之教授(雪氷学)は、北極研究を富士登山に例えると何合目に達したかと司会者に問われ、「少し登ったつもりでもまだ麓をうろついているだけ。何かが分かったと思うのは間違いだ」と、科学的な知見がまだ乏しいことを素直に認めた。
 
その端的な例として榎本教授が示したのは、最近、英科学誌に掲載された米カリフォルニア大学の論文だ。最近の北極海氷の減少の半分近くは自然変動がもたらしているという内容で、定量的な分析は初めてという。北極域は地球温暖化の影響が最も現れていると見なされてきたが、自然変動要因がこれほど大きいとなると、温暖化の解釈は容易ではなくなる。

20世紀末から観測された地上気温の停滞(ハイエイタス)は、CO2濃度が高くなると気温が上がるとする単純な温暖化シミュレーションが通用しないことを物語った。大気と海洋の相互作用を加味すると、気温の再現性が改善されることが分かった。この場合、人間の手が直接及ばない海洋の影響がやはり半分ほどになるという。
 
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、人為的な温暖化ガス排出のリスクを評価し、実質的にはパリ協定を通じて各国に対策を促している。しかし、温暖化ガス以外の気候変動要因を深く検証することはせず、むしろ軽んじてきたのが実情だ。この結果、シミュレーションでは再現できないハイエイタスのような現象に向き合いにくい。

■太陽や宇宙線の影響も
気候変動要因として、ずっと以前から取り沙汰されているのが太陽の影響だ。名古屋大学の草野完也教授(天体物理学)は「太陽からの総放射量の変動幅は0.1%ほどだが、紫外線は数%から10%。成層圏から対流圏への波及が考えられる」と話す。活発な時期に大量に放出される太陽風は大気上層の空気をイオン化し、大気の化学組成を変えるという。
 
草野教授は「こうした要因はこれまでのシミュレーションにほとんど入っていない」と指摘したうえで「複雑な科学を十分に吟味した上で政策に反映してもらいたい」と注文をつける。同氏は約1000年前に現代ほど暖かだった中世温暖期も太陽の影響が大きかったとにらんでおり、実証を目指している。
 
はるか宇宙のかなたから飛来する放射線の働きも分かってきた。立命館大学の北場育子准教授(古気候学)らは、地球の磁場が弱まると宇宙放射線が雲のもととなり、太陽光を跳ね返して気温を下げる効果があることを、数十万年前の大阪湾の堆積物から解明した。現在、地球磁場はゆるやかながら減少しており、雲と宇宙放射線の関係はさらに注目されそうだ。【4月3日 日経】
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素人がとやかく言える話ではありませんが、上記のような異論がある一方で、多くの専門家・科学者がCO2濃度の温暖化への作用を肯定しているのも事実であり、もしCO2濃度が主因であるとしたら、対応への時間低余裕が残されていない現状にあっては、政策決定者は異論より主流派見解に基づいて行動をするのが合理的でしょう。

自分にとって“好ましい”異論に固執するのは合理的判断とは言えません。
少なくとも、主流派見解に逆らってCO2濃度が主因でないと考えるのであれば、それこそ税金を大量に投入してそのあたりの検証に努めるべきであり、温暖化研究を「税金の無駄」とするような発想は、科学的根拠を全く欠いた独断・偏見にすぎません。

【石炭産業の雇用を救済するため人類的課題を放棄? 主導権を狙う中国】
その結果、アメリカが被害をこうむるというのであれば自業自得ですが、世界第2位のCO2排出国であるアメリカの対応によって全世界が影響を受けることいにもなり、迷惑千万な話です。

ましてや、言われているように“石炭産業の雇用を救済するため”になされた大統領令・・・という話であれば、無責任としか言いようがありません。

****<温室効果ガス>米の削減目標達成「無理」 NGO分析****
トランプ米大統領が出した大統領令によってオバマ前政権の地球温暖化対策がまったく実行されない場合、米国が掲げる温室効果ガスの削減目標を「達成できないことはほぼ確実」とする分析結果を、科学者らで作る国際NGO「クライメート・アクション・トラッカー(CAT)」が発表した。

米国は温室効果ガスを2025年までに05年比26〜28%削減する目標を掲げているが、「6%の削減にとどまる」と指摘している。
 
オバマ前政権は、火力発電所からの二酸化炭素(CO2)排出量を制限するよう義務づけ、CO2排出量の多い石炭火力の新設を事実上不可能にした「クリーンパワー計画」を掲げた。トランプ氏の大統領令は、同計画に基づく一連の政策を「停止か、修正か、取り消す」よう環境保護局に命じ、石炭などの採掘規制も緩和する。
 
CATの分析では、同計画を完全に実施すれば25年に05年比で9%削減できるとした。オバマ前政権が決めた「気候行動計画」で車両の燃費改善などが進めばさらに約17%を削減でき、目標の達成が可能とした。しかし、トランプ大統領はどちらの計画も実行しない方針で「今後の排出削減は見込めない」とした。
 
米国は世界第2位の排出国で、温暖化対策の国際枠組みのパリ協定が骨抜きになることが懸念される。
 
ただし、CATは「クリーンパワー計画の廃止には多大な手続きと時間がかかる上、太陽光や風力発電などの低コスト化で、市場は再生可能エネルギーにシフトし始めている。大統領令で大幅に化石燃料の使用が増えるかは不透明だ」とも指摘している。【4月4日 毎日】
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アメリカが温暖化対策から撤退することは、人類的課題への対応・責務を放棄し、中国がこの分野での主導権を握るという話にもなります。

****温暖化対策の主導権が中国へ?トランプ大統領令で****
CO2削減で大きく後退する米国、大気汚染対策に熱心な中国
トランプ米大統領は3月28日、オバマ政権時代の気候変動対策を大幅に見直す大統領令に署名した。この問題で世界をけん引してきた米国は表舞台から立ち去ろうとしている。代わりに、今後は中国が温暖化対策で主導権を握ることになりそうだ。(中略)

「今回の大統領令は、石炭産業の雇用を救済するためだと言われています。簡単に言えば、そういうことです」。石炭火力発電を支持する企業で組織された電力信頼性調整委員会(ERCC)のスコット・シーガル氏はいう。(中略)

一方、中国のリーダーたちは石炭による発電を減らす方向へ動いており、炭素排出量を削減するには世界的に足並みをそろえる必要があるとの姿勢を改めて強調した。(中略)

ビジネスチャンスを逃す米国
気候変動に関する政策がどうであれ、再生可能エネルギーは、価格が急上昇することもある化石燃料への緩衝材となり、また回復力のある電力網を構築し、大気もきれいにとして注目が集まっている。ブルームバーグ・ニュー・エネルギー・ファイナンスによると、2040年までに世界で8兆ドル近くが再生可能エネルギーに投資される見通しだ。
 
米国も、その市場シェア獲得に奔走している。(中略)ここでもおこぼれにあずかるのは、世界有数の風力発電と太陽光発電の製造工場を有する中国だろう。コーテンホースト氏は警告する。「再生可能エネルギーへの移行から米国が手を引くなら、空から降ってきた市場機会を、中国がこれ幸いとさらっていくでしょう」【3月31日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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中国が温暖化対策に積極的になりだした理由、中国の対応の問題点などは今回はパスします。
温暖化対策でも、自由貿易でも、中国が主導権という奇妙な話です。

【エクソンモービルも石炭大手もパリ協定離脱に反対】
問題は、温暖化対策に後ろ向きな対応をとることは、上記記事最後に指摘されているように、経済的にもビジネスチャンスを失い、技術革新のきっかけを失いという高い代償を支払うことにもなるという点です。

このため、アメリカ国内にあっても、経済界はむしろトランプ政権の「環境より経済」という対応に反対しているとのことです。

****トランプの「反・温暖化対策」に反対する意外な面々****
・・・・しかし今回、意外なところから反発の声が上がっている。米経済界だ。

「温暖化はパリ協定のような多国間合意により世界規模で取り組むべき問題だと考えている」と、米経済界を代表する1人であるGEのジェフリー・イメルトCEOは29日、社内向けのブログに書いた(ブログ投稿を入手したポリティコが報じた)。「アメリカがこれからも建設的な役割を果たすことを願っており、GEはテクノロジーと行動を通じてこの取り組みをリードしていく」

イメルトによれば、地球温暖化は「広く認められた」科学であり、この問題に対処する環境技術は、環境保護だけでなく企業利益の点からも理にかなっている。

GEだけではない。米大手食品会社のマース、オフィス用品の全米チェーンであるステープルズ、衣料品の世界大手GAPなどが、英ガーディアンの取材に大統領令への反対を表明している。「トランプ政権がクリーン・パワー・プランのような規制を後退させる決断をしたことに失望している」と、マースの広報幹部エドワード・フーバーは言う。

ティラーソン国務長官の古巣エクソンモービルも

極めつけは、エクソンモービルだろう。テキサス州に本拠を置くアメリカ最大のエネルギー企業である同社も、反対意見を表明しているのだ。

トランプ政権からパリ協定に対する見解を求められたエクソンモービルは、3月22日、ホワイトハウスに書簡を送り、パリ協定は「気候変動のリスクに対処する効果的な枠組み」であり、アメリカは脱退すべきでないと伝えていた。かつて石油メジャーと呼ばれ、温暖化についても世論誘導などで批判を受けたこともある同社が、である。(中略)

確かに、アメリカでは今も地球温暖化に懐疑的な意見が根強いが、「環境より経済」を掲げる大統領の「反・地球温暖化対策」に対して、経済界から批判が相次いでいるのは皮肉という他ない。【3月30日 Newsweek】
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実際、温暖化対策で主導権を狙う欧州市場などでは、温暖化対策をとっていない企業は入札にも参加できない状況にもなっています。【3月30日 「温暖化対策、このままでは日本企業は世界の孤児に」 WEB RONZAより】

そうした世界市場からの圧力に加え、再生可能エネルギーの急速な普及により発電価格が劇的に下がっているという事実もあり、温暖化対策や再生可能エネルギー対応への努力を怠ることは世界の潮流に乗り遅れることにもなります。

そうした事情もあってか、トランプ政権の化石燃料重視政策の恩恵を一番受けると思われる石炭産業大手も、パリ協定離脱を思いとどまるように求めています。

*****パリ協定にとどまるべき、米石炭大手がトランプ政権に訴え****
地球温暖化対策の新たな国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を検討している米トランプ政権に対し、米石炭生産大手は、各社の国際的な利益を守るために離脱を思いとどまるよう政府に働きかけている。

ある政府当局者によると、クラウド・ピーク・エナジー<CLD.N>やピーボディ・エナジー<BTU.N>などは、パリ協定にとどまれば、米国は多様なエネルギー源を組み合わせて電源構成を最適化する将来の「エネルギーミックス」構想において、石炭の活用を推進することができると政府に主張している。

政府当局者は「未来は海外市場にある。石炭生産会社として米国のパリ協定離脱は最も避けたいことだ。離脱すれば、気候変動に関する国際議論の場で米国は発言する場を失い、欧州勢がこの問題で主導権を握ることになる」と語った。(後略)【4月5日 ロイター】
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なお、“トランプ大統領は昨年の選挙戦でパリ協定離脱を主張していたが、就任後はこの問題にさほど触れず、態度をやや軟化させたとみられる。”【同上】とも。

【地球を人工的に冷やす】
なお、以下のような興味深い話も。

****“地球を人工的に冷やすことは可能か!?世界初の屋外実験がスタート****
<“火山の冬”を人為的につくりだし、地球温暖化を緩和しようという気候工学(ジオエンジニアリング)が注目を集めているが、屋外実験がはじめて行われる>

“火山の冬”とは、大規模な火山噴火によって二酸化硫黄ガスが成層圏に達し、これと水とが反応してできた雲が太陽光を遮ることで、地表と下層大気の温度が低下する現象のこと。”(後略)【4月5日 Newsweek】
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ロシア  盤石を誇ってきたプーチン大統領を悩ます憂鬱

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(メドベージェフ首相と関連があるとされる邸宅の一つにアヒル専用の家がついていたことから、抗議デモの参加者らは26日のデモで、ゴム製の黄色いアヒルを持参した。【3月31日 ハフィントンポスト】)

【プーチン大統領から距離を置き始めたトランプ大統領】
3月20日、アメリカ連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー長官が下院情報特別委員会で「トランプ氏の選挙陣営とロシア政府の関係について、昨年7月から捜査している」と証言、改めてこの問題の重要性・今後への政権への影響が注目されています。

こうした状況にあっては、選挙期間中以来“親プーチン”姿勢を隠そうとしなかったトランプ大統領もさすがに軌道修正を余儀なくされています。

追い打ちをかけるように、シリア・アサド政権による化学兵器使用疑惑が表面化したことで、アサド政権を支えるロシア・プーチン大統領への厳しい姿勢がアメリカ国内でも求められています。

****「トランプ大統領はロシアを問題視」米国連大使****
米国のニッキー・ヘイリー国連大使は5日、ニューヨークで行われた会合で講演し、ドナルド・トランプ大統領がロシアを「問題視」していると言明した。
 
ヘイリー大使は世界女性サミットで、「(ロシアが)クリミアやウクライナに対して行ってきたこと…そしていかに(シリアのバッシャール)アサド政権を擁護してきたか。こうしたことをわれわれは見過ごすことはしない」と発言した。
 
その上で、トランプ氏と話をしたところ「大統領はロシアを非常に問題視している」と述べた。
 
ロシアへの対応については、昨年の大統領選でトランプ陣営とロシア政府が共謀関係にあったとの疑惑について米当局や議会が調査を進めるなか、トランプ氏がロシアに対して厳しい姿勢を示さないことに野党などから批判の声が上がっている。
 
一方、シリア北西部イドリブ県で発生した化学兵器によるとみられる攻撃への対応をめぐっては、米国とロシアは対立が表面化しつつあり、レックス・ティラーソン米国務長官は5日、ロシアに対しアサド政権への支援を見直すよう警告した。【4月6日 AFP】
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一方のロシア・プーチン大統領からすれば、トランプ大統領に期待するものが大きかったと思われますので、上記のようなトランプ政権の変身傾向におそらくかなり失望しているのではないでしょうか。

****トランプ豹変でプーチンは鬱に、米ロを結ぶ「スネ夫」日本の存在感****
<トランプ政権の軍拡と中国の無神経で米中ロの3国支配は幻に。焦るロシアは「トランプの盟友」に擦り寄るか>

ロシア人は自分と外界を見る目が大げさで、思い上がりと落ち込みの間を行き来する。

ソ連崩壊後は自信を失っていたが、00年代に原油価格の法外な高騰でGDPが5倍以上になる高度成長を果たすと再び大国気取り。世界は多極化したとか、ルーブルを国際通貨として使えとか言い出し、08年8月にはジョージア(グルジア)に攻め込んだ。

そのわずか翌月、リーマン・ショックと原油価格の急落で再び鬱となる。だが14年のウクライナ危機以降、ロシアはオバマ前米大統領の拙劣な外交で再び得意の絶頂へと駆け上がった。

オバマは国外での軍事介入を過度に避け、民主化運動後に情勢が荒れた国にも実力介入をしなかった。それをいいことに、ロシアのプーチン大統領はクリミアやシリアで小規模の軍事介入によって大きな政治得点を挙げ、見えを切ることができた。

ロシアは今ではアフガニスタン、モルドバ、カフカス諸国などでも外交攻勢を強める。折しも「親ロ的」なトランプが米大統領となったので、ついには米中と肩を並べて3国で世界を仕切ると公言し始めた。中小国はなきがごとく、力で世界を仕切るという19世紀の帝国主義的思考のままだ。

だが今度も躁の後に鬱がやって来た。トランプが親ロ政策を封じられたからだ。NATOはオバマ時代の合意に沿って、1月にはバルト諸国とポーランドへ約4000人の増派を開始。

先月には親ロ派の代表格、フリン米国家安全保障担当大統領補佐官が過度の親ロ性を問題視されて辞任し、後任にマクマスター陸軍中将が指名された。彼はマティス米国防長官と同様、ことさら反ロ的ではないが、中ロ両国を主要な仮想敵とする米軍の正統派に属する。

オバマ時代末期から国防総省と軍は両国を軍事面で再び突き放して抑え込み、国際法に従わせようとする相殺戦略を標榜。来年度国防予算は約10%もの増額を図っている。プーチンとの関係に前向きだったトランプも、核兵器は近代化・増強して他国の追随を許さないと明言した。

ロシアは少々の軍事力行使でアメリカの鼻を明かせなくなったのである。核ミサイル迎撃システムを宇宙に配備すると唱えてソ連を慌てさせたレーガン元大統領や、プーチンは信用できると言いながらNATO拡大の手は緩めなかったブッシュ元大統領の系譜にトランプも連なろうとしているかに見える。

苦しいときは中国との準同盟関係に頼ろうとしても、中国もトランプ政権への対処で精いっぱい。昨年の財政赤字は2兆8300億元(約47兆円)で軍拡も思うに任せない。

「反米」は賞味期限切れ
さらに中国はICBM(大陸間弾道ミサイル)をロシアとの国境の黒竜江省に配備し始めたと報じられている。ロシアは「アメリカに向けられたもの」と無関心を装いつつも、先月中旬には中国との国境地方で、核弾頭搭載可能な短距離弾道ミサイル「イスカンデルM」の使用も含めた軍事演習を展開。明らかに中国への威嚇を行っており、同盟関係を結ぶどころではない。

ロシアは大統領選挙を1年後に控える。今のところプーチン以外に有望馬はいない。クリミア併合以来、反米機運をあおって90%近くもの驚異的支持率を稼いできたが、反米ももう賞味期限切れだ。

これまである時はチェチェンのテロ、ある時は共産党、ある時はアメリカを敵に仕立てて票を得てきたプーチンは、国民の生活向上という「正味の実績」で票を稼がないといけない状況に追い込まれている。

北方領土問題でいま譲るわけにはいかないが、東の隣人・日本にはもう少し愛想よくしよう──プーチンがこう考えても不思議でない。スネ夫かポチか対等の同盟国かは知らないが、トランプの信任を得ている安倍晋三首相は、米ロ間を仲介する姿勢を取ることができる。

大統領選が終わるまでは日ロ関係は大きく動かないだろうが、日ロ首脳会談での日本の立場はほんの少しよくなった。【3月14日号Newsweek日本語版 河東哲夫氏】
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【メドベージェフ首相を標的にした反汚職デモ 大統領は「ロシアの春」断固阻止の構え】
更にプーチン大統領にとっては、すぐに政権を揺るがす・・・というほどではないにせよ、面白くない事柄が続いています。

ひとつは、野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏に主導される反政府運動の高まりです。ネット動画に牽引される形で3月26日にモスクワなど各地で反政府デモがあり、盤石を誇るプーチン政権下にあっては、2000人以上が拘束される異常事態となっています。

これまで次から次に障害となりそうな政敵・野党指導者・ジャーナリストを暗殺といった手段も含めて葬り去ってきたプーチン大統領ですが(“暗殺”等の違法手段がプーチン大統領からの直接の指示によるものかどうかはわかりませんが)、今回アレクセイ・ナワリヌイ氏は、剣呑なプーチン大統領ではなく、“攻めやすい”メドベージェフ首相を標的にしています。

****ロシアの反政府デモが反プーチンを封印したわけ****
「首相の不正蓄財」という分かりやすい訴えで政府を攻撃する野党指導者に市民は呼応

首都モスクワとロシアの各地で、先月下旬に大規模な反政府・反汚職デモが繰り広げられた。ただし攻撃の的はプーチン大統領ではなく、メドベージェフ首相だった。
 
デモを組織したのは、反汚職ブロガーとして名高い野党指導者のアレクセイ・ナバルニー。無許可で実行し、彼のほか数百人の参加者が当局に拘束された。
 
ナバルニーの立ち上げた汚職撲滅基金(FBK)は、反プーチンの独立系調査機関として知られる存在。彼自身も11年に議会選挙での不正やプーチンの大統領復帰に反対するデモを組織して、カリスマ的な論客として名を上げた。ただし党首として率いる進歩党は、ロシア連邦議会でI議席も確保していない。
 
今回のデモの目的は、メドベージェフによる不正蓄財を追及することだ。FBKの調査報告書によると、メドベージェフは怪しげなルートで私腹を肥やし、ヨットやブドウ園、豪華な邸宅などを手に入れている。関係者の運営する慈善団体が隠れみのに使われたという。
 
ナバルニーが調査結果を解説する動画は、TouTubeで1600万回以上も再生された。
与党・統一ロシアに次ぐ議会第2党の共産党も、この問題を独白に調査すると約束した。
 
しかし、なぜメドベージェフが標的なのか。秘密警察出身のプーチンと違って、治安機関に縁のない彼は「攻撃しやすい標的」なのだろうと、アメリカの元駐ウクライナ大使ジョン・ハーブストは推測する。

微妙な立場の後継者候補
大統領復帰以来、プーチンは80%を超える支持率を維持している。対するメドページェフは、欧米からの経済制裁と原油価格の下落による経済不振の責任を負う立場だから、支持率は振るわない。昨年12月の世論調査では『フーチンの次に信頼できる政治家』として、ショイグ国防相とラブロフ外相に抜かれて3位に落ちた。

「いくらプーチンがウクライナやシリアの軍事作戦で点数を稼いでも、内政担当のメドベージェフには関係ない」と、ハーブストは言う。
 
しかも、国民の反発を買いそうな発言を重ねてきた。昨年夏には、貧窮を訴えるクリミアの年金生活者に対して「こっちにもカネはない。そちらで頑張ってくれ」と答えて摯壁を買った。昇給を求める教員に「仕事を変えたら」と応じたときは、首相辞任を求める怒りの嘆願書に30万の署名が集まった。
 
英王立国際問題研究所のジェームズ・ニクシーに言わせると、「メドページェフの立場は弱い。プーチンはいつでも彼をスケープゴートにできる」。とはいえ、後継者候補という自覚はあるはずだ。プーチンの天下はまだ7年ほど続くだろうが、彼は13歳も若い。しかもプーチンの「代役」として大統領職を一期務めた実績もある。
 
いずれにせよ、今回の反汚職デモは来年の大統領選をにらんで、与野党が初めて対決する構図を描き出した。プーチンが大統領に復帰してからは低迷の続く野党勢力にあって、ナバルニーはいま最も旬な指導者だ。
 
首相の汚職追及をテコに、ナバルニーは反政府運動の機運を高めようとしているのではないか。逮捕された後もツイッターでデモ行進をやめるなと呼び掛け、汚職追放の声を上げ続けるよう促していた。
 
「いくら政権側か孤立させようとしても、既に彼は相当な数の支持者を集めている一と、ハーブストは言う。「今回のデモの成功は、支持者にとっても励みとなるはずだ」【4月11日号 Newsweek】
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メドベージェフ首相は4日、ナワリヌイ氏から「豪邸や豪華ヨットを持ち、腐敗している」と批判されていることについて「でたらめだ」と述べ、「この人物はロシア大統領になりたいという利己的な目的のため、違法なデモに若者らを動員している」と厳しく批判。
また ナワリヌイ氏の動画映像作成には「大きなカネがかかっている。彼の背後にはスポンサーがいる」と述べた。具体的なスポンサーには言及しなかったが、ロシアの内政混乱を狙う欧米諸国などが背後にあるとの考えとみられています。【4月5日 毎日より】

プーチン大統領も「ロシアの春」を断固阻止する構えです。

****プーチン大統領「ロシアの春」断固阻止…反政府デモに危機感、「アラブ」引き合いに抑圧正当化****
ロシアのプーチン大統領が3月26日に全国で発生した反政権デモを中東の民主化運動「アラブの春」にたとえ、弾圧を正当化する姿勢を鮮明にしている。

中東諸国でその後起きた混乱がロシアでも再現されかねないとの懸念をあおり、反政権活動への国民の関心をそぐ狙いだ。(中略)

メドベージェフ首相の不正蓄財疑惑に端を発した今回のデモは、都市部を中心に全土で数万人が参加したとみられ、1300人以上が拘束された。事態を懸念した大統領付属人権委員会が調査に乗り出したほか、マトビエンコ上院議長が国民との「対話が必要」と発言。左派系政党「公正ロシア」のミロノフ党首も疑惑の解明を要求するなど、当局の強権的な対応に疑問を呈する声が出始めていた。
 
しかしプーチン氏は3月30日、北極圏をめぐるフォーラムで初めてデモについて公に言及し、アラブの春やウクライナ危機でもその発端には「汚職との戦いが利用された」と主張。今回のようなデモが、政権転覆につながりかねないとの危機感を強くにじませた。さらに拘束者の解放を求めた欧米諸国の姿勢を「ロシアへの圧力」と述べ、露当局の対応を正当化した。
 
メドベージェフ氏をめぐっては、プーチン氏が3月29日に北極海の島を共に訪問。両者が一緒に地方視察するのは極めて異例で、プーチン氏がメドベージェフ氏支持を暗に示したとの観測が広まった。ただプーチン氏は「世論が汚職問題に関心を持つことを歓迎する」と発言したが、首相の責任には沈黙している。
 
露メディアは、プーチン氏がメドベージェフ氏の責任を問うことは反政権派への屈服を意味するため、そのような事態は起こり得ないと指摘している。
 
政治評論家のミンチェンコ氏は、汚職への人々の強い不満はロシア社会の「貧富の差の拡大」も背景にあると述べ、現状の政府の対策ではとても理解は得られないとの見方を示した。【4月2日 産経ニュース】
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プーチン大統領は、経済不振の責任を押し付ける形でメドベージェフ首相のクビを切るのでは・・・という話は以前からありましたが、こういう形での失職は反プーチン勢力を勢いづかせることになりますので、当面は首相を支えることになるのでしょう。

【「安定と秩序」を誇る大統領を揺るがす地下鉄自爆テロ】
プーチン大統領を悩ましくさせるもうひとつの事態は、3日に起きたキルギス出身者による地下鉄自爆テロです。
ロシアはかねてよりチェチェンなど北カフカス地方のイスラム過激派のテロに直面していましたが、今回テロはイスラム過激派の影響が中央アジアにまで及んでいることを示しています。


****恐れていた中央アジアのテロ、ロシア地下鉄爆破の衝撃****
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクで起きた地下鉄爆破テロは中央アジア・キルギスからの移民の犯行と分かり、プーチン政権は恐れていたことが起きたと衝撃を受けている。

チェチェンなど北コーカサス地方のイスラム過激派が中心だったテロのすそ野が中央アジア出身者にまで拡大していることが鮮明になったからだ。

イスラム国(IS)に数百人が合流
(中略)キルギスの治安当局者らによると、実行犯はキルギス南部オシ生まれのアクバルジョン・ジャリロフ(23)容疑者。6年ほどサンクトペテルブルクに住んでいた移民だ。(中略)

ベラルーシの大統領との会談のため、地元である同市に滞在中だったプーチン大統領は捜査当局から直接事情を聞いて指示を出しているが、従来の北コーカサス絡みではなく、中央アジア出身者によるテロに衝撃を受けているようだ。
 
ロシアでは、第1次チェチェン戦争(94年〜96年)、第2次チェチェン戦争(99年〜2009年)でイスラム武装勢力との戦いが激化。これに伴い、モスクワ劇場占拠事件、旅客機同時爆破、モスクワの地下鉄爆破などテロが続発したが、2012年末に南部ボルゴグラードで連続テロが起きたのを最後に大きなテロは鎮静化していた。
 
こうした一連のテロの大半はチェチェンなど北コーカサス地方のイスラム過激派が実行したが、ロシアの治安部隊に追い詰められた過激派はシリアに渡ってISに合流した。その数は最盛期には2500人にも上り、IS内に精鋭部隊の「チェチェン軍団」を組織するまでになった。

プーチン政権が2015年秋、シリアへの軍事介入に踏み切った理由の1つには、こうしたシリアに流れたロシア系過激派を徹底的に叩くことも含まれていた。しかしISに合流したのは北コーカサス出身者だけではなかった。

キルギスやウズベキスタン、タジキスタンなど中央アジアからのイスラム教徒数百人も同じようにISに加わった。ロシアの空爆によって多数が殺害されたと見られており、同郷の戦闘員や殺害された親族、ISへの共鳴者がロシアに対する憎悪を高め、報復心を持つのは自然なことだろう。この辺に今回のテロの動機が隠されているのかもしれない。【4月5日 WEDGE】
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「安定と秩序」を功績として国民からの支持を集めてきたプーチン大統領にとっては、思わしくない事態です。
今後、これまで以上に強い締め付けが行われることが予想されますが、それが国民にどのように受け入れられるか・・・。

****【ロシア地下鉄爆発】「安定と秩序」プーチン氏の功績揺らぐ 内政に流動化要因、反政権デモに続き痛手****
・・・近年のロシア都市部はテロ攻撃を免れていただけに、プーチン露政権は、3月26日の大規模な反政権デモに続いて衝撃を受けている。ソ連崩壊後の混乱からロシアを立て直し、「安定と秩序」をもたらしたというプーチン大統領の「威信」に、ここにきて陰りが出てきた。(中略)
 
2000年に最初の大統領に就任したプーチン氏は、ロシアをソ連崩壊後の大混乱と困窮から立て直した「救国者」を自認し、国民多数派も同氏を支持してきた。

同氏の重要な「功績」には、首相在任中の1999年、モスクワでの連続アパート爆破を受けて第2次チェチェン戦争を陣頭指揮し、テロの嵐を押さえ込んで安全をもたらしたことも含まれている。
 
しかし、3月26日の反政権デモからも明らかなように、もはや安定や多少の生活水準向上では納得できない国民が不満を蓄積させている。そこに、3日の爆破テロが重なる形となった。
 
プーチン政権は、「テロとの戦い」を口実に強権体制を構築してきた経緯があり、2004年に知事の直接選挙が廃止されたことが一例だ。今回のテロも、反政権派の締め付けやインターネット統制の強化に利用されるとの観測が根強い。
 
それが国民の「結束」や政権への支持につながるかは不明で、ISの敵意を買っているシリア介入やネット統制に反発する声が強まる可能性もある。大統領選まで1年を切ったロシアの情勢が、流動化の兆しを見せ始めているのは確かだ。【4月4日 産経】
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難民問題  「自国第一」で進まぬ第三国定住 受入国は難民キャンプ閉鎖へ 見えない明日への希望

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(「子どもたちまでずっと難民として生きていかなければいかないのでしょうか」と語るソマリア難民女性=2017年2月23日午前9時20分、ケニアのダダーブ難民キャンプで小泉大士撮影【4月3日 毎日】)

【「避難を余儀なくされた人々」は全世界で6530万人】
日本では、今村復興大臣が福島県の避難指示区域以外から自主避難している人たちに対して「帰れないのは本人の責任」などと記者会見で発言した“自己責任”発言に対して賛否両論が出ています。

世界的にみると、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が公表している世界の難民らの動向に関する年次報告書によれば、2015年末現在で、難民や国内避難民、亡命申請者からなる「避難を余儀なくされた人々」は6530万人に達し、過去最多を記録しています。

****難民・避難民・亡命申請、世界で6530万人****
・・・・内訳は難民が2130万人、国内避難民4080万人、亡命申請者320万人。全体で前年と比べて580万人増えた。1996年は3730万人だったのが、20年間で1・75倍になった。近年では、11年に4250万人を記録して以降、増加が続いている。
 
難民を生んでいる国や地域はパレスチナ520万人のほか、シリア(490万人)、アフガニスタン(270万人)、ソマリア(110万人)など。

シリアの難民は250万人を受け入れているトルコや、レバノン、ヨルダンなどへ流入している。
アフガンからはパキスタンとイランなどへ、ソマリアはエチオピアやケニア、イエメンなど、行く先は周辺国が中心となっている。
 
一方、国内避難民が多いのは、コロンビアの690万人、シリア(660万人)、イラク(440万人)、スーダン(320万人)、イエメン(250万人)、ナイジェリア(220万人)などとなっている。
 
グランディ難民高等弁務官は「避難した人々の声が(政治)指導者たちに届くように望む。(主要原因の)紛争を止める政治的な行動が必要だ」と訴えた。【2016年6月20日 朝日】
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全難民のうち51%が18歳未満の子どもです。

2015年の1年間だけでも、新たに1240万人が避難を余儀なくされています。(国内避難民860万人、難民180万人、残りは庇護申請者)

一方、2015年に帰還した難民数は20万1400人で、最も多く帰還したのはアフガニスタン(6万1400人)、スーダン(3万9500人)、ソマリア(3万2300人)、中央アフリカ共和国(2万1600人)の出身者でした。【UNHCR「数字で見る難民情勢」より】

シリアについて言えば、トマホークを撃ち込む国内支持率稼ぎの派手なパフォーマンスよりも、約500万人も存在するシリア難民(国内避難民は約600万人)の生活をどのように支え、明日への希望をどのように提示できるかが、より重要で困難な問題となります。

しかし、これまで第三国定住の最大受入れ国であったアメリカのトランプ政権下の難民拒否姿勢にもみられるように、厳しい状況が続いています。

****シリア難民の第三国定住枠、達成は目標の半分25万人*****
シリア紛争から6年が経ち、シリアからの難民が500万人を突破した中、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は国際社会に対し、より一層の支援が必要であると訴えました。

「難民の第三国定住およびそれに順ずる受け入れの種類や範囲を拡大するための道のりはまだ長いです。この課題に対応するためには、受け入れ枠を増やすだけではなく、すでに公約したことを実行することが必要です」と主張しています。

ちょうど1年前の2016年3月30日にスイスのジュネーブで、シリア難民受け入れに関する閣僚級会合が開かれました。会合では、2018年までにシリア難民のおよそ10%にあたる50万人を第三国定住で受け入れる公約を求めましたが、現在までに25万人の枠しか提供されていません。(中略)

UNHCRは、2017年に第三国定住が必要な難民は約120万人に上ると予想しています(うち40%がシリア難民)。(中略)
多くの国が経験しているはずですが、第三国定住は難民に生活を再建する機会を与えるだけでなく、受け入れたコミュニティをより多様性のある豊かな社会にしてくれます」と強調しています。【3月31日 UNHCR】
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現実には難民受入れがもたらす社会的リスクから、これを拒否する「自国第一」の風潮が強まっているのは周知のところです。

【定住への門戸を閉ざす先進国 受入国では難民キャンプ閉鎖の動き ともに「自国第一」】
難民を押しつぶしているのは、現在の暮らしの困難さもさることながら、明日への希望・出口が見えないことでしょう。

下記は、ここ数日だけで目にした、難民生活の実態に関する記事(タイに暮らすミャンマー少数民族難民、ケニアに暮らすソマリア難民、ヨルダンに暮らすシリア難民)です。

****<ミャンマー>文民政権1年 難民処遇、解決遠く****
ミャンマーで文民政権が発足して3月30日で1年が過ぎた。国内外から政権の改革は期待されているが、解決を見通せない課題もある。タイに住むミャンマー難民の処遇もその一つ。

国軍と少数民族武装勢力との戦闘や旧軍事政権による強制移住などを逃れて来た人々だが、ミャンマー政府と武装勢力との完全和平は道半ば。定住先を見つけるのは次第に困難になり、支援も減少傾向にある。彼らの間には、将来の展望の無さから重苦しい雰囲気が漂っていた。

タイで最初のミャンマー難民のキャンプができたのは1984年。今では国境沿いの山中に計9カ所あり、約10万3000人が暮らす。そのうちの一つ、約6200人が住むタムヒン難民キャンプに向かった。
 
通常タイ政府は取材を認めておらず、中には入れない。難民の往来も制限されているが、自活プログラムとして周辺の農園で働いたり、買い出しに出たりする人もいる。
 
国連難民高等弁務官事務所によると、9キャンプの難民の約8割が少数民族のカレン族で、宗教別ではミャンマーでは少数派のキリスト教徒が5割を占める。80年代の国軍と武装勢力との戦闘激化に伴い増加した。2005〜16年の間、キャンプから約10万6000人が海外に受け入れられた。移住先は約8割が米国、約1割がオーストラリアだ。
 
カレン族男性のダーケーさん(34)も移住を希望する。難民となって10年以上。子供の一人は既に豪州にいる。こうした家族の「分断」のケースも多く問題となっている。「ミャンマー新政府も信用できない。どの国でもいい」と話した。
 
農園の小屋で休憩していたカレン族男性ジェレポーさん(39)は97年に越境して以来3回、米国への移住を申請したという。だがその後、米国はミャンマー難民の受け付けを停止し、さらにトランプ政権は難民そのものの受け入れに後ろ向き。ジェレポーさんの希望は遠のく一方だ。
 
一部少数民族武装組織は、前政権時に停戦に合意。タイ・ミャンマー政府の協力の下で昨年10月、初めて難民71人の帰還が実現した。だが、つらい記憶や帰還後の生活不安から、ためらう人は多い。

一方でタイ政府はキャンプの早期閉鎖方針を打ち出しており、ジェレポーさんは「閉鎖の日が来るのが怖い」と話した。
 
不安定な身分は難民の心を揺さぶる。キャンプ内で図書館を運営する日本のNGO、シャンティ国際ボランティア会の菊池礼乃さんによると、北西部のメラ・キャンプ(約3万7000人)では、自殺者が年間約20人に増え、問題になっている。菊池さんは「原因はさまざまだが、将来に希望を見いだせないことも大きい」とみる。
 
一方、北西部のウンピアム・キャンプ(約1万2000人)でリーダーを務める男性ワティーさん(59)によると国際支援は先細りし「食料や建設物資、医薬品は以前の半分の水準だ」という。彼は「キャンプに居ても何の権利も、タイ政府発行の身分証明書も与えられるわけではない」といい、早期帰還したい考えだ。

 ◇民政移管後に支援減
タイ・スワンニミット財団 ダラニー・ブッタラクサ看護師
ミャンマー難民らを支援する財団の協力組織である北西部メソトのメータオ・クリニックで感染症予防対策などに取り組んでいるが、2011年にミャンマーが(軍事政権から軍政翼賛政党によるテインセイン前政権へと)民政移管された後、国際支援が(タイのミャンマー難民から)ミャンマー国内へシフトしつつあると感じる。
 
支援団体の財源には限りがあり、タイ側では、保健サービスを提供する団体の仕事が統合されたり、食料配給量が減少したりするなどの影響が出ている。
 
こうした状況は、難民に「早くキャンプを出ろ」という圧力になっている。これが続けば他国への経済移民になろうとする人が出てくる可能性が高い。
 
アジアで最も長期化した難民問題であり、キャンプで暮らす人々は、将来の見通しが立たない中で、一日一日を送っている。【4月2日 毎日】
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****<トランプと世界>移住の夢、遠のく ケニアのソマリア難民****
「生まれてから一度も難民キャンプを出たことがないんだ。一生ここにいろと言うのか」。ケニア東部にある世界最大規模、26万人超が生活するダダーブ難民キャンプで、ソマリア難民の男性アフメド・ワルファさん(25)は天を仰いだ。ほぼ赤道直下の強烈な日差しと乾いた大地。サッカー場1万2000個分の広さに、木の枝と土で造った壁にトタン板をかぶせただけの簡素な住居が密集する。
 
1991年に始まったソマリア内戦。祖国を逃れた一家はダダーブにたどり着き、7人のきょうだいは長男を除いてここで生まれた。次男のワルファさんは「(ケニアの首都)ナイロビにも行ったことがない」と話す。キャンプから出るには当局の許可が必要。許可証があっても難民の立場は弱く、検問で警官に賄賂を要求されることもあるという。
 
ワルファさんは自らを「ダダービアン(ダダーブ人)」と呼ぶ。祖国を知らずキャンプで生まれ育った2世、3世を意味する。
 
ソマリア難民は長く「忘れられた存在」(援助機関者)だった。数百万人規模で発生したシリア難民らの陰に隠れて国際社会の関心は薄れ、援助資金も集まらない状態だ。一家は2010年、紛争国から周辺国に逃れた難民を第三国が受け入れる「第三国定住制度」に申請した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が窓口で、昨年8月に審査を通過、3月中に渡米する予定だった。
 
だが、米国でトランプ政権が誕生して暗転した。ソマリアなどイスラム圏6カ国(当初は7カ国)の国民に対する先月の新たな大統領令は、90日間の入国禁止を維持。難民の受け入れも120日間停止した。米国内で差し止め訴訟が相次ぐが、司法判断は分かれる。
 
テロが頻発するソマリアに戻るのは危険だが、一方でケニア政府は治安上の理由からキャンプ閉鎖を目指す。八方ふさがりの中で、残された希望が米国などへの移住だった。
 
ワルファさんが自嘲気味につぶやく。「ひたすら待ち続けるだけの人生さ」。入国禁止令の直撃を受けた難民キャンプは無力感に覆われている。

 ◇難民キャンプに四半世紀 米入国禁止令、砕かれた期待
(中略)難民にとって米国は「人並みの暮らしができる場所」。ここではかなわない教育や医療を受ける機会がある。働いて自活することもできる。米国へ行けたら人生が変わると思っている。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると近年、第三国定住でソマリア難民を受け入れるのは14カ国。8割以上の行き先が米国で、2016会計年度は9020人を受け入れた。オバマ前政権は17年度の難民の受け入れ枠を全体で11万人に拡大したが、トランプ政権は5万人に減らす方針だ。
 
その審査は世界一厳しいとされる。UNHCRなどの事前審査に始まり、米政府職員による面接、健康診断、国土安全保障省による身元調査と続く。イスマイルさんのように「7〜10年待っている」という人は多い。大統領令で一時中断し、米連邦最高裁での判断が確定し再開されてもさらなる厳格化は必至だ。
 
ディガレさん一家は地べたに敷いたマットに身を寄せ合っていた。20年以上も仕事はなく、毎日ただ時間が過ぎるのを待っているだけという。日中は40度近くまで気温が上昇、トタン屋根に直射日光が降り注ぐ。
 
ソマリア人に対する入国拒否についてディガレさんは「我々にはどうすることもできない。受け入れてもらえるよう神に祈るだけだ」と言う。アダン・バロウ・ハッサンさん(30)も「米国民を恨むつもりはない」。ただ、移住前のオリエンテーションでは「米国は宗教や人種などで人を差別しない」と学んだ。あれは何だったのか、と首をかしげる。


(中略)ケニア政府は、国境から西へ約80キロのダダーブ難民キャンプに戦闘員が紛れ込んで「出撃拠点」に利用しているとして、昨年5月に閉鎖を発表。専門家は「明確な証拠がない」とするも、政府高官は難民保護より国内の治安を優先するのが「世界のスタンダード」と主張している。(中略)
 
しかしソマリアの治安はきわめて不安定だ。
ナフィソ・モハメド・ヌルさん(42)は15年8月に8人の子供と帰国したが、2カ月後、大統領府近くの自宅に迫撃砲が撃ち込まれた。庭にいた親戚は即死。ヌルさんも左足のかかとと胸、尻に金属片が突き刺さり、5カ月間入院した。買い物に出かけた市場でもマシンガンで目の前の人が撃たれた。「いつどこで襲われるかわからない」。恐怖感に耐えられずキャンプへ戻った。(中略)
 
オバマ前政権は難民の強制送還に反対し、ケニア政府もキャンプ閉鎖の先延ばしに応じた。その期限は5月末に迫る。ケニア高裁は2月、閉鎖を無効とする判決を下したが、政府は「ケニア国民が第一」と撤回を拒んで上告した。
 
シンクタンク「国際危機グループ」(ICG、本部ブリュッセル)のアブドゥル・カリフ研究員は、トランプ氏の大統領令について、ケニア政府などが難民への締め付けを強める「口実に使われる」と指摘。行き場を失った人々がテロや紛争が続く国に帰るしかなくなれば「さらなる悲劇を招くばかりか、過激派組織の格好の勧誘対象になる」と懸念する。【4月3日 毎日】
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****低賃金労働、学校通えず=シリア追われた少年たち―ヨルダン難民キャンプ****
2011年から続くシリア内戦で故郷を追われ、隣国ヨルダンの難民キャンプにたどり着いたシリア人の少年たちが家計を支えるため、時給1ヨルダンディナール(約155円)程度の低賃金で働いている。4日に時事通信などの取材に対し、母国では受けられていた教育も満足に受けられずにいる実情を語った。
 
ヨルダンの首都アンマンから北に約75キロの農村ザータリに隣接する難民キャンプでは約7万9000人が暮らす。約4万4000人の子供がいるが、6000人近くが学校に通っていない。父親がシリアに仕事を探しに戻ったり、シリアに残った後連絡が取れなくなったりして、子供の労働が家族の収入を支えているケースが多い。
 
キャンプ内にある国連児童基金(ユニセフ)の施設では、シリア南部ダラア県の村から12年に逃れてきたムハンマドさん(17)がアラビア語を学んでいた。普段は時給1ヨルダンディナールで1日6時間、周辺の農場で働いており、正規の学校に通えないため、空いた時間にこの施設で補習を受けている。
 
シリアでの思い出を尋ねたところ、「家族みんなで海に行ったことだ」と人懐っこい笑みを浮かべた。しかし、行き先の地名を問うと、「シリアを離れて時間がたち過ぎ、忘れてしまった」と苦笑いに変わった。
 
他の数人の子供も労働条件はムハンマドさんと同様だった。5人以上の家族でキャンプに住んでいるというケースが多い。
 
シリア人の子供もヨルダンの正規の学校に通うことはでき、キャンプ内には学校がある。しかし、ユニセフ・ヨルダン事務所保健栄養部長の佐藤みどりさん(43)は「健康状態に問題があったり、小学校進学前に教育の機会が与えられなかったりしたため(勉強に)ついていけなくなり、正規の学校に行けなくなる難民の子供も多い」と指摘。「施設が勉強だけでなく、友達を助けるなどコミュニケーションを学ぶ場になっている」と語った。【4月6日 時事】 
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【途上国が大部分の受入国の負担も限界】
受け入れ側にも限界があります。
冒頭のUNHCR公表数字によれば、難民全体の86%にあたる1390万人が発展途上国で避難生活を送っています。
レバノンでは人口に占める難民の数が最も多く、1000人当たり183人。これにヨルダンの87人、ナウルの50人が続いています。

****<レバノン>ハリリ首相、シリアからの難民受け入れ「限界」****
レバノンのハリリ首相は3月31日、内戦が続く隣国シリアからの難民流入が「限界に達しつつある」と述べ、社会不安を引き起こしているとの認識を示した。中東の衛星テレビ局アルジャジーラなどが伝えた。
 
レバノンの人口は約460万人(2015年)だが、11年に始まったシリア内戦以降、すでに100万〜150万人のシリア難民が流入しているとされ、人口の3〜4人に1人が難民という計算になる。難民への生活支援が経済を圧迫しているのが現実で、学校の教室が足りなくなり、道路補修などのインフラ整備も停滞。

首相は「レバノン人とシリア人はかなりの緊張状態にある。既にレバノン自体が巨大な難民キャンプになってしまった」と語った。
 
首相はそのうえで、難民1人あたりに対し「5〜7年間で計1万〜1万2000ドル相当」の支援が必要と強調し、国際社会に対し、財政支援の強化を訴えた。【4月2日 毎日】
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「自国第一」だけではすまされない事態であり、比較的余裕のある先進国は応分の負担をすべきと考えます。
もちろん、難民発生の原因となっている紛争を止める努力が極めて重要であることは言うまでもありません。

インド 中国と領有権を争う北東部、ダライ・ラマ訪問で中国と対立 スリッパ叩き議員や酒類販売禁止

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(北東部の赤い斜線がインド・中国が争うアルナーチャル・プラデーシュ州 インド北東部は西隣のブータンやネパール・バングラデシュに挟まれた細い回廊でインド亜大陸につながる地域です。人種的にもアジア系で、いわゆるインド人とは異なるようです。なお、北部先端の斜線がインド・パキスタン・中国が争うカシミール地方)

【「インドと国境を接する隣国は中国ではなくチベットだから、ダライ・ラマの来印についてとやかく言う資格は中国にはない」】
インドとパキスタンがカシミールの領有をめぐって度々衝突しており、核保有国同士の対立が続いているのは周知のところですが、このブログでもしばしば取り上げているように、インドは中国とも領土問題を抱えており、やはりときおり小競り合いを繰り返しています。

インド・中国の領土問題は、西のカシミール地方と東のヒマラヤ山脈東部の2カ所ありますが、東のインド北東部に突き出たアルナーチャル・プラデーシュ州に関しては昨年6月(約3時間)、9月(4日間ほど)に中国軍が侵入しインド軍とにらみ合いにもなっています。

単に領土を争うというだけでなく、中国の南シナ海・インド洋への進出、インドの中国への対抗など、日本を含めた大きな国際政治の枠組みの中で、ときおりこの領土問題が表面化します。

下記記事は1年前の昨年6月の中国軍侵入のときのものです。

****中国軍がインド北東部に侵入 領有権主張、日米との連携強化に反発か****
インドと中国が領有権を争い、インドの実効支配下にある印北東部アルナチャルプラデシュ州に今月9日、中国人民解放軍が侵入していたことが分かった。印国防省当局者が15日、産経新聞に明らかにした。

中国は、インドが日米両国と安全保障で連携を強めていることに反発し、軍事的圧力をかけた可能性がある。
 
中国兵約250人は、州西部の東カメン地区に侵入し、約3時間滞在した。中国兵は3月にも、中印とパキスタンが領有権を主張するカシミール地方でインドの実効支配地域に侵入し、インド軍とにらみ合いになっていた。アルナチャルプラデシュ州への侵入は、最近約3年間、ほとんど確認されていなかったという。
 
9日は、中国海軍が艦船を尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の接続水域で航行させた時期と重なる。インドは10日から日本近海で、日米とともに海上共同訓練「マラバール」に参加していた。訓練は米印が実施してきたが、昨年、日本の恒常的参加が決まっていた。
 
インドは、今月6~8日のモディ首相の訪米では、中国が軍事拠点化を進める南シナ海に言及せず、中国に配慮を示していた。【2016年6月19日 産経ニュース】
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両国が領有権を争う非常に“敏感”なエリアであるアルナーチャル・プラデーシュ州を、これまた中国にとって極めて“敏感”な存在であるダライ・ラマ14世が訪れるとなると・・・やはり揉めます。

****ダライ・ラマの中印国境訪問で両国間に火花****
<チベットの指導者ダライ・ラマ14世が訪問したのは、中国とインドが領有権を争う国境地帯。怒る中国に対しインドも挑発的だ>

チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が亡命先であるインドのアルナーチャル・プラデーシュ州を訪問したのに対し、中国は5日に懸念を示した。

国連とインドにとって、ヒマラヤ山脈東部の同州はインドが実効支配するインド領という認識だが、中国側は同州の約9万1000キロ平方メートルの領有権を主張している。ダライ・ラマの訪問を許す権利はインドにはないというのだ。

中国は長年にわたりチベット自治区の独立を訴えるダライ・ラマ(81)を危険視し、その活動を非難してきた。

中国外交部の華春瑩報道官は、ダライ・ラマが同州を訪問することで国境紛争が再燃し、中印関係の健全な発展に悪影響をもたらすと発言。インド政府に問題提起した。

一方、インド内政部次長キーレン・リジジュは4日、今回で7回目を数えるダライ・ラマ14世の訪問について「アルナーチャル・プラデーシュ州はインドの一部であり、中国はインドの内政に干渉するべきでない」と述べた。

中印関係はすでに緊張状態にある。中国軍によるサイバー攻撃、中国のインド洋進出、中印国境の紛争地カシミールを通ってパキスタンに抜ける中国パキスタン経済回廊(CPEC)計画など、問題が山積みだ。

インドは2014年にナレンドラ・モディ首相が就任してから、チベット亡命政権のロブサン・センゲ首相を就任式に招待するなど、中国に対しこれまで以上に挑発的な動きをしていると、米国際戦略研究センター( CSIS )で対印政策を担当するリック・ロッソウ上級顧問は言う。

モディだけではない。アルナーチャル・プラデーシュ州のペマ・カンドゥ首相はダライ・ラマを歓待し、「インドと国境を接する隣国は中国ではなくチベットだから、ダライ・ラマの来印についてとやかく言う資格は中国にはない」と中国の懸念を切り捨てた。【4月6日 Newsweek】
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「インドと国境を接する隣国は中国ではなくチベットだから、ダライ・ラマの来印についてとやかく言う資格は中国にはない」・・・・チベット亡命政府の存在をインド西北部ダラムサラに認めているインドですから、このようなもの言いにもなります。

“インドは、原子力供給国グループ(NSG)への参加や、パキスタンに拠点を置くイスラム過激派指導者の国連制裁リストへの掲載を中国に反対され、昨年来、中印関係は悪化しており、今回の訪問は中国への圧力の一環とみられる。”【4月5日 産経】と、インド側がダライ・ラマ14世という“カード”を利用しているとの指摘もあります。

ただ、将来の大国同士としての今後のインド・中国関係を考えると、領土問題以上に、チベット亡命政府がインドに根拠地を置いているということが問題になるようにも思えます。
両国の関係改善を阻害する大きな要因となるのか、あるいは、関係改善を目指す中でチベット亡命政府がインドにとっても“邪魔な存在”となるのか・・・

なお、両国が領有権を争う北東部アルナーチャル・プラデーシュ州については、ダライ・ラマ14世訪問以外にもインド側の動き・中国側の反発が報じられています。

****中国がインドに警告、国境係争地への鉄道網計画に反発****
2017年4月2日、インドの有力紙THE HINDUによると、中国政府はこのほど、インドが北東部アルナーチャル・プラデーシュ州のタワングを鉄道で結ぶ計画を検討していることに強い反対を表明した。ヒマラヤ山中の同地は中国が領有権を主張している中印国境係争地だ。参考消息網が伝えた。

インド政府がマノジ・シンハ鉄道相とキレン・リジジュ国務大臣に対し、アルナーチャル・プラデーシュ州との境に最も近いアッサム州バルクポンとタワングを鉄道で結ぶことの可能性を評価するよう指示したと報じられている。

これを受け、中国外交部は1日、「インド側が一方的な行動を控えることで、中国とインドの相互信頼を高め、境界問題の適切な解決を促進できることを願っている」と述べ、けん制した。

中国当局は先週、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が、中国が「蔵南地区(チベット南部)」と呼ぶアルナーチャル・プラデーシュ州を訪問することを認めたインド政府に対し、「両国関係を著しく損なう」と反発していた。【4月5日 Record China】
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“インド最後の秘境”とも呼ばれるアルナーチャル・プラデーシュ州は外国人の入域が制限されており、観光ができない訳ではありませんが、入域希望予定日より8週間以上前に,インド政府当局より入域許可を取得する必要があります。(外国人だけでなく、域外インド人も入域には許可が必要との話も聞きます)

ぜひ、そのうち行ってみたい場所のひとつです。

【旅客機客室乗務員を履物で叩いた議員】
インドを取り上げたついでに、最近のインド関連の話題をいくつか。

どこの国も横柄な勘違い政治家は多数存在しますが、身分制度意識が抜けきれないインドにあっては、それこそごく普通の存在でしょう。

****インド議員、客室乗務員をスリッパで25回はたく 座席めぐり口論****
インドの国内線の旅客機内で23日、搭乗していた下院議員が座席をめぐって客室乗務員と激しい口論となり、相手をスリッパで25回にわたってたたく行為に及んだ。議員は地元メディアにたたいた事実を悪びれる様子もなく認めたが、政党などから非難する声が上がっている。
 
問題を起こしたのは西部マハラシュトラ州選出でヒンズー教至上主義を掲げる政党「シブ・セナ(SS)」所属のラビンドラ・ゲイクワッド連邦下院議員。
 
報道によると、23日朝に同州プネから首都ニューデリーに向かう国営航空会社エア・インディアの旅客機に搭乗したが、ビジネスクラスのチケットを持っていたにもかかわらず、エコノミークラスの座席に座らされた。女性客室乗務員に苦情を伝えた後、上級の男性客室乗務員と激しい言い合いとなったという。
 
ゲイクワッド氏はインドのANI通信に対し「あいつが手で殴打されたって言ってるだって? スリッパで25回はたいてやっただけだ」と平然と答えた。インタビューの映像はANIがツイッターに投稿し、他のニュース番組でも放送された。
 
ゲイクワッド氏は「モディ(ナレンドラ・モディ大統領)に訴えると言ってきたので、はたいてやったのだ」と主張。「この侮辱を受け入れなければならなかったのか?」と語っている。
 
インドの他の政党はゲイクワッド氏の行動を厳しく批判している。
エア・インディアの広報担当者はAFPに対し、今回の件について調査を行うと明らかにした。
 
インドでは昨年、南東部アンドラプラデシュ州の空港で、ゲートが閉まっていたために家族らとの搭乗を拒まれた連邦議員が、空港職員を平手打ちしたとして逮捕される事件が起きている。【3月24日 AFP】
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この議員はインド航空会社各社から搭乗拒否されていましたが、謝罪することで搭乗を許されることになったとか。

****客室乗務員を履物でたたいた議員への搭乗拒否処分、取り消される インド****
・・・エア・インディアは被害を警察に届け出て、さらにゲイクワッド議員の搭乗を拒否した。これを受け航空他社も同様の措置を講じたために、同議員は列車での移動を余儀なくされた。
 
しかしインド民間航空省が、ゲイクワッド議員が最近謝罪したことを考慮するようエア・インディアに求めていたことを受け、同議員に対する搭乗拒否処分は7日に取り消された。(後略)【4月8日 AFP】
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【全国の主要国道・州道から500メートル以内での酒の販売を原則的に禁止】
昨年末には高額紙幣の突然の廃止が大きな話題・政治問題ともなりましたが、今度は全国の主要国道・州道から500メートル以内での酒の販売が原則的に禁止されるそうです。

****主要道から500メートル内で酒販売禁止、インドで飲酒運転事故多発に対応 業界からは不満噴出****
インドの最高裁が、全国の主要国道・州道から500メートル以内での酒の販売を原則的に禁止し、レストランやホテル業界に不満が広がっている。飲酒運転の事故多発を受けた措置だが、業界は多くの失業者を生むと反発している。
 
最高裁は昨年12月、こうした地域での酒の販売を今年4月1日以降禁止すると命じ、具体的な説明として3月31日、酒店だけでなく、レストランやホテルでの販売も禁止に含まれるとの判断を示した。
 
該当店では、翌日からビールやウイスキーを提供できなくなり、インド飲食店協会のリヤアズ・アムラニ会長は地元紙エコノミック・タイムズに、今回の決定による失業者が全国で100万人に上る可能性があると述べた。

PTI通信によれば、商業都市ムンバイを抱えるマハラシュトラ州では、酒の販売免許約2万5500件のうち約1万5700件が影響を受け、経済的な損失は州内だけで700億ルピー(約1200億円)に上るとの推計もある。税収も大きく減少しそうだ。
 
首都ニューデリー近郊ハリヤナ州の州都チャンディガルでは3日、ホテル経営者らが最高裁に再審理を求めるデモを行った。日本人が多く住む州内グルガオンにある商業施設「サイバーハブ」の飲食店従業員は「客は9割減だ」と弱り顔で話した。
 
インドの一昨年の交通死者は約14万6000人で、6700人余が飲酒運転によるものだった。【4月4日 産経】
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インドを含めた多くの国々で交通事故が絶えないのは、無謀な運転、勝手に横断する歩行者、そもそも信号がほとんどない・・・・といった、飲酒運転以前の問題が多々あるようにも思えますが。

私はタバコは吸いますが、酒はあまり飲みません。ですから最近の禁煙措置の拡大には不満・不便を感じますが、禁酒措置については何とも思いません。まあ、人間の反応というのはそんなものでしょう。最高裁判事やモディ首相はおそらくあまり酒はたしなまないのでは・・・。

【インド医療施設の“善意”(?)も】
インド社会に関する話題というと、日本的常識からすると“とんでもない”話題が多いのですが(およそ「ニュース」というのはそういうものですが)、インドの名誉のため(?)に最後に“インドの善意”に関する話題も。

以前、隣国バングラデシュで、不治の病に侵された2人の息子と孫を安楽死させたいと嘆く父親が話題となりました。

****「息子らを安楽死させたい」 父の悲痛な叫び バングラデシュ****
不治の病に侵された2人の息子と孫の苦しみをこの手で止めることを許してほしい──バングラデシュに暮らす貧しい父親の悲痛な訴えがきっかけとなり、この国ではほぼ話題に上ることのない「安楽死」が論争の的となっている。

「もう何年も看病してきた。バングラデシュだけでなくインドの病院にも連れて行った。治療費を工面するために営んでいた店も売り、無一文になってしまった」と、バングラデシュ西部の田舎で果物の露天商として働くトファザル・ホサインさんは言う。

「回復の見込みはなく、苦しみだけが残された彼らの運命をどうすればいいのか、地元政府に決めてもらいたい。私にはもう耐えられない」と話すホサインさん。地元の政府に対して、息子と孫の看病の支援か「薬で死なせることを許してほしい」と嘆願書で訴えた。
 
多くの人が貧困ライン以下の生活を送るバングラデシュでは、病院で治療を受けられる人は限られている。無料の医療サービスを提供してくれるクリニックもほとんどない。(後略)【1月25日 AFP】
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この件に関して、インドの医療施設が無料で治療を行うことを申し出たそうです。

****父親が安楽死願った難病の息子と孫、インドの医療施設が無料で治療へ****
バングラデシュで、難病に侵された2人の息子と孫を安楽死させてほしいと父親が訴え、世界的な注目を集めたことがきっかけとなり、インドの医療施設が無料で3人に対する治療を申し出ていたことが明らかとなった。
 
果物の露天商として働くトファザル・ホサインさんは今年1月、地元の政府に対して息子2人と孫の安楽死を認めるよう訴え、保守的なバングラデシュではほぼ話題に上ることのない安楽死についての論争が巻き起こった。
 
3人は全員、遺伝性の疾患「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」を患っている。これは筋力が次第に衰える病気で、30歳を超えて生きられる患者は珍しいとされている。
 
父親のこの悲痛な訴えに、インド・ムンバイの医療施設「NeuroGen Brain and Spine Institute」が、幹細胞を用いた新しい治療を提供すると申し出た。同施設によると、患者数百人の症状を改善してきたという。
 
同施設の広報担当者は、インドの航空会社が無料でホサインさん一家をインドまで運び、一家は2日に施設に到着したと明らかにした。
 
また、この広報担当者は「デュシェンヌ型筋ジストロフィーは確かに不治の病であり、彼らは重度の疾患に苦しめられている」と述べ、試みるのは症状の改善であることを強調した。
 
だが一方でホサインさんは、インドでの治療について、息子たちと孫にとって最後の希望であると語った。
 
ホサインさんはAFPの電話取材に対し涙ながらに、「希望に満ちた気分だ。治療の第1ラウンドが行われたんだ」と答え、「アラーのお恵みにより、息子たちと孫が治癒されると願っている」と語った。【4月4日 AFP】
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ごく限られたインド旅行時の経験などからすると、“善意”というより“広告”ではないか・・・という感もしますが(インド国内には、貧困のため治療を受けられない患者は数えきれないほど存在するでしょう)、まあ、ここは素直に“善意”を評価すべきでしょうか。

アメリカのシリア攻撃  評価がためらわれるいくつかの問題

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(いつになく重々しい口調でシリア攻撃を発表するトランプ大統領【4月6日 毎日】 化学兵器が使用された現地での子供が力なく地面に横たわり、民間の救助隊員に水で洗い流される様子と、死亡した双子の幼児が白い布にくるまれ、若い父親に抱きかかえられているシーンに、トランプ大統領は非常に心を動かされたとか【4月9日 毎日より】)

【トランプ大統領とにとっては、何重にも意義が大きい行動】
サプライズ的にトランプ大統領が行った、シリア・アサド政権の化学兵器使用への報復措置としての巡航ミサイル・トマホークによる攻撃・・・・就任後勇んで実施した大統領令は停止され、オバマケア改革は与党をコントロールできずに頓挫し、かねてよりのロシア問題では責め立てられるという国内的行き詰まりを、議会に縛られるアメリカ政治システムにあって例外的に大統領の裁量が大きい軍事行動を行うことで、強い・決断力にあふれるリーダーシップを国内に示し、世界にもアメリカのパワーを見せつけ、中東におけるロシア主導の現状を阻止し、おまけに会談中の中国・習近平主席にも「軍事行動も躊躇しない姿勢」を見せつけることで中国・北朝鮮に強い圧力をかけるという、トランプ大統領にとっては何重にも意義が大きい行動であることは間違いありません。

【シリア政府の化学兵器使用の確たる証拠は?】
今回のミサイル攻撃が化学兵器使用という非人道的行為に対する制裁であり、今後の更なる化学兵器使用を阻止する効果があるという点では評価に値する行動なのでしょうが、どうもスッキリしないものがあります。

単に個人的にトランプ大統領が嫌いだ・・・ということだけでなく、今回行動にはいくつか問題もあり、どのように評価すべきかためらわれるところがあります。

ひとつには、シリア政府軍の化学兵器使用に関する確たる証拠が示されていない点です。
アメリカには、イラク侵攻の名目とされた“大量破壊兵器”の「前科」がありますので、慎重に見極める必要があります。

もちろん、状況的にはかぎりなくクロに近いとも言えますが、シリア政府は否定しており、後ろ盾のロシアは「反政府勢力が貯蔵していた化学兵器が空爆で爆発した」とも。

状況はクロに近いですが、動機的には「せっかく軍事的に優位に立って、アメリカ・トランプ大統領もアサド政権存続容認を公言するようになったこの時期に、どうして国際的批判を集めて苦しい立場に自らを追い込む化学兵器使用に踏み切ったのだろうか?アサドはそれほど愚かなのか?あるいは、軍部をコントロールできていないのか?あるいは、アサド存続を快く思わない内部勢力があって、アサド政権の足を引っ張るような行為にでたのか?」など、むしろシリア政府犯人説が疑問に思えるところもあります。

この点、特に“動機”に関する部分に関して、アメリカ側からは、化学兵器が使用されたイドリブ県では政府軍が追い詰められていたとの説明がなされています。

****<シリア攻撃>「化学兵器、何度も使用」米高官、背景説明****
米軍高官は7日、内戦が続くシリアの空軍基地を米軍が6日に巡航ミサイルで攻撃した背景を、国防総省で記者団に説明した。

標的となった基地の周辺地域では、アサド政権軍が戦況改善を図って化学兵器による空爆を繰り返していたと指摘。4日に北部イドリブ県ハンシャイフンで多数を死傷させた空爆機の飛行経路という「証拠」も示した。
 
米軍高官は匿名で記者説明を行った。それによると、シリア全体ではアサド政権軍の優勢が伝えられるが、中部ハマ県からイドリブ県にかけては反体制派が攻勢を強め、県都ハマにある重要基地の奪取も図っていた。同基地には、反体制派支配地域住民ら多数を殺傷してきた「たる爆弾」製造施設があり、投下に使用可能なヘリコプター部隊も駐留していたという。
 
米軍高官によると、劣勢回復を目指した政権軍は、県都ハマの北西約25キロのハマ県ラタメナで3月25日に塩素ガスによる攻撃、30日に神経剤と疑われる物質による空爆を実施した。これは、地元病院を支援する国際医療NGO「国境なき医師団」も報告している。
 
今月4日には、ラタメナの北方約20キロのハンシャイフンで「(猛毒の)サリンのような神経剤」(高官)が投下され、現地からの情報では、80人以上が死亡、350人が負傷したとされる。高官は「拠点奪取を防ぐための自暴自棄的な決定」による空爆との見解を示した。
 
高官は、4日の空爆機の飛行経路を示すという図も提示した。同機はホムス県のシャイラット空軍基地から北約80キロのハンシャイフンに飛行し、被害が報告される直前の午前6時台に、現地上空にいたという。【4月8日 毎日】
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一言でいえば「拠点奪取を防ぐための自暴自棄的な決定」ということのようですが・・・。
戦闘で混乱状態にある現地からの情報というのは、あまりあてにならないところがあります。特に、化学物質に関する専門的な情報などは。また、特定勢力に肩入れする側からのゆがめられた情報も往々にしてあります。

すみやかに現地調査をすれば、空爆によるものか、ロシアの言うような貯蔵物質によるものなのかはわかるのではとも思います。

ロシアなどからもそうした国際的調査が求められている時期の今回攻撃でした。

“空爆機の飛行経路”というのが証拠になるでしょうか?
もっと明確な証拠をアメリカが有しているのであれば、攻撃前にも示すところでしょうし、今になっても示されないところを見ると、上記記事にあるような“背景”しかないのだろうか・・・とも思えます。

トランプ大統領は議会に説明書簡を送り、アサド政権が化学兵器を使用したことを示す情報を得ていたととしていますが、その“情報”の中身は明らかになっていません。

****トランプ大統領 議会に書簡送りシリア攻撃の正当性強調****
アメリカのトランプ大統領は、シリアのアサド政権の軍事施設に対する攻撃について、議会に説明する書簡を送り、アサド政権が化学兵器を使用したことを示す情報を得ていたとしたうえで、今後も状況に応じて追加の行動を取ると伝えました。(中略)

この中で、トランプ大統領は、アサド政権が化学兵器を使用して市民を攻撃したことを示す情報を得ていたとしたうえで、攻撃は化学兵器の使用を思いとどまらせることが目的だったと説明しています。そのうえで、「必要性と妥当性があれば、追加の行動を取る」として状況に応じてさらなる行動を取ると伝えました。(後略)【4月9日 NHK】
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信頼できる大統領の言うことならともかく、“嘘つきトランプ”の言う話ですから・・・・日頃の行いが、こういうときに影響します。もちろん、こんな重大な局面で嘘などつかないでしょうが・・・。

【トランプ大統領の言動のご都合主義】
今回攻撃の評価をためらう理由の二つ目は、トランプ大統領の言動の一貫性のなさです。

トランプ大統領はしきりにオバマ前大統領のように優柔不断ではないことをアピールし、アバマ前政権のシリア政策の失敗を攻撃していますが、オバマ前大統領が介入を検討していた時期、トランプ氏自身がシリアへの介入を「自国第一」の立場から“アメリカが得るものは何もない”と否定していました。

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6日、攻撃の理由について、「シリアの独裁者アサドが化学兵器を使って、罪なき市民に攻撃を行った。かわいい乳児さえ、残酷に殺害された」と語ったトランプ大統領。

しかし4年前、今回同様、アサド政権が化学兵器を使用したとして、当時のオバマ大統領が武力行使を示唆した際には、「シリアを攻撃するな」、「良くないことが起きるだけで、アメリカが得るものは何もない」と、反対する考えをツイートし、2016年の大統領選でも、シリアへの軍事介入に消極的な発言を繰り返していた。【4月8日 FNN】
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また、議会との関係でも一貫性がありません。

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アメリカ議会では今回の攻撃を容認する意見が目立ちますが、一部からは事前に議会の承認を得なかったことについて批判も出ています。

また、トランプ大統領自身も4年前、オバマ前政権が化学兵器の使用をめぐって、シリアへの攻撃を検討した際、「議会の承認を得るべきだ」とツイッターに投稿しているため、今回の行動について一層の説明を求められることも予想されます。【前出4月9日 NHK】
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もちろん、君子は時に豹変すべきものです。
ただ、その豹変理由、過去の判断の誤りをよく説明すべきで、常に自分が正しいような言動は、ご都合主義の浅薄な言動にも思えて信頼できません。

なお、トランプ政権の基本方針「自国第一」の関連で言うと、影の実力者バノン氏は「米国第一」主義にこだわり、シリア攻撃にも反対し、影響力を失いつつあるとか。

****バノン氏影響力低下か…シリア攻撃反対通らず****
シリア空軍基地へのミサイル攻撃を巡り、トランプ米政権内の内紛が表面化した。
 
米メディアによると、トランプ氏の最側近だったバノン大統領上級顧問・首席戦略官がシリア攻撃に反対する一方、トランプ氏の娘婿クシュナー大統領上級顧問が実施を求めたという。攻撃の実現は、バノン氏のホワイトハウス内での影響力低下を示している可能性がありそうだ。

 ■路線対立
米誌ニューヨーク・マガジンによると、バノン氏はシリアの化学兵器では米国民が犠牲になっておらず、米国が対抗措置を取るのはトランプ氏が推進する「米国第一」主義に反する、と進言したという。

これに対し、クシュナー氏は、子供を含めた痛ましい被害が出ていることを踏まえ、「アサド政権を罰するべきだ」と訴えた。トランプ氏は、クシュナー氏の意見に賛同した。
 
米メディアでは、ホワイトハウス内で、トランプ氏の従来の過激路線を推進するバノン氏と、穏健路線を重視するクシュナー氏やコーン国家経済会議(NEC)委員長の対立が激化しており、最近はバノン氏が劣勢に立たされているとの分析が多い。
 
米紙ニューヨーク・タイムズは、バノン氏がトランプ氏の最側近として権勢を誇り、「陰の大統領」ともてはやされていたことに、「トランプ氏が不快感を持った」とも指摘した。
 
バノン氏は4日、国家安全保障会議(NSC)の閣僚級委員会常任メンバーから外された。さらに今後は「更迭か、役割見直しの可能性がある」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)という。バノン氏に近いプリーバス大統領首席補佐官にも更迭論が浮上しており、後任にはコーン氏の名前が挙がっている。【4月9日 読売】
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バノン氏の差別主義的言動には全く賛同しませんし、彼の影響力が低下することは好ましいことに思いますが、少なくとも言動が首尾一貫している点では、ご都合主義のトランプ大統領とは異なるようです。

【無視された国際協調】
今回攻撃の評価をためらう理由の三つ目は、国連協議とか国際協調とかを無視している点です。

****国際協調は後回し・・・米の一国主義が鮮明に****
シリアの軍事施設に対する巡航ミサイル攻撃は、米トランプ政権の一国主義的傾向を浮き彫りにした。
 
国際社会との協調や法律上の正当性よりも、自らが考える国益を最優先にするのが基本姿勢で、オバマ前政権との対比が鮮明だ。
 
トランプ大統領は、シリアでの化学兵器使用が明らかになってから、時間をかけずに攻撃を実行した。その間、国連の安全保障理事会で、武力行使が認められる決議を得るため、他国に働きかける努力をしていない。

国連憲章が認める自衛権の行使という考えを広く解釈したのか、法的な裏付けが明確でなくても、人道的な見地から介入したのか、明確な説明はない。【4月9日 読売】
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“国際協調は後回し”というより、無視したというべきでしょう。

もちろん、実際に国連安保理で協議してもロシアとの意見の一致は見込めないということはあります。
しかし、だからといってすっ飛ばしていいというものでもありません。

国際法に照らして正当化されるのか?という点でも、専門家からは疑義が表明されていますが、ここでは省きます。

****<米、シリア攻撃>安保理も法的根拠の乏しさ懸念*****
米軍の巡航ミサイルによるシリア空軍基地攻撃を受け、国連安全保障理事会が7日に開いた緊急会合で、米国の軍事行動に明確な賛意を表したのは、15カ国のうち米国を除き5カ国にとどまった。軍事行動を支える法的根拠が乏しいためで、安保理を軽視して単独行動主義に突き進む米国への懸念が高まりそうだ。
 
非難の口火を切ったのは反米左派政権下の南米ボリビア。ジョレンティソレス国連大使は国連憲章が書かれた冊子を手に「国連憲章は一方的な(軍事)行動を禁じている。国際法違反だ」と批判した。スウェーデンは米国非難を控えつつも「軍事行動は国際法に基づくべきだ。昨夜のミサイル攻撃は国際法上合法かどうか、疑問が残る」と懸念を示した。
 
米国の軍事行動を支持した英国も攻撃の法的根拠については口をつぐんだ。ライクロフト国連大使は緊急会合前、「違法なのは自国民に化学兵器を使用したアサド政権の行為だ」と記者団に語った。
 
国連憲章が軍事行動を認めるのは、世界の平和と安定を守るため安保理の承認を得るか、自衛権に基づく場合に限られる。今回の攻撃は安保理決議に基づいたものではなく、米国に対する差し迫った脅威がなければ自衛権に基づく軍事行動を主張するのも困難だ。
 
安保理にはトラウマがある。2003年2月、安保理外相級協議でパウエル米国務長官が、イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を開発していると主張して戦争開始を訴えた。このとき米情報機関が収集した「証拠」が示されたが、戦後になっても大量破壊兵器は見つからなかった。
 
かつての苦い思いが、一部の理事国を慎重にさせている。複数の安保理理事国が4日のシリア北部での化学兵器使用がアサド政権によるものだとする証拠に疑問を呈し、さらなる調査が必要だと主張した。【4月8日 毎日】
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通常の市民社会にあっては、いくら「あいつがやったに違いない」とは言っても、証拠も示さず、司法に訴えることもなく、いきなり殴りつけるような行為は犯罪です。

しかし、国際政治にあっては、国際法云々はあったとしても、結局は力がものをいいます。
強国アメリカは国連のくだらない協議などには縛られない・・・というのはアメリカ国内受けはいいでしょうが、国際社会としては困ったことになります。

今回の問題だけでなく、今後の国際政治におけるアメリカの唯我独尊を招くおそれもあります。

【同盟国の支持にも“ためらい”が】
そんなこんなで、アメリカを基本的に支持する国にも“ためらい”があります。

****【シリア攻撃】欧州、米支持に慎重さも 首脳らの声明に温度差****
トランプ米政権がシリアの化学兵器使用疑惑をめぐり同国の空軍基地攻撃に踏み切ったことを受け、欧州の主要各国は一斉に「支持」や「理解」を表明した。一方でその内容からは、シリア内戦への対処を含めた、トランプ氏の外交・安全保障戦略をなお見極めたいとの姿勢がうかがえる。
 
「攻撃は限定的で、適切だ。全面支持する」。英国のファロン国防相は7日、英メディアでこう強調した。オランド仏大統領とメルケル独首相は「唯一、責任はアサド大統領にある」との共同声明を出した。
 
欧州はこれまで、アサド氏にあいまいな態度を取ってきたトランプ氏のシリア戦略を懸念。特にフランスは2013年に化学兵器使用疑惑が浮上した際、米英と軍事行動を目指しながら、当時のオバマ政権の方針転換で断念に追い込まれた記憶があるだけに、今回の対応を歓迎している。
 
ただ、首脳らの声明には温度差もみえる。英国が使った「支持」との表現は仏独首脳の声明にはなく、メルケル氏は攻撃を「理解する」と述べるにとどめた。
 
また欧州連合(EU)は7日の声明で、国連仲介の対話による政権移行が「唯一の解決策」だと強調し、米国がシリア問題の軍事的解決を目指すことがないようくぎを刺した。
 
欧州側のこうした慎重姿勢には、トランプ政権のシリア戦略が「なお見えない」(独紙ウェルト)との警戒がある。米国がシリアで一段の軍事行動をとれば、難民増大といった影響も受けかねないためだ。
 
米側は英独仏に攻撃を事前連絡したものの、突然の展開はトランプ氏の「予測不可能さ」を示したとの指摘もある。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は「攻撃は欧州の態度を不安にさせた」とも伝えている。
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そのあたりは日本政府も同様のようです。

****首相、北朝鮮けん制にじむ 早々に米「支持」表明*****
安倍晋三首相は7日、米軍のシリア攻撃について「米政府の決意を支持する」との見解を早々と示した。同盟国として結束する姿勢を鮮明にし、トランプ米大統領を援護した。北朝鮮をけん制したい思いがにじむ。ただ日本政府はトランプ氏が攻撃の根拠としたアサド政権による化学兵器の使用の断定は避けた。攻撃自体は「理解」にとどめており、苦渋の判断だった面もある。(後略)【4月8日 日経】
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アメリカの「化学兵器の使用を許さない」という決意は“支持”するが、軍事行動については、「事態の深刻化を防ぐ措置」として“理解を示す”という、やや微妙な表明です。【4月8日 朝日より】

今回のアメリカの攻撃が中東シリア情勢に及ぼす影響、さらには中国・北朝鮮に及ぼす影響、結果的に及ぶ日本へ影響など、検討すべき点は多々ありますが、また別機会に。

なお、「何をしでかすかわからない」という警戒心を相手に与えることで自分のペースに巻き込むというのは、北朝鮮と同じやり方です。また、“警戒心を与える”のレベルでとどまっていれば北朝鮮へのけん制に有効ですが、実際に行動に出ると、その影響は甚大です。

いくらなんでも、そんな“暴走”などない・・・と言うなら、安全保障の議論も、自衛隊も必要ありません。

タイ  新憲法公布で民政復帰に向けて踏み出すも、権力内部では対立が激化

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(【flickr】に3月17日にアップされたインラック前首相の写真ですが、いつ撮影されたものかは知りません。【by Prachatai https://www.flickr.com/photos/prachatai/33488220375/in/photolist-SbjCrS-T2eTcV-T1X56t-S78aQ3】)

【新国王が政治に影響を及ぼす可能性も】
タイでは亡くなったプミポン前国王を荼毘に付すための巨大な火葬施設の建設が進められているそうです。

****首都に巨大火葬施設=高さ50メートル、10月に前国王葬儀-タイ****
昨年10月に死去したタイのプミポン前国王を荼毘(だび)に付すため、首都バンコクの王宮前広場で巨大な火葬施設の建設が進められている。
 
火葬施設は土台部分が60メートル四方で、高さは約50メートル。仏教の宇宙観で世界の中央にそびえているとされる須弥山(しゅみせん)を表現する。現在は高さ約23メートルまで建設が進んでいる。
 
24日に現地を視察したタナサック副首相は取材に対し、火葬を含む一連の葬儀日程について、10月26~30日の5日間とする案をワチラロンコン国王(64)に提示したことを確認。「(日程の)変更や期間の短縮があるかどうか国王の回答を待つ必要がある」と述べた。【3月24日 時事】
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一方、軍部の権限が強化され、民主主義が後退したとの批判もあった新憲法ですが、国民投票での承認を経て、ワチラロンコン国王が署名して公布・施行に至っています。

ただ、最終段階で国王の要請で国王権限を強める方向の修正がなされ、今後のワチラロンコン国王の政治関与の可能性をうかがわせる流れにもなっています。

****タイ、新憲法施行 民主化後退、国王の権限強化****
タイのワチラロンコン国王は6日、首都バンコクで新憲法案に署名し、新憲法が即日公布・施行された。2014年のクーデターで破棄された旧憲法に代わる新憲法案は当初から民主主義に逆行する内容を含んでいたが、国王側の要請で国王権限を強める修正もなされた。民主的な統治からさらに遠のく懸念が出ている。
 
クーデター後の軍事独裁体制が続くタイでは、新憲法の制定が民政復帰への第一歩。だが新憲法は、選挙で選ばれた下院議員や政権に対し、憲法裁判所に強い監視権限を持たせる一方、上院議員を非公選とし、今後も軍が政治に強い影響力を持つ内容だ。昨年8月の国民投票で承認されたが、その後、国王側から条項の一部修正を求める意向が示されていた。
 
この日、明らかになった主な修正点は、憲法に規定のない政治状況などが生じた場合に、「国王を元首とする民主主義制度の慣習」に基づいて判断するとの規定に関するものだ。過去の憲法にもあったが、だれが状況を認定するのかなどがあいまいだったため、当初の新憲法案ではその判断を最終的には憲法裁判所長官らに仰ぐとされていた。
 
だが、修正でこの部分が削除された。タイの憲法学者は「政治危機に国王が介入する余地が取り戻された」と指摘する。
 
もう一つは、外国訪問などで国王が公務をできない場合の摂政任命規定に、「任命しなくてもよい」との内容を加えたこと。これも、国王がこれまで生活拠点の一つとしてきたドイツなどに滞在する際に、権限を保持するためとみられている。
 
タイでは、不安定な連立政権で混乱が繰り返された反省から、1997年に史上最も民主的と言われる憲法ができたが、その結果、民衆の支持を背景にタクシン元首相が台頭。軍や官僚といった既得権益層の脅威になり、06年に軍がタクシン氏をクーデターで失脚させ、07年制定の憲法では上院のほぼ半数を非公選にするなどした。

それでもタクシン元首相派を抑えられず、14年のクーデターや、今回の新憲法につながった。新憲法は1932年の立憲革命以降、20番目となる。
 
新憲法の施行で、総選挙に向けたプロセスも始まった。現政権の行程表によれば、新憲法施行から総選挙に至る日程は最長で570日。遅くとも来年11月までには総選挙が実施されることになるが、プラユット暫定首相は6日夜、「選挙の正確な日程はまだ設定できない」と述べた。

外交筋の間では「行程表は行程表に過ぎない」との慎重な見方もある。【4月7日 朝日】
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浅見靖仁・法政大教授(タイ政治)は“新憲法が制定されたことで、軍政はこれ以上の民政移管の先延ばしは難しくなったと言える。ただ、タクシン元首相派と反タクシン派の和解が進んでいないなど、課題は多い。一方、直前になって憲法案を修正させるなど、国王が政治に影響を及ぼす可能性も今回見えてきた。”【4月6日 毎日】とも指摘しています。

【軍内部の対立に新国王・タクシン派も加わって不穏な空気も】
従来からのタクシン派と反タクシン派の対立、軍部による民主主義への制約、新国王がどのように政治に関与するのか、あるいは関与しないのか、総選挙はいつになるのか・・・・等々の問題ははらみつつも、とにもかくにも民政復帰に向けて一歩踏み出したように見えます。

しかし、タイの権力内部では、新国王即位に伴って“不穏”な対立が進んでいるとの指摘も。

軍内部では、現在の暫定政権を主導してきたプラユット暫定首相らの軍主流派に対し、新国王の親衛隊を担う勢力が権限を強めており、権力闘争的な色合いを帯びてきているとのことです。

素行の評判が芳しくなかった新国王はもともと軍主流派とはそりが合わず、軍主流派はできれば国民的人気が高いシリントーン王女を即位させたかった・・・とも言われています。

一方、新国王は従来からタクシン元首相と関係が深く、また、新国王に近い軍部勢力はタクシン元首相とも関係が深いということもあって、新国王・軍部の反主流派(国王の親衛隊)・タクシン派と軍部主流派の間で抗争が起きる危険性もあるとか。

もし、帰国すれば逮捕・拘束されることになっているタクシン元首相が、新国王の恩赦を前提に「凱旋」帰国するようなことになると、この対立は一気に火を噴く・・・という話です。

****タイで膨らむ「内戦リスク」****
新国王と現政権の根深い「憎悪」
タイでは国民の敬愛を集めたプミポン国王が昨年十月に逝去し、十二月にワチラーロンコーン皇太子が新国王に即いた。

もともと素行が問題視され、国民の目も冷ややかな新国王には内外から不安視する声が多かったが、まさにそれが的中しそうな情勢だ。

最大の問題は政権を握る軍主流派と国王の親衛隊の対立。皇太子時代は冷遇されてきた親衛隊が一気に権力を強め、軍は二分状態となった。

さらに軍政の天敵、タクシン元首相は新国王と親しく、恩赦による帰国も現実味を帯び始めた。タイは軍を割った内戦危機も含め、再び大混乱に陥る可能性が静かに高まっている。
 
バンコク中心部の王宮前広場では今年十月に予定される故プミポン国王の火葬の儀に向けた施設の建設が進んでいる。(中略)

表面上は新国王のもとで落ち着き始めたかにみえるタイだが、王室と軍、政治家が入り乱れた権力闘争が激化している。

争いの火種になっているのはワチラーロンコーン新国王の親衛隊。昨年十二月までは「皇太子親衛隊」と呼ばれたグループだ。

タクシン「凱旋」で着火
タイの王族には身辺警護にあたる親衛隊が置かれる。首都を守る第一軍管区の七個師団のうち第一歩兵師団が故プミポン国王を護衛する近衛師団。シリキット王妃を護衛するのがバンコク東部のプラチンブリやチョンブリーに駐屯する第二歩兵師団であり、そのほか皇太子、シリントーン王女などにそれぞれ親衛隊が組織されていた。
 
当然ながら軍内で最も力を握ってきたのは国王を守る第一歩兵師団出身者だった。だが、一九九二年五月にバンコクで軍が反政府のデモ隊に発砲した流血事件でスチンダ首相(元陸軍司令官で、第一歩兵師団出身)が国王の仲裁で辞任させられて以降、軍の影響力が低下、その原因となった第一歩兵師団も軍内で実権を失った。
 
二〇〇一年にタクシン政権が誕生すると、軍の権力構造にはさらに変化が生じた。タクシン氏は警察士官学校出身で、軍内にも人脈があり、自らに近い人物を軍幹部に就けたためだ。

〇三年に陸軍司令官に任命されたチャイシット大将はタクシン派の典型だ。そうした軍の〝タクシン化〟に最も懸念を抱いたのが王妃親衛隊とそのOB会ともいうべき「東の虎」グループである。〇六年のタクシン追放クーデターを主導したのはまさにこの「東の虎」グループだった。
 
その後、軍内では「東の虎」がかつての国王親衛隊に代わって実権を掌握した。軍のトップである陸軍司令官のポストは〇四年以降、プラウィット(現副首相兼国防相)、アヌポン、そして現首相のプラユットと王妃親衛隊出身者がほぼ独占している。
 
一方で、ワチラーロンコーン新国王の皇太子時代の親衛隊は空軍の九〇四飛行隊。バンコクのドンムアン空港を基地とする空軍の精鋭で通称「ラチャワロップ」。

皇太子時代には三回目の結婚相手のスリラスミ妃の愛犬「フーフー」に空軍大将の称号を与えるなど空軍に愛着を持っている様子がうかがえる。

今、王宮内で肩で風を切って歩いているのはこの九〇四飛行隊出身者であり、軍内の枢要なポストを押さえつつある。
 
新国王はプラユット政権が成立を急ぐ新憲法についても就任以来、数回にわたって見直しを命じるなど揺さぶりをかけている。新国王と現政権の関係は明らかに摩擦が高まっているのだ。
 
もともと「東の虎」グループ含め陸軍はワチラーロンコーン皇太子の国王即位に懸念を持ち、国民の支持が厚いシリントーン王女を担ごうとしていた。新国王にすれば「東の虎」グループは不愉快な存在で、権力からはずそうとしているとみていい。
 
もうひとつ大きな底流は新国王とタクシン元首相の親密な関係だ。放蕩息子と呼ばれ、女性関係、ギャンブル、ドラッグなどの噂が絶えない新国王の尻拭いをしてきたのがタクシン元首相だったからだ。中でも欧州各地のカジノで遊んだ皇太子の負けを肩代わりして支払ったことは、タイの庶民でも知っている。

また、皇太子親衛隊の九〇四飛行隊はタクシン派の牙城であるタイ東北部、北部出身者で占められ、人的にも新国王と元首相は深いつながりを持っている。
 
タイ政治が〇六年のタクシン追放クーデター以降、直面する最大の課題はタクシン氏の帰国問題だ。帰国すれば即逮捕、収監になるが、国王には恩赦を出す権限がある。

「ワチラーロンコーン国王がタクシン氏に恩赦を出す可能性は八〇%以上」。タイの新興企業の経営トップはこう分析し、「十月の故プミポン国王の火葬の儀の後にタクシン氏は帰国する」と予想する。それも密やかな帰国ではなく、凱旋になるだろう、との見方だ。
 
当然のことながら、プラユット政権と陸軍主流派は反発。恩赦の阻止、あるいはそれが無理ならば、タクシン帰国を物理的に阻止しようとする。そこで何が起きるのか。元皇太子親衛隊を中心とする空軍と陸軍主流派の衝突だ。

陸軍内には過去十年間干されたタクシン派が東北部を管轄する第二軍管区、北部を管轄する第三軍管区に多数おり、さらに首都の治安を守る警察には「心はタクシン派」という幹部が多い。
 
となれば、タイは軍と警察が国王派と反国王派に分かれた内戦に突入する懸念がある。反国王派はシリントーン王女を担ぎ、国民の支持を得ようとするだろう。内戦の基本構図は空軍精鋭部隊が首都防衛の第一軍管区の部隊を攻撃、東北部、北部からタクシン支持派の陸軍部隊が国王を守るため首都に進撃するという流れだろう。

日本企業の喫緊の課題に
「新国王とタクシン氏の『東の虎』グループに対する怨念を考えれば、決して荒唐無稽ではない」とタイの経済人はみる。

内戦が起きた時、連鎖的に勃発するのはタイ南部のイスラム教地域の分離独立だ。最近では南部での政府庁舎、警察へのテロ攻撃はますます激化しており、イスラム過激派にしてみれば内戦は最大のチャンスとなる。
 
タイには自動車、エレクトロニクス、素材など四千社を超える日本企業が進出し、東南アジア諸国連合(ASEAN)最大の産業集積を構築している。一一年秋のバンコク大洪水が示したようにタイの生産混乱は日本企業に深刻な影響を及ぼす。

次に起きるのは洪水やデモどころではない大騒動。日本企業としてはタイの緊急時対応策の練り直しが今や喫緊の課題となった。【「選択」4月号】
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タイが内戦状態に・・・タイ政治・社会の実情に疎遠な私などにはいささか荒唐無稽にも思われる話ですが、「ワチラーロンコーン国王がタクシン氏に恩赦を出す可能性は八〇%以上」という話になると、内戦とまではいかなくても、タイ政治・社会を揺るがす混乱状態・分断が改めて表面化することも考えられます。

総選挙でタクシン派が再び第1党となれば、「一定の民意」が示されたとして「恩赦」も現実味を帯びるのかも。

なお、新国王が皇太子時代に愛犬「フーフー」に空軍大将の称号を与えた話は有名ですが、陸軍でも海軍でもなく「空軍大将」だったのにはちゃんとした背景があったようです。

【執拗な「タクシン派潰し」】
一方、暫定政権側のタクシン派への締め付けは続いているようです。

****インラック前首相に五百億円課税 タイ軍政が執拗に「タクシン派潰し」****
二〇〇六年のクーデターで事実上の国外追放状態になったままのタイのタクシン元首相の妹、インラック前首相が三月、税務当局から四億五千万ドル(約五百億円)の課税を命じられたと公表した。

インラック氏は「意見の異なる者を追い詰めるために恣意的に法を適用している。よくも国民和解などと言えたものだ」とプラユット暫定首相を批判している。
  
タクシン一族は○六年一月、自身の財閥「シン・コーポレーション」の株をシンガポールの政府系投資会社テマセク・ホールディングスに売却。日本円で二千意円を上回る巨額の富を手にしたが「節税」を縦横に使い、納税額は一億円に満たなかった。

この不満が同年九月のクーデターヘとつながった。この時の売却益のうち四分の三は二年後、国に没収されたが、その後の追徴課税が十年近く経過した今になって行われたのだ。
 
インラック氏に対しては昨年十月、在任中(十一~十四年)の貧農に対するコメ担保融資制度で発生した巨額損失の責任を問い、軍政は一千億円を超える賠償金支払いを要求している。

インラック氏を執拗に追い詰めることについて記者団に聞かれたプラユット暫定首相は「私は誰もいじめていない」とだけ答えている。【「選択」4月号】
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相手が華があるインラック前首相だと、“いじめている”というネガティブなイメージになってしまうところが面白いところでもあります。

【旧正月ソンクラーン前のバンコクでは爆発事件も】
前述の「不穏」な空気とも関連するのでしょうか、バンコクでは新憲法公布前日の5日に小規模な爆発事件が起きています。

****バンコクで小規模な爆発****
タイの首都バンコクの官庁街ラチャダムヌン地区で5日午後8時(日本時間同10時)ごろ、小規模な爆発があり、近くにいた女性2人が耳や手に軽いけがをした。

地元メディアが現地警察の話として伝えた。樹脂製のゴミ箱に小型の爆発物が仕掛けられていた。タイでは6日に新憲法の公布が予定されているが、政治的な背景があるかどうかはわかっていない。【4月6日 日経】
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タイでは、水かけ祭りも行われる旧正月ソンクラーンの休みが4月13日から始まります。

多くの人が里帰りして、家族だんらんを楽しむ長期休暇ですが、上記爆発事件を受けて、在タイ日本国大使館からは“小型爆弾の爆発事件に関するお知らせ” として6日、「本日、新憲法の公布・施行式典が開催される他、今後ソンクランに向け各種行事が開催されますが、不測の事態が発生する可能性も排除されませんので、外出する際には、十分注意して下さい。」との注意喚起が在タイ邦人に出されているようです。

ポーランド  カチンスキ党首とトゥスクEU大統領の因縁の対立 文句は言いつつEU利益の最大享受者

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(ポーランド大統領らを乗せた政府専用機の墜落から7年を迎え、首都ワルシャワの大統領府前で行われた追悼式典で花輪を手向ける与党「法と正義」党首のヤロスワフ・カチンスキ元首相(2017年4月10日撮影)。【4月11日 AFP】)

【EU大統領再選、更には10年前の飛行機事故で激化するカチンスキ党首とトゥスクEU大統領の対立】
オルバン首相率いるハンガリー同様に、カチンスキ氏が率いる愛国主義的な理念を掲げる保守派「法と正義」が政権を担う東欧ポーランドでは、西欧的民主主義の価値観からすると異質な“裁判所やメディアに対する統制を強め、ポーランドを専制政治に導いている”(昨年12月21日付のニューヨーク・タイムズ紙の社説)とも評される政治体制が続いています。

このあたりの話は、1月24日ブログ“NATOの対ロシア戦略の要ポーランドの民主主義逸脱 必ずしもロシア脅威論だけではない欧州”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170124でも取り上げたところです。

そのポーランドは、ドイツ・メルケル首相がけん引してきたEUの“寛容な難民政策”には強く反対し、イギリスのEU離脱で何かと不協和音が目立つEUの結束を揺るがすような存在でもあります。

一方、EUの大統領を務めるのは、保守派「法と正義」のカチンスキ党首のかつての政敵でもある、中道右派の「市民プラットフォーム」を率いたトゥスク氏ですが、出身国ポーランドはトゥスクEU大統領の再選に執拗に反対して話題ともなりました。

****EU首脳会議、トゥスク大統領再選 出身国ポーランドは反対****
欧州連合(EU)は9日、ブリュッセルで首脳会議を開き、5月末で任期切れとなるトゥスクEU大統領を再選した。一方、同氏の出身国ポーランドは、再選に強く反対した。

ポーランドの現在の与党「法と正義」のカチンスキ党首は、トゥスク氏のかつての政敵。シドゥウォ首相はカチンスキ党首の指示の下、トゥスク氏再任に反対票を投じたが、残りの27カ国は同氏を支持した。

シドゥウォ首相は当初、再任決定を延期するよう他国首相に働きかけていたが失敗に終わった。

ポーランドに賛同する声が広がらなかったことから、同国がEU内だけでなく東欧内でも孤立している様子が示された。

カチンスキ党首は、EUはドイツにより動かされており、各国の利益が無視されていると批判した。(後略)【3月10日 ロイター】
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ポーランドのワシチコフスキ外相は、トゥスクEU大統領再選について「(EUは)ドイツの絶対的命令下にある」と述べ、大国主導の決定だと反発、「欧州諸国の関係がこれで非常に危険になる」とも批判しています。【3月10日 時事より】

カチンスキ党首とトゥスクEU大統領の間には、単なる政治的な対立を超えた“怨念”のようなものもあるように見えます。

2010年にロシアに向かうカチンスキ大統領(カチンスキ党首の双子の弟)夫妻が乗った政府専用機が墜落した事故(大統領ら乗員96名が死亡)当時、トゥスクEU大統領はポーランド首相でした。

現政府は、この事件をめぐってトゥスクEU大統領の捜査を要求しています。

****<ポーランド>EU大統領の捜査を要請****
ポーランド国防省は21日、2010年に当時のカチンスキ大統領夫妻ら96人が死亡した政府専用機の墜落事故を巡り「政府の調査を妨害した」として、当時首相だった欧州連合(EU)のトゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)に対する捜査を検察に要請した。検察は30日以内に捜査するかどうか判断する。地元メディアが伝えた。
 
事故はロシア西部で発生。ポーランド、ロシア両国の調査委員会は既に乗務員の操縦ミスや訓練不足が原因とする報告書をまとめている。
 
だが、カチンスキ元大統領の双子の兄で政権与党「法と正義」党首のヤロスワフ・カチンスキ氏は、ロシアが大統領を「暗殺」した可能性を主張。ロシアが事故機の残骸をポーランドに返還していないことから、政府はトゥスク氏がロシアに譲歩し、調査を妨害したとしている。
 
ポーランドは9日のEU首脳会議でも、トゥスク氏のEU大統領再任に加盟国で唯一反対した。トゥスク氏は野党「市民プラットフォーム」の実力者でもあり、対立が深まっている。【3月23日 毎日】
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カチンスキ大統領は、第二次大戦中にポーランド軍将校ら2万人以上が旧ソ連に虐殺されたロシア西部の「カチンの森」事件から70年を迎えるのに合わせ、ポーランド側が主催する追悼式に出席する予定でした。

ロシアと対立を続けていたカチンスキ大統領・「法と正義」ですが、当時の首相であるトゥスク氏はロシア・プーチン首相(当時)の招きで現地を訪れ、両国首脳がそろって追悼行事(上記のポーランド側が主催する追悼式とは別物)に臨むことになりました。

“ポーランドは99年、北大西洋条約機構(NATO)に加盟。05年に反露派のカチンスキ大統領が就任し、ロシアとの緊張が続いてきた。だが07年に首相に就任し、今秋の次期大統領選出馬が見込まれるトゥスク首相は対露関係改善に動いており、ロシアは今回、あえて大統領でなくトゥスク首相を招いたとの見方が強い。”【2010年4月7日 毎日】

事故あるいは事件は、こうしたポーランド国内のカチンスキ兄弟・「法と正義」とトゥスク氏・「市民プラットフォーム」の対立、ロシアと対立する前者、関係改善に動く後者という、きわめて微妙な政治情勢の中で起きました。

ロシア捜査当局は事故当時、ポーランド政府機が悪天候の中で着陸を強行したことに伴う操縦ミスが原因との見方を示していました。

亡くなったカチンスキ大統領は08年8月、搭乗機の別のパイロットが「安全上の理由」から、当時ロシア軍の侵攻を受けていたグルジアへの着陸を拒否したことに激高。パイロットの行為を「不服従」とみて、空軍のポストをはく奪しようとした・・・というようなこともあって、こうしたカチンスキ大統領の頑なでキレやすい“性格”(今もそういう性格の政治家は多いようですが)を背景とした無理な着陸強行が事故を招いたのでは・・・とも言われていました。

亡くなった大統領の双子の兄カチンスキ党首は、こうした見方に納得していません。

【現政権が主張するポーランド政府専用機墜落の爆発説】
事件からすでに7年が経過した今、政権を奪取した「法と正義」が主導するポーランドの調査委員会は、事故機が空中で爆発した可能性が高い(ということは、ロシアによって、あるいはロシアと当時のトゥスク政権の共同行為によって爆殺されたことを意味します)との結論を発表しています。

****ロシアで墜落したポーランド政府機、爆弾で空中分解か 新調査****
2010年にロシア西部で起きたポーランド政府専用機墜落で、ポーランドの調査委員会は10日、パイロットと地上管制官の交信の分析に基づき、機体が爆発によって空中分解した可能性が高いとの結論に達したと発表した。

レフ・カチンスキ大統領ら96人が死亡したこの墜落は、両国の調査では人為的ミスと悪天候が原因とされていたが、かねてポーランドの政党から疑義が呈されていた。
 
メディアに公開された説明動画によると、調査委は墜落した政府機について「爆発が起きた可能性がかなり高い」とみている。

爆発原因に関しては、調査委が実施した実験から「高温と高圧衝撃波を出すサーモバリック(熱圧)爆弾の可能性が最も高い」と判断している。
 
ロシア西部スモレンスクで発生し、政府高官ら乗客と乗員の全員が死亡したこの墜落をめぐっては、カチンスキ大統領の双子の兄ヤロスワフ・カチンスキ元首相が党首を務める与党「法と正義(PiS)」が事故ではなかったと主張してきた。
 
墜落はポーランドとロシアの陰謀によるものだったとするアントニ・マチェレウィチ国防相は先月、以前の調査で「外交的な国家反逆」に手を染めたとして、当時首相だったドナルド・トゥスク欧州連合(EU)大統領を非難している。
 
「法と正義」は2015年に政権の座についた後、新たな調査に乗り出した。【4月11日 AFP】
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いささか政治的な臭いもする話ではあります。

ポーランドの政府系調査機関は2月、ワレサ元大統領が共産主義政権時代に秘密警察の協力者だったことを裏付ける新証拠が見つかったとも発表しています。

当時の政治情勢を考えれば、秘密警察と何らかのつながりあっても不思議ではないようにも思えますが、何かと政治的“陰謀”が絶えないお国柄のようです。

【ダイナミックなヒトの移動でもあって活況を呈するポーランド経済】
話を今に戻すと、先述のようにポーランドはEU結束にとって“厄介”な存在ともなっています。

ポーランドのシドゥウォ首相はイギリスが離脱した後のEUの将来像を巡る「ローマ宣言」について、ポーランドが重要と考える項目に言及していなければ採択しない可能性があるとの見解を明らかにしています。【3月23日 ロイターより】

一方で、ポーランドなど東欧諸国は、西欧への移民やEU域内の自由貿易を通して、EUに加盟することによる最大の利益享受者でもあります。

****EU危機「どこ吹く風」のポーランド****
英国離脱を好機とする「経済優等生」
極右ポピュリズムで大荒れの欧州連合(EU)で、欧州統合の利点を味わっているのが、旧共産圏の中・東欧諸国だ。

中でもポーランドは、白物家電など大衆消費財の生産から、金融サービスまで手掛けて、米金融大手「ゴールドマン・サックス」など世界企業の誘致に相次いで成功し、英国のEU脱退(BREXIT)の最大の受益者になるとの予測まである。
 
ポーランドを「EU統合の優等生」と呼ぶと、欧州委員会があるブリュッセルでは、眉を顰められる。ベアタ・シドウォ現首相が率いる「法と正義」党政権が一昨年十一月に誕生して以来、強権的・独裁的手法でEUやドイツ、フランスとの関係を悪化させた。(中略)

日本の高度成長期のよう
一方で経済は好調。昨年の国内総生産の伸び率は三・一三%、今年も予測は三・〇%と、トゥスク時代と比べ何ら遜色はない。
 
牽引車は米国や西欧企業の進出。EU加盟国の利点がフルに生きる。
 
三月には、米国の白物家電大手「ワールプール」社が、フランスのアミアン工場をほぼ引き払って、ポーランドに「欧州・中東・アフリカ」拠点を置くと発表して、フランスに衝撃を与えた。

フランスは大統領選が佳境の時期とあって、「脱EU」を掲げる極右「国民戦線(FN)」に、「だから言っただろ」と、格好の武器を与えた。
 
移転先はポーランドのほぼ中央に位置するウッチ市。(中略)

この都市には、ワールプールだけでなくドイツのシーメンス、ボッシュ両社、イタリアのインデシット社などが工場進出し、フランス紙の経済部記者が「今や欧州の『白物家電の首都』と呼ぶべき存在」と紹介するほど、米欧の家電大手を集めている。

日本企業のワルシャワ駐在員は「もともとは繊維の拠点で、今が家電ですから、日本の高度成長期をなぞるように発展している」と言う。(中略)
 
人気の理由の一つは、ウッチの位置。ポーランドの真ん中にあるばかりか、モスクワとパリのほぼ中間にあり、広域欧州の中心と言える。中国の「一帯一路」構想で、中国と独デュイスブルクを結ぶ鉄道も、ウッチを通過する。
 
進出企業は取材を拒否しているが、地元メディアの潜入取材によると、工員の賃金は月額五百ユーロ(約六万円)以下で、法定最低賃金を少し超える程度。西欧に比べ三分の一の人件費がポーランドの大きな魅力であるのは間違いない。

人材流出・空洞化にも耐える国民
興味深いのは、成長を支えるのは、国内に取り残された人々であることだ。
 
ポーランドは〇四年のEU加盟後、医師から大工まで技術を持った成人が、どっと西欧に移住し、英国だけで百万人、ドイツでは七十万人超と、途方もない規模での頭脳・労働力流出が続いた。
 
それ以前には、米国に向かった。十九世紀から移住が続き、米国に住むポーランド系は約一千万人。(中略)ポーランド人のベテラン政治記者は、「骨があるやつは、みんな出て行った」と言う。
 
それでもなお、米欧大手の進出に応える余力があったのか。前出の日本企業駐在員は、「空白ができた分は、ウクライナやロシアからの移民で埋めているようだ。進出企業は法定最低賃金ギリギリでも、働き手を集めている」と言う。

内戦で国内経済がマヒ状態のウクライナ、停滞が続くベラルーシなど、旧ソ連の人材を扱う派遣会社、リクルート業界が急成長中だ。
 
前出ポーランド人記者は、「ソ連支配、『連帯』時代から経済改革、金融危機と、記者人生で何度、『ポーランドはもう終わり』と書いたことか。その都度耐え忍び、我慢する国民性には脱帽だ」と言う。
 
今後はコストだけでは勝負できなくなる、「中進国のワナ」をどう避けるかがカギとなる。ポーランドが力を注ぐのは、金融サービス業など、事務代行やサービス産業への移行である。旧共産圏時代から、高等教育には熱心だったことが生きて、英語を話し、事務能力の高い人材は常時供給可能だ。
 
ゴールドマン・サックスはワルシャワに地域統括事務所を置き、三百人を雇用している。仏銀行大手「BNPパリバ」のワルシャワ事務所が七百人など、西欧から移った金融サービス業は全体で三万五千〜四万五千人を雇用するという。

「ロンドンからの帰還組が増えていると聞く。英金融街で武者修行した連中なので、即戦力とされる」と前出の日本企業駐在員は言う。
 
地元業界団体の予測では、英国のEU離脱後は、ロンドンから最大三万人が移る。フランクフルトやパリを差し置いて、ポーランドが「最大の勝者」になる見込みだ。
 
ポーランドに引っ張られ、中・東欧各国の経済は好調だ。スロバキアは自動車産業誘致で、早々に「東欧のデトロイト」の異名をとり、今はユーロ圏の一角として「脱デトロイト」で成長を狙っている。

チェコは一人当たりGDPが旧共産圏のEU加盟国の中で最高で、ギリシャやポルトガルを抜く勢い。失業率は三%台で、EU最低である。
 
ビクトル・オルバン首相の強権体質が嫌われるハンガリーも、最近は二〜三%の成長。この四カ国のGDP合計は、インドネシアやオランダに匹敵する水準である。
 
三月下旬に、EU創設の起源となった「ローマ条約」調印から六十年を迎え、世界中のマスメディアが「危機の欧州」「アンハッピー・バースデー」の論調であふれた。不満の多さでは、東欧も負けてはいないが、EU加盟の実はちゃっかり取っているのである。【「選択」4月号】
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なんだかんだEUに対して文句はいいつつ、EU加盟による利益はしっかり受けている・・・という話のようです。

記事にもあるように、以前は西欧諸国への人材流出で国内経済・社会が揺らいでいる・・・と言われていましたが、更に東のウクライナ・ベラルーシからの労働力を入れることで持ち直したようです。

イギリスの離脱で、人材が戻ってくるとも。

カネやモノだけでなく、ヒトが動くことで社会・経済はダイナミックに変容し、基本的には所得が平準化する方向に収れんする・・・というモデルケースでしょう。

グローバリズムが各国で格差拡大を起こしているというのは、こうしたダイナミックな変動を妨げるものがあるからでしょう。その大きな阻害要因のひとつは、おそらく社会におけるヒトの職業間の移動でしょう。

もちろん、そのことへの対応はケースバイケースです。
ヒトは簡単には動けないのだから、ヒトに合わせた経済システムにすべきだと考えるか、ヒトの流動化を可能にする方策を考えるか・・・。

トルコ  大統領権限強化の憲法改正国民投票の予測は“五分五分” 権限強化でもたらされるのは“独裁”か

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(支持者の前で演説するエルドアン大統領 4月9日 【4月11日 Newsweek】)

【西欧在住トルコ人票掘り起こしで西欧諸国との軋轢を強める】
トルコではエルドアン大統領が進める、大統領に広範な行政の権限を集中させる憲法改正に関する国民投票が数日後の4月16日に行われます。

憲法改正が成立するかどうかは五分五分という微妙な情勢で、それだけにエルドアン政権は成立に向けた取り組みを強化しています。

そうした賛成票掘り起こし策の一つが、西欧に460万人も暮らすという在外トルコ人の票の取り込みです。
トルコ政府は、西欧各国で憲法改正案支持の集会を企画し、そこに閣僚を派遣しています。

一方でこのような取り組みは、3月15日に行われたオランダ総選挙に絡んで、オランダ政府がトルコ政府閣僚の入国拒否、トルコ側は“ナチズム”という最大級の言葉を使って批判する・・・といった、トルコと欧州各国の間の軋轢を招いています。

****緊張が高まるトルコと西ヨーロッパ諸国****
<4月16日に実施される憲法改正の国民投票に向けて、在外投票者の取り込みをもくろむエルドアン大統領。トルコと西ヨーロッパ諸国との関係が急激に悪化している。>

2月24日のコラムでトルコとEU諸国の溝が深まりつつあると指摘したが、3月に入り、その状況に拍車がかかっている。その理由は、トルコで4月16日に実施されることが決定した憲法改正の国民投票である。

憲法改正を実現するために在外投票者の取り込み
国民投票は過半数を越えれば憲法改正となるが、現在のところ、憲法改正の可能性は五分五分と言われている。憲法改正を実現するために、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領および与党の公正発展党は賛成キャンペーンを展開しており、特にエルドアン大統領と公正発展党が力を入れているのが、ヨーロッパに住む在外投票者の取り込みである。

トルコ外務省によると、現在海外に住むトルコ人は約550万人であり、その内の約460万人が西ヨーロッパに住んでいる。西ヨーロッパの国々とは、ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、スイス、オーストリアを指し、場合によってはイギリスとアイルランドも含まれる。

なぜ在外トルコ人は西ヨーロッパに多いのだろうか。

この理由は、1950年代から70年代にかけて、経済成長を遂げていた西ヨーロッパ諸国が労働者を海外から募った政策に端を発している。一方のトルコ側も労働力が余剰気味であった。

1973年の石油危機後、西ヨーロッパ諸国は海外から労働者の募集を停止したが、トルコ人の多くはそのまま西ヨーロッパ諸国に定住し、家族を呼び寄せるなどしたため、その数はその後も増え続けた。

最も多くトルコ人が住むドイツでは、約300万人のトルコ人が暮らしている。フランスには約80万人、オランダには約50万人、オーストリアには約18万人が暮らしている。

西ヨーロッパのトルコ人の政治意識
それでは、西ヨーロッパのトルコ人の政治意識はどのようなものだろうか。2015年の2度の総選挙の西ヨーロッパでの結果を示したのが表1(略)である。

ドイツ、フランス、オランダといったトルコ人が多く住む諸国家ではトルコ本土以上に公正発展党の支持が強い。一方、スイスやイギリス連邦では人民民主党が高い支持率を誇り、公正発展党の支持率を上回っている。

また、投票者数を見てもわかるように、有権者の選挙に参加する割合はあまり高くないようである。公正発展党はこの点に目を付け、特に自分たちの支持率が高い国でさらに票を掘り起こそうとしたのである。

公正発展党政権は、西ヨーロッパで賛成票をより多く集めるために、各国で集会を企画し、そこに閣僚を派遣する行動をとっている。

しかし、この行動に対し、各国が懸念を示している。オーストリアではクリスティアン・ケルン首相がトルコの閣僚がEU域内での集会に出席すべきでないという立場を明確にしている。

また、ドイツでもいくつかの州で集会が取りやめとなり、3月8日にドイツを訪問したメヴルット・チャヴシュオール外相がドイツの姿勢を批判した。

強硬な態度をとったのオランダの事情
そして、この政治集会に関して最もトルコに強硬な態度をとったのがオランダであった。まず、3月11日にオランダ政府は、集会に参加する予定であったチャヴシュオール外相のオランダへの入国を認めなかった。次いでファートマ・ベトゥル・サヤン・カヤ家族大臣のロッテルダムのトルコ領事館への入館を認めず、オランダ警察がカヤ大臣をドイツに送還した。

トルコ政府はこの2人の閣僚へのオランダ政府の対応に激怒した。

エルドアン大統領やチャヴシュオール外相はナチズムという単語を使い、オランダの対応を非難した。最大野党の共和人民党のケマル・クルチダールオール党首も「オランダの非礼な対応は受け入れられない」として、この問題については政府を支持すると述べた。

また、ロッテルダムのトルコ領事館前やイスタンブルのオランダ総領事館前では、オランダの対応を非難するトルコ人のデモが起こった。

なぜオランダ政府はこのような対応をとったのか。オランダは3月15日に総選挙を控えており、特に移民を標的とする極右政党の自由党が躍進するのではと予想されており、与党の自由民主党がトルコに対して弱腰の姿勢を見せることが選挙に不利になると判断した可能性がある。

マーク・ロッタ首相はトルコとの外交問題が穏便に解決することを望むと発言したが、トルコは3月13日にオランダに対して、2国間の全てのハイレベルな外交関係の停止と、大使を含む外交官のトルコへの飛行機の着陸の禁止という制裁を発表した。

ニュマン・クルトゥルムシュ副首相は今後の展開次第では経済制裁を含むさらなる追加制裁もトルコが取り得ることを示唆した。

トルコとEUの関係悪化はさらに続く
西ヨーロッパ諸国との関係は4月16日の国民投票まで緊迫した状況が続くことが予想される。

前回のコラムで筆者はEUにとってトルコは移民の防波堤であると書いたが、この点に関しても最近チャヴシュオール外相やオメル・チェリクEU担当大臣が「もしEU側がトルコ人に対するビザの自由化を認めないのであれば、2016年3月18日に結んだ協定を見直す可能性がある」と発言している。

トルコとEUの関係悪化は9月に予定されているドイツの連邦議会選挙まで続く可能性が高い。その際、トルコが移民の規制を盾にどこまでEU諸国を揺さぶるのか、それに対してEU諸国でナショナリスト政党を含め、どのような対応が見られるのか、今後も目が離せない状況にある。【3月16日 今井宏平氏 Newsweek】
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もともと西欧・EU諸国とトルコとの関係は、難民問題対応で合意された“トルコ人に対するビザの自由化”が一向に進まないことへのトルコ側の不満、クーデター未遂事件後急速に強権的支配を強めるエルドアン政権に対する欧州側の不満という、「悪化」の方向のベクトルが強く作用しています。

憲法改正国民投票をめぐる混乱は、この「悪化」のベクトルをさらに強めています。

****国民投票後、EUとの関係を全面見直しへ―トルコ大統領=CNN****
トルコのエルドアン大統領は(3月)23日、大統領職の権限強化に関する国民投票を4月16日に控え、実施後に欧州連合(EU)との政治・行政上の関係を全面的に見直す意向を示した。これには不法移民の問題も含まれるという。ただ、経済関係は維持する方針。

エルドアン大統領はCNNトルコとのインタビューで、国民投票後に欧州との関係を「AからZまで」見直すと話した。

さらに、5月には米トランプ政権と「直接」協議すると明らかにした。エルドアン大統領とトランプ大統領は双方ともポピュリスト(大衆迎合主義者)であり、両者の関係は注目されるとみられる。

一方、トルコとEUとの関係は悪化している。欧州に住むトルコ人に国民投票で賛成票を投じるよう呼び掛ける集会が、複数の国で拒否され、エルドアン大統領はオランダを「ナチスの残党」、ドイツを「ファシスト的」と批判した。この中でガブリエル独外相は23日、EUはトルコとの外交チャネルを開いておくべきだと述べた。【3月24日 ロイター】
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【国内では、極右・クルド人票取り込みへ】
一方、エルドアン政権の国民投票に向けた対応は、トルコ国内にあっては、与党である公正発展党と極右のナショナリスト政党の民族主義者行動党の連携、従来の与党の票田でもあったクルド人票の取り込み・・・といった動きにもつながっています。

****迫るトルコの国民投票:憲法改正をめぐる政治力学****
<4月16日のトルコの国民投票まで1週間を切った。大統領に広範な行政の権限を集中させる憲法改正案の実現は五分五分と見られている>

4月16日に実施される憲法改正の国民投票が間近に迫ってきた。1月20日にトルコ大国民議会で336議席の賛成によって18項目の憲法改正案が国民投票にかけられることが決まってから2ヵ月半が経ったが、国民投票は当初予想された展開とは異なった様相を見せ始めている。

「ナショナリズム同盟」の結成
2014年8月にトルコ共和国で初めての国民の直接投票による大統領選挙で大統領に就任したレジェップ・タイイップ・エルドアンは、行政権を持つ「実権的な大統領制」を強く主張した。

しかし、当初、その考えは公正発展党の支持者を除く国民には受け入れられなかった。2015年6月7日の総選挙で公正発展党が初めて単独与党となれなかった要因の一つにも公正発展党出身のエルドアン大統領の政治への関与と実権的大統領への言及が指摘された。

しかし、2016年7月15日のクーデタ未遂事件がこの状況を劇的に変化させた。軍部の一部の将校が起こしたクーデタの試みを防ぐとともに、国家の危機に国民が団結すべきであると主張したエルドアン大統領への支持が高まり、従来の公正発展党の支持者だけでなく、トルコ人というナショナリズムを重視する第4政党の民族主義者行動党の支持者の1部もエルドアン大統領と公正発展党に肩入れするようになった。(中略)

これは公正発展党にとっても願ってもないチャンスとなった。憲法改正に関しては、大国民議会の全550議席中367議席の賛成があれば議会を通過し、大統領が承認するだけで改正となる。
また330議席の賛成があれば、議会通過後、国民投票でその是非を問うことが可能である。

公正発展党は316議席を有しているが、それだけでは367議席はおろか330議席にも達しない。そのため、40議席を有する民族主義者行動党の協力は公正発展党にとっても憲法改正に関する国民投票を実施するために必要不可欠であった。

親イスラーム政党であるとともに中道右派政党でもある公正発展党と、極右のナショナリスト政党の民族主義者行動党の「ナショナリズム同盟」は12月10日に21項目の憲法改正を大国民議会で審議することを要請し、2017年1月20日に両党の議員339人の賛成で18項目の憲法改正案が大国民議会で承認された。

「ナショナリズム同盟」の綻び
4月16日の国民投票まで1週間を切ったが、憲法改正の実現は五分五分と見られている(注:憲法改正に反対しているのは、最大野党の共和人民党とクルド系政党の人民民主党である)。

賛成派が苦戦している要因の1つとして、思ったよりも民族主義者行動党の支持者の賛成票が伸びていない点が指摘されている。(中略)

クルド人を取り込む戦略
エルドアン大統領とビナリ・ユルドゥルム首相は民族主義者行動党の支持者が必ずしも憲法改正に賛成していない現状を受け、国内ではクルド人からより多く票を獲得する戦略も実行に移している(国外では、以前の「緊張が高まるトルコと西ヨーロッパ諸国」で触れた西ヨーロッパに住むトルコ人の票田の開拓を目指した)。

あまり知られていないが、公正発展党に投票するクルド人は多い。クルド人と一口に言ってもイスラームに傾倒している保守的なクルド人もいれば世俗的なクルド人もいる。保守的なクルド人は公正発展党の重要な票田である。


ただし、2015年6月の選挙でクルド系政党の人民民主党が得票率を伸ばし、議席を獲得したこと、トルコ政府と非合法武装組織のクルディスタン労働者党(PKK)の間で進められていた和平交渉がとん挫したことを受け、公正発展党に対するクルド人の期待は減退した。

ナショナリスト政党であり、クルド系政党とは相いれない民族主義者行動党と公正発展党の協力が進んだことがこれに拍車をかけた。

しかし、3月下旬から再び公正発展党がクルド問題の解決に乗り出す兆候が見られる。

和平交渉の中心人物の一人であった人民民主党のスル・スレヤ・オンデル議員は3月30日、近いうちに彼とペルヴィン・ブルダン議員がベキル・オズダー法務大臣とクルド問題の解決に向けた話し合いを行うと発表した。これはエルドアン大統領と公正発展党が再びクルド人を取り込む戦略に出たのではないかとも噂されている。

このように、憲法改正に向けた国民投票は接戦と見られており、さまざまな政治的な駆け引きが展開されている。どちらに転ぶか最後まで目が離せない。【4月11日 今井宏平氏 Newsweek】
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【無関心あるいは宥和的な欧米が許す「独裁」への道】
クルド人票を取り込もうとするエルドアン政権ですが、2015年総選挙で公正発展党を過半数割れに追い込んだクルド系の野党・国民民主主義党(HDP)のセラハッテイン・デミルタシュ共同党首は、テロ組織との関係を理由に拘束されています。

憲法改正で大統領権限を強化したいエルドアン大統領ですが、HDPへの対応にも示されるように、すでに十分すぎる実質的権限を有しており、このうえ権限が強化されれば、それは“独裁”への道ではないかと思われます。

近年のエルドアン大統領による強権政治の進行をもたらしたのは、アメリカ・欧州のエルドアン大統領への宥和的な対応ではないかとの批判もあります。

アメリカは中東・IS対策において、トルコの協力を必要としています。
欧州・EUは、難民問題を人質に取られた形にもなっています。

西欧・EU諸国がトルコの政治体質への不満を持っており、トルコとの関係悪化が懸念されていることを取り上げましたが、難民問題という人質がなければ、西欧的民主主義から急速に離れていくエルドアン政権への批判はもっとストレートで強いものになっているだろうと思われます。

****トルコを脅かす「ありふれた」独裁****
憲法改正でエルドアンは絶対権力者に? 欧米の沈黙が民主主義崩壊の危機を招いた

・・・・・(2015年総選挙敗北を受けて)再度の総選挙で過半数の議席を回復するには、AKP(公正発展党)にとって有利な国内情勢をつくり出す必要がある。(2015年)11月までにいかにそれを実現するか?

AKPが見つけた答えが、クルド人との対立激化だ。6月の総選挙で、エルドアンの野望を阻止しようとクルド系のHDPに投票した有権者を取り込むことが目的だった。
 
15年7月、エルドアンは武装組織クルド労働者党(PKK)の拠点の空爆に踏み切る。首相時代の最大の実績の1つで、13年に実現した政府とPKKの停戦を自ら破ったのだ。
 
アメリカは停戦を支持していたにもかかわらず、戦闘再開に対してほとんど反応を示さなかった。時折聞こえてきたトルコ情勢関連の発言は、エルドアン寄りのものばかりだ。(中略)

国際社会は無関心のまま
その理由の1つは、エルドアンがアメリカの望みどおりの決定をしてくれたことにある。
 
(2015年)6月の総選挙の前から、米政府はシリアでのISIS掃討作戦展開のため、トルコ南部にあるインジルリク空軍基地の使用を許可してほしいと求めていた。

トルコ側はこの要請を拒否し続け、アメリカ主導の有志連合への参加も拒んでいたが、総選挙のわずか数週間後に米軍による基地使用を承認。対ISIS空爆作戦への参加も決断した。

エルドアンはヨーロッパ各国の「黙認」を取り付けることにも成功した。膨大な数のシリア難民の流入に悩んでいたEUは、中東と欧州の間に位置する国として難民・移民対策のカギを握るトルコの協力を得るべく、批判を控えるようになった。
 
クルド人との戦闘と新たに開始された選挙戦が同時進行するなか、15年の夏と秋は過ぎていった。エルドアンは、AKPが過半数議席を占めることが政治の安定の要であり、トルコにとって最も安全な道だと主張した(不安定状態の主な要因は彼自身の政策にあったのだが)。
 
そのおかげか、H月初めに実施された再度の総選挙でAKPは過半数議席を回復した。その後に続いたのがメディア、学界、司法や車を標的にした政治的弾圧だ。

たまりかねた軍の一部は昨年7月半ばにクーデターを画策したが、失敗に終わった。
 
クーデター未遂事件を受けて政府が発令した非常事態宣言は延長を繰り返し、今も続く。16日の国民投票でエルドアン支持派が勝利すれば、ほぼ無期限に継続されることになりかねない。
 
トルコ政治はこの3年間、行政権を掌握した大統領として国家に君臨するというエルドアンの野望と、憲法改正に向けた動きに振り回されている。
 
アメリカとヨーロッパはそれぞれISIS掃討と難民問題に気を取られ、目先の政治的利益を優先してエルドアンの行き過ぎを許容してきた。

その結果、独裁的政権の誕生を許し、中東における数少ない民主主義国家の崩壊という長期的問題の種をまいている。
 
HDPなどの野党は国民投票で反対票を投じようと訴えているが、欧米各国からその動きを支持するとの声はほとんど上がらない。

トルコ国民の間では憲法改正への賛否は措抗しているが、楽観視はできない状況だ。
15年6月の総選挙後のAKPの行動を考えれば、反対が過半数を占めてもエルドアンが素直にそれを認めるとは考えられない。
 
トルコが独裁国家に堕したら、国際社会はどう反応するのか。
HDPのデミルタシユの短編小説には、それを予言するかのようなくだりがある。
 
アレッポで新たな爆発事件が起きたとき「通勤途中の人々はまだそのことを知らなかった。彼らは直にそれを耳にするだろう。だが多くの人は『ありふれた』爆発だ、詳しく知る価値もないと思うだろう」。【4月18日号 Newsweek日本語版】
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“豹変”するトランプ外交 習近平主席との「絆」が試される北朝鮮問題 今後シリアをどうするのか?

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(「準備完了」とされる北朝鮮・豊渓里の核実験場を撮影した衛星画像【4月13日 AFP】)

【習近平国家主席との「絆」 ロシアとの関係は史上最悪】
価値観に基づく信念とか総合的・基本的戦略とかはあまりないようにも思えるアメリカ・トランプ大統領の対応が、そのときの状況で“豹変”というか急転換するのは毎度の話ですが、それをご都合主義あるいは節操がないと見るのか、臨機応変・果敢に対応していると見るのか、あるいは、学習・経験で“大統領”として進化していると見るのか(世界で一番影響力のある指導者が学習を必要とするレベルなのも困りますが)、いろいろ意見は分かれるところでしょう。

シリア・アサド政権に対するミサイル攻撃を受けて、トランプ政権の外交姿勢も随分と変わってきています。

****トランプ氏が対外政策を急転換、中国に接近 対ロ関係悪化****
米国のトランプ大統領が就任から3カ月足らずで、対外政策を急転換している。

トランプ氏は、就任前から繰り返し中国を批判、同国を為替操作の「グランドチャンピオン」などとこき下ろしていた。北大西洋条約機構(NATO)についても「時代遅れ」と述べ、ロシアとの関係改善を目指していた。

ところが12日の一連の会見やインタビューでは、対ロ関係の悪化と対中関係の改善に言及。NATOについても、世界の脅威の変化にうまく対応していると持ち上げるなど、態度を一変させた。

ストルテンベルグNATO事務総長との共同会見に臨んだトランプ氏は「私はNATOは時代遅れだと語った。もはや時代遅れではない」と発言。米ロの接近に神経を尖らせていた欧州諸国の懸念が後退する可能性がある。

対中関係については、習近平・中国国家主席との「絆」に言及。中国の台頭を警戒するアジア諸国の間に困惑が広がるとの見方も出ている。

政権内部では、黒幕と呼ばれたバノン首席戦略官が、大統領の娘婿クシュナー上級顧問と対立。バノン氏の影響力低下が指摘されている。

<「史上最悪の冷え込み」>
トランプ氏は、選挙戦の最中の昨年9月、「(ロシアのプーチン大統領が)私を称えれば、私も(プーチン氏を)称える」と発言。プーチン氏との関係強化に意欲を示していた。

ところが、この日は、シリアのアサド大統領を支持するプーチン氏に懸念を表明。「ロシアとの関係は、もしかしたら史上最悪に冷え込んでいるかもしれない」と述べた。

一方、フロリダの別荘で会談した中国の習主席については、「絆」で結ばれていると発言。会談前は「厳しい」通商交渉を予想していた。

また、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙とのインタビューでは、中国を為替操作国には認定しない意向も表明。選挙期間中は、就任初日に同国を為替操作国に認定すると主張しており、見解を180度転換した格好だ。

オバマ前政権で国防次官を務めたクリスティーン・ワーマス氏は、トランプ氏について、就任直後は「(外交政策の)習得に困難を来たしていた」が、その後「多くの問題について、以前よりも繊細な、深い理解を示し始めている」と分析している。

この日の一連の発言は、選挙期間中の側近の影響力が低下し、マティス国防長官、ティラーソン国務長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)の影響力が増していることを浮き彫りにしたといえそうだ。3氏はいずれも、ロシアを強く警戒している。

トランプ政権では今年2月、大統領補佐官に起用されたマイケル・フリン氏が、政権発足前にロシア大使と会談していたことが発覚し、辞任を余儀なくされた。バノン首席戦略官も、クシュナー上級顧問と対立しており、トランプ氏が事態の打開を目指す中での、一連の発言となった。

トランプ氏は11日付のニューヨーク・ポストとのインタビューで「スティーブ(・バノン氏)は好きだが、彼が私の陣営に参加したのは(選挙戦の)最終盤だ」と発言。バノン氏を強く支持する発言を避けている。【4月13日 ロイター】
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選挙期間中以来の中国批判・公約から“中国を為替操作国には認定しない”と急変した背景には、“中国はここ数年、人民元安・ドル高を抑制する為替介入を行っており、認定するとかえってドル高が進む可能性があった。”【4月13日 毎日】という現実があります。

トランプ大統領もそうした現実に目を向けるようになったということでしょうか。
それにしても“習近平・中国国家主席との「絆」”というのも、「そこまで言うか・・・」という感も。

【「絆」が試される北朝鮮問題 北朝鮮は核実験準備完了とも】
シリア攻撃を会談中の習主席に伝えたときの様子は、トランプ大統領自身が以下のように明らかにしています。

****トランプは習近平とチョコレートケーキを食べながらシリアを攻撃した****
<アメリカによるシリア攻撃を晩餐会の席でトランプから知らされるという不意打ちを喰らった習近平。2超大国の首脳を衝突から救ったのはチョコレートケーキだった>

・・・・「私たちはテーブルに着き、晩餐後のデザートを食べるところだった。これまで食べた中で最高に美味しいチョコレートケーキだった。習も堪能していた」。その間に習に「イラクに59発のミサイルを発射した」と伝えたという(イラクというのはシリアの言い間違いだ)。

フリーズした習近平
シリア攻撃を習に知らせるタイミングについてトランプは、「パームビーチでの会談後すぐに帰国を控えていたため、食事の間に伝える必要があった」と言った。中国に到着してから習近平の耳に入るのは避けたかったという言い分は理解できる。

「彼は10秒ほど答えなかった」とトランプは、その瞬間を説明した。「それから習は再度通訳するよう求めたが、それは良いサインではないと思った。しかし習は私に向かって『幼い子供や赤ん坊に対して化学兵器を使ったやつなら仕方がない』と言った。彼はOKと言ったのだ」

チョコレートケーキは、2つの超大国の指導者が緊張高まる北朝鮮問題について話し合った米中首脳会談の終わりも飾った。

「中国との関係は非常に進展した」とトランプは言い、「習との関係が発展したのは素晴らしいと思う。今後とも面会を重ねることを楽しみにしている」と語った。

美味なるチョコレートケーキの外交力を侮ってはいけない。【4月13日 Newsweek】
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“OK”と了解した習近平主席の反応・思惑が注目されるところですが、それはまた別機会で。

北朝鮮問題で「軍事行動も厭わない」「何をしでかすかわからない」というトランプ大統領の与える恐怖が功を奏したのか、あるいは強い「絆」のせいか、シリア問題に関する国連安保理での中国の対応は、それでのロシア同調の“シリア非難決議に反対”から“棄権”に変わっています。

そのことは、トランプ大統領をいたく喜ばせてもいます。

****<米国>「大きな勝利」中国棄権評価 安保理シリア非難決議****
ホワイトハウス高官は12日、シリアに関する国連安保理決議案の採決で中国が棄権に回ったことについて「大きな勝利だ」と高く評価した。米南部フロリダ州パームビーチで6〜7日に開いた米中首脳会談による成果だと強調した。
 
中国は今年2月に同様の決議案を採決した際、ロシアとともに拒否権を行使している。ティラーソン米国務長官によると、習近平国家主席は6日夜の夕食会で、シリア攻撃を知らされた際、米軍の行動に「理解を示した」とされている。【4月13日】
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北朝鮮問題に関しては、何としても朝鮮半島有事は避けたい中国側がトランプ大統領に譲ったような形にもなっています。

****米中、急接近か=シリア・北朝鮮対応で変化****
・・・・しかし、12日のホワイトハウスでの記者会見では、中国の習近平国家主席について「昨晩、既知の人物と(電話で)話した。プーチン・ロシア大統領は知らないが、彼とは多くの時間を一緒に過ごした」と紹介。「習氏との相性は非常に良い」と強調した。
 
米政府高官は、首脳会談でトランプ氏の孫娘アラベラちゃん(5)らが習主席夫妻に中国語の民謡などを披露したことが「(両首脳の)関係に大きな影響を与えた」と説明した。
 
米中両国は北朝鮮の核・ミサイル問題への対応をめぐって溝があるとみられていた。米側が軍事行動も辞さない強硬姿勢を示す一方で、中国は対話に基づく平和解決に固執しているためだ。
 
トランプ氏は記者会見で、中国が北朝鮮石炭船の入港を認めなかったことを評価。「中国はこれ以外にも多くの別の措置を用意している」と述べ、習氏との間で何らかの取引があったことをにおわせた。【4月13日 時事】
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孫娘アラベラちゃんの歌った民謡「茉莉花」は、歌手としても有名な彭麗媛夫人のレパートリーでもありますが、ジャスミン革命が激化した当時は中国共産党が波及を恐れてこの歌の歌唱を規制したともいわれている曲で、中国ネット上ではいろいろ取り沙汰されているという話もあるようです。【4月10日 産経より】

それはともかく、孫娘アラベラちゃん云々はほほえましい話ではありますが、シリア攻撃に関しては娘のイバンカさんの助言が大きかったという話など、「トランプ一家の対応で世界は動くのか?」という感も。

現実世界に戻ると、衛星写真の分析結果によれば、北朝鮮北東部・豊渓里の核実験場で新たな核実験の「準備が完了し、待機中」だと発表されています。【4月13日 AFPより】

トランプ・習近平の間の「絆」だか「取引」だかが、どのような結果をもたらすのか・・・・。在日米軍をかかえ、有事の際には後方支援に動く日本としては他人事ではありません。

アメリカの事前研究によれば、北朝鮮から報復の核爆弾が東京・大阪に撃ち込まれれば、双方とも50万人近い死者が出るという数字も出されているとか。

【戦略なき攻撃で複雑化したシリア情勢をどうするのか?】
中国・習近平主席と「絆」で結ばれる一方で、急速に悪化したのがロシア・プーチン大統領との関係です。

訪ロしたティラーソン米国務長官とロシア・ラブロフ外相の会談の最中に、プーチン大統領がTVインタビューで「特に軍事面における実務的な信頼レベルは改善しておらず、むしろ悪化したと言える」と発言したことが発表されています。(会談中に発表するというのは、米中会談中にシリア攻撃を中国に報告したことへの当てつけでしょうか)

****ロシア孤立化図るトランプ政権 アサド政権への働きかけが試金石に***** 
トランプ米政権は12日の米露外相会談で、シリアでの化学兵器攻撃にも関わらずアサド政権を支えるロシアの孤立化を図った。

トランプ大統領は表面上は関係改善をうたいながらも、ロシアからの圧力にさらされている欧州で北大西洋条約機構(NATO)の共同防衛を強化し、対露追加制裁も視野に入れる。「孤立主義者」の色は薄れた。(中略)
 
ティラーソン氏は12日、外相会談後の共同記者会見で2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合に端を発する対露制裁を維持すると強調。米大統領選へのロシアの干渉疑惑をめぐる追加制裁の可能性にも言及した。
 
シリアでのイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討作戦には、優勢にあるアサド政権を支援するロシアの協力が不可欠なのも事実だ。

ティラーソン氏は「ロシアには緊密な同盟者としてアサド氏に現実を認識させる手段がある」と迫った。ロシアがアサド氏の「残虐な攻撃」(トランプ氏)をやめさせられるかが今後の米露関係にとり試金石となる。【4月13日 産経】
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****米軍シリア爆撃、今後も継続か=緊迫する米露、偶発的衝突の恐れあり****
2017年4月12日、国際情報筋は6日の米軍によるシリア軍事施設攻撃について言及、米軍爆撃が今後も繰り返される可能性が高いと指摘した。

標的が、シリアの軍事施設から同国指導者に向けられた場合、ロシア・イラン両国と米国の間は「直接対決」となる懸念を明らかにした。

またシリア内戦地域における米露間の相互連絡システムが破棄されたため、相互の連絡や調整が途絶えた中で攻撃が実施されれば、偶発的な衝突の恐れもあると警告した。(後略)【4月13日 Record China】
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実際、“ロシアの防空網に引っかかることを恐れた米国のIS攻撃は激減、IS壊滅作戦が遅れる懸念が高まっている”【4月13日 WEDGE】といった支障が出ているようです。

もちろん、トランプ大統領は「われわれはシリアに入っていかない」と明言し、これ以上の“深入り”は否定しています。

では、今後どうするのか?

****突然だったシリア攻撃後、トランプ政権に必要なシリア戦略****
<トランプ政権はアサド政権が化学兵器を使用したとしてシリアをミサイル攻撃したが、その後のシナリオは不透明だ。ロシアやイランがアサド政権の存続に向けて対抗姿勢を強めるなか、トランプは1日も早くシリア政策を打ち出す必要に迫られている>

トランプ米政権はシリアの空軍基地に対するミサイル攻撃に踏み切り、化学兵器を使用したシリアのアサド政権を容赦しないという姿勢を見せつけた。しかしその後シリアをどうするのかという展望はまだ示していない。

トランプ政権は早急に、この新たな状況下でシリアとロシア、ISISがもたらす課題に取り組むための戦略を打ち出す必要がある。一貫した国家安全保障戦略がなければ、この複雑な事態を乗り切るのは困難だ。

筆者はここ6週間で2度シリアに渡航した者として、米軍の特殊部隊がISISやシリア、イラン、ロシア軍部隊にどれほど近いところにいるか知っている。このまま睨み合いが続けば、状況の誤認やちょっとした挑発行為で予期せぬ軍事衝突を招くリスクがある。

アメリカは豊富な証拠を示せ
アメリカが率いる有志連合がこれまでシリアやイラクでISIS掃討作戦を実施できたのは、アサド政権とこれを支援するロシアやイランが黙認していたからだ。だがそれも、もう終わりかもしれない。(中略)

シリア政府軍が化学兵器を使ったと非難するなら、アメリカは証拠を提示し、堅実な外交と確かな軍事力を持ってするほうがいい(中略)

外交から武力行使に切り替えるべきだと言いたいのではない。外交の効果をよりよく発揮するために軍事力の裏付けを使うべきだ、ということだ。

1)・・・・できる限り多くの証拠を提示して対抗しなければならない。その証明ができれば、2013年にロシアがシリアに合意させた化学兵器禁止合意の遵守を改めて求めることができる。

2)ISIS掃討作戦に関わる米軍や有志連合に対する脅しは、今後容認できないとはっきりすべきだ。ロシアが本気でISISの壊滅を目指すというのなら、その証としてシリア上空での偶発的な衝突を防ぐためのホットラインを再開するようロシアに求める手もある。

3)アメリカはイラクやシリアにおける対ISIS軍事作戦という目にばかり捉われず、長年悲惨な暴力に苦しんできた両国にとって満足のいく政治的解決策を見つけられるよう、より広範な支援を打ち出すべきだ。同地域の紛争解決や安定を実現するだけの力を国際社会から結集できるのはアメリカだけだ。【4月12日 Newsweek】
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ただ、トランプ政権は内部対立でシリア政策を策定することがさらに困難な状況になっているとも。
そもそも、基本的な戦略がない段階で攻撃をしかけて、あとはどうするつもりなのか?という話も。

【「証拠」に関する気になる報道】
「証拠」に関しては、以下のような報道も。

****シリア通信を米傍受、化学兵器の証拠か…CNN****
米CNNテレビは12日、化学兵器を使ったとみられるシリア軍の空爆を巡り、シリア軍とシリアの化学兵器の専門家がやりとりした通信内容を、米軍と米情報機関が傍受していたと報じた。
 
米政府高官の話として伝えた。米側は、化学兵器使用の有力な証拠の一つに位置付けている模様だ。
 
ただ、米国はシリアやイラクで大量の通信を傍受しているため、当初は詳細に解析されず、シリアが化学兵器を使うことを米政府は事前に察知できなかったと、同高官は強調しているという。(後略)【4月13日 読売】
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“シリアが化学兵器を使うことを米政府は事前に察知できなかった”とは言っていますが、実際はアメリカは事前に知っており、それを「証拠」として公表すると、化学兵器使用をアメリカが止めなっかたことも明るみに出るために詳細の公表はできない・・・という話でしょうか????。

新疆ウイグル自治区で減少・流出する漢民族 過激派対策としてアフガニスタンのIS掃討に乗り出す中国

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(タクラマカン砂漠のホータン地区に暮らすウイグル人の老夫婦とそのご家族【http://www.yomeishu-online.jp/id269/】 こうしたお年寄りのひげも規制対象でしょうか?)

【民族性・宗教に神経を尖らせる中国当局】
中国が“核心的利益”(自国の本質的な利益に直結すると見なし、自国を維持するために必要と見なす譲ることの出来ない最重要の事柄)とみなす問題の一つが、新疆ウイグル自治区における東トルキスタン独立運動問題です。

現地のおける混乱は、もともとはイスラム過激派とか分離独立といった側面よりは、中国政府当局の民族性を認めない統治政策や漢民族との格差・不公平感への抵抗・不満といった側面が強かったように思われますが、当局の厳しい弾圧が結果的に過激思想の拡大を助長しているようにも見えます。

特に、シリア・イラクのイスラム国(IS)などに参加した戦闘員の中国への還流が懸念されており、中国出身のウイグル人戦闘員らが、自国に戻り「川のように血を流してやる」と脅す動画が公開されていることなどは、3月2日ブログ“中国・新疆ウイグル自治区 当局は大規模軍事パレード IS参加戦闘員は「川のように血を流す」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170302でも取り上げたところです。

当局の締め付け策はさらに厳しさを増しており、民族性・宗教に関する規制が強まっています。

****中国政府、新疆で顎ひげやベール禁止に 4月1日から****
中国の新疆ウイグル自治区で4月1日から、宗教的な過激主義に対する取り締まり強化を目的に、「普通ではない」顎ひげや公共の場でのベール着用、国営テレビの視聴拒否などを禁止する新たな法律が施行される。

従来の規則を拡大した法案が、新疆の議会で29日に採択され、同地域の公式ホームページに公表された。

新法では、駅や空港など公共の場所で働く労働者は、顔のベールを含め体を覆った人の立ち入りを「阻止」し、その人物について警察に報告することが求められる。

また、「テレビやラジオ、その他の公共のサービスの拒否」や宗教的な手続きに従った結婚、子供たちを普通の学校に通わせないことなども禁止される見通し。【3月30日 ロイター】
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「普通ではない」という基準が、取り締まり側の恣意的な運用を招きそうだ・・・ということも、エジプト旅行中のブログでも触れた記憶があります。

締め付けは、(おそらくウイグル人の)地元党幹部にも及んでいるようですが、なんだか奇妙・滑稽に思われるようなものも。

****中国共産党幹部、イスラム教徒の前でたばこ控えて降格に****
イスラム教徒が多く住む中国・新疆ウイグル自治区の地元の共産党幹部が、イスラム教徒の前でたばこを吸うのを控えたところ、「あいまいな政治姿勢」を示したとの理由で役職降格の憂き目に遭ったという。11日の中国国営英字紙・環球時報(Global Times)が伝えた。
 
新疆ウイグル自治区では、ひげを伸ばす、頭にスカーフをかぶる、イスラム教の断食月「ラマダン」に断食を行うなどの宗教的行為を「イスラム原理主義」を象徴するものとみなし、厳しく制限している。
 
同自治区ホータン地区の自治体当局は、地区内の村で党幹部を務めていたジェリル・マトニヤズさんがイスラム教指導者の前でおじけづき、たばこを吸わなかったとして非難する通達を出した。
 
当局関係者は環球時報に対し、たばこを吸う「勇気を出さなかった」マトニヤズさんの行為について「新疆ウイグル自治区における過激な宗教思想に譲歩する」ものだと批判した。さらに、忠実な党員であれば信者の前でも宗教におもねらない世俗主義の意志を示すために、たばこを吸うことを選ぶだろうと語った。
 
また当局はマトニヤズさんが「過激な宗教思想との闘いを率いる」立場にもかかわらず、「過激勢力の脅威に屈した」と強く非難した。「厳しい警告」が与えられたマトニヤズさんは党の役職を剥奪され、一般党員へと降格させられたという。【4月11日 AFP】
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“忠実な党員であれば信者の前でも宗教におもねらない世俗主義の意志を示すために、たばこを吸うことを選ぶだろう”・・・・なんじゃ、そりゃ?という感じですが、本人らはおおまじめです。

【現在は漢民族の「大量進出」ではなく、逆の「大量流出」】
新疆ウイグル自治区の不穏な情勢の根底には、漢民族がこの地に大挙進出してきて、経済発展の恩恵を独占するなどの形でウイグル族との格差・不公平感が大きくなったことがある・・・と言われています。私自身もそうした趣旨のブログを書いてきました。

ただ、“漢民族の進出”というのはすでに過去の話で、現在は新疆から流出する漢民族が多く、共産党指導部は漢民族の引き留めに躍起になっているという指摘があります。

****新疆ウイグルで漢民族「大量流出」 習近平「強権支配」の新たな難題****
中国の新疆ウイグル自治区ではイスラム教徒のウイグル族を中心とする分離独立運動が続いているが、習近平政権の徹底した情報遮断で実態は海外に伝わりにくくなっている。

だが、習政権の意図とは裏腹に新疆では今、漢族の大脱出が加速、中国支配が根底から揺らぎ始めている。戸籍上は漢族人口は変わらないが、実数は過去十年で半減した、ともいわれる。

漢族を狙う連続テロで治安が悪化する一方、成長を支えたエネルギー産業が落ち込み、新疆にとどまる理由が薄れているからだ。

漢族の少子高齢化も人口減少に拍車をかける。新疆の「非中国化」は台湾独立の機運とともに習政権の危機につながりかねない。
 
毎年、三月五日に開会する中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)。約三千人の代表が集まる全体会議以外に、省・市・自治区に分かれた分科会が開かれ、重要度に応じて習主席、李克強首相ら最高指導部が顔を出す。

今年は十日に開かれた新疆ウイグル自治区の分科会に習主席が出席し、「断固として社会の調和・安定を守り、不断に民族の団結を強固にしなければならない」と檄を飛ばした。
 
通り一遍の発言に聞こえるが、この発言にはあるメッセージが隠されていた、と中国の政治学者は指摘する。ポイントは「民族の団結」。一見、ウイグル族など少数民族の独立を牽制する言葉に聞こえるが、実は「新疆在住の漢族に対し、国家と漢族のために新疆に踏みとどまれ」と呼びかけたものだとその政治学者は解説する。

人民解放軍も雲散霧消
一九四四年に東トルキスタン共和国として独立を図った新疆は新中国発足後、軍事制圧され、五五年に現在の新疆ウイグル自治区が置かれた。

以後、中国共産党はウイグル族による新疆の分離独立を阻止するため、人民解放軍による入植や国有企業の進出、石油・石炭開発などで現地の雇用を拡大、多数の漢族を移り住ませ、中国化を強引に進めた。新疆の人口の過半を漢族にすることが目標となった。
 
一九八〇年に新疆の人口は一千二百八十三万人で、そのうち漢族は五百三十一万人と四一%強を占めるまでになった。九〇年代にはタリム盆地の石油、天然ガス開発が本格化、漢族の移住はさらに増え、ウイグル族は限られた居住地に押し込まれ、対立は激しくなっていった。
 
当時は現地の政府機関や国有企業に勤め、新疆に定住すれば、北京、上海並みの給与で、高品質の住宅なども与えられた。物価水準からみれば大変な厚遇だ。

しかも新疆戸籍の子弟は清華大学、復旦大学など中国のトップクラスの大学に優遇枠で入学できるため、子弟の教育も考え、新疆勤務を希望する漢族が多かった。新疆は叩き上げの漢族庶民にとって一旗揚げる夢のパラダイスだったのだ。
 
だが、そうしたストーリーは続かなかった。二〇一四年新疆の人口は二千三百二十二万人に増加。漢族人口も表面的には八百五十九万人に増えたものの、人口比では三七%に低下した。

少数民族は「一人っ子」政策を免除され、もともとイスラム教は産児制限をしない子沢山ということもあり、ウイグル族人口が急増したためだ。表面上の人口統計を取っても、漢族人口の比率は今後、低下の一途をたどり、二〇三〇年には三〇%を割る見通しだ。
 
ただ、今、それ以上に深刻なのは戸籍を残したまま沿海部に流出する漢族が急増していることだ。沿海部には内陸からの出稼ぎ農民が二億五千万人以上おり、戸籍がなくても都会で就業できる機会は多い。

新疆に入植した漢族はもともと大卒の管理職層やエンジニアなどが多いため、都市部で仕事を見つけられるチャンスも多い。

そうした新疆からの移住者は当初は若者中心だったが、両親が引退し、高齢化するにつれ沿海部に呼び寄せるようになった。七八年末に始まった「改革開放」政策後、新疆に移住した第一世代の漢族が引退し、新疆を去る時代になった。
 
新疆を車で走ると頻繁にみかける地名に「○○生産建設兵団」というものがある。「○○」には軍隊の師団や旅団の名前のように数字が入る。五〇年代、新疆の支配を固めるため、中国共産党は人民解放軍を現地に送り、各地に定住させた。「屯墾戍辺」事業である。

軍人が土地を開墾し、自給自足するとともに国境を外敵から守るという制度だ。各兵団は農業だけでなく、製造業やサービス業にも進出、新疆の漢族支配の経済的基盤となった。
 
だが、中国の経済発展とともに沿海都市部で雇用機会が増え、人民解放軍の入隊希望は激減、新疆の屯墾戍辺は若者にそっぽを向かれた。今世紀に入ってからは各兵団で高齢化が進行、軍ビジネスも勢いを失い、兵団は解散や雲散霧消するものが増えている。

エネルギー安全保障の危機
戸籍制度が緩和されつつある中国だが、新疆在住の漢族が簡単に沿海大都市の戸籍を得られるわけではない。そこで戸籍は新疆に残し、暮らしやすい沿海に移る「不在漢族」が新疆で急増。漢族人口は戸籍の半分しかないといわれる。

もともと新疆の漢族は省都のウルムチ市、昌吉回族自治州、イリ・カザフ自治州、アクス地区など特定都市に集中しており、それ以外の漢族比率が低い街や村では漢族が姿を消しつつある。
 
漢族の実質人口が減れば、警察などの治安機能や行政機能は回らなくなる。やがて中国政府、新疆ウイグル自治区政府の機能は末端から崩れ始めるだろう。

新疆の田舎町からイスラム化、ウイグル化が進展し、漢族の築いたウルムチや石油開発の街、コルラなどはウイグル人に包囲されるようになる。

同時に周辺国と新疆は結び付きを深め、イスラム過激派や兵器などが国境を素通りで、新疆に入ってくる。新疆は中国共産党がどうあがいて掌握しようとしても手の平から抜け落ちる。
 
新疆を失った中国はどんな影響を受けるのか。第一は、自治区内での天然ガス、石油の生産は下手をすれば全面ストップするだろう。

「西気東輸」と呼ばれる新疆から上海など沿海都市に天然ガスなどを運ぶパイプラインが遮断されれば沿海部の工業生産は大打撃を受け、電力供給など市民生活にも影響は不可避。

さらに新疆はトルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタンなどからの天然ガスの供給受け入れ基地で、中央アジア諸国からの大口径パイプラインが自治区内を横断する。
 
シルクロードならぬ「エネルギーロード」であり、習政権のエネルギー安全保障の大きな部分は新疆にかかっている。新疆が揺らげば、中国も揺らぐわけである。

習政権が今後、新疆をどのように取り扱うかが、台湾、香港などを含めた「ひとつの中国」の先行きを示すだろう。【「選択」 4月号】
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バブルもしぼんだ新疆は、治安が悪く、暑苦しいだけ・・・ということで、域外への漢民族流出が止まらないということのようです。

現実は、一般的に言われていることとは全く様相が異なるようです。(記事の指摘が正確であれば・・・の話ですが)

「エネルギーロード」を守るためにも、漢民族の人口的な優位性を失いつつある党指導部は、今後、これまで以上に“力による統治”を進めることも想像されます。

【隣接するアフガニスタンでのIS掃討に トランプ大統領とも利害一致】
新疆におけるイスラム過激派の動向に神経をとがらせる中国政府は、新疆に隣接するアフガニスタンでのISの影響力をそぐことに力を入れ始めています。

****アフガンへの進出を図る中国****
フィナンシャル・タイムズ紙の3月3日付け社説が、中国が最近アフガニスタン領土に軍隊を派遣したことが注目されたが、米国が期待するような、アフガニスタン情勢安定化に資するものではない、と、述べています。要旨、次の通り。
 
中国は最近アフガニスタン領に初めて軍隊を派遣したが、アフガニスタン領といっても、新彊ウィグル地区に接するワハン回廊(タジキスタンとパキスタンの間に細長く伸びるアフガニスタン領)である。

中国は最近新彊ウィグル地区でのウィグル人と思われる過激派の活動の活発化を懸念している。中国政府はウィグル独立派がパキスタンとアフガニスタンの支援を受け、アフガニスタン領で攻撃を準備し、同領内から攻撃していると憂慮している。

そこで中国は遅まきながら新彊ウィグル地区に接するアフガニスタン領内に、治安維持のため出兵を決めたと思われる。
 
たとえトランプ大統領がアフガニスタン安定の負担の一部を中国軍が負ってほしいと願ったとしても、失望させられるだろう。中国の目的は中国に対するテロ攻撃の脅威を無くすことに限定されているのである。(後略)【4月6日 WEDGE】
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中国側には、いずれ起こりうるISの新彊ウィグル地区への進出を未然に食い止める思惑があるとも指摘されていますが、テロを国外に輸出することに関心がないタリバンについては問題視していないようです。

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中国は、タリバン自体は敵視していないと思われます。

昨年12月、ロシアの働きかけで、アフガニスタン発のテロリストの中央アジアに対する脅威を議論する会議が開かれ、タリバンをISとの戦いに如何に使うか、アフガニスタンでの長期にわたる戦争をどう終わらせるかが話し合われ、中国はパキスタンとともに会議に参加しました。

タリバンは軍事的、政治的勢力として認められたとしてこの会議を歓迎しています。【同上】
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こうした状況について、“NATOが軍勢を引き、米軍の駐留も不透明となった現在、中国が軍隊を越境させて国連平和維持軍のマスクをかぶせようとしている。国連の看板を掲げて、「反乱分子」ウイグル人を掃討しようとする意思の表れだ。”【4月4日 楊海英氏 Newsweek】とも。

今日は、アメリカがアフガニスタンで、ISが潜伏するトンネル施設を標的に「大規模爆風爆弾(MOAB)」を投下したことが大きな話題となっています。

アフガニスタンにおけるIS掃討作戦は、“我々は非常に相性がいい”とトランプ大統領が評価する習近平国家主席とも利害が一致するところで、二人の関係強化に役立つところでしょう。

ブラジル  汚職一掃の「洗車作戦」で閣僚8人、現職国会議員63人を含む98人が捜査対象

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(2016年4月12日に行われた汚職捜査(LJ)継続と捜査の中心となっているモロ判事擁護を訴えるリオ市でのデモ【3月18日 ニッケイ新聞】(日経ではなくブラジルの日系紙です))

【「洗車作戦」で政界に蔓延する汚職一掃を】
最近、南米ブラジルを取り上げる際の話題というと、汚職・財政難・治安の悪さ・・・等、あまりいいものでありません。
今日も、汚職の話です。

ブラジルでは、国営石油会社ペトロブラスを舞台にして建設ゼネコンから広範囲の政治家への資金が流れてきたとされる大規模汚職事件の捜査が行われていることは、これまでもしばしば取り上げてきたところです。

ルセフ前大統領の直接の弾劾理由は粉飾会計処理であり、元ゲリラ戦士でもある彼女自身が汚職で私腹を肥やしたという訳ではありませんが、彼女の弾劾があのような形で実現したのも、一連の汚職疑惑への国民の不満が高まるなかでの政治不信のひとつの現れでしょう。

いまだに国民的人気が高いルラ元大統領も捜査対象となっいますし、ルセフ前大統領を弾劾に追い込み、政治の刷新が求められているテメル大統領も汚職構造の中で生きてきた政治家で、とかく噂が絶えません。

また、2月には、大規模汚職の捜査を担当してきた最高裁判事が飛行機事故で死亡するという、怪しいにおいもする“事故”も起きています。

2017年3月8日ブログ「ブラジル 最悪の長期不況も今年は回復フェーズに ただ、回復は緩やかで“失われた10年”も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170308
2016年9月16日ブログ「ブラジル政界の泥沼 ルセフ氏罷免 前下院議長は公職追放 ルラ元大統領も訴追」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160916

3年前から続く一連の汚職疑惑追及は、現地では「LJ作戦」(ラヴァ・ジャット作戦:洗車作戦-車や床などの汚れを一気に洗い落とすウォーター・ジェット噴射洗浄という意味)と呼ばれているそうです。

****ラヴァ・ジャット作戦開始から3年が経過=ブラジル史上最大の汚職摘発劇=全容解明は一体いつまで?****
連邦警察が2014年3月17日に7州で行った汚職摘発劇、ラヴァ・ジャット作戦(LJ)から丸3年が経過した。
 
14日には、オデブレヒト社関係者の報奨付供述に基づき、最高裁で扱うべき人物に関する捜査開始要請だけで83件というまとまった数の要請書も提出された。
 
パラナ州クリチバのLJ特捜班は連邦検察官約30人からなり、次々に展開される作戦は第38弾に至った。

2015年10月にLJ裁判の見通しなどを訊かれ、「今年中に終わって欲しい」と漏らしたパラナ地裁のセルジオ・モロ判事は、今年3月、「通常の犯罪事件の裁判は捜査開始から6カ月~1年で終わるが、LJは今も捜査が続いており、いつ終わるか分からない」と語った。
 
LJの発端は2008年に始まったメンサロン絡みの捜査で、アウベルト・ユセフ、カルロス・アビブ・シャテルといった闇両替商4人を各々の頭とする犯罪組織が、ペトロブラス(PB)などに絡む不正に関与している事が判明。ミケイアスと呼ばれる作戦も行われたが、ユセフ氏が大規模な不正に絡んでいる事を掴んだ連警は、その作戦でユセフ氏を捕えず、泳がせて捜査を続けた。
 
その結果、パウロ・ロベルト・コスタPB元供給部長らとの関係も掴んだ連警が、関係者逮捕に踏み切ったのが14年3月のLJだ。だが、LJの対象はその後、PB絡みの不正という枠を大きく越えた。(中略)
 
LJの対象は、保健省などの官公庁絡みの事業契約、リオ五輪絡みの公共事業契約、鉄道絡みの事業契約など、捜査が進むごとに範囲が広がっており、現在の特捜班はパラナ州クリチバとリオ州で活動している。
 
LJで摘発された疑惑企業はオデブレヒトやOASなどの建設大手も含み、政治家や企業家など計198人が逮捕され、現在も23人が刑務所にいる。また、罰金や司法取引で支払いが約束された金は102億レアル、凍結された資産額は32億レアルに上る。
 
最高裁が承認した司法取引は127件、パラナ地裁と最高裁に起訴されたのは328人、パラナ地裁で有罪となった人は89人、最高裁で被告となった連邦議員は5人、最高裁が起訴状を検討中の議員も11人いる。(後略)【3月18日  ニッケイ新聞】
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ルラ元大統領が国外に売り込んだ建設大手オブデレヒト社は11 か国(マキシコ、ドミニカ、グアテマラ、パナマ、アンゴラ、モザンビーク、ペルー、アルゼンチン、エクアドル、コロンビア等)で7 億8800 ドルに及ぶ賄賂工作を行っていたことが判明しており、事件は国際的な広がりも見せています。

“英国のロールス・ロイス社もペトロブラスと石油採掘船用の発動機で賄賂に関係し取引額6 億5000 レアル(約227 億円)、賄賂510 万レアル(約1.8 億円)が判明している。”【梅津 久氏「マイゾウ・メーノス (まあ-まあ-)の世界 ブラジル」http://www.samicultura.com.br/sites/default/files/arquivos_downloads/%E7%AC%AC33%E8%A9%B1%E3%80%80LJ%E4%BD%9C%E6%88%A6.pdfより】


【閣僚8人、現職国会議員63人を含む98人が捜査対象】
事件がブラジル国内の政界全体に及んでいることはこれまでも明らかになっていますが、ブラジル最高裁はテメル政権の閣僚や上下院議員ら計98人について、検察が求めていた捜査開始を認める判断を示しており、改めてその“すそ野の広さ”が浮き彫りになっています。

****ブラジル大規模汚職、閣僚ら98人捜査へ 最高裁が許可****
ブラジルの最高裁は14日までに、テメル政権の閣僚や上下院議員ら計98人について大規模な汚職事件に関わった疑いがあるとして、検察が求めていた捜査開始を認める判断を示した。

連立与党党首や上下院議長ら有力政治家が多数含まれている。前大統領の弾劾(だんがい)などで続いてきた政治の混乱に拍車が掛かりそうだ。
 
報道によると、捜査対象にはパジリャ官房長官やヌネス外相ら閣僚8人のほか、テメル大統領が所属するブラジル民主運動党のジュカ党首と、連立与党・ブラジル社会民主党のネベス党首ら現職国会議員63人が含まれている。いずれも贈収賄や資金洗浄などの疑いがあるという。
 
一連の捜査は、国営石油会社を巡る汚職疑惑の捜査の中で、建設大手オデブレヒト社と政界との癒着が明らかになったのが発端。元社長ら幹部の供述から次々と大物政治家の名前が挙がり、検察は閣僚や議員の捜査に必要な最高裁の許可を求めていた。
 
最高裁は12日、同社幹部らが、テメル氏ら多数の政治家の関与について供述しているビデオを公開した。だがテメル氏については、大統領は就任前の罪には問われない「免責特権」があることから、検察の捜査対象には含まれていない。テメル氏は13日、「うそだ。不正への関与は一切ない」と疑いを否定した。

ブラジルでは昨年8月、政府会計を粉飾したとしてルセフ前大統領が弾劾手続きで罷免(ひめん)された。当時与党だった労働党と国営石油会社の大規模な汚職の発覚が弾劾を後押しし、政権交代につながった。現政権の閣僚らを含めた今回の疑惑は、テメル政権にとって大きな打撃となりそうだ。
 
捜査開始の要求を巡っては1月、判断を担当していた最高裁判事が飛行機事故で死亡。不自然さを疑問視する声も上がっていた。【4月15日 朝日】
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【「免責特権」を有するテメル大統領にも疑惑】
上記記事のあるように、テメル大統領自身も、「免責特権」で捜査対象とはなっていないものの、その名前が挙がっています。

****テメル大統領に収賄疑惑 ブラジル汚職 建設大手から44億円****
ブラジルの汚職事件を巡り、テメル大統領に現地建設大手オデブレヒトからの収賄疑惑が浮上した。

2010年にテメル氏が率いる政党が総額4千万ドル(約44億円)の賄賂を受け取ったという。同社の元幹部が検察の取り調べに対し、司法取引に応じて報奨付き供述をした。テメル氏は否定しているが、供述の様子を撮影した映像が公開され、同国の政界を揺るがすスキャンダルとなっている。

ブラジル連邦最高裁が12日公開した映像では、元幹部が「サンパウロのテメル氏の事務所で同氏らに面会した」「金額については直接話さなかったが、私は支払いを約束した」と語っている。
 
元幹部とテメル氏の面会後、オデブレヒトは国営石油会社ペトロブラスと総額8億2500万ドルの契約を受注するため、約5%分となる4千万ドルを要求され、現金や海外口座経由で支払ったという。
 
事務所には当時ブラジル民主運動党(PMDB)党首だったテメル氏のほか、クニャ元下院議長やアルベス元観光相ら同党の有力議員がいたという。元幹部は「クニャ氏に『ペトロブラスと契約するならば、党に重要な貢献ができるはずだ』と言われた」と圧力をかけられたことを証言した。
 
ルラ元大統領が率いる労働党政権下で、PMDBは連立を組んでいた。オデブレヒトが支払った4千万ドルのうち、最終的に8割の3200万ドルがPMDBに、残り2割の800万ドルが労働党に渡ったという。
 
ブラジル政界を覆う汚職疑惑の発端は14年に始まったペトロブラスへの捜査だ。捜査当局は国営企業で政治家が影響力を発揮しやすい同社を中心に捜査を進めており、取引業者などを巻き込んだカルテルや不正契約を調べる過程で、今回のオデブレヒトを巡る事件が浮上した。
 
事態収拾のためテメル氏は13日、今回の事態について自ら釈明する映像を公開した。自身の事務所でオデブレヒト幹部と面会したことは認めたが、「疑わしい交渉はしていないし、(契約額や賄賂の)金額について聞いたというのは嘘だ」として疑惑を否定した。
 
現地メディアによると、ブラジルでは大統領は在任中、就任以前に起きた事件については捜査されない権利がある。そのためテメル氏は議会で弾劾されない限り、18年末までの任期を全うできるとの見方もある。
 
13日、ブラジルの主要株価指数であるボベスパ指数は汚職問題の拡大を嫌気し、前日比1.67%安で取引を終えた。【4月14日 日経】
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8割がPMDBに、残り2割が労働党に・・・ということで、要するに連立与党議員全体に資金が流れたということのようです。テメル大統領は「うそだ」と言っていますが・・・・)

リオデジャネイロ五輪開催時の市長だったエドゥアルド・パエス氏も、五輪関連事業をめぐって1500万レアル(約5億2000万円)超の賄賂を受け取った疑いで捜査対象となっています。

【財政再建のための国会審議も延期へ】
ある程度は予測されていた事態でもありますが、さすがに閣僚8人、現職国会議員63人を含む98人が捜査対象となると、財政再建が急務とされるブラジルですが、国会審議どころではなくなります。

****LJ作戦=「98人捜査許可」で衝撃走る=下院議会はまたも重要法案の審議延期に=改革への道のり険しく****
11日午後、エジソン・ファキン最高裁判事が現職閣僚、上下両院議員、州知事ら総勢98人に対する捜査開始を許可したことが、エスタード紙によってすっぱ抜かれた。

それによる大混乱のため、連邦政府は下院本会議に連立与党の議員を動員する事が出来ず、財政上の非常事態に陥った州に対する財政再建計画(RRF)に関する法案採決を延期せざるを得なかったと、12日付現地紙が報じた。
 
自らも捜査対象となったロドリゴ・マイア下院議長(民主党・DEM)は、6時間に及ぶ同法案に関する審議のあと、RRFの採決を待たずに閉会を宣言した。
 
ファキン判事による捜査開始許可の対象に、現職下議だけで39人に及ぶ名前が挙がっていた事が分かると、下議たちはRRFの審議中であるにもかかわらず、本会議場を後にし始め、出席議員数が採決可能な定数を割り込んだためだ。
 
また、捜査対象であるか否かに関わりなく、多くの議員が復活祭の休暇のため、12日にもブラジリアを離れるために、RRFの採決は来週に持ち越された。
 
捜査対象リストに名前のなかった議員は、がらんとした下院を見て「上院の定数が増えたようだ」と皮肉を言い、「何と! 汚職防止法の報告官まで汚職捜査の対象なのか」とオニキス・ロレンゾーニ下議(DEM)を揶揄した。(中略)
 
経済評論家のミリアン・レイトン氏も、「現政権の目指す財政改革の道はより時間がかかり、複雑になった。国外の経済格付け会社の評価も下がるだろう。ただ、この逆風が伯国政治の刷新の助けになる可能性も残されている」とした。【4月13日 ニッケイ新聞】
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【期待される“政治の刷新の助けになる可能性”】
こういう話を取り上げると、「ブラジルの政治はなんと腐敗が蔓延していることか!」という話にもなりますが、政治全体に汚職・不正が蔓延しているのは、別にブラジルに限った話ではありません。

それらの国では、汚職・不正が“当たり前のこと”ともみなされ、事件にもなりませんから、LJ作戦で汚職一層が進められているブラジルは自浄能力をまだ有している“ましな国”とも言えます。

日本でも、かつては政治にカネは付き物ということで、“潤滑油”としてカネが露骨に流れるような政治世界もあり、多数の疑獄事件を生んでいます。

そうした露骨な収賄が少なくとも表面上は少なった昭和末期の1988年(昭和63年)には、現金の代わりに未公開株をばらまくという形で、広範な与党大物議員を巻き込んだ“リクルート事件”も起きています。

リクルート未公開株を譲渡を受けた自民党議員は“竹下登首相、長谷川峻法相、宮沢喜一蔵相、小渕恵三官房長官、原田憲経企庁長官、小沢一郎官房副長官、安倍晋太郎幹事長、渡辺美智雄政調会長、愛野興一郎前経企庁長官、中曽根康弘元首相、橋本龍太郎元運輸相、梶山静六元自治相、森喜朗元文相、中島源太郎元文相、砂田重民元文相、塩川正十郎元文相、加藤六月元農水相、大野明元労相、栗原祐幸元労相、山口敏夫元労相、坂本三十次元労相、藤波孝生元官房長官、加藤紘一元防衛庁長官、渡辺秀央元官房副長官、原健三郎前衆院議長、浜田卓二郎代議士、伊吹文明代議士、愛知和男代議士、大坪健一郎代議士、有馬元治代議士、野田毅代議士、堀内光雄代議士、鈴木宗男代議士、尾形智矩代議士、椎名素夫代議士、志賀節代議士、藤田正明参院議長、遠藤政夫参院議員、倉田寛之参院議員、鈴木貞敏参院議員”【ウィキペヂア】ということで、当時の、かつての、そしてその後のそうそうたる政治指導者の名前があがっています。野党からも数名の名前があがっています。

リクルート事件では竹下内閣が潰れ、その後の参議院選挙では宇野スキャンダルもあって、自民党結党史上初の過半数割れを起こしています。また、自民党内でも世代交代が進行しました。

このような経験もあって今日の日本の“きれいな政治”(!!!???)が実現されている訳で、ブラジルにあっても“この逆風が伯国政治の刷新の助けになる可能性も残されている”ということです。

ついでに言えば、汚職体質は政治家だけではないことは、先月問題となった食肉不正問題でもあきらかです。
単に政治家の問題ではなく、社会全体の意識改革が必要とされています。

****ブラジルで食肉不正問題、緊急閣議招集へ****
ブラジルのミシェル・テメル大統領は19日、世界有数の食肉生産国で国内外に広く鶏肉などを販売している同国において、食肉の安全性をめぐり不正問題が発覚したことを受け、緊急閣議を開くと発表した。
 
2年間にわたる警察の捜査によって17日、公衆衛生検査官数十人が賄賂を受け取り、衛生基準を満たさない食品を消費に適しているとして承認していたとの不正が明らかになった。
 
不正に関わったとされる多数のブラジル企業は18日、自社製品は安全だと主張したが、国民の不安は高まるばかりだ。

この食肉偽装スキャンダルは、ブラジルなどの南米諸国が加盟する南部共同市場(メルコスル、Mercosur)が欧州連合(EU)との貿易協定締結を進めているさなかという微妙な時期に発覚した。
 
ブラジル農牧省によると、当局は17日、12以上の食肉加工業者を強制捜索し、逮捕状27枚を取り、食品大手のブラジルフーズ(BRF)の鶏肉加工場1か所と、Peccinの食肉加工場2か所を閉鎖した。
 
また、別に21か所の加工場で捜査が進められているほか、農牧省はこの不正問題に関与した当局者33人を免職処分にした。
 
当局は、衛生基準を満たさない食品が見つかった場所について言及していないが、南部クリチバでの記者会見で、腐った肉の悪臭を隠すために「発がん性物質」が使われていた事例もあったと述べた。
 
この問題では、BRFだけでなく、同じ食品大手のJBSなども捜査の対象となっている。
 
リオデジャネイロのスーパーマーケットでよく買い物するというシルビア・ファリアス教授は、鶏肉製品の一部には段ボールが混入しているとの報告もあり、懸念していると述べた。
 
ブラジルは少なくとも世界150か国に鶏肉などの食肉を販売しており、この不正問題は同国にとって深刻な懸念事項となっている。【3月19日 AFP】
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イラン大統領選挙 再選を目指す穏健派ロウハニ大統領 核合意を嫌うトランプ大統領は?

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(【4月13日 毎日】)

【1636名が立候補を届け出 事前審査によって、実際に立候補できるのは数名】
イランでは5月19日に大統領選挙が行われますが、穏健派でアメリカとの核合意を主導したロウハニ現大統領の再選がなるかが注目されています。

イラン国内の民主化の行方だけでなく、イランをめぐる国際情勢にも影響する選挙です。

*****イラン大統領選、1636人が立候補を届け出****
イラン大統領選(5月19日投票)の立候補受け付けが15日締め切られ、2013年の前回選挙の約2・5倍にあたる1636人が届け出た。
 
国営イラン通信によると、18〜92歳で、137人は女性だった。
 
主な顔ぶれは、融和外交を進める現職ロハニ師、対外強硬派が推すライシ前検事総長やガリバフ・テヘラン市長、不出馬表明を翻したアフマディネジャド前大統領ら。今後、選挙監視機関「護憲評議会」の資格審査で候補者が絞り込まれる。【4月16日 読売】
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イランの大統領選挙にあっては、希望したから立候補できるというものではなく、護憲評議会(「監督者評議会」と訳すのが正しいとの指摘もありますが、日本メディアでは通常「護憲評議会」という呼称が使用されます)による選別があり、これをクリアした者のみが実際に立候補できます。

“監督者評議会はイスラーム法学者6名および一般法学者6名のあわせて12名から構成される。前者6名のイスラーム法学者は「現況の必要と問題に意識を持つ者」が最高指導者によって指名され、後者6名の一般法学者は「他の(イスラーム法以外の)法学分野に熟達した法律家を司法権長が指名し、その中からマジュレス(国会)が選出する”【ウィキペディア】

この不透明な事前審査によって、行政の能力を有する、犯罪歴がないなど経歴が良好である、誠実であり敬虔である・・・等の基準で、現体制にとって“不適切”な人物は事前に排除されます。

前回2013年選挙では、改革派が期待した穏健派の大物・ランサンジャニ元大統領(先日死去)や、任期中にハメネイ師との確執が表面化したアハマディネジャド大統領が擁立するモシャイ元大統領府長官も、失格とされています。

なお、女性が137人とのことですが、イランの憲法では大統領の被選挙権は男性に限定されているのではないでしょうか?抗議の意味の届け出でしょうか?

それにしても1636名というのは、膨大な数です。
立候補届け出すれば何かいいことがあるのでしょうか?あるいは、イラン国民の大統領選挙に寄せる何か特別な思いがあるのでしょうか?

届出者が多いのは毎度のことではありますが、今回は前回選挙の約2・5倍と、さらに増えています。これも何か事情・背景があるのでしょうか?

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イランの大統領選では毎度、かなりの数の候補者が立候補する。たとえば2013年は、合計686人が立候補を届け出た。

そこで、イラン最高指導者で絶対的権力者であるアリ・ハメネイ師がメンバーの半分を選んでいる護憲評議会が、候補者らをふるいにかけ、結果8人に絞った。

もちろん出馬が許された8人は、ハメネイに近い人物か強力な支持者ということになる。今回の選挙でも、護憲評議会が最終候補者を選ぶことになる。【4月15日 山田敏弘氏 COURRIER JAPON】
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【アフマディネジャド前大統領、最高指導者の勧告を無視して立候補届け出】
再選が注目されるロウハニ大統領も届け出ていますが、今回のサプライズは、最高指導者ハメネイ師の勧告でいったん選挙戦を辞退したとされていたアフマデネジャド前大統領が、最高指導者に反旗を翻す形で立候補届け出したことです。

****イラン前大統領、一転して候補者登録 最高指導者に反旗****
5月19日のイラン大統領選への不出馬を表明していたアフマディネジャド前大統領(60)が12日、一転して候補者登録を行った。昨年9月、最高指導者ハメネイ師の勧告を受けて「出馬しません」との書簡を送っていたが、最高指導者に公然と反旗を翻した形だ。
 
地元メディアによると、アフマディネジャド氏は12日、自身の側近で既に出馬表明をしていたバガイ元副大統領(48)とともに候補者登録をした。手続き終了後、「最高指導者の言葉は命令だという人もいるが、単なる助言にすぎない」と発言した。
 
イランの大統領選では、最高指導者が指名した宗教指導者と国会が信任した法律専門家で構成する護憲評議会が、候補者を事前に審査する。ハメネイ師は不出馬を勧告する際、アフマディネジャド氏の立候補で「国は二つに割れる」としており、失格になる可能性がある。

ロハニ政権を批判してきたアフマディネジャド氏は「候補者登録はバガイ氏の応援のため」とも語った。自らの出馬でバガイ氏への注目を集め、集票につなげる狙いもありそうだ。
 
アフマディネジャド氏は約4年ぶりに開いた5日の記者会見で、バガイ氏を支持する姿勢を打ち出した。一方で、「最高指導者は私に(大統領選の)候補者にならないように求めた。だが、イランで起きていることを無視して良いとは言わなかった」として、出馬に含みを持たせていた。
 
ハメネイ師は昨年9月、自身の公式サイトで「彼自身と国の利益を考え、かの行事に参加しない方が良いと言った」「彼(前大統領)が特定の問題に当たれば国は二つに割れる。二極分化は国益に害だと助言した」との発言を公開。その後、前大統領が不出馬の意向を示していた。
 
大統領選をめぐっては、保守穏健派で現職のロハニ大統領(68)が近く出馬を表明するとみられる。

対立関係にある保守強硬派からは、最高指導者ハメネイ師に近いライシ師(56)らが、立候補する見通し。保守派による争いが中心になりそうだが、強硬派の候補者が乱立すれば、ロハニ師に有利の情勢となりそうだ。【4月12日 朝日】
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国民的人気はいまだに一定に高いアフマデネジャド前大統領ですが、前出のような事前審査がありますので、最高指導者の顔に泥を塗るようなアフマディネジャド前大統領の立候補はまず認められないでしょう。

まあ、任期中から最高指導者ハメネイ師との折り合いがよくなかったアフマディネジャド前大統領ですから、同師の勧告を受けて素直に選挙戦から撤退したことがサプライズでした。

それにしても、これほど公然と最高指導者に歯向かうことがイラン社会においては許されるのでしょうか?
それを可能にするのは、背後にある政治勢力の力があってのことでしょうが、アフマディネジャド前大統領の場合、出身の革命防衛隊でしょうか?

最高指導者のもとで宗教支配が貫徹しているとのイメージが強いイランですが、実際の政治にあっては欧米・日本同様に、いろんなことがあるようです。

【ロウハニ大統領の再選は? 保守派からは「死の委員会」メンバーのライシ氏が】
再選が注目されるロウハニ大統領の実績については、制裁解除につながる核合意を実現したことのほか、インフレ率を40%から10%に下げたことや、石油の輸出額が2倍に増えたことなどがあげられる一方で、失業率が10.5%から12.4%に増大したこと、せっかく核合意で一部の外国にある資金の凍結が解除されたものの、多くの外国金融機関がイランとの取引を拒否していて、イランへの外国投資が全く増えていないことなどのマイナス面も指摘されています。【4月15日 「中東の窓」より】

もし、ロウハニ大統領の再選が阻止され、保守強硬派が勝利すれば、イラン核合意の行方は一気に不透明になります。中東におけるイランが支援する勢力とアメリカの対立も激化します。

前回選挙(2013年)で現職の保守穏健派ロウハニ大統領に次点で敗れた保守強硬派のガリバフ・テヘラン市長も立候補を届け出ていますが、保守派の候補者で注目されるのはハメネイ師に近いとされる保守強硬派のライシ前検事総長です。

ライシ氏は、高齢のハメネイ師の後を継ぐ、次期最高指導者の声もあります。ただ、その経歴からすると、相当に危険な人物のようにも。

****イランの次期大統領候補も仲間とは言えない****
米外交問題評議会のレイ・タキー上席研究員が、9月26日付ワシントン・ポスト紙に、「イランの次の最高指導者になりそうな人は西側の友人ではない」との論説を書き、イランの次の指導者と目されているイブラヒム・ライシの経歴などを紹介しています。論旨、次の通り。

最も反動的な人物
イランが実利的になることへの最大の障害は最高指導者ハメネイであると言われてきた。

核合意の有効性には期限があるが心配はいらない、なぜならハメネイの後継者は国際規範を尊重し、核兵器のために国際社会との統合を捨て去るとは思えない、と言われてきた。

しかし、ハメネイと革命防衛隊が最高指導者になるように育てている人イブラヒム・ライシは、イランの支配エリートの中でも最も反動的な人物の一人である。
 
ライシは56歳で、ハメネイ同様、マシュハード市出身である。神学校に行った後、彼は検事総長、一般監察当局の長、聖職者特別法廷(聖職者を公式見解から逸脱しないようにする機関)の検事など、法執行部門で働いた。彼は1988年、でっち上げの容疑で数千の政治犯を処刑した「死の委員会」の一員であった。
 
最高指導者は尊敬される聖職者がなるものと考えられてきたが、ハメネイは宗教面では冴えない経歴しかなかった。それで、そうでもない人が最高指導者になる道を開いた。
 
ライシの経歴は、反政府派弾圧を使命とする革命防衛隊の好みに合う。革命防衛隊の司令官は最近、イランの政権への脅威は外部の圧力より国内での反乱にあると述べた。

ハメネイの理想的な後継者は革命防衛隊と同じ見方を持ち、治安・司法当局と緊密な関係を持つ人ということになる。革命防衛隊はそういう人としてライシを支持している。

ハメネイもライシを支持している。最近、イラン最大の慈善財団の長にライシを任命した。財団はマシュハード市のイマーム・レザー廟(毎年数百万が巡礼に来る)を運営し、多くの企業、広大な土地を持つ。財団の基金の価値は150億ドルともいわれている。この任命はライシを全国的に著名にするとともに、多くの資金を彼に与えた。
 
ハメネイと革命防衛隊にとり、最重要問題は政権の生き残りではなく革命の価値である。彼らはイランを中国――イデオロギーを捨て、商業利益を重視した――にしないと決心している。

2009年春の反乱は、いまや米では忘れられているが、イランの神政政治擁護者にとり分水嶺的出来事であった。ハメネイの下、イランは警察国家になった。その論理的帰結として、イランの抑圧機関からの人が最高指導者になろうとしている。
 
正式には専門家会議が次の指導者を選ぶが、現実には決定は今裏で行われている。

ロウハニ大統領は穏健政権への希望であるが、この権力劇には関係がない。ハメネイなどは、次の指導者は不安な時期に権力の座につくと考えている。

この指導者は西側への軽蔑心を持ち、政権のために流血もいとわない人であるべきである。神政政治の抑圧を信じるとともに、その機構の一部であったライシほどそういう属性を持つ人はいない。(後略)【2016年10月28日 WEDGE】
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上記記事は、ワシントン・ポスト紙記事に対する論評として“治安当局関係者というのは、弾圧という手段を信頼する傾向がありますが、同時に現実的な思考もします”ということで、“石油輸出に制裁がかかるようなことにライシが踏み出すとは、イランの国益上、あまり考え難いことです”と、ライシ氏が大統領になったからといって、核合意が破棄されると考える必要はない・・・とも指摘しています。

ただ、イラン国内の空気は大きく変わるでしょう。

前出「中東の窓」には、以下のようなコメントも寄せられています。

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保守派の圧力にもかかわらず、ロウハニ政権の下で、インターネット通信が随分と自由化され、かつ拡張されたそうで、改革派の支持者たちがこのメディアを存分に使って、保守派に対抗しているそうです。

Ibrahim Raeisi (ライシ氏)が立候補するや否や、さっそくネット上に、「彼は検察官時代に何百人もの政治犯を死刑にした」 といった書き込みが行われているそうです。

保守派の側は、これに対抗すべく、覆面した暴力団員を動員して、このようなサイトの運営者13名を誘拐して圧力をかけているそうです。【http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/5201292.html#comments
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穏健派はロウハニ現大統領に事実上一本化されていますので、投票日まで特段のことがなければ、ロウハニ再選の可能性は高いのではないでしょうか。

【トランプ大統領は核合意の無効化に乗り出すのか?】
ただし、アメリカ・トランプ大統領が保守派が反発するようなサプライズを仕掛けなければ・・・ですが。

核合意破棄を口にしていたトランプ大統領は、このところは合意破棄は表には出していません。しかし、イランに対する敵愾心を持っていることは変わりませんし、それはトランプ大統領に限らず、アメリカにあっては普通にみられることでもあります。

****イラン核合意を破棄することの危険度****
権で国務副長官を務めたアントニー・ブリンケンが、2月17日付ニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説にて、イラン核合意に反対するトランプ政権は、正面から合意を破棄するのではなく、別の方法で合意を葬ろうとしている、と述べています。要旨、次の通り。

トランプ大統領がイラン核合意を「ひどい」などと酷評していたことを考えると、米政府高官がEUの外交責任者モゲリーニに、トランプ大統領はイラン合意の全面実施を約束していると述べたことは注目される。
 
しかし、トランプ政権の後退は戦略的再考の結果ではなく、一時的、戦術的なものかもしれない。

ホワイトハウスの顧問たちは依然としてイラン合意に反対しているが、米国が一方的な合意からの離脱という正面攻撃をすると、米国と交渉仲間の欧州、ロシア、中国が仲違いし、イランではなく米国が孤立してしまうことを認識している。そこで彼らは別の方法で合意を葬ろうとしている。
 
第一の方法は、「より良い取引」を要求することである。それはイランの軍事施設へのアクセスを増加すること、あるいは弾道ミサイルを合意の対象とすることかもしれない。しかし、他の交渉参加国が再交渉に応じる可能性はまず考えられない。

再交渉を求める主たる目的は、米国が非難されないように、事態を混乱させながら緩やかに合意を破棄に追い込むことだろう。
 
別の方法は、核以外の分野でイランに圧力を加え、合意に反対するイランの強硬派を破棄に走らせるシナリオである。

イランの問題行動は多い。弾道ミサイルの実験の他に、イエメンのホーシー族支援、ペルシャ湾での航行妨害、シリアのアサド支持、ヒズボラとハマス支援、イラクの過激なシーア派民兵支持、イラン国民の弾圧などである。
 
オバマ政権はこれらを念頭に、核以外の分野での制裁を維持、強化してきたが、同時にこれらのイランの「悪行」は核武装したイランの下でははるかに危険で対決しにくいと考え、核合意が破綻しないよう、追加的圧力については慎重に対処した。
 
トランプ政権は、核以外の分野で制裁を復活させたり、イランの革命防衛隊をテロ組織と認定することにより、イランが堪えがたいような圧力を加えるかもしれない。

革命防衛隊はイラン革命の公式の擁護者であるのみならず、イラン経済で大きな役割を果たしている。ブッシュ、オバマ政権はイランをテロ支援国家と指定し、革命防衛隊の個々の司令官に制裁を加えたが、代価の方が利益より大きいと考え、革命防衛隊自身をテロ組織と指定することはしなかった。
 
革命防衛隊に直接挑戦すれば、その司令官たちは核合意からの撤退を迫り、核合意の主たる推進者であったロウハニ大統領の再選の見通しを暗くするだろう。

またイラクで米軍と並んでISと戦っているシーア派の民兵に、イラクの米軍を攻撃させるかもしれない。またペルシャ湾の米国船舶を攻撃し、ホルムズ海峡を封鎖しようとするかもしれない。

ケリー前国務長官とザリフ外務大臣との間で作られた危機管理のチャネルが使えなくなると、これらの行動は全面対決に拡大する恐れがある。そうなったら核合意の喪失どころではなくなる。(後略)【3月22日 WEDGE】
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上記【WEDGE】は、ニューヨーク・タイムズ紙掲載論説への論評として、上記のような実質的な核合意破棄に走る可能性があるトランプ政権をけん制する要因として、イランとの対立は、中東でIS掃討に当たっている米軍へのシーア派民兵の攻撃を誘発しかねないことや、イランとの関係を重視するロシアの反発を招くことなどを挙げています。

個人的には、7月末にイラン旅行を計画していますので、大統領選挙が整然と実施され、核合意でも問題が起きないことを願っています。

ソマリア  干ばつとテロで深まる飢餓の危機

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(飢餓に人生を翻弄される少女、ゼイナブさん(本文参照)は左から2番目。ソマリアのドーロで4月3日撮影(2017年 ロイター/Zohra Bensemra)【4月17日 ロイター】)

【26万人が死亡した2011年の大干ばつの再現か?】
東アフリカのソマリアで、干ばつとテロ・戦乱によって深刻な飢餓が進行していることは、これまでも取り上げてきました。(3月18日ブログ“ 飢餓と戦乱のソマリア・イエメン 逃げ惑う人々を襲う更なる悲劇 門戸を閉ざす国際社会”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20170318など)

****<ソマリア>干ばつ深刻化…イスラム過激派、伸長も****
国連のグテレス事務総長は7日、干ばつの影響が深刻化しているアフリカ東部のソマリアを訪れ、国際社会の支援がなければイスラム過激派の伸長を招くと警告した。
 
ロイター通信によると、グテレス氏は「テロと戦うには、根本的原因に対処しなければならない」と指摘。ソマリアのような国に平和と安定をもたらすことこそ「豊かな国が自分たちを守る一番の方法だ」と述べた。
 
ソマリアでは人口の半数近い620万人が食糧不足に陥り、国連は8億2500万ドル(約940億円)の緊急支援を呼びかけている。グテレス氏は「豊かな国に気前の良さを求めているのではない。自らの利益になると訴えている」と語った。
 
ソマリアのアブドラヒ大統領は、今後2カ月のうちに雨が降らなければ「26万人が死亡した2011年の大干ばつと同様の人道危機が起きる」と述べ、早急な支援を求めた。
 
ソマリアではイスラム過激派アルシャバブによるテロが頻発し、テロと干ばつの二重苦に見舞われている。
 
国連児童基金(ユニセフ)によると、イエメン、ナイジェリア、ソマリア、南スーダンの中東・アフリカ4カ国で、子供約140万人が深刻な栄養失調で年内に死亡する危険にさらされている。【3月8日 毎日】
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40日ほど前の記事で、“今後2カ月のうちに雨が降らなければ・・・・”とのことですが、その後事態が改善したという話は聞きません。ふたたび飢饉の瀬戸際にあると思われます。

欧米社会のテロと違って殆どニュースにもなりませんが、イスラム過激派「アルシャバブ」によるテロも相変わらず頻発しています。

****首都で2日連続自爆、13人死亡=過激派、大統領に反発-ソマリア****
ソマリアの首都モガディシオで9、10の両日、連続で自爆テロが発生し、少なくとも13人が死亡した。

国防省近くで9日に起きた自爆テロでは、少なくとも10人が死亡。軍高官は「爆発物を満載した小型バスが民間のバスに衝突して爆発した。軍の車列に突っ込もうとしていたようだ」と語った。
10日は首都南部の軍基地内に侵入を試みた容疑者が自爆、少なくとも兵士3人が死亡した。
 
どちらのテロもイスラム過激派「アルシャバーブ」が犯行声明を出し、9日の自爆については「参謀長は首の皮1枚で助かったようだ」と主張、6日に就任したばかりの新参謀長の車列を狙った犯行だったことを認めた。この車列の軍高官らは全員無事で、代わりに民間人7人、治安部隊員3人が犠牲になった。
 
2月に大統領選に勝利したアブドラヒ大統領は6日の記者会見で、アルシャバーブに宣戦布告する一方、60日以内に降伏した者には恩赦を与えると発表した。

反発したアルシャバーブはその日、地雷で19人、翌7日も砲撃で3人を殺害した。【4月10日 時事】
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【「ライオンに食べられた方がまだいい」・・・ある少女の自由と夢を奪う飢餓の現実】
下記は、そんなソマリアで生きる一人の少女とその家族の話です。
少女は家族を飢餓から救うために、本人の意思に反して、結婚支度金を得る目的での結婚を迫られます。

おそらくソマリアでは、ごく“ありふれた”話でしょう。

****ソマリアの少女、飢える一族救うため失った自由と夢****
4月10日、干ばつに襲われたソマリア南部の村で、アブディル・フセインさんが家族を飢餓から救うために残された最後のチャンスは、14歳の娘ゼイナブさん(写真、左から2番目)の美貌だった。

年配の男性が昨年、ゼイナブさんとの結婚支度金として1000ドル(約110万円)を渡すと申し出た。エチオピア国境に近いドーロの街に親族もろとも引っ越すには十分な金額だ。ドーロでは、国際支援機関が壊滅的な干ばつから逃れてきた各世帯に食料と水を供給している。

だが、ゼイナブさんは結婚を拒んだ。
「死んだ方がまし。茂みに駆け込んでライオンに食べられた方がまだいい」と黒い瞳を持つ細身の少女は、高く柔らかい声で語った。

「そうすれば、私たちはここに留まって餓死し、動物たちに骨まで食い尽くされることになる」と彼女の母親は言い返した。

10代の少女とその母親が交わした会話は、2年に及ぶ干ばつを経て、ソマリアの家族たちが突きつけられている典型的な選択だ。

「アフリカの角」に位置するソマリア全域で、作物は枯れ、白骨化した家畜の死体が散乱している。
この災害は、アフリカから中東にわたって2000万人の住民を脅かしている飢餓と暴力の一部にすぎない。

国連によればソマリアの人口1200万人の半数以上が支援を必要としている。2011年にも似たような干ばつが発生し、何年も続く内戦によって状況がさらに深刻化したため、26万人が命を落とすという世界的にも大規模な飢饉が発生した。現在この国は、ふたたび飢饉状態の瀬戸際まで追いやられている。

犠牲者は今のところ数百人程度だが、3─5月も降水量が改善しなければ、その数は急増するだろう。見通しは楽観を許さない。

米国のトランプ大統領が国際援助予算の削減をちらつかせるなかで、国連は、ソマリア、ナイジェリア、イエメン、南スーダンの4カ国における干ばつと紛争により、第2次世界大戦以降で最大となる人類の集団災害が現実化しつつあると指摘する。

オブライエン国連事務次長(人道問題担当)は3月、安全保障理事会に対して、「私たちは歴史の臨界点に立っている」と述べた。「国連が創設されて以来、最大の人道的危機に直面しているのだ」

国連は7月までに44億ドルの資金を必要としているとオブライエン事務次長は語る。だが、これまでに国連が受領したのは5億9000万ドルに過ぎない。

<辛い選択>
統計数値には表われないが、家族たちは日々、生き残るために胸を締め付けられるような選択を余儀なくされている。

フセインさんは、ゼイナブさんの自由を、彼女の姉妹の生命のために売り渡した。
「とても辛い気持ちだ」とフセインさんはロイターに語った。棒とボロ布、ビニールシートでできた粗末なテントには、彼女と14人の親族が身を寄せ合っている。「あの子の夢を終わらせてしまった。しかし結婚支度金がなかったら、私たちは全員死んでいたはずだ」

ゼイナブさんの手は染料の色に染まり、10代の子供らしく、自分でした落書きの跡がある。ぴったりとしたスカーフを頭に巻き、一番下にラインストーンで装飾を施したズボンの上に、長い淡褐色のスカートを履いている。内に秘めるのは鉄のように強固な意志だ。彼女は英語の教師になりたがっている。学校を卒業したいと思っている。彼女は結婚などしたくないのだ。

「私が求めているのは、こんな状況ではない」と彼女は言う。2歳の甥は裸で砂の上に横たわり、その弟である赤ん坊が弱々しく泣いている。

ゼイナブさんの夢の引き換えとなったのは、20人の姪や甥たちの命だ。彼らの母親はゼイナブさんの3人の姉で、若くして結婚したが、いずれも夫に死別するか離婚している。他にも、心配事でやつれた兄や、すきっ歯の妹、それに中年にさしかかった両親がいる。

かつて一家は牛やヤギを飼い、3頭のロバを馬車につないで移動手段として使っていた。だが家畜たちは死んでしまい、彼らがこの状況から逃れるための唯一の希望はゼイナブさん自身となってしまった。

1ヶ月にわたって彼女は結婚を拒否し、ふさぎ込み、部屋に閉じ込めておくことを家族が忘れたときには逃げ出した。だが結局、家族のあまりの困窮ぶりに、彼女の気持ちは折れた。

「娘に強制したいとは思わなかった」と母親は憂鬱そうに言う。心労のために額には皺が刻まれ、娘は硬い表情のまま隣に座っていた。「ストレスで眠れなかった。あまりにも目が疲れていて、針に糸を通すこともできなかった」

支度金を受け取り、祝福を受けて結婚は成立した。ゼイナブさんは3日間、婚家に留まった後、そこを逃げ出した。

家族が自動車を借りて40キロ離れたドーロに移ったとき、ゼイナブさんも同行した。彼女は地元の学校に入学した。簾(すだれ)で壁を作り波形の鉄板で屋根をふいた教室には、教師が10人、生徒は約500人いた。
夫は後を追ってきた。

「彼は、自分を拒むなら金を取り戻さなければならない。さもなければ力ずくで彼女を取り戻す、と言った」とザイナブさんは静かに語る。「金を返せ、さもなければ夫としてお前のそばにいる、というメッセージを彼は私に送ってきた」

家族には支度金の一部でさえ返済することはできない。彼らのわずかな財産は、シミの付いた発泡素材のマットレスが2枚、調理用の鍋が3つ、その場しのぎのテントを覆うオレンジの防水シート、たったそれだけだ。他には何も売るものはない。

そこで、ゼイナブさんの英語の教師であるAbdiweli Mohammed Hersiさんが仲介役を買って出た。干ばつのために学業を諦める生徒を彼は何百人も見てきた。

<結末>
Hersiさんはゼイナブさんを地元の支援団体のもとに連れて行き、彼女をイタリアの支援団体に紹介した。欧州連合(EU)の資金提供者と一緒に視察に訪れていた地域コーディネーターは、介入を決意した。

「この少女のために何かしなければならない」。祈祷への呼び掛けが屋根を通して聞こえてくるなか、説明を聞くために集まった同僚たちのために茶を注ぎながら、Deka Warsameさんはそう語った。「さもなければ、毎晩レイプが行われることになってしまう」

彼女のスタッフは献金を募り、支度金の返済に足りるだけの現金を集めた。そしてゼイナブさんに、支援団体が両家の男性会合で仲裁を行うと語った。彼女の夫が証人の前で離婚を認めるならば、彼は支度金を取り戻すことができる。

それを聞いて、うつむいていたゼイナブさんは、さっと顔を上げ、 「私は自由の身になるの」と尋ねた。【4月17日 ロイター】
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上記の少女の場合は、救いの手も差し伸べられたようですが、ほとんどのケースではそうした“救い”もありません。

【ターキッシュ・エアラインズ(旧「トルコ航空」)の試み】
国内あるいは同じような国における災害・事故・テロなどには過敏なほどに反応する欧米・日本の社会ですが、飢餓と戦乱で生きるすべを失ったアフリカの小国の現状には、ほとんど関心を示さないのが現実です。

長年の援助疲れもあるでしょうし、「自国第一」の風潮の蔓延もあるでしょう。何より、そうした悲惨な国が多すぎ、感覚がマヒしてしまっていることもあります。「ああ、またね・・・・」

そうした反応が鈍い国際社会にあって、数少ない“支援”に関する話題が。

****ターキッシュ・エアラインズ、ソマリアに貨物専用機で人道支援物資を輸送****
ターキッシュ・エアラインズは2017年4月5日(水)、食糧危機に直面するソマリアへの支援物資輸送機の要請に応じ、イスタンブール/モガディシュ間で人道支援物資を搭載した貨物機を運航しました。

Twitterで著名なジェローム・ジャー氏がソマリアへ定期便を運航するターキッシュ・エアラインズに対し、ソマリア食糧支援の輸送機を要請する動画を投稿し、世界中から大きな反響を呼び、ハリウッド俳優らも巻き込んだ拡散につながりました。

ターキッシュ・エアラインズもこの行動に対し、6カ月にわたるソマリアへの人道支援物資、計200トンの輸送を支援すると発表しました。

この支援発表から間もなく、100万米ドル達成を目標とした寄付金集めが始まり、22時間で104カ国、16,000件の寄付が寄せられ、目標を達成したのち、15日目には125カ国、80,000件の寄付、調達額は240万ドルとなりました。

4月4日(火)夜にターキッシュ・エアラインズのA330-200貨物専用機がイスタンブールを出発、ソマリアへタンパク質強化乳児用粉ミルク65トンを輸送しました。

モガディシュでは、現地NGOの代表、フォウシヤ・アビイカー・ヌル厚生大臣、モハメド・アブデュラヒ・サラド輸送・民間航空大臣など政府高官などに出迎えられました。

同社はソマリアと世界を結ぶ唯一の民間航空会社として、その社会的責任は大きいとして、引き続き協力していくと述べています。【4月12日 Fly Team】
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国内人権状態に関して欧州・EU諸国からはとかくの批判もあるトルコですが(憲法改正承認で今後の“独裁”傾向への懸念もあります)、現実問題として多数のシリア難民を国内に受け入れ、近隣の同じイスラム社会へのこうした支援活動も行われているようです。

【トラウマから解放された?アメリカ】
一方、アメリカ・トランプ政権もソマリアへのアクションを起こしていますが、こちらは人道支援ではなく軍隊の派遣です。

もちろん、長期的には、戦乱を収束させることがソマリア社会復興の大前提となります。

****<米軍>ヘリ撃墜事件以来、ソマリアに通常部隊派遣へ****
AP通信は14日、米軍がアフリカ東部ソマリアに通常部隊を派遣すると報じた。通常部隊の派遣は、1993年に起きた米軍ヘリ撃墜事件をきっかけに全面撤退して以来となる。
 
約40人からなる部隊が派遣され、イスラム過激派アルシャバブの掃討作戦を展開するソマリア軍に対し訓練を実施する。これまで米軍の支援は、小規模の軍事顧問団などの派遣を除けば、無人機による空爆やミサイル攻撃に限られていた。
 
米軍は93年に首都モガディシオでヘリを撃墜され、市民が米兵の遺体を引きずり回した事件を受けてソマリアから撤退を余儀なくされた因縁がある。
 
米国防総省は先月、トランプ大統領が米軍によるアルシャバブへの空爆強化を承認したと発表していた。【4月15日 毎日】
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1992年当時、ソマリア戦乱は現在以上の混乱状態・無政府状態にありました。
その惨状にジョージ・H・W・ブッシュ米大統領は退陣を間近に控えた92年末、国連安全保障理事会の決議に基づき、米軍主導の多国籍軍ソマリア統一機動軍(UNITAF)を派遣しました。

****ソマリアの惨状を世界が見捨てた訳****
内戦激化で大量の難民が生まれ飢餓も慢性化しているが、米軍も国連も助けにこない

1992年当時のソマリアは最悪の状況だった。内戦で無政府状態が続き、武装集団が国連の援助物資を略奪。全土で180万人が飢えに苦しんでいた。
 
そこへ登場するのが、米軍主導の多国籍軍だ。インド洋には援助物資を積んだ米軍の輸送艦隊が現れ、空からは米軍の攻撃ヘリが物資を運ぶトラックを援護。武装勢力の動きを監視するために米軍の偵察機が首都モガディシオ上空を日夜旋回した。(後略)【2009年11月25日 Newsweek】
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しかし、【毎日】記事にあるように、93年に米軍ヘリ「ブラックホーク」が撃墜され、市民が米兵の遺体を引きずり回すという事件が起きます。

以来、アメリカはそして国際社会はソマリアから手を引き、ソマリアは破たん国家の道を歩むことになりました。

その後、状況の変化はいろいろあったものの、アメリカはソマリアに関しては93年の事件が“トラウマ”になっており、なかなか関与しようとはしない・・・とも言われてきました。

二十数年を経て、ようやく“トラウマ”も薄れてきたのでしょうか。

もっとも、今回の派兵は40人規模ということで、できることは極めて限定的です。
「自国第一」を掲げ、海外への援助も削減しようとしているトランプ政権には、あまり大きな期待もできません。

シリア攻撃を決心させたともいわれる2枚の写真でトランプ大統領の心に人道支援に対する共感が大きく芽生えた・・・という話なら別ですが、そういうこともないでしょう。

台湾、日本、中国、そして韓国 その微妙で複雑な心情

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(八田與一像と墓【ウィキペディア】
像設置を固辞していた八田本人の意向を汲み、一般的な威圧姿勢の立像ではなく、工事中に見かけられた八田が困難に一人熟考し苦悩する様子を模し、碑文や台座は無く地面に直接設置されそうです。)

【地元の有志によって守られてきた八田與一像】
台湾南部・台南市で日本統治時代の技師、八田與一像の頭部が切り取られた事件については周知のところです。

*****八田 與一****
・・・・1918年(大正7年)、八田は台湾南部の嘉南平野の調査を行った。嘉義・台南両庁域も同平野の区域に入るほど、嘉南平野は台湾の中では広い面積を持っていたが、灌漑設備が不十分であるためにこの地域にある15万ヘクタールほどある田畑は常に旱魃の危険にさらされていた。

そこで八田は民政長官下村海南の一任の下、官田渓の水をせき止め、さらに隧道を建設して曽文渓から水を引き込んでダムを建設する計画を上司に提出し、さらに精査したうえで国会に提出され、認められた。

事業は受益者が「官田渓埤圳組合(のち嘉南大圳組合)」を結成して施行し、半額を国費で賄うこととなった。このため八田は国家公務員の立場を進んで捨て、この組合付き技師となり、1920年(大正9年)から1930年(昭和5年)まで、完成に至るまで工事を指揮した。

そして総工費5,400万円を要した工事は、満水面積1000ha、有効貯水量1億5,000万m3の大貯水池・烏山頭ダムとして完成し、また水路も嘉南平野一帯に16,000kmにわたって細かくはりめぐらされた。この水利設備全体が嘉南大圳(かなんたいしゅう)と呼ばれている。(中略)

日本よりも、八田が実際に業績をあげた台湾での知名度のほうが高い。特に高齢者を中心に八田の業績を評価する人物が多く、烏山頭ダムでは八田の命日である5月8日には慰霊祭が行われている。

また、現在烏山頭ダム傍にある八田の銅像は、ダムの完成後の1931年(昭和6年)に作られたものである。住民の民意と周囲意見で出来上がったユニークな銅像は、像設置を固辞していた八田本人の意向を汲み、一般的な威圧姿勢の立像を諦め、工事中に見かけられた八田が困難に一人熟考し苦悩する様子を模し、郷里加賀出身の彫刻家都賀
田勇馬に制作を依頼し碑文や台座は無く地面に直接設置された。

その後、国家総動員法に基づく金属類回収令の施行時や、中華民国の蒋介石時代に、大日本帝国の残した建築物や顕彰碑の破壊がなされた際も、地元の有志によって守られ、銅像は隠され続け、1981年(昭和56年)1月1日に、再びダムを見下ろす元の場所に設置された。

今では、台座上に修まる銅像の経過や、八田が顕彰される背景、業績もさることながら、土木作業員の労働環境を適切なものにするため尽力したこと、危険な現場にも進んで足を踏み入れたこと、事故の慰霊事業では日本人も台湾人も分け隔てなく行ったことなど、八田の人柄によるところも大きく、エピソードも多く残されている。

中学生向け教科書『認識台湾 歴史篇』に八田の業績が詳しく紹介されている。(後略)【ウィキペディア】
*****************

数年前、母が戦前に台南・嘉義に住んでいたことがあって、その方面を旅行した際に初めて八田氏の名前を知りました。

日本統治にもかかわらず、現在の台湾が日本に非常に好意的感情を有していることは多くの報道で知られるところですが、そうしたことも八田與一のような人物の地道な功績があってのことでしょう。

日本に対しては厳しい姿勢も見せた国民党・馬英九前総統も八田氏の慰霊祭に参加し、八田氏がダム建設時に住んでいた宿舎跡地を復元・整備して「八田與一記念公園」を建設することを表明し、2011年に完成しています。【ウィキペディアより】

今回の切断事件は非常に痛ましいことではありますが、台湾の一部に日本統治を否定しようという考えがあるのは極めて自然な話で、また犯人とされる元台北市議の男は“任期中、市幹部を殴り起訴された。また、2016年には急進的な台湾独立派の団体の敷地に放火し逮捕、起訴されている”【4月18日 産経】とのことで、やや特異な性格でもあるようですから、この事件をもってどうこうという話もないかと思います。

台南市政府からは、八田氏の命日である5月8日までに銅像を修復する意向が示されています。

今回事件を機に、日本と台湾の絆が再確認されれば、それはそれでよし・・・というところでしょうか。

【相思相愛の台湾・日本関係に複雑な感情を抱く中国】
台湾が日本に対し好意的なことは、多くの報道に示されていますが、中国もそのあたりは認識しています。
台湾人が最も好きな国に関するアンケートで、日本は2位で、1位ではなかったことを驚いているほどです。

****台湾人の好きな国、1位シンガポール、2位日本=中国ネット驚き****
2017年3月22日、シンガポール華字紙・聯合早報によると、台湾民意基金会による調査で、台湾人が最も好きな国は1位がシンガポールで、日本は2位だった。

この調査では、台湾の隣国と世界の主要国、合わせて12カ国についてその好感度を尋ねた。その結果、最も好感度が高かったのはシンガポールで87.1%、次いで日本の83.9%、カナダの83%、欧州連合(EU)の78.7%、オーストラリアの78.6%と続いた。

一方、反感を持つ国では、1位が北朝鮮で81.6%、次いでフィリピンの57.3%、中国の47.4%、韓国の41.7%、ロシアの33.9%と続いた。

報道によると、台湾人が好感、反感を持つ基準となっているのは、民主や豊かさ、社会の平等性、環境保護などの国の発展レベル、文化と血縁の相似性、敵意を感じるか否かだという。

これに対し、中国のネットユーザーから「まあその通りだな。日本は台湾のお父さんだし。でもなぜお父さんが2位なんだ?」「日本が1位なはずだろ。それに一番嫌いなのが中国ではないとは意外だ」と、この結果に驚くユーザーが少なくなかった。

また、「台湾を取り戻したら、台湾独立派をシンガポールに引き取ってもらおう」「実際のところ、香港も含めた東アジア全体で最も嫌われているのが中国だ」などのコメントもあった。いずれにしても、中国の好感度が低いということは中国のネットユーザーも自覚しているようである。【3月22日 Record China】
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先述のように、日本統治に関する否定的な考えが影響する面もあるでしょうから、日本への好感度に一定の限界があり、シンガポールを下回るというのは、これも自然な話でしょう。

歴史認識で日本と対立する中国からすれば、どうして台湾は日本に対して・・・という感はあるでしょうが、“日本は台湾のお父さん”というのも面白い表現です。初めて目にしました。

“お父さん”云々はともかく、日本人も台湾に対しては“自分の家のような”親近感を強く感じるようです。

****訪台日本人数、昨年は189万人=「台湾は自分の家のよう」****
2017年3月23日、中国メディアの観察者網は日本メディアの報道を引用し、昨年の訪台日本人数が189万人を超えたと伝えた。

記事は、多くの日本人が台湾旅行に行った理由について分析した日本メディアの記事を紹介。「台湾は日本人にとって自分の家のような場所」とのタイトルで、台北や台南では多くの店の看板が中国語と日本語で表記されており、日本料理店も多く、台湾人は日本人に対してとても親切であるため、日本人にとってどこか懐かしく親近感があると伝えた。

また、基礎的な日本語を話せる台湾人も多く、街には日本のアニメやゲームがあふれていて、日本文化を至る所に見ることができるため、沖縄の方がよっぽど外国のような感じがするほどだと紹介した。

記事はまた、実際に台湾旅行へ行った日本人女性が、「台湾には日本人がすでに失った人情味がある。1人旅をしていても孤独を感じることはないが、東京では全く逆だ」と話したことを紹介した。

この日本メディアの記事について、台湾の各メディアも好意的に報道。記事はそのことを皮肉り「台湾メディアが興奮して報道した」と伝えた。

これに対し、中国のネットユーザーから「もともと日本の植民地だったところが、いまでは花園になったんだな」「人情味だって?台湾に行って宗主国としての感覚を味わっているだけだ」など批判的なコメントが寄せられた。

また、「台湾に対して一国二制度を採用したら、面倒なことになりそうだ」との意見や、「沖縄人と台湾人は住む場所を取り換えたらどうだ?沖縄は日本から独立したがっているようだから」との主張もあった。【3月24日 Record China】
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台湾を何としても取り戻したい中国からすれば、あろうことか台湾と日本が互いに好意的な現状というのは、なんとも複雑なところでしょう。微妙な三角関係です。韓国まで含めれば、複雑な四角関係でしょうか。

台湾側の日本への親近感を伝える最近の報道としては、下記のようなものも。

****日本時代の駅舎再建=開設101年、人気スポットに-台湾****
台湾の台北市で日本統治時代の1916(大正5)年に日本人の設計で建てられ、約30年前に解体・撤去された「新北投駅」の駅舎が、当時の駅近くに再建された。独特の和洋折衷様式が目を引き、一般公開から1カ月もたたないうちに、早くも人気スポットになっている。
 
台北北部の北投地区は温泉地として日本統治初期から開かれ、日露戦争の負傷兵が北投温泉で療養した記録も残っている。台湾総督府は温泉利用者の利便を図るため、16年に鉄道を延伸して「新北投乗降場」を開設。後に「新北投駅」と名称変更したが、ひのき造りの駅舎は80年代末の地下鉄開通時に解体された。
 
駅舎は長年、地元のシンボルとして親しまれ、住民の社交場としての役割も果たした。近くに住む魏子良さん(73)は「住民にとって駅舎は特別な存在だった」と懐かしむ。

2003年ごろから住民間で駅舎再建の機運が高まり、13年に駅舎が保存展示されていた南部の彰化県からの移築作業に着手。新たな材料も使って修復・再建を進め、地下鉄の新北投駅前の公園内に今年、完成した。
 
駅舎開設から101年となる今月1日から一般公開が始まり、2週間で約5万人が訪れた。管理する台北市文化基金会の呉峻毅さん(48)は「来年は汽車、レール、ホームも設置する計画。日本の方もたくさん見に来てほしい」と期待している。入場は無料で、駅舎内には関連資料・写真などが展示されている。【4月16日 時事】
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【頑なに“日本的なもの”を排除したい韓国の“桜起源論争”】
中国もそうですが、中国以上に日本への対抗意識が強い面もある韓国などでは、とてもありえない話です。
韓国は、“日本的なもの”の抹消に躍起になっている感もあります。

そのひとつが、桜の起源に関する議論。
日本人からすれば、重要なのはその美しさと、日本の文化・社会との深いかかわりであり、どこ起源であろうが大した問題ではないように思えます。(もともと、日本文化の多くは大陸・朝鮮由来のものですから、そこにこだわっても仕方がないところがあります)

しかし、いまや韓国でも多くの人がその美しさに魅了されている桜が“日本のもの”というのは、韓国にとっては受け入れがたいものがあるようです。

****韓国が桜の「起源」に固執する理由****
韓国の桜の季節は日本の東北地方と同じ時期、東京よりは1、2週間ほど遅れてやってくる。桜の時期になると毎年繰り返して話題に上げるのが、日本-韓国間の「原産地」論争だ。

そうはいっても日本側での反応は薄い、というよりはさほど関心がないように見受けられる。
これに対し、韓国側では、韓国=原産地説を否定でもしようものなら、まるで顔に泥を塗られでもしたかのように、ヒステリックで感情的な反応を示す。桜の「原産地」だということへの執着は日本人の比ではない。この執着心はどこから生まれたのだろうか?
 
実は、桜の原産地が韓国だという主張は1950年代にも存在した。しかし、初期には一部による主張にとどまり、大部分の韓国人にとって桜は日本の花であり、日本を象徴する花だと考えられていた。

それは、1945年に第二次世界大戦が終わり、日本統治から解放された韓国のあちらこちらで、韓国人の手によって桜の木が伐採されたことが何よりもはっきりと証明している。「桜=日本のもの」という認識があったからこそ、日本に対する反感を桜に向け、怒りをぶつけたのだ。
 
また、戦後にも春になると喜んで「花見」に出かける韓国人たちの姿を見咎めて、問題提起をするような新聞記事も90年代までは何度も書かれている。日本文化である花見を楽しむ姿は目に余るという理由だ。
 
美しい花をみて、それを楽しむという行動が批判を浴びなければならない理由はなんだろうか? 所属する国家が違い、民族が違ったとしても、美しいものをみて美しいと思い、それを愛でたいと思うのは人間の「本能」とでもいうべきものだ。
 
終戦直後の韓国には、こういった本能的な喜びを素直に受け止めることすら罪悪視されるほどに強烈な反日感情が充満していた。

美しいものをみても「敵の文化と象徴を愛でてはならない」と、美しいと感じる感情は強迫観念にも似た罪悪感のもとに押さえつけられなければならなかったのである。
 
だが、この罪悪感はいつまでも韓国人の本能を抑え続けることができなかった。何処何処の桜が美しく咲き誇っていると話題になれば、人々は吸いつけられるかのように桜を見に出かける。近年では全国各地の自治体が観光客を誘致しようと観光地化を推し進め、競うように桜の名所と宣伝し始めた。

このような風潮に対して、「韓国の花もいろいろあるのに何で日本の花?」、「日本文化の真似だ」といった懸念の声があがったことは言うまでもない。
 
これに対し、これらの懸念をきれいに払拭してくれる主張が登場したのだ。それこそが「桜の原産地は韓国である」という主張だ。

つまり、日本の象徴であり、日本の花だとして知られていた花は実は韓国原産である、という主張は、桜を好み、愛する韓国人達を罪悪感から救い、強迫観念から解放してくれたのだ。今や自制する必要はなく、日本の目を気にする必要もない「名分」を得たのである。(後略)【4月13日 WEDGE】
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上記【WEDGE】は続けて、仮に韓国原産であったとしても、韓国には昔は桜を愛でて楽しみ、あるいは生活の中に利用するような文化や情緒は無かったという事実、また、現在、韓国で咲いている桜の多くは戦後、在日韓国人達によって贈られた、「日本産」の桜であるということを指摘しています。

そのうえで、以下のように。

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少し話が飛ぶが、壬辰倭乱つまり、豊臣秀吉による朝鮮出兵の際に、朝鮮の陶工が数多く日本に捕虜として連行された。

しかし、彼らのうちの相当数は終戦後、韓国側の捕虜と交換に半島に帰れることになったのだが、朝鮮へ帰国を拒否し、日本に残り陶工として根をおろした。

商人や職人を蔑視する朝鮮とは異なり、日本では技術と努力に対し正当な評価が受けられたためだという。
 
私は、毎年春になれば、韓国が桜の原産地論争を持ち出すのを見るたびに、この陶工たちの話を思い出す。

「原産地」や「起源」よりも、その対象を認め、評価し、愛してきたのかということの方が、よほど重要な問題に思えてならないからだ。

植物のDNA検査の結果を持ち出して「所属」を主張することで、一体何が得られるというのだろうか?【4月13日 WEDGE】
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いたって正論です。個人的にも同感です。

まあ、しかしながら、そうであったとしても“日本的なもの”を受け入れがたく感じる韓国の心情、何がそのように頑なにさせているのかということにも思いをめぐらす必要もあろうかとは思います。

台湾の関連で、最近の独立志向の話、中国・アメリカとの関係などにも触れるつもりでしたが、今日はパスして、また別機会に。
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