
(9月11日 バロセロナ 大通りを埋め尽くす、独立運動を象徴する黄色い旗を持った参加者たち。https://www.rt.com/news/315070-catalan-independence-rally-barcelona/)
【「私は自分のことをカタルーニャ人だと思っている」】
欧州における分離独立運動と言えば、イギリスからのスコットランド分離独立の問題が先ず思い浮かびますが、スコットランドと並んで現実の政治問題化しているのがスペインのカタルーニャの扱いです。
****カタルーニャ****
カタルーニャについては、その州都、バルセロナの名前の方が、オリンピック開催や建築家ガウディ、あるいはサッカークラブのFCバルセロナなどでよく知られているでしょう。
歴史的には、1137年にアラゴン王国との同君連合が成立。1479年にはカスティーリャとバルセロナ=アラゴンが同君連合となった・・・・等々の経緯、1714年にはスペイン継承戦争でバルセロナ陥落、また、現代に飛ぶと、フランコ将軍によるスペイン内戦時の文化的弾圧などがあったようです。
【2012年10月22日ブログ「スペイン バスク、カタルーニャで強まる自立を求める動き」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121022)より再録】
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“1714年にスペイン・ブルボン家が武力でカタルーニャを占領してから、以後抑圧され続けてきた”【ウィキペディア】・・・と言っても、日本人にはピンときません。
ただ、カタルーニャの文化はいわゆるスペインの文化とは大きく異なり、例えば、スペインからすぐに連想する闘牛はカタルーニャのものではありません。また、「明日できることは、明日へ」といったスペイン人気質に対し、カタルーニャの人々は勤勉な節約家だとか。
****カタルーニャ独立問題の背景****
◆なぜ独立?
カタルーニャ州バニョラスで特殊教育の仕事に携わるジョルディ・マジョールさん(45歳)は住民投票が実現した場合、賛成票を投じたいと考えている。スペイン政府の強硬姿勢が主な理由だ。
「私は自分のことをカタルーニャ人だと思っている」とマジョールさんは話す。
「国籍だけの問題ではない。心の奥に息づく伝統のようなものであり、それがある種の民族意識を芽生えさせる。
しかも、このような状況を招いたのはカタルーニャではなく今のスペイン政府だ。われわれは長年、スペインの1つの州として問題なく暮らしてきた。ところが、カタルーニャの伝統を巧妙なやり方で抑圧する法律が次々と成立している」
これは独立派からよく聞かれる不満の一例だ。(中略)
◆カタルーニャの独自性
約1000万人が話すカタルーニャ語はスペイン語よりフランス語に近い。かつてピレネー山脈を越えてフランスにまたがる自治区の一部だった事実を考えれば驚くことではない。
また、カタルーニャには独自のテレビ局が複数あり、2005年には.catという独自のドメインが承認されている。
そして何より、カタルーニャの人々が独自性を感じている。サルダーナ(Sardana)というダンスや世界屈指のサッカーチームであるFCバルセロナ、サルバドール・ダリやアメリカのプロバスケットボールリーグNBAで活躍するパウ・ガソルといった文化的なヒーローの存在が大きい。
◆富の原動力
バルセロナは、今となってはその面影はあまりないが、常にスペインの産業革命、技術革新の中心地だった(内燃機関と酸素源を搭載した潜水艦はここで発明された)。
独立派を最も勢い付けているのはカタルーニャの経済的な影響力だ。カタルーニャ自治州の人口は約750万で、スイスの人口に匹敵する。カタルーニャの人々はスイス人と同じく、勤勉な倹約家だ。
カタルーニャ自治州には4000の多国籍企業があり、GDPは2200億ユーロ(約30兆円)に達する。スペインのGDPの約5分の1がここで生まれている。(中略)
カタルーニャの人々が特に腹立たしく感じているのは、マドリードとカタルーニャの著しい経済的な不均衡だ。2012年の時点で、スペイン政府に納めていた税金は政府からの分配金より年平均で120億~160億ユーロ(約1兆6000~2兆1700億円)多い状態だった。
スコットランドで先日行われた住民投票と同様、マス氏が独立を目指す理由の一つは、カタルーニャが自ら税金を徴収し、その使い道を自由に決められるようにすることだ。
ただし、スコットランドと同様、カタルーニャが独立すればいくつもの経済的な障害に直面することになるだろう。
「Economist」誌のカラム・ウィリアムズ氏は、「通貨同盟をどうするかが明確になっていない」と指摘する。
「欧州連合(EU)の市場から切り離されないよう、企業はスペイン側に移転するかもしれない。もちろん、スペイン側も痛みを伴う。税収とGDPへの貢献を失うためだ。基本的には、双方に不利な状況だ」。【2014年10月16日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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文化的独自性、歴史的経緯、スペイン国内総生産(GDP)の5分の1を生み出すカタルーニャが納めた税金が貧しい州に再分配されることへの反感・・・・。
更に、EUや北大西洋条約機構(NATO)への加盟が実現すれば、独立のコストは高くつかないとの判断もあるようです。(それが認められるかどうかについては、高いハードルがありますが)
【昨年11月には違憲状態で住民投票を強行】
カタルーニャの独立問題が大きくクローズアップされたのは、2014年11月にカタルーニャ自治州が独立の是非を問うための非公式な住民投票を行おうとしたときでした。
中央政府の提訴を受けたスペインの憲法裁判所は全会一致で凍結を命じました。また、中央政府の制止を受けて「表現の自由を侵害された」と主張した自治州からの提訴を退けました。
しかし、カタルーニャ自治州は中央政府・憲法裁判所の制止を振り切って、2014年11月9日、独立の是非を問う非公式の住民投票を強行しました。
****<カタルーニャ>独立賛成8割 反対派大半は投票せず****
スペイン東部カタルーニャ自治州で9日、独立を問う非公式の住民投票が実施され、独立賛成が約80%を占めた。反対派の大半は投票しなかったとみられる。
マス州知事は公式の住民投票実施に向け中央政府と交渉する意向を表明するとともに、2016年の州議会選を前倒しし、中央政府に圧力をかける考えも示唆した。(中略)
投票所での毎日新聞の取材では、複数の有権者が「今回は法的拘束力のない投票で、結果が実際の独立に直結しないから、独立に賛成した」との趣旨の回答をし、自治権拡大が最終目標の有権者も多いとみられる。(後略)【2014年11月10日 毎日】
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スペインのラホイ首相は、カタルーニャ自治州が実施した独立の是非を問う非公式の住民投票について、投票者数が全有権者数の3分の1程度にとどまったことを理由に「独立運動の重大な失敗だ」と述べ、賛成派は住民の十分な支持を得られなかったとの認識を示しました。
【州議会選挙で勝利すれば、1年半で独立を実現・・・・】
最近になって、再びカタルーニャ独立問題が表面化しているのは、今月27日に州議会選挙が行われるためです。
****来月(9月)27日に州議選=スペインからの独立争点―カタルーニャ****
AFP通信によると、スペイン東部カタルーニャ自治州のマス州政府首相は3日、州議会選挙を9月27日に実施する政令に署名した。マス首相は「州の自由と尊厳を問う事実上の住民投票だ」と述べ、州独立の是非が主要な争点と説明している。
スペイン中央政府はカタルーニャ州の独立を断固阻止する構えで、選挙の結果、独立賛成派が過半数を維持すれば両者間の緊張が高まるのは必至。
中央政府は「州議会選は議員を選ぶためで、それ以上の意味はない」との見解を示し、独立の是非は争点ではないと否定している。
自治州政府は昨年11月、中央政府の反対を押し切って独立の賛否を問う非公式の住民投票を強行。有権者540万人のうち230万人が投票し、約8割が独立を支持した。
州議会選をめぐる最近の世論調査では、マス首相率いる与党を含む独立派勢力が僅差で過半数の議席を獲得するとの結果もある。【8月4日 時事】
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11日には、独立賛成派の大規模デモが行われました。
****<スペイン>バルセロナで独立賛成派の140万人デモ****
スペイン東部カタルーニャ自治州の州都バルセロナで11日夕、スペインから同州の独立を訴える独立賛成派による大規模デモがあり、独立運動を象徴する黄色い旗を持った参加者たちが大通りを埋め尽くした。
地元警察は、デモの参加者を140万人と発表。中央政府は52万〜55万人と推定した。
マス州知事は9月27日投票の州議会選挙を独立への信任投票と位置づけ、勝利の場合、「18カ月以内の独立」を主張している。中央政府は自治州の独立を認めない方針で、激しい対立が続いている。
主要な世論調査は州議会135議席中、独立賛成派が過半数を上回る見通しを伝えている。同州では、独自の言語や文化があることや、経済危機の中、中央政府による税の再配分への不満が高まったことから、独立賛成派が伸長した。【9月12日 時事】
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現段階での予測では、上記記事にあるように独立賛成派が過半数を上回ると勢いとのことです。
****州議会選、独立派が優勢=中央政府と緊張も―スペイン・カタルーニャ****
スペイン東部カタルーニャ自治州で27日、州議会選挙が行われる。
州の独立の是非が最大の争点で、マス州政府首相率いる中道右派の与党・民主集中(CDC)をはじめとする独立賛成派が優勢。結果次第では、州の独立を断固阻止したい中央政府との緊張が高まる可能性もある。
欧州メディアによると、州都バルセロナでは11日、140万人(警察集計)が独立を求めるデモ行進を実施。マス首相はこれに先立つ記者会見で「われわれが要求しているのは夢物語ではない。欧州諸国の多くは20世紀初頭には存在していなかった」と訴えた。
今月上旬の各種世論調査では、CDCや左派の連立与党・共和主義左翼(ERC)などの独立賛成派政党が計45%前後の支持率を獲得。定数135のうち70程度と過半数の議席を占める勢いとなっている。
マス首相は州議選について、独立の賛否を問う事実上の住民投票だと主張。賛成派が勝てば、統治機構や憲法の整備といった新国家樹立の準備に着手し、1年半で独立を実現すると説明する。
カタルーニャの独立構想に対し、中央政府のラホイ首相は「スペインの統一は誰にも破壊できない」と繰り返し反対してきた。
欧州連合(EU)が新国家をすんなり承認する見込みはなく、ハードルは極めて高いのが実情だ。
とはいえ、独立運動を放置すれば政治の混乱が他地域に飛び火しかねない。
ガルシアマルガリョ外相は10日、独立派の意向を尊重して同州の自治拡大に道を開く憲法改正の可能性に言及。「政府は対話を求めている」と平和的解決に向けて譲歩もあり得ることを示唆した。【9月12日 時事】
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「欧州諸国の多くは20世紀初頭には存在していなかった」・・・・日本という国家をなんとなく自明のものと認識している多くの日本人とは認識が異なります。
【くすぶるイギリスのスコットランド・北アイルランド問題】
イギリス・スコットランドの問題も、来年5月に行われるスコットランド議会選でスコットランド民族党(SNP)が前回に続き再び過半数を制して自治政府を主導する事態となれば、独立を問う2回目の住民投票への機運が広がることも指摘されています。
また、キャメロン首相が2017年末までに行う予定の国民投票で、イギリスのEUからの離脱が多数を占めた場合、スコットランドで独立とEU再加盟を問う2度目の住民投票が実施される可能性も指摘されています。
なお、泥沼の宗教対立・イギリスへの帰属問題を政治的には(住民間の心の壁は別として)克服した形の北アイルランドも、話はそう簡単ではないようです。
かつて30年にわたり、カトリック過激派アイルランド共和軍(IRA)は英国統治の継続を望むプロテスタント系の組織や住民を標的とする爆破事件や銃撃事件を繰り返してきましたが、IRAの武装闘争は、1998年の和平合意によってほぼ終焉し、プロテスタントとカトリックが共同で運営する北アイルランド議会設置に道が開かれました。
****北アイルランド首相が辞任=IRAの存続疑惑に反発****
英国北アイルランドのプロテスタント強硬派の民主統一党(DUP)党首であるロビンソン自治政府首相は10日、カトリック過激派のアイルランド共和軍(IRA)が依然存続している疑いが出ていることに絡み、辞任すると発表した。
長い紛争の末に実現した北アイルランドのプロテスタント、カトリック両派の権力分担による自治が危機に陥っている。
3人のDUP出身閣僚も辞任、同党のフォスター財務相だけが残り首相代行を務める。
ベルファストで8月、IRAの元メンバーが射殺される事件があり、警察はIRAが関与しているとの見方を示した。また、IRA政治部門が前身で、DUPとともに自治政府を構成するシン・フェイン党幹部が事件に関連して一時警察に拘束された。
これを受けてDUPは、2005年に武装闘争終結を宣言したIRAが存続し活動を続けているならシン・フェイン党は自治政府に参加できないと指摘。この問題を協議する間、自治議会の休会を求めたが、議会はこれを否決していた。
シン・フェイン党は、IRAはもはや存在しないと主張している。【9月11日 時事】
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2012年にはエリザベス女王が元IRA司令官のマーティン・マクギネス氏と握手、今年5月19日には、チャールズ英皇太子がアイルランドを訪問し、シン・フェイン党のジェリー・アダムズ党首と初めて握手した・・・ということで、イギリスとシン・フェイン党の和解が演じられてきました。
チャールズ英皇太子との握手後、シン・フェイン党のアダムズ党首は「これほど象徴的なことが起こるとは予想もしなかった。我々は(和解に向け)前進しなければならない」と語っていました。