
(来年1月の台湾総統選勝利が有力視されている民進党・蔡英文主席 http://www.setn.com/News.aspx?NewsID=76252)
【従来の「集団指導体制」から、習近平主席への求心力を高める方向へ】
中国・習近平政権は、7月1日、領土や海洋権益の防衛に加え、宇宙やサイバー空間など幅広い分野をカバーした安全保障政策の土台となる新たな「国家安全法」を制定し、即日施行しました。
****習指導体制強化へ新法 有事の対応、決定権 国家安全法****
中国全国人民代表大会(国会に相当)常務委員会は1日、中国の安全保障政策の土台となる新たな「国家安全法」を成立させた。領土や海洋権益の防衛に加え、宇宙やサイバー空間など幅広い分野を安全保障上のリスクとして想定。
従来の集団指導体制から、習近平(シーチンピン)指導部の強いリーダーシップの下で危機に対応する狙いがうかがえる。
新法では、安全保障上の任務として領土主権や海洋権益の防衛に加え、「宇宙空間や極地の平和的な探索と利用」を盛り込んだ。全人代常務委幹部は「米ロ日などの安保戦略や関連立法を参考にした」と説明。
宇宙やサイバー空間、極地など既存の国際法が不十分な分野に進出し、国際社会での影響力拡大を図る狙いとみられる。
中国軍関係者は「米海空軍は指揮系統を衛星通信に依存している」と指摘。レーザー光線を使用した人工衛星破壊装置を開発しているともみられる。
さらに、「国家の主権と統一」を香港、マカオに加え台湾の「共通の義務だ」としたほか、外国企業の活動や技術が国家の安全を脅かすと判断した場合、検査や監視をするとも定めており、議論を呼びそうだ。
新法はまた、「中央国家安全指導機構」が「国家安全にかかわる決定と調整に責任を負い、重大な方針・政策の研究や実施を担う」とした。
これは、習氏をトップとして昨年立ち上げた「中央国家安全委員会」の役割を定めた内容との見方で、党や外交関係者は一致する。
国家安全委は有事の際、軍を含む様々な機関を束ねる強大な権限を握ることになる。従来の「集団指導体制」とは違う、習氏を中心とした強力な意思決定の仕組みが生まれる可能性を秘める。【7月2日 朝日】
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宇宙やサイバー空間などまでを想定し、適用範囲も香港、マカオに加え台湾まで含むということで、文字通り安全保障政策及び治安維持の基本法の位置づけに思われますが、政治的には習近平主席の求心力を高めていくことを狙ったものとも思われます。
また、「国家安全法」に併せて、テロ対策強化を目指す法律や、外国の民間団体の活動を制限するNGO統制法も近く成立するとのことで、習近平指導部のもとでの国家統制が強化されることが想定されます。
****中国、治安強化の法整備 「国家安全法」「反テロ法」「NGO管理法」 民主派への弾圧懸念高まる****
中国の習近平政権がデモやテロの取り締まりのほか、活動家や外国人の監視を強化する法整備に乗り出した。国家の安全や利益を守るとする「国家安全法」が全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で採択されたのに加え、テロ対策強化を目指す「反テロ法」や、外国の民間団体の活動を制限する「外国非政府組織管理法」(NGO統制法)も近く成立する見通しだ。改革派知識人の間で、締め付け強化に利用されることを懸念する声が出ている。
「国家安全法」は全人代常務委員会で1日に採択され、即日施行された。国家安全については「政権や主権、領土や経済活動など、国家の重大な利益が危険や内外の脅威にさらされない状態」と規定している。
安全保障上の任務としては、領土と海洋権益の防衛に加え、テロや暴動、少数民族への対策など、国内治安維持に属する内容も列挙。宇宙やサイバー空間、資源確保にも言及した。
北京の人権派弁護士は「国家安全の範囲をここまで幅広く規定する法律は世界的にも珍しい。警察や軍が条文を乱用し、人権活動家の弾圧などに使われないか心配だ」と話している。
国家安全法は、香港の民主派や台湾独立派がデモなどを通じ、中国政府を批判する動きを活発化させていることを念頭に、「国家主権と領土保全の維持は香港、マカオ、台湾住民を含む中国人民の共同義務だ」と規定。
香港返還18周年となる1日から施行したのは、香港の民主派を牽制(けんせい)する狙いもあるとみられる。
北京の民主化活動家は、「海外で反中活動に参加したことがある香港や台湾の活動家が、観光やビジネスなどの目的で中国本土に入ったときに逮捕、起訴される可能性が出てきた。多くの人は萎縮すると思う」と話している。
全人代で現在審議中の「反テロ法」ではIT企業の規制や情報監視の強化が盛り込まれ、外国の企業に情報開示を義務付ける条文もあり、国際社会が強く反発している。
最先端の技術が中国側に流出し、中国企業との競争で不利になることなどが懸念されている。
「外国非政府組織管理法」では、外国の民間団体を中国の公安当局の監視下に置き、政治関連の活動禁止などが盛り込まれるという。
一連の法整備には治安当局の権限を拡大し、一党独裁体制の強化と習指導部の求心力を高める狙いがあるとの指摘もある。【7月3日 産経】
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今でも強すぎるぐらいに十分な権限を持つ治安当局ですが、更にその権限が強化されること、また、中国においては権力の意向に沿った形での恣意的な法運用がなされがちなことを考えると、今後の締め付けが懸念されます。
なお、習近平主席の求心力云々については、周永康・前共産党中央政法委員会書記の裁判が死刑ではなく終身刑という形で唐突に終了したことから、党長老や軍首脳の巻き返しにあっているのでは・・・との見方もあります。
中南海の実情はよくわかりません。
【香港民主派には無力感も】
「国家安全法」が香港、マカオに加え台湾まで含む形になっていることについては、“香港の民主派や台湾独立派がデモなどを通じ、中国政府を批判する動きを活発化させていること”を念頭に置いたものとのことですが、中国の立場からすればそういう話になるのでしょう。
香港では行政長官選をめぐる中国主導の制度改革案が、民主派議員の反対で立法会(議会)で6月に否決されて白紙に戻りましたが、新たな解決策が示されておらず、従来の制度がそのまま残存することになっており、民主派の市民や学生らの間には無力感も広がっているとも指摘されています。
無力感に流されるような状況では、上記のような中国側の強い統制にやがて飲み込まれていくのでは・・・とも危惧されます。
****香港民主化訴えデモ、参加者激減…返還18年****
香港が中国に返還されて18年を迎えた1日、香港中心部で民主派団体主催の大規模デモが行われ、中国が反対する行政長官選挙の民主化を改めて訴え、親中派の梁振英・行政長官の辞任を要求した。
ただ、デモの参加者は主催者発表で4万8000人超で、警察発表でも最大時1万9650人にとどまった。主催者発表で51万人が参加した昨年と比べ、大きく減少した。
直接選挙を導入する一方で、民主派の立候補は容認しないとする次期行政長官選挙の制度改革法案は6月18日、立法会(議会)が否決。
中国の意向を受ける香港政府が今後、民主派の要求を受け入れて制度改革に乗り出す見通しはなく、この日のデモについても世論の関心は高まらなかった。
デモに参加した男子中学生(14)は、「民主化が実現せず、むなしい思いもあるが、あきらめられない」と語った。【7月2日 読売】
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【日中戦争を主導的に戦ったのは中国共産党ではなく国民党・・・・】
一方、「一つの中国」という曖昧な枠組みのもとで、現実には別々に統治がなされている台湾では、「国家の主権と領土の統一は香港、マカオ、台湾同胞を含む中国人の共同義務」とする「国家安全法」への「一方的であり、台湾人の尊厳を傷付ける」(台湾の中国政策を担当する大陸委員会)といった反発も広がっています。
****台湾、「統一義務」反発 中国の国家安全法を批判****
中国が1日に成立させた「国家安全法」で、国家の主権と統一を守ることは「台湾同胞」を含む全中国人民の共通の義務としたことに対し、台湾で反発が出ている。
中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立協定に台湾の加盟を妨げかねない項目が盛り込まれるなど、台湾を刺激する動きが続いている。
台湾で対中政策を所管する行政院大陸委員会は1日夜、「両岸(中台)が別々に統治されている現状を直視せず、現状を維持しようとする台湾人民の一貫した立場を尊重しないものだ」などと批判する声明を出した。
台湾では近年、自らを「台湾人」と考える人が増えている。大陸委が5月に行った世論調査では、75%が中台関係は現状維持すべきだと回答。
中国の国家安全法は台湾住民への実質的な拘束力はないが、心理的な抵抗感は強い。
AIIBをめぐっては、6月29日に署名された設立協定で、「主権を持たない場合は、その国際活動に責任を負うほかのメンバーによる同意か申請が必要」とされた。
台湾はこの規定の適用を拒む方針だが、中国が受け入れない可能性がある。台湾は引き続き加盟を目指すとしているが、今後の中台関係の火種となりそうだ。【7月4日 朝日】
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台湾としては、中国との関係を曖昧にしたまま現状維持で・・・という方向ですので、この種の中国との軋轢は今後も続くと思われます。
その台湾では、4日、「抗日戦争勝利70周年」を記念する軍事パレードが陸軍基地内で行われました。
****抗日色強めた台湾の戦勝記念パレード 日本側と不協和音 代表出席せず****
台湾の国防部(国防省に相当)は4日、「抗日戦争勝利70周年」を記念して北部・新竹県の陸軍基地内で軍事パレードを行った。馬英九総統が出席するパレードは2011年以来、4年ぶり。
当初、中国への対抗を念頭に企画されていたが、実施が近づくにつれ「抗日」の色合いが濃くなり、日本側とも微妙な不協和音が生じた。
パレードは、恒例の総統府前を避け、形式的にも年次演習の一部とするなど日本側に配慮する形で企画された。一方で、陸海空軍から将兵約3800人、航空機64機、車両約300両が参加。11年の「中華民国建国100周年」記念よりも大規模になった。
日中戦争に参戦した元兵士約130人も招待され、うち約20人が車両で行進。10人には馬英九総統から記念の勲章が授与され、当時の戦車や戦闘機の複製なども展示された。
パレードの直前には、F16戦闘機などに描かれた日章旗に日本側が不快感を表明し、空軍が消去するという出来事があった。また日本側に招待状を出したかどうかについて日台双方の見解が分かれ、地元紙をにぎわした。
一連の不協和音に反発し、パレードを提言した与党、中国国民党の林郁方立法委員(国会議員)は出席を拒否。日本や米国などの窓口機関代表も欠席する一方、韓国の代表は出席した。
馬英九総統は式典で「抗日戦を記念するのは恨みをあおるためではなく、平和を追求するためだ」などと述べた。日本側を刺激する表現を避けたとみられる。
パレードでは、中国を念頭に自主開発した長距離空対地誘導弾「萬剣」や偵察用無人機(UAV)、米国から導入した地対空誘導弾パトリオット(PAC3)などが公開された。【7月4日 産経】
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国民党の馬英九総統には「日本と戦ったのは共産党ではなく国民党」との思いが強いそうで、そういった意識を背景にした台湾の存在をアピールするものでしょう。
日本との不協和音云々については、上記記事にもあるように、F16戦闘機などに描かれた日章旗の撃墜マークが消されるとか、総統府前での実施は見送るなどの、一定の配慮がなされています。
****台湾:抗日戦勝パレード…日本に一定の配慮****
台湾国防部(国防省)は4日、「抗日戦争勝利70年」記念の大規模な軍事パレードを北部・新竹県の陸軍基地で行った。
中国でも同様の軍事パレードが計画される中、台湾は日中戦争を主導的に戦ったのは中国共産党ではなく国民党だと強調し、日中戦争の功績を内外にアピールする狙いがある。
陸海空3軍の統帥権を持つ馬英九総統は閲兵後の演説で「侵略の誤りは許せても、血と涙の歴史は忘れることはできない」と述べた。(中略)
パレードは約4年ぶり。良好な日台関係に一定の配慮を示し、総統府前での実施は見送られた。
国防部は現役の戦闘機に、大戦中に国民党軍などが撃墜した日本の航空機の数を日の丸で塗装し、パレードで飛行させる予定だったが、「誤解を生むのを避けるため」などとして削除した。
日本側が日台関係への影響を懸念し、削除を求めていた。
一方、台湾の一部立法委員(国会議員)から「抗日色が弱すぎる」との反発を招いたため、パレードの名称が当初の「国防戦力展示」から直前になって「抗戦勝利70周年記念戦力展示」に変更されるなど、「抗日」を巡って対応が揺れた。【7月4日 毎日】
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【「一つの中国」の原則を認めていない民進党の政権復帰で中台関係は?】
日本との関係はともかく、台湾にとっては中国との関係が最大の問題です。
来年1月の総統選では、独立志向が強く「一つの中国」の原則を認めていない民進党・蔡英文主席の勝利が有力視されていますので、現在以上に微妙になってきます。
中台関係が緊張することはアメリカも望んでいません。
****<台湾>民進党の蔡主席、米の懸念払拭に腐心****
来年1月の台湾総統選に向け、米国の支持獲得を目指して訪米していた野党・民進党の蔡英文主席(58)が9日深夜、台湾に戻った。
蔡氏は、米政府高官との会談で対中政策の「現状維持」を強調したとみられる。独立志向の強い民進党政権に戻ると中台関係が不安定化するかもしれないという米国の懸念を払拭(ふっしょく)しようとした模様で、米側も厚遇で応じた。
蔡氏は、米側の肯定的な評価を得て総統選への関門を一つ乗り越え、8年ぶりの政権奪還を目指して弾みをつけそうだ。
蔡氏は、帰着した台北郊外の空港で「米国での会談内容は豊富で多元的だった」と成果を強調した。
米国は、「一つの中国」の原則順守を求める中国に配慮し、台湾総統の公式訪問を受け入れていない。そのため台湾の総統候補は事前に訪米し、米国との関係構築を目指す。
蔡氏は、訪米した総統候補として初めて国務省に入り、ブリンケン国務副長官と会談するなど米側から厚遇を受けた。
蔡氏は2012年の前回選に出馬する際も事前訪米したが、米側に中台関係を安定化させる力量を疑問視され、選挙に悪影響を及ぼした。台湾の総統選では、安全保障を含めた事実上の後ろ盾である米国との関係が大きな影響を与えるとされる。
与党・国民党の候補選びは迷走しており、世論調査では蔡氏の優勢が続く。米側にとっては、民進党による政権奪還を視野に蔡氏との関係構築を図る狙いがありそうだ。
中国は、中台が「一つの中国」の原則を確認したとされる「1992年合意」を交流の基礎とするが、民進党は認めていない。
中国国務院(政府)台湾事務弁公室の馬暁光報道官は10日、蔡氏の訪米について「国際的に『台湾独立』の分裂活動を行うことに断固反対する」とけん制した。【6月11日 毎日】
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中国側も、民進党政権成立を睨んで、台湾への働きかけを強めています。
****台湾向けビザ免除へ=対中感情好転狙う―中国****
新華社電によると、中国共産党序列4位の兪正声・全国政治協商会議主席は14日、中台間の交流拡大を話し合うため福建省アモイで開かれた「第7回海峡フォーラム」に出席し、台湾から中国大陸を訪れる人へのビザ(査証)手続きを免除する方針を明らかにした。
来年1月の台湾総統選で独立志向の最大野党・民進党が政権を奪還する可能性が指摘されており、台湾側に優遇策を示すことで、対中感情を好転させる狙いがあるとみられる。
兪主席はフォーラム開幕式で「両岸(中台)同胞交流のため、さらに良い条件をつくる」と述べ、ビザ手続きの免除とともにカード式の「台湾同胞証」を導入する意向を示した。【6月14日 時事】
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