
(バグダッド 平穏な市民生活が営まれているようにも見えますが・・・・ 【2月5日 AFP】https://www.youtube.com/watch?v=3wsbF50O3I8)
【治安面では依然として不安定な状況ではあるが・・・】
イラクの首都バグダッドでは、2003年以来、10年以上続いていた夜間外出禁止令が8日から解除されました。
****バグダッドの夜間外出禁止令解除 03年以来初****
イラクの国営放送「イラキーヤTV」は8日、フセイン旧政権を崩壊させた2003年開始の米軍の軍事作戦後、首都バグダッドに敷かれていた夜間の外出禁止令が初めて完全に解除されたと報じた。
同国のアバディ首相は5日に外出禁止令を解く方針を表明していた。
首相府によると、アバディ氏はまた、住民の通行に便宜を図るため主要道路の開放も指示。首都の一部地域を非武装地帯に指定することも検討しているとした。【2月8日 CNN】
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ただ、当然のように、解除を標的にしたとも思われる解除直前には爆弾テロが相次いでいます。
犯行声明は出ていませんが、イラクではイスラム過激派「イスラム国」が、バグダッドなどで自爆テロを繰り返しています。
****バグダッドで相次ぐ爆弾テロ 死者40人に****
イラクの首都バグダッドで7日、爆弾テロが相次ぎ、少なくとも40人が死亡した。
AP通信によると、バグダッド市内のレストランで7日、何者かが爆弾を身につけて自爆し22人が死亡、少なくとも45人がケガをした。爆発があったのはイスラム教シーア派住民が多い地域で、スンニ派の過激派による犯行とみられている。
また同じ日、バグダッドでは市場などでも爆発が相次ぎ、AP通信によると、死者は合わせて、少なくとも40人に上ったという。
バグダッドでは8日、10年以上続いてきた夜間外出禁止令が解除されたが、治安面では依然として不安定な状況が続いている。【2月8日 日テレNEWS】
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“治安面では依然として不安定な状況”で夜間外出禁止令を解除したのは、成果をアピールしたいアバディ政権の政治的思惑もあるのでしょう。
少なくとも、「イスラム国」がバグダッドの北東60キロにまで迫り、首都防衛に必至だった昨年6月頃に比べたら、おそらく治安もかなり改善したこともあるのでしょう。
昨年6月当時のバグダッドは、首都防衛でパニックに近い状況でした。
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軍用品店が並ぶ一角は若者たちで混み合っていた。防弾チョッキ、軍靴、ヘルメット、自動小銃の部品、ナイフ……。「モスル陥落後、『テロリスト(ISIS)と戦う』というシーア派の若者たちの顧客が増えた」と店員は言った。
スンニ派のISISはモスルのほか、北部の街を次々と制圧。指導者は「バグダッドに進軍せよ」と戦闘員に指令を出した。
これに対し、マリキ政権を支えるシーア派の最高権威シスターニ師は「武器を持て。国と聖地を守るジハード(聖戦)に参加せよ」と若者たちを駆り立てる。
一般市民は戦々恐々だ。スンニ派のミニバス運転手イサム・シュクリさん(47)は「街を走るのが恐ろしい」と、1週間前から営業をやめている。「検問で軍の格好をしているやつはシーア派の民兵かも知れない。私がスンニ派だと分かれば、拉致されるかも」と訴えた。【2014年6月29日 朝日】
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上記記事にあるように、市民の間でのシーア派とスンニ派の緊張も極度に高まっていました。
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バグダッドはスンニ派の町とシーア派の町が隣り合う場所が多い。1カ所で衝突が起こると、すぐ隣の町に広がることになる。すでにバグダッド南部は危うい状況になっている。
バグダッド中心部から20キロ南のスンニ派の町ユスフィヤで25日、住民と治安部隊が衝突した。治安部隊がスンニ派のテロ容疑者を逮捕しようとして交戦になったという。ユスフィヤには旧フセイン政権時代の軍や治安機関の幹部が住み、強硬なスンニ派勢力がいる。
同日夕、ユスフィヤ東隣のシーア派の町で自爆テロがあり、13人が死亡。国営通信は「迫撃砲弾による攻撃もあった」と伝えた。警察筋は、ユスフィヤのスンニ派勢力が撃ったとみる。
らに、ユスフィヤ北隣のシーア派の町でも、青果市場を爆破するとの脅迫が25日に届いたという。
結局、26日に地元のスンニ派とシーア派の部族長らが仲介して衝突拡大を食い止めたものの、イラクのほとんどの家はイラク戦争時に拡散した自動小銃や機関銃を「自衛のため」として持っている。
一触即発の状況は、何ら変わっていない。【2014年6月29日 朝日】
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【スンニ派主体のアンバル州に兵力を集中させる「イスラム国」】
アメリカ等による空爆による戦闘員や幹部の殺害、資金源となってきた石油施設の破壊もあって、「イスラム国」の勢いに陰りが見える現在は、首都バグダッドへの圧力も低下しています。
****西部アンバル州に勢力集中か=反撃うかがう「イスラム国」―空爆開始半年・イラク****
米軍がイラクでイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」への空爆を始めてから、8日で半年。
イスラム国はイラク北部から中部にわたる地域で支配の維持が困難となり、イラク国内では勢力を西部アンバル州に集中的に投入させつつある。
もっとも、反撃の機会をうかがうための「戦術的撤退」の側面が強いとみられ、必ずしも弱体化が進んでいるとは言えない状況だ。
イスラム国は昨年6月、イラク第2の都市モスルがある北部ニナワ州のほぼ全域と、北部サラハディン州、北部キルクーク州、中部ディヤラ州の多くの地域を一気に制圧。これに以前から支配を拡大していた西部アンバル州や隣国シリアの北東部を加えた地域で「国家樹立」を宣言した。
しかし、米軍主導の有志連合の空爆に加え、イラク軍やクルド人治安部隊、イスラム教シーア派民兵の反転攻勢に直面。有志連合とは一線を画すイランの空爆にも遭い、勢力を縮小させている。
この半年間に、イスラム国は中部ディヤラ州で勢力を喪失し、北部3州でも劣勢だ。イラクのメディアによると、アバディ首相は「ニナワ州奪還のための作戦実施はそう遠くない」と語っている。
こうした中、イスラム国はアンバル州に兵力を集中させているもようだ。同州はスンニ派主体で、過去に反米闘争に加わった住民も多い。
邦人人質事件で、イスラム国がヨルダンに釈放を要求していたサジダ・リシャウィ死刑囚はアンバル州出身で、釈放要求は「住民の歓心を買う狙いもあった」(ヨルダンの識者)とされる。【2月7日 時事】
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【長期的には「イスラム国」より大きな脅威となる宗派間対立】
一方で、スンニ派「イスラム国」に対抗しているイスラム教シーア派民兵によるスンニ派住民迫害の懸念も大きくなっています。
夜間外出禁止令が解除されたシーア派・スンニ派が混在する首都バグダッドで両者の緊張状態がどのようになっているのかはわかりませんが、イラク全土でみると“新たな内戦勃発のリスク”を指摘する向きもあるようです。
****スンニ派迫害で内戦再燃も イラク、「イスラム国」加担の住民増加****
過激派組織「イスラム国」の勢力拡大が懸念されるなか、イラクでは政権を押さえるシーア派の民兵が、スンニ派の市民を攻撃していると一部議員と住民が訴えている。新たな内戦勃発のリスクが高まっている。
議員と住民の話によると、イラク中部では数万人のスンニ派住民が攻撃を受け、家を奪われている。こうしたことを背景に「イスラム国」に加担するスンニ派住民が増えているという。
アヤド・アラウィ副大統領はシーア派民兵の支配地域で「徹底的なスンニ派住民迫害が広範囲に行われている」と述べた。イラク政府は、「イスラム国」からの防衛をシーア派民兵に頼ってきた。
政治アナリストのワースィク・アルハシミ氏は、イラクで宗派対立が再燃し、米国を後ろ盾とするアバディ政権の権威が弱まることで、内戦が再燃するリスクが高まっていると指摘。
アルハシミ氏は「政府はバグダッドの防衛を民兵に頼ってきたが、現在は彼らをコントロールできていない。民兵による民族浄化を利用することは、国を1つにまとめるというスンニ派の信念を砕くものだ」と語る。
イラク駐留米軍の元幹部は、スンニ派住民の迫害はイラクにとって「イスラム国」よりも大きな長期的脅威だと分析する。
シーア派はイラク国民3300万人の約60%を占める。スンニ派主導のフセイン政権下ではシーア派住民が迫害されていた。
イラク中部サマーラのアルカトゥル地区では、スピーカーから家を捨てるよう求める声が聞こえた後、72時間で全住民が退去したといい、現在はシーア派民兵が住居を占拠している。
ブルームバーグがインタビューしたサマーラ住民は「われわれは2つの地獄の間で暮らしている。1つはシーア派民兵という地獄、もう1つは『イスラム国』という地獄だ」と語った。(ブルームバーグ Zaid Sabah、Jack Fairweather)【2月6日 SankeiBiz】
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シーア派に偏重いていたマリキ前首相を国内外の圧力で引きずりおろす形で、スンニ派・クルド人勢力も取り込んだ挙国一致政権を掲げて昨年9月に成立したアバディ政権ですが、イラクが抱える根本的な問題である宗派対立をコントロールできていないようです。