
(フランス軍を歓迎するマリの住民 立場によっては、新たな植民地支配を目指す侵略といった批判もあります“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/8390335149/)
【世界遺産の都市トンブクトゥに向かって北上】
アルジェリアの天然ガス施設人質事件の犯行動機としても挙げられている、西アフリカ・マリ北部を実効支配し、更に南進の動きを見せているイスラム過激派に対するフランスの軍事介入は、地上部隊を展開する形で続けられています。
****マリ:フランス軍などが中部の二つの町を新たに奪還****
西アフリカ・マリに軍事介入したフランス軍とマリ政府軍は21日、イスラム過激派が制圧していた中部の二つの町を新たに奪還した。一方、北部では、仏軍の空爆により過激派がいったん撤退した主要都市トンブクトゥに再び過激派が進入しているとの情報もある。
イスラム過激派が14日に制圧した中部ディアバルでは仏地上部隊が展開。激しい戦闘の末、仏軍とマリ軍が管理下に置いた。さらに過激派が昨年9月以降占拠していた中部ドゥエンザにも仏軍とマリ軍が入った。仏軍側はすでに中部の要衝コンナを奪還しており、攻勢をかけている。
ただ、過激派の戦闘員は激しい攻撃を受けて劣勢になると一般市民の中に紛れ込む戦術をとっていると指摘されている。北部の世界遺産都市トンブクトゥでは、仏軍の空爆を受けて過激派は撤退したものの、ロイター通信は21日、町中に再び過激派が姿を見せているとの地元住民情報を報じている。
また、地元紙「レゼコー」によると、首都バマコや中部セバレといった政府管理下の都市で、イスラム過激派と疑われる人物が拘束されたとの情報を報じており、予断は許さない状況だ。【1月22日 毎日】
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****仏軍、制圧地広げ北進****
・・・・ディアバルの21日の制圧で、仏軍はイスラム武装勢力が今月に入って支配下に置いた地域すべてを取り戻した。仏軍はさらに同日、武装勢力の支配下にある世界遺産の都市トンブクトゥに向かって北上を始め、トンブクトゥ南方の町ドゥワンザも制圧した。トンブクトゥ住民の家族によると、武装勢力の数は数日前から激減しているという。武装勢力は北部の主要都市ガオに集結して、戦闘に備えているという情報もある。・・・・【1月23日 朝日】
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フランス軍兵士はすでに2150人投入されていますが、今後のフランスの方針として、イスラム過激派の南進を食い止めるだけでなく、マリから完全掃討することを明らかにしています。
****目的はマリ再統一=軍事介入、完全掃討目指す―仏国防相****
フランスのルドリアン国防相は20日、テレビ出演し、アフリカ西部マリへの仏軍介入は「(マリ)国土の完全な再統一が目的だ。(抵抗を続ける)余地は残さない」と強調した。南下したイスラム武装勢力を、既に1年近く占領中のマリ北部へ押し戻すだけでなく、マリから完全掃討する考えを明確にした。【1月21日 時事】
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ただ、フランス軍はイスラム過激派の激しい抵抗にあっていることも報じられています。
リビア・カダフィ政権崩壊で流入した武器などによって、イスラム過激派の装備が予想以上に充実しており、また、住民の中に紛れるゲリラ戦術を採り始めていることが、仏軍・マリ軍苦戦の要因とも言われています。【1月19日 毎日より】
【欧州各国は輸送機派遣や医療、後方支援】
欧州各国は、イスラム過激派の聖地となりつつあるマリ北部の状況を改善するため、フランスの軍事介入を支持し、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインなどが輸送機派遣や医療、後方支援でフランスに協力を表明しています。
ただ、軍部隊を派遣して戦闘行為に直接参加する考えはないようです。
****EU、戦闘活動行わず=仏介入のマリで****
欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)の報道官は14日、イスラム武装勢力が攻勢を強める西アフリカのマリにフランスが軍事介入したことについて、EUがフランスとともに戦闘活動を行う可能性はないと述べた。
北大西洋条約機構(NATO)の当局者も、NATOはフランスの行動を支持するが、マリへの介入は議論になっていないと語った。【1月14日 時事】
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なお、EUは、マリ政府軍を訓練する250人規模の部隊を今秋派遣することを予定していましたが、フランスの軍事介入を受けて、450人規模に倍増し、派遣時期も2月中旬以降に前倒しする方針が伝えられています。
【費用問題を抱える西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の部隊派遣】
こうした状況で、フランスとしても新たな植民地主義との批判も受けかねない軍事介入を実質的に単独で進める現状は早急に回避したいところで、周辺アフリカ諸国からなる西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の早期の部隊派遣を望んでいると思われます。
しかし、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の部隊派遣は経済的な負担の面で困難も抱えています。
****アルジェリアの隣国マリ 安定化、国際支援カギ 莫大費用/不十分な装備****
マリ北部を実効支配するイスラム過激派武装勢力掃討に向け、フランスやマリ周辺国が態勢構築を急いでいる。隣国アルジェリアの外国人拘束事件は、北・西アフリカに巣くうテロリストの脅威を世界に突きつけた。
ただ、軍事作戦を担う周辺国には限界があり、マリの「テロの拠点化」を防ぐには、後方支援をはじめとした国際社会の関与が欠かせない。
マリに部隊を送る西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は19日、コートジボワールで緊急の首脳会議を開き、軍事作戦遂行のため、財政支援などを国際社会に求めた。同国のワタラ大統領は「さらなる国や機関がフランスやアフリカへ連帯を示すときがきた」と強調した。
フランスの軍事介入を受け、マリ周辺国の部隊派遣準備は加速。その規模も、ECOWAS非加盟のチャドの2千人派遣などで、当初計画の3300人から5千人超に拡大する見通し。欧米は輸送支援に乗り出して部隊編成を急ぎ、ロシアも協力を申し出た。
ただ、部隊運用費用は年間2億ドル(約180億円)に上ると試算され、どう工面するかが課題だ。ECOWASだけでは難しく、作戦の主導権を早く譲り渡したいフランスも、29日にエチオピアで開かれる支援国会合の成果に期待する。
作戦遂行のための装備の不十分さも懸案となっている。ロイター通信は、セネガルでは武器弾薬の不足で部隊の派遣準備が遅れていると伝えた。武装勢力掃討で想定される砂漠地帯での戦闘も、チャド以外は装備・経験面で不足しているとされる。部隊の指揮に必要な通信システムも異なるため、関連装備提供の必要性が指摘されている。
武装勢力掃討に成功しても、長期的にはマリ自身が国内の安定を維持できなければ、再び過激派の標的になりかねない。そのため、軍だけでなく政治や財政、司法分野などの支援も必要となる。英国の国際戦略研究所(IISS)は「周辺国の部隊が(マリに)配置されても、幅広い国際社会の関与は重要であり続けるだろう」としている。【1月21日 産経】
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【「全国民が仏軍の介入を喜んでいる」】
マリの混乱は多くの難民を発生させています。
****マリ避難民、70万人超へ=軍事衝突で数カ月内に―UNHCR****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は18日、フランスが軍事介入したアフリカ西部マリ情勢に関し、今後数カ月でマリの国内避難民と周辺国へ逃れる難民が計70万7000人に達するとの予測を明らかにした。
UNHCRによると、軍事衝突後にマリを逃れた難民は、処刑や手足が切断された事例を目撃したと証言。また武装勢力は政府軍と戦うよう市民に多額の金銭を配っているという。【1月18日 時事】
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フランスが介入した現地からは、介入を歓迎する住民の声が報じられています。
****市民「ずっと介入を祈っていた」 仏軍歓迎、はためく国旗 マリ****
アルジェリアの人質事件で、犯人グループはフランス軍のマリからの撤退を要求していた。そのマリ国内では、仏軍を歓迎する声が圧倒的で、人々は人質事件の犯人への怒りを口にした。
首都バマコ市内では、至るところでフランス国旗が売られ、バイクの後ろに国旗を立てて走る人も多い。
バマコに住むヤヤさん(51)は「全国民が仏軍の介入を喜んでいる」と話す。昨年4月に北部が無政府化した後、なかなか介入の気配がないフランスに「北部を見捨てるな」と不満の声ばかりが聞こえたのとは一転した。 (後略)【1月19日 朝日】
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【モルシ大統領「マリへの軍事介入は容認しない」】
欧米各国がフランスの軍事介入を支援し、周辺アフリカ諸国も経済的な問題は抱えながらも部隊派遣を急いでいる、また、現地でもフランス軍の過激派掃討を歓迎する声が多い・・・という状況で、フランスの介入に反対を表明しているのが「アラブの春」で誕生したエジプト・モルシ政権です。
****マリへの軍事介入批判=エジプト大統領****
エジプトのモルシ大統領は21日、サウジアラビアで開催された会議で、イスラム武装勢力が支配したマリ北部へのフランスの軍事介入について、「地域の紛争の火に油を注ぐことになるため、マリへの軍事介入は容認しない」と述べた。【1月22日 時事】
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詳細はわかりませんが、やはりイスラム主義穏健派のムスリム同胞団を母体とするモルシ政権と欧米諸国では、イスラム過激派・武装勢力に対する対応も異なってくるようです。
「アラブの春」によって各地にイスラム勢力が主導する政権が誕生したことが、過激派がアフリカで活発に活動しやすい下地になっているとの指摘については、1月20日ブログ「アフリカで拡大するイスラム過激派勢力 アルカイダ「聖戦」を触媒に連携を強化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130120)で取り上げたところです。
“「アラブの春」が起きて以来、各地で抑圧されていたイスラム勢力は選挙で躍進を果たした。エジプトやチュニジアでは、“穏健派”とされるイスラム原理主義組織、ムスリム同胞団系の政権の誕生に結びついた。
これらの政権は表向き、過激なイスラム勢力とは一線を画す姿勢を示している。しかし、シャリーア(イスラム法)による統治というイデオロギーは共有しており、政権の支持基盤を維持する上でも、強硬な態度に出にくいのが実情だ。治安機関の取り締まりや国境の管理が緩み、国をまたいで過激派の連携が広がっているとも指摘される。”【1月18日 産経】
もちろん、モルシ政権が武装勢力のテロ行為を容認している訳ではなく、エジプト自身もシナイ半島でも武装勢力の跋扈を抑え込もうとしているところですが・・・
ただ、エジプトなどでは、ムスリム同胞団より更に厳格なイスラム主義を求めるサラフィー主義も台頭しています。
こうしたイスラム主義の台頭が、イスラム過激派助長につながらないのか・・・という懸念はやはり残ります。