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Channel: 孤帆の遠影碧空に尽き
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イギリス  強まるEU脱退への動き 対応に苦慮するキャメロン首相

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“flickr”より By Bundesregierung http://www.flickr.com/photos/bundesregierung/8290247991/

【「ほかの国々が国家の主権を放棄せざるを得なくても、わが国は決して手放さない」】
欧州の統合を目指すEUに関しては、幾度もの戦争で国土を戦場としてきたドイツ・フランスなどと、歴史的にも海峡を隔てて“大陸”の外に身を置くことが多かったイギリスでは基本的なスタンスの違いがあります。
“「不戦の誓い」を出発点に欧州統合を主導してきたドイツやフランスとは異なり、英国はEUの単一市場がもたらす経済的利益を重視。欧州と一定の距離を置きつつ、米国との橋渡し役として、存在感を発揮してきた。”【1月17日 朝日】

このため、イギリスはEUに参加はしながらも、国家主権を譲り渡すような統合の深化には背を向けてきました。
“英国は1961年、後にEUとなる欧州経済共同体(EEC)への加盟を申請するがフランスが反対。73年、欧州共同体(EC)に加盟した。2002年の単一通貨ユーロ流通開始後はユーロ圏に加わらず、域内の自由移動を認めるシェンゲン協定も一部を除き参加していない。11年末の欧州理事会ではユーロ危機対応のためのEU基本条約の改正に唯一、反対した。”【1月13日 産経】

2011年末のEU基本条約の改正では、EU分裂の危機・イギリスの孤立が表面化しました。
****イギリス孤立でEU分裂の危機****
欧州債務危機を克服するために先週行われたEU首脳会議は、今後のEUの在り方が大きく変わる可能性を生んだ。事実上、EUが分裂してしまったからだ。

今回の首脳会議では、新たな財政規律強化策が協議された。各国により厳しい財政規律を要求する新基本条約について採択が行われたが、合意したのはEU加盟27カ国のうちユーロ圏全17カ国を含む23カ国だった。

一方で反対を表明したのは、イギリスのデービッド・キャメロン首相。
新基本条約の制定によって国家の独立性が失われかねないこと、イギリスの金融部門が弱体化する恐れがあることが反対の理由だ。「私の答えはノーだ」とキャメロンは発言した。「ほかの国々が国家の主権を放棄せざるを得なくても、わが国は決して手放さない」
残りの3カ国、ハンガリー、スウェーデン、チェコは態度を留保した。それぞれ自国の議会と調整を図るとのことだが、最終的には合意するとみられている。そうなれば、イギリスだけが孤立することになる。

つい最近までイギリスの盟友だったフランスは、ヨーロッパ全体の利益よりイギリスの金融部門を守ろうとしているとして、キャメロンを非難した。「デービッド・キャメロンの提案は受け入れ難いものだった。数々の金融規制からイギリスを免除するような特別条項を条約に盛り込め、というのだ」と、フランスのサルコジ大統領は記者会見で語った。

キャメロンがチラつかせる拒否権カード
今回合意された財政規律強化策は、ドイツが描いた青写真にほぼ添う内容だ。ユーロ導入国とその他のEU加盟国のほとんどが、健全財政の遵守を各国の憲法などに明記する、というもの。ルールに違反した場合は、制裁が発動される可能性もある。各国政府は予算を事前に欧州委員会に提出しなければならず、財政赤字が大き過ぎる国は監視や指導を受けることになる。

新規制がどう機能するかは大いに疑問だ。ドイツの構想は、EUの中心的な機関である欧州委員会と欧州司法裁判所に監視役を担わせるというもの。だが、EU全加盟国のために設置されたはずの2つの機関が、今回の規制に合意した国々だけのために動くことが許されるのか――そんな疑問が残る。

キャメロンは、EUの機関がイギリスの国益に反する行動を取った場合は拒否権を発動するだろう、と明言している。そんな事態になれば、イギリスを待ち受けるのはEU脱退という道だ。
「イギリスは孤立した。まったく新たな情勢が生まれ、未知の領域に突入した」と、ブリュッセルのシンクタンク、欧州政策研究センターのピオトル・マチェイ・カチンスキは言う。「新局面を迎えたEUが今後どうなるのか、想像もできない」【2011年12月12日 Newsweek】
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【与党・世論で強まる脱退論と、冷やかな欧州・アメリカの圧力の板挟み】
イギリスのEU統合深化への消極的姿勢は、国内におけるEU懐疑論の根強い存在と表裏の関係にあります。
最近、ユーロ危機が表面化して単一通貨ユーロへの期待が色あせ、また金融・財政に関する国家主権を制約する統合深化の方向での危機乗り越えが模索されるなかで、イギリスにおけるEU懐疑論も勢いを増しています。

特に、与党保守党内にはEU脱退を望む声が強くなっており、具体的には、EU脱退を問う国民投票の実施を求めています。世論調査ではEU脱退派が過半数に達しており、国民投票を行えば“EU脱退”という決定になる可能性が高い状況にあります。

なお、2011年10月にも下院において保守党議員からEU脱退の国民投票を求める動議がなされ、キャメロン首相は懲罰を伴う党議拘束で与党に反対投票を指示、なんとか反対多数で乗り切りましたが、こときも80票前後の造反票を出した経緯があります。

保守党党首でもあるキャメロン首相自身は、EU脱退がもたらすであろうイギリスへの現実的影響を考えて、EU脱退といった極端な選択肢には否定的な立場ですが、与党内及び世論で強まるEU懐疑論に押されて何らかのアクションをとらざるを得ない状況に追いつめられています。

キャメロン首相は2012年9月に、2015年に予定される次期総選挙で保守党が政権を維持した場合、EUに加盟し続けるかどうかを巡って国民から「新たな同意」を得る必要があると述べ、国民投票実施の可能性を示唆したこともあり、反EU派からの突き上げは厳しくなっています。

一方で、独仏を中心とする欧州側は、統合深化へのイギリスの“邪魔”にうんざりしつつあり、また、“特別な関係”としてイギリスが頼みにするアメリカも、イギリスはEU内にあってこそ影響力を発揮できるという考えで、イギリスで強まる脱退論には冷ややかです。
キャメロン首相は、与党・世論で強まる脱退論と、冷やかな欧州・アメリカの圧力の板挟みにあっているとも言えます。

****英、加速するEU離れ****
英国のキャメロン首相が18日、欧州連合(EU)との関係見直しを表明する。英国が参加していないユーロの混乱から距離をおこうと、EUからの脱退を求める世論に抗しきれず、権限の返還を訴える見通しだ。米国は欧州での同盟国の地位低下に危機感を募らせている。

「欧州は大きく変わりつつある。国益を最大限に高めるために何ができるかを考えるか、それとも傍観するか。我が国はその選択に直面している」。キャメロン氏は16日、英下院の首相質問で声を張り上げた。

政府債務(借金)危機の克服を急ぐEUは、欧州中央銀行(ECB)によるユーロ圏の銀行監督の一元化で合意するなど、着々と統合深化を進めている。一方、英国は不参加を早々と表明した。
ユーロ圏の統合には反対しない。その代わり、EUが持つ権限を英国に返してもらう――。それがキャメロン氏の主張だ。

「不戦の誓い」を出発点に欧州統合を主導してきたドイツやフランスとは異なり、英国はEUの単一市場がもたらす経済的利益を重視。欧州と一定の距離を置きつつ、米国との橋渡し役として、存在感を発揮してきた。だが、ユーロ圏の危機克服策は、英国経済の先導役の金融にまで及ぶ。

EUへの反発は強まる一方で、世論調査では「EU脱退」への賛同が半数を超えた。脱EUを唱える小政党、英国独立党の支持率は2割に迫る。キャメロン氏の率いる与党保守党では、閣僚の間にも脱EUを問う国民投票を求める声が出ている。

キャメロン氏自身は「EUにとどまることが国益」との立場だ。ただ、世論や党内の圧力に、EUとの関係見直しを提案せざるをえない状況に追い込まれた。

キャメロン氏は18日、オランダでEU外交官や財界人らを前に演説にのぞむ。保守党内ではEUの労働時間規制や共通漁業政策への不満が強い。こうした権限の返還に言及し、EUとの関係を見直すための国民投票を次回総選挙がある2015年以降に行うと表明する、との見方が出ている。
 
いらだつ米・欧州各国
英国はこれまでもEUに異を唱えてきた。2011年には、財政規律を強化するための政府間協定の署名を拒否。欧州委員会が危機対応にあてようと提案した金融取引税にも反対した。
統合深化の「邪魔」を繰り返す英国に、EUや加盟国もうんざりしつつある。

EUのファンロンパイ首脳会議常任議長は昨年12月、英国の動きについて、英紙ガーディアンに「あらゆる加盟国に政策のえり好みを認めれば、EUはすぐに崩壊してしまう」と指摘。ドイツのショイブレ財務相も同紙に「EUというアンプ(増幅器)がなければ、英国の世界での影響力は弱まる」と語った。

米国も異例の「介入」に踏み切った。訪英したゴードン国務次官補(欧州担当)は今月9日、「米国はEUとの関係を強化しており、英国がEUで大きな発言力をもっているのが望ましい」と話した。
米国は今年、EUとの自由貿易協定(FTA)交渉に入る見通しだ。通商政策に加え、対テロ戦争など外交面でも共同歩調をとる英国をEUにとどめるため、クギを刺した形だ。

英経済界も心配を募らせる。ヴァージン・グループのブランソン会長ら企業のトップら10人が9日の英紙フィナンシャル・タイムズに寄稿し、「EUは英国の輸出の半分を占める世界で最も力強い貿易圏だ」と強調した。
ブリュッセルの研究機関カーネギーヨーロッパのタヒャオー所長は「英国が脱退すれば、EUの外交・軍事的な影響力の低下は避けられない」と話す。 【1月17日 朝日】
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【「私は脱退を望まない。EUの成功と、英国がEUに残留しうる関係を求める」】
アルジェリアでのイスラム過激派のテロ事件に対処するため、キャメロン首相はオランダ訪問は延期し、予定されていた演説の骨子が発表されています。
この演説骨子は、EU脱退を問う国民投票実施への言及は避けたものとなっています。

****英首相「EU脱退」に言及…国民投票には触れず****
キャメロン英首相は、欧州連合(EU)と英国の関係をめぐる演説を行うため18日に予定していたオランダ訪問を、アルジェリア人質事件対処のため延期し、首相府は同日、演説骨子を公表した。

この中で首相は、EUが〈1〉ユーロ圏債務危機〈2〉競争力の低下〈3〉英国民からの支持低下――の三つの課題に直面していると指摘。「これらを克服しなければ欧州統合事業は破綻し、英国民はEU脱退へと流れるだろう」と「脱退」に言及した。
独仏やEU機関の英国に対する不信感を助長する可能性がある。

英国では連立与党・保守党内で「EU残留か脱退か」を直接問う国民投票を約束するよう求める声が強まっているが、演説骨子は国民投票には言及しなかった。
党内の穏健派や連立相手の自民党出身閣僚、主要財界人は「国民投票を約束すれば市場は英国を不安視し、英経済を害する」と警告しており、首相は現段階で国民投票実施に関する判断の公表を見合わせた。

首相は「私は脱退を望まない。EUの成功と、英国がEUに残留しうる関係を求める」と述べ、「脱退は国益にかなわない」とする自らの立場を改めて強調している。【1月19日 読売】
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“英国がEUに残留しうる関係”とは、司法や行政、労働政策などこれまでEU側に譲渡していた権限を取り戻し、次のEU基本条約改正でイギリスの特別な地位を明記させる・・・といったことと思われます。

“しかし、EU側やドイツなどは「英国側の要求をのめば、それに続こうという国々が現れ、EU崩壊というパンドラの箱を開けることになりかねない」との危機感から、譲歩する姿勢は一切見せていない。”【1月13日 産経】
EU側の反応は当然でしょう。“特別な地位”にこだわる限り、イギリスがEUに残留する余地はないでしょう。

“英紙フィナンシャル・タイムズは10日付の社説で、1980年代、欧州単一市場や統合拡大を主導したサッチャー元首相のように「キャメロン首相もEUで主導的な立場をとるべきだ」と主張。経済界も脱退の経済的な打撃はかなり大きいとしており、首相は、難しいかじ取りを迫られている。”【同上】

【統合深化を受け入れるか、孤高の道を選択するか】
イギリスにとってEU離脱が経済的・政治的プラスになるとは考えにくいものがあります。
にもかかわらず根強く存在するEU脱退論はどこからくるのでしょうか?

ひとつは、「不戦の誓い」を出発点に欧州統合を主導してきたドイツやフランスのように、統合という基本理念にたいする共感が薄いことでしょう。理念への共感があれば、たとえ問題が多くても枠組みを壊すような対応にはなりません。

もひとつは、これまで大陸とは異なる独自の立場で政治的・経済的に成功をおさめてきた“過去の栄光”への執着でしょうか。
しかし、現実は大きく動いています。独自の立場は大陸が分断されているときに可能だったもので、大陸が統合に向かっているときに独自性に固執することは、孤立の結果にしかならないように思えます。

経済的に縮小を余儀なくされようが、政治的影響力を失おうが、独自の立場が守れればそれでいいという覚悟があるなら、それはひとつの見識です。現在のEU脱退論にそうした覚悟があるのでしょうか?
ただ、統合の理念自体に賛同できないのであれば、結局はそうした孤高の道を選択するしかないのかもしれません。

東アジア世界における日本の立場にも似たようなものを感じます。
かつて日本は東アジアで経済的成功を達成した唯一の国家でした。しかし、その後の中国や韓国の台頭は周知のところです。日本が、そうした現実の変化に対応しきれない“過去の栄光”への執着で進路を誤ることがなければ幸いです。

【ユーロ圏・EUをリードする“ユーロ版鉄の女”】
EUはイギリスが反対している金融取引税の導入に向けて進んでいるようです。
****金融取引税の導入了承へ=独仏伊など先行―EU****
欧州連合(EU)は22日の財務相理事会で、一部の加盟国が株や債券の取引に課税する新税「金融取引税(FTT)」を先行導入することを了承する見通しとなった。EU議長国当局者が18日明らかにした。【1月19日 時事】 
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世界的な金融センター「シティー」を抱えるイギリスには、株式や債券などの取引にかける金融取引税の導入など自国に影響する政策がEU主導で進むことへの警戒があります。
EU財務相理事会でどのような議論がなされたのかは知りませんが、一部の加盟国での先行導入というのは、妥協が成立したということでしょうか、それとも見切り発車でしょうか。

ユーロ圏経済が困難に直面していること、そのユーロ圏・EUの議論の中心にいるのがドイツ・メルケル首相であることは周知のところです。
メルケル首相は、ギリシャ・スペイン・イタリアなど問題国に、国内的には不人気な痛みを伴う改革を迫っていますが、「困難な仕事は、それを断行する政治的意思があるうちにやるべきだ」との考えのようです。

“ユーロ版鉄の女”の面目躍如といった感がありますが、この強い姿勢のかいあって、ギリシャでは多くの改革法案が採択され、スペインでは労働市場の規制緩和が図られ、イタリアも年金改革に着手しています。
評判の低下したユーロ圏は、今後これらの改革で復活するのでは・・・との見方もあるようです。【1月22日号 Newsweek日本版より】

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