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Channel: 孤帆の遠影碧空に尽き
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ロシアの圧力に直面するNATOの実態

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(エストニアに配備されたNATO戦闘機 【5月1日 NHK】)

【バルト3国に戦闘機12機】
ウクライナ東部をめぐる欧米とロシアの緊張状態は依然として続いていており、東部での親ロシア派住民とウクライナ政府軍の衝突などの如何によっては、国境付近集結する4万人とも言われるロシア軍の動向など、更に緊迫化することが考えられます。

ただ、アメリカ・NATOにとっては、国際関係に与える影響は別として、突き放した言い方をすれば、NATO加盟国でもないウクライナを防衛する責務はありません。

ぎりぎりの話としては、そういう事情もあって、ロシアの強い圧力にも拘らず、アメリカ・NATOはウクライナへの直接的な軍事関与を行う姿勢は見せていません。

しかし、もしロシア・プーチン大統領がNATO加盟国でありロシア系住民の多いバルト3国などにも手を伸ばすという事態となれば、話は違ってきます。

****NATO バルト3国の防衛強化****
ウクライナ情勢の緊張を受けて、NATO=北大西洋条約機構は、ロシアと国境を接するバルト3国の防衛力を高めるため、加盟国から派遣され警戒飛行に当たる戦闘機の数を通常の3倍に増やすなど防衛態勢を強化したことが分かりました。

NATOによりますと、NATOに加盟するバルト三国の1つエストニアに30日、デンマークから派遣された戦闘機4機が到着し、警戒飛行の任務に当たることになりました。

NATO関係者によりますと、これにより、ウクライナの緊張を受けてロシア軍の動きに警戒感を強めるバルト3国に派遣された戦闘機の数は合わせて12機となり、通常の3倍の態勢になったということです。

これは、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国の安全を保障し、NATOとして集団的な防衛態勢を強化するためで、少なくともことし末まではこの態勢を維持するとしています。

またNATOは、ウクライナと国境を接するポーランドとルーマニアにAWACS=早期警戒管制機を派遣したほか、新たに戦闘機10機を派遣しました。

これとは別に、アメリカ軍は加盟国の間の合意に基づいてバルト3国とポーランドに合わせて600人の兵士を派遣しています。

NATOは、ロシア軍がウクライナとの国境に4万人規模の部隊を集結させているという状況に今のところ変化はないとみており、警戒・監視態勢を今後も強化する方針です。【5月1日 NHK】
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ロシアがバルト3国に軍事侵攻するような事態は考えたくもありませんし、いかなプーチン大統領と言えども、新たな世界大戦の引き金にもなりかねない無謀な行動をとるとも思えませんが、もともとバルト3国は戦車も戦闘機も全く保有していないことを考えると、戦闘機12機でどうなるのか・・・という感もあります。

ただ、NATO軍が存在するだけで一定の抑止効果はあるのでしょう。

【NATO加盟国で進む軍縮・軍事費削減】
バルト三国にすれば、ロシアを相手にして多少の軍備を持っていても何の足しにもならないという話はあるでしょうが、NATO加盟国の軍事費・軍備は最近著しく低下しており、行動基準が異なるロシアなどの軍事行動に対応しきれない状況になっているとの指摘があります。

****NATOは終わった ロシアがあざ笑う「無力な同盟」****
ウクライナをめぐる危機は連日、北大西洋条約機構(NATO)の無能ぶりを白日の下にさらし続けている。

米国と西ヨーロッパは、ロシアに近接する東ヨーロッパ諸国を防衛するだけの軍事力も、政治的意思も持ち合わせておらず、NATO条約が義務付ける「加盟国が攻撃された場合の集団的防衛」は空文化している。

ブッシュ、オバマ両大統領が「米国の安全」を最優先して、欧州の安全保障を軽視し続けた上に、ヨーロッパ諸国も軒並み歴史的な軍備縮小を行って、戦闘力を削ってしまった。

その結果、ロシア近隣のNATO加盟国には、巨大な安全保障の空洞が生じている。
米欧には、プーチン大統領による旧ソ連諸国への介入を止める手段がないばかりか、NATO加盟国の防衛さえ危うい状況だ。

「最も成功した軍事同盟」と自画自賛するNATOは、終焉のふちに立っている。

プーチンに怯えるバルト三国
もはやこれしか手段はない。エストニアのトーマス・イルベス大統領は、そんな覚悟を決めたかのように、世界のメディアに登場して、自国の危機を訴えている。(中略)

「NATO地上軍の物理的展開が必要だ。もっと演習も必要だ」「クレムリンのプロパガンダは、一九五〇年代以来、見たことがない類のもの。(プーチンの)頭の中がどうなっているのか分からない」(いずれもCNN会見)と、歯に衣着せずロシアを批判し、NATO軍の地上配備を求める。

エストニアのロシア系住民は人口の二五%で、隣国ラトビアでは二七%。両国とも「エストニア語(ラトビア語)の試験に合格しなければ国籍を与えない」と法律で定め、ロシア語に固執するロシア人は、国籍を失った。エストニアでは約十万人、ラトビアでは約三十万人が「無国籍者」だ。

だが、ロシア人たちは立ち去らない。エストニアの首都タリン、ラトビアの首都リガとも、ロシア語話者はほぼ半分を占め、完全なロシア語圏だ。ユーロ圏に属し、居心地のよい両国の首都は、ロシア人富豪の遊び場、資金洗浄(マネーロンダリング)の舞台でもある。

エストニア東部の町ナルバはロシア系が九割以上。ナルバ川をはさんで対岸のロシア領イヴァンゴロドとは四百メートルの距離だ。ロシア軍が「ロシア人保護」を名目に出兵して、エストニアの相当部分を制圧するのは、プーチン大統領の決断ひとつである。(中略)

「モスクワと和平交渉した方がよい」
米欧はウクライナについて、「NATO加盟国ではない」として軍事的支援を拒んだ。
四月十七日に行われた米、欧州連合(EU)、ロシア、ウクライナの四者協議では、クリミア半島問題には触れず、「編入」を既成事実扱いにした。

これに比べ、バルト三国は〇四年以来のNATO加盟国だ。米国には忠実で、アフガニスタン戦争、イラク戦争にも出兵した。エストニアはアフガニスタンで九人の死者を出している。しかし、三国を現実に防衛できるとの見方は専門家の間でも乏しい。

NATOとロシアは一九九七年に結んだ「基本文書」(協力協定)で、新加盟国には、大規模戦力を配備しないことで合意した。このため、バルト三国も含む旧共産圏には、米軍は実質的に駐留していない。

実戦形式の演習が行われたのは、昨年十一月の「ステッドファスト・ジャズ二〇一三」が初めてだった。ロシア軍は〇九年に大規模演習「ザパード(西)」を実施し、以後毎年のように軍事的威嚇を繰り返していた。やむを得ず対抗措置に踏み切ったのだが、米国はロシアを気遣い、二百人が加わっただけだ。

米軍が緊急展開できる態勢ではない上に、東欧諸国の防衛体制も整っていない。
最前線のバルト三国は、兵員が三国合計でも二万人超。戦車、戦闘機は一つもない。ロシア本土からの大規模侵攻を待たずとも、リトアニアとポーランドに挟まれた飛び地、カリーニングラードからバルト艦隊の一部が出撃すれば、ひとたまりもない。

ウクライナと国境を接するNATO加盟国は、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアの四カ国。このうちポーランドとルーマニアこそ、数百両の戦車と相当数の戦闘機を有しているが、ソ連時代に国土を蹂躙されたハンガリー、スロバキアはともに、戦車は三十両程度しか持っていない。戦闘機はハンガリーが十四、スロバキアが二十と、戦力としてはほとんど使えない。

「東欧諸国は共産政権時代に、軍事費の重圧に苦しんでいた。『NATOの傘』ができれば、軍縮を進めるのは当然。ここ数年はEUから『財政緊縮』も厳しく言い渡されていた」と、東欧外交筋が言う。

結果的には、バルト海から地中海までの広大な地域に、軍事的な空白が生まれた。
米政府当局者は、「新加盟国に配備しないという合意は、今回の事態で再考せざるを得なくなった」と公言するものの、米軍には「ない袖は振れない」事情がある。

軍関係者によると、十一隻ある米海軍の空母のうち、即座に動けるのは三隻のみ。四隻目を動かすには、一カ月かかる。南シナ海で中国海軍から嫌がらせを受け、シリアとリビアがある地中海東部にも目を配らなければならない状況で、大規模展開は不可能。

「バルト海、黒海は、ロシア軍にとって『我らが海(マレノストルム)』の状態が続く」と前出の東欧外交筋は言う。NATOは、加盟国が攻撃を受けた時、集団的自衛ができなければ軍事同盟としての命運が尽きる。

英デイリー・テレグラフ紙の論評員コン・コーリンは、「プーチンの新たな軍事攻勢にきちんと対応できないのなら、同盟を解散して、モスクワと和平交渉した方がよい」と断じる。
「NATO終焉」の瞬間を決めるボタンは、プーチンに握られている。

加盟国の防衛費は減る一方
今回のウクライナ危機では、米欧政治家やメディアはしきりに「ベルリンの壁崩壊以来、最大の危機」という言葉を使った。だがこれは、ひどい健忘症か、ご都合主義的な歴史解釈である。

NATOは今から二十年以上前の一九九〇年代、旧ユーゴスラビア内戦の泥沼で、無作為と無能にあえぎ、存在の意義を問われていた。

内戦の死者数は十四万人で、紛争の中心地サラエボは、キエフよりずっとパリやローマに近い。複数の歴史家は、ユーゴスラビア内戦こそ、プーチンの教科書になったと指摘する。

第一の教訓は、NATOという組織の決断の遅さ、逡巡である。
この時の悪役は、セルビアのスロボダン・ミロシェビッチ大統領。恐る恐る空爆に乗り出したのは、内戦勃発から四年もたった、九五年のことだった。

第二の教訓は、「非正規軍」の役割だ。
九五年には、国連の任務として現地派遣されたオランダ軍が、スレブレニツァでセルビア民兵勢力に翻弄され、イスラム系住民八千人以上を見殺しにする大失態を演じた。
今回のウクライナ危機では、「非正規」武装勢力が衝突もせずにウクライナ軍を追い払った。

第三の教訓は、国際法の原則も国境線も、力で変えられるということだ。
ボスニアをイスラム教徒、セルビア人、クロアチア人に三分割したのは、当のアメリカだった。プーチンは内戦時、クレムリンの地味な官僚として、クリントン政権の傲慢な高官たちの取次役だった。
NATOは結局、九九年のセルビア空爆でミロシェビッチ政権を屈服させ、最後は帳尻を合わせた。だが、この時にも地上軍を配備しなかったことを、プーチンは見逃さなかった。

ウクライナ危機を経てNATOは、有効な軍事同盟に自らを作り替えることができるのだろうか。統計を一瞥すれば、流れが不可逆的であることが分かる。

NATOは防衛費の目安として、「各国の国内総生産(GDP)の二%」をあげている。

だが、加盟国二十八中、この基準を満たすのは、アメリカ(四・四%)と、エストニア、経済危機のギリシャ、英国(それぞれ二〜二・三%)の四カ国だけ。

アナス・ラスムセン事務総長の出身国デンマークは一・四%で、二%まで上げる計画など、どこにもない。ユーロ危機で緊縮財政が求められる中、EU加盟国で防衛費を増やすところはない。

兵員数で見れば、米軍は冷戦ピーク時に四十万人を欧州に駐在させていたが、今は合計で六万七千。
ドイツは旧東独軍を吸収したにもかかわらず、五十四万人から十八万人まで減らした。
英国は三十万人から十七万人に、フランスも同時期の五十五万人から十八万人に減らした。

欧州各国は過去十数年、このうちの精鋭部隊をバルカン半島やアフガニスタン、イラクに送っていた。ウクライナ危機勃発後も、流れは変わらない。
フランスのマヌエル・バルス新首相は、NATO大使級会合があった四月十六日に、五百億ユーロの新たな歳出削減計画を発表した。防衛費を増やすのは論外だった。

「国民戦線のマリーヌ・ルペン党首は四月にモスクワを訪問して、『ロシアを悪者にしてはいけない』と、NATOやEUの対露、対ウクライナ政策を批判して、国民の厭戦気分を見事に反映した。

オランド大統領自身も、ロシアから注文があったミストラル級強襲揚陸艦の契約を気にしてばかりいる」と、在パリ特派員は言う。
欧州各国はウクライナより、財政・経済、ロシアとの契約が大事なのである。

経済大国ドイツには、米国が「責任を果たしてはどうか」と働きかけているが、この国の障害は国内に蔓延する平和主義だ。
イラク戦争では、当時のシュレーダー首相が、シラク、プーチン両大統領とともに反対。リビア内戦への介入には、メルケル首相が反対した。

「国内の平和主義世論に抗しても責務を果たすという気持ちは、年々薄れている。ドイツの指導者は今や、世論に追随するだけだ」と、ドイツの外交専門家ウルリヒ・シュペックは指摘する。
独世論は、ロシアのクリミア編入について、過半数が「やむを得ない」と答えた。

最大の責任は米国にある
もちろん、最大の責任は、NATOの柱・米国にある。
防衛費の支出でNATO全加盟国合計の七割超を占める国が、財政危機により猛烈な軍縮を進めているのだ。

米国のGDP比の防衛費は、現在の四%超から三年後には二・九%まで下がる見通しである。
オバマ大統領はその上で、日本や韓国に対し「アジア重視」を公約し続けるのだから、欧州駐留軍を増強しようがない。

オバマ政権はクリミア危機発生からほぼ二カ月後の四月下旬、ウクライナにバイデン副大統領を派遣し、ポーランドには演習のため六百人を送った。
あまりに遅く、かつ乏しい内容で、プーチン政権はNATO厭戦気分を改めて見たはずだ。

四月十四日には黒海で監視活動をしていた米艦船に、露軍機が急接近し、あざ笑うかのように挑発した。

加盟国の安全を、「まさか攻撃はしないだろう」と、仮想敵の善意に委ねる時点で、NATOは終わっている。【選択 5月号】
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“加盟国の安全を、「まさか攻撃はしないだろう」と、仮想敵の善意に委ねる時点で、NATOは終わっている。”という評価は、日本のいわゆる平和憲法への評価にも通じるものでしょう。

ロシア・プーチン大統領の“力”による国境変更が国際秩序全般を脅かしているというというところからの発想ですが、より全体的に見れば、冷戦終結によりソ連・ロシアはロシア系住民が多い地域を含めて地滑り的にその勢力圏を失い、ウクライナについても欧米とロシアの綱引きの結果、ロシアは兄弟国ウクライナまで失った。さすがに、プーチン大統領としてはこれを受け入れることはできず、禁じ手の“力”を行使して、せめてクリミアだけでも取り返した・・・結果、ウクライナ本体は欧米が、クリミアはロシアがその影響下に置く形となったというのが現状であり、ロシアの影響力はウクライナ問題以前より、更に狭まっているというのが実情でしょう。

長期的には、欧米各国は禁じ手を使うようなロシア離れを進め、ロシアは更に苦境に陥ることになるのではとも考えられます。

問題が先鋭化している局所のみに着目して軍備を増強して有事に備える態勢をとることが賢明な対応策であるとは思いませんが、上記記事はNATOの現状を知る上では参考になる指摘かと思います。

【加盟国に国防費増額を求めるアメリカ】
軍事費軽減はアメリカも同じであり、“内向き”が常に指摘されるのもアメリカですが、こうしたNATOの状況にヘーゲル米国防長官が苦言を呈しています。

****米国防長官:NATO諸国に国防費増額要求****
ヘーゲル米国防長官は2日、ワシントンで講演し、ウクライナ情勢について「冷戦終結後、欧州で国家による侵略という危険性はなくなったという神話を打ち砕いた」と語り、ロシアへの懸念を改めて強調、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に国防費の増額を求めた。

ヘーゲル氏はまた、「米国のGDP(国内総生産)はNATOの他の27加盟国の合計より小さいが、国防費はその3倍だ」と述べ、国防費負担が偏っていると指摘。こうした「不均衡」を是正するため、NATO全加盟国が新たな財政負担を約束しなければならないと呼びかけた。【5月3日 毎日】
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もっとも、国際情勢に及ぼす影響としては、欧州各国の軍事費・軍備の話よりは、「アメリカは世界の警察官ではない」といった、アメリカの“内向き”とも言われる国内重視政策の影響の方が大きい訳ですが、その話は長くなるのでまた別機会に。

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