
【“砂漠の錬金術”で国家財政負担ゼロ シーシ大統領が想起するのはアメンホテプ4世か、ナセル大統領か】エジプトの首都はカイロ・・・・ですが、これからはそうではなくなるようです。シーシ大統領はカイロ郊外の砂漠の中に新首都を建設中で、今年7月からは首都機能移転が始まるとか。
エジプトの首都移転というと“アマルナ革命”が連想されますが、それは紀元前14世紀のアメンホテプ4世の時代。王権をも凌ぐように巨大化した神官団の力をそぐべく、首都をテーベからアマルナに移し、宗教改革を断行しました。しかし改革は短命に終わり、アメンホテプ4世の死後、息子のツタンカーメンの時代に再び首都はテーベに戻され、宗教も従来のものへ。
多くの国で肥大化するとともに問題も大きくなる首都の移転は検討課題になっています。カイロも過密が限界。 しかし、移転となると巨額の費用が問題にもなります。
エジプトの場合は、砂漠を住宅用地・商業用地に開発し民間デベロッパーに売却することで、その資金を賄おうという“砂漠の錬金術”のようです。また、建設は“チャイナマネー”が支えているようです。
****首都移転へ、エジプトの錬金術****古代文明の時代からナイル川のほとりにあったエジプトの首都が、7月から砂漠の中に移転し始める。無人の荒野に650万人都市をつくる計画で、膨大な資金が必要だが、国家財政は火の車。そこでエジプト政府が編み出したのはまさに「砂漠の錬金術」ともいえる手法だ。
無数のダンプカーや重機が巻き上げる砂ぼこりが視界を遮る。ナイルデルタの端にあるカイロの中心部から東に45キロ。郊外と呼べなくはないが、渋滞のため車で1時間半かかった。(中略)
かすんだ空の向こうに摩天楼が見えてきた。新首都の顔となる中心商業地区のビル群だ。アフリカ随一となる高さ385メートルの超高層ビル「アイコニックタワー」を中心に20棟が立ち並ぶ。ビル群を一括受注したのは中国国有企業・中国建設だ。建設費には中国からの融資が充てられた。 東京23区の1・1倍ほどの用地を占める新首都建設は三つの工期に分けて行われる。全体の約4分の1にあたる第1期工事だけで事業費は150億ドル(約1兆8千億円)に上る。インフラも総延長650キロの道路網、電気・ガス、水道などに加え、1万7千人収容の国内最大のモスクや、8千人収容の中東最大の教会など多岐にわたる。
■カイロは人口過密、国家財政は火の車しかし、「国家財政に1ポンドたりとも負担をかけていない」と首都建設を担う開発会社「首都・都市開発(ACUD)」のアフマド・アブディーン会長は強調する。 計画が動き出したのは2015年。民主化運動「アラブの春」による政治変動の末、14年に実権を握った軍出身のシーシ大統領が経済開発の切り札として打ち出した。カイロ首都圏の人口は2千万人に迫り、過密ぶりが限界に達していたことも背景にあった。 ただ、当時のエジプト経済は低迷。長引く社会混乱の影響で観光客や外国投資が逃げだし、政府債務残高は国内総生産(GDP)の約9割にのぼった。16年には国際通貨基金(IMF)の支援を仰ぎ、3年間で120億ドル(約1兆4400億円)の融資を受けることで合意。緊縮財政を迫られ、資金を出す余裕はなかった。 「限られた財政は貧困対策だけで手いっぱいだった。しかも人口がどんどん増え、悪循環に陥っていた」。計画・経済開発省のハリド・ムスタファ次官は振り返る。「抜け出すためには、何かこれまでとは違う革新的な方法で資金を生み出す必要があった」 その答えは「何もない砂漠を線で区切り、土地を投資家に高額で売る」(アブディーン氏)という錬金術だった。本来ほとんど価値のない砂漠の中の住宅用地と商業用地を民間のディベロッパーに販売することで莫大(ばくだい)な費用をまかなう計画だ。 「当初は本当に新首都ができるのか、誰もが半信半疑だった」(アブディーン氏)というが、アイコニックタワーが18年に着工して以降、新首都の姿が現実のものとして形を現すにつれ、開発に火がつき始めた。 政権の屋台骨である軍の本気度も影響した。新首都に隣接する敷地には、軍や国防省の司令部が完成しつつある。五角形をした米国防総省(ペンタゴン)になぞらえて、「オクタゴン(八角形)」と呼ばれる巨大施設で、新首都より一足早く稼働が始まる。 新首都建設はエジプト経済を下支えする。いま、建設に携わる企業は内外の400社に上る。新興国の中でエジプトは、コロナ禍でもマイナス成長を経験しなかった数少ない国の一つだ。建設業と不動産業の活況が牽引(けんいん)役になったとみられている。
■分譲中の住宅価格「どんどん上がる」エジプトの不動産開発大手ベターホームは最も早く新首都建設に参入した企業の一つ。20ヘクタールの土地をACUDから5億6千万ポンド(約37億円)でまず購入した。17年の着工と同時に宅地分譲を始め、一戸建て394戸を完売した。その後、100ヘクタールを買い増し、一戸建て726戸とマンション5100戸を分譲中だ。 価格は一戸建てなら最も高いもので1億1800万円ほど。マンションは90平方メートルが820万円ほどからだという。カイロの住宅の新築物件の相場と比べて3倍以上の高値だ。 同社の販売担当シャディ・モフセンさんは「転売は自由で、新首都が稼働を始めれば、値段はどんどん上がる。買うなら今だ」と話す。 相場を支えるのは不動産神話だ。「人口が増え続けるエジプトでは不動産価格は下がらない」とモフセンさん。バブル崩壊を経験した日本人からすれば、大丈夫なのか、と思いたくなるが、20年に人口が1億を超え、年率2%程度で伸び続けている。 宅地には無数のマンションが立ち並んでいるが、まだ入居は始まっていない。ACUDは5年後に新首都の人口が200万人になるとみる。 モフセンさんによると、住宅購入者の7割以上は投資目的だ。買い手の45%はエジプト人、45%は外国に住むエジプト人、残る10%は外国人で、湾岸諸国や近隣国、中国が多いという。一方、建設に携わってきた中間層のエジプト人でさえ「高すぎて一生住めない」と嘆くほど、値段は高騰している。 政府は7月、33省庁のすべてを新首都に移転する方針だ。公務員の中から選抜された5万人が新庁舎に移る。新首都には公務員住宅として2万5千戸を作り、1戸当たり260万円程度で分譲する。公務員はそこに住むか、カイロから通うか選択することになる。 財務省職員は「まったくうれしくない」と声を潜める。「移り住んで子供の学校はどうなるのか、共働きの妻に仕事はあるのか、将来が見えない。通勤するなら朝5時に家を出て、帰りは夜中。そんなの無理だ。政府の決定には従わざるをえないが、移転する前に準備を完成させないと大混乱になる」と話した。
■(point of view 記者から)ナイルから離れ、熱気宿るか国家はなぜ遷都するのだろう。日本でも世界でも歴史上、何度も遷都が行われた。時の権力者が威信を示したり、新たな国家統合の理念を込めたり。対立する政治勢力の影響力の排除をねらった場合もあるだろう。 エジプトでも古来、遷都が繰り返されたが、その場所はいつも母なる大河ナイルのほとりにあった。近代文明によって、川から離れても都市を維持できるようになった面はある。カイロは中東アフリカで最大の都市となり、過密ぶりが限界なのは分かる。首都建設が経済の起爆剤になっているのも確かだ。 ただ、今回の遷都にはもっと大きな意味があるように思えてならない。千数百年の歴史を持つカイロには人々の活気があり、時にはデモが起きて騒然となった。対する新首都は、アラブ首長国連邦のドバイのように整然とした近未来都市だ。そこにもエジプト民衆の熱気は宿るのだろうか。【3月27日 朝日】******************
カイロは観光で2回訪れたことがありますが、渋滞にはまると旅行スケジュールが滅茶苦茶になってしまいかねないのは、他の巨大都市と同じです。
シーシ大統領は「月一度のペースで現地を視察する」ほど事業に強い思い入れを持っているとか。【2021年12月15日 産経より】
過密巨大都市の交通、住宅、環境などの問題・・・は当然にありますが、シーシ大統領としては、貧困層が反政府デモを起こすような“民衆の熱気”とは無縁の、“整然とした”“秩序だった”新首都を建設したい・・・・のかも。
想像ついでに言えば、冒頭に引き合に出した紀元前14世紀のアメンホテプ4世のように、国家の基本構造を自分の手で一新したいという、ファラオのような権力者特有の“願望”みたいなものが心の底にあるのかも。全くの想像です。
少なくとも、エジプト経済の礎となったアスワンダムを建設し、歴史に名を残しているナセル大統領のことは念頭にあるでしょう。
“「アラブの春」と呼ばれる反政府デモによる混乱から10年。台頭したイスラム原理主義や反体制派を押さえ込み、強権に傾くシーシー氏にとって新行政首都建設は「自らの体制の正当性を獲得してレガシーを築く」(中東メディア)ためとの指摘も出ている。”【同上 産経】
****砂漠の新首都、エジプト大統領のレガシーづくりか?****絢爛(けんらん)豪華な大統領宮殿、真新しい議事堂、格式高いオペラ劇場、広大な公園…いずれもエジプトの砂漠で建設が進む新首都の構想の一部だ。(中略)
総事業費約450億ドル(約5兆1000億円)が見込まれる新首都の面積は、シンガポールとほぼ同じ約700平方キロ。2000万人以上が住み、今も肥大化しているカイロ首都圏の人口過密問題の解決策として期待されている。 シシ氏は2014年の大統領就任後、新首都建設を「新しい国家、共和国の誕生」と位置付けた。 ただし、公式には「新行政首都」と呼ばれる新都市は、ブラジルのブラジリアのように旧首都と競い合うのではなく、隣り合う大都市カイロにいずれのみ込まれると見る向きもある。
「私からすると、新首都は謎ですね」と疑問を投げ掛けるのは、フランス国立開発研究所の所長、ガリラ・カディ教授(都市計画)だ。「カイロ郊外にあるのにまだ誰も移住していませんが、数年のうちに拡大してカイロと融合してしまうのではないでしょうか。これだけの規模の人口密集を管理する問題が大きくなるだけです」
■第1段階の住民は「最大200万人」(中略)さらに45億ドル(約5100億円)規模のモノレール敷設事業により、新首都は大カイロ圏と結ばれる予定で、フランスの重電機器大手アルストムが2編成の車両を納入済みだ。また収容人数3000人の巨大なモスク(イスラム礼拝所)も2019年にすでに開設されている。
■「歴史に名をとどめたい」大統領一方で膨大な建設コストは、財政支出の優先順位として適切ではないと批判されている。エジプトでは人口1億200万人のうち3分の1が、貧困ライン以下で暮らしている。 カイロ大学のムスタファ・カメル・サイード教授(政治学)は、ほとんどの人々は新首都でアパートや住宅に住む経済的余裕などないと指摘する。
「(政府が)近代的とうたっている計画は、単に欧米の近代性を象徴するものをエジプトに移し替えることです。(中略)つまり高層ビルや幅広い道路、先進技術を所有しようというだけです」。しかし本当の意味での近代性とは、優れた教育を提供するなどの「責務を、政府が国民に果たすことを言うのです」。 古代エジプトのファラオ(王)の時代から「行政首都は統治者を国民から隔離する目的で設置されていた」とサイード氏は言う。 さらに歴代の大統領と同様、シシ大統領はレガシーを築きたいのだと同氏はみる。引き合いに出したのは、故ガマル・アブデル・ナセル大統領が率いたアスワンダムの大工事(1970年完成)だ。「シシ氏は、権力の中枢をカイロから自分の名声が永遠に残る場所に移し、歴史に自分の名をとどめたいのです」 【2021年11月26日 AFP】************************
“住宅購入者の7割以上は投資目的”【前出 朝日】ということで、“人口1億200万人のうち3分の1が、貧困ライン以下で暮らしている”エジプトにあって、貧富の差がさらに広がるとの見方もあります。
これまた全くの想像・邪推で言えば、“砂漠の錬金術”には、利権に絡む腐敗・汚職の腐臭もプンプンと漂う感じも。
今のところは庶民とは縁のない新首都ですが、やがてはカイロのカオスが更に肥大拡張して、整然とした新首都を呑み込んでしまうのか・・・・。
【カリマンタンの“ジャングル”へ ジョコ大統領の「国威高揚策」?】エジプトが“砂漠”への首都移転を進めている一方で、同じように首都移転を計画しているのがインドネシア・ジョコ大統領。こちらはジャワ島のジャカルタからカリマンタン島の“ジャングル”へ。
****インドネシアで首都移転法案が可決 新首都名「ヌサンタラ」、意味は****インドネシア国会は18日、首都をジャワ島にあるジャカルタからカリマンタン(ボルネオ島)に移す根拠となる「首都移転法案」を賛成多数で可決した。首都の名前を「ヌサンタラ」とし、移転準備を進める政府機関を設置し、本格的な移転に向けた実務が動き出す。
現地メディアなどによると、今年から5段階に分けて移行作業を進めていき、2045年の移転完了を見込む。首都全体の広さは約25万6千ヘクタール。今年末から24年までに公務員50万人を移動させる。
名称はインドネシア語で群島を意味する「ヌサンタラ」で、約1万7千の島々からなる群島国家であるインドネシアを表している。言語学者や歴史学者らが提案した約80の選択肢の中からジョコ大統領が選んだ。(中略)
壮大な移転計画をめぐっては、費用の増大が指摘されている。当初の政府計画では、最大466兆ルピア(約3兆7千億円)の費用が必要と見込まれていた。だが、今月10日の地元紙の報道によると、国会の予算委員会のサイド・アブドゥラ委員長は「資金は計600兆ルピア(約4兆8千億円)に上る」との見解を明らかにしている。
法案には疑問の声があがる。野党議員らは「法案の結論を出すために、議論を急ぐべきではない。より多くの立場の意見を巻き込んで議論をするべきだ」「新型コロナウイルスの感染拡大がおさまっていない中で、どのように費用を捻出するのか」などとしていた。
現在の首都ジャカルタは、オランダ支配の時代から続く国の中心地。ジャワ島の経済規模はGDPの約6割を占め、地方との格差が課題となってきた。人口の一極集中による渋滞、大気汚染も深刻化している。
その改善を理由として、ジョコ大統領が2019年4月、国会での年次教書演説で、首都移転の方針を表明した。【1月19日 朝日】********************
移転理由については人口過密化と地下水問題が指摘されています。
********************大きく2つあります。
1つ目が、人口の過密化です。
ジャカルタは、周辺地域を含めた人口が3000万人を超えていて、激しい交通渋滞が慢性化してしまっているんです。
2つ目は、ジャカルタでは地下水を過剰に汲み上げたために、地盤沈下が起こって都市面積の6割が海抜0メートル以下の低い土地になってしまいました。なので、毎年のように洪水被害も起きてしまっているわけなんです。【1月19日 FNNプライムオンライン】******************
また、中核ジャワ島と開発の遅れているカリマンタンの格差是正の狙いもあるようです。ただ、経済関係の省庁がジャカルタに残る予定で、そうなると企業等もジャカルタに残り、結局ジャカルタの問題、地方との格差は解消しないのでは・・・との指摘も。
費用については、詳細を詰める前の“見切り発車”状態のようです。
****首都移転の法案可決=課題山積、見切り発車―インドネシア****インドネシアの国会は18日、首都移転の法案を可決した。首都を現在のジャカルタからカリマンタン島東部へ移すもので、政府は今後、開発に着手できる。ただ、必要な予算の確定や資金の確保を後回しにした他、環境破壊や災害といった山積する課題への対応も議論されておらず、見切り発車した格好となった。 (中略)必要な予算と国費の投入額、開発や移転の開始時期については「政令や規則で定める」と記すにとどめた。【1月18日 時事】**********************
資金調達についいて、民間からの投資を当初から呼びかけ、同時に海外からの財政支援を当てにしているとのことで、日本のソフトバンクグループ・孫正義会長兼社長も早くから手をあげていますが、エジプト同様に“チャイナマネー”が主体となりそうな感も。
****インドネシア「熱帯雨林への首都移転」、費用は中華マネー頼み****(中略)ソフトバンクグループよりも、インドネシアの首都移転に深くかかわろうとしているのが中国だ。 2019年にジョコ・ウィドド大統領が首都移転構想を発表した直後から強い関心を示し、同年11月には中国主導の国際金融機関である「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の金立群総裁が首都移転に融資する用意があると表明した。「インドネシアが望むなら喜んで新首都移転計画に参加したい」と述べてAIIBとして融資の可能性を示したのだ。 さらに有力紙「ジャカルタ・ポスト」が今年になって報じたところによれば、「資金面でジョコ・ウィドド政権は中国の投資を期待している可能性もある」「中国が非公式ながら首都移転プロジェクトへの参加の意向を示した」とのことで、中国が資金面に加えてインフラ整備や技術面での協力支援などでインドネシア政府への接近をさらに強めているとの見方を示した。(後略)【2月15日 JBpress】***************
ただ、“ただインドネシア国内には首都移転計画はジョコ・ウィドド大統領が打ち上げた「国威高揚策」に過ぎず、2024年の大統領選で選ばれる次期大統領が果たしてこの巨大プロジェクトを継続するのか疑問視する向きもある。”【同上 JBpress】とのことで、いずれにしても次期大統領選挙の争点にもなり、その結果次第では“ジャングルの蜃気楼”に終わる可能性も。
日本は首都機能移転はどうするのでしょう?巨大地震対策からも必要にも思えますが、話だけで全然進まないようにも見えます。