
【アメリカ 記録的インフレでゼロ金利解除】新型コロナ禍からの景気回復に伴う需要増加に対し、サプライチェーンが寸断されたことや人出不足などで供給・物流が追いつかない状況から、現在すでに世界の物価水準は上昇傾向にあります。
今後は、ウクライナへのロシア軍の軍事進攻、及び、それに対する対ロシア制裁によって、石油・天然ガスなどエネルギー・資源価格、両国が主要輸出国となっている小麦などの食料価格が更に上昇することが予想されています。エネルギー・資源、食料品の価格が上がれば、それに伴って全ての財・サービスも連動することになります。
****米FRB ゼロ金利解除 ウクライナ情勢など先行き不透明****アメリカの中央銀行に当たるFRB=連邦準備制度理事会は、記録的なインフレを抑え込むため、ゼロ金利政策を解除して利上げすることを決めました。
次の会合以降も連続で利上げを進める見通しですが、ウクライナ情勢の影響をはじめ経済の先行きに不透明さも多く、手腕が問われることになります。
年内にあと6回の利上げを行う見通しFRBは16日まで開いた会合で、コロナ禍の2年間続けてきたゼロ金利政策を解除し、政策金利を0.25%引き上げることを決めました。
アメリカは、供給網の混乱や人手不足、エネルギー価格の上昇などが相まって消費者物価の上昇率が40年ぶりの高い水準になっていて、利上げによってインフレを抑え込むねらいです。
さらに今回の会合では、年内にあと6回の利上げを行う見通しが示され、次の会合以降も連続で利上げを進め、金融の引き締めを急ぐ姿勢を鮮明にしました。
一方、パウエル議長は記者会見で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が経済に及ぼす影響について「不透明だ。原油や原材料の価格上昇による直接的な影響に加えて、供給網をさらに混乱させる可能性もある」と述べ、強い警戒感を示しました。
軍事侵攻をきっかけにインフレが一段と加速する可能性がある一方で、経済の先行きが不透明な中で金融の引き締めを急ぎすぎるとかえって景気を冷やすおそれもあるためFRBの手腕が問われることになります。
“ゼロ金利”解除背景に経済回復と物価高騰FRBがゼロ金利政策の解除を決めたのは経済活動と雇用が順調な回復軌道にあると判断したことに加え、これに伴う40年ぶりの記録的なインフレを抑制する必要が生じているためです。(中略)
一方で、こうした景気回復に伴って顕著になってきたのが物価の上昇です。
消費者物価は去年の春先からFRBの想定を超えてみるみる上昇し、先月は7.9%と、40年ぶりの高い水準を記録。インフレに歯止めがかかっていません。
ニューオーリンズのシーフードレストランでも、人気メニューの焼きガキの料理を、2年前の19ドルから26ドルに値上げしました。オーナーの男性は「人件費、光熱費、賃料も、すべての経費が上がっているので、転嫁せざるをえない」と話していました。
こうした物価上昇の背景には、強い需要の回復に対して、物流網や工場などの混乱で供給が追いつかず、原材料や製品が不足していることがあります。さらに、深刻な人手不足に直面した企業が賃金の引き上げによって生じたコストを商品やサービスに転嫁する事態も重なり、インフレが長期化しています。
FRBはこうした景気と物価の状況を踏まえ、金融の引き締めに当たる利上げを進めていくことを決めました。
ウクライナ軍事侵攻きっかけにインフレに拍車懸念金融の引き締めに当たる利上げを進めることでインフレの抑制を目指すFRB。
しかし、思うように抑制できるか、不透明な情勢になっています。
先月下旬に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻をきっかけに、インフレに拍車がかかる懸念が強まっているためです。
市場では、国際的な原油の先物価格が一時13年8か月ぶりの高値をつけ、アメリカではガソリンの小売価格が、2008年に記録した水準を超えて過去最高値まで上昇しています。
さらに、欧米各国などによるロシアへの厳しい経済制裁によって、インフレの大きな要因となっているサプライチェーン=供給網の混乱が悪化すると言ったいわば跳ね返りの影響も懸念されています。(中略)
世界各国でも利上げラッシュインフレが世界的な課題になる中、アメリカ以外でも、政策金利を引き上げ、金融の引き締めを進める動きが広がっています。
G20=主要20か国の国や地域のうち、ことしに入ってこれまでに、イギリス、カナダ、ブラジル、韓国、メキシコなど合わせて10か国の中央銀行が利上げを行いました。
また、ヨーロッパ中央銀行も量的緩和の縮小のペースを速め、金融政策の正常化を急ぐことを決めています。(後略)【3月17日 NHK】***********************
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響でインフレに拍車がかかると見込まれる一方、金利の引き上げを続ければ景気の悪化を招くリスクもあります。
金利引き上げに動く国も多い一方で、金利を据え置く国もあり、日本はそのひとつ。
“今後の日銀の金融政策について「黒田総裁は引き続き、2%の物価安定目標の実現に向けて、強力な金融緩和を粘り強く続けていく方針であると発言している。引き続き、物価安定目標の達成に向けて努力されていくことを期待している」と述べました。”【同上】
【すでに上昇顕著な食料価格 ウクライナ情勢で今後更に】こうした物価動向について敢えて言えば、アメリカの焼きガキの料理の値段が上がっても、食べなきゃいいだけです。日本でもパンの値段が10円上がっても、関係業者はともかく、一般消費者の生活がそれでどうなるものでもありません。
しかし、国によっては、また、ものによっては、価格上昇が生活を直撃し、政治混乱を引き起こすこともあります。その観点からすれば、途上国などにおける生活に直結する穀物の価格が注目されます。
****世界の食料価格すでに上昇顕著 ウクライナ情勢背景に****世界の食料価格の上昇はすでに顕著になっている。国連食糧農業機関(FAO)は今月4日、2月の世界の食料価格指数(2014〜16年=100)が140・7と前月比で5・3ポイント上昇し、2011年2月以来11年ぶりに過去最高を記録したと発表した。
新型コロナウイルス禍からの各国の経済回復による需要増に加え、ロシアによるウクライナ侵攻を背景にした供給不安も高騰を招いた。
項目別では植物油が15・8ポイント上昇。穀物は4・2ポイント上がった。ロシア、ウクライナはこれらの主要輸出国で、ウクライナ情勢の悪化が続けば、さらなる上昇が懸念される。
こうした中、日米欧の先進7カ国(G7)は11日、オンライン形式で開催した臨時農相会合で、ロシアのウクライナ侵攻が世界の食料供給網に深刻な影響を与えると非難する声明を採択した。ウクライナの農業インフラが攻撃対象にされているとも指摘した。
ロイター通信によるとロシアは14日、国内需要を優先するために、小麦や大麦などの近隣諸国への輸出を一時的に制限することを決めた。こうした動きも、食料品の国際価格に大きな影響を与えかねない。【3月19日 産経】*******************
****世界の食料価格、最大2割上昇も ウクライナ侵攻で=FAO****国連食糧農業機関(FAO)は11日、ロシアのウクライナ侵攻で世界の食料・飼料価格が最大約20%上昇する可能性があるとの見方を示した。
FAOは「世界の需給ギャップが食料・飼料の国際価格を8─20%押し上げる可能性がある」と指摘した。
FAOによるとロシアは世界最大の小麦輸出国で、ウクライナは世界5位。両国を合わせた世界の供給シェアは大麦が19%、小麦14%、トウモロコシ4%と、世界の穀物輸出の3分の1超を占める。【3月14日 ロイター】*****************
ウクライナの場合、戦火で生産が停止するのに加え、主要輸送ルートが使えないことも大きく影響します。
****有数の穀物輸出国ウクライナ、ロシア軍の阻害で黒海経由ルート使えず…世界供給縮小の懸念***(中略)ウクライナの農産品の約95%は黒海経由で船舶で輸出される。アフリカ各国や中東のイエメンやシリアなど向けの物資も主にこのルートだが、現在はロシア海軍に阻まれ、ウクライナの小規模な2港が機能するのみだ。
ウクライナ政府は13日、穀物輸出国としての責任を果たすため、鉄道輸送を倍増して輸出を継続すると発表したが、限界がある。【3月15日 読売】*******************
【小麦価格高騰の影響が大きい北アフリカ・中東地域】東南アジア諸国や日本も小麦を多く輸入していますが、経済の強さや主食かどうかなども勘案すると、生活への影響が大きいのは北アフリカ地域と指摘されています。
****ウクライナ侵攻で小麦価格高騰、影響を最も強く受けるのはどこの国か?****小麦価格が急騰している。これまで1ブッシェル(約27.2kg)5ドル程度であったが、直近は10ドルを超えている。高騰のきっかけはロシアのウクライナ侵攻にある。市場はロシアとウクライナからの輸出が激減すると予測している。(中略)
小麦の多くはロシア、米国、カナダ、フランス、ウクライナ、アルゼンチンから輸出される。その中でもロシアからの輸出は3700万トンと最も多い。次が米国の2600万トン。ウクライナは1800万トンである。ロシアとウクライナの合計輸出量は世界の輸出量の28%にもなる。もしこれがなくなれば、世界の小麦市場は混乱する。
日本より多いインドネシアとフィリピンの小麦輸入量現在、小麦を最も多く輸入している国はインドネシアであり、約1000万トン輸入している。次はトルコで960万トン、それにエジプトの900万トンが続く。(中略)
インドネシア以外でもフィリピンが600万トン、ベトナムとタイがそれぞれ300万トンを輸入している。(中略) その他、アルジェリアが700万トン、モロッコが500万トン、チュニジアが200万トンと北アフリカの輸入量が多い。砂漠が多い北アフリカは本来食料の生産に適していないが、近年、それでも人口が急増した。それは食料である小麦を大量に輸入できるようになったからである。(中略)
注視すべき北アフリカ諸国の政情小麦価格高騰の影響を最も強く受けるのはエジプトなど北アフリカの国々である。彼らの主食は小麦であり、かつその多くを海外に依存しているからだ。その経済も弱い。一人当たりGDPは日本の10分の1程度であり、庶民は小麦価格高騰の影響を強く受ける。
一方、日本の小麦の一人当たり消費量はそれほど多くない。マスコミはパンやうどん価格が高騰すると「庶民の財布を直撃」などと騒ぎ立てるかも知れないが、実際にはほとんどの消費者にとってその影響は微々たるものである。 それは経済が順調に成長し、一人当たりGDPが北アフリカ諸国より高くなっている東南アジアについても言える。
そもそも東南アジアでは小麦は主食でない。だから小麦の価格が上昇したら、インドネシアでは焼きそばを食べる回数を減らすことで影響を小さくとどめることができる。ベトナムも同様だ。最近ベトナムでは米から作る「フォー」の他に、小麦から作る中華麺が好んで食べられているが、中華麺を食べる回数を減らしてフォーを食べればよいのだ。
一方、北アフリカ諸国はそうはいかない。小麦は主食である。前回の小麦価格の高騰は、政治に対する不満が噴出するきっかけになった。それは「アラブの春」(2010~2012年)に繋がっていった。(中略)
小麦価格の上昇は、今回もエジプトなど北アフリカ諸国を不安定にする可能性がある。北アフリカ諸国の政情を注視しておく必要があろう。【3月16日 川島 博之氏 JBpress】***********************
中東も影響を大きく受けるエリアで、以前のブログでも取り上げたように、すでにイラクでは価格高騰に対する抗議デモも起きています。
****ウクライナ危機の影響で小麦などの価格が高騰 イラク南部で抗議デモ****ロシアのウクライナ侵攻の影響で小麦などの価格が世界的に高騰していることを受け、イラク南部で9日、市民による抗議デモがあった。AFP通信が伝えた。
イラクでは2019年に高い失業率や政府の汚職への不満を背景に、全土で反政府デモが広がった経緯があり、ウクライナ危機が政情不安につながりかねないとの懸念もある。 同通信によると、9日に南部の都市ナシリヤの中心部で500人以上の市民が抗議活動を実施した。元教師の男性は「価格高騰が我々を絞め殺そうとしている。ほとんど生計を立てられない」と嘆いた。 朝日新聞助手が確認したところ、首都バグダッドの食料品店では、ロシアのウクライナ侵攻前は50キロ入りで1万2千イラクディナール(約940円)だった小麦粉が、9日には3倍以上の4万イラクディナール(約3100円)に。また、ひまわり油の価格も侵攻以前の1リットル2千イラクディナール(約150円)から約2倍の4千イラクディナール(約310円)となり、市民生活を圧迫し始めている。 イラク政府は輸入価格の高騰の余波を食い止めるため、2カ月間、食料の関税を免除する方針を決めた。一方、内務省は不安に乗じて価格を不正につり上げたとして食料販売業者ら31人を逮捕したという。 中東ではエジプトをはじめ、トルコなどが多くを国外産の穀物に頼っており、ロシアやウクライナ産が含まれている。【3月10日 朝日】*********************
世界銀行は、ウクライナ産小麦の輸出途絶による影響を最も受けやすい国として、ガンビア、レバノン、モルドバ、ジブチ、リビア、チュニジア、パキスタンを挙げています。。こうした国ではウクライナ産小麦の輸入が40%以上を占めています。【3月17日 ロイター「多数の途上国で小麦不足の恐れ、侵攻でウクライナ産に影響=世銀」より】
そうした国のひとつ、レバノンでは・・・
****レバノン「小麦粉は残り1カ月分」 ウクライナ余波、国連に支援要請*****ロシアのウクライナ侵攻の影響で世界的に小麦などの食糧が高騰している問題で、レバノンのミカティ首相は15日、首都ベイルートで面会したアミーナ・モハメッド国連副事務総長に対し、食糧不足で危機的な状況だとして支援を求めた。アラブ紙アッシャルク・アルアウサットが報じた。 経済危機のレバノンでは国民の8割が、生活に最低限必要なものが手に入らない「貧困線」以下で暮らすとされる。ウクライナ危機で穀物の輸入が難しくなれば、さらに状況が深刻化する可能性がある。 レバノンは小麦などの穀物の輸入の大半をウクライナやロシアに依存しており、複数の政府関係者は同紙の取材に「(国内の)小麦粉の備蓄は1カ月分しかない」と訴えた。 ミカティ氏は会談で、国内に90万人近くのシリア難民を抱える影響にも触れつつ、「国の食糧安全保障が脅かされている」として支援を求めたという。【3月16日 朝日】*********************
【最も大きなしわ寄せが行くウクライナ以外の紛争国の困窮者】影響を強く受ける国の中でも貧困層の暮らしが直撃を受けます。貧困層同様、あるいはそれ以上に困窮するのが紛争国の飢餓に苦しむ人々。WFPが行っている小麦支援の半分以上をウクライナに頼っています。
****他の紛争地で食べられてきたウクライナ小麦 世界の飢餓、悪化危惧****
ロシア軍の侵攻が、世界の人道危機をさらに悪化させる――。世界食糧計画(WFP)でウクライナを担当するアビール・エテファ上席広報官が毎日新聞の取材に応じた。
エテファ氏は、穀倉地帯のウクライナが侵攻されたことで、WFPが同国産の小麦を配給する中東のシリアなどに影響を与えると指摘。「ウクライナだけでなく、他の紛争国の市民のことも忘れないでほしい」と訴えた。
◇小麦価格、すでに5割上昇米農務省によると、2021〜22年度の小麦輸出量はロシアは約3200万トン、ウクライナは約2000万トンの見通しで、両国だけで世界の約3割を占める。紛争が長期化した場合、小麦の生産や輸出の先行きは見通せない。 エテファ氏によると、ウクライナ産小麦は通常、南部の港湾都市オデッサから、黒海を通じて中東やアフリカに運ばれる。だが、ロシア軍はオデッサ近郊への攻勢を強めており、輸出の経路が遮断される可能性がある。侵攻の影響で、今春の作付面積が大幅に減る可能性もあるという。
WFPは世界で飢餓に苦しむ約1億人に食料支援を実施しているが、小麦の半分以上をウクライナからの調達に頼っている。
現在は従来と異なり、他国から食料を調達し、ウクライナに届けている状況だ。侵攻の影響で小麦の値段は最大5割上昇したほか、世界的にエネルギー価格も高騰しており、WFPがこれまで同様に食料を紛争国などに配給すると、毎月7100万ドル(約84億円)の追加経費がかかるという。
WFPは、11年から内戦が続くシリアで約560万人に、紛争が7年以上続くイエメンでも約1300万人に、それぞれ食料支援を実施している。
だが、ロシア軍の侵攻前から資金は不足しており、イエメンでは800万人に必要量の半分しか食料を提供できていない。今回の侵攻はさらなる打撃になるとみられ、エテファ氏は「国際社会の支援がなければ、飢餓に苦しむ多くの人々を見過ごすことになる」と懸念を示す。(後略)【3月20日 毎日】******************