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Channel: 孤帆の遠影碧空に尽き
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南アフリカの理想と現実  マンデラ氏以来の「虹の国」の「多人種共生」を揺るがす黒人民族主義の拡大

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(22日、南アフリカ・ケープタウン近郊での集会で、演説中に喝采を送る(過激な白人排斥を掲げる)EFFの支持者ら=ロイター 【10月24日 読売】)
【ズマ前大統領収監を機に大規模暴動】南アフリカでは、ズマ前大統領が収賄疑惑に関連して法廷侮辱罪に問われ、7月7日深夜に出頭、収監されたことをきっかけとして、7月9日ごろからズマ氏の支持者らによる抗議デモの一部が暴徒化して略奪を伴う大規模な暴動が発生しました。
縁遠いアフリカの出来事ということで、また、暴力・内戦などのイメージが定着しているアフリカでの出来事ということで、日本ではあまり大きな話題にもなりませんでしたが、その死者は337人にも及んだとの報道もあります。
****南ア暴動、死者337人に****南アフリカで今月発生した暴動による死者は22日、政府発表で337人となった。 大統領府相を兼任するクムブゾ・ヌチャベニ中小企業開発相は、「警察が暴動に関する死者数をハウテン州で79人、クワズールー・ナタール州で258人に修正した」と説明した。 暴動は今月初め、ジェイコブ・ズマ前大統領が汚職調査への協力を拒否したとして禁錮1年3月の有罪判決を受けて収監された翌日に始まり、略奪や放火が拡大。アパルトヘイト(人種隔離政策)の撤廃後では最悪の騒乱に発展し、シリル・ラマポーザ大統領は、「反乱」の企てだと批判する事態となった。 暴動による被害額は推定34億ドル(約3700億円)に上っている。 【7月23日 AFP】********************
単にズマ前大統領収監だけでなく、失業・貧困・格差など社会全体に対する不満が暴発した結果であることは容易に想像されます。
【腐敗と汚職が蔓延したズマ政治からの改革】こうした多大な犠牲を払って実行されたズマ前大統領収監は、失墜した南アの民主主義の挽回、汚職体質の変革の契機としての期待もありました。
****ズマ元大統領収監で南アフリカは法の支配が進むのか****(中略)ズマの収監は、法の支配確立の始まりかもしれないが、終わりではない。今回ズマが問われているのは法廷侮辱罪であり、いわば手続き違反が問題にされているだけである。
真に問われるべきは汚職や国家財産の略奪である。しかし、インド系財閥グプタ兄弟達が絡んだ汚職容疑の裁判などがズマと支持者達による抵抗のため一向に進んでいないことに変わりはない。
グプタ兄弟の容疑は、2000年代初め頃から既に問題化していた。詳細は分からないが、今回の収監についても、ズマ派の弁護士等が司法手続上の戦術を駆使して形式犯で処理し、本丸の汚職裁判については政治的動員力で抑え込もうとする戦術なのかもしれない。保釈されるかもしれない。法相は、規則に従い一定期間経過後申請できると述べている。 ズマ収監のニュースは、元大統領の収監という社会ニュースの要素が強い。一層大きな意味合いがあるとすれば、①ズマの政治により国際的にも大きく傷ついた南アフリカのデモクラシーへの信頼を取り戻せるか、②巨大な政権与党ANCの劣化を解決するために同組織の改革を断行できるかどうかの二点である。 ズマ政権の9年、南アフリカはそのデモクラシーに対する国際的信頼を落とした。それは、残念ながら、南アフリカにとり汚辱と劣化の時代だった。
世界で最もリベラルな憲法を擁する南アフリカの民主主義は後退した。ズマは、第二代大統領ムベキの副大統領を務めたが、品と規律のあるムベキとはそりが合わず、2005年には汚職容疑で解任された。
その後ズマ勢力は任期途中のムベキの失脚を図り、2009年にズマは大統領に就任、18年まで政権を維持した。しかし、その間経済問題は解決せず、黒人急進派による大衆政治(モッブ・ポリティックス)は横行する。一部の者は、現憲法は白人が作ったものだと主張しているという。 汚職が蔓延し、グプタ兄弟等ズマの縁故主義が一層進み、検察、警察とズマ達の間の恒常的な対立が続いた。ズマは全ての疑惑を否定した。
ANCの有力者は、国営企業、特に電力公社ESKOMに入り込み、私腹をこやした。ESKOMは経営危機に直面した。
また、ズマはレイプ容疑で起訴されてもいる(裁判により無罪)。ズマは、支持者を動員、政治化し、あらゆる法的戦術を駆使した。ズマは正に古い政治家であり、その手法は「間違った黒人政治」の手法だった。 ズマの問題は、与党ANCの問題でもある。今のANCはマンデラやムベキが率いた時代とは大きく変わっている。婦人部や青年部は一層強硬な勢力になったように見える。
今ANCは党首で改革派のラマポーザとそれに反対するズマの勢力に二分されている。5月ラマポーザは、ズマの同盟者である事務総長マガシュレを職務停止に追い込んだが、未だ係争中。
今回のズマ収監が改革派の強化になることを期待したい。【7月26日 WEDGE】*********************
収監されたズマ前大統領は8月6日には、定期健診として病院に移送、9月5日には仮釈放となっています。
****収監の南ア前大統領仮釈放 治療目的、病名不明****南アフリカ当局は5日、法廷侮辱罪で有罪となり収監されたズマ前大統領(79)に対して、治療目的での仮釈放を許可したと発表した。詳しい病名は不明。ロイター通信が伝えた。
ズマ氏は8月に入院。この際、同氏側は定期の健康診断を受けると説明していた。
ズマ氏は在任中にインド系富豪との癒着疑惑が浮上。憲法裁副長官の指揮下で汚職問題を調べる委員会への出席に応じず、憲法裁が6月に1年3月の禁錮刑を言い渡した。7月上旬に収監された後、南ア各地で釈放を求める抗議デモが大規模な暴動に発展した。【9月6日 共同】**********************
【ズマ支持者をひきつけて、より過激な黒人民族主義の拡大】マンデラ元大統領以来、南アの民主主義を牽引してきた与党アフリカ民族会議(ANC)はラマポーザ大統領のもとで改革の途上にありますが、ズマ前大統領との確執の結果、ズマ氏支持者がより過激・性急な黒人民族主義政党へ流れるという形で、南アの「多人種共生」を揺るがすことにもなっているようです。
****「白人を殺せ」黒人民族主義を掲げる極左躍進へ…「多人種共生」揺らぐ南ア****南アフリカで11月1日、5年に1度の統一地方選が行われる。
各種調査で、過激な白人排斥を掲げる極左野党「経済的解放の闘士(EFF)」の躍進が見込まれている。人種対立の先鋭化が、ネルソン・マンデラ元大統領が多人種共生を掲げた「虹の国」の理念を揺るがしている。
「我々が権力を握れば、土地を強制収用する。白人の土地は全て我々のものだ」21日、ワインの産地として知られる風光 明媚めいび な西ケープ州ステレンボシュで、EFFのジュリアス・マレマ代表が声を張り上げると、会場は熱狂に包まれた。聴衆のほとんどは黒人だ。 この町は白人が黒人よりも先に住み着き、人口の6割以上を占める。マレマ氏は、ワイン生産の恩恵で豊かな暮らしぶりの白人を「人種差別主義者」と非難、「我が党はこの場の女性に家を買ってあげることもできる」と気勢を上げた。 EFFは、与党アフリカ民族会議(ANC)を離脱したマレマ氏が2013年に結党した新興政党だ。短期間のうちに野党第2党となり、統一地方選では結党以来、初めて首長ポストを獲得する可能性がある。 「黒人のための南ア」の実現を目指す黒人民族主義を掲げ、暴力も辞さない過激な街頭運動や「白人を殺せ」との主張など人種対立をあおる手法が特徴だ。選挙戦では、白人の土地の強制接収のほか、富裕層地区への黒人貧困層向け住宅建設などを訴えている。
■与党分裂で勢い勢力を拡大している背景には、ANCの党内対立がある。穏健派のシリル・ラマポーザ大統領の影響力が強まり、対立する左派のジェイコブ・ズマ前大統領に近い勢力の支持者がEFFに流れた。党内対立をきっかけに、7月には大規模暴動も起きている。 最大都市ヨハネスブルクの高級ホテルで働く黒人男性は「(EFFは)人種差別と戦ってくれる」と支持理由を語った。
国内では、経済低迷にコロナ禍が追い打ちをかけ、失業率は3割超で高止まりしたままだ。
アパルトヘイトからの黒人解放運動を支援したキューバや中国がもたらした社会主義思想への親近感も加わり、EFFのポピュリズム的主張は貧困層だけでなく、都市部の若者や学生にも支持を広げつつあるようだ。
■白人は「独立」目指すこれに対し、排斥運動の矢面に立つ白人には「分離独立」を目指す動きも出ている。
西ケープ州は国内で唯一、白人とカラードと呼ばれる混血住民が多数派を占める。州内では昨年、分離独立運動を先導する市民団体が結成され、白人を支持基盤とする既成政党も独立の是非を問う住民投票に理解を示し始めている。 市民団体代表のフィル・クレイグ氏は本紙の取材にこう語った。「ANCなどの社会主義的な勢力が統治する南アとは違う道を歩むべき時だ。数年以内に住民投票に持ち込みたい」 南アの人種問題は、米国や、南アからの移住者が多い豪州などで関心が高い。18年には当時のトランプ米大統領が「南アでは白人農家が大量に殺され、土地を奪われている」と投稿して話題を呼んだ。
かつて白人と黒人の歩み寄りが喝采を浴びた南アが再び陥る分断は、人種対立が続く欧米諸国にも波紋を広げかねない。
◆「虹の国」の理念 …人種別に居住地を定めるなどして少数派の白人政権が多数派の黒人を差別したアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃後、ネルソン・マンデラ元大統領が掲げた多人種共生の理念。多色の虹になぞらえ、「南アはそこに住む全ての人に帰属する」との主張を示した。【10月24日 読売】**********************
【「虹の国」の理想と現実】過激な白人排斥を掲げる極左野党「経済的解放の闘士(EFF)」が支持を拡大する背景には、「虹の国」とは言いながら、依然として農園など多くの資産を有する白人と黒人の格差は大きく、多くの黒人若者が失業に苦しむという現実があります。
また、南アで汚職が蔓延し、一部の成金層が生まれるのは、白人から黒人への資産移転の過程の“必然”という側面もあります。
しかし、力で奪い取るだけの黒人紋族主義は、ジンバブエのムガベ前大統領の失政・国家破綻の轍を踏むことも予測されます。
穏健な形で現状の改革を進められるか、マンデラ氏の側近として氏を支えたラマポーザ大統領の手腕が南アの最後の切り札でもあります。
****ズマ大統領辞任の背景にある南アフリカの理想と現実*****
(中略)ラマポーザ議長がズマ大統領の任期満了を待たずに辞任を迫ったのは、高まる民衆のズマ大統領に対する反発を踏まえてのものだった。それほどまでにズマ大統領の9年間は、南アフリカを混乱に陥れた。

783件もの汚職嫌疑、贈賄側はすでに刑が確定
経済は成長から見放され、一人当たり成長率でも他のサブサハラ・アフリカ諸国に大きく後れを取った。政府債務は膨れ上がり、貧富の格差は拡大する一方で、失業率の36%は単に表に出た数字に過ぎない。

何より、ズマ氏に向けられた汚職嫌疑が783件に上るというのだから国民があきれるのも無理はない。この783件は、1999年の南アフリカ海軍によるフリゲート艦購入に関するもので、贈賄側のシャビール・シャリクは既に15年の刑が確定しており、ズマ氏に対する捜査も動き出した模様である。
 
もっとも、南アフリカで汚職は別に珍しいことではない。トランスパレンシー・インターナショナルが公表する汚職指数というのがある。その国の公職にある者がどれだけ汚職にまみれているかを示す数値で、ゼロが「最もひどく」、100が「最もクリーン」と国民が見ていることを示す。2016年、南アフリカはこの指数が45だった。

ちなみに日本は72、スイスは86で、世界に名だたる汚職大国ブラジルは40、インドネシアは37である。つまり、政府高官のほとんどは汚職にまみれている。それでもこの大統領はけた外れなのである。
 
そもそも、2007年にズマ氏が大統領に就任した時からして、レイプ・スキャンダル騒動が巻き起こる中での就任だった。それほどズマ氏には汚職、犯罪のきな臭い噂が絶えずまとわりついた。

それでもズマ氏は大統領になり、しかも9年間その地位にあった。結局、ズマ氏のまわり、あるいはもう少し広く南アフリカ富裕層一般にとり、こういうズマ氏が大統領でいることが都合良かった、ということに他ならない。

南アフリカで汚職が蔓延している理由
体制が大きく転換し、それまでの既得権益層から利権をはく奪し、国民各層にその利益を均霑しようという時、南アフリカに限らずどこでも、大なり小なり汚職が横行する。

日本でも、明治維新に際し、武士階級を廃し産業基盤たる財閥を育成した時、それなりのことはあったろうし、社会主義圏で体制転換の時、多くのオリガルキーが生まれたことは周知のことである。
 
南アフリカでもアパルトヘイトが廃止され、新生南アフリカとして再出発した時、似たような状況が生まれた。というのも、南アフリカには白人が築いた一大産業構造があったからである。

通常、アフリカ諸国は、こういう白人層の富裕資産を新政府が接収する。それが脱植民地化なのである。しかし、南アフリカはそれをせず、白人資産はそのままとし、白人と黒人が共生する道を選んだ。マンデラ大統領が目指したレインボー・ネーションである。

しかし、片や、食うや食わずの黒人層がひしめき、他方で裕福に生活する白人層がいる。これでは社会は成り立たない。

そこで南アフリカ政府がしたのが、黒人優遇政策いわゆるアファーマティブ・アクションである。民間企業は、黒人を一定割合、幹部に登用しなければならず、また、一定割合の株を提供しなければならない等である。これにより実質的に白人資産を黒人に移転した。
 
ところが、どこでも、こういう時の資産移転を公平に行うことは難しい。結局、南アフリカに出現したのは、巨大な資産を抱える新たな黒人成金層だった。そして、この成金が生まれる過程で数々の汚職が蔓延したのである。(中略)

南アフリカに渦巻く「理想」と「現実」の問いかけ
しかし、これから南アフリカがどうなるか、つまり、南アフリカの帰趨がどうなるかは、単に南アフリカだけに関わることではない。

先に述べたとおり、南アフリカはアパルトヘイト撤廃後、通常であれば白人資産を接収するところを、マンデラ大統領の崇高な理念に従い、接収することなく白人と黒人による共生の道を選んだ。

その時、白人は、どうせマンデラはきれいごとを言っても、黒人が差配する新生南アフリカがこのままうまく治まるはずがない、やがて、「破綻国家」の道を歩むのは必定だ、と言った。

他方、黒人は、マンデラはきれいごとを言って、白人と黒人の共生などというが、それがうまくいくはずがない、どうして白人資産を接収し貧しい黒人に分け与えないのか、それをしないからいつまでたっても黒人貧困層がなくならないのだ、と言った。
 
つまり、ことは単に一つの国が安定し繁栄するかどうかを越え、より高次の、脱植民地化の過程で旧支配層と被支配層が財産接収という暴力的行為を経ることなしに、平和裏に共存することが可能かという、壮大な試みに関係することであり、さらにはまた、異なった人種がアパルトヘイトという特殊な経験を経ながらも共に一つの国家を築いていくことができるかという、崇高な理念の妥当性に関することなのである。人類は理念のもとに生きることが可能なのか、あるいは所詮、現実の世界の中でしか生きられないのか、といった問いでもある。
 
もっとも、白人資産を接収したアフリカ諸国の経済が、その後その多くが立ち行かなくなっていったとの事実は、マンデラの理念の方が現実に適合し成功を収める、ということなのかもしれない。【2018年2月22日 WEDGE】
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