
【「失われた30年」で韓国にも抜かれた日本の賃金水準】日本では総選挙ということで、各政党の「分配重視」の姿勢と相まって、「失われた30年」の間置き去りにされ、いつのまにか先進国の中では低水準となった日本の賃金水準が取り上げられています。
****(日本経済の現在値)30年増えぬ賃金、日本22位 上昇率は4.4% 米47%、英44%****
日本経済をどう立て直すのかは、衆院選の大きな争点だ。様々な指標を外国と比べると、低成長にあえぐ日本の姿が見えてくる。
安倍政権が始めたアベノミクスも流れはほとんど変えられず、1990年代初めのバブル崩壊以来の「失われた30年」とも呼ばれる低迷
が続いている。
国際通貨基金(IMF)の統計で、国の経済規模を示す名目国内総生産(GDP)をみると、日本は米国、中国に次ぐ世界3位と大きい。
しかし、1990年の値と比べると、この30年間で米国は3・5倍、中国は37倍になったのに、日本は1・5倍にとどまる。世界4位のドイツも2・3倍で、日本の遅れが際立つ。
国民1人当たりのGDPも、日本はコロナ禍前の19年で主要7カ国(G7)中6番目という低水準だ。 賃金も上がっていない。経済協力開発機構(OECD)によると、2020年の日本の平均賃金は、加盟35カ国中22位で3万8514ドル(1ドル=110円で424万円)。この30年で日本は4・4%増とほぼ横ばいだが、米国47・7%増、英国44・2%増などと差は大きい。賃金の額も、隣国の韓国に15年に抜かれた。 12年末に発足した第2次安倍政権は大規模な金融緩和と財政出動、投資を促す成長戦略を「3本の矢」とするアベノミクスで、この状況を打破しようとした。当初1万円ほどだった日経平均株価は3万円前後まで回復し、企業業績も改善した。だが、海外に比べると、名目GDPも賃金も伸び悩みは明らかで、低成長からは抜け出せなかった。 なぜなのか。企業の稼ぐ力を高める成長戦略の失敗を指摘する声は多い。日本生産性本部によると、00年には世界1位だった日本の製造業の生産性はその後伸び悩み、18年には16位に後退した。低成長に加え、企業の賃上げも進まず、GDPの半分以上を占める個人消費も盛り上がらなかった。 衆院選では、与野党ともに中低所得層への分配を強化するという訴えが目立つが、同時に稼ぐ力を高めて低成長から抜け出す戦略も求められる。【10月20日 朝日】*******************
****(日本経済の現在値:1)置き去り、米と339万円差 424万円、日本の平均賃金****この30年間、日本は賃金が変わっていないと聞いた。しかも、海外と比べると、さらにぎょっとする。いつの間にか、先進国でも平均以下となり、差が大きかったお隣の韓国にも追い越された。
どの国も上がっているのに、置き去りの日本の状況は異常とも言える。なぜ日本は賃金が上がらない国になってしまったのだろうか。
■稼ぐ力、製造業でさえ転落まず、日本の現状を確認してみた。経済協力開発機構(OECD)の2020年の調査(物価水準を考慮した「購買力平価」ベース)によると、1ドル=110円とした場合の日本の平均賃金は424万円。35カ国中22位で、1位の米国(763万円)と339万円も差がある。
1990年と比べると、日本が18万円しか増えていない間に、米国は247万円も増えていた。この間、韓国は1・9倍に急上昇。日本は15年に抜かれ、いまは38万円差だ。 賃金はほとんど上がらなかったこの間、社会保険料や税金がひかれた後の手取りはどうだろう。大和総研の調査でみてみた。2人以上の勤労者世帯では、手取りは97年をピークに減少が続いていたが、12年以降は女性の社会進出の影響もあり、緩やかに伸びている。
給料から引かれるものとしては、社会保険料の負担が増している。17年までの30年間で月額2万6千円の負担増だ。主任研究員の是枝俊悟さんは「少子高齢化の中、医療や介護分野の社会保険料負担はさらに増す可能性があり、可処分所得の下押し要因になりかねない」と話す。 ここまで上がらないのはなぜなのか。よく言われるのが、稼ぐ力が弱くなっているという指摘だ。1人がどれぐらい稼げるかを示す労働生産性という指標を調べてみた。 日本生産性本部によると、19年の1人あたりの労働生産性は37カ国中26位。70年以降では最も低い順位で、主要7カ国(G7)では93年以降、最下位が続く。自動車産業など、日本経済の稼ぎ頭だった製造業でさえ、直近の18年は16位。95年、00年は1位だったのに、他の国に次々に抜かれていった。 中小企業庁による21年版中小企業白書には衝撃的なグラフが載っていた。従業員1人あたりの労働生産性が03年度以降、ほぼ横ばいで上昇がみられないのだ。企業の数で99%以上、従業員で7割を占める中小企業が伸びないのは、日本の成長力にとっては痛い。 どうすればいいのか。中小企業の経営に詳しい経済産業研究所の岩本晃一リサーチアソシエイトに話を聞くと、「生産性を上げるカギはデジタル化」という答えが返ってきた。「日本ではデジタル化が必要ないと考える中小の経営者が多いうえ、取り組もうにも、デジタル人材も足りていない」という。
■バブルの記憶、賃金より雇用維持しかし、海外勢には劣るものの、稼ぐ力も少しずつは伸びていたのに、こんなに賃金が上がらないのはなぜなのか。調べてみると、事態はもっと複雑だった。
一つは、非正規労働者が増えていることだ。企業は人件費が安く、雇い止めをしやすい非正規の労働者を増やしてきた。90年ごろは雇用者の2割ほどだったが、いまでは4割近くにのぼる。賃金が安い非正規の割合が増えたことで、平均賃金が押し下げられたというわけだ。 90年代のバブル崩壊が残した記憶も関係していると指摘するのは、慶応大商学部の山本勲教授だ。バブル崩壊後、企業は大量解雇や大幅な賃下げで批判を浴び、従業員の働く意欲や生産性も低下した。
この記憶が残り、日本の企業は業績が好調なときでも賃金を低く抑え、代わりに危機時にも解雇や賃下げはなるべく小幅に抑えるという傾向が強いというのだ。山本教授は「今回のコロナによって、将来何が起こるかわからないという不安はさらに高まった」と指摘する。 解雇や賃下げへの恐怖は働く側も同じだ。日本総研の山田久副理事長は「バブル崩壊以降、労働組合は雇用維持を優先し、賃上げを要求しなくなった」と、交渉力の低下を訴える。
戦後に5割を超えていた労組の組織率は2割を切る。欧州のような産業別の労組と異なり、日本は企業ごとに組合がある「企業内組合」が一般的。「経営陣と対等に交渉しにくいという側面もある」という。 そもそも、春闘による団体交渉と関係ない労働者は、ちゃんと賃上げ交渉ができているのだろうか。 リクルートワークス研究所の調査では、入社後に個人で賃上げを求めたことがある人は日本では3割だが、米国では7割だった。「日本には忍耐を美徳とする企業風土がある。個人が賃上げを主張すると『空気を読まない強欲なやつ』とみられがち」と話すのは、連合総研の中村天江主幹研究員。
だが、労組が弱体化し、個人の賃金交渉が根付かない現状では、労働者は賃金の決定に関与できず、受け身の姿勢から抜け出せない。「働き方が多様になるなか、個人のボイス(声)を届ける環境づくりが重要だ」と訴える。 19日に公示された衆院選では、賃金や所得をどう引き上げていくかが大きな争点の一つになっている。だが、この30年間で硬直化してしまった日本の賃金を上向かせるのは容易ではない。「賃金は上がるもの」という土壌づくりとともに、生産性の向上や労使関係のあり方の抜本的な見直しなど、様々な手を組み合わせなければ、世界との差はいつまでも縮まらない。(木村聡史)【10月20日 朝日】********************
日本の賃金が上がらない背景には、デジタル化などへの対応の遅れがもたらす生産性の低さ、また、転職がスムーズにいかない労働市場における流動性の低さ、いったん上げた賃金はなかなか下げられない賃金の上方硬直性などもあって、不可実性を過度に警戒する企業が賃金引上げより雇用安定を重視し、労働者側もそれを受入れている構図などがあります。
全体的なイメージとしては、新たな事態へ一定のリスクを覚悟して挑戦する姿勢が、企業にも、労働者側にも欠けており、安定最優先の「安心・安全教」的なゼロリスク思考が日本の「失われた30年」と上がらない賃金水準を生み出しているように個人的には感じています。
【総選挙では各党が分配重視 「成長と分配の好循環」と「分配なくして成長なし」】こうした構造的問題に加え、コロナ禍による国民生活の疲弊もあって、衆院選挙では各党が分配重視の姿勢を打ち出しています。
****まずは経済成長か、所得再分配か 各党が現金給付を競うも財源は…<衆院選 公約点検>****新型コロナウイルスの感染拡大で疲弊した国民生活の立て直しに向け、各党は衆院選で現金給付や減税策を目玉政策として並べて「分配重視」を打ち出す半面、経済の規模を大きくする成長戦略の具体策をほとんど示していない。
岸田文雄首相が「成長と分配の好循環」を掲げるのに対し、立憲民主党の枝野幸男代表が「分配なくして成長なし」と訴えるなど、成長優先か、まずは分配かの論戦が行われている。
首相は「経済をまず大きくし、その成長の果実を所得、給与という形で分配していく。そして、皆さんに思い切ってお金を使ってもらうことがまた次の成長につながっていく」と主張。成長を実現した後、次の成長につなげるための分配の重要性を強調する。
安倍、菅両政権で9年近く続いてきた経済政策「アベノミクス」は「大企業を成長させれば、賃金上昇などの恩恵が家計にも及ぶ」という青写真を描いた。だが、経済成長や国民への恩恵は限定的で格差拡大は是正されなかった。 自民党は「『新しい資本主義』で分厚い中間層を再構築する」と公約。科学技術分野や脱炭素の実現などで成長戦略を進めつつ、賃上げする企業を税制で支援することで分配を促して好循環を目指す。 立民の枝野氏は、アベノミクスで潤ったのは大企業だけだと批判。「格差を縮小して貧困をなくし、1億総中流社会を復活させる。国民の懐を温かくする所得の再分配こそが景気を良くする第一歩だ」と訴える。 大企業や富裕層への課税を強化し、年収1000万円程度の人まで所得税を時限的に実質免除。消費税を時限的に5%へ引き下げて消費を喚起する方針を掲げる。(後略)【10月21日 東京】********************
【「イカゲーム」の韓国 “日本を抜いた”に冷静な反応】細かい数字はともかく、賃金水準で韓国にも抜かれた・・・というのは、多くの日本人にとって衝撃でしょう。その韓国も、日本の賃金水準に注目しています。
ただ、誇らしげなメディア論調に対し、「パラサイト 半地下の家族」や「イカゲーム」に見られるように、多くの韓国国民が経済的に苦境に喘いでいる現実がありますので、ネット反応は意外と冷静なようです。
****30年間平均賃金が横ばいの日本、韓国メディアは「韓国に超されて嘆いている」と報道=韓国ネットは冷静****2021年10月20日、韓国メディア・韓国経済TVは、「日本の嘆き…『韓国にも逆転された』」と題する記事を公開した。
記事は19日に朝日新聞が報じた内容を紹介。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、2020年における日本の平均賃金は年間424万円で、OECDの加盟国35カ国のうち22位だったことを伝えた。これは1990年の値と比較するとわずか18万円(4.4%)の増加にとどまっており、30年間ほぼ横ばいの状態だという。
一方で記事は、「韓国は30年間で平均賃金が1.9倍増加し、15年にはすでに日本の値を上回っていた」と報道。(中略)
しかしこの記事を見た韓国のネットユーザーからは、「誰が見ても日本の方が韓国より経済大国であるのは事実。基礎科学を強化して労組を撤廃しないと日本には勝てない」「平均賃金で上回っても韓国のGDPは日本の半分に満たない。ぬか喜びはやめよう」「今や物価は日本の方が安い」「日本は賃金だけでなく公共料金や物価もすごく安定している」など、記事に反論するコメントが多く寄せられている。
また、「韓国は文政権のせいで台湾にも負けてる」「日本は30年間不振でもこの程度。韓国は文政権の5年でめちゃくちゃになった」「韓国もすぐにバブルが崩壊する。日本の二の舞を踏むのは時間の問題」など、韓国の現状を批判する意見も見られた。【10月21日 レコードチャイナ】***********************
【岸田首相同様に「いかにして中間層を分厚くするか」を目指す習近平住咳の「共同富裕」】一方、中国・習近平国家主席が、やはり分配重視の「共同富裕」を前面に打ち出していることは、これまでもたびたび取り上げてきました。
****習近平の「共同富裕」第三次分配と岸田政権の「分配」重視****習近平国家主席は鄧小平が唱えた先富論の後半である「共同富裕」に力を入れ「先富者からの第三次分配」を推進しているが、岸田首相の「分配」重視政策が何やら社会主義的なので、比較しながら考察したい。
岸田首相の「成長と分配」岸田首相の所信表明演説を聞いていて、「あれ?これって社会主義国家の国家戦略?」という違和感と、習近平が盛んに言っている「共同富裕」と「分配」に関する既視感を覚えた。
岸田首相は「成長と分配」を唱えてはいるものの、「分配によって中間層を増加させる」方に重きが置かれ、これは習近平の「共同富裕における第三次分配によって中間層を増やす」と類似している。
アメリカでも中国でも、グローバル経済を基本とする資本主義によって、貧富の格差が広がっているのは確かで、これは世界的な現象だ。したがって貧困層に富を分配して中間層を分厚くしていくのは、もちろん非常に結構なことではある。
しかし、その財源をどうするのかに関して、岸田首相は4日の就任記者会見で「金融所得課税の引き上げ」を、その一つとして唱えている。(中略)
日本でも株に投資するのは、決して「一部の富裕層」ではなく、2020年11月17日の<投資をしている人が4割突破 反面、老後2000万円問題の功罪も>にあるように、麻生(元)財務大臣が「老後には2000万円必要だ」と言ったことも背中を押して、日本の個人投資家が激増した。(中略)
すなわち、金融所得課税引き上げは、決して「大富豪からお金をむしり取って貧困層に渡して中間層を増やしていく」ことにはつながらない。
2020年10月21日の日本証券業協会による『個人投資家の証券投資に関する意識調査』によれば、個人投資家の平均年収は「300万円未満」が45.1%で、「500万円未満」が69.8%とのこと。全体の平均年収は423万円。決して裕福なわけではない「中間層」だ。
ということは、金融所得増税は中間層にダメージを与えることになる。そのためか、岸田内閣発足により株価が急落し、内閣支持率も稀に見るほど低かった。
もっとも、このコラムを書いている最中に、岸田首相が突如前言を翻し、「金融所得課税の引き上げは、当面しない」と言い始めたらしい(<岸田首相「金融所得課税は当面触れない」 総裁選での発言から後退>)。
「人の話(他人から受ける評価)に左右されて政策をコロコロ変えるような首相」など信じていいはずがない。(中略)
習近平の「共同富裕」戦略さて、では当の社会主義国家、中国における「中間層を増やす手段」を見てみよう。中国では1970年代末から改革開放が始まったが、人民は「また騙されて投獄される」と恐れて、思うようには進まなかった。そこで鄧小平は「先に富める者から先に富め。富んだ者は、まだ富んでない者を助けて率い、ともに豊かになれ」という「先富(せんぷ)論」を唱えたため、人民はようやく少しずつ金儲けをし始めた。
ところが北京に権力基盤がない江沢民政権になると、「金によるネットワーク」で権力の構図を築いたために腐敗が蔓延し、貧富の格差が激しくなっていった。
胡錦涛政権時代には「未富先老(まだ豊かになってないのに、先に老いてしまった)」という言葉が流行ったように、「権力と金」による底なしの腐敗が貧富の格差をさらに激化させていった。
そこで習近平政権では、反腐敗運動とともに、鄧小平がやり残した「先富論の後半部分」であるところの「共同富裕」に力を入れ、何としても建党100周年までに貧困層を無くしたいとして2020年11月の時点で500万人にまで減らすことに成功している。政権発足時の貧困人口は約1億人(9,899万人)だった。
習近平は、今年8月17日に開催した、自らが主任を務める中央財経委員会第十次会議で、「質的にハイレベルの発展を遂げる中で、共同富裕を促進せよ」と指示している。
「質的にハイレベルの発展」とは何を指しているかというと、ハイテク国家戦略「中国製造2025」に象徴されるような、ハイテクを中心として研究開発やイノベーションを重視する戦略を意味する。
量的なGDP成長を目指すのではなく、質的に高い内容の成長を目指すのでGDPの量的成長はしばらく抑制されるが、将来大きな発展が見込まれるポテンシャルの高い質的成長を目指すという意味だ。それを新常態(ニューノーマル)と称する。
そのためには人材の育成が最も重要なので、今年9月27日から28日、習近平は北京で「中央人材工作会議」を開催した。
これは2010年の胡錦涛時代に国務院が開催した「全国人材工作会議」を中共中央に移して引き揚げた最高レベルの人材開発会議だ。
習近平は2016年2月、「人材育成制度・機構の改革」に関する初の包括的な文書「人材育成制度・機構の改革の深化に関する意見」を発表したが、9月27日の中央人材工作会議はその流れの一環である。つまりハイレベル人材を充実させイノベーションを促進するという流れの中での「共同富裕」だ。(後略)【10月12日 遠藤誉氏 Newsweek】********************
上記記事は、「第三次分配:(先富者である)企業や個人が自ら志願して慈善活動や寄付などを行う分配。」を重視した「共同富裕」の内容になりますが、長くなり過ぎるので別機会に。
要するに、習近平主席が目指す「第三次分配」による「共同富裕」も、岸田首相の掲げる「新しい資本主義」同様に、「いかにして中間層を分厚くするか」という点で同じ目標を目指しているということです。