
(11月26日 ウクライナ・キエフ 親欧米派による抗議 かつての「オレンジ革命」を思い出させるような光景でもありますが、その失望も経験した今、どこに向かうのか・・・ “flickr”より By Ivan Bandura http://www.flickr.com/photos/25100842@N08/11073887374/in/photolist-hSyyUE-hPqW8e-hSytaA-hSywAy-hSyuLb-hPq41X-hPpVri-hPqR6F-hUkXk4-hUkXgg-hMmK6K-hRJiVB-hNJkqF-hLh8Mf)
【「EUだけでなくウクライナ国民にとっても失望だ」】
東方拡大を進めてきたEUと、勢力圏再構築を狙うロシアの思惑がぶつかり合う場ともなっている旧ソ連のウクライナやモルドバの状況については、10月19日ブログ「旧ソ連諸国の独自の動き 圧力をかけるロシア」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131019)で取り上げました。
ウクライナについては、EU側が条件としていた職権乱用罪で服役しているティモシェンコ前首相の国外療養が認められる見通しで、ウクライナのEU接近、「連合協定」への署名が見えてきている・・・と書きましたが、土壇場になってロシア側が巻き返し、前首相の国外療養法案は否決され、「連合協定」への署名は延期されました。
****ウクライナ:前首相の出国認めず 国外療養法案を否決****
ウクライナ最高会議(国会に相当)は21日、職権乱用罪で服役しているティモシェンコ前首相の国外療養を認める法案を否決した。
前首相の出国は、ウクライナの欧州連合(EU)加盟に道を開く「連合協定」の条件としてEU側が求めていたが、これで28、29日にリトアニアで開かれるEU東方パートナーシップ首脳会議での協定署名は絶望的となった。
法案は前首相派などの野党が提案したが、採決でヤヌコビッチ大統領の与党「地域党」などが棄権し、賛成が過半数に届かなかった。
統領は2015年の次期大統領選をにらみ、政敵である前首相の「復権」につながる動きを懸念しているとされる。野党陣営は「大統領はウクライナの欧州統合を妨げている」と批判している。
旧ソ連のウクライナを「西側」に取り込みたいEUに対し、東の大国ロシアはウクライナに経済的な圧力をかけるなどして自国の勢力圏にとどめる工作を強めていた。【11月21日 毎日】
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今回決定の背後には、ウクライナのEU接近を嫌うロシアの強い圧力があったと見られており、EU側は「連合協定」への署名延期を決めたウクライナの決定に“失望”を表明しています。
****ウクライナに「失望」=協定署名延期で―EU****
欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)は21日、ウクライナがEUとの政治・経済関係を強化する「連合協定」への署名延期を決めたことを受け、「EUだけでなくウクライナ国民にとっても失望だ」との声明を発表した。
声明は「署名がウクライナの改革路線をさらに強化し、国際通貨基金(IMF)との新たな融資協議の弾みになっただろう」と強調。ロシアとの関係を重視したウクライナの決定には経済面でリスクがあると指摘した。【11月22日 時事】
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一方のロシア・プーチン大統領は、圧力をかけているのはEUの方だと反論しています。
****EUがウクライナに圧力=ロシア大統領が反論****
ロシアのプーチン大統領は22日、ウクライナが欧州連合(EU)との署名延期を決めた「連合協定」に関して「(EUからウクライナへの)圧力と脅迫があった」と主張した。
隣国ウクライナのEU接近を嫌うロシアが署名を断念するよう圧力をかけたとされる中、EUを逆に批判した格好だ。【11月22日 時事】
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【長期的な経済効果よりも、ロシアがもたらす目先の利益を優先】
“(ウクライナ)ヤヌコビッチ政権は、EU市場が開かれることによる長期的な経済効果よりも、ロシアがもたらす目先の利益を優先した。”と見られるなかで、“親露派と親欧米派で国論が二分されるウクライナの行方はなお不透明”な情勢が続いています。
****ウクライナ、割れる国論 露圧力、EU統合見送り 「決定は戦術的なもの」****
ウクライナが欧州連合(EU)加盟の前段となる連合協定(AA)の締結を見合わせた問題で、同国のアザロフ首相は22日、「決定はもっぱら経済的理由による戦術的なものだ」と議会で説明した。
旧ソ連諸国の経済統合を目指すロシアの圧力で当面は「東」にかじを切るものの、長期的な欧州統合路線には含みを残した形だ。親露派と親欧米派で国論が二分されるウクライナの行方はなお不透明だ。
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ウクライナのヤヌコビッチ政権は、28〜29日に行われるEUと旧ソ連諸国の東方パートナーシップ首脳会合で、自由貿易協定(FTA)を柱とするAAの締結を目指していた。
政権による突然の決定について、EUのアシュトン外交安全保障上級代表は「EUだけでなくウクライナ国民にとっても失望だろう」との声明を発表。スウェーデンのビルト外相もツイッターで「明らかに粗暴な圧力の政治が働いている」とロシアを批判した。
プーチン露政権は、ベラルーシやカザフスタンとともに形成している「関税同盟」を拡大し、2015年をめどに経済共同体「ユーラシア連合」を発足させたい考えだ。歴史的、民族的に深い結びつきがある域内第2の大国、ウクライナが加わらねば構想は大きな打撃を受ける。
ロシアは、ウクライナが関税同盟に加われば、自国産天然ガスの供給価格を大幅に引き下げると提示。EUとAAを締結すればウクライナ産品に「保護措置」を取ると警告してきた。
ウクライナの離脱によって、近くEUとAAを締結する可能性があるのはグルジアとモルドバだけとなり、露政界からは安堵(あんど)の声が出ている。
ウクライナ経済は、今年1〜9月の国内総生産(GDP)が前年同期比で1・3%減となるなど低迷している上、同国の輸出は約4分の1がロシア向けだ。ヤヌコビッチ政権は、EU市場が開かれることによる長期的な経済効果よりも、ロシアがもたらす目先の利益を優先した。
ただ、ウクライナには、西部は親欧米派が優勢で、東部や南部にはロシアに共感する住民が多いという特色がある。親欧米派の野党は、政権がAA締結を見合わせたことを「大統領弾劾に値する背信行為だ」と激しく批判し、近日中に首都キエフで大規模な抗議デモを行いたい考えだ。
東部の工業地帯を支持基盤とするヤヌコビッチ政権も親欧米派を無視できず、無条件にロシアの勢力下に入る考えもない。
22日付の露有力経済紙、ベドモスチは「(ウクライナの決定は)プーチン氏の勝利だが、一時的なものだ。ウクライナは関税同盟に入らず、欧州統合路線を諦めることもないだろう」という識者の見解を伝えた。【11月23日 産経】
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【「オレンジ革命」以来の抗議デモ】
ウクライナの首都キエフでは24日、親欧米派による、2004年の「オレンジ革命」以来最大規模のデモが行われました。一部では、治安当局との衝突も起きています。
****ウクライナ:首都で政府抗議集会 EUとの連合協定中止で****
ウクライナの首都キエフで24日、欧州連合(EU)との関係を緊密化する「連合協定」の署名見送りを決めた政府に抗議する大規模集会が開かれた。参加者の一部は25日も抗議行動を続け、政府庁舎前で警官隊と衝突する騒ぎに発展した。
24日の集会は同国の欧州統合を目指す野党陣営が呼びかけたもので、約5万人が参加。これだけ多数が繰り出すのは2004年の民主化運動「オレンジ革命」以来という。
参加者はウクライナとEUの国旗を掲げ、「ウクライナは欧州だ」とアピール。野党指導者で服役中のティモシェンコ前首相の長女エフゲニヤさん(33)は、ロシアとの関係を重視するヤヌコビッチ大統領が連合協定に署名するまでデモを続けるよう呼びかけた。
野党内ではアザロフ首相率いる内閣の総辞職やヤヌコビッチ大統領の弾劾を求める声も出ている。
署名見送りについては、協定を働きかけてきたEU内で失望感が広がっているほか、ケリー米国務長官が12月上旬に予定していたキエフ訪問を取りやめるなど波紋を広げている。
ウクライナ政府の決定の背景にはロシアの圧力があったとされ、親欧米派のユーシェンコ前大統領は24日、「旧ソ連諸国の統合を進めるロシアはあらゆる手段を使ってウクライナを取り込もうとしている」と警戒感を示し、EUに支援継続を求めた。【11月25日 毎日】
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また、拘束中のティモシェンコ前首相は、「連合協定」締結を求める無期限のハンガーストライキを始めたと報じられています。
こうした緊迫した情勢の中で、旧ソ連諸国と欧州連合(EU)との関係強化を協議する「東方パートナーシップ首脳会合」が28日から始まり、ウクライナのヤヌコビッチ大統領も出席しています。
****東方パートナーシップ首脳会合開幕 締結見送りのウクライナ大統領も出席****
旧ソ連諸国と欧州連合(EU)との関係強化を協議する「東方パートナーシップ首脳会合」が28日、リトアニアの首都ビリニュスで開幕する。
初日の夕食会には、EU加盟の前段となる連合協定(AA)の締結作業を直前に凍結させたウクライナのヤヌコビッチ大統領も出席し、英独仏の首脳らと今後の交渉のあり方などについて話し合う。
ウクライナの凍結決定ついて、EU側は「ロシアの圧力があった」と指摘。対して、露側はウクライナの独自の選択にすぎないと反論し、EU側に批判を差し控えるよう要求している。
会合では、EU側がAA締結の条件としていたヤヌコビッチ大統領の政敵で服役中のティモシェンコ前首相の釈放をめぐる問題についても、協議されるとみられる。
ウクライナ国内では前首相の恩赦などを求める野党デモが続いており、警備が強化されている。
一方、欧州統合に向け国内調整を続けてきたグルジアとモルドバは今回の会合で、AAや自由貿易協定(FTA)などで仮調印する見込み。露紙独立新聞は28日、EUは、モルドバとビザ免除協定を結ぶ準備を進めていると報じた。【11月28日 産経】
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【モルドバでは親ロシア派の抗議デモ】
“グルジアとモルドバは今回の会合で、AAや自由貿易協定(FTA)などで仮調印する見込み”とありますが、モルドバでもロシアによるワイン輸入禁止などの圧力がかかるなかで、ロシア支持勢力による抗議行動が強まっています。
****欧州統合 揺れるモルドバ 締結準備を継続/親露派反対デモ****
リトアニアで28日に開幕する旧ソ連諸国と欧州連合(EU)の東方パートナーシップ首脳会合を前に、EU加盟の前段となる連合協定(AA)などの仮調印を目指すモルドバが揺れている。
ウクライナがAA締結作業を停止する中、モルドバは準備を継続。一方で親露派の共産党系は大規模な反対デモを起こしている。
2009年の議会選でモルドバ共産党を下野に追い込み連立内閣を組んだ欧州統合派の現政権は、今回の会合でAAと自由貿易協定に仮調印し、来年に本署名することを目指している。
締結は長くこの国を影響下に置いてきたロシア(旧ソ連)の地域圏から脱することを意味し、「歴史的大転換」(専門家)とされる。
モルドバからの報道によると、21日にウクライナがAA締結の作業を停止すると、モルドバのリャンカ首相は「隣国ウクライナの決定を尊重するが、われわれは欧州統合への選択をすでに決定している。方針に変わりはない」と強調した。
対するロシアは、モルドバの特産品であるワインを輸入禁止にするなど圧力をかけている。24日には首都キシニョフで数万人規模の協定締結反対デモが開催された。共産党党首のウォロニン元大統領は演説し、ロシアとの関税同盟を締結した方が、「より大きな成功が得られる」と訴えた。
一方、モルドバと統一国家の歴史があり、言語もほぼ同一の隣国ルーマニアはすでにEUに加盟。天然ガス供給計画を進めるなど、モルドバ現政権の欧州統合路線を支持してきた。
ルーマニアのバセスク大統領は「今回の首脳会合は(EU加盟への)チャンスにすぎない」と述べ、来年の本署名に向けてEUとロシアの駆け引きが激化し、モルドバが正念場を迎えるとの見方を示している。【11月28日 産経】
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ウクライナ、モルドバともに、長期的にはEUとの関係強化による市場拡大がメリットがありますが、ロシアに大きく依存する現在の経済状況にあっては、ロシアとの関係も重視せざるを得ない経済事情、更に、国内において親ロシア派と親欧米派が対立する政治事情から、悩ましい状況が続いています。