(【4月26日 HUFFPOST】エルサレムで25日、抗議に参加したパレスチナ人を拘束するイスラエル警察)
【風化する「パレスチナ国家」 選挙の争点にもならないパレスチナ問題】
新型コロナワクチン接種が世界最速ペースで進むイスラエルですが、国内政治的には汚職疑惑のあるネタニヤフ首相をめぐって、その支持勢力と反対勢力に割れています。
3月に総選挙が行われましたが、結果は双方ともに決定的なリードを得られず、再び両勢力が拮抗する不安定な政治状況が続きそうです。組閣できずにやり直し選挙の可能性も。
最近のイスラエル政治は、このような「選挙をするが分断・拮抗・膠着状況が変わらない、そしてまた選挙に」ということを何回も繰り返しています。
ワクチン接種が最速ペースで進んだ背景にも、汚職疑惑で窮地にあるネタニヤフ首相がワクチン普及への国民支持を突破口にしたいという政治的思惑もあってのことです。
****ネタニヤフ首相に組閣要請 イスラエル大統領****
イスラエルで3月に行われた国会(一院制、定数120)選挙の結果を受け、リブリン大統領は6日、ネタニヤフ首相に次期政権発足に向けた連立協議を要請した。期間は最長で6週間。
過半数(61議席)の議席確保して他党と連立政権を組めるかは疑問視され、やり直し選挙の可能性が取り沙汰されている。
イスラエルでは単独政党が過半数を制することはなく、大統領が選挙後、議席を獲得した各党と話し合い、連立政権が組める可能性が最も大きい政党の党首に協議を要請する仕組み。
リブリン氏との協議の結果、ネタニヤフ氏を支持したのは同氏が率いる右派政党リクードのほか、ユダヤ教の戒律を厳格に守る超正統派の宗教政党など52議席。
反ネタニヤフを掲げる中道政党、イェシュアティドのラピド元財務相への支持は45議席にとどまった。
右派の反ネタニヤフ勢力や、アラブ系政党は誰も支持しなかった。イスラエルの国会選は2年間で4回目。【4月6日 産経】
********************
外部の人間からすると、イスラエル政治からはパレスチナ問題がすぐに想起されるのですが、ネタニヤフ支持勢力と反ネタニヤフ勢力が激しく争う政治構図と、「パレスチナ国家」樹立が幻となりつつあるなかで、実際の選挙においてはもはやパレスチナ問題は争点にもならない状況のようです。
****イスラエル政治が大混乱...その陰で「争点ですらなくなった」パレスチナ問題****
<連立政権協議が難航して再選挙もささやかれる一方でパレスチナ問題は争点にさえならなくなった>
イスラエルでは2年間で4回目となる総選挙が3月23日に実施されたが、政治的な麻痺状態が解消されるのではないかという期待は裏切られた。(中略)
4月6日にルーベン・リブリン大統領はネタニヤフに組閣を指示したが、一方で、誰が首相候補でも組閣は成功しそうにない、とも語っている。
要するに、今回の選挙に勝者はいない。しかし、敗者が誰なのかは明らかだ。
「今回の選挙で、パレスチナ人はほとんど注目されなかった」と、人権団体ICAHD(パレスチナ人家屋の破壊に反対するイスラエル委員会)に協力している人類学者のジェフリー・カプランは言う。
パレスチナ人の権利や、ヨルダン川西岸地区の占領とガザ地区の封鎖について、「左派はもちろん、アラブ系の政党も選挙活動では取り上げなかった。占領とパレスチナ人と平和の問題全体が軽んじられている。パレスチナ人はイスラエル国内でも国際的にも、政治の地図から消された」。
西岸地区とガザ地区に暮らす約500万人のパレスチナ人はイスラエル国民ではないため、今回の選挙で投票権はなかった。
しかし、イスラエル国民の選択は、パレスチナ人社会に大きな影響を与える。彼らの生活は、イスラエルの国としての行動に多くの形で支配されるのだ。
「イスラエルの次期政権は史上最も右派的になるだろう」と、米ブルッキングス研究所のナタン・サックスは言う。今回の選挙の主な争点はイデオロギーではなく、ネタニヤフ政権の是非だった。その支持・不支持は分かれたが、右派に賛同する有権者の票が過半数を占めた。
さらに、極右の宗教的シオニスト党が6議席を獲得しており、リクード主導の連立政権に加わる可能性がある。同党のべツァレル・スモトリッチ党首は「誇り高きホモフォーブ(同性愛嫌悪者)」を自称。党員はカハネ主義のイデオロギーを継承している。
カハネ主義とは、ユダヤ人至上主義を公然と唱え、神政国家イスラエルの建設を掲げるものだ。メイル・カハネ師が創設した極右政党「カハ」はイスラエルで90年代に非合法化され、米国務省から国際テロ組織に認定されている。
「リクード党のさらに右に位置する政治勢力の台頭によって、パレスチナ人の生活と居住権がいっそう危険にさらされている」と、人権団体「アダラ正義プロジェクト」のサンドラ・タマリ事務局長は言う。「パレスチナ人は、イスラエルにおける過激な暴力の標的になり続けるだろう」
極右の宗教的シオニスト党に投票したのは、有権者の中でも少数派にすぎない。その多くは、いずれ西岸のユダヤ人入植地に住むだろう。
パレスチナ側は、今年に入り入植者による攻撃が増えていると主張しており、選挙結果を受け、入植者の過激な行動に拍車が掛かる恐れがある。
極右勢力の伸長は、対パレスチナ強硬派である議会多数派を相対的にソフトに見せる恐れもある。「極右は、パレスチナ自治区を全て編入して、イスラエルの主権を宣言したがっている」と、サックスは語る。
しかし「中道右派も、パレスチナに対するさらなる領土割譲や自治権拡大は認めたくない。タカ派に至っては、パレスチナ自治政府との一切の取引を嫌がっており、今やほとんどが2国家共存策に明確に反対している」という。
パレスチナの国家樹立に向けた動きは、ここ数年大きな逆風を受けてきた。2018年に当時のドナルド・トランプ米大統領が、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転したほか、これに抗議するパレスチナ人200人近くがイスラエル治安部隊の鎮圧で命を落とした。
2020年には、ネタニヤフ政権が西岸の一部併合について発言しだした。ただ、8月に一連の「アブラハム合意」の第1号となるアラブ首長国連邦(UAE)との国交正常化が実現すると、入植地併合の主張はトーンダウンした。イスラエルはその後、バーレーン、スーダン、モロッコとも国交を正常化している。
だが、アブラハム合意は、それまでのアラブ諸国のコンセンサス、すなわち「イスラエルがパレスチナ占領に終止符を打ち、パレスチナ国家樹立を認めない限り、国交正常化には応じない」という姿勢が揺らいでいることを露呈することになった。明らかな方向転換となったのだ。
アラブ勢の足並みの乱れは、今回のイスラエル総選挙でも垣間見られた。アラブリスト連合をはじめとするアラブ系政党は、イスラエルの市民権を持つアラブ系住民の教育や医療といった福祉増進と平等の実現を訴えていて、パレスチナ問題にはほとんど関心を示していない。
アラブリスト連合を率いるマンソール・アッバス自身は、2国家共存案の支持を表明してきたが、もはやパレスチナ国家樹立が非現実的な夢であることは、暗黙の了解となりつつある。「イスラエルのアラブ系住民は、基本的に2国家共存案を諦めている」とカプランは指摘する。
そんななか、イスラエルはヨルダン川西岸で分離壁建設を進めている。国際法では違法行為だが、アラブ諸国の足並みが乱れている今、諸外国もこの問題に首を突っ込むことに消極的になりつつある。
ネタニヤフは4月5日、自らの汚職疑惑裁判に出廷。リクードを最多議席に導いても、その政治的求心力は着々と低下していることを印象付けた。
結局のところ、今回の選挙はパレスチナ国家支持派と反対派の戦いでも、左派と右派の戦いでもなく、ネタニヤフ支持派と批判派の戦いだったのだ。その構図はしばらく変わりそうにない。【4月14日 Newsweek】
*******************
「パレスチナ国家樹立」「2国家共存」は、トランプ前政権のもとで風化が進みましたが、バイデン政権は軌道修正はしています。ただ、風化状況を変えられるかは・・・・どうでしょうか?バイデン大統領も、アメリカ大使館をテルアビブに戻すといったことはできないでしょう。
****米、パレスチナ支援再開 「2国家共存」推進へ前政権の路線転換****
バイデン米政権は7日、トランプ前政権が停止したパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を含め、計2億3500万ドル(約274億円)規模のパレスチナ支援を再開すると発表した。
ブリンケン国務長官は声明で「(パレスチナとイスラエルの)交渉を通じた2国家共存への前進を図るものだ」と述べ、露骨にイスラエル寄りの姿勢をみせたトランプ政権の路線からの転換を強調した。
またホワイトハウスによるとバイデン大統領は7日、ヨルダンのアブドラ国王と電話会談し、「イスラエルとパレスチナの紛争解決に向けた2国家共存案への支持」を改めて表明した。
国務省の声明によると、再開されるのはUNRWAへの拠出金1億5千万ドルのほか、ヨルダン川西岸とガザ地区の経済開発支援7500万ドルなど。
米国はもともと、パレスチナ難民の生活や教育の支援を担うUNRWAへの最大の資金拠出国だったが、トランプ政権が2018年に拠出を停止。また同政権は、国際法に違反するヨルダン川西岸のユダヤ人入植地をイスラエルが併合することを認めるなど、2国家共存案を実質的に骨抜きにする政策を進めていた。【4月8日 産経】
**********************
【争点にはならなくても、問題自体は未解決なまま】
イスラエル国内政治では争点にもならない「パレスチナ問題」ですが、争点にならないことと、問題がないことは別物です。
エルサレムでは、再びイスラエルの治安当局とパレスチナ人の衝突・対立が起きています。
****エルサレム、治安当局とパレスチナ人衝突 報復攻撃も****
ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地があるエルサレム旧市街付近で、イスラエルの治安当局とパレスチナ人の対立が続いている。緊張緩和を模索する動きも出ているが、パレスチナ側は反発を強めており、対立の激化も懸念されている。
緊張が高まっているのは、イスラム教のラマダン(断食月)が始まった今月中旬以降。エルサレム旧市街入り口の門近くに、イスラエルの治安当局がバリケードを設置してパレスチナ人の出入りを制限し、反発が出ていた。
さらに今月22日には、極右のユダヤ人グループらがエルサレム市内で「アラブ人に死を」と叫び、パレスチナ人排斥を訴えて行進した。
抗議に集まったパレスチナ人とイスラエルの治安当局が衝突。パレスチナ側によると、100人以上がけがをし、50人以上が拘束された。
AFP通信によると、対立の激化を受けてイスラエル当局は25日夜、旧市街近くのバリケードを撤去した。事態を沈静化させるためとみられる。
ただ、イスラエルへの反発はエルサレム以外にも広がっている。パレスチナ自治区ガザ地区でもイスラエルに対する抗議活動があった。
24日未明には、ガザ地区からイスラエルに向けてロケット弾が36発発射された。イスラエル軍も報復措置としてガザ地区を攻撃した。これまでけが人は確認されていない。【4月26日 朝日】
*******************
上記の“エルサレム旧市街入り口の門近くに、イスラエルの治安当局がバリケードを設置してパレスチナ人の出入りを制限”ということを受けて、下記のような「報復合戦」の様相を呈していたようです。
****************
パレスチナ人は強く反発し、その後すぐに、路面電車内でパレスチナ人の少年が超正統派ユダヤ教徒の若者の顔を平手打ちする動画がティックトックに投稿され、拡散された。
それ以降も、パレスチナ人がユダヤ人にコーヒーをかけたり、逆にユダヤ人がパレスチナ人を暴行したりする動画などが次々と投稿され、双方の怒りをあおった。ユダヤ人の極右グループはこれらの動画に反発したとみられている。【4月24日 毎日】
**********************
ますます強まるイスラエル支配の閉塞感も背景にあるようです。
**********************
対立がエスカレートする他の要因も挙げられている。5月下旬にパレスチナ自治政府の評議会選が15年ぶりに実施される予定だが、イスラエルが占領している東エルサレムでは、イスラエル政府がパレスチナ人の投票を認めないとの観測が流れていることだ。
パレスチナ側では長年蓄積している「占領者」への不満が、ここに来て若者を中心に噴出している。【同上】
*********************
部外者にとっては“相変わらずの”といったところですが、当事者にとっては出口が見えないなかでの、やりきれない抵抗でもあります。
人権団体からは「アパルトヘイト(人種隔離)」政策との批判もありますが、イスラエル政府は「馬鹿げたうそだ」と反発しています。
****人権団体、イスラエルによる「アパルトヘイト」を非難*****
エルサレム(CNN) 国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は27日、イスラエル政府によるパレスチナ人への「アパルトヘイト(人種隔離)」政策と迫害を非難する報告書を発表した。
HRWは213ページに及ぶ報告書で、アパルトヘイトという言葉はイスラエルの対パレスチナ政策をめぐり、比ゆ的な表現や警告として広く使われてきたと指摘。
そのうえで、イスラエル政府がユダヤ人によるパレスチナ人支配を維持する意図を示し、パレスチナ人を組織的に抑圧し、非人道的に扱っていることは、実際に人道犯罪としてのアパルトヘイトに相当すると結論付けた。
一方イスラエル外務省は、この報告書を「架空」の話と呼び、HRWの主張はばかげたうそだと述べて強く反発。報告書はHRWが長年掲げてきた反イスラエル運動の一環で、事実無根だとする声明を出した。
今年1月にはイスラエルの人権団体「ベツェレム」も、同国を「アパルトヘイト」国家と批判していた。
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)では数週間前に、イスラエルの入植活動などを戦争犯罪として捜査できるとの判断が下されている。【4月27日 CNN】
*********************