(【2月17日 共同】最大都市ヤンゴン中心部の幹線道路では数千人が交差点を占拠 画像中央奥に見える仏塔はスーレーパゴダ)
【国軍は選挙を行うとは言っているものの、与党NLDを無力化した後か】
ミャンマーでの軍部クーデターによって拘束され自宅軟禁状態にあると思われるスー・チー氏は、当初拘留期限が今月15日とされていましたが、その後17日に延長、更に別件でも訴追と、解放される目途はたっていません。
国軍は、スー・チー氏個人だけでなく、スー・チー氏が率いる与党・国民民主連盟(NLD)への弾圧を強めています。
****スー・チー氏、別容疑でも訴追=NLDへの弾圧強まる―ミャンマー****
ミャンマーで国軍によるクーデターの発生後、訴追されたアウン・サン・スー・チー氏の弁護士は16日、スー・チー氏が別の容疑でも訴追されたことを明らかにした。
国軍はスー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の関係先の捜索や関係者の拘束を続けており、実施を約束している総選挙の前にNLDへの弾圧を強め、弱体化する狙いがあるとみられる。
スー・チー氏は無線機を違法に輸入して使用したとして輸出入法違反で訴追され、拘束されている。弁護士によると、これとは別に災害管理法違反でも訴追されたことが判明した。
NLD政権で大統領を務めたウィン・ミン氏も、選挙運動に参加して新型コロナウイルス対策の規定に抵触した疑いがあるとして、災害管理法違反で訴追されている。
国軍報道官は16日、クーデター後初めて記者会見し、国軍による実権掌握はNLDが国軍系政党に圧勝した昨年11月の総選挙で不正があったためで、憲法にのっとっていると正当性を主張。
「再選挙後に勝利した政党に権限を引き渡す」と強調した。自宅軟禁下に置かれているスー・チー氏とウィン・ミン氏については、健康状態は「良好だ」と語った。【2月16日 時事】
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国軍は、クーデターではない、将来選挙を実施して勝利した政党に権限を移譲するとは言っていますが・・・
仮に(いつになるかはわかりませんが)選挙を普通に行えば、再びスー・チー氏のNLDが前回以上に圧勝するのは間違いないので、NLDを選挙から締め出す何らかの処置(例えば、解党命令など)を行ったうえでの形だけの選挙実施でしょう。
【市民によるあの手この手の抗議行動 弾圧を強める国軍】
こうした国軍のクーデターに対し、市民の抗議活動が連日続いています。
****ミャンマー、12日連続抗議デモ****
ミャンマーでクーデターを起こした国軍への大規模な抗議デモが17日も各地で続き、デモは12日目に突入した。
参加者は過去最大規模となり、一部地元メディアは全土で数百万人に上ったと報じた。
クーデター後に訴追されたアウン・サン・スー・チー氏の裁判が16日に開始されたほか、別件でも訴追されたこともあり市民の反発はさらに強まっている。
最大都市ヤンゴンでは午前中から10万人以上がデモに加わった。中心部の幹線道路では数千人が交差点を占拠。地元の歌手が、ステージから「軍政は受け入れられない」と鼓舞すると、大きな歓声と拍手が巻き起こった。【2月17日 共同】
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大規模抗議デモだけでなく、著名人の抗議の呼びかけ、僧侶のデモ、一部警官のデモ参加、車を故障とみせかけて車上に止めて軍の活動を妨害、タクシーのノロノロ運転、鉄道職員の運行妨害、医療従事者や公務員など幅広い職種の業務ボイコット等々、あの手この手で軍への抗議が示されています。
一方で、軍の方も、インターネットを遮断し、指導的立場の著名人の拘束や不服従運動公務員の逮捕など、抗議行動への締め付けを強めており、“最大都市ヤンゴンのデモでは、一時、参加した市民と治安部隊がにらみ合う場面もあり、緊張が続いている。”【2月18日 FNNプライムオンライン】とも。
****「ミャンマーの正義のため」軍事政権サイトにサイバー攻撃 公務員の逮捕相次ぐ****
クーデターでミャンマーの実権を掌握した軍事政権のウェブサイトが18日、サイバー攻撃を受けた。
当局が全国的な抗議デモを妨害しようと4夜連続でインターネット接続を遮断し、国軍部隊を各地に展開する中、クーデターに抗議するハッカーらがサイバー空間を舞台にした闘いを挑んでいる。
「ミャンマー・ハッカーズ」を名乗るグループは、国軍のプロパガンダ(政治宣伝)用サイトや、中央銀行、ミャンマー国営放送、港湾局、食品医薬品局などのウェブサイトを攻撃した。
「われわれはミャンマーの正義のために闘っている」とフェイスブック上で主張し、サイバー攻撃は「政府系ウェブサイトの前での大規模デモ」だとうたっている。
サイバーセキュリティーに詳しい豪ロイヤルメルボルン工科大学のマット・ウォーレン氏は、「(サイバー攻撃の)影響は限定的かもしれないが、目的は人々の関心を高めることだ」と述べた。
一方、世界のネット接続状況を監視する英団体ネットブロックスによると、ミャンマー国内のインターネットは18日午前1時(日本時間同3時半)から4夜連続で8時間にわたって遮断され、アクセスは通常の21%まで減少した。
■車の故障装い治安部隊を妨害、公務員の逮捕相次ぐ
ミャンマーでは、アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる文民政権に対する国軍のクーデターに抗議するデモが全国各地で続いている。
最大都市ヤンゴンでは18日も、前日に引き続き、故障したと見せ掛けてボンネットを開けた状態の車両で道路を封鎖し、治安部隊の通行を妨げるデモが各所で展開された。
複数の情報筋によれば、国内第2の都市マンダレーでは17日夜〜18日未明、線路を封鎖していたデモ隊に治安部隊が発砲し、1人が負傷した。使用されたのが実弾かゴム弾かは不明という。
人権監視団体「ビルマ政治囚支援協会」は、市民的不服従運動に参加していた国鉄の運転士4人が拘束され、銃を突き付けられて北部ミッチーナまで列車を移動させられたとしている。
また、外務省当局者によると、同省職員11人が18日未明、市民的不服従運動に参加したとの理由で逮捕された。AFPの取材に匿名で応じた警察官は、この4日間に逮捕された公務員は少なくとも50人に上ると語った。
MRTVは、不服従運動を呼び掛けた複数の著名な俳優、映画監督、歌手が指名手配されたと伝えている。 【2月18日 AFP】
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【蘇る1988年の「虐殺」の記憶】
1988年の民主化運動の元学生リーダー、ミン・コー・ナイン氏も指名手配されているようです。
上記のように市民の抗議行動は続いていますが、軍事政権時代のミャンマー(ビルマ)では軍が抗議する市民を数千人規模で大量虐殺した痛ましい「歴史」があり、その責任は未だ問われていません。
****ビルマ:1988年の虐殺の真相と責任 明らかに****
弾圧から25年 いまだ不十分な責任追及と法の支配
(中略)1988年の抗議運動と弾圧は、ビルマにとって分岐点となった。1988年3月から9月まで、ビルマ全土で大規模な民主化デモが起き、陸軍や治安部隊の弾圧で数千人が死亡した。(中略)
1988年8月8日に、多数の学生や仏教僧、公務員、一般市民が参加した全国的なストライキが、ビルマ全土での同時デモにつながった。人々は民主主義への移行と、軍政支配の終結を求めていた。
抗議の規模に驚いた政府は、軍隊にデモ隊を物理的に弾圧するよう命じた。兵士は非暴力のデモ隊に発砲し、数百人の死傷者を出した。多数が逃げ惑うなかで、一部は火炎瓶、剣、毒矢、尖らせた自転車のスポークで反撃し、警官と当局者にも死者が出た。
8月10日、国軍部隊は、ラングーン(ヤンゴン)総合病院で、負傷した民間人の治療にあたる医者と看護婦に故意に発砲、殺害した。
8月12日、長年にわたり独裁体制を敷いたネウィン氏の辞職を受けて、大統領となったセインルイン氏は、就任から17日で辞職した。大半の部隊が街頭から撤収し、文民であるマウンマウン博士を大統領とする暫定政権が、8月19日に発足した。
8月26日、ラングーンのランドマークであるシュエダゴン・パゴダで、約100万人が抗議行動に集まった。1991年にノーベル平和賞を獲得することになる民主化指導者アウンサンスーチー氏も演説を行って軍事政権に反対し、権威主義体制の終結を訴えた。
8月から9月にかけて、抗議行動は連日続き、参加者は仏教僧や学生、コミュニティ・リーダーと共に、地域行政委員会を組織した。
9月18日に国軍はクーデターを行い、ソウマウン将軍を議長に、国家法秩序回復評議会(SLORC)が創設された。9月18日と19日、兵士は街頭に再登場し、非暴力のデモ隊に実弾射撃を行って、数千人を殺害した。このほか数千人の活動家が逮捕され、数千人が近隣諸国に逃れた。
運動の先頭に立った学生指導者などの活動家は、長期にわたり投獄され、刑務所では拷問などの人権侵害を受けた。政府職員で、弾圧時の人権侵害で責任を問われた者は一人もいない。(後略)【2013年8月6日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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こうした虐殺の「傷」が未だ癒えないなかでの今回のクーデターですので、市民らの反発も強い訳ですが、上記の虐殺の歴史が示すような「体質」を持つ軍が再び同様の惨劇を起こさないか・・・強く懸念されます。
欧米において国軍によるイスラム系少数民族ロヒンギャへのジェノサイド批判があるのも、国軍のこうした市民に銃を向けることをためらわない「体質」があってのことです。
【米バイデン政権は制裁措置】
政権発足直後で、その姿勢が試される形になっているアメリカ・バイデン大統領は、国軍幹部らに制裁を科す大統領令に署名して国軍批判を強めています。
****クーデター批判、ミャンマー制裁=軍幹部ら対象、同盟国と連携へ―バイデン米大統領****
バイデン米大統領は10日、ホワイトハウスで演説し、ミャンマーで起きたクーデターを批判し、指揮した国軍幹部らに制裁を科す大統領令に署名したと発表した。国軍幹部に対して、ミャンマー政府の在米資産10億ドル(約1040億円)へのアクセスを禁止することも明らかにした。
具体的な制裁対象者については週内に発表する予定。国軍幹部のほか、幹部の関連事業や近親者たちも対象になる。対ミャンマー輸出規制も強化する。
バイデン氏は、国軍に対して、アウン・サン・スー・チー氏らの即時解放や、権力の放棄を改めて要求。クーデターに対する抗議デモへの暴力行使は「容認できない」と強調した。
また、日本などを念頭にインド太平洋地域をはじめ世界の同盟国やパートナー国と緊密に連絡を取り合い、国際的な対応を調整していると指摘。国軍への対抗措置で同盟国と共同歩調を取りたい考えを示した。【2月11日 時事】
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【中国はどこまで国軍を支えるのか?】
制裁だけでは、国軍の中国接近を加速させるだけなので、日本が橋渡し的な役割を演じて・・・といった類の指摘も多々ありますが、決定的に影響力を持つのは欧米でも、日本でもなく、中国の対応でしょう。
今回クーデターについて、中国が事前に聞かされ黙認した云々の指摘もありますが、当然ながら中国は否定しています。
****3週間前に軍司令官と会談…ミャンマー政変で囁かれる「中国黒幕説」****
(中略)国内外から「民主主義の否定だ」と非難を浴びる一方で、世界のメディアや識者の間で「中国黒幕説」が流れた。疑念を生んだ理由は、1月11、12日に中国の王毅外相がミャンマーを訪問していたからだ。王氏は政変の主役、フライン氏と会談し、ミャンマーを「兄弟」と持ち上げたとされる。
この訪問で両国は「中緬経済回廊構想の加速」に同意、中央部のマンダレーから西部のチャウピュー間の鉄道建設に向けた共同研究に着手することになった。チャウピューはベンガル湾に面した港湾で、ここから中国への原油パイプラインが敷設されている。次のステップとして鉄道で中国へのアクセスの良いマンダレーと結ぼうとし、最終的に中国・昆明へ延びる予定だ。
中国にどんなメリットがあるのか
昨年には習近平国家主席が中緬国交70周年を記念し19年ぶりに中国指導者として訪問し、ミャンマー重視は強まっていた。
ただ、スーチー政権は日本や欧米ともバランスを取りたい姿勢で、構想の進捗の遅さに中国は不満を持っていたとされる。
中国外交部のクーデターへの声明も微温的で、国連安保理での非難声明にも消極的だと伝えられたことも黒幕説をさらに勢いづけた。
中国が背後で国軍を操ったということはないだろうが、軍政の復活で各国が制裁を発動しミャンマー離れが進めば、奇貨とみて中国がさらなる浸透に乗り出す可能性は高い。
インド洋に面し、インドやタイ、中国と国境を接する「アジアのクロスロード」に位置するミャンマーに深く食い込めれば、エネルギー供給ルートの脆弱性をカバーでき、「一帯一路」の重要成果にもなる。そして「自由で開かれたインド太平洋」構想などによる日米豪印の対中包囲網に大きな穴があく。中国にとってはまさに一石三鳥となる。(後略)【2月18日 文春オンライン】
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ミャンマー国内では、国軍を支援するとされる中国への反発も広がっています。
****ミャンマー、反中デモ拡大 「国軍支援やめろ」****
国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーで、中国に反発する抗議デモが相次いでいる。中国が「国軍を支援している」と主張するもので、最大都市ヤンゴンの中国大使館前には連日数百人が集結している。中国がクーデターへの積極的な批判を避けていることもあり、反中感情の高まりが続く可能性がある。
「クーデターを支える中国は受け入れられない」。中国大使館前で16日のデモに参加した女性(30)は、産経新聞通信員の取材に憤りの声を上げた。参加者は若者が中心で、大使館の防犯カメラの前に立ち、建物内に向けて抗議文を読み上げる様子も見られた。
国内では中国製品ボイコットの動きもあり、デモ隊は中国とミャンマーを結ぶ天然ガスパイプラインで働く地元職員に職務を放棄することも求めている。中国が1日のクーデター後、「インターネット検閲システムを国軍に提供するため、技術者を派遣した」という噂が広まるなど、中国への反発は根深い。
中国は1988年の民主化運動弾圧で国際的に孤立したミャンマー軍事政権に経済援助を続けた。ミャンマーの天然資源は魅力的で、インド洋へのアクセスを可能にする地政学的なメリットも大きかったためだ。「国軍を支えた存在」というイメージが強く残っていた上、中国がクーデターを「内政問題」として国軍批判を避けていることが怒りに火をつけた。(後略)【2月17日 産経】
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こうした事態に、中国からも一定に「火消」発言も。
****ミャンマーのクーデター「決して中国が望むものではない」、現地大使****
ミャンマーで起きた軍事クーデターとそれに続く混乱について、現地の中国大使が16日、「決して中国が望むものではない」と述べ、中国が関与したとするソーシャルメディア上のうわさを一蹴した。
(中略)中国の陳海駐ミャンマー大使は大使館の公式サイトに公開された談話の中で、「わが国は以前から選挙をめぐるミャンマーの内紛には気付いていたが、政変については事前に知らされていなかった」と述べた。
中国やロシアのようなミャンマー国軍の昔からの同盟国はこれまで、クーデターに対する国際的な反発に「内政干渉」だと反論していた。中国国営メディアは今回のクーデターとミャンマーの事実上の指導者であるアウン・サン・スー・チー氏の拘束についても「大規模な内閣改造」と表現し、クーデターというレッテルを貼らないよう婉曲表現を用いていた。
だが今回、陳氏は「ミャンマー現在起きている展開は、決して中国が望むものではない 」と述べた。さらに中国は、ミャンマーの全当事者が政治的・社会的安定を維持しながら、相違点について対処することを望んでいると付け加えた。(中略)
ソーシャルメディア上でうわさされているクーデターへの中国の関与について、陳氏は「ナンセンスでばかげている」と一蹴した。うわさの中には、ミャンマーの市街に中国兵が現れた、ミャンマーのファイアウォール構築を中国が支援しているといったものがある。 【2月17日 AFP】
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「中国黒幕説」云々は別にしても、今後国軍がより強硬な市民弾圧に出た場合、中国が国際批判の集まる国軍をどこまで支えるのかが、その後の推移を決定づけます。
中国にとって、ミャンマーの持つ地政学的メリットは大きいですが、国内外からの批判を浴びる国軍と連携する形で何らかの権益を獲得したとしても、軍政が永続する訳でもなく、長期的には中国にとっての大きな損失、信頼の失墜につながると思うのですが・・・・習近平主席がどのように考えるのか・・・