(【11月19日 朝日】)
【「不正選挙」主張で深まる国民の分断・憎悪】
トランプ大統領が選挙結果を認めようとしないのは相変わらずです。
いささか駄々をこねる子供のような感も。
****オバマ氏「自分の子なら叱る」 敗北の受け入れ、与党に説得促す****
「自分の子が同じことをしたら叱りつけるはずだ」―。オバマ前米大統領は15日放映のCBSテレビのインタビューで、大統領選で負けを認めないトランプ大統領を、競争に負けたのに証拠もなく相手がずるをしたと非難する子どもに例え、与党共和党に敗北受け入れへ説得するよう“決起”を促した。
オバマ氏はトランプ氏の性格について「負けるのが嫌いで、負けたと絶対に認めない」と分析した。その上で共和党議員の多くが事態を黙認し、トランプ氏の機嫌取りに終始していると批判。
「次期バイデン政権だけでなく、民主主義全般の正当性も損ねようとしている。危険だ」と述べた。【11月16日 共同】
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“ウィスコンシン州で一部再集計へ、費用300万ドル…結果が覆る可能性は低い”【11月19日 読売】と、トランプ陣営がすでに再集計費用約3億1000万円を支払ったとのこと。
ここで「不正」の根拠を見つけて、大統領選挙全体の「不正」へ全面展開する狙いでしょう。
“トランプ氏、「大量の選挙不正」否定のサイバーセキュリティー長官を解任”【11月18日 AFP】と、政権内部の締め付けにもなりふり構わぬ姿勢です。
トランプ大統領が敗北を認めない限り、支持者の間の分断も和らぎそうにありません。
****共和派の半数、バイデン氏が不正選挙で「勝利盗んだ」と認識=調査****
ロイター/イプソスの世論調査によると、米大統領選で共和党支持者の半数が、民主党のバイデン候補は不正選挙で「勝利を盗んだ」と認識しており、現職のトランプ大統領が正当な勝利者と考えていることが分かった。
調査は今月13─17日に実施。バイデン氏は大統領選で勝利を確実にしているが、トランプ氏は敗北を認めておらず、選挙で不正が行われたと一貫して主張している。
大統領選で誰が勝利したと思うかとの質問には、73%がバイデン氏と回答。トランプ氏と答えた向きは5%にとどまった。一方、正当な勝利者はどちらかとの問いには、共和党支持者の52%がトランプ氏と答えた。バイデン氏は29%だった。
トランプ氏が正当な勝利者と考える理由について、共和党支持者の68%は選挙が不正に操作されたためと認識。こうした考えを持つ民主党支持者は16%、独立派は30%強だった。
トランプ陣営は、選挙で有権者のなりすましや投票監視員に対する妨害、ドミニオン集計システムを利用した票の入れ替えなどの不正が横行したと主張している。
今回の選挙は合法かつ正確だったと思うかとの質問には、55%が「そう思う」と回答。前回2016年時点では62%だった。また、選挙は「不正に操作され違法」と考える向きは28%で、前回から12%ポイント上昇した。【11月19日 ロイター】
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分断の結果は「憎悪」 トランプ政治の最大の害悪のひとつでしょう。
****米国内のヘイトクライム、過去11年で最多 FBI報告****
米連邦捜査局(FBI)は16日、2019年の米国内のヘイトクライム(憎悪犯罪)が7314件に上ったとする報告書を発表した。18年より194件増え、09年以降では最も多かった。殺人事件は51件で、統計を取り始めた1991年以来、最多となった。
FBIはヘイトクライムを「人種・民族、宗教、性的指向、性自認などに基づく偏見に動機づけられた犯罪」と定義。動機別では、人種・民族=57・6%▽宗教=20・1%▽性的指向=16・7%▽性自認=2・7%――となり、人種差別が根強く残る米国の現状が明らかになった。
中でもマイノリティーが被害にあうケースが多く、人種・民族を理由にしたヘイトクライムの被害者のうち、黒人=48・5%▽ヒスパニック系=14・1%▽アジア系=4・4%だった。【11月17日 朝日】
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【アメリカ大統領選挙の「制度疲労」】
今回の混乱はトランプ大統領の「個性」によって際立ったものにもなっていますが、アメリカ大統領選挙の混乱は今に始まった話でもなく、世界でもいち早く民主主義を実現した選挙でもあるアメリカ大統領選挙が「制度疲労」を起こしているところに問題の根幹があるように思われます。
幌馬車で各州から選挙人がワシントンに集まるような時代と現代では、やはり差があるでしょう。
とりわけ、いつも問題になるのは州ごとの選挙人獲得競争と、国全体の投票総数の結果の乖離をどう考えるかという問題。
日本的な常識からすると、州ごとに選挙制度が異なるというのも、なかなか受け入れがたいところ。
もちろん、州の独自性は合衆国の成り立ちに起因する「アメリカの核心」でもあるのでしょうが、いつまでもそれでいいのか?という疑問も。
****「選挙人」実質廃止の動き=得票総数で勝敗を―15州と首都が協定加入・米大統領選****
米国で大統領選の勝者を州単位の選挙人獲得数でなく、全国の得票総数で決めようという動きが広がっている。これまでに全米50州のうち15州と首都ワシントンが賛同。
トランプ大統領も2016年の大統領選で、全国得票で対立候補のクリントン元国務長官を下回りながら、選挙人獲得数で勝って当選を決めており、制度変更が実現すれば、大統領選の様相が一変することになる。
西部コロラド州で大統領選と同じ今月3日に行われた住民投票で、同州の「全国一般投票州際協定」加入が正式に決まった。加入に関する州法は昨年成立していたが、多数の反対署名が寄せられたことから、改めて住民投票を実施。52%が加入に賛成票を投じた。
協定に加わった州では大統領選で、州内の集計結果にかかわらず、全米の得票総数トップの候補がその州に割り当てられた選挙人を獲得する。ただし、発効するのは加盟州の選挙人の合計が、選挙人(538人)の過半数に当たる270人に達してからだ。
協定の推進団体によると、ニューヨーク、カリフォルニア、イリノイなど大規模州も既に加入しており、コロラドを含めると、加入州の選挙人の合計は196人。加入州がさらに増えて発効すれば、全米の得票でトップの候補が自動的に選挙人の過半数を得ることになり、選挙人制度は実質的な意味を失う。
ただ、共和党には慎重な声が強く、協定発効への道筋が見えているわけではない。NBCニュースによれば、反対派は選挙人制度が実質的に廃止されれば「候補者は(有権者の多い)都市部での運動に集中し、小規模州の声を届けられなくなる」と主張。都市部に強い民主党が結果的に有利になると懸念する。
実際、今回の選挙戦でもトランプ氏とバイデン前副大統領は、支持が伯仲する「スイング・ステート(揺れる州)」での運動に重点を置いた。それでも推進団体幹部は「(制度を支援するのは)米国内の他の選挙と同様、最多の票を得た候補が勝つべきだという単純な理由からだ」と述べ、党派的な動きをけん制する。
今回の大統領選では、勝利を確実にしたバイデン氏が史上最多となる約7900万票を獲得。得票率でトランプ氏に約3.6ポイントの差をつけた。【11月15日 時事】
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全体の得票数にかかわらず、小さな「スイング・ステート(揺れる州)」の動向で勝敗が決まるという現状は、「なんだかな・・・」という感じがしますが、「銃規制」も一向に進まないようなアメリカで、民主・共和で利害が対立する上記「全国一般投票州際協定」の動きは、「話としては面白いけど、実現には・・・」というレベルの話なんでしょう。
【政権移行停滞で安全保障にも支障】
でもって、話を今回の選挙に戻すと、トランプ大統領が敗北を認めないことで、様々な問題が生じています。
****トランプ氏の“政権移行妨害”が生んだ深刻な事態 「安全保障を犠牲にしてまで抗戦か」との報道も****
(中略)
■政権移行を阻む措置
トランプ氏は、公の場に出ることもなく、存在感を消しているかに見えるが、実は、バイデン新政権への移行を困難にする措置を着々と行っている。
オバマ前大統領が2016年、投開票日の2日後にトランプ氏をホワイトハウスに招待したのとは、大きく異なり、バイデン氏は当確から5日経ってもホワイトハウス入りしていない。
政権移行の妨害は、深刻だ。
第1に、国防総省(ペンタゴン)では、反トランプ派の幹部がわずか2日間で4人解任されるか、辞任した。その中には、トランプ氏にツイッターで解任されたトップのマーク・エスパー国防長官が含まれる。
同長官は今夏、黒人のジョージ・フロイド氏が白人警官に殺害された事件をきっかけに起きた「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命は大切だ)」デモに対し、トランプ氏が連邦軍を送ろうとしたが、記者会見を開いて公式に派兵を否定した。「危険なレベルに達していない」というのが理由だが、民間人の非武装デモに、武装した兵士が配備されるというのは異常事態だ。
エスパー長官に続き、高官のジェームズ・アンダーソン国防副次官(政策担当)が自ら辞任。つまり、国家安全保障という最優先事項について、新政権移行の際に行われる「引き継ぎ」をする幹部4人が、空席という事態だ。米誌ニューズウィークは「安全保障を犠牲にしても、トランプはバイデンの政権移行に徹底抗戦する構えか」と書いた。
第2に、選挙をめぐる開票作業や訴訟がいまだに続いており、逆転を期待するトランプ派市民を活気づかせていることも事実だ。(後略)【AERA 2020年11月23日号より抜粋】
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こうした政権移行が停滞し、安全保障に空白を生じかねない事態には共和党サイドからも懸念が。
****トランプ氏法廷闘争、共和党は様子見も 移行停滞には懸念****
(中略)共和党議員らがトランプ氏に配慮するのは、同氏が選挙に敗れたとはいえ現職大統領としては最多となる7200万票を獲得し、今後も共和党内で強い影響力を維持していくことが確実とみられているためだ。
また、大統領選と同時に行われた上院選では、これまでに共和党が50議席、民主党が48議席を獲得した。来年1月に行われる南部ジョージア州の2議席をめぐる決選投票で、どちらの党が上院多数派を確保するかが決まる。
共和党としては現段階で、トランプ氏に敵対することはトランプ支持者の反発を招き、ジョージア州での議席確保に向けた選挙戦略の上でも好ましくないと判断しているとされる。
共和党議員らは一方で、トランプ氏が具体的な根拠を示さずに「不正があった」と主張し、訴訟攻勢で政権移行プロセスに支障を与えている現状を有権者がどう受け止めているかも慎重に見極めている。
大統領選での勝利が確実となった次期大統領は通常、米国を取り巻く安全保障情勢を正確に把握するため、国家情報長官から大統領に毎日提供される最高度の機密報告「大統領日報」(PDB)を就任前から受けることができる。
しかし、トランプ氏は敗北を認めていないことから政権移行手続きを拒否。国家情報長官室も、政権移行作業を統括する一般調達局(GSA)がバイデン氏を勝者に認定していないことを理由にPDBの閲覧を認めない立場だ。
共和党議員のグラム、コーニン、ランクフォード各上院議員らは、訴訟が続いている間も、安全保障上の観点からPDB報告を受ける権限を受けられるべきだと主張している。
共和党の息子ブッシュ大統領の選挙参謀を務めた政治評論家のカール・ローブ氏は米紙ウォールストリート・ジャーナル(12日付)への寄稿で「再集計で選挙結果が覆ることはない」と指摘し、トランプ氏に「訴訟が終結したら、平和的な政権移行を主導して怨念を捨て、国の統合に力を貸すべきだ」と訴えた。【11月13日 産経】
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【相次ぐ「駆け込み外交」 共和党内からも懸念が】
当のトランプ大統領は「駆け込み外交」とも評される安全保障分野での重要決定を続々と行っています。
*****「駆け込み外交」トランプ氏展開 アフガン駐留米軍削減・対中強硬策も*****
大統領選に敗れたトランプ米大統領が、任期切れを前に「駆け込み外交」を展開し始めた。
国防総省は17日、アフガニスタンとイラクの駐留米軍を削減すると発表。ポンペオ国務長官がイスラエルの占領地ゴラン高原などを初訪問する予定もある。政権のレガシー(後世に残る功績)作りを狙ったものとみられるが、拙速な動きが混乱を広げ、バイデン次期政権の外交に影響を与える恐れもある。
ミラー米国防長官代行は17日、アフガニスタンの駐留米軍を約4500人から2500人に削減すると表明。イラク駐留米軍も約3千人から2500人に減らす。期限はトランプ氏の任期が切れる来年1月20日直前の同月15日とした。
米国はアフガニスタンの反政府勢力タリバーンとの合意に基づき、駐留米軍を段階的に撤退させてきたが、和平の道筋は見えていない。トランプ氏は「終わりなき戦争を終わらせる」との公約を掲げるが、強行すれば「テロの温床」に逆戻りしかねず、エスパー前国防長官や軍高官らは撤収に懸念を示していた。
上院共和党トップのマコネル院内総務は17日、「今後数カ月、国防や外交政策で極めて重大な変更をしないことが重要」と記者団に語った。アフガニスタンに部隊が駐留する北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長も「性急で、バラバラな形での撤収の代償はとても大きいかもしれない」と述べた。
一方、米ニュースサイトのアクシオスによると、ポンペオ米国務長官は18日からのイスラエル訪問中に、イスラエルの占領地であるヨルダン川西岸のユダヤ人入植地とゴラン高原を訪れる予定だ。ともに現職の国務長官として初めてで、トランプ政権が鮮明にした親イスラエルの姿勢をアピールする狙いとみられる。ただ、パレスチナの猛反発は必至だ。
また、ニューヨーク・タイムズは16日、トランプ氏が12日にホワイトハウスで政権幹部に対し、イランの核施設を数週間以内に攻撃するための選択肢があるかを尋ねたと報じた。ペンス副大統領らが、大規模な紛争に発展しかねないと説得して止めたが、トランプ氏はイラクの親イラン勢力などへの攻撃を検討している可能性があるという。
トランプ政権は選挙後、対中国でも強硬策を次々と打ち出している。ポンペオ氏は12日に出演したラジオ番組で「台湾は中国の一部ではない」と発言し、中国政府は強く反発した。トランプ氏は同日、米側が中国軍の影響下にあるとみる30超の中国企業に対し、米国人が株式や投資信託などの購入を通じて投資するのを禁じる大統領令に署名。米メディアは、さらに複数の対中強硬措置を計画していると報じている。【11月19日 朝日】
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現地情勢に大きな影響を及ぼすアフガニスタン・イラクからの撤退は、ある程度織り込み済みではありますが、「イランの核施設を数週間以内に攻撃するための選択肢」となると、この期に及んで世界情勢をひっくり返すのは勘弁して欲しい・・・という感が。
トランプ大統領からすれば、イランの核開発阻止という公約実現なのでしょうが・・・(公約を駆け込み的に実現しようというのは、次回立候補に向けた布石でしょうか。やる気満々のようです。)
****トランプ氏、敗北認めず安保分野で続々と重要決定****
米上院の超党派議員は18日、トランプ政権が10日に承認したアラブ首長国連邦(UAE)への最新鋭ステルス戦闘機F35などの武器売却を承認しないとする決議案を提出すると発表した。
トランプ大統領は11月3日の大統領選で敗北が確実となって以降、エスパー国防長官の解任、アフガニスタンやイラクからの米軍部隊の撤収など、政権移行期にある米国の安全保障を脅かしかねない決定を次々と下しており、身内の共和党の間でも懸念が広がっている。
F35の売却反対決議案は、民主党のメネンデス、マーフィー両議員と共和党のポール議員が共同提出する。
トランプ政権は、UAEがイスラエルと国交を正常化させたのを受けてF35最大50機の売却を決めた。だが米国内では、中東でのイスラエルの軍事的優位が崩れ、地域の不安定化につながるとして、売却に反対する声が強い。
トランプ政権が17日発表したアフガニスタンとイラクからの米軍撤収に関しても、米国とアフガンのイスラム原理主義勢力との和平交渉の行方をにらんだ現地情勢などが考慮されていないとの批判が強い。
安全保障関係者の間では、2000年大統領選挙での集計をめぐる訴訟で息子ブッシュ政権への引き継ぎが遅れたことが翌年9月の米中枢同時テロにつながったとの反省も踏まえ、アフガンからの性急な米軍の撤収は、アフガンを再び米本土を脅かすテロの温床に逆戻りさせかねないとの懸念も強まっている。
歴代米政権の交代期は通常、次の政権が政策上の選択肢を確保できるよう、現状を大きく変更させる安全保障分野の重要決定は行わない慣例となっている。
上院共和党トップのマコネル院内総務も17日、記者団に「(次期大統領就任までの)向こう数カ月間は、国防や外交政策を著しく変えないことが極めて重要だ」と述べ、トランプ氏に暗に自制を求めた。
オブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は16日、民主党のバイデン氏が大統領選の勝利を確実にしたことに関し「明らかにその方向にあるように見える」と認め、同氏の勝利が確定し次第、「非常にプロ意識の高い政権移行を行う」と強調した。
しかし、トランプ氏と決別したボルトン前大統領補佐官(同)は18日、「トランプ氏はバイデン氏の執務ができるだけ困難になるように仕向けている」と指摘し、安保分野で今後も予想外の行動をとる恐れが「十分にある」と警告した。【11月19日 産経】
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「トランプ氏はバイデン氏の執務ができるだけ困難になるように仕向けている」・・・・子供じゃあるまいし・・・。
マケイン氏が存命なら、叱りつけるところでしょうが。