( ペルーの首都リマの議会前で、マヌエル・メリノ大統領の辞任に歓喜する人たち(2020年11月15日撮影)【11月17日 AFP】)
【汚職対策を進めたビスカラ大統領 意趣返しで野党勢力によって罷免】
南米ペルーに関する日本での関心というと、入院・収監を繰り返しているフジモリ元大統領の体調とか、その長女で一時は大統領職にあと一歩のところまで迫ったケイコ・フジモリ氏の動向(不正資金疑惑の渦中にあって、今年1月には3回目の身柄拘束を受け、彼女が党首を務める政党も1月の総選挙では大きく後退)といったあたりに限られている感がありますが、ここ数日は相次ぐ大統領交代が話題になっています。
****ペルー国会、大統領を罷免=州知事時代の汚職疑惑で****
南米ペルーの国会(定数130)は9日、州知事時代の汚職疑惑が持ち上がったビスカラ大統領に対する罷免決議を賛成多数で可決した。ビスカラ氏は失職し、現地報道によると、国会議長が来年7月までの残り任期を務める。
現地報道によると、ビスカラ氏をめぐっては、南部モケグア州の知事だった2014年ごろ、公共工事受注の見返りに業者から賄賂を受け取った疑いが浮上していた。
一部議員が憲法で定められている「恒久的な倫理的不能」に当たるとして罷免決議案を提出。ビスカラ氏は「断固として告発内容を否定する」と疑惑を否定していた。採決では、罷免に必要な89票を上回る105票が集まった。【11月10日 時事】
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****ペルーで抗議デモ激化 汚職防止進めた前大統領の罷免に反発 新大統領の辞任要求****
南米ペルーで汚職防止対策を進めたマルティン・ビスカラ前大統領(57)が国会で罷免されたことに抗議するデモが激しさを増している。
治安当局は催涙ガスなどを使って抑え込みにかかるが、市民の反発は強まるばかりだ。首都リマでは13日、数千人が行進し、就任したばかりのマヌエル・メリノ新大統領(59)の辞任を求めた。
国会(1院制、定数130)は9日、汚職疑惑が浮上したビスカラ氏の弾劾決議案を賛成多数で可決。メリノ国会議長が10日に大統領に就任し、ビスカラ氏の残りの任期である2021年7月まで務めることになった。
だが、これをきっかけに大規模なデモが連日、続いている。デモ隊と治安当局の衝突でこれまでに数十人が負傷した。政治腐敗が激しいペルーで、ビスカラ氏は犯罪歴のある政治家の立候補を禁止するなど汚職対策を図り、国民の高い支持を得ていたからだ。
一方、ビスカラ氏の関与が指摘される汚職は、南部モケグア州知事時代(11〜14年)に業者から公共工事受注の見返りに賄賂を受け取ったというもの。まだ訴追されておらず、ビスカラ氏は関与を否定。罷免は、汚職対策を進めるビスカラ氏に反発する野党議員が画策した政権転覆劇との見方が広がっている。
ビスカラ氏は18年に当時のクチンスキ大統領が汚職疑惑で辞任したのを受け、第1副大統領から昇格した。【11月14日 毎日】
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“ビスカラ氏は18年に当時のクチンスキ大統領が汚職疑惑で辞任したのを受け、第1副大統領から昇格した”とあるように、ペルー政界は汚職・腐敗が蔓延しています。
“ロイター通信によると、国会議員の半数は資金洗浄(マネーロンダリング)や殺人の疑いなどで捜査を受けている。ビスカラ氏の罷免は、汚職対策を進めたことへの野党の意趣返しとの見方が出ていた。”【11月16日 毎日】
結果、歴代大統領は逮捕されるか、自殺するか・・・
****ペルー 大統領経験者 5人連続で逮捕かその直前に自殺*****
ペルーのトレド元大統領が16日、汚職の容疑でアメリカで逮捕されました。ペルーでは元大統領の逮捕が相次いでいて、今回の逮捕で現職を除いて5人連続で大統領経験者が逮捕されるか逮捕直前に自殺する事態となっています。
ペルー政府によりますと、ペルーの検察は16日、アレハンドロ・トレド元大統領をブラジルの大手建設会社から賄賂を受け取った汚職の容疑でアメリカのカリフォルニアで逮捕したと発表しました。
ペルーでは、ことし4月に前大統領のペドロ・クチンスキ氏が同じく、ブラジルの大手建設会社から賄賂を受け取った汚職容疑で身柄を拘束されたほか、同じ月に元大統領のアラン・ガルシア氏が収賄の疑いで逮捕される直前に銃を使って自殺しています。
ペルーでは1990年に日系人で初めての大統領に就任したアルベルト・フジモリ氏が退任後、逮捕、収監されたことをきっかけに、大統領経験者が逮捕されるケースが続いていました。
現職の大統領を除けば今回のトレド氏の逮捕で、1985年以降に選挙で選ばれた大統領経験者5人すべてが逮捕されたか自殺したことになります。【2019年7月17日 NHK】
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9日に国会によって罷免されたビスカラ前大統領は、こうしたペルー政界の腐敗を正そうとしたところ、脛に傷ある議員ばかりの国会によって罷免されてしまった・・・とのこと。
【腐敗体質の政治家への国民の怒りが噴出】
国民は、そうした政治家に怒りを爆発させた次第のようです。
国民の怒りに直面したメリノ新大統領は、わずか5日で辞任に追い込まれました。
****ペルー大統領、5日で辞任 前大統領罷免、国民批判****
収賄疑惑を発端に大統領が罷免(ひめん)された南米ペルーで15日、就任したばかりのメリノ新大統領がわずか5日で辞任を表明した。新政権や国会に抗議する大規模な集会が連日、全土で開かれており、首都リマでは治安部隊との衝突で参加者2人が死亡。国民の間に積もった長年の政治不信が一気に噴き出しており、今後も混乱が続きそうだ。
15日正午過ぎ、テレビで演説したメリノ氏は「大統領の職を辞す」と述べ、辞任を明らかにした。ビスカラ前大統領の罷免に伴い、10日に国会議長から大統領に昇格したばかりだったが、就任宣誓から5日での辞任表明となった。
混乱の発端は、ビスカラ氏が9日に国会で罷免されたことだ。自身の政党を持たないビスカラ氏は、大統領を妨害する野党が仕切る国会を「腐敗した利権の巣窟」と批判し、議員の連続再選禁止などの国会改革を主導。新型コロナウイルス対策でも評価され、5月には支持率が8割に達した。
これに対し、野党が多数の国会はビスカラ氏降ろしを画策。過去の疑惑を掘り起こし、ビスカラ氏が県知事だった2014年ごろ、公共工事で便宜を図る見返りに建設会社から230万ソル(約6700万円)を受け取ったという疑惑の追及を始めた。
ただ、21年4月には大統領選が予定されており、直近の世論調査では8割が「ビスカラ氏は任期満了後に捜査を受けるべきだ」と回答した。それでも、国会は「道義的能力の欠如」を理由に、ビスカラ氏の罷免に踏み切った。
国民不在の決定に「腐敗を隠したい国会によるクーデターだ」との批判が起こり、メリノ氏が大統領に昇格すると、SNSでは「私の大統領ではない」というハッシュタグが拡散。抗議の波が全土に広がった。
リマでは14日、市内各地で断続的に抗議集会が開かれた。現地の情報によると、数万人が参加したとみられる。夜には、治安部隊との衝突で20代の若者2人が死亡したと報じられ、直後から閣僚が次々と辞任の意向を表明。地元メディアによると、15日未明までに、首相を含む新内閣19人の閣僚のうち13人が辞任した。
15日午前には、国会が党代表者会議を招集し、新大統領の退陣方針を決定。メリノ氏には、辞任勧告の受け入れ以外に道は残されていなかった。
抗議集会は当初、新大統領や国会への批判が中心だったが、政治改革を求める声も次第に高まっている。ペルーではフジモリ元大統領以降、ビスカラ氏まで6人の歴代大統領が汚職疑惑で捜査され、政治家らの腐敗が長年取りざたされてきた。今回の抗議は、国民の政治不信が爆発した結果だ。
今後の政権については、国会もメリノ氏も言及しておらず、政党間のかけひきが続くとみられる。国会議員による密室政治に、国民は強く反発しており、メリノ氏の辞任で混乱が収束するかは見通せない状況だ。【11月17日 朝日】
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抗議行動は、ビスカラ氏個人を擁護するものというより、ペルー政界の腐敗体質への怒りでしょう。
メリノ氏辞任を受けて、新大統領には野党「紫の党」所属議員のフランシスコ・サガスティ氏が選出されました。
****異常事態、1週間で3人目の大統領「ペルー国民に希望を取り戻す」****
南米ペルーの国会(定数130)は16日、新大統領にフランシスコ・サガスティ議員(76)を選出した。17日に就任する。政情が混乱しているペルーでは、1週間のうちに大統領が2度交代するという異常事態となっている。
新大統領の選出は、マヌエル・メリノ前大統領の辞任に伴うものだ。国会議長だったメリノ氏は、マルティン・ビスカラ元大統領に対する罷免ひめん決議を主導した末に、自ら大統領に就任。「クーデターだ」などと主張する抗議デモを招き、わずか6日目で辞任に追い込まれた。
サガスティ氏が所属する「紫の党」は所属議員全員が罷免決議に反対票を投じていた。国民の理解が得られやすいとして国会内での支持も広がり、100票近い賛成票を得た。
サガスティ氏は選出後、「ペルー国民に希望を取り戻すため、できることはすべてやる」と述べた。任期は来年7月まで。4月の大統領選を円滑に迎えられるかが課題となる。
サガスティ氏は、1996年12月、首都リマの日本大使公邸に武装した左翼ゲリラが立てこもった際、数日間にわたって人質となった経験がある。【11月17日 読売】
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これを機に、“国会議員の半数は資金洗浄(マネーロンダリング)や殺人の疑いなどで捜査を受けている”という現状が是正されればいいのですが・・・どうでしょうか。