(コロナの警戒レベルが引き下げられて街へ繰り出す人々は増えたが、上海ではまだマスク姿の人々が目立つ(3月23日)【4月7日号 Newsweek日本語版】)
【リーマンーショックを遥かにしのぐ、「コロナ恐慌」】
新型コロナの感染が欧米を始め、世界全体で進行するなかで、「ロックダウン」に象徴されるように経済活動は減速というより「停止」を余儀なくされており、世界経済が戦後最大規模の危機に陥っていることは誰の目にも明らかです。
****世界「コロナ恐慌」の暗黒 経済危機は「リーマン」以上に****
新型コロナウイルスの世界的拡大で、世界経済は二〇〇八年の世界金融危機(リーマンーショック)を遥かにしのぐ、「コロナ恐慌」に陥った。
○八年と同様に、野放図な債務を重ねた国際金融業界が主犯だが、治療薬のない新感染症と実体経済への打撃との組み合わせは、極めて毒性が高い。
ドナルドートランプ米大統領は、○八年時をしのぐ金融・財政出勤で強引に対処しようとしているものの、米市場関係者の間では「早期回復は全く誤った幻想だ」とする見方が強まっている。
各国株式市場に始まった危機は、消費崩壊に伴う恐慌、欧州単一通貨「ユーロ」圏の混乱、さらに新興国経済の退潮へと続く兆候が、顕著になっている。(後略)【選択 4月号】
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経済活動の停止、大量失業で現在の消費が崩壊しているのは言うまでもありませんが、コロナ禍が過ぎたあと元に戻るか・・・ということでは疑問も。そのあたりは後述します。
ユーロ圏の混乱は明らかです。現在深刻な感染に襲われれているイタリア、スペイン、フランス・・・今は経済どころではない状況ですが、感染が収束したら荒廃した経済、立て直しのための財政出動で更に膨らむ債務という大きな経済困難に直面することになります。
イタリアの財政崩壊は、かつてのギリシャ危機をはるかに凌ぐユーロ危機をもたらすでしょう。
中国・欧米経済の退潮は新興国経済の退潮にもつながりますが、石油・資源価格の暴落は更に新興国経済に打撃を与えます。
新型コロナで世界の石油需要が減少しているなかでの最近のロシア・サウジの「泥仕合」「チキンレース」とも言われる増産による原油価格暴落は、資源大国が自分で自分の首を絞めるような様相ともなっています。
さすがに「このままでは・・・」ということで、9日には減産に向けて協議が行われる予定ですが、協議が整ったとしても石油需要が大きく減退しているなかでの価格回復は多くは望めないでしょう。
【企業の操業再開が進む中国 政府は金融・財政措置を総動員してV字回復を目指す】
こうした危機的状況にある世界経済にとって、いち早くコロナ感染を克服したかに見える中国の動向が注目されます。
いったんは「停止」した中国経済が今後「V字回復」するようであれば、世界経済回復の牽引ともなりますし、他の国々の経済回復を予想させるものともなります。
****3月の中国景況感、50上回る 過去最低の前月から急回復****
中国国家統計局と中国物流購買連合会は31日、景況感を示す3月の製造業購買担当者指数(PMI)が52・0だったと発表した。
新型コロナウイルスの蔓(まん)延(えん)に伴う影響で2月は過去最低の35・7だったが、企業活動の再開が進んだことにより大幅に改善。好不況を判断する節目の「50」を2カ月ぶりに上回った。
統計局はウェブサイト上で、急回復について「多くの企業で生産再開が進んでいる」ことを反映した結果だと指摘。一方で「企業の実際の生産・経営が、既に疾病前の水準に回復したことを意味しているわけではない」と警戒感もにじませている。(中略)
中国国内では企業の操業再開が進んでおり、中国政府は新型コロナによる経済影響について「ダメージは短期的だ」という見方を強調してきた。だが、足元で感染が世界でも急速に広がる中で、中国経済の下押し圧力が強まることが懸念されるようになっている。【3月31日 産経】
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2月の「どん底」を経験したあとだけに、企業活動の再開で一定に景気回復感が出るのは当然でしょう。
****中国、コロナ感染抑え「反動消費」ブームも=21年7%台成長か****
(中略)1〜2月の主要経済指標は大幅マイナスに沈んだ。中国国家統計局などが公表した最近の経済統計を分析すると、第1四半期(1〜3月期)の国内総生産(GDP)は前年同期比40%前後のマイナス成長に陥ったと見られる。(中略)
◆金融・財政措置を総動員
金融・財政措置を総動員してV字回復を目指す。3月に入って中国での感染者が激減し、大半の業種で営業が再開され、街に繰り出す人が増えた。1月23日以来の武漢市の封鎖も4月8日に2カ月半ぶりに解除される見通しである。北京、上海などの大都市では「反動消費」とのスローガンが踊る。
中国の孔鉉佑・駐日大使は「人口14億人超の消費により中国経済は力強く復活する」と強調。今回の新型コロナウイルス禍の局面で「無人店舗、遠隔医療、オンライン教育、新エンタテインメント、AI(人工知能)、5G(次世代通信規格)、EV(電気自動車)、ビッグデータなど新しい経済の形態が生まれている」と指摘、巨額投資と相まって大きな成長エンジンになると見ている。
アジア開発銀行(ADB)は(中略)中国の2020年の経済成長率は、2.3%増と19年の6.1%増から減速すると予想。2021年のアジア新興国の成長率は6.2%の大幅な回復を見込む。中国は7.3%増と6年ぶりに7%台に乗ると予想している。
宮本氏によると、習政権は国民世論の動向に気を使い、これまで大多数の国民がノーと言うようなことはやっていない。「国民は『幸せな監視社会』と言われるほどIT管理社会を許容しているが、安心・安全という利益確保が前提。国民の利益に反したことにはノーを突き付ける」という。(中略)
中国民は共産党政権が自分たちの生活を守れないと感じたら、一党支配の正当性にノーを突き付ける。だからこそ、習政権は海外向けと併せ、自国民向けの「復興アピール」に必死で、コロナ危機への対応に総力を挙げざるを得ない。【4月4日 レコードチャイナ】
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「無人店舗、遠隔医療、オンライン教育、新エンタテインメント、AI(人工知能)、5G(次世代通信規格)、EV(電気自動車)、ビッグデータなど新しい経済の形態が生まれている」という中国経済の活力は事実でしょう。
【感染再燃、交易相手国の需要減退で「第2波」の不安も】
ただ、コロナ以前に戻れるかについては疑問も。
新型コロナ感染の再燃の可能性もありますし、世界経済がコロナで沈んでいる状況では、中国経済も重要減退の影響を受けざるを得ません。
****コロナの亡霊消えぬ中国経済、常態への道遠く ****
新型コロナウイルスの感染拡大で欧米諸国が深刻な状況に陥る中、中国の市民は通常の生活を取り戻そうと、恐る恐る一歩を踏み出した。だが危機前の経済状態に戻るのは、まだ遠い先のことになりそうだ。
今週発表された3月の製造業購買者担当者指数(PMI)は、政府の公式統計でも財新が算出する民間データでも、中国経済が再び成長し始めていることを示した。
だが改善したのは極めて低い基準と比べた結果であり、エコノミストは依然として中国経済が1-3月期に前年同期比10%程度のマイナス成長になるとみている。
さらに言えば、同国は新型ウイルスの感染拡大を抑え込んだように見えるが、重要な分野においてその影響は長引いている。とりわけ消費者と輸出業者にとってはそうだ。
PMIが描く力強い「V字」は決して、中国がV字回復を遂げつつあり、全てがすぐ元の水準に戻り、企業が2月の失地を3月に完全に取り戻すことを意味するのではない。
PMIは前月と比べた景況の変化の尺度だ。いま分かるのは2月に壊滅的に転がり落ちた谷底から、3月はごくわずかに持ち直したということだ。景況改善・悪化の節目である50は上回っている。
とは言うものの、限定的な楽観論の根拠は確かにある。重要なことに、不動産市場は生命の兆しを見せ始めている。(中略)
一方、心配なのは消費者心理のシグナルだ。個人消費は今や中国の経済成長の大きな原動力となっている。 モルガン・スタンレー が19省の消費者2019人を対象に先週行ったオンライン調査によると、回答者の大半(86%)が在宅をやめて出勤していた。
その一方で、ショッピングや外食、人々との集まりに出かけることは大半の人が今も控えていた。外出はやむを得ない場合のみとする回答は69%と、3月上旬の75%からは低下したものの、まだ非常に高い数字だ。
市民も政府も感染拡大の第2波を心配しており、この警戒水準を乗り越えるのは容易ではないだろう。
中国政府は先週27日、ごく一部で営業が再開されていた全国の映画館に対し、再び閉鎖を命じた。また河南省の小さな県が31日、再び封鎖措置を取った。新たな感染拡大が懸念されたためだ。
さらに、中国の製造業――そしてそこで働く従業員たち――は間もなく、国外からの需要急減による打撃を実感するだろう。中国では業務が再開された。だが国内外で新型コロナウイルス流行が真に終息しなければ、いつまでも「常態」に手が届かないかもしれない。【4月3日 WSJ】
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【「生産サイドは活況を呈しているが、消費サイドはずっと軟調に見える」 中国経済が感染したのは「日本病」?】
****中国経済は本当に世界を「V字回復」へと導けるのか?****
<コロナ禍が一段落して経済活動が復活――大幅成長が予想される中国の現状と欧米各国の今後の行方を読み解けば......本誌「コロナ危機後の世界経済」より>
中国が「通常営業」に戻り始めているようだ。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、国内各地で封鎖状態が始まってから約2カ月。重要な指標である電力需要や鉄鋼需要、自動車生産台数は、通常時と大差のないレベルまで回復しつつある。
ならば、パンデミック(世界的な大流行)の渦中にある欧米も4〜6月期に被る大打撃を乗り越えて、今年後半には経済回復を見込めるのか。
言い換えれば、こういうことだ。最悪の第2四半期を予測しつつも、 先行きを楽観視しているらしい大半の専門家の見方どおり、世界の経済大国は今も「V字回復」路線をたどっているのか。それとも、航空会社から飲食店まで全ての業界が完全閉鎖された今、これらの国々は「死」 を迎えようとしているのか・・・・。(中略)
中国の国内活動は多くの点で通常に近い状態に戻り始めている。上海や北京では交通渋滞が復活し、大半 の主要都市の渋滞度も昨年の平均にじりじり迫る。
金融大手ゴールドマン・サックスの指摘によれば、封鎖中に短期間ながら改善していた中国の大気汚染は、石炭火力発電所の操業再開で元どおりになり、鉄鋼などの重工業分野への需要は既に2018〜19年の水準に回復している。
中国の大手自動車メーカーの多くは生産を再開。住宅販売戸数は、いまだ近年の水準には届いていないものの、上向き始めている。
データを見る限り「かなり堅調に回復しているようだ」と語るのは、 国際金融研究所の主任エコノミスト、 ロビン・ブルックスだ。中国の1〜3月期のGDPは大幅縮小するが、 4〜6月期には「V字を描いて」回復すると、ブルックス率いるチームは予測。今年後半に入る頃には、成長再開へ向かう傾向を示すはずだ。
中国の現状は心強い材料だ。とはいえ、欧米各国の経済が今後6週間ほどで、無傷に近い状態に復活する と考えていいとは限らない。
中国はもちろん、当初の流行への対応を模範的と称賛された香港や台湾、シンガポールでも制限解除の直後、ウイルス感染の第2波に見舞われた(多くの場合、国外からの渡航者や帰国者が新たにウイルスを持ち 込んでいた)。(中略)
だが、より大きな問題がある。中国経済の一部は回復を見せてはいても、特に高額商品への支出を消費者が控えるなか、経済の大部分はまだ持ち直してはいない。
さらに、中国が最悪の局面を抜け出し始めたとしても、主要な輸出先で貿易相手である欧州各国やアメリカが感染の急拡大のただ中にある状況では、回復の出鼻をくじかれることになりかねない。
「現時点で懸念しているのは、欧米に迫る景気後退の(消費者支出に与える)影響だ」と、ポールソン研究所の研究フェロー、宋厚沢(ソン・ホウツォー)は話す。
理論上、今年初めの経済的打撃は消費者が購入を延期した結果であり、 この典型的な繰り延べ需要はこれから爆発的な購買行動となって成長を押し上げるはずだ。だが「今までのところ、需要は以前の水準になかなか戻っていない」と、宋は指摘する。
よみがえる金融危機の記憶
宋の予想では、今年後半に大幅成長を記録するどころか、中国の行く手にはさらなる暗雲が待ち構えてい る。「第2の減速がやって来る。今年1月や2月ほど深刻ではないが、無視できない規模になるだろう」
中国の回復傾向の分かりにくい点は、自動車メーカーが通常どおりに戻っている一方で、自動車販売店はそうではなく、消費者が自動車を購入していないこと。工場は再開されても、輸出先の市場は閉鎖中だ。だからこそ、見極めが難しい。
「パターンにむらがある。生産サイドは活況を呈しているが、消費サイドはずっと軟調に見える」と、英調査会社キャピタル・エコノミクスのチーフエコノミスト、ニール・シアリングは言う。「V字回復が起こるかは断言できない」
イースターまでに米経済に弾みをつけ、落ち込む株価を上向かせたいとトランプは意欲を燃やすが、各種の制限を解除すれば経済が回復するわけではない。
経済構造が中国よりも消費やサービスに偏る欧米の場合、 消費マインドへの潜在的な打撃や「社会的距離」を確保しようという意識の継続がとりわけ大きく響く。(中略)
第2の感染拡大があるのか、消費者がどう反応するか、米議会で審議が進む救済措置にどれほど効果があるのか。
これらの問いに答えを出せない現状では、トランプが熱望する経済回復が実現するかどうか、明確な予測は困難だ。
08年の世界的金融危機の後、アメリカをはじめとする各地の消費者は購入を先送りし、借金を返済し、退避モードに突入。先進国の経済の約3分の2を占める個人消費の低迷が景気回復の妨げになった。
ブルックスはこう予想する。「金融危機では予防的行動が増えた。同じことがまた起きる可能性がある」
From Foreign Policy Magazine【4月7日号 Newsweek日本語版】
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「生産サイドは活況を呈しているが、消費サイドはずっと軟調に見える」という消費マインドへの打撃がどのように推移するかが、「元に戻れるか」どうかのカギでしょう。
****「コロナ以前」に戻れない中国経済 国家主導の「成長熱狂」に終止符****
(中略)
感染したのは「日本病」ウイルス
ここ数年、成長率の寄与度で七〇%前後を占める消費は今回、コロナ感染で壊滅的な打撃を受けているが、それは一時的なものではない。消費者の姿勢そのものが激変した。消費より貯蓄、貯蓄より住宅ローン返済が「新常識」となった。
コロナによる外出禁止で、外食より家庭料理に戻った中国人が再び高級レストランで見栄を張って財布のひもを緩めることも望み薄だろう。
国民が「巣寵もり消費」を経験し、それに慣れて、豪華な消費を忘れていく状況はバブル経済崩壊後の日本ときわめてよく似ている。
雇用不安と収入の低下、高齢化の進行による社会保障の劣化といった「漠然とした将来不安」も日本に類似している。
「コロナウイルスが人に広く感染した中国で、社会や経済が感染したのは実は『日本病』ウイルスだった」。中国の政府系シンクタンクのエコノミストはこう指摘する。
そうした多くのエコノミストが注目するのは、バブル崩壊後の九〇年代の日本政府が巨額の予算、補正予算、緊急経済対策などを繰り返し、インフラ投資や企業支援策を続けたにもかかわらず、成長率が上向かず、政府債務だけが膨脹し、金融緩和によるマネーが銀行に環流し、国債購入に回って実体投資に活かされなかった「日本病」なのである。
中国がユーフォリアから一転して「日本病」に向かいつつある気配は濃厚であり、一国の経済が感染症によって転換した歴史的事件として記憶されるかもしれない。【選択 4月号】
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明日の緊急事態宣言を控えて、今をどう乗り切るかに必死な日本ですが、コロナ後も見据えて、経済を崩壊させない配慮も非常に重要です。