Quantcast
Channel: 孤帆の遠影碧空に尽き
Viewing all articles
Browse latest Browse all 4417

南米エクアドル  燃料補助金撤廃を契機に大規模な反政府行動 左派前政権と右傾化した現政権の確執も

$
0
0

(エクアドル首都キトの議会周辺の攻防 治安当局のものと思われる車両の左手に写っている人物は、後ろから走ってきたこの車両に跳ね飛ばされて、路上にあおむけに吹き飛ばされる瞬間です。画像は【10月9日 AFP】より)

 

【左派政権による財政悪化、IMF主導の財政改革 補助金撤廃への抗議・・・という、よくあるパターン】

今日は遥か海のかなた、南米の話。

 

南米でもブラジル・アルゼンチンといった大きな国、あるいは、チャベス・マドゥロ両大統領のもとでなにかと国際的な話題となるベネズエラ、または、左翼ゲリラとの和平合意で注目されたコロンビア・・・といった国々なら、まだ多少の馴染みがありますが、今日はエクアドル。

 

位置的には、コロンビアの東隣がベネズエラ、反対側の南西隣がエクアドルといったところ。「エクアドル」はスペイン語で「赤道」を意味するということで、赤道直下の国です。

 

そのエクアドルで、ここ数日、政府による燃料補助金撤廃を契機に大規模な反政府行動が起きています。

 

****エクアドルで反緊縮の大規模デモ、先住民が首都に行進****

エクアドルで7日、政府の緊縮財政政策に反対する先住民の大規模な抗議デモが5日目に突入し、数千人が各地で道路を封鎖するとともに、首都キトに向かって行進する事態となっている。過去数年間で最も大きな騒乱で、これまでに477人が拘束された。

エネルギー省によると、国営石油会社が操業する3カ所の油田施設が「部外者」に占拠され、石油生産にも支障が出ている。

エクアドル先住民連盟(CONAIE)は、モレノ大統領が先週打ち出した燃料補助金撤廃(実質的な燃料価格引き上げ)を取り消すまで、デモを続けると宣言した。こうした動きと呼応する形で、9日には労働者の全国的なストライキも予定されている。

一方モレノ氏は、社会の秩序の混乱は認めないし、経済改革の一環である燃料価格引き上げ方針も撤回しないと表明した。

キトの南端に徒歩やトラック、バイクなどで到着した約7000人の先住民らは、地元の人々から大歓迎され、食料や水を提供されているのが目撃された。

 

キトで暮らす退役軍人の男性(58)は「大統領は国民を痛めつけている。緊縮措置は大打撃で、モノの値段が高くなっても賃金は上がらない」と怒りをあらわにした。

ロモ内相はラジオ番組で、拘束した477人は主として救急車12台の破壊を含めた暴力行為が原因だと説明した。【10月8日 ロイター】

**********************

 

燃料や食料に対する補助金は政府の財政負担を大きくし、また、経済的には市場原理をゆがめるものとなります。

しかし、この補助金削減は市民の生活を直撃するだけに、しばしば各国で反政府行動のきっかけともなる、政権にとって「鬼門」とも言うべき政策です。エクアドルの場合も、その一例です。

 

エクアドルでは、反米左派のコレア前政権で債務が拡大。モレノ氏は当時副大統領で、コレア氏の後継だったが、政権につくとコレア路線と決別。財政再建に取り組み、国際通貨基金(IMF)の融資を受けるなどした。”【10月8日 朝日】ということで、IMF主導の財政再建の一環のようです。

 

国民に「痛み」を強いるIMF主導の財政再建に市民が反発・・・というのも、よくあるパターンです。

 

また、左派政権でのバラマキ政策で財政悪化が進むとい点では、ベネズエラのチャベス・マドゥロ政権とも共通しています。

 

エクアドル先住民連盟(CONAIE)が抗議行動の主体となっていますが、“エクアドルでは1997〜2007年にかけて3回にわたり、先住民主導の抗議デモのために大統領が辞任に追い込まれている。”【10月9日 CNN】ということで、これもこれまでも見られたパターンです。

 

【反米左派コレア政権の後継者、モレノ大統領の右傾化】

上記【CNN】にあるように、モレノ大統領はコレア前政権で副大統領を務め、反米左派コレア政権の後継者でしたが、就任後は右方向に大きく舵を切っています。

 

*****************

2017年2月19日(1回目投票)、同年4月2日(2回目投票)の大統領選挙で当選したレニン・モレーノが、同年5月25日に大統領に就任した。

 

モレーノ政権のもと、エクアドル政府は左翼政権色を弱めており、2018年3月には自由貿易の経済圏である太平洋同盟(加盟国メキシココロンビアペルーチリ)に加盟した。

 

一方反米左翼政権のベネズエラとの関係は急速に悪化しており、2018年8月にはベネズエラ主導の米州ボリバル同盟(ALBA)から脱退した。

 

2019年3月には南米諸国連合からも離脱し、チリセバスティアン・ピニェラ大統領の主導で南米諸国連合に対抗する新たな地域連合として結成されたラテンアメリカの進歩と発展のためのフォーラム(PROSUR)にほかの親米的な南米諸国とともに加盟した。【ウィキペディア】

********************

 

アメリカの外交機密文書を公開したウィキリークスのアサンジ容疑者をロンドンのエクアドル大使館にかくまったのが反米左派コレア政権であり、一方、モレノ大統領に代わるとアサンジ容疑者を大使館からの追放処分にし、イギリ警察に逮捕させたあたりに、コレア前政権からモレノ現政権への変化がよく示されています。

 

中南米では、チャベス・コレア時代には親米コロンビアを除き、左派政権一色でしたが、エクアドルの変化に見られるように様変わりしつつあります。

 

****中南米 右派系政権による国家グループ再編進む 左派は退潮****

南米ベネズエラで反米左派のマドゥロ大統領と野党連合指導者のグアイド国会議長が激しく対立しているのをきっかけに、中南米で国家グループの再編が進んでいる。

 

左派政権の退潮を受け、マドゥロ政権を批判する右派系政権が主導しているのが特徴だ。

 

チリの中道右派、ピニェラ大統領の呼びかけでブラジルの極右、ボルソナロ大統領ら南米8カ国の首脳が3月22日、チリの首都サンティアゴに集まり、地域統合を目指す地域連合「南米発展フォーラム」(PROSUR)の設立に合意した。

 

人権侵害が相次ぐマドゥロ政権に対し、近隣国が団結して圧力を強めるのが狙いだ。ピニェラ氏は署名式後、「民主主義、自由、人権の尊重を明確に約束するフォーラムになるだろう」とあいさつした。

 

ベネズエラに民主化を求める米州内の国家グループは、2017年にペルーの呼びかけで発足した「リマ・グループ」に次いで二つ目。

 

カナダ、中南米の計14カ国が参加するリマ・グループのうち、北中米を除くペルー、コロンビアなど南米の右派、中道右派政権を中心に集まった。リマ・グループに参加せず左派路線から転換しつつあるエクアドルも加わった。

 

もともと米州内では左派政権が国家グループ形成に活発な役割を果たしていた。1999年にベネズエラでチャベス大統領(故人)が誕生したのを契機に、南米で貧困層を支持基盤とする左派政権が相次いで誕生した。

 

ワシントンに本部を置き米国の影響力が強い「米州機構」(OAS、35カ国)とは別に、米国を排除した形での地域統合を目指した。08年結成の「南米諸国連合」(UNASUR、12カ国)もその一つ。

 

しかしアルゼンチンで15年、ブラジルで16年に相次いで左派政権が退場し、今では中心となる国が現れず機能停止状態だ。

 

ベネズエラを巡っては、より中立的な立場で解決策を探る国も現れてきている。左派政権のボリビア、エクアドルなど中南米の左派、中道左派政権4カ国は、欧州8カ国と「コンタクトグループ」を結成。

 

3月28日にエクアドルの首都キトで開いた閣僚級会合では、ボリビアを除く11カ国が、武力行使を排除し、ベネズエラ国民自身の手で大統領選を実施するよう呼びかけた。【4月18日 毎日】

*****************

 

【モレノ大統領は、左派のコレア前大統領や、ベネズエラのマドゥロ大統領らが暴動をあおっていると主張】

モレノ政権は、ベネズエラに関しては、マドゥロ大統領に敵対するグアイド暫定大統領を支持しています。

 

こうしたモレノ大統領の右傾化は、コレア前大統領からすれば「裏切り」ということにもなります。

“現在はベルギーに住むコレア前大統領は、ツイッターでモレノ大統領を「裏切者」と呼び、モレノ大統領は「終わった」として選挙の実施を呼びかけた。”【10月9日 CNN】

 

こうした対立関係を反映して、今回の反政府行動に関して“モレノ大統領はテレビ演説の中で、左派のコレア前大統領や、ベネズエラのマドゥロ大統領らが暴動をあおっていると主張。”【同上】とのことです。


ただ、“キトの南端に徒歩やトラック、バイクなどで到着した約7000人の先住民らは、地元の人々から大歓迎され、食料や水を提供されているのが目撃された。”【10月8日 ロイター】と、反政府行動は広い支持も得ているようです。

 

首都キトに押し寄せる反政府デモに対し、政府は緊縮政策は撤回せず、首都機能を移転させる措置で対抗しています。

 

****エクアドル、首都機能を別都市に移転 大規模暴動が発生****

南米エクアドルのモレノ大統領は7日夜、政府機能を首都キトから約300キロ離れた商業都市グアヤキルに移転したと発表した。

 

同国では、燃料費補助の廃止をきっかけに大規模な暴動が起き、政府が3日に非常事態を宣言していた。モレノ氏は、コレア前大統領やベネズエラのマドゥロ政権が暴動をあおっていると批判している。

 

モレノ氏は、軍幹部と撮影した動画メッセージで「憲法で定めた権限に基づき、政府の本拠をグアヤキルに移した」と語った。「クーデターの試みがあった。暴動は怒れる市民による抗議ではない」とも述べた。

 

エクアドルでは、反米左派のコレア前政権で債務が拡大。モレノ氏は当時副大統領で、コレア氏の後継だったが、政権につくとコレア路線と決別。財政再建に取り組み、国際通貨基金(IMF)の融資を受けるなどした。

 

今月3日、財政改革の一環として燃料費補助などを打ち切ると、各地で暴動が発生。モレノ氏は同日に非常事態を宣言し、緊縮政策は撤回しないとした。先住民団体などの数千人が首都キトへ向け行進している。【10月8日 朝日】

******************

 

比較的新しい情報では、首都キトの様子など下記のようにも。

 

****警察と衝突、議会に乱入 燃料高騰抗議デモさらに激化 エクアドル****

エクアドルのレニン・モレノ大統領率いる政府が燃料補助金を廃止したことを受けて、首都キトでは燃料価格の高騰に抗議するデモが激化している。8日にはデモ隊が警察と衝突し、議会に乱入する騒ぎになった。

 

キトには9日に予定されている交通運輸労組や学生自治会のデモに参加しようと数千人規模の人が集まっている。デモ参加者の多くが棒やむちを持った先住民の男性で、議会の建物の周辺に張られた非常線を越える様子がテレビ局「エクアビサ」のカメラに捉えられた。

 

デモ隊は議場になだれ込み、演壇を占拠したが、数分で治安部隊によって建物の外に追い出された。機動隊が催涙ガスを使用し、デモ隊は排除された。

 

デモ隊は7日にも議会への突入を試みていた。モレノ大統領は3日、全国的に拡大したデモを受けて非常事態を宣言し、政府の中枢を沿岸部の都市グアヤキルに移動させた。

 

エネルギー・非再生可能天然資源省が8日に発表したところによると、デモが1週間続く中、アマゾン地域にある石油関連施設3か所が「操業に関わっていない外部の人間のグループ」に奪取されたため、エクアドルの産油量は31%減少。同省は国営石油会社ペトロアマゾナスの減産幅が1日当たり16万5000バレルに達するとの見方を示した。

 

エクアドルは先週、石油輸出国機構の協調減産は財政再建の足かせになるとしてOPECを来年1月に脱退すると表明していた。同国の通常の産油量は日量53万1000バレル。 【10月9日 AFP】AFPBB News

*******************

 

【全国民の情報流出事件の背景】

なお、エクアドルは全く別の非常に“今日的な”事件で、9月にも世界的な注目を集めました。

 

****南米エクアドル ハッカー攻撃でほぼ全国民の情報流出****

エクアドル政府は16日、国民の情報の管理を委託していた民間の会社がアメリカのハッカーから攻撃を受け、2000万人分の個人情報が盗まれたと発表しました。

エクアドルの人口はおよそ1700万人で、ほぼすべての国民の個人情報が盗み取られたほか、すでに亡くなった人の死亡日時や死因などの情報も流出したと言うことです。

盗まれた情報には、個人の名前や生年月日のほか、学歴や職歴、それに、携帯電話の番号や銀行口座の番号、納税者番号などさまざまな個人情報が含まれていたということです。

エクアドル政府は盗まれた情報が悪用された場合に対応できるよう、3日以内に新たな個人情報の保護に関する法律を制定するとしています。

今回の犯罪には、情報部門に勤務していた元政府関係者も関与していた疑いがあるということで、エクアドルの捜査当局が行方を追っています。【9月18日 NHK】

******************

 

上記【NHK】では、“国民の情報の管理を委託していた民間の会社がアメリカのハッカーから攻撃を受け・・・”とありますが、右傾化しているモレノ政権がアメリカハッカーの攻撃を受けるというのも腑に落ちない話です。

 

下記報道を見ると、情報流出の真相は明らかにはなっていないようで、いろんな憶測もなされているようです。

 

****エクアドル、なぜほぼ全国民の情報漏れたのか****

元ウィキリークスのアサンジ氏も被害に

 

(中略)大規模な情報流出があったことを明らかにしたのは、イスラエルにあるサイバーセキュリティー企業「vpnメンター」。(中略)

 

この情報の流出元としてvpnメンターが挙げているのが、アメリカ・フロリダ州マイアミに所在するサーバー「エラスティクサーチ」だ。所有するのは、2017年創業のエクアドルの「ノバエストラット」という企業。同社は、ビジネス情報を元にロビー活動を通して一般企業や公的企業のコンサルタントサービスを行っている。(中略)

 

問題は、資本金3000ドル程度の中小企業が、どのようにして膨大な量のデータを手に入れたのかということだが、報道によると、エクアドルの通信相のアンドレス・ミチェレナ氏は、「(今回の流出は)ハッカーでもサイバー攻撃によるものでもなく、国家情報システムのデーターベースを買収したものでもない」と発言。

 

前政権時(ラファエル・コレア前大統領)には、ブラックマーケットで情報の売買が行われていたとするが、2017年5月に今のレニン大統領に変わってからはそうしたことは起きてないと示唆している。

 

ウィキリークスのアサンジ氏の情報も流出

ここで注目したいのは、ノバエストラット創業者の2人は前政権時の官僚だったことである(中略)あくまで私見だが、前政権ではコレア前大統領と近しい人物を要職につけていた可能性もゼロではないだろう。

 

また、今回の流出した情報の中には、在イギリス・エクアドル大使館に亡命していた「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジ氏に関係した情報も含まれているとされている。(中略)

 

エル・パイス紙によると、イギリス警察がアサンジ氏を逮捕した時点から、エクアドルでは約4000万件の情報攻撃を受けたことを、マリア・パウラ・ロモ内相は明らかにしている。こうした中、セキュリティ対策強化に乗り出していたが、その矢先に今回の大規模情報流出が起きてしまったというわけだ。

 

こうした背景から、コレア前大統領の支持者だったノバエストラット経営陣の2人が情報流出に意図的に関与したのではないか、という臆測も浮上している。

 

ただし、エクアドルの警察当局が目下、事件の捜査中で、なぜこのような情報の大量流出が起きたのかは明らかになっていない。(後略)【9月26日 白石 和幸氏 東洋経済ONLINE】

********************

 

あくまでも憶測ではありますが、今回の反政府行動同様に、コレア前大統領とモレノ現政権の間の確執が背景にあるのでは・・・との指摘もあるようです。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 4417

Trending Articles