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Channel: 孤帆の遠影碧空に尽き
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トランプ大統領、習近平国家主席に「米中間の貿易交渉が進展すれば、香港問題については黙り続ける」

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米国旗や「SOS」と書かれた紙を掲げ、米総領事館に向かって行進する香港のデモ隊=8日、平井良和撮影【9月14日 朝日】

 

【“密室で香港の人々を売り飛ばす”トランプ大統領】

香港での反政府抗議活動が収まらないのは周知のところです。

警官による実弾発砲などもあって、さらなる混乱が予想される状況で、香港政府は実質的な戒厳令とも言われる「緊急状況規制条例」(緊急法)を発動し、緊張のステージが一段階上がったように思われます。

 

****香港政府、デモ参加者のマスク着用禁止 緊急法5日施行**** 

香港の林鄭月娥(りんていげつが)行政長官は4日、諮問機関、行政会議の臨時会合を開き、「緊急状況規制条例」(緊急法)を発動し、デモ参加者のマスク着用を禁止する「覆面禁止法」を緊急立法で制定することを決めた。5日に施行される。

 

緊急法の発動は英国統治下の1967年、中国共産党支持派による大規模な暴動が起きて以来で、香港情勢は新たな段階に入った。

 

緊急法が22年に制定されて以降、発動は2回目。同法は、行政長官と行政会議が「緊急事態または公共の安全に危害が及ぶ事態」と判断した場合、立法会(議会)の審議を経ずに「公衆の利益にかなう規則」を制定できると定めている。

 

通信や報道、集会、移動の自由を制限し、最高で終身刑の罰則を科すことができるため、民主派は「事実上の戒厳令だ」と反対してきた。

 

覆面禁止法はデモ参加中に顔を覆うことを禁じ、違反者には禁錮刑を科す。同法を制定しても、火炎瓶の使用や地下鉄の駅施設の破壊などの違法行為に加わる先鋭化したデモ参加者が順守する可能性は極めて低い。ただ、政府側は一般市民のデモ参加を減らす効果があるとみているようだ。

 

覆面禁止法はマスクで顔を隠すことがデモの過激化の一因だとして親中派議員が法制化を主張。2日には警察官で作る団体も制定を求めていた。

 

政府寄りの地元紙は4日、林鄭氏が1日の中国の建国70年記念日の衝突を受け、緊急法発動の準備を急いだと報じた。

 

同紙は3日、政府が夜間外出禁止令を検討していると伝えたが、親中派有力議員が「警察に負担がかかり実行は不可能」と反対。林鄭氏は、政府支持派の同意を得やすい覆面禁止法の制定を選んだとみられる。

 

民主派議員は3日夜、ネットメディアへの寄稿で、緊急法発動は「火に油を注ぐ自殺行為。外資の撤退を招き、香港へ大きな損害となる」と批判した。【10月4日 産経】

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今日一番衝撃的だったのは、その香港情勢ではなく(緊急法発動はある程度予想されていましたので)、アメリカ・トランプ大統領の香港に関する発言です。

 

****トランプ氏「貿易交渉進めば香港問題は黙る」習氏に電話****

米CNNは3日、関係者の話として、トランプ米大統領が6月18日に中国の習近平(シーチンピン)国家主席と電話会談をした際、米中間の貿易交渉が進展すれば、香港問題については黙り続けると伝えていたと報じた。

 

ワシントンの外交関係者の間では、トランプ氏が香港問題を中国との貿易交渉の取引材料にしているとの根強い見方があったが、それが裏付けられた格好だ。

 

トランプ氏はまた、この日の電話会談で習氏に対し、2020年大統領選での有力なライバルになる可能性があるジョー・バイデン前副大統領と支持率が急上昇中のエリザベス・ウォーレン上院議員の2人の政治的な見通しについても語ったという。

 

ウォーレン氏は米CNNの報道後、「どのような大統領であれ、密室で香港の人々を売り飛ばすとはとんでもないことだ」とツイートした。

 

香港で刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」の改正案をきっかけにした抗議運動が続く中、トランプ氏は中国政府や習氏を直接批判する発言を避け続けている。

 

一方、「私は習氏が香港問題について迅速な人道的解決を望んでいることを全く疑っていない」などと、習氏の政治的手腕に期待感を示す発言が多い。【10月4日 朝日】

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トランプ大統領が人権とか自由といったものに関心がないこと、経済と安全保障をセットにして「取引」で成果を出そうとするスタイルであることは今更の話ですが、まさに“密室で香港の人々を売り飛ばす”ような発言には正直驚きました。

 

巨大な中国を相手に香港で抵抗を続けている人々にとって、議会で「香港人権・民主主義法案」の審議が加速するアメリカの対中国圧力は一筋の支え、期待でもあるのですが、そのアメリカ大統領があろうことか中国・習近平主席に“香港問題については黙り続ける”とは・・・

 

おそらくトランプ大統領は「フェイクニュースだ!」と言うのでしょうが・・・フェイクであることを願います。ただ、真相はわかりませんが、「トランプ大統領なら・・・」と思えてしまうところが問題です。

 

【香港に共感しない心情も】

「取引」のためには香港をも売り飛ばすということもありますが、基本的に、(天安門事件を「暴動」と呼ぶ)トランプ大統領自身が香港の抵抗運動に共感していないということもあるのでしょう。香港についてもトランプ大統領は「暴徒」という表現を使用していました。

 

****民主化を求める香港にトランプ政権はなぜ冷たい?****

(中略)

 

トランプは本気で香港のことを考えているのか

こうした経緯から、デモ隊は中国包囲網を形成するため、米国に人権法案の可決を求めるという運動にシフトしている状況だ。

 

しかしながら、米国の協力を得て、香港の民主化が大きく前進するのかというと、話はそう単純ではないだろう。肝心の米国が、香港の民主化に対して、以前のような高い関心を寄せていないからである。

 

トランプ米大統領は、米中貿易交渉と香港デモをうまく絡め、いわゆるパッケージディールに持ち込もうとしている。

 

しかしトランプ氏は当初、香港のデモを「暴徒」と呼び、中国国内で解決すべき問題だとして、突き放すような発言を行っていた。

 

日本国内では、保守系の人たちを中心に中国嫌いが多いことから、香港のデモを心情的に支持する声が大きいように見える。

 

だが、香港の民主化運動のリーダーたちは、日本国内や米国国内に当てはめれば、教育水準の高い、典型的なリベラル系の若者であり、保守的と呼ばれる人たちが最も嫌っている人種である。

 

中国は共産国家なので、日本とは異なり政権与党が共産党である。中華圏において「保守」というのは大陸の秩序や統制、伝統を重んじる共産党支持者のことを指しており、彼等の言動は、まさに日本や米国の保守系の人たちとそっくりである。実際、香港においても、デモばかりやっている若者に対して「わがまま」だと批判する声は多い。

 

したがって、トランプ氏が当初、デモ隊を暴徒と呼んだのは驚くべきことではなく、こちらの方がトランプ氏や支持者の心情には合っているだろう。

 

つまり、トランプ氏はあくまで交渉材料として香港のデモを取り上げているだけであって、オバマ政権時代までの米国のように、政治信条として人権問題を掲げているわけではないのだ。

 

香港のデモ参加者の中からも「トランプ政権が本当に助けてくれるのかは分からないが、使えるカードは使いたい」といったドライな意見も聞かれる。(中略)【9月23日 JB Press】

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「香港人権・民主主義法案」の方は、恐らくアメリカ議会で10月中に可決されると思われますが、大統領が署名するのか・・・。

 

****米議会委が香港人権法を可決 10月に本会議採決、対中圧力****

米議会の上下両院の外交委員会は25日、中国が香港に高度の自治を保証する「一国二制度」を守っているかどうか米政府に毎年の検証を求める「香港人権・民主主義法案」をそれぞれ全会一致で可決した。

 

早ければ10月中旬にも両院の本会議で採決される見通し。香港でデモが続く中、成立すれば中国への圧力となる。

 

法案は共和、民主両党の超党派の議員が提出しており、両院の本会議でも可決される可能性が高いが、成立にはトランプ大統領の署名が必要。

 

トランプ政権は、中国との貿易協議を有利に進めるために利用するとの見方が出ており、進展状況を見極めながら判断するとみられる。【9月26日 共同】

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香港の命運は、中国が米国産大豆・トウモロコシをどれだけ購入するかにかかっていることのようです。

 

トランプ大統領が“香港問題については黙り続ける”確証が得られれば、中国・香港政府としては多少手荒な手段を用いても抗議活動を「鎮圧」するということにも。

 

【民主主義国家指導者としての資質】

ウクライナ疑惑で弾劾の扱いが表面化しているトランプ大統領ですが(この問題自身は、結局弾劾は成立せず、バイデン氏のイメージが悪化して民主党候補が戦いやすい左派のウォーレン氏になるということで、トランプ氏にとっては好都合との見方も根強くあります)、今度は中国にも公然と調査を要求しているようです。

 

****トランプ、ウクライナの次は中国にバイデンの調査を要求 民主主義に最悪の反則と元米NATO大使****

<ウクライナ大統領にバイデン調査の圧力をかけて弾劾調査の対象になったばかりのトランプが、公に中国にも調査を要求して米政界もびっくり>

ウクライナの大統領に政敵ジョー・バイデン副大統領の不正を洗ってほしいと頼んでいたことが発覚し、今や弾劾調査の対象になっているドナルド・トランプ米大統領が、今度は、バイデンは中国でも怪しいので調査すべきだと発言した。

かつてアメリカのNATO大使を務めたニック・バーンズが「法的にも道徳的にも誤りだ」と強く非難した。バイデンは2020年の大統領選で民主党指名の有力候補の一人だ。

ジョージ・W・ブッシュ政権時代にNATO米国代表部の大使を務め、その後国務次官(政治問題担当)も務めたバーンズは、MSNBCとのインタビューで次のように語った。「アメリカの最大のライバルである中国に対して、自分の政敵の調査を促すのは、法的にも道徳的にも間違っている」

トランプは10月3日、ホワイトハウスで記者団に対して、バイデン親子の「不正」について調査を行うよう、ウクライナ指導部に圧力をかけた自分の行いを改めて擁護した。この際にトランプは、中国もバイデンの調査を行うべきだと主張。米中の閣僚級貿易協議の再開を間近に控えたタイミングで、またもや外国政府に公然と関与を促した。(中略)

トランプは弾劾調査を「党派主義に基づくもの」と一蹴しているが、共和党の重鎮議員や保守派の評論家の中からも、大統領の行動に深刻な懸念を示す声があがっている。

バーンズは3日、CNNとのインタビューで、トランプが政敵を追い落とすために外国政府に支援を呼びかけたことを激しく非難。ウクライナと中国への呼びかけは「トランプがアメリカの民主主義に対して行ったなかでも最悪の部類に入る行為」だと語り、「彼が大統領として不適格であることを示している」と主張した。(後略)【10月4日 Newsweek】
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政治の世界にあっては、使える手段をすべて使って自国の有利にもっていこうとするものであること、政治家が「国家・国民のために」と言うとき、往々にしてそれが「自分」のためであること・・・は、「常識」でもありますが、そうであるにしても、香港にしても、ウクライナにしても、トランプ氏の言動は一線を越えているように、あるいは、言っていいこととそうでないことの区別がついていないように見えます。

 

既存の政治家のように裏でコソコソ画策せず、堂々と本音で語っているだけ・・・という評価もあるかもしれませんが、建前にせよ何にせよ、言っていいこと悪いことの制約が一顧だにされなくなれば、民主主義は理想を失い、果てしなくポピュリズムに近づいていくようにも思われます。


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