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トルコ  前倒し選挙で強行突破をはかるエルドアン大統領 野党側の足並みそろわず

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(4月28日、「幅広い意見の一致があるなら(出馬も)やぶさかではなかった」と指摘し、反エルドアン陣営の分裂を不出馬の理由に挙げたギュル前大統領【4月30日 時事】)

【経済悪化が明らかになる前に・・・】
エルドアン大統領のもとでのトルコは、特にクーデター未遂事件以降、その強権支配が加速しているとの、また、長期的にはイスラム主義への傾斜が懸念されるなどの指摘もありますが、来年11月に予定されていた大統領選挙と国会総選挙が今年6月24日(もうすぐです)に前倒しされることが発表されています。

トルコでは昨年、首相職を廃止し、大統領の権限を強める憲法改正が承認されており、次回選挙は新制度施行(実権型大統領制)の節目として特に重要な意味を持っています。

今までも「エルドアン1強」のもとで、十分すぎる権力を行使してきたエルドアン大統領ですが、新制度のもとでの大統領となれば、さらにその権限は法的にも万全となります。

“前倒し”自体は予想されていましたが、6月という時期は想定されていたものより早い段階のものになっています。

エルドアン大統領は前倒し選挙について、以下のようにも。

“エルドアン大統領は、当局にとっては「歯を食い縛って」来年11月まで待つ方が好ましかったとする一方、隣国イラクやシリアの情勢により「なるべく早くに不確実性を克服することがトルコにとって不可欠となった」と述べた。”【4月19日 AFP】

ただ、日本を含めてどこの国でも、政権が“前倒し選挙”を行うのは、政権側にとってそれが“有利”と判断される場合です。

トルコの場合は、これから経済悪化が予想されており、それが明らかになる前に、そして、シリア介入“勝利”の賞味期限が切れないうちに、また、野党側の選挙態勢が整う前に、やってしまおう・・・との作戦のようです。

****トルコ選挙前倒し、大統領景気悪化に焦り ****
トルコのエルドアン大統領は18日、2019年11月実施予定だった大統領選と国会総選挙(一院制、定数550)を18年6月24日に前倒しすると表明した。

再三否定してきた早期選挙にこのタイミングで踏み切った背景には、経済状況の急速な悪化に対する強い焦りがありそうだ。
 
「不透明性を取り除かなければならない」。18日、首都アンカラで記者会見したエルドアン氏はシリア情勢など内外の重要課題に対処するため、選挙の前倒しが不可欠と主張した。
 
大統領に権限を集中させる憲法改正を承認した17年4月の国民投票直後から、次期選挙の前倒し観測そのものは浮かんでいた。

意外だったのは時期だ。事実上の連立相手、民族主義者行動党(MHP)トップが求めたのは8月26日。クーデター未遂事件から丸2年となる7月15日も有力視されていた。
 
だが、エルドアン氏が選んだのは6月24日。イスラム教のラマダン(断食月)明けの翌週にあたり、全国共通の大学入試も予定されていた。エルドアン氏の決定を受け、入試当局は直ちに「試験日を翌週に延期する」と表明した。
 
これほど急ぐのは17年国民投票の苦い記憶があるからだ。非常事態宣言を維持する一方で、親政権メディアを動員して圧倒的に有利なキャンペーンを繰り広げたにもかかわらず、賛成51%という薄氷の勝利だった。
 
イスタンブールやアンカラなど豊かな都市部で軒並み反対が賛成を上回った。支持基盤である保守層の間でも、16年のクーデター未遂事件後の景気冷え込みへの不満が強かったからだ。
 
トルコ経済は政府の景気刺激策が奏功し17年に7.4%成長を記録したが、経常赤字の拡大と物価上昇の悪循環から抜け出せず、通貨リラの急落に直面している。今後の景気失速は不可避な状況にある。
 
17年以降エルドアン氏の支持率は50%前後で推移している。保守・ナショナリスト票の取りこぼしをいかに最小限にとどめるか。

そのためにシリア北西部への軍事介入の成功による愛国世論の高まりを追い風に、選挙準備の整わない野党を突き放すのが得策と判断したとみられる。
 
一方、度重なる軍の介入を許してきたとはいえ、トルコには1946年以降の複数政党による議院内閣制の歴史がある。民主主義の成熟度という意味では同じ強権体制のロシアやエジプトに比べて一日の長がある。
 
クーデター未遂事件後に解雇された公務員や軍人は11万人に、逮捕・拘束者は15万人超に達する。トルコの世論はエルドアン氏支持派と反対派の間で深く分断され、強権統治への不満は大きい。

前倒し選挙の判断は「エルドアン1強」が決して盤石ではないことの裏返しといえる。【4月19日 日経】
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【野党:民主主義と独裁のどちらを取るかが問われる選挙】
議会は18日、クーデター未遂以降続く国家非常事態を3カ月延長することを決めています。野党からは「非常事態の中での選挙などあり得ない」などと反発する声も出ています。

****「民主主義か独裁か」最大野党党首が語るトルコ大統領選****
トルコの野党第1党「共和人民党」(CHP)のクルチダルオール党首が21日、朝日新聞との単独会見に応じた。

トルコでは与党「公正発展党」(AKP)を率いるエルドアン大統領が大統領選と総選挙を1年半前倒しの6月24日に実施すると表明。クルチダルオール氏は昨年の憲法改正による「実権型大統領制」の導入で三権分立が崩れるとし、「民主主義か独裁かを問う選挙だ」と話した。

民主化の先、独裁リスク トルコ大統領に権力集中 「強い指導者」を求めたトルコ国民の心理 分断修復が鍵
トルコ国会(定数550)は現在、中道右派の親イスラム政党AKPが316議席、次いで中道左派で世俗派のCHPが116議席を占める。
 
昨年4月の国民投票では、AKPが大統領に行政権限を集中する実権型大統領制を導入する憲法改正を主導し、CHPは反対を訴えた。

改憲は賛成51・41%、反対48・59%の僅差(きんさ)で成立した。

2003年に首相就任、14年に大統領に転じて国政を一貫してリードしてきたエルドアン氏は強権化が指摘され、新制度がこの傾向に拍車をかけると懸念する声が根強い。
 
クルチダルオール氏は「選挙では、民主主義と独裁のどちらを取るかが問われる。国民が(立候補が確実視される)エルドアン氏を選ばないなら、個人支配を受け入れないということだ。民主主義は勝つ。我々はエルドアン氏の独裁に反対する」と話した。
 
実権型大統領制では、首相職が廃止され、大統領の権限が大幅に強化される。大統領が一元的に行政権を持つ▼行政権に関する大統領令を出せる▼国会を解散できる▼司法の人事機関を事実上掌握、など多くの項目は次の選挙で当選した大統領から適用される。
 
クルチダルオール氏は「実権型大統領制ではすべての権力が大統領に集中し、三権分立は崩れる。権力のチェック・アンド・バランスは民主主義にとって不可欠であり、議院内閣制に戻すべきだ」と語った。
 
大統領選では、エルドアン氏が当選に必要な有効投票の過半数を得票できるかが焦点だ。該当者がいなかった場合、上位2人の決選投票となる。

大統領選には昨年10月に設立された中道右派「優良党」のアクシェネル党首が立候補の意思を示している。クルチダルオール氏は「決選投票の際は民主主義を共通項として、優良党と協力することで合意した」と明かした。
 
トルコでは2016年7月に軍の一部によるクーデター未遂が発生し、直後に出された非常事態宣言が現在も続く。これまでに15万人以上が拘束され、軍人や警察官ら11万人以上の公務員が解雇された。大統領選と総選挙も非常事態宣言下で実施される見通しだ。
 
クルチダルオール氏は、「非常事態宣言下で大学は沈黙させられ、ジャーナリストも国会議員も収監されている。社会が恐怖に支配されている。司法は完全に政治化され、AKPが誰が有罪かを決めているのが実態だ」と批判した。
 
トルコは今年1月、内戦が続くシリア北部での越境軍事作戦に踏み切り、自国の非合法武装組織「クルディスタン労働者党」と一体とみる少数民族クルド人の武装組織「人民防衛隊」が支配するアフリンを制圧した。

エルドアン氏が早期選挙を決めた背景には、国民の多くが作戦を支持し、与党への追い風となる事情があるとみられている。
 
CHPもアフリン作戦を支持するが、クルチダルオール氏は、「作戦は軍の成果であり、エルドアン氏が自らの成功として国内政治の道具に使うのには反対する」と話した。

また、AKP政権のシリア政策は反アサド政権の立場を基礎にしていると批判。「シリアを誰が統治するかは、シリア人自身が決める。地域の国々が話し合って問題を解決し、米国やロシアなど大国の関与を止めるべきだ」と語った。【4月26日 朝日】
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エルドアン体制のもとでは、政権に批判的なジャーナリストが多数拘束されています。

****反対派のジャーナリストら13人に実刑判決 トルコ****
トルコの裁判所は25日、反政府派の新聞「クムフリエット」のジャーナリストなど13人に対し、テロを支援した罪で禁錮刑を課した。報道の自由をめぐって、世界から批判の声が上がっている。

トルコ政府はクムフリエットのスタッフが、政府がテロリストとみているクルド労働者党(PKK)や極左の革命的人民解放党・戦線、イスラム指導者フェットラー・ギュレン師などを支援していたと非難している。(中略)

クーデター未遂後、政府は警察や軍部、教育機関、公共機関、報道機関などで取り締まりを行い、5万人以上が逮捕、15万人以上が解雇された。

今回、有罪となったクムフリエットのジャーナリストもこの時に逮捕されていた。

有罪となったのはクムフリエットの編集長やコラムニスト、挿絵担当者など。うちアキン・アタライ会長は禁錮7年を言い渡された。同会長はすでに500日間服役している。

公判に出席した従業員のうち3人は無罪となった。有罪となったジャーナリストらも控訴中は釈放されるという。

クムフリエットは1924年の創刊。国営メディアが大勢を占めるトルコで独立を貫いており、エルドアン大統領の怒りを買った。
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5日の公判前に出た号では、一面に「この残酷さにはうんざりだ」という見出しが躍った。判決後、ウェブサイトには「歴史の前で恥をかくだろう」との見出しが掲げられた。(後略)【4月26日 BBC】
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【穏健なギュル前大統領を野党統一候補に担ぐ構想は頓挫か】
“5万人以上が逮捕、15万人以上が解雇”という形で、明確な反エルドアン勢力を生み出している状況は、選挙に影響しないのでしょうか?

野党勢力が結束して対抗すれば、昨年4月の憲法改正国民投票が僅差となったように、必ずしもエルドアン圧勝ということにもならないでしょう。

しかし、野党の足並みがそろわないのも、世界共通の話です。

トルコでは、エルドアン氏が首相職にあった頃に大統領を務めていたギュル前大統領を野党統一候補として推そうとの話がありましたが、頓挫したようです。

強烈な個性のエルドアン氏に比べ、その盟友でもあったギュル氏は穏健な人柄・政策で知られ、もし実現すれば幅広い支持を集めて、エルドアン氏にとって大きな脅威となるところでたが・・・。

野党側には、いくら“穏健”とはいえ、かつてのエルドアンの盟友を担ぐことに抵抗があったようです。

****ギュルの大統領立候補は消えるか****
元大統領だったギュル氏は、彼のスマイルと柔らかな演説で、トルコ人を魅了するばかりではなく、欧米人も魅了してきていた。彼は国際機関での仕事の経験もあり、考え方が欧米に近い、ということもあるのであろう。

そうしたことから、今回のトルコ大統領選挙で、彼を担ぎ出すことにより、エルドアン大統領を失脚させよう、という試みがあった。しかし、野党のなかにはいろいろ異なる意見があり、未だに統一候補としてギュル氏を立てることに、合意できないでいる。

彼を推すだろうと思われている政党は、野党第一党のCHP,そしてSP,IYIなどだ。ただし、IYIのアクシェネル女史は大統領選挙に立候補する、と言っており彼女が選挙候補者から降りて、ギュル氏を推すとは思えない状態にある。CHP内部ではギュル氏を推薦することに、抵抗を示しているメンバーが少なくない。

こうしたギュル氏に対する支持の弱さは、彼の穏健な姿勢から来ているのかもしれない。彼が大統領の時期には、大統領よりも首相であったエルドアン氏の、強いキャラクターが国民を魅了していた、という事実がある。

従って、ギュル氏が大統領に当選しても、何も変わらないだろう、という推測をする人達も少なくないようだ。トルコ人は強いキャラクターのリーダーを好み、彼が自分たちを強引にまで、リードしてくれることを望む傾向があるからだ。それは、オスマン帝国の歴史から、来ているのかもしれない。

現状では、エルドアン候補に並び、IYIの党首であるアクシェネル女史、HDPのデミルタシュ氏が候補者として名を連ねている。そこに、どうギュル氏が加わってくるのか来ないのかが、いま話題になっている。

与党AKPの首相ユルドルム氏は『ギュル氏はAKP設立当初からのメンバーなのだから、AKPから立つべきだ。』と語っている。加えて『ギュル氏は我々の友人だから、彼が望むどのようなポストでも、用意しよう。』とも語っている。

つまり、『大統領に立候補しない限り、どんなポストでも与えてやるから、立候補は降りろ。』と言っているのだ。

ギュル氏もエルドアン大統領が首相の時代、汚職に手を染めていた可能性があろう。そうなると、冷静なトルコ国民からは、あまり支持されないかもしれない。例え支持され大統領になったとしても、以前と同様に強力な政治指導力は、発揮できない可能性があろう。【4月28日 佐々木 良昭氏 「中東TODAY」】
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****トルコ大統領選出馬を否定=穏健派期待のギュル氏****
トルコのギュル前大統領は28日、次の大統領選(6月24日投票)への出馬を否定した。

現職のエルドアン大統領に対抗し得る候補として穏健派の期待が高まっていたが「幅広い意見の一致があるなら(出馬も)やぶさかではなかった」と指摘し、反エルドアン陣営の分裂を不出馬の理由に挙げた。【4月30日 時事】
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ただ、ギュル氏はトルコを巡る国際状況、経済、政治社会情勢等について、現在のトルコ政府(要するにエルドアン大統領と与党AKP)の政策を厳しく批判したとのこと。【4月29日 「中東の窓」より】

マレーシアでは、野党勢力が、かつての“敵”マハティール前首相を(いろいろ不満は抱えながらも)担いでナジブ政権に挑んでいます。

本気で「エルドアン1強」を崩そうというのであれば、また、「民主主義か独裁か」という選挙だと認識するのであれば、保守勢力からの票も一定に期待できるギュル前大統領を担ぐぐらいのことがあってもいいようにも思うのですが。

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