
(2016年10月、インド南部ゴアでのモディ首相と習主席【4月23日 日経】 27、28両日の武漢での会談で緩解改善の方向が明確化されるのか)
【インド:世界の対中情勢が変化する中で、緊張の継続は好ましくない】
インドのモディ首相は27日から訪中し、27、28両日に湖北省武漢市で習近平国家主席と非公式会談を行う予定とされています。
国境問題を抱える中印両国は、昨年5月にはドクラム地区で両軍が2カ月半にわたって対峙する事態ともなっています。
また、中国の著しい海洋進出・伝統的インド勢力圏を含む各地での国際的影響力拡大という情勢のなかでライバル的な対立関係を強め、インド・モディ政権は中国の“一帯一路”に賛同せず、日米とも協調して、中国に対抗する姿勢をもとっています。
ただ、大きな“潜在能力”を有するインドですが、現時点においては、経済的にも、国際影響力の面でも、中国の優越性・攻勢が目につくように思えます。
2017年8月10日ブログ「ブータン・中国国境でにらみ合いが続く中印両国 南アジア全体では中国の攻勢 停滞するインド経済」
2018年1月13日ブログ「インド 国境問題でも、国際戦略でも中国の勢いに押され気味 原子力潜水艦ミスで“大丈夫?”」
インド・モディ政権としては、「このままではジリ貧に落ち込んでしまう」という思いもあるでしょう。
また、中印両国とも、アメリカ・トランプ政権という“不確定要素”の影響を考えると、対立するよりは協調した方が得るものが多い・・・という考えも強まります。
チベット亡命政権を抱えるインドですが、中国が敵視するダライ・ラマ14世に対し、従来とは異なる“一定の距離を置いた”接し方をし始めているあたりにも、インドの中国との関係改善に対する思いが透けて見えます。
****モディ印首相、27日から訪中し習近平氏と会談 緊張緩和へ一帯一路や国境問題で歩み寄れるか****
ンドのモディ首相が、27〜28日の日程で中国湖北省武漢を訪問し、習近平国家主席と非公式首脳会談を行う。
モディ氏は6月にも上海協力機構(SCO)首脳会議出席のための訪中が予定され、集中的に会合を設定することで緊張緩和を早期に実現したい意向がうかがえる。
だが、南アジアで影響力を強める中国とは利害の対立もあるだけに“雪解け”に向けて、どれほど歩み寄れるかは不透明だ。
非公式会談は、インドのスワラジ外相が22日、北京で中国の王毅外相と会談した際に決まった。首脳会談は昨年9月以来で、インド外務省は目的について「パートナーシップをより強化するため」としている。
1962年には中印紛争が起きるなど領土問題を抱える両国だが、中国が現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を通じて南アジアやインド洋地域への進出を強めて以降、関係は急速に悪化している。
インドは昨年5月の一帯一路関連フォーラムへの代表団派遣を拒否。直後に中国、インド、ブータンが国境を接するドクラム地区で、中印両軍が2カ月半にわたって対峙(たいじ)する事態が発生し、関係はいっそう冷え込んだ。
一方で、モディ政権内部には「緊張の継続は好ましくない」(外交筋)という判断があった。
別の外交筋は「日中関係に好転の兆しが見えるなど、世界の対中情勢が変化する中で、潮流から取り残されてしまうという危機感がある」と指摘する。
また、中国は輸入相手国のトップであり、2016年度には510億ドル(約5兆5千億円)に達する貿易赤字も抱えており、摩擦の継続は経済にマイナス材料という判断も働く。
モディ政権が打った関係改善への布石の一つが、インド亡命中のチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世への対応だ。今年2月、政府職員にダライ・ラマ関連行事への参加自粛を促した。
最終的にシャルマ文化相が亡命60周年を記念した講話の会に出席したが、ダライ・ラマを「分離主義者」と批判する中国に配慮を見せた格好だ。
今回の会談で何が話し合われるか不明だが、ネール大のアルカ・アチャリャ教授は「第一の目的は両国関係のリセットだ」と指摘。両首脳の関係構築に主眼が置かれるだろうと見る。
ただ、両軍撤退で合意したはずのドクラム地区付近で中国は兵舎建設やトンネル掘削を継続しており、国境での火種はくすぶり続ける。インド国内では、宿敵パキスタンに巨額の資本投下を行う中国とは「そもそも相いれない」という声も根強い。【4月24日 産経】
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【保護貿易色を強める米国への対抗軸構築を急ぐ中国】
アメリカとの貿易戦争という火種を抱える中国としても、インドとの関係改善は望むところで、今回の両首脳の会談が北京ではなく武漢で行われるということにも、中国側のインドへの配慮が表れているも指摘されています。
****習近平氏、モディ印首相との会談は異例の形式 米牽制へ関係修復アピールなるか****
27日からのインドのモディ首相訪中で、中国の習近平国家主席は今回、北京ではなく湖北省武漢で会談する異例の形式を取った。
中国側には、モディ氏も出席する6月の上海協力機構(SCO)首脳会議まで待てない事情があった。保護貿易色を強める米国への対抗軸構築を急がなければならないためだ。
中国外務省の陸慷報道官は24日の記者会見で、中印首脳会談について「この100年間なかったような世界情勢の変化を前に、長期的かつ戦略的な問題に関して突っ込んだ意見交換を行う」との見通しを示した。
今回の首脳会談は、中・印・ブータン国境付近で中印両軍が対峙(たいじ)するなど、ぎくしゃくした両国関係を修復し、それを内外にアピールする機会となる。王毅国務委員兼外相は中印の「新たなスタートライン」と位置付けている。
中国外務省は武漢で開催する理由について「両国が調整して決めた」としか説明しないが、「北京に呼ぶのでなく、習氏も出向く形にすればモディ氏も訪中しやすい」と外交筋はみる。
ただ当初、習氏とモディ氏の会談は6月に山東省で開かれるSCO首脳会議の際に行われる予定だった。前倒ししたのはなぜか。
関係改善を急いだ背景には、貿易問題で対立するトランプ米政権を牽制(けんせい)しなければならない中国側の事情があったとの見方が強い。
中国紙、環球時報は社説で「人類の4割を占める中印の協力関係が強化されれば、世界にとって積極的な意義がある」と強調した。
習外交の要である王岐山国家副主席も23日、北京を訪問したスワラジ印外相との会談で、「(中印両首脳が)戦略的な共通認識を得るものと確信している」とし、「ともに多国間貿易体制を擁護することを期待している」と述べている。【4月24日 産経】
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貿易問題でアメリカと対立するのはインドも同様です。
****インド、米鉄鋼・アルミ輸入制限の対象ならWTOに異議申し立て****
インド政府は、米政府による鉄鋼・アルミニウム輸入制限の対象となった場合、世界貿易機関(WTO)に異議申し立てを行う見通し。貿易交渉に関与する政府関係者3人が匿名でロイターに明かした。
インドは、米国への鉄鋼・アルミの輸出が米国の安全保障上の懸念に当たらないとして、インドを制限措置の対象外にするよう求めていた。
インドのシン鉄鋼相は、要求が拒否された場合のインド政府の対応についてコメントを控えた。
ただ、ロイターが入手した内部文書によれば、インド政府は要求が拒否された場合、米国からの輸入品の一部に係る基本的な関税を一時的に引き上げることを検討している。【4月23日 ロイター】
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中国側のインドとの関係改善に対する期待感は、以下の中国メディアの論調にも見てとれます。
****中国とインドが急接近、長期安定発展を先導する上層部交流****
中印双方は中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とインドのモディ首相が27、28両日に湖北省武漢市で非公式会談を行うことを決めた。新華社が伝えた。
両国首脳が会うのは2017年9月のアモイ会談以来だ。両国首脳が非公式会談のくつろいだ雰囲気の中で戦略面の意思疎通を行い、両国関係の今後の発展を政治的にリードすることは、中印の政治的相互信頼の増進、利益融合の拡大、溝の適切な管理・コントロール、共同発展の実現に資する。
中印関係は21世紀の最も重要な二国間関係の1つだ。両国民は隣人であり、数千年の友好的交流の歴史を持ち、古くは相互参考の歴史的事実があり、現在では共同発展を待ち望んでいる。(中略)
2017年に中印関係は国境問題のために困難と試練に直面した。これは最終的に外交的手段によって平和的に解決され、両国関係は健全な発展という正しい軌道に戻った。
これは戦略面の意思疎通の強化、政治的相互信頼の増進、溝の管理・コントロールの重要性と緊迫性を一層浮き彫りにすると同時に、平和共存、協力・ウィンウィンが中印両国にとって唯一の正しい選択であることを改めて示した。
習主席はかつて「中印が同じ声を発せば、全世界が耳を傾ける」と表明した。モディ首相はかつて「インチからマイル」への精神で印中関係の前向きな発展を推し進めるべきだと表明した。
二国間、地域、さらには全世界のいずれのレベルで見ても、中印は長期的な戦略協力パートナーであり、経済的補完性が高く、協力に大きな潜在力があり、共通の利益が溝を遥かに上回る。
両国は互いが発展のチャンスであり、脅威ではないとの基本的判断を堅持し、この重要な判断を確実に実行に移し、より広範な共通認識を形成し、より具体的な措置に変え、たゆまず両国関係のプラス面を拡大し、両国交流にプラスのエネルギーを蓄積し続ける必要がある。
現在、国際情勢には複雑で深い変化が生じている。多極化のプロセスにおける2つの重要なパワーである中国とインドが長期に着眼し、肩を並べて歩むことは、両国が発展し、両国の26億人がより良い生活を送る助けとなるだけでなく、世界の平和・安定の維持、共同発展の促進への貢献ともなる。
中印の友好はアジアにとっても世界にとっても幸いだ。両国首脳の戦略的先導の下、双方には互いの関係をうまく処理し、対話によって溝を管理・コントロールし、協力によって未来を切り開くのに十分な知恵と能力があると信じる。
二大文明の融合と相互参考は新たな時代の活力を引き出し、二大市場の強みによる相互補完は新たな発展の潜在エネルギーを解き放ち、二大隣国の互恵協力は新たなウィンウィンの構造を切り開く。(提供/人民網日本語版・編集/NA)【4月24日 Record china】
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【注目されるモディ首相の「一帯一路」への対応】
関係改善に向けた強いインセンティブを持つ両国ですが、特に、インド側には中国の拡大路線への警戒感も根強く、一気に・・・とはいかないようです。
****上海協力機構が外相会議、中国「一帯一路」にインドは支持表明せず****
中国、ロシア、インドなど8カ国が加盟する上海協力機構(SCO)は24日、北京で外相会議を開いた。会合後に発表された声明でインドは、中国が提唱する広域経済圏構想「一帯一路」への支持を表明しなかった。
インド以外の外相は全て「一帯一路」への支持を改めて表明した。
中国の一帯一路構想における主要プロジェクト「中国・パキスタン経済回廊」に関してインドは、パキスタンと領有権を争うカシミール地方を通過するため、支持していない。
インドのモディ首相と中国の習近平国家主席は、中国湖北省の武漢で27─28日に非公式の会談を行う。
中国がインドから一帯一路への支持を取り付けられるかどうかは、首脳会談が成功したかどうかを判断する上で重要な基準となる。
加盟国はまた声明で、イランの核開発問題や過激主義拡散への対策などで結束することを表明した。【4月25日 ロイター】
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「一帯一路」への支持に関してモディ首相が、武漢での習主席との会談で、これまでより踏み込んだ発言をするのか・・・注目されます。
日本も、先日の王毅外相訪日に見られるように、中国との関係改善の動きが進んでいますが、アメリカ・トランプ大統領の不確実性、あるいは強引な“アメリカ第一”は、日本・インドを中国との関係改善に向かわせる方向で作用しているようです。