
【ロシアの攻勢、今後更に強まることも予想される】現時点(3月2日20時)でのウクライナ情勢を簡潔にまとめると以下のようにも。
****ロシア「あらゆる方面から進撃」 テレビ塔攻撃、南部では都市を包囲****ウクライナに侵攻中のロシア軍は1日、首都キエフ中心部のテレビ塔を攻撃した。ウクライナの緊急事態当局によると、この攻撃で死者5人が確認された。両国は2回目の停戦協議の開催を調整中だが、ウクライナ各地でロシア軍は攻撃の手を緩めていない。 キエフのクリチコ市長は1日、攻撃でテレビ塔の制御室と、塔に電力を供給する変電所が損傷したと明らかにした。ウクライナ内務省によると、テレビ放送に支障が出ているという。 ロシア国防省は攻撃に先立ち、「軍事施設」を攻撃するとして、近くの住民に退避するよう警告していた。ロシアが首都への攻撃を予告するのは初めてだ。同省は2日、「ロシアに対する情報攻撃を防ぐため、ウクライナ保安局などの施設を攻撃してテレビ放送を無効にした」と主張した。 また、南部の人口約30万人の都市ヘルソンの地元当局は2日、街がロシア軍によって完全に包囲されたことを明らかにした。地元当局のSNSは「多くの爆発があり、占領者が店を略奪した」と述べた。北東部にある第2の都市ハリコフでも犠牲が拡大。ロイター通信によると、攻撃により少なくとも21人が死亡し、112人が負傷した。 ウクライナ軍参謀本部によると、ロシア軍はキエフのほか南東部の港湾都市マリウポリの包囲を試み、「あらゆる方面から進撃しようとしている」という。 また、ロイター通信は1日、ウクライナ側からの情報として、ベラルーシ軍の装甲車両約300台がウクライナとの国境付近に集結していると報じた。 ルカシェンコ大統領は同日、参戦の可能性を否定したが、ベラルーシ軍がロシア軍に加われば、ウクライナには脅威になる。 ウクライナでは人道状況が深刻になりつつある。内務省によると、東部では侵攻の影響で、約4万人が停電や食料不足に直面している。キエフ近郊でも状況は「危機的」という。 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、これまでに約67万7千人の避難民が出ている。国連は、ウクライナや近隣諸国への避難民に対する人道的支援のニーズが高まっており、17億ドル(約1955億円)が必要だとして、資金援助を呼びかけた。【3月2日 朝日】*******************
ウクライナ側の頑強な抵抗やロシア軍兵士の士気の低さなどでロシア軍の進軍が想定以上に手間取っていると報じられていますが、それだけに今後ロシア側がより攻撃的な手段に出てくる危険性も高まっています。
*****ロシアの「燃料気化爆弾」は人間の肺の酸素も吸い上げる****(中略)ウクライナ軍と民間人を震え上がらせるため、ロシアが気化爆弾(サーモバリック爆弾)を使用する可能性が高まっている。すでに使用されたとする人権団体もある。(中略)
「バキュームボム(真空爆弾)」の名でも知られる気化爆弾は、周囲の空間から酸素を奪い、高温反応を引き起こす兵器であり、通常の爆弾と比べて爆風を引き起こす時間が長い。(中略)
「これらの爆弾は、衝撃とまともに食らう周囲の人間を殺傷するだけにとどまらない」。かつて国防総省の副次官補や中央情報局(CIA)の役職を歴任したミック・マルロイは指摘する。「周囲の空気や周囲にいる人間の肺からも酸素を吸い上げてしまう。恐るべき兵器だ」(後略)【3月2日 Newsweek】********************
今後については“国防総省がアメリカ政府関係者に行った説明では、「5日以内にキエフが陥落する可能性が高い」と厳しい分析を示していることがわかった。”【3月2日 FNNプライムオンライン】と厳しい見方がなされています。
【制裁の影響で通貨暴落 進むロシアの孤立化】ただ、侵攻が手間取る状況で、アメリカは同盟国を伴ってロシア包囲網を構築しつつあり、「最終兵器」とも「財政的核兵器」とも称される世界の銀行決済取引網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からのロシア排除という強力な制裁措置も発動されることになっています。その影響はすでにルーブル暴落となって出始めており、ロシア側も対策に追われています。
“ルーブル、27%急落 欧米の対ロ制裁で”【2月28日 AFP】“ロシア中銀、20%に緊急利上げ 企業に外貨売却指示”【2月28日 ロイター】“ロシア、ルーブル防衛で緊急措置 海外送金禁止など”【3月1日 AFP】
国際的にもロシアの孤立が鮮明になっています。
****ラブロフ露外相、人権理事会でビデオ演説したら…外交官100人以上が一斉退席****スイス・ジュネーブで1日に開かれた国連人権理事会の会合で、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相がビデオ演説した際、約40か国の外交官100人以上が一斉に退席し、ウクライナへの軍事侵攻に抗議した。 ロイター通信などによると、退席を主導したのはウクライナの大使で、日本や米国、英国などの外交官が賛同した。演説中に議場に残ったのは、ロシアのほか、中国やシリア、ベネズエラなどわずかな国の外交官にとどまった。(後略)【3月2日 読売】********************
国家関係での孤立だけでなく、外国民間企業もロシアから撤退する動きが広がることが予想されます。
****経済制裁の影響広がる イギリスの大手石油会社がロシアと共同の開発事業から撤退を表明****ロシアへの経済制裁の影響が広がっている。イギリスの石油大手『シェル』は、日本企業も参加する石油天然ガス開発事業「サハリン2」から撤退すると発表した。
シェルは28日、ロシアでの全ての事業から撤退し、ロシア国営ガス会社『ガスプロム』と共同で開発してきた、極東での石油天然ガス事業「サハリン2」の合弁事業も解消すると発表。アメリカやEUなどによる制裁が強まり、これ以上の事業継続は難しいと判断したという。 この事業は、年間約1150万トンのLNG(=液化天然ガス)を生産し、中国や日本に輸出する巨大プロジェクトで、シェルの最高責任者は「軍事侵攻の結果、ウクライナで人命が失われている」とロシアを非難する声明を出している。【3月1日 ABEMA Times】********************
“英国、ロシア船舶の入港禁止へ…運輸相「ウクライナでの行動を考えれば歓迎されない」”【3月1日 読売】“カナダ、ロシア産原油の輸入禁止へ ウクライナに武器追加供与”【3月1日 ロイター】
スポーツの世界でも“FIFA、ロシアを出場停止=W杯予選に参加できず”【3月1日 時事】“IOCロシア排除 予想外に厳しい措置に転換 選手の声に押され”【3月1日 毎日】
あらゆる分野でロシア排除、ロシアの孤立化が急速に進んでいます。
【動揺する市民生活 政権周辺のオリガルヒ(新興寡占資本家)からも批判が】こうした状況で、特に信用不安や通貨ルーブルの相場暴落で、ATM前に現金・外貨を求める市民の列ができるなど、ロシアの市民生活にも大きな動揺が生じています。
****「ドルがない、どうしたらいいかわからない」 対ロシア制裁が市民に与える影響****ウクライナ侵攻を受け、西側諸国はロシアに経済制裁を科した。その影響を、一般市民も感じ始めている。「今すぐにでもロシアを離れられるのならそうしたい。でも仕事は辞められない」と、アンドレイさん(31)は言う。金利が上がった今、モスクワで住宅ローンを支払うのは難しくなるだろう。
隣国ウクライナに侵攻したロシアに対し、西側諸国は経済制裁を科している。アンドレイさんのようにその影響を感じ始めているロシア人は何百万人もいる。
「できるだけ早く海外で新しい顧客を見つけて、最初の支払いに充てようと貯めていた資金でロシアを出ようと思っています」と、工業デザイナーのアンドレイさんは明かした。「私はここで怯えています。党の方針に対する反対意見を口にして逮捕された人もいるので。恥ずかしく思います。いま政権を担っている人たちに私は投票すらしませんでした」
経済戦争ロシアを標的とした今回の制裁は、経済戦争だと言われている。西側諸国による制裁はロシアを孤立させ、同国に深刻な不況をもたらすことを目的としている。西側の指導者たちはこの前例のない措置を講じることで、ロシア政府の考え方に変化をもたらせることを期待している。
その影響はロシアの一般市民に及んでいる。貯蓄はなくなり、生活はすでに崩壊しつつある。ロシアの一部銀行に対する制裁措置には、クレジットカード会社のビサやマスターカード、ひいては決済サービスのアップル・ペイ、グーグル・ペイからの締め出しも含まれる。
モスクワでプロジェクトマネージャーとして働くダリアさん(35)は、制裁の影響で地下鉄を使えなくなったという。「いつも携帯電話で支払っているのですが、使えなくなりました。他にも同じような状況の人がいました。制裁下にあるVTB銀行が運営しているものだったので、グーグル・ペイやアップル・ペイを受け付けなくなってしまいました」(中略)「(地下鉄と)同じ理由で、お店で買い物をしたときも携帯電話では支払えませんでした」。
経済制裁を受け、ロシアの通貨ルーブルは2月28日、対米ドルで過去最安値に落ち込み、ロシア中央銀行が政策金利を2倍以上の年20%に引き上げる事態となった。大量の売り注文が懸念され、ロシア関連銘柄の取引は停止されたままになっている。
ロシア政府は制裁を乗り切るのに十分な資源を確保しているとしているが、にわかに信じ難い。ロシア中央銀行は先週末、国民による取り付け騒ぎを懸念し、冷静さを保つよう求めた。
「ドルもない、ルーブルもない。何もない! ルーブルはあるけれど、そんなものに興味はない」と、モスクワのATMに並んでいた20代後半のアントンさんは言った。「この先どうすればいいかわかりません。北朝鮮やイランのようになってしまうのではないかと不安です」(後略)【3月1日 BBC】*********************
プーチン強権支配のもと政治から疎外されている一般市民だけでなく、プーチン政権を支えてきた富豪のオリガルヒ(新興寡占資本家)からも今回の軍事行動に否定的な声が出始めています。
****露経済、制裁で大混乱 底つくATM、一部富豪も「反戦」****ウクライナ侵攻をめぐる米欧の対ロシア制裁を受け、ロシア経済が早くも大混乱の様相を呈している。露通貨のルーブルは暴落し、国民は銀行のATM(現金自動預払機)に長蛇の列をつくった。プーチン政権を支えてきた富豪のオリガルヒ(新興寡占資本家)からも今回の軍事行動に否定的な声が出始めた。
過去1年間、おおむね1ドル=70ルーブル台前半で推移していたルーブルは侵攻初日の2月24日、1ドル=90ルーブル近くに下落。ロシアの主要金融機関を国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から切り離すとの米欧日の方針決定を受け、28日には一時1ドル=120ルーブル近くに下がった。
専門家の間では、SWIFTからの排除により、今年のロシアの国内総生産(GDP)は少なくとも3%縮小するとの見方が強まっている。
露中央銀行は28日、政策金利を9・5%から20%に引き上げると発表。通貨安に伴うインフレを抑えるのが目的だが、同時に景気を冷え込ませるのは必至だ。今回の制裁で対象となっている露中銀は外国為替市場でルーブル買い支えの介入を行うことが難しく、今後もルーブル安は進行するとの観測が強い。
プーチン大統領は同日、輸出企業などに対し、今年1月以降に得た外貨収益の80%を売却するよう義務づける大統領令に署名した。
一般国民の間では、クレジットカードを使えなくなったり、通貨安が進んだりすることへの不安が広がり、手持ちの現金や外貨を増やす動きが加速している。28日には各地でATMの現金が底をつき、引き出し不能となった。
オリガルヒの一部からも侵攻を批判する声が上がる。露アルミニウム大手「ルスアル」創業者のデリパスカ氏は27日、自身のSNS(会員制交流サイト)で「平和が重要だ。早く停戦交渉を始めるべきだ」と表明。28日にも「(ウクライナ南部クリミア半島をロシアが併合し、制裁を受けた)2014年は耐えられたが、今回は無理だ」と危機感を示した。
27日の英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)によると、露金融大手「アルファ・グループ」総帥のフリードマン氏(3月1日辞任)も「戦争は何も解決せず、数百年間も兄弟関係だった両国民を傷つける」とするメッセージをロンドンの従業員に送った。【3月2日 産経】**********************
【ロシア当局は情報統制 反戦デモは封じ込め しかし、いつまでも隠せない実態】政権側は、国民の目から今回ウクライナ侵攻の情報を隠そうとしているように思われます。
****ロシアの「侵攻」国民は知らず? ウクライナ側のサイト接続悪く...****(中略)ロシアでは、停戦協議については報じられているが、侵攻については報じられていない。ロシア国営テレビなど主要メディアの報道は、親ロシア派武装勢力が支配しているウクライナ東部の情報ばかりで、民間の建物が攻撃を受け死者が出ていることなど一切報じられていない。
そのため、ロシアの人は、ロシア軍がウクライナに侵攻していると認識している人はほとんどいない。むしろ、ウクライナが大量虐殺しているというプーチン政権のプロパガンダを信じている人が多い。
若い人はSNSなどで情報を入手しようとしているが、ウクライナ側のサイトは接続状況が悪く、写真や動画が更新されにくい状態。
正式発表はないが、ロシア当局が「フェイク」としてブロックしている可能性がある。ロシアは徹底的な情報操作で世論を誘導し、国内からの反発を抑え込もうとしている。【3月1日 FNNプライムオンライン】******************
そうした情報操作の甲斐あってか、ロシア国内ではウクライナ侵攻を支持するという声が多い・・・という(政府系)世論調査も報じられています。ただ、その信ぴょう性には疑問も持たれています。
****侵攻「国民68%が支持」 露政府系世論調査****ロシアのウクライナ侵攻で、露政府系機関「全ロシア世論調査センター」は2月28日、68%の国民がウクライナへの「特別軍事作戦」を支持している−とする世論調査結果を発表した。侵攻をめぐる世論調査結果が公表されるのは初。
発表によると、調査は25日と27日、18歳以上の露国民各1600人を対象に電話で実施。25日の調査では、作戦への「支持」は65%だったが、27日は68%に上昇。「不支持」は25日の25%から27日は22%に減少した。
「作戦の目的は何だと思うか」との質問では「ウクライナ東部の親露派地域の住民を守るため」が26%でトップ。「北大西洋条約機構(NATO)の軍事基地をウクライナに建設させないため」と「ウクライナの非軍事化・ロシアの安全確保」がともに20%で2位だった。
ただ、今回の調査結果が客観的なものかは疑問だ。
露国内では侵攻の約1週間前から、政権の統制下にある国営テレビが「ウクライナは親露派住民を弾圧してきた」などと侵攻を正当化するプロパガンダ(政治宣伝)放送を大々的に実施。政権側は反戦デモも弾圧し、これまでに少なくとも全国約70都市で参加者計約6500人(露人権団体集計)を拘束した。
さらにウクライナメディアなどへのインターネット接続が遮断されている上、露国防省はロシア軍の死傷者数を公表していない。同センターの調査は政権側の統制下にあるとも指摘されている。【3月2日 産経】********************
「制裁措置で軍事行動をやめた事例はない」とも言われますが、今回制裁はロシアをかなり強力に締め上げる効果があります。長期的にはロシアの疲弊・没落を招き、アメリカの思うつぼ・・・のようにも思えます。
いずれにしても、前出のような経済混乱が広がり、食料・生活用品の価格が上昇し、企業活動が停滞・失業も増加といった事態になってくれば、また、ロシア軍被害の実態もやがては明らかになってくると思われますので、ロシア世論の流れも変わることも想像されます。
少なくとも今回は、2014年のクリミア併合のときのように、プーチン政権支持が一気に高まる・・・といった状況とは様相が異なるように見えます。
各地に広がる反戦デモは、当局は力で封じ込める姿勢です。
****ロシア反戦デモ、4千人超拘束 抗議拡大を阻止****ウクライナ侵攻を受けてロシア各地で広がっている反戦デモで、当局に拘束された参加者がこれまでに40以上の都市で計4200人を超えたと、ロシアの人権団体「OVDインフォ」が27日明らかにした。当局は反戦ムードの拡大阻止に躍起になっている。 デモに加わると拘束されるとの懸念からソーシャルメディアで反戦の意思表示をする人も多く、女性が「戦争反対」と書かれたバッグを持つ写真が投稿されたりしている。ただデモを「無許可で違法」と見なす当局の規制やメディア統制のため、抗議活動の広がりは限定的だ。【2月28日 共同】******************
****反戦デモ、毎日実施せよ=ナワリヌイ氏呼び掛け―ロシア****ロシアで収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏は2日、ロシア軍のウクライナ侵攻に抗議する反戦デモを毎日、各都市の中心部で行うようロシア国民に呼び掛けた。インスタグラムに投稿した。 ナワリヌイ氏は「われわれロシアは平和な国でありたいと思っているが、今やそのように言う人は少ないだろう」と指摘。プーチン大統領を「われわれの狂った皇帝」と表現し、「(プーチン氏が)ウクライナに対して繰り広げた侵略戦争に気付かないふりをする臆病者」になってはならないと訴えた。【3月2日 時事】****************
プーチン大統領としても、こうした国内状況を考えると、軍事作戦の長期化は政権基盤を揺るがすことにもなりかねず、何らかの「成果」を停戦協議で得られれば、最終目標に拘らず事態を収束させる可能性も考えられます。
そうした状況に構わず突き進む・・・ということであれば、もはや常軌を逸しているという見方も現実味が増します。