
【「世界最大の人道危機に」 国民6割が援助必要】これまでも再三取り上げているように、イスラム主義勢力タリバンが実質統治するアフガニスタンでは、政変による経済混乱、国際社会の支援停止、干ばつ、コロナ禍などの悪条件が重なり市民生活の困窮が深刻化しています。(1月24日ブログ“アフガニスタン 困窮する市民生活 問題が多いタリバン支配 今後に向けて欧米諸国との協議開始”など)
****「世界最大の人道危機に」 国連が警告、アフガン政権崩壊から半年****イスラム主義勢力タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧し、ガニ政権を崩壊させてから2月15日で半年になる。 現地では行政機能のまひや医療崩壊、干ばつ、食糧難が同時発生。シリアやイエメンなどを超える「世界最大の人道危機になりつつある」と国連は警告している。 (中略)タリバンは暫定政権の主要閣僚のポストを独占。国連が制裁対象とする幹部が名を連ねた。女性や少数派は事実上排除された。国際社会が求める包括的な政権づくりには遠く、どの国もタリバンを正当な政権として承認していない。 国際社会の批判をかわしたいタリバンは、記者会見で「女性の就労や教育の権利を尊重する」と宣言したが、約束を守っていない。
保健や教育分野を除く女性公務員に自宅待機を命じ、中高生にあたる女子生徒の通学を認めていない。女性は一人で外出してはならず、親戚男性の同伴が求められる。こうした制限に抗議する人権活動家の失踪が相次いで報じられている。 テロを頻発させてきたタリバンが統治する側に回ったことで、戦闘や爆発の件数は減った。ただ国連の1月の報告書によると、タリバンの統治を認めない過激派組織「イスラム国」(IS)支部の攻撃が昨年8〜12月に152件あり、前年同期の約8倍に。同期間に少なくとも民間人1050人が死傷したという。 経済は行き詰まっている。国家予算の約半分を国際支援が支えてきたが、タリバン復権を受けて米国がアフガン中央銀行の資産を凍結したり、世界銀行や国際通貨基金が送金を止めたりした。街の銀行では現金が不足し、引き出し制限がかかっている。 資金不足は医療福祉の現場にも影を落とす。世界保健機関(WHO)によると、昨年9月の時点で既に国内の医療施設約2300カ所のうち2千カ所が閉鎖の危機に陥った。 折からの干ばつや政変に伴う貿易の停滞で食糧難も深刻だ。国連児童基金(ユニセフ)は今年中に5歳未満の子供の2人に1人が栄養失調に陥ると予測する。 日本や欧米諸国などは現地大使館を一時閉鎖した。アフガニスタンにいる自国民を保護し、人道危機を和らげるためにタリバンとの接触は続けており、人権を守るよう働きかけている。【2月12日 朝日】*********************
根本的な解決策はともかく、差し当たりは国際社会の支援で“命をつなぐ”しかありません。
****アフガン、国民6割が援助必要=22年も人道危機続く―国連報告書****
国連のグテレス事務総長は2日、イスラム主義組織タリバンが支配するアフガニスタンに関する報告書を公表した。報告書は、人道支援を求める人々が今年は昨年より増加し、国民の約6割に達する恐れがあると指摘。過激派組織「イスラム国」(IS)系武装勢力の活発化も警告した。 報告書によると、昨年8月中旬にタリバンが政権を奪取したことに伴う混乱に干ばつや新型コロナウイルスの流行が重なり、人道支援が必要な人は昨年末時点で国民の4割を超え、1800万人以上に膨らんだ。今年は6割近い2400万人以上が支援を求める「厳しい状況が続く」見通しだ。【2月2日 時事】 ********************
【アメリカ、人道支援目的のアフガン送金を許可】しかしながら、女性の人権などの表向きの融和姿勢に反して“約束を守らない”タリバンに対し、国家承認はもとより、人道支援についても国際社会の対応も滞りがちです。
****タリバン「女性の安全確保」強調 アフガンで6命令、抑圧否定****イスラム主義組織タリバン暫定政権下にあるアフガニスタン勧善懲悪省のハーケフ・モハジル報道官は6日までに、女性だけでの長距離移動禁止など六つの命令をこれまでに出したことを明らかにし「女性の抑圧ではなく安全確保が目的だ」と主張した。昨年8月の実権掌握から15日で半年となるのを前に首都カブールで共同通信と単独会見した。 2001年に崩壊した旧政権時代、宗教警察の役割を担う勧善懲悪省は恐怖政治の象徴だった。国際社会は女性の人権状況を懸念、暫定政権を承認していない。報道官は、教育や就労など女性の全ての権利を尊重していると強調した。【2月6日 共同】**********************
さはさりながら、アフガニスタン国民の命には代えられない・・・ということもあって、人道支援強化の取り組みも始まっています。
****米政府、人道支援目的のアフガン送金を許可*****米政府は2日、アフガニスタンの人道支援目的の送金を銀行に認めると表明し、支援団体が国営機関の教師や医療関係者に支払いを行っても制裁違反にならないと明らかにした。
米政府はタリバンに制裁を科しており、銀行はアフガンへの送金に慎重になっていた。国連や支援団体は十分な活動資金を現地に支給できない状態となっている。【2月3日 ロイター】********************
アフガニスタン前政権の資産を人道支援に振り向ける動きも。
****米、8千億円のアフガン資産凍結 人道支援と9.11遺族に*****ジョー・バイデン米大統領は11日、アフガニスタンの前政権が米国内に保有していた資産70億ドル(約8100億円)を凍結する大統領令に署名した。
凍結資産の半分はアフガンでの人道支援に活用し、残り半分は2001年の米同時多発攻撃の犠牲者遺族への賠償に充てるという異例の措置を取る。 凍結された資産は、昨年イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンで実権を掌握して以来、ニューヨーク連邦準備銀行に預けられたままとなっていた。米政府関係者によると、前アフガン政権への支援金が大半を占める。 ホワイトハウスによれば、バイデン氏は凍結資産のうち35億ドル(約4100億円)をアフガン国民に対する人道支援に充てたい考え。 米国では、同時多発攻撃の被害者や犠牲者の遺族からなる複数のグループが、攻撃を実行した国際テロ組織アルカイダと同組織をかくまっていたタリバンを相手取り訴訟を起こし、被告の欠席により勝訴していたが、賠償金の回収には至らなかった。今回の大統領令により、凍結資産を使った賠償を求め提訴が可能になる。 ホワイトハウスは「資産は米国内にとどまり、米国のテロ被害者が続けている訴訟の対象となる。原告は法廷で主張を審理される十分な機会を与えられる」と説明。ある高官は「前例がない」措置だと指摘した。 【2月12日 AFP】*******************
これまでは人道支援を目的とする現地への資金提供も下記のように難しい状況でしたが、前出のアメリカ政府の人道支援目的のアフガン送金を許可する方針により、若干改善は見られるかも。
****支援目的の送金、解禁されたが****最大の懸案は、現地への送金が滞っていることだ。タリバンに制裁を科している国連安全保障理事会は昨年12月、人道支援を目的とする現地への資金提供は、制裁決議の違反にはあたらないとする決議案を全会一致で採択した。 NGOによる現地への資金提供ができるようになると期待されていたが、(国際NGO「JEN]事務局長)木山さんによると、銀行を通じた送金は今なおできないという。安全な水を確保するための井戸や給水所の建設工事を進めようにも、地元で作業してくれている人たちへの支払いが滞ってしまう。【2月12日 朝日】********************
【金欠で子ども売る家族も】以下、アフガニスタン市民生活の窮状と女性の教育を受ける権利が侵害されている状況に関する報告を2件。
****金欠で子ども売る家族も 人道危機のアフガン、日本のNGOが支援****アフガニスタンは国土の半分が険しい山で覆われている。12月から2月にかけては気温がマイナス20度まで下がる地域もある。
「食べる物がない。でも暖を取らなければ凍えてしまう。人々は生死をかけ、薪を求めて長い距離を歩いています」 現地で人道支援にあたるNGO「CWS JAPAN」(東京)の男性スタッフ、サフィさん(45)は1月14日、朝日新聞のオンライン取材に訴えた。
昨年8月15日にイスラム主義勢力タリバンが政権を崩壊させたアフガニスタンでは、長引く干ばつで、全土的に穀物が不足している。主食のナンの原料となる小麦さえ足りていない。ナン1枚を元の値段のまま半分のサイズで売っている店もある。
270万円を75家族に「CWS JAPAN」は昨年末にクラウドファンディングで募った270万円を、収入を失ったり栄養失調の子がいたりする東部ナンガルハル州の75家族に現地通貨アフガニで配った。 日本から遠隔で事業を統括する小美野剛事務局長は「それぞれの家庭で必要な物資が異なるため、このような緊急時は現金の給付の効果が大きい」と話す。
給付にあたったサフィさん自身、ソ連軍のアフガニスタン侵攻にともなう混乱で、1981年にアフガニスタンから隣国パキスタンに家族で逃れた経験がある。その際は山中を2週間近くさまよい、父親が動けなくなった。父親は「後から行くから先に逃げてくれ」と言い、家族は父親をおいて進んだ。 後にパキスタン側で父親と再会したが、その後の難民生活は19年続いた。当初はテントすらなく、野ざらしで暮らしたという。
「子どもたちを頼む」事件前夜の電話 極秘文書が見抜いた殺害計画いまアフガニスタンでは、タリバンの支配を恐れたり、干ばつで土地が干上がったりして、避難民になる人たちが再び増えている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、昨年1年間で68万人以上が国内避難民となったという。 さらに心配なことも起きている。サフィさんによると、売れる家財がなくなって金欠に陥った家族の中には、余裕のある家に子どもを預けたり、売ったりするケースも出ているという。
「イスラム国」の脅威心配政変が起きた昨年は小麦の種まきが遅れたことから、今年の収穫も絶望視されている。サフィさんは「緊急の食料支援はもちろん大事だが、農業を復活させるための中長期の展望も忘れてはならない」と訴える。 国際NGO「JEN(ジェン)」(東京)は2001年以降、ナンガルハル州などで壊れた学校の再建のほか、井戸や給水所の整備などを続けてきた。タリバンが権力を握った後も、現地スタッフ約30人が支援活動を続けている。 「人道支援の重要性はタリバンも理解しており、現場で命の危険を感じたスタッフはいなかった。ただ、(タリバンと対立する過激派組織)「イスラム国」(IS)の脅威にさらされるのではないかと心配している」と木山啓子事務局長は語る。
支援目的の送金、解禁されたが(中略)「与える支援より支える支援」との理念のもと、物資の配給はこれまであまりしてこなかったが、今回は緊急度が高いと判断して食料支援を実施。クラウドファンディングで約500万円を集め、1千戸近い家庭に小麦粉や油、砂糖などを配っている。 壊れた学校の再建では、校舎やトイレ、貯水槽の整備も進める。現地では外壁がない教室も多く、男性の視線にさらされることを嫌う女児が通学をあきらめることがある。女児のトイレが備わった学校も少ない。こうした校舎の整備は、女児の学びに欠かせない。(中略)
同会は緊急の食料支援も行ったが、広報担当の吉澤有紀さんは「タリバンは一枚岩ではなく、仮に幹部が活動に理解を示しても、現場の戦闘員が活動を妨害することもありえる」と支援の難しさを語る。
中村哲さん支えた「ペシャワール会」も故・中村哲医師の医療支援や用水路建設を長年支えてきたNGO「ペシャワール会」(福岡市)もナンガルハル州で緊急食糧支援を決めた。1カ月分の小麦粉や米、豆などを1800世帯分、配る計画だという。 世界食糧計画(WFP)は昨年10月の報告書で、人口の半数以上にあたる2280万人が深刻な飢餓に陥るおそれがあると予測。「世界最悪の人道危機」が迫っていると警告した。 国連人道問題調整事務所(OCHA)は、アフガニスタンの人道支援に今年約44億ドル(約5100億円)が必要だと訴えている。 米軍の撤退とタリバン復権にともなって、これまで支援を注いできた欧米各国や日本は、現地大使館を一時閉鎖するなどアフガニスタンへの関与が弱まった。 そんななか長年の活動で培ったスタッフの人脈と、日本から届く寄付を支えに、現地に踏みとどまるNGOの活動は、人道危機のなかで生き抜く人たちの、最後の命綱になっている。【2月12日 朝日】*********************
【女子教育停止 「いつか私はドクター・ナカムラのようになる」】****(混迷の十字路 アフガン政権崩壊半年:上)「父との約束」許さぬタリバン****イスラム主義勢力タリバンがアフガニスタンの政権を崩壊させてから2月15日で半年となる。力ずくで権力を奪ったタリバンへの国際援助はわずかで、食べ物や薬が足りていない。タリバンを正当な政権として承認した国はなく、国家運営は行き詰まりつつある。
■「ドクター・ナカムラのように」 でも女子中高生は通学できず国際社会が特に問題視しているのが女子教育だ。男性優位の思想を持つタリバンは、女子小学生の通学こそ認めたが、女子中高生の通学を許していない。 学びの場を奪われた女子の中には、同国東部で人道支援に尽くした故・中村哲さんにあこがれ、医師を目指してきた少女もいる。 中村さんと共に亡くなった運転手ザイヌラさん(当時34)の長女ムスカさん(14)。3日、朝日新聞助手の電話取材に答えた。 ムスカさんによると、ザイヌラさんは生前、中村さんがその日何をしたか伝えるのが日課だった。最後には決まってこう語りかけた。「一生懸命勉強して、ドクター・ナカムラのような立派な人になるんだよ」 ザイヌラさん亡き後、一家の収入は途絶えた。学費が払えず、ムスカさんは私立から公立に転校。それでも「父との約束」を果たすため勉強に励んだ。 ところがタリバン復権で授業が止まった。家にこもり、料理や掃除を手伝った後、教科書を独りで読み返す。「楽しかった学校を思い出すと泣いてしまう」が、父の生き様を思い、心を奮い立たせる。「いつか私はドクター・ナカムラのようになる。貧しくて弱い立場にある人々を助けるお医者さんになる」 母ホマさん(36)は「また学校が始まる時が来るよ」と励ます。保健と教育分野を除けば女性の働き口はほとんどない。食べるものがナンと紅茶だけの日もある。「子供の教育だけは続けさせてあげたい。それが夫の願いだったから」。大切な金の結婚指輪やカーペットを売ってしのぐ。 中村さんと共に亡くなった警官マンドザイさん(当時36)の長女ファティマさん(15)も同じ境遇だ。村には診療所がなく、女性の医師もいない。「医師になって貢献したい」と願う。 ファティマさんは英語を身につけ、外国で医師免許を取ることを夢見る。だが今は親戚に頼り、日々食べていくので精いっぱいだ。 教育を阻む壁は他にもある。少数派シーア派が住むカブール西部の女子校で昨年5月、女子生徒ら少なくとも86人が死亡する爆破テロがあった。周辺ではシーア派を敵視する過激派組織「イスラム国」(IS)による攻撃が続いてきた。 女性教師のサキナ・ハワリさん(40)によると、爆破テロとタリバンの復権を受け、校長を含む教師が次々と国外へ逃れた。 ハワリさんは「学校がいつ再開するか聞かれても答えられず、心が痛みます。彼女たちに希望を与えることさえできない……」と嘆く。生徒は「学校に戻りたい」と訴えているという。 ハワリさん自身、思春期を挟む20年間、隣国イランで難民生活を送り、紛争に翻弄(ほんろう)された。教育の力を信じ、現地に踏みとどまるつもりだ。「子供一人ひとりに素晴らしい未来がある。タリバンにそれを奪う権利はない。私は命ある限り、子供たちに寄り添います」
■「苦しむのは子どもや女性たち」世界最大の人道危機指摘も病院に運ばれてくる子供たちの腕は、枯れ枝のように細く、かさかさに乾いていた。目は落ちくぼみ、意識のない子供もいた。 小児科医の岩川真由美さん(68)は昨年9月から3カ月間、国際NGO「国境なき医師団」の一員としてアフガニスタン西部ヘラートの公立病院で主に5歳以下の子供たちを診療した。(中略)
岩川さんは、医療崩壊を食い止めるには「国際社会の支えが必要だ」と訴える。「タリバンにお墨付きを与えられないという理由で援助を止める理屈はわかるが、実際に苦しんでいるのは最も弱い立場にある子供や女性たちだということを知ってほしい」 郡部の医療事情はさらに深刻だ。山深い北東部パンジシールの公立病院で働く医師のミラドさん(28)によると、この半年で病院の医師や看護師の2割ほどが国外へ脱出した。 病院に来る子供の多くが激しくせき込み、栄養が足りていない。「仕事も食べ物も十分にない状態がどこまで続くのか。外国に逃げたいが、ふるさとの人たちを見捨てられない」(後略)【2月13日 朝日】***********************