
【タリバン関係者がTV放送で女性キャスターのインタビューを受ける】アフガニスタンでタリバンが実権掌握したことに関しては、タリバンはどういう統治を行うのか? 女性の権利は? 報復は?国際社会はタリバン支配にどのように対応するのか? 支配を承認するのか? 人道支援は?タリバン支配を恐れて国外に脱出する人々をどのように受け入れるのか?アフガニスタン撤退の混乱は、アメリカ・バイデン政権にどのような影響を与えるのか?等々、多くの視点からの問題があります。
まずは、一番目の“どういう統治を行うのか?”というあたりから見ていきます。その統治内容によっては、他の問題も大きく影響されます。
2番目の“国際社会の対応”も、タリバンがどういう統治を行うかによって大きく変わりますし、そこを見極めてから動こうとする国も多いでしょう。
また、タリバンからすれば、国際社会からの承認を得て、資金的な支援を得るためには、統治内容についても一定に国際社会が納得する形で無ければならないということにもなります。
更には、統治のあり方によっては、今後多くの難民を生むことになり、受け入れ態勢が必要になります。また、バイデン政権にとっても、撤退の結果生じたタリバン支配の実態によって、撤退の評価も変わってきます。女性の権利が再び奪われる、多くの報復が行われることになれば、撤退政策がよかったのか?という疑問を惹起します。
一言で言えば、「今の段階では」タリバン指導部は、旧タリバン政権時代とは異なる融和的な姿勢を見せています。
17日には、タリバン関係者が女性キャスターのインタビューを受けるという、これまでからすると“珍しい”光景がテレビ放映されました。
****タリバン関係者、女性とTV出演 国際社会の目を意識?****アフガニスタンで首都を占拠し、権力を掌握したイスラム主義勢力タリバンが、女性の人権への配慮をのぞかせるような姿勢を見せている。女性の人権をないがしろにした旧政権時代のイメージを薄め、国際社会に柔軟性をアピールする狙いとみられる。 AP通信によると、タリバン幹部は17日、支配下に置いた国営テレビに登場し、「我々は女性を犠牲者にはしたくない」と語った。さらに「イスラム法の範囲内で」という条件を付けた上で、「女性は統治機構に参画すべきだ」として、女性を公職から排除しない考えを明らかにした。 こうした発言の背景には、政権の座にあった1996~2001年に、タリバンが女性の教育を禁じたり、社会進出を妨げたりしたことが国際社会からの批判を浴び、政府承認を取り付けられなかった経緯がある。
異様な取り合わせ、SNSに驚きの声地元の有力民報テレビ「トロ」の番組では17日、前日は画面に姿を現さなかった女性キャスターが番組に復帰した。
番組内では、女性キャスターのインタビューに応じる形で、タリバン系メディアに所属する男性が出演。「(タリバン執行部は戦闘員に)人家に侵入したり、他人の財物を奪ったりすることを禁じている」「政権が崩壊した後、治安は改善した」などと強調した。 女性キャスターとタリバン関係者が画面に並ぶのは珍しく、異様な取り合わせにSNSで驚きの声が上がった。ただ、国営テレビの番組は16日に続いて17日も、女性キャスターが登場していない。 同テレビの幹部は、朝日新聞の取材に「テレビ局はタリバンの傘下に入った。番組では女性キャスターに代わって、男性を使うことになった。男性であっても、ひげのない男性やネクタイ姿の男性は使えない状況だ」と明かした。
「国民の命はタリバンが守る」 英語で連日ツイート社屋にはタリバン構成員が常駐するようになったといい、配下に収めた国営テレビに対しては、統制を強める考えだとみられる。 タリバン執行部の一人は連日、「国民の命や財産はイスラム戦士(タリバン戦闘員)が守らなければならない」などと英語でツイートしている。英語を理解できるタリバン戦闘員はほとんどいないとみられることから、ツイートは対外的なアピールの側面が強い。 タリバンとしては、国際社会から批判を浴びかねないテーマで柔軟性を強調していくことで、将来的に諸外国からの政府承認を取り付けたい考えとみられる。【8月17日 朝日】********************
上記放送では女性キャスターは顔全体を覆うブルカではなく、髪だけ覆うヒジャブを着用してしました。
旧タリバン政権時代は、女性は顔全体を覆うブルカを強制され、学校で学ぶことや仕事につくことはもちろん、夫や親族男性の同伴がなければ外出もできない・・・といった状況でしたが、新タリバンは柔軟な姿勢も見せています。
****タリバン、女性へのブルカ強制を否定 ヒジャブは必要に****アフガニスタンを制圧した旧支配勢力タリバンは17日、女性に対し全身を覆う衣服「ブルカ」の着用を強制しない方針を示した。タリバンは旧政権時代には、ブルカ着用を義務付けていた。
1996〜2001年のタリバン政権下で、女性は移動を制限され、教育や就労を禁じられたほか、公共の場ではブルカの着用を義務付けられた。
カタールの首都ドーハを拠点とするタリバン政治部門のスハイル・シャヒーン報道官は英スカイニューズに対し、「ヒジャブ(ベール)とみなされるのは、ブルカだけではない。ブルカに限らず、ほかの類いのヒジャブもある」と語った。
ブルカは頭を含む全身を覆う衣服で、目の部分には網目の窓があり周囲が見えるようになっている。タリバンが15日の首都カブール制圧後、ブルカ着用を強制しない方針を示したのは初めて。ただしシャヒーン報道官は、タリバンが容認するヒジャブの種類については明言しなかった。【8月18日 AFP】******************
また、崩壊した政権の職員らに向けた声明で「恩赦」を宣言し、職場復帰などを求めています。
****タリバン、崩壊政権の職員らに職場復帰求める…新体制づくりに着手****アフガニスタン全土を制圧したイスラム主義勢力タリバンは17日、崩壊した政権の職員らに向けた声明で「恩赦」を宣言し、職場復帰などを求めた。深刻な女性差別など国際社会の懸念を意識し、国民を懐柔しつつ、新体制づくりに乗り出したとみられる。 AP通信は17日、タリバン指導部「文化委員会」のメンバーが、「女性は政府機構に加わるべきだ」と述べたと伝えた。首都カブール制圧に伴い、多くの国民が国外脱出を図っていることに、タリバンが危機感を抱いている可能性がある。 アシュラフ・ガニ大統領が国外退避した後も、政権メンバーの一部は国内に残っている。AP通信によると、タリバンは政権ナンバー2のアブドラ・アブドラ国家和解高等評議会議長や大統領経験者のハミド・カルザイ氏らと新体制に向けた協議に入った。タリバンがパキスタンで、アフガンの各民族指導者らと協議しているとの情報もある。(後略)【8月17日 読売】**************************
【謎に包まれていたタリバン幹部 記者会見で融和的方針示すも「イスラム法の範囲内で」】17日には、これまで公の場に現れたことがなく、謎に包まれていたタリバンの報道担当のザビフラ・ムジャヒド幹部が記者会見を開き、“イスラム法の範囲内で”という条件付きながら、女性や恩赦など、前述のものと同様の融和的な考え方を示しています。ただし、その具体的な内容は未だ不明です。
****タリバン初の会見を読み解く 女性尊重や恩赦、本当か****

イスラム主義勢力タリバンが17日、アフガニスタンで権力を掌握して初の記者会見を開いた。姿を見せたのは、これまで公の場に現れたことがなく、謎に包まれていた報道担当のザビフラ・ムジャヒド幹部。その発言に世界の注目が集まった。 ムジャヒド幹部は会見で何を語ったのか。武力で政権を崩壊させたタリバンは、これからどう国家運営を進めるつもりなのか。敵対してきた国内各派や、抑圧してきた女性の扱いはどうなるのか。発言の裏に込められた意図を読み解く。
タリバン、会見で融和アピール 謎だった幹部が公の場に17日夜、カブール市中心部の外務省の向かいにある報道センター。ターバン姿のムジャヒド幹部は、黒くて長いひげを蓄えていた。会見場の正面に設置された長机の中央に座り、集まった数十人の報道陣を見渡した。 これまでムジャヒド幹部の所在は秘中の秘。写真も出回ったことがなく、タリバン幹部の中で最も謎めいた人物の一人だった。ムジャヒド幹部はカメラの位置を目で確認した後、現地のパシュトゥー語で淡々と語り始めた。 ひとこと目に発した言葉は、勝利宣言だった。「我々は(米軍など)外国部隊を追い出した。国民とこのことを祝いたい。国民にとっての誇りだ。自由と独立の追求は、どの国にも認められた正当な権利だ。占領からの解放を求め、20年にわたって苦悩した末、我々はこの正当な権利を遂行した」 タリバンは20年間、米軍をはじめとする外国部隊を「侵略者」、その支援を受けるアフガン政府を「傀儡(かいらい)」と呼んで戦った。外国部隊を追い出すことは、戦いを続ける大義だった。 人権については、どう語るのか。タリバンは、政権の座にあった1996~2001年、女性の教育や社会進出を妨げて国際的な批判を浴びた。
政権崩壊後の2001年以降は反政府武装勢力となり、「市民を傷つけない」と言いながら民間施設を標的に自爆テロを頻発させた。会見で話す内容はうのみにできないが、ムジャヒド幹部は、こう語った。 「女性にかかわる問題は非常に重要だ。イスラム法の範囲内で、女性の権利を尊重する。男性と女性は同じ権利を持つ。我々のルールや制限のもと、女性は様々な活動ができる。教育分野や保健分野などだ」「一定の枠内で働き、学ぶことができる」 女性の人権に配慮をのぞかせてはいるが、いずれもイスラムの教えにもとづく「制限」や「枠」の範囲内、という条件付きだった。何が認められ、何が認められないかはタリバン次第で、依然としてはっきりしない。 この点について、会場の記者から「女性はメディアで働くことが許されるのか?」と質問されると、ムジャヒド幹部は「新政権が樹立されるまで待つように」と回答を避けた。女性の権利に何らかの縛りがかかる可能性が高い。
「国民が爆破を許すと思っているのか」との質問に表現の自由については「民間の報道機関は自由で独立した活動を続けていい」としたが、報道にあたって従うべき3原則も提示した。 一つは「イスラムの価値に反しないこと」、二つ目は「公平であること」、三つ目は「国益や国家統合に反しないこと」。「我々の向上のために批判をしても構わない」と付け加えたが、これも何が原則に反するかはタリバンが決めるので、報道に一定の萎縮効果をもたらす。 ムジャヒド幹部は、「恩赦」についても言及。これまで敵対してきた政府軍や警察、政治家など全ての国民の罪を許すと強調した。 「タリバンと戦った全ての人に恩赦を与える。紛争を繰り返したくない。誰にも敵意は向けない。憎しみ合いは終わった。平和に暮らしたいのだ。国内にも国外にも、敵はいない」 「恩赦」の関連では、米軍などにかつて協力したアフガニスタン人の元通訳らの処遇についても説明があった。ムジャヒド幹部は「通訳であれ、軍事活動であれ、市民であれなんであれ、処罰を受けることはない」と言った。 実際には、各地で敵対関係にあった政府軍兵士らを殺害するケースが報告されている。「恩赦」は、タリバンからの処罰や迫害をおそれて、国外脱出を図る人たちを、国内に引き留める狙いがありそうだ。 閉鎖が相次いでいる外国大使館については「安全を保証する」「24時間態勢で警備にあたる」とし、国家運営の主体として外交関係を結んでいく意欲を見せた。政府承認を取り付けるには、外国公館の安全確保が欠かせないためだ。 記者の一人から「タリバンの一連の爆破攻撃について、国民がタリバンを許すと思っているのですか?」と、厳しい質問が飛ぶ一幕もあった。 これに対し、ムジャヒド幹部は「望んでそうしたわけではない」と釈明。「紛争は誰かに必ず害が及ぶもので、それは20年にわたる紛争の副作用だ」「一人の負傷者も出さずに外国部隊を追い出すことは不可能だった」とした。 国際社会の関心が集まる過激派対策に言及する場面もあった。ムジャヒド幹部は、過激派組織が「国内を拠点に外国を攻撃することは許さない」と話した。現地では、タリバンの保護下で国際テロ組織アルカイダなどが潜伏を続けており、それを覆い隠す意図があるとみられる。 アフガニスタンを「テロの温床」にしないと宣言した形だが、長年にわたって友好関係を結んできた各イスラム武装勢力を、敵に回してまで追い出すことは考えにくい。米国などは過激派の動向を監視し続けることになりそうだ。
一転、「麻薬ゼロ」の展望も打ち出す今後の統治体制については、まだ決まっていない部分が多い。ムジャヒド幹部は「社会のあらゆる分野の人たち」を含めた「包括的な政権」を樹立するとし、権力は独占せず融和を図る姿勢を示した。柔軟性をアピールすることで、国際社会の懸念を拭い、政府承認を取り付けたい思惑が、ここからもくみとれる。 行政機関の形態や法体系については、執行部が詰めの協議を進めていて、近く明らかにする予定だという。反対してきた選挙を実施するのかどうか、国の呼称はタリバンが主張する「アフガニスタン・イスラム首長国」とするのか、誰が国のリーダーに就くのか。これらにも関心が集まっているが、いずれも明らかにしなかった。 タリバンは、支配地域でつくる麻薬を資金源にしてきた。ところが、会見では一転、「麻薬ゼロ」への展望を打ち出した。「今日カブールに来て驚いたのは、たくさんの若者たちが麻薬中毒になり、座り込んでいることだった」 ムジャヒド幹部が指摘した麻薬中毒は、まさにタリバンが関わる麻薬ビジネスによって拡大したものだが、これからは「(麻薬の原料になる)ケシに代わる農作物を育てるために、国際支援が必要だ」と援助を求めた。 国連によると、世界のケシ栽培の大半を占めるアフガニスタンからは、ケシを原料としたアヘンやヘロインが欧州やロシア向けに密輸されている。世界的な麻薬撲滅の問題を解決するためにも、アフガニスタンへの援助は欠かせないとの主張だ。 秘密主義を貫いてきたタリバン幹部のなかで誰よりも謎めいていたムジャヒド幹部は、今後も定期的に会見を開くつもりだという。最後に同幹部は、「会見場まで車で2時間ほどかかり、長旅で疲れた」と言って会見を終えた。【8月18日 朝日】*******************
【幹部主張と現場の実態に違いも すべてはこれから】こうした主張が、本音なのか、単なる国際承認を得るための最初のポーズなのか・・・そこらはまだわかりませんが、ポーズだとしても、そうしたポーズに配慮するということだけでも、一切“聞く耳を持たなかった”旧タリバン政権とは違っているようにも思えます。
タリバンもそれなりにこの20年間で変化があった・・・・のでしょうか。
いずれにしても、どこまで本気なのか、仮に「幹部」はそう考えたにしても、現場でそれが実行されるのか・・・・疑問は多々あります。タリバンと一口に言っても、穏健派から過激派まで様々であり、指導部がそれらをまとめることができるのかという問題もあります。
すでに、「幹部」主張とは異なる「現場」での動きも報じられています。
****タリバン、新体制準備進める=柔軟姿勢と実態に乖離も―アフガン****アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは、国の全権を掌握してから4日目の18日も新体制樹立に向けた準備を進めた。タリバン幹部は17日の記者会見で、国際社会の視線を意識した柔軟姿勢を強調。
ただ、今後はタリバン内部で方向性の食い違いが生じる可能性もあり、会見内容と実態との乖離(かいり)が懸念されている。(中略)
17日はナンバー2のバラダル師が滞在先のカタール・ドーハから帰国。新体制樹立への準備は着々と進んでいるもようだ。
ただ、タリバンは最強硬派とされる「ハッカニ・ネットワーク」をはじめ、さまざまな派閥を糾合して成立している。
西洋文化の一掃を強硬に主張する一派もあるとされ、新政権が樹立されても全土で組織末端まで統一した施政方針を浸透させられるかは不透明だ。既に、新たな支配地域で女性の権利制限や私刑といった人権侵害の情報も伝えられている。【8月18日 時事】 ***********************
****Q.タリバン政権はどのような政権になる?****
テレビ朝日外報部・元カイロ支局長の荒木基デスク基本的にイスラム教の教えとして、イスラム法(シャリーア)というものがある。シャリーアには“人の道”という意味もあり、日本語で言えば道徳。イスラム教の人としての生き方に則った政治をやりたいというのが彼らの考え方で、これは20年経った今も変わっていないはず。
例えば、音楽禁止とか偶像崇拝を禁止して仏像を爆破するとか、そういったやり方を今後もやるのかというのは疑問符がつく。
というのも、インターネットもSNSも普及したこの時代に、どれだけのことがタリバンにできるのか。国際社会の目も無視することができない。20年前、オサマ・ビン・ラディンを引き渡せといった時に、誰に交渉すればいいのかもわからないぐらい、タリバンは閉鎖的なグループだった。
ところが今は、アフガニスタン政府と交渉するような代表団もいるし、スポークスマンもちゃんといる。それなりに20年の間に進歩している。
さらに先月、中国の代表とタリバンの代表が会談をしていて、タリバン側も自分たちがアフガニスタンを統治することになった時に備えて、すでに先手を打ち始めていた。そういう意味では、20年前のような状況とは少し違うのかもしれない。【8月18日 ABEMA TIMES】********************
タリバンも変わったようにも見えますし、そうそう変わるものではないとも言えますし・・・・すべてはこれからです。