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Channel: 孤帆の遠影碧空に尽き
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中国  若干の改革の試みと、変わらぬ“中国の特色ある社会主義”維持の基本姿勢

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(陳情者の取締りのようです。 “flickr”より By Learning To be better  http://www.flickr.com/photos/55814092@N02/10840417554/in/photolist-hvVYsW-h7or3w-gZPnNN-hkT2H8-gRiH7B-gR7X5P-gLaR81-hdQc76-h3K58Y-gVfPby-gS9Yob-hDxCaP-hDg6Ms-gk5ZZR-gWR7yn-hEBgFY-gtZC4S-gSZRN7-h5TtXo-gTac2m-gu4Rgh-hvS4wJ-hqfeet)

【「確かに前に進んだ。遅かったが、われわれは少しの進歩を見ることができた」】
11月14日ブログ「中国 充満する社会不満 左右からの政権批判 改革への迫力を欠く3中総会」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131114)で取り上げたように、中国・習近平政権の方向性が打ち出されるとして注目されていた共産党の重要会議・第18期中央委員会第3回総会(3中総会)は、政治的な引き締め堅持の方向と、経済・司法分野での改革の試みを総花的に盛り込んだ内容となっています。

そうした中で、改革の試みを示すものとしては、逮捕など司法手続きなしに長期間拘束し、矯正名目で労働を強制する「労働教養」(労教)制度の廃止が決定されています。

****裁判なしで「懲役刑」*****
中国の悪名高い「労働教養制度」・・・・は、警察などの行政機関が政治犯や軽犯罪の容疑者らを対象に、裁判所の判断を経ずに最長4年間の身柄拘束と強制労働を科すことができる。
・・・・1957年に始まった同制度は、警察が実質的な「懲役刑」を科すことができるもので、工場や農場を併設した労働教養施設に収容される。

中国紙によると、麻薬常習者をのぞく収容者は多い時で約30万人、2012年で約6万人に上っている。
処分の基準が明確でないため、人権侵害や警察権力の暴走を招くとして、中国内でも見直しを求める声が高まっていた。・・・・【1月8日 朝日】
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「労働教養」(労教)制度については、1月25日ブログ「中国 法治に反する「労働教養制度」は廃止されるのか?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130125)で取り上げたように、廃止の方向が打ち出された後も異なる見解が示されるなど、党内に路線の違いを反映した異論があることも窺わせる状況でした。

この「労働教養」(労教)制度が廃止に至った背景には、人権派弁護士らの活動によるメディア・世論の後押しがあったとのことです。

****弁護士の力、習指導部動かす=労働教養制度の廃止―「望んだ結果」と元陳情者・中国****
中国共産党の第18期中央委員会第3回総会(3中総会)は、逮捕など司法手続きなしに長期間拘束し、矯正名目で労働を強制する「労働教養」(労教)制度の廃止を宣言した。

習近平指導部が、毛沢東時代の1957年から続き、「人権侵害の象徴」と言われる制度の廃止に踏み切ったのは、浦志強氏(48)をはじめとする人権派弁護士らが立ち上がり、提訴など司法を武器に違法性を問い、メディアと連携しながら世論を動かした結果だった。

 ◇相次ぎ社会問題化
「確かに前に進んだ。遅かったが、われわれは少しの進歩を見ることができた」。浦氏は取材にこう語った。

制度転換の大きな契機となったのは2012年8月、11歳の娘が暴行の上、売春を強要された事件で、被告の厳罰を求めて陳情を繰り返した結果、1年半の労教処分を受けた母親・唐慧さん(40)の問題だった。

「陳情の母」の労教処分がメディアで大きく取り上げられると、湖南省の地元当局は唐さんの釈放を迫られた。その後、損害賠償訴訟を起こした唐さんに対して一審は訴えを退けたが、今年7月の二審は逆転勝訴の判決を下した。

浦氏は唐さんの代理人を務めた。唐さんは取材に「今回の労教廃止はみんなが望んだ結果であり、そうならなければもっと多くの人が被害者になっていた」と評価した。

また浦氏は、薄熙来元書記=無期懲役判決=が言論弾圧を強めた重慶市で労教処分を受けた十数人の代理人にもなり、処分撤回を求めて相次ぎ提訴した。同市ではネット上で政府批判発言を行うなどした多くの人が次々と労教施設に収容されていた。

この中でも、薄元書記の政治手法を「第二の文化大革命」などと批判したため、2年間の労教処分を受けた元村幹部・任建宇氏(26)の訴訟は社会問題となった。結局、重慶市の裁判所は12年11月、労教期間を9カ月残して任氏を釈放する異例の決定を下した。

 ◇問題は一党独裁
浦氏は「3中総会で不満なのは言論の自由がなく、暴力や封じ込めが緩まず、限られた改革しか行われていないことだ。中国で最もカギとなる問題は一党独裁であり、共産党の問題が解決されなければ、あらゆる他の改革は無駄に終わる」と強調した。

今年1月には公安・司法を統括する党中央政法委員会の孟建柱書記が年内に労教制度を廃止する意向を表明。
既に廃止に向けて動いているが、「逆に刑事拘束などが増えているほか、『黒監獄』(ヤミ施設)での監禁も深刻化している」(陳情者)とされ、当局による引き締めは変わらないとの見方が強い。【11月20日 時事】 
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【「共産党の問題が解決されなければ、あらゆる他の改革は無駄に終わる」】
「陳情の母」事件にもみられるように、「労働教養」(労教)制度は、地方政府の腐敗・横暴を中央政府に直訴陳情しようとする者を地方政府当局が抑え込む手段としても恣意的に運用されてきました。
その「陳情」に関しても、改革がなされたとのことです。

****陳情めぐり「改革」=幹部の評価基準にせず―活発化で抑圧誘発も・中国****
11日付の中国紙「新京報」によると、同国政府は、北京に陳情に行く民衆が多ければ、その地方幹部の昇進に悪影響を与えるなどとした評価基準を修正する「改革」を導入した。

幹部にとってはこの評価基準が「圧力」になり、地方当局は北京などへの陳情数を減らそうと、陳情者を暴力的に拘束し、地元に連れ戻すケースが多発。社会の矛盾激化につながるとの懸念が出ていた。

習近平指導部は先に、司法手続きがなくても1、2年間拘束し、強制労働に就かせる「労働教養」処分を廃止する方向を打ち出した。労働教養と陳情者迫害は中国の人権侵害問題として内外の批判を浴びてきたが、司法改革の一環として見直しを進めている。

一方、陳情数を評価基準と関連付けない政策の存在を知っていた陳情者は時事通信の取材に対し、「陳情者への管理が弱まったため、陳情者の行動は激しくなった」と説明。

また、これまで活発な陳情者は労働教養処分を受けるケースが多かったが、「労働教養処分にできないため、拘束・逮捕されるなど引き締めは逆に強まっている」と解説した。

北京で開会中の共産党第18期中央委員会第3回総会(3中総会)では全国から多くの陳情者が北京に向かい、監察省前では9日、1000人以上が幹部の腐敗撲滅などを訴えた。陳情の活発化を通じて社会の不満が爆発し、習指導部が陳情者に対する抑圧強化に転じる可能性も指摘される。【11月11日 時事】
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制度廃止に伴って、「労働教養処分にできないため、拘束・逮捕されるなど引き締めは逆に強まっている」というネガティブな面も生じているようです。

また、陳情者が増加・激化した場合、腐敗の温床となっている地方政府の改革の方向に向かうのか、批判を封じ込める方向に向かうのか・・・習近平指導部の姿勢が問われる局面も出てきそうです。

そもそも、“北京に陳情に行く民衆が多ければ、その地方幹部の昇進に悪影響を与えるなどとした評価基準”があったこと自体が中国政治が抱える大きな問題の一面です。

似たような問題としては、地方政府幹部の評価が経済成長の数字で評価されるため、地方政府は環境汚染を無視し、強引な土地収用を行い、採算を度外視した非効率な投資に走る・・・ということが指摘されています。

行政に携わる者の顔が、国民ではなく党中央を向いていると言っていいでしょう。
日本でも不正・腐敗は生じますが、最終的には中央であれ地方であれ、選挙を通じた民意によって判断が下され、また、普段からメディアのチェックも働きます。

中国では、共産党による実質的一党支配のもとで、民意が反映されるシステムがなく、メディアのチェックも殆ど制約されています。党の意向がすべてという状況です。
「中国で最もカギとなる問題は一党独裁であり、共産党の問題が解決されなければ、あらゆる他の改革は無駄に終わる」【前出 時事記事】ということでしょう。

【次善の策が「法治」の強化】
もちろん党指導部も馬鹿ではないので、国民の不満に対応しないと政権も危ういとの危機感を持って臨んでいます。

****「法治」の重視を明確化****
・・・・一方、中国国内で意外感を持って受け止められたのは「法治」重視を明確にしたことだ。

具体的には「独立・公正な裁判権と検察権を確保する」といった文言が入った。
中国では司法も共産党の指導下にあり、政府から独立していない。にもかかわらず「法治」重視を明確にしたのは、地方指導者や国有企業の専横を抑えるために必要との判断からだろう。

中国政府系シンクタンクの研究員は「司法の独立は、地方政府の権力を大きく制限することになる。実現できれば大きな前進だ」と話す。

大衆の不満を爆発させないためには、官僚の腐敗や国有企業による資源配分のゆがみに一定の歯止めをかける必要がある。

普通選挙や民営化という抜本策を選べないための次善の策が「法治」の強化ということだろう。治安対策を強化するために国家安全会議が新設されたこととあわせ、共産党が国内の安定維持に必死な様子が窺える。経済改革の行方を考えるうえでも、その視点が欠かせない。(後略)【11月15日 東洋経済】
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司法が地方当局などの意向でゆがめられていることから、陳情者やデモ・抗議行動も多発することになります。
しかし、“司法の独立”の実現性を危ぶむ声もあります。

****中国の司法独立、確保焦点 3中全会で議論 地方政府の抵抗・人材難に課題****
・・・・だが、ある司法省元幹部は「長年、同様の議論が繰り返されてきた。問題は地方の抵抗と、受け皿が整っていないことだ」と話す。全国約20万人の裁判官のうち、大卒以上の学歴を持つ人は、2005年の調査で約5割。元幹部によると、法学を専攻した人は「当時で全体の3割弱。現在でも半分程度だろう」と言う。

中国では、政治運動が法に優先した文化大革命などの影響で裁判官の社会的権威が低いとされる。その現実を短期間で変えるのは至難の業。各地の党政法委の要職を占める公安部門の抵抗も予測され、改革が実を結ぶには相当の時間がかかるとの見方が大勢だ。【11月12日 朝日】
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【「当分の間はこのままでいい」・・・・】
国民の不満を抑えるさじ加減が、一部での改革の試みであり、また、引き締めの堅持でもある訳ですが、経済格差、不当な土地収用、地方政府の腐敗・汚職、環境汚染、人権・報道の自由への弾圧などの社会的不満から、年間18万件とも言われる暴動・デモが起きているという現状を“さじ加減”でこれまで同様コントロールできるのか?・・・どうでしょうか。

****市場化や法治主義を謳った「三中全会」は“中国政治のリアル”をどう動かすか *****
・・・・グローバリゼーションと情報化の時代に生きているという現状に関しては、中国人とて決して例外ではない。むしろ、グローバリゼーション(中国語で“全球化”)と情報化のダイナミクスを世界で最も直接的に受けているのが、激動の転換期を往く中国社会であり、そこに生きる中国人であると、私は過去の10年間中国の大地で生活しながら感じてきた。

社会は“そう”なっているのに、お上である中国共産党は依然として“この”ままだ。マルクス・レーニン主義毛沢東思想、社会主義といったイデオロギーを堂々と掲げる。

私自身の実体験であるが、約10年間中国人と付き合ってきて、社会主義の素晴らしさや優位性といったイデオロギーを真顔で、本気で私に説いてきた人間は皆無といっていい。

北京大学国際関係学院の必修科目で《毛沢東思想》と《?小平思想》を、全学部共通必修科目で《マルクス・レーニン主義》を受講したが、小中高とイデオロギーや政治の授業を受けさせられてきた中国人学生たちは「もううんざり」と漏らすごとく、真面目に先生の話を聴いている学生は限られていた。

共産党員、軍人、企業家、学者、ジャーナリスト、そして大学生などあらゆる方々とお付き合いさせていだいてきたが、皆「表では社会主義とか言っているけど、実情に基づいて、需要に従って経済を発展させ、現代化プロセスを進めることだ。スローガンは関係ない。無視していい」という調子であった。

「安定と発展にはそれでも共産党一党支配が必要」
「関係ないなら、なぜそれを高々と掲げる必要があるのだ? 中国自身も国際社会の一員である現在、それを掲げることによって中国が失うものは小さくない。特に西側社会に生きる人々は、中国が社会主義を掲げている限り、真の意味で中国を信頼し、中国社会と運命を共にしようと踏み切れないだろう」

私は必ずこのようにツッコミを入れるようにしている。そうすると、党の幹部から政策や世論に影響力を持つ知識人、そして北京大学のエリートまで、「中国には中国の事情がある。それを掲げる体制的なニーズがある。仕方がない」という類の反応をしてくる。

私たち日本人を含めて、“改革開放”を進める中国をポジティブに捉えることはできても、“社会主義”を掲げる中国を正面から受け入れることは難しいのが正直なところだと思う。中国の指導者が発するシグナルは常にアンビバレントであり、矛盾を内包している。

私自身は、党の指導者が“中国の特色ある社会主義”という文言を掲げる時は、自らの頭のなかで“中国共産党による一党支配”と翻訳するようにしている。後者を堅持するための思想的バックボーンとして前者が必要、というのが共産党指導部のロジックだ。さもないと、中国社会が共産党一党支配の下で運営される大義名分がなくなってしまう、ということなのであろう。

そして、「中国が経済的に発展し、人々が物質的に豊かになり、欧米諸国や日本、韓国、台湾、シンガポールのように現代化の道を歩むのに、共産党による一党支配は必要だと思うか」という質問に対しては、共産党員や体制にぶら下がっている実業家や知識人を中心に、多くの中国人が「YES」と答える。

「仮にいま多党制にシフトし、政治をめぐる利害関係や価値体系が多元化すれば、中国社会は混乱し、不安定になり、発展は逆に滞ってしまう」
そう主張する中国人は少なくない。

“中国の特色ある社会主義”はどうでもいいが、“共産党による一党支配”を受け入れる中国人民はまだまだ数多くいるのが現状だ。そして、中国共産党にとっては、前述のように、“中国共産党による一党支配”と“共産党による一党支配”は表裏一体の関係にある。

つまり、論理的には、少なくない中国人民が“中国の特色ある社会主義”を実利的に受け入れて、「当分の間はこのままでいい」と現実的に認識しているということだ。「良い・悪い」、「正しい・正しくない」の尺度では測れない、“中国政治のリアル”が眼の前に横たわっているのである。(後略)【11月19日 加藤嘉一氏 DIAMOND online】
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多くの国民、指導層はもちろん、成長によって一定の利益を得ている中間層が「当分の間はこのままでいい」と判断しているというのは事実でしょう。
ただ、成長の恩恵を十分に受けられず、格差を憎み、腐敗・不正に苦しめられている人々も、多数存在しているのも事実でしょう。

共産党指導部は、「新公民運動」弾圧や報道統制強化に見られるように、段階的な政治改革をも拒絶しているようです。

ネット社会という情報管理が難しい現代にあって、社会に充満する不満がどこに向かうのか、臨界に達することがないのか・・・なんとも言い難いところですが、おそらく当分は現状維持で推移するのでしょう。

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