
(10月5日、スーダン・ ダルフールForobarangaの家畜(牛・ラクダ・ヤギ・馬)市場 “flickr”より By UNAMID http://www.flickr.com/photos/58538810@N03/10192906836/in/photolist-gwHj63-gwHi1Y-gwHBor-gwHgfy-gwFDN3-gwFCuG-gwEX8U-gwFUtn-hiVDFk-hiVZA9-gwFF6o-gwFLvG-gwG1Pi-gwFX1r-gwFXET-gWGikT-hfjd7c-gHPhRP-gkSqNt-h6ZXqF-gtVjmz-giX1Ns-gRw5Nh-gCRUti-grtudV-grtWqx-goKWoM-goLhHL-goKYxg-goKM1s-goKQp1-goLgGC-goKPp5-goKTGJ-goL2eP-goLc1d-goKSzU-goKPZo-goKMWf-goL4me-gnf29z)
【今も戦闘が続くダルフール】
「世界最悪の人道危機」とも言われたスーダン西部のダルフール紛争は、その発生からすでに10年以上が経過しています。
“2003年2月の衝突以降、正確な数字は不明であるがおよそ40万人程度が既に殺害され、現在進行中の民族浄化の事例として広く報告されている”
この地域の民族構成をおおまかに言えば、アフリカ系の定住農民であるフール人、マサリート、牧畜民のサガワ、そしてアラブ系の牧畜民が存在します。
民族の違いや、農耕と牧畜という生活様式の違いに基づく土地・水を巡る争いなど、長年の対立・抗争はありますが、近年ではアラブ系のスーダン政府の差別的扱いに対し、アフリカ系の住民が「正義と平等運動 」(JEM 主にサガワ) と「スーダン解放運動/軍」(SLA/M 主にフール人、マサリート)という反政府武装組織で対抗する形で展開されていま。
一方、政府と協力するアラブ系の民兵組織ジャンジャウィードは、アフリカ系住民への虐殺・略奪・レイプなどで国際的に非難されています。もちろん、非人道的行為はアラブ系だけではないでしょうが。
一応、ここ数年は停戦に向けた枠組みが作られたということになっています。
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2010年10月23日、カタールの首都ドーハで、カタール政府などの仲介により、スーダン政府と主要反政府勢力「正義と平等運動」が即時停戦を含む「ダルフール問題解決のための枠組み合意」に調印した。また、カタールのハマド首長は、スーダン再建のために約10億ドルを拠出することを明らかにした。
2013年2月10日、スーダン政府と「正義と平等運動」が、カタールの首都ドーハで停戦協定に調印した。
【ウィキペディア】
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こうした停戦に向けた合意と、同じスーダン内の南北対立の激化、南スーダンの分離独立へと国内外の関心が移ったことで、ダルフール関する情報を日本メディアで目にする機会が少なくなりました。
しかし、ダルフールの戦闘はおさまった訳でなく、今も続いています。
シリアなど、次々に起こる紛争の陰で、忘れられていると言った方がいいでしょう。
****ダルフール紛争から10年、戦闘今も WFPスーダン事務所代表インタビュー****
「世界最悪の人道危機」とも言われたダルフール紛争が勃発して10年になるスーダンで、食糧支援活動にあたる国連世界食糧計画(WFP)同国事務所代表のアドナン・カーン氏(57)が来日し、東京都内で朝日新聞のインタビューに応じた。「不安定さを増しており、シリア以外の国の危機も忘れないで」と支援を求めた。
カーン氏によると、従来はアラブ系とアフリカ系が対立していたが、最近では金鉱や農地などをめぐってアラブ系同士の対立が激化。
今年に入り、昨年と一昨年の合計より多い約30万人が国内避難民となり、約5万人が隣国チャドに逃れた。これまでの国内避難民の総数は200万人以上。WFPの支援対象も400万人に上る。
カーン氏は「革命後のリビアから、カラシニコフなどの自動小銃が密輸され、戦闘が激しさを増している」と指摘。
最近も数百人規模の死者を出す衝突が発生したほか、国連平和維持活動(PKO)の部隊が攻撃を受け、タンザニア兵7人が死亡した。
スーダンの紛争が長引き、シリアなどの新しい危機に関心が移る中で、活動資金は減っているといい、「さらに深刻な問題になる可能性があり、変わらぬ支援を」と訴えた。【10月21日 朝日】
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【政府が統率力を失い状況は変容・複雑化】
上記記事にあるように、最近は、これまでスーダン政府と軍に支援されていたアラブ系民兵組織「ジャンジャウィード」に対する政府の制御が効かなくなっている状況で、金鉱や農地などをめぐるアラブ系同士の対立が起きています。
こうした状況にについては、8月12日ブログ「スーダン・ダルフール 変容・複雑化する紛争 相次ぐ部族間衝突 増える避難民」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130812)でも取り上げました。
****スーダン・ダルフール地方で戦闘、部族間抗争が激化****
スーダンの南ダルフール州の広域で10日、アラブ系部族の民兵同士が衝突し、ロケット弾や迫撃砲、重機関銃などを使った激しい戦闘が起きた。
双方の部族の情報筋が明らかにした。死者数などはまだ分かっていないが、ダルフール地方では今年に入って部族間抗争が激化しており、既に数百人が犠牲となっている。
情報筋によると今回の衝突は、タイシャとサラマットという2つの部族の土地争いがきっかけ。タイシャの情報筋は「戦闘は広域に拡大し、双方が重火器を使用している」と述べた。
サラマットの情報筋も、10日夜になっても戦闘が続いていると証言した。衝突はラハドエルベルディ付近で始まり、ダルフール最大の都市ニャラにまで迫っているという。ラハドエルベルディはニャラの約100キロメートル南西に位置する。
タイシャの情報筋によれば、戦闘に加わっていない集団が複数の村で略奪を行っているのを目撃したという。一方、サラマット側も略奪が起きていることを確認したと語った。
■抗争激化の背景にスーダン政府の財政難
サラマットは今年4月以降、タイシャの同盟部族ミッセリアとダルフール南西部で散発的に戦闘を繰り返してきた。国連によると、10月27日にはミッセリアとサラマットがラハドエルベルディ北西のムクジャル(Mukjar)近郊で衝突し、20人以上が死亡している。
ダルフール地方では今年に入って治安が悪化しているが、主な原因はアラブ系部族同士の抗争だ。
専門家によると財政難に陥ったスーダン政府が、かつて同盟関係にあったアラブ系各部族を統率する力を失った結果、部族間で資源をめぐる抗争が激化したのだという。
スーダンのイブラヒム・モハメド・ハミド内相によれば、ニャラ南東部のギライダ地区では、スーダン政府の車列が「武装集団」に襲撃され、治安部隊の隊員21人が死傷する事件も発生したという。【11月11日 AFP】
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アラブ系住民同士の抗争が激化するなかで、アフリカ系反政府組織の活動は落ち着いているのかと言えば、そういう訳でもありません。
上記AFP記事の最後にあるスーダン政府の車列への襲撃は反政府組織SLAミナウィ派によるもののようです。
****スーダン:ダルフールでの対立深まる****
2013年11月06日付 al-Hayat紙
■ダルフールのスーダン軍と反乱分子の激しい対立
5日、スーダン西部のダルフール地域での紛争の当事者間で対立が深まった。3つの反体制派集団がスーダン軍勢力を襲撃し、200名を殺害、車両や武器、最新の装備を奪取したと発表したからである。
しかし軍側はこれを否定し、反乱分子が敗北して、そのうち20名の死者を出したと言い切った。
ミンニ・アルコ・ミンナウィが指導する「スーダン解放運動」の報道官アダム・サーリフ・アブカルは声明の中で、ムハンマド・アブドゥッサラーム(別名タッラーダ)とアリー・カルビノが指揮する小隊と協力したスーダン解放運動は、南ダルフール州のマッラ山脈東地域で150の軍事車両とスーダン軍勢力に打ち勝ったとして以下のように述べた。
「革命抵抗勢力は政府軍に深刻な物的人的被害を及ぼした。政府と、政府と同盟関係にある民兵勢力に200を超える死者を出し、軍事物資ごと25の軍事車両を奪取した。そして、20台のランドクルーザーと、銃砲と小火器を積んだ5台のトラックを奪った。」
スーダン軍の報道官サワーラミー・ハーリド・サアド大佐はこの主張を否定し、本紙に語ったところによると、軍勢力はマッラ山脈東で反乱分子の集団に対峙し、これを攻撃、大きな物的人的被害を及ぼし、反乱分子側に3人の指導者を含む20の死者を出したという。(後略)【News from the Middle East】http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/src/read.php?ID=31900
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2013年2月の停戦合意は政府とJEMによるもので、他の反政府組織は参加していませんが、この記事で困惑したのは、政府軍を襲ったSLAミナウィ派は、2006年に反政府勢力の中で唯一スーダン政府との和平合意に応じ、その後は政府軍やアラブ系民兵と協力する形で住民を襲っていた組織のはずだが・・・ということです。
詳細はわかりませんが、ネット情報によれば、2010年頃から政府との関係が悪化したようです。
財政難のスーダン・バシル政権が武装組織のコントロールを失っており、日替わりメニューのように敵・味方が入れ替わる混乱状態にあるように見えます。
ダルフールにおける戦争犯罪などで国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出されているバシル大統領ですが、その権力が翳ると、それはそれで混乱を惹起する・・・というのが現実です。